人が採れない地域で連携を考える前に|共同採用・研修・ICT・間接業務を6欄で比べる
概算要求は採択済みの補助金ではありません。決まってから動くのではなく、共同化できる業務とできない業務、撤退条件までを先に切り分けておくと、公募が出た時点で判断できます。
「募集をかけても応募が来ない」。中山間地域や人口が減っている地域で訪問看護や看護小規模多機能型居宅介護を運営していると、時間と費用がこの一点に集中します。ただ、求人を単独で出し続ける限り、同じ地域の他法人と同じ求職者を取り合う構図は変わりません。
資料6「介護事業者の連携強化について(報告)」は、2026年9月18日に開かれた社会保障審議会介護保険部会(第136回)へ、厚生労働省老健局が提出したものです。中山間・人口減少地域で複数の法人・事業所が人材募集や研修、ICT導入を一緒に行う仕組みと、それを後押しする予算要求の内容が整理されています。
以下は、要綱も公募も出ていない段階で自事業所の側が先に決められる事項を、地方の小規模事業所の経営者・事務長・実務責任者向けに並べたものです。制度そのものの解説は扱いません。
資料6に書かれているのは「概算要求に盛り込んだ」まで
先に境界線を引きます。資料6は、都道府県と協定を締結し、一定期間の事業継続や連携・協働を推進する法人・事業所へのインセンティブとして、令和9年度概算要求において、協定に基づく連携の取組に要する経費への支援や、連携に参画する事業所に対するテクノロジー導入補助金の補助率の上乗せ等を盛り込んでいると記載しています。
概算要求は、予算案でも成立した予算でもありません。したがって次の2点は、この資料からは言えません。
- 採択済みの補助金ではない。 公募も実施要綱も、資料6には示されていません。
- 全事業所に適用される新しい配置基準でもない。 資料6が引く第126回部会(2025年10月9日)の資料では、法人間での人材の連携等を前提とした配置基準の弾力化が「インセンティブの内容として考えられるのではないか」という検討の方向性として挙げられ、詳細は今後、介護給付費分科会等で議論するとされています。
職員や取引先へは、「そういう方向で予算要求が出ている」までにとどめるのが安全です。
4つの共同化を、同じ6欄で比べる
資料6のイメージ図では、中心的な役割を果たす法人・事業所が他法人からバックオフィス業務(報酬請求、記録・書類作成等)を受託し、法人・事業所間では人材連携、施設・設備の共同利用、人材募集・研修の共同実施、ICTの共同導入を進める姿が描かれています。
ただし、この4つは性質がまったく違います。同じ「連携」という言葉でまとめて検討すると、責任の所在とデータの扱いが後から問題になります。次の表の中身は、自法人の実情に置き換えてください。
| 共同化する対象 | 参加者 | 責任者 | 費用 | データ共有の範囲 | 職員の負担 | 撤退条件 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 人材募集(合同の求人媒体・説明会) | 各法人の採用担当 | 幹事法人の採用責任者 | 媒体費・制作費の分担割合 | 応募者の個人情報。誰が受領し、どこまで共有するか | 説明会の出務、問い合わせ対応 | 採用後の配属で合意できない場合の抜け方 |
| 研修(合同開催・講師の共同手配) | 各法人の教育担当と受講者 | 開催法人の教育責任者 | 講師費・会場費の分担、代替要員の人件費 | 受講記録。修了状況を他法人が見るか | 受講日の勤務調整、移動時間 | 年度途中で参加をやめる場合の費用精算 |
| ICTの共同導入(記録ソフト・見守り機器等) | 各法人の管理者と現場 | 契約名義を持つ法人 | 初期費用・保守費の分担、通信環境の整備費 | 利用者の個人情報。閲覧範囲と権限設計 | 移行期の二重入力、操作習得 | 契約解除時のデータ返還・移行方法 |
| 間接業務の受託(報酬請求・記録・書類作成等) | 委託元と受託法人の事務 | 受託法人の事務責任者 | 委託料の算定根拠 | 請求データ、職員情報 | 受託側の繁忙集中、委託元の確認工程 | 誤請求が起きた場合の責任と復旧手順 |
最初に埋まらない欄が、いま合意できていない論点です。多くの場合それは費用ではなく、責任者と撤退条件の欄になります。
補助率の上乗せは「協定」にひも付いている
資料6の参考資料に付された「介護テクノロジー導入・協働化・経営改善等支援事業」は、令和9年度概算要求額240億円、令和7年度補正予算額220億円とされています。
