採用面接・病院見学を担当者任せにしていませんか?求職者等セクハラ対策
対象は自院の職員だけではありません。応募者や求職活動中の見学者との接点も点検が必要です。面接の同席者、質問項目、見学の動線から確認します。
まだ職員ではない相手が、対象になります
看護職員を採用している病院、診療所、訪問看護ステーションの院長、事務長、看護部長、採用担当者へ。
2026年10月1日から、求職活動等における性的な言動に起因する問題への防止措置が、事業主の義務になります。根拠は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号)で、講ずべき措置の内容は指針(令和8年厚生労働省告示第52号)に定められています。
同じ日に、顧客等からの著しい迷惑行為に対する防止措置も義務化されます(指針は令和8年厚生労働省告示第51号)。この二つは別の措置なので、片方だけ整えても対応したことにはなりません。
この記事で扱うのは後者、求職者等に関するほうです。ポイントは、対象がまだ自院の職員ではない相手だという点にあります。 面接に来た応募者、求職活動として病院見学に参加した人、就職説明会で話した学生など、採用活動の接点を点検します。すべての実習・見学が自動的に対象になるという意味ではなく、告示上の「求職活動等」に当たるかを個別に確認してください。
この記事で分かること
- 2026年10月1日から何が義務になるのか(根拠法令と指針)
- 医療機関の採用活動で、どの場面が関係するのか
- 面接・見学・実習で起きやすい構造
- 10月までに決めておく項目
- 対応を採用ページでどう示すか
何が義務になるのか
厚生労働省の案内では、令和8年10月1日から事業主の義務となる措置として、次の二つが並んでいます。
| 対象 | 内容 | 指針 |
|---|---|---|
| 顧客等からの著しい迷惑行為 | いわゆるカスタマーハラスメントの防止措置 | 令和8年厚生労働省告示第51号 |
| 求職活動等における性的な言動 | 求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置 | 令和8年厚生労働省告示第52号 |
「求職活動等」という言葉の範囲が、実務では最初の論点になります。 具体的にどこまでが含まれるかは指針に定められているため、自院の対応を決める際は必ず告示本文をご確認ください。そのうえで、医療機関の採用活動には次のような接点があります。
- 求人への応募後の連絡(電話・メール・SNS)
- 採用面接
- 病院見学・職場見学
- 就職説明会、合同説明会
- インターンシップ
- 看護学生の実習受け入れのうち、採用活動と接続する場面(該当性は告示で確認)
- 内定後、入職までの期間の連絡や集まり
このうち、看護職の採用で特に多いのが病院見学です。 応募前に現場を見てもらう慣行は広く定着していますが、見学中は案内役と参加者が少人数で長時間ともに過ごすことになります。
採用活動は、構造的に力の差が大きい
なぜこの場面が法の対象になったのかを考えると、対応の設計がしやすくなります。
第一に、力関係が非対称です。 採否を決める側と、決められる側。応募者にとって、その場で不快なことがあっても指摘しにくい構造があります。
第二に、密室になりやすい場面があります。 面接室での一対一、見学中の移動時間、説明会後の個別相談。第三者の目が届かない時間が生まれます。
第三に、関係が一時的です。 職員であれば相談窓口を知っていますが、応募者は施設の相談経路を知りません。何かあっても、そのまま辞退して終わることが多い。だからこそ、施設側は問題が起きたことに気づきません。
第四に、記録が残りにくいことです。 面接や見学の会話は、通常記録されません。後から確認する手段がない状態で行われています。
これらは採用活動という営みに構造的に埋め込まれた特徴で、個人の心がけで解消できるものではありません。措置が事業主の義務とされたのは、この点と関係があると考えられます。
看護職の側から見ると
日本看護協会が2025年10月1日から11月12日にかけて実施した「2025年 看護職員実態調査」(会員13,633名を対象に2%層化無作為抽出、有効回答4,430名、有効回収率34.5%)では、この1年間に就業先で暴力や暴言、ハラスメントを受けた経験がある看護職員は49.3%でした。
内容の内訳では、意に反する性的な言動が65.4%を占めています(精神的な攻撃76.0%、身体的な攻撃51.2%)。受けた相手は、患者・利用者69.3%、上司(看護職)43.0%、医師31.7%の順でした。
