吸引(サクション)の手順と注意点|気管吸引・口腔吸引の違い【看護技術】

編集部
「はたらく看護師さん」編集部 現役看護師監修・臨床経験に基づく信頼性の高い情報
この記事のポイント

※ 本記事にはプロモーション(アフィリエイトリンク)が含まれています

吸引(サクション)は、自力で痰を喀出できない患者さんの気道を確保するために欠かせない看護技術です。適切に実施すれば患者さんの呼吸状態を速やかに改善できますが、手技を誤れば低酸素血症や粘膜損傷など重篤な合併症を引き起こす可能性があります。吸引の成功は「正しい手順の遵守」と「患者の状態に応じた判断力」の2つにかかっています。

この記事では、臨床経験12年の呼吸器病棟出身の筆者が、吸引の種類(口腔・鼻腔・気管)ごとの手順、吸引圧の目安、カテーテル挿入の長さ、合併症の予防と対処、開放式・閉鎖式吸引の違い、在宅での吸引指導のポイントまで、実践で使える知識を網羅的に解説します。新人看護師から訪問看護師まで、吸引に関わるすべての看護師に役立つ内容です。

吸引の種類と適応|口腔・鼻腔・気管の違い

吸引は吸引する部位によって3つの種類に分けられます。それぞれ使用するカテーテルの太さ、挿入の深さ、手技の難易度が異なるため、違いをしっかり理解しておきましょう。

口腔内吸引

口腔内吸引は、口の中に溜まった唾液や分泌物を吸引する手技です。意識レベルが低下して嚥下反射が弱い患者さん、口腔ケア中の分泌物除去、嘔吐物の吸引などに用います。カテーテルの挿入は口腔内に限定し、咽頭より奥には進めません。吸引圧は100〜150mmHg(13〜20kPa)程度で、比較的低めの圧で十分です。口腔内吸引は清潔操作(滅菌操作は不要)で実施でき、介護士にも許可されている手技です。

鼻腔内吸引

鼻腔内吸引は、鼻腔から咽頭にかけての分泌物を吸引する手技です。口を開けられない患者さんや、鼻腔内の分泌物が多い場合に適応となります。カテーテルは鼻孔から挿入し、鼻腔粘膜を損傷しないよう、床面に沿って水平に進めます。上向きに挿入すると鼻中隔を損傷するため注意が必要です。吸引圧は口腔内吸引と同程度で、150mmHg以下を目安とします。鼻出血のリスクがあるため、抗凝固薬を使用している患者さんには慎重に実施しましょう。

気管内吸引

気管内吸引は、気管挿管チューブや気管切開カニューレを通じて気管内の痰を吸引する手技です。最も侵襲が高く、合併症リスクも大きいため、厳密な手順遵守が求められます。吸引圧は150mmHg以下(成人)、カテーテルの挿入長は気管チューブの先端を超えない長さが原則です。気管内吸引は滅菌操作が必要であり、看護師の技術が直接患者の安全に影響する重要な手技です。

広告キャリア情報

この知識を活かせる職場、探してみませんか?

あなたの学びや経験を正当に評価してくれる職場があります。非公開求人10万件以上から、条件に合った求人を無料でご紹介。

求人を見てみる →
職場のリアルがわかる転職

※ 完全無料・情報収集だけでもOK

気管吸引の具体的手順|準備から観察まで

気管内吸引は吸引の中で最も手順が複雑で重要な手技です。ここでは、開放式気管吸引の標準的な手順をステップバイステップで解説します。

準備段階

  • 物品準備:吸引カテーテル(成人:12〜14Fr)、吸引器、滅菌手袋、滅菌精製水(カテーテル洗浄用)、アルコール綿、廃棄容器、パルスオキシメーター
  • 吸引器の動作確認:吸引圧が適切に設定されているか、チューブに破損がないかを確認
  • 患者への説明:「痰を吸引しますね。少し苦しいかもしれませんが、すぐに楽になりますよ」と声をかけ、可能であれば同意を得る。意識がない患者さんにも必ず声をかけましょう
  • バイタルサインの確認:SpO2、心拍数、血圧を確認。SpO2が著しく低い場合は、吸引前に酸素濃度を上げるか医師に相談