このうち、都道府県と協定を締結して介護事業者間の連携を推進する事業所について、バックオフィス業務の受託や人材募集・研修の共同実施等の費用を補助する項目があり、中山間・人口減少地域などサービス過少地域において、協定を締結する場合に限ると注記されています。
負担割合も項目ごとに分かれます。見守り機器・介護記録ソフト・インカムの導入は国・都道府県4/5、事業者1/5ですが、この連携に参画する事業所については国・都道府県10/10と記載されています。上乗せの前提は機器を買うことではなく、協定を結んで連携に参画していることです。
一方、協定に基づいて何を実施するのか、協定の内容そのもの、都道府県・市町村が果たすべき役割は、資料6でも「今後の検討事項」とされています。自治体の窓口へ問い合わせても、現時点では要綱を示せない段階だと考えておいてください。
好事例の数字を、自法人の見込みに置き換えない
資料6には協働化の事例が3件載っています。読み方に注意が要る部分です。いずれも小規模法人のネットワーク事業の補助金を活用した運営で、令和3年度の調査研究事業の事例集をもとに作成されたと注記されています。
- 妻有地域包括ケア研究会(12法人・88拠点・164事業所、新潟県の提案に基づき設立):人財育成の協働化によりケアの質向上、職員のやりがい・働きがいにつながり、離職率が2桁から1桁に落ち着いたと記載。備品の共同購入でボリュームディスカウントを受けられた。
- 一般社団法人福智町社会福祉連携協議会(24法人・52事業所、社会福祉協議会が推進役、2021年4月に法人化):合同での人財募集のチラシ作成、専用ページの開設、外国人介護人材の受入体制等を整備。合同研修により講師費用等を抑えられた。マスクや抗原検査キットの共同購入、電力会社との交渉で大規模特約割引契約に至った。
- やまがの介護協働推進ネットワーク(10法人・10事業所):生活支援コーディネーターのいる法人が中心となり連携。地域住民と施設職員との共同研修を実施。山鹿市の全世帯へ求人チラシを年2回配布し、「働くことのできる高齢者」等へ働きかけて職員を確保。
離職率の記載は、この1つの法人群が報告した結果です。共同化すれば離職率が下がるという一般的な効果を示すものではありません。稟議で「他ではこう下がった」と引くと、実際の数字が動かなかったときに説明できなくなります。
引けるのは効果の数値ではなく、着手の順番です。3件に共通するのは、いきなり全部をまとめたのではなく、共同購入・合同研修・合同求人といった一つの具体的な業務から始めている点です。
まず一つの共通課題を選んで、そこだけ合意する
編集部の提案は単純です。上の表を全部埋めようとせず、いま隣の法人と痛みが一致している課題を一つだけ選ぶ。順序は次のとおりです。
- 直近1年で自事業所が単独で負担した費用と時間を洗い出す(求人媒体費、講師費、記録ソフトの保守費、請求業務の残業)
- そのうち、近隣の他法人と重複している項目に印を付ける
- 印の付いた項目を、上の表の6欄で書けるか試す。データ共有の範囲と撤退条件が書けない項目は、今回は選ばない
- 残った1項目について、相手法人と責任者どうしで話す。自治体へは「協定の枠組みが決まったら何が必要になるか」を聞いておく
利用者の個人情報を含むICTの共同導入は、合意しておく事項が最も多くなります。最初の1件には向きません。
介護報酬側の動きは2027年度改定に向けた関係団体の意見交換で、記録システムを移行するときに現場で起きることはケアプランデータ連携の移行記事で扱っています。
この資料から確認できないこと
- 概算要求後の予算額、実施要綱、公募の時期と方法
- 協定の様式、締結先、対象となるサービス種別
- 「中山間・人口減少地域」「サービス過少地域」に自事業所が該当するかどうかの判定
- 共同化した場合の労務管理(誰の指揮命令下で働くか)と、個人情報の取扱いに関する責任分担
補助金の要件と地域区分の該当可否は、都道府県・市町村の窓口が一次情報です。そのうえで、共同化できる業務の切り分け、求人内容の整理、職員への説明の組み立てについては採用・業務整理のご相談で承ります。制度への適合をこちらで保証するものではありません。
参考資料
- 厚生労働省「第136回社会保障審議会介護保険部会」(2026年9月18日開催)
- 同部会 資料6「介護事業者の連携強化について(報告)」厚生労働省老健局(2026年9月18日)
最終確認日:2026年9月18日。本文で引用した支援策は概算要求の段階のものです。予算の成立、実施要綱、公募条件は公表され次第、公式資料をご確認ください。