この調査は就業先での経験を尋ねたもので、求職活動中の経験を調べたものではありません。 ここから採用場面の実態を直接読み取ることはできません。
この49.3%を、応募者全体の被害率として置き換えることはできません。ただ、就業先で被害を経験した回答者が一定数いることは、採用担当者が不必要な私生活上の質問や一対一の閉鎖的な運用を見直す理由になります。採用場面の被害実態は、本調査とは分けて評価してください。
10月までに決めておく項目
以下は、採用活動の場面ごとに整理したチェックリストです。指針の条文そのものではなく、編集部が実務の観点から並べたものです。 講ずべき措置の正確な内容は、必ず告示本文と厚生労働省の資料でご確認ください。
1. 方針と周知
- 求職者等に対する性的な言動を許さない方針を、文書で定めているか
- 採用に関わる全員(面接官、見学案内役、説明会の担当者、事務職員)に周知しているか
- 非常勤の医師や、採用に関わることがある現場職員にも伝わっているか
- 方針に違反した場合の取扱いを決めているか
周知の範囲が、この項目の実務上の難所です。 採用担当者だけに伝えても、実際に応募者と接するのは現場の看護師や医師です。誰が応募者と接点を持つのかを洗い出すところから始まります。
2. 相談体制
- 求職者が相談できる窓口を用意しているか
- その連絡先を、応募者に伝えているか(求人票、採用ページ、面接案内など)
- 相談したことで採否に不利益が生じないと明示しているか
- 内定辞退・選考辞退の理由を聞く経路があるか
二つ目が抜けやすい項目です。 窓口を作っても、応募者がその存在を知らなければ使われません。面接案内のメールに一行入れるだけでも状況は変わります。
3. 面接の設計
- 面接の同席者を決めているか(一対一を避ける方針か)
- 質問項目を事前に定め、逸脱しない運用になっているか
- 就職差別につながるおそれのある質問を排除しているか
- 面接の記録(誰が同席し、何を聞いたか)を残しているか
質問項目については、別の観点からの注意も必要です。 本籍、家族の職業、住宅状況、思想・信条など、本人に責任のない事項や本来自由であるべき事項を採用選考で尋ねることは、就職差別につながるおそれがあるとして厚生労働省が繰り返し注意を促してきた領域です。結婚や出産の予定を尋ねる質問も、この観点から見直す価値があります。
4. 病院見学・実習の設計
- 案内役を誰にするか決めているか(複数対応にするか)
- 見学の動線と所要時間を定めているか
- 更衣が必要な場合の場所と手順を決めているか
- 見学後のアンケートに、困ったことを書ける欄があるか
- 実習生の受け入れ担当と、採用活動の担当を区別しているか
更衣は具体的に決めておきたい項目です。 白衣を貸与して見学する運用の場合、着替える場所と誰が案内するかを決めていないと、その場の判断になります。
5. 連絡手段
- 応募者との連絡に、担当者個人の私用端末やSNSを使っていないか
- 連絡の時間帯に目安があるか
- 内定後、入職までの連絡の担当と方法が決まっているか
私用端末での個別連絡は、見直す価値の高い運用です。 記録が残らず、施設として把握できない接点になります。
対応を、採用ページでどう示すか
方針を整えたら、それを応募者に見える形にできます。ただし、実際に整えた範囲を超えて書かないでください。
改善前(多くの採用ページの記載)
ご不明な点はお気軽にお問い合わせください。
これは連絡先の案内であって、安心して相談できる保証にはなっていません。
改善後(相談経路を明示する)
選考・見学に関してお困りのことがあれば、採用担当(〇〇部)へご連絡ください。ご相談の内容によって選考上の不利益が生じることはありません。
改善後(面接の進め方を先に伝える)
面接は複数名で対応します。所要時間は約〇分、伺う内容は職務経験、希望する働き方、当院への質問です。伺わない事項(本籍、家族の職業、思想信条など)についても方針を定めています。
面接の進め方を事前に示すことには、副次的な効果があります。 応募者の不安が下がり、辞退が減る可能性があります。効果を検証したデータを持っているわけではありませんが、情報がないほど応募者が慎重になるのは自然なことです。
選考辞退の理由を、拾える形にする
対応が機能しているかを知る手立てとして、辞退理由の把握があります。