実施手順

1. 手指衛生と手袋装着

手指消毒を行い、滅菌手袋を装着します。利き手が滅菌操作手、反対の手が非滅菌操作手です。利き手でカテーテルを操作し、反対の手で吸引チューブの接続部を操作します。

2. 吸引前の過酸素化(プレオキシジェネーション)

吸引中は一時的に酸素供給が途絶えるため、吸引前に30秒〜1分間、FiO2を100%に上げて過酸素化を行います(人工呼吸器の吸引前酸素化機能を使用)。これにより、吸引中の低酸素血症リスクを軽減できます。

3. カテーテルの挿入

滅菌手袋をした利き手でカテーテルを持ち、吸引圧をかけない状態(吸引孔を開放したまま)で気管チューブ内に挿入します。吸引圧をかけながら挿入すると、気管粘膜を損傷するリスクがあるため、必ず陰圧をかけずに挿入してください。挿入の深さは、気管チューブの長さ+1cm程度を目安とします。チューブの先端を大きく超えて挿入すると気管分岐部(カリナ)を刺激し、強い咳嗽反射や不整脈を誘発する恐れがあります。

4. 吸引の実施

カテーテルを所定の深さまで挿入したら、吸引孔を塞いで陰圧をかけながら、カテーテルをゆっくり回転させながら引き抜きます。1回の吸引時間は10〜15秒以内を厳守してください。15秒を超えると低酸素血症のリスクが急激に上昇します。タイマーや「1、2、3…」と心の中でカウントしながら実施する習慣をつけましょう。

5. 吸引後の観察

吸引後は直ちに人工呼吸器を再接続し、SpO2と心拍数を確認します。痰の量・性状(色、粘稠度、血液の混入の有無)を観察し、記録します。1回の吸引で十分な痰が引けなかった場合は、SpO2が回復してから(最低30秒以上間隔を空けて)再度吸引を行います。連続した吸引は3回までを目安とし、それ以上は患者の状態を見ながら医師と相談してください。

後片付けと記録

使用したカテーテルは滅菌精製水で内腔を洗浄し、廃棄します(単回使用が原則)。手袋を外して手指衛生を行い、吸引の記録を電子カルテに入力します。記録すべき内容は、吸引時間、吸引回数、痰の量・性状・色、吸引前後のSpO2・HR・BP、患者の反応(咳嗽、苦悶表情、チアノーゼの有無など)です。

吸引圧の目安とカテーテルサイズの選択

吸引圧とカテーテルサイズは、患者の年齢や状態に応じて適切に選択する必要があります。圧が高すぎると粘膜損傷、低すぎると十分に痰が引けません。

年齢別の吸引圧目安

対象吸引圧カテーテルサイズ
成人100〜150mmHg(13〜20kPa)12〜14Fr
小児80〜120mmHg(11〜16kPa)8〜10Fr
新生児60〜80mmHg(8〜11kPa)5〜8Fr

カテーテルサイズの選択基準として、気管チューブの内径の1/2以下の外径のカテーテルを使用するのが原則です。太すぎるカテーテルは気管チューブ内腔を塞いでしまい、吸引中の換気ができなくなります。例えば、内径8mmの気管チューブであれば、外径4mm以下(12Fr以下)のカテーテルが適切です。

挿入の深さの目安

カテーテルの挿入の深さは、吸引の種類によって異なります。

  • 口腔内吸引:10cm前後(口腔内に留める。咽頭より奥に入れない)
  • 鼻腔内吸引:15〜20cm(鼻孔から咽頭まで)
  • 気管内吸引(挿管チューブ経由):気管チューブの長さ+0〜1cm(チューブの先端を大きく超えない)
  • 気管内吸引(気管切開経由):カニューレの長さ+0〜1cm

かつては「カテーテルを抵抗があるまで挿入し、少し引いてから吸引する」という方法が教科書に載っていましたが、現在のガイドラインではこの方法は推奨されていません。気管分岐部(カリナ)への刺激は不整脈や気管支痙攣の原因となるため、気管チューブの先端を超えない浅い挿入が標準です。

吸引の合併症と予防策

吸引は侵襲的な手技であり、さまざまな合併症のリスクがあります。合併症の種類、発生メカニズム、予防策を理解しておくことで、安全な吸引が実施できます。

低酸素血症

吸引中は人工呼吸器が外れるため、酸素供給が途絶えます。同時に、吸引の陰圧によって肺内の空気も一部引き出されるため、SpO2が急速に低下します。予防策としては、吸引前の過酸素化(FiO2 100%で30秒〜1分)、1回の吸引時間を10〜15秒以内に制限すること、吸引後に速やかに人工呼吸器を再接続することが重要です。SpO2が90%以下に低下した場合は、直ちに吸引を中止して酸素投与を再開してください。

