ドクターヘリが飛べない日を、誰がどう決めるか|2パイロット運用と代替搬送の確認表
資料名は「案」で、正式な取りまとめはまだ確認できません。それでも、飛べない日の連絡順と代替手段、医療クルーへ誰が説明するかは、正式版を待たずに院内で決められます。
ドクターヘリの運航体制が変わるとき、院内で最初に困るのは搭乗する医療クルーです。「この期間は整備士が乗らない」と伝えられても、何がどう変わり、飛べなくなった場合に誰へ連絡するのかが決まっていなければ、現場では判断できません。
厚生労働省は2026年9月17日に第3回救急医療搬送体制等のあり方に関する検討会を開き、資料5「救急医療搬送体制等のあり方に関する検討会 中間とりまとめ(案)」を示しました。ここで整理された論点のうち、基地病院と地域救急の側が正式版を待たずに院内で決められる事項を取り出します。航空整備や運航基準そのものの適否は扱いません。
「案」であること、そして2パイロット運用とは何か
資料名は中間とりまとめ(案)です。検討会としての正式なとりまとめは、現時点では確認できません。以下は案の記載内容であり、確定した方針ではありません。
前提として、2パイロット運用の位置づけを整理します。資料5によれば、2026年3月の事務連絡で、都道府県等が必要と認める場合には当面の間、予備機が確保されていない運航事業者への委託を行うこと、また臨時的に必要と認める間、関係法令ならびに運航規程・整備規程との適合と安全な運航の確保に十分留意したうえで、整備士に代えて所要の訓練等を受けた操縦士を同乗させることは差し支えないとされました。これが2パイロット運用です。
これを踏まえ、一部の地域では長期の運航休止を回避するため、基地病院・運航事業者・関係自治体・消防機関等の間で安全確保策、業務分担、不具合発生時の対応等を確認し、運航調整委員会での協議を経たうえで臨時的に導入されている、と記載されています。
資料5は、2パイロット運用を臨時的に必要と認められる間の当面の対応と位置づけ、現時点で標準的な運用とすることには慎重な意見があったとしています。将来の運航体制の選択肢としての扱いは、今後の運用実績や安全確保上の課題等を把握したうえで引き続き議論すべき、という意見も併記されています。
整備士が同乗しない日に、搬送が止まる場面
院内の手順に直結するのは次の記載です。整備士が同乗していない場合、基地病院以外の場所で機体に不具合が生じた際、その場で必要な基準適合性の確認を行い、運航を継続できない場合があるとされています。
そのうえで資料5は、特に離島や遠隔地においては、近隣のドクターヘリその他の代替搬送手段を活用した搬送体制をあらかじめ確保しておくことが重要であるとしています。
ここが実務の分かれ目です。「あらかじめ」とは、要請が入ってから探すのでは間に合わないという意味になります。出先で運航が止まった時点で、患者はすでに基地病院から離れた場所にいます。
なお資料5は、2パイロット運用を行う場合には、整備士が担ってきた役割のうち操縦士が代替し得る業務と引き続き整備士が担うべき業務を整理したうえで、必要な教育・訓練、実務評価、飛行前後点検および飛行間点検の実施体制、不具合発生時の連絡・対応体制等を確保することが重要だとしています。この整理自体は運航側の作業ですが、不具合発生時の連絡・対応体制には病院側が必ず入ります。
飛べない日の手順を、5つの列で書き出す
正式版を待たなくても書けるのが次の表です。空欄が残った行が、いま院内で決まっていない事項になります。氏名ではなく役割で埋め、夜間・休日の担当も分けて書いてください。
| 場面 | 連絡順(誰から誰へ) | 代替手段 | 受入れ調整 | 変更を説明する担当 | 記録と振り返り |
|---|---|---|---|---|---|
| 出動前に運航不可と判明 | 運航管理担当→基地病院の当直責任者→消防本部 | 近隣県のドクターヘリ、消防防災ヘリ、ドクターカー、救急車 | 当直責任者が受入先を確定 | 当直責任者から当日クルーへ | 要請時刻・不可判明時刻・代替決定時刻 |
| 出動後、出先で機体に不具合 | 現場クルー→運航管理担当→当直責任者→消防本部 | 陸路搬送、近隣基地病院への直接搬送 | 搬送先を変えられるかを先に確認 | 現場では同行医師、院内へは当直責任者 | 現場滞在時間、搬送先を変えた理由 |
