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熊本地震の災害支援ナース派遣|送り出す病院の人員判断・引継ぎ・復帰支援

派遣者本人の使命感だけでは、残る職員・患者・派遣者の安全を同時には守れません。申請から復帰までを病院のBCPとして設計します。

使命感だけでは、三者の安全を同時に守れない

職員から「災害支援ナースとして熊本に行きたい」と相談を受けたとき、答えは本人の熱意だけでは決まりません。送り出せば、その職員が担っていた病棟・外来の業務を誰かが引き受けます。残る職員の負荷、担当患者への影響、そして派遣される本人の安全と帰任後の回復まで、同時に成り立たせる必要があります。

災害支援ナースの派遣は、2024年度から改正医療法にもとづく制度に位置づけが変わり、都道府県と協定を結んだ医療機関は、正当な理由がある場合を除き派遣要請に応じる立場になりました。つまり「送り出すかどうか」は個人の判断だけでなく、施設としての受け止め方を事前に整理しておくべき経営課題です。本稿は、登録を考える看護師本人向けの手順ではなく、送り出す病院側の人員判断・引継ぎ・残留職員対応・復帰支援・組織学習に絞って整理します。

派遣の規模:まず「延べ人数」であることを理解する

日本看護協会が公表している派遣状況によると、県内派遣は7月30日、県外派遣は8月3日に始まりました。9月14日までの公表値は次のとおりです。

区分開始日9月14日までの公表値
県内派遣7月30日延べ485人
県外派遣8月3日延べ1,912人

ここで押さえておきたいのは、この数字が延べ人数であり、実人数ではないという点です。同じ登録者が複数の期間にわたって活動すれば、その分だけ延べ人数に計上されます。「1,912人の看護職が新たに派遣された」という意味ではありません。

同様に、この公表値から自施設が今後どの程度の人員を派遣要請される見込みか、あるいは近隣施設が何人送り出したかを逆算することもできません。公表されているのは全国合計の期間別実績であり、施設単位の負担を示す数字ではないからです。個別施設の派遣規模は、都道府県看護協会・自施設の協定内容に沿って個別に確認してください。

経営・管理が確認する6項目

送り出すかどうかを判断する場面になって初めて手順を考えるのではなく、平時にこの6項目を誰がどう決めるかを文書化しておきます。

#確認すること主な担当
1登録者、派遣可否、代替勤務、病棟稼働を誰が判断するか看護部長・看護管理者
2出発前の患者・担当業務の引継ぎと、現地情報・健康状態の確認をどう記録するか師長・主任、感染管理・産業保健
3勤務、旅費、保険、労災、連絡、緊急帰還の扱いをどの規程で説明するか事務部門・労務担当
4残留職員へ負荷が偏った場合に、何を縮小・停止するか看護部長・各部署責任者
5帰任直後の勤務、休養、健康確認、心理的支援をどう設定するか師長、産業保健、感染管理
6現地で得た知見を、院内BCP、訓練、備蓄、教育へ戻す場を持つか防災担当・教育担当・看護部

この6項目のうち、多くの施設で抜けやすいのが3番目と6番目です。派遣時の勤務が「業務扱い」になるのか、費用がどの規程・協定にもとづいて支弁されるのかは、自施設が都道府県と結んでいる協定の内容によって変わります。公開資料にない手当や補償の水準を、施設側が先回りして職員へ約束することは避けてください。確定していない条件は「規程・協定を確認中」と伝え、確認でき次第、改めて説明するほうが誠実です。

6番目の組織学習も見落とされがちです。派遣した職員が現地で得た知見は、その人個人の経験で終わらせず、院内のBCP見直し、避難訓練、備蓄計画、新人教育に反映する場を設けて初めて施設の資産になります。

残留職員への負荷は、公表人数からではなく自施設の実態から見る

災害支援の議論では、派遣される側の準備が中心に語られがちです。しかし通常業務を回すのは残る職員です。派遣期間中の夜勤の組み方、委員会や係の仕事の引き取り、担当患者の割り振りを、送り出しを決める段階で具体化しておかないと、帰任した本人が「自分が抜けた間、周りに迷惑をかけた」と感じて居づらくなることがあります。

負荷の見える化には、欠勤・応援体制を扱う既存の枠組みが応用できます。感染症流行期の最低配置・縮小業務の考え方はインフルエンザ・コロナ同時流行期の欠勤BCPでも整理しており、職種・部署別の最低人数と縮小順を平時に決めておく発想は、災害支援ナースの派遣にもそのまま使えます。

派遣への参加を人事評価に使わない

派遣に応じたかどうかを、昇進・昇給・配置などの人事評価に反映することは避けてください。家庭の事情、健康状態、既に担っている役割によって、派遣に応じられない職員は当然います。派遣した職員を称える文化と、応じなかった職員を評価上不利に扱わない運用は、両立させる必要があります。評価に反映しない方針は、口頭ではなく文書やミーティングで明示しておくと、現場の受け止め方がぶれません。

帰任後の心身の反応を、一律に診断しない

帰任した職員の様子が普段と違って見えても、それを施設側が医学的に診断しようとしないでください。疲労、緊張の余韻、現地で見た状況への反応は人によって異なり、時間の経過とともに変化するものです。看護管理者や師長の役割は診断ではなく、休養が取れる勤務配置にすること、産業保健や必要に応じた専門窓口につなぐ経路を用意すること、そして本人が話したいときに話せる場を用意することです。「元気そうだから大丈夫」と自己判断せず、決まった時期に一律の面談・健康確認を組み込む運用のほうが、個々の判断のばらつきを減らせます。

送り出す前に、看護師本人向けの情報と役割を分ける

登録要件、研修時間、施設単位での申し込み手続き、本人が職場とどの順番で相談すべきかは、看護師本人向けの登録要件・職場調整の記事で扱っています。本人からの相談を受けたら、まずそちらで手続きの全体像を共有したうえで、本稿の6項目を使って施設としての受け入れ体制を整理する、という役割分担が実務的です。

相談窓口

災害支援ナースの派遣判断・引継ぎ・残留職員対応・復帰後レビューの設計相談では、6項目の運用フロー化、規程・協定の確認ポイントの整理、帰任後の面談設計まで、自施設の体制に合わせて検討できます。

参考資料

最終確認日:2026年9月22日。公表される派遣人数は延べ人数であり、個別施設の派遣負担・必要人員を示すものではありません。自施設の協定内容、規程、費用負担は、都道府県看護協会および勤務先の事務部門に確認してください。