気管粘膜の損傷

カテーテルの先端が気管粘膜に接触したまま強い陰圧をかけると、粘膜が吸引されて損傷します。これは痰への血液混入として確認できます。予防策としては、適切な吸引圧の設定(150mmHg以下)、カテーテルを回転させながら引き抜くこと、同じ部位に長時間陰圧をかけないことが挙げられます。血液混入が続く場合は医師に報告してください。

迷走神経反射と不整脈

気管分岐部(カリナ)や気管壁への刺激は、迷走神経を介して徐脈や不整脈を引き起こすことがあります。特に心疾患のある患者さんでは注意が必要です。予防策は、カテーテルの挿入深度を適切に管理し、カリナへの接触を避けること。吸引中は心電図モニターを観察し、徐脈や不整脈が出現したら直ちに吸引を中止します。

その他の合併症として、気管支痙攣(特に喘息患者)、頭蓋内圧亢進(脳神経外科患者)、感染(不潔操作による)があります。いずれも正しい手技と適切なアセスメントで予防可能です。

開放式吸引と閉鎖式吸引の違い

気管内吸引には「開放式」と「閉鎖式」の2つの方法があります。それぞれの特徴を理解し、患者の状態に応じて適切に使い分けましょう。

開放式吸引

開放式吸引は、人工呼吸器の回路を外してカテーテルを挿入する方法です。メリットはカテーテルの操作性が良く、太い痰も吸引しやすいこと。デメリットは、回路を外す際にPEEP(呼気終末陽圧)が失われて肺胞が虚脱するリスクがあること、外気に開放されることで感染リスクが高まること、吸引中の低酸素血症リスクが高いことです。毎回新しい滅菌カテーテルを使用するため、コストは安いですがカテーテルの消費量は多くなります。

閉鎖式吸引

閉鎖式吸引は、人工呼吸器の回路を外さずに吸引できるシステムです。専用の閉鎖式吸引カテーテル(インラインサクション)を気管チューブと人工呼吸器回路の間にあらかじめ接続しておき、必要時にカテーテルを押し込んで吸引します。メリットはPEEPが維持されること、低酸素血症のリスクが低いこと、感染リスクが低いこと、手袋は未滅菌でよいこと。デメリットは、カテーテルの太さが固定であること、操作にやや慣れが必要なこと、コストが高い(24時間ごとに交換)ことです。

現在のガイドラインでは、PEEP 10cmH2O以上の患者さん、高濃度酸素投与中の患者さん、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の患者さんには閉鎖式吸引が推奨されています。ICUでは閉鎖式吸引が標準的に使用されており、一般病棟でも導入が進んでいます。

広告キャリア情報

この知識を活かせる職場、探してみませんか?

あなたの学びや経験を正当に評価してくれる職場があります。非公開求人10万件以上から、条件に合った求人を無料でご紹介。

求人を見てみる →
職場のリアルがわかる転職

※ 完全無料・情報収集だけでもOK

吸引のタイミングと判断基準

吸引は「定時」ではなく「必要時」に実施するのが原則です。不必要な吸引は患者さんの苦痛を増やし、合併症リスクを高めるだけです。では、どのようなサインが出たら吸引が必要なのでしょうか。

吸引が必要なサイン

  • 聴診で湿性ラ音(ゴロゴロ音)が聴取される:気道内に痰が貯留しているサイン
  • SpO2の低下:痰による気道閉塞で換気が不十分になっている
  • 人工呼吸器の気道内圧上昇:痰で気道が狭くなり、送気に抵抗が生じている
  • 呼吸パターンの変化:頻呼吸、努力呼吸、呼吸苦の訴え
  • 咳嗽反射:患者さんが咳をしているが、自力で痰を喀出できない
  • 気管チューブ内に痰が視認できる:透明なチューブ内に痰が付着しているのが見える

吸引を控えるべき状況

以下の状況では、吸引の実施に慎重な判断が必要です。医師に相談してから実施しましょう。

  • 頭蓋内圧亢進が懸念される場合:吸引刺激で頭蓋内圧がさらに上昇する可能