| 離島・遠隔地で継続不能 | 現場クルー→運航管理担当→関係自治体 | 事前に取り決めた近隣ドクターヘリ、海路・陸路の代替経路 | 島外搬送の受入先と船舶・車両の手配窓口 | 患者家族へは同行医師、関係機関へは当直責任者 | 手配に要した時間、連絡が滞った箇所 |
| 運航体制の変更が事前に決まった | 運航調整委員会→基地病院の管理者→看護管理者 | 変更期間中の出動要請基準の扱い | 期間中の応需体制を関係機関へ周知 | 看護管理者から医療クルーへ | 説明日と参加者、未受講者の把握 |
| クルーが安全上の懸念を申し出た | クルー→看護管理者・診療科責任者→運航調整委員会 | 該当便を見合わせる判断 | 代替手段への切替 | 申出者へ回答する担当を明示 | 申出内容と対応結果 |
行を増やすより、空欄をなくすほうが先です。とくに「変更を説明する担当」の欄が埋まらない病院が多く、そこが次項の落とし穴になります。
医療クルーへの説明を、運航側の話として放置しない
資料5は、臨時的な運航体制の変更に当たっては関係法令ならびに運航規程・整備規程との適合を確認し、基地病院・運航事業者・関係自治体・消防機関等の間で安全確保策、業務分担、不具合発生時の対応等について十分に連携・調整する必要があるとしたうえで、実際に搭乗する医療クルーを含む関係者に対し、変更後の運航体制や安全確保策等について十分に説明することが重要であると明記しています。
「運航のことは運航事業者と事務局の間で決まる話」として看護部門へ結果だけが下りてくると、搭乗する看護師は変更内容を知らないまま乗ることになります。説明の主語を病院側に置き、誰がいつ説明したかを記録に残してください。搭乗する職員が交代制である以上、一度の説明会では全員に届きません。未受講者を把握する欄を表の最終列に置いているのは、そのためです。
これは資格要件や搭乗基準を変える話ではありません。変更を知らせる手順の話です。
委託契約で、価格以外に確認するとされた項目
経営側の論点も資料5に整理されています。都道府県等と運航事業者の間には航空機の運航・整備に関する専門知識や保有する情報に差があるとしたうえで、運航事業者の選定に当たっては価格に加えて次を適切に確認することが重要だとしています。
- 安全確保の具体的な取組
- 運航・整備体制の継続性
- 操縦士・整備士等の人材確保計画
- 機体の確保計画
- 運航継続に支障が生じるおそれがある場合の報告・情報共有体制
- 内部統制の整備状況
- 関係機関との連携体制
委託契約については、安全性や運航継続に疑義が生じた場合に都道府県等が運航事業者から必要な情報の提供を受け、その業務状況を確認できること、インシデント・アクシデント等について必要な報告が行われることなど、契約締結後の情報共有や対応に関する事項を適切に定めることが重要だとされています。
そのうえで、国においてこれまでの調査研究の成果等を踏まえ、選定や委託契約に当たって留意すべき事項を整理し、都道府県等が参照できる形で示す必要があると記載されています。具体的な選定方法や契約内容は地方自治体等の契約制度や地域の実情を踏まえる必要があるともされており、全国共通の様式が示された段階ではありません。
基地病院は契約当事者でない場合もあります。それでも上の項目のうち「報告・情報共有体制」と「関係機関との連携体制」は、日々の運用で病院側が最初に気づく部分です。気づいたことを委託元の都道府県へ誰がどう上げるかを、先に決めておく価値があります。
現時点で確認できないこと
- 検討会としての正式な中間とりまとめの内容と公表時期
- 2パイロット運用を将来の標準的な選択肢とするかどうかの結論
- 国が示すとされた、選定・委託契約の留意事項の中身と時期
- 各地域の現行の運航体制、および運航調整委員会での協議状況
正式な運航の判断は、運航事業者・都道府県・基地病院が行うものです。部門をまたぐ連絡手順の整理、変更時の説明の組み立て、記録様式の見直しについては業務整理のご相談で承ります。航空整備や運航基準の適否について助言するものではありません。
参考資料
- 厚生労働省「第3回救急医療搬送体制等のあり方に関する検討会」(2026年9月17日開催)
- 同検討会 資料5「救急医療搬送体制等のあり方に関する検討会 中間とりまとめ(案)」(2026年9月17日)
最終確認日:2026年9月18日。本文で引用したのは「案」の記載です。正式な取りまとめが公表された後は、そちらを優先してください。