多くの施設では、選考辞退や内定辞退の理由は「他院に決まったため」で処理されます。本当の理由がそこにあるとは限りません。 面接での違和感を理由に辞退した場合、それを施設に伝える人はほとんどいません。
拾い方としては、次のような形が現実的です。
- 見学後・面接後のアンケートを匿名で取り、自由記述欄を設ける
- 辞退の連絡時に、差し支えなければ理由を選択式で尋ねる
- 選択肢に「選考中の対応」を含める
選択肢に含まれていない項目は、回答として現れません。 「対応に不安があった」という選択肢がなければ、その回答は永遠に0件のままです。
10月に向けた進め方
限られた時間で進めるなら、次の順序が現実的です。
- 応募者と接点を持つ人を洗い出す。面接官だけでなく、電話を受ける事務職員、見学を案内する現場看護師まで含めます
- 面接の同席方針を決める。一対一をやめるだけでも、状況は変わります
- 質問項目を紙にする。既に運用があるなら、就職差別の観点で見直します
- 相談先を応募者に伝える文面を作る。面接案内のメールに一行足すところから始められます
- 既存のハラスメント防止規程に追記する。新規に作るより早く進みます
カスタマーハラスメントの措置と同時に進めるのが効率的です。 同じ10月1日施行で、方針・相談体制・記録という骨格は共通しています。
次に進めること
顧客等からの迷惑行為への対応については、2026年10月1日、カスハラ防止措置が義務になりますで、指針の項目に沿ったチェックリストと訪問看護固有の設計を整理しています。同じ日に施行されるため、あわせて進めてください。
求人票と採用ページの記載全体を見直す場合は、看護師が応募前に求人票で確認する7項目をご覧ください。
応募者が面接で何を考えているかを知りたい場合は、看護師向けに書いた看護師の面接・履歴書の準備ガイドが参考になります。応募する側の準備を知ると、聞くべきことと聞くべきでないことの線が引きやすくなります。
面接票・見学案内・相談窓口の文面をまとめて点検したい場合は、法人向けお問い合わせから現状の運用をお知らせください。法令への最終的な適合性は、告示本文と専門家の確認を前提に整理します。
よくある質問
Q. いつから義務になりますか。 A. 令和8年(2026年)10月1日です。根拠は労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)で、措置の内容は令和8年厚生労働省告示第52号の指針に定められています。
Q. 病院見学や実習も対象になりますか。 A. 「求職活動等」の範囲は指針に定められています。自院のどの場面が該当するかは、告示本文および厚生労働省の資料でご確認ください。本記事は実務上関係し得る場面を挙げたものです。
Q. カスタマーハラスメントの措置と何が違いますか。 A. 対象が異なります。カスタマーハラスメントは顧客等からの著しい迷惑行為、こちらは求職活動等における性的な言動が対象です。指針も別(第51号と第52号)です。両方について措置が必要です。
Q. 既にセクシュアルハラスメントの防止規程があります。追加は必要ですか。 A. 既存の規程が対象としているのは、多くの場合、自院の労働者です。求職者等が対象範囲に含まれているかを確認し、含まれていなければ範囲の追加を検討する必要があります。具体的な要否は指針にもとづいてご判断ください。
Q. 看護職の49.3%という数字は、採用場面のものですか。 A. 違います。日本看護協会「2025年 看護職員実態調査」で、この1年間に就業先で暴力・暴言・ハラスメントを受けた経験の割合です。求職活動中の経験を調べたものではありません。
参考資料
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
- 厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html
- 厚生労働省「公正な採用選考をめざして」 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/index.html
- 日本看護協会「2025年 看護職員実態調査」結果(2026年3月31日) https://www.nurse.or.jp/home/assets/20260331_nl02.pdf
本記事は2026年8月20日時点で公表されている情報にもとづく整理です。講ずべき措置の具体的な内容は指針(告示)に定められており、自院の対応を決める際は必ず告示本文と厚生労働省の資料をご確認ください。個別の法的判断については専門家にご相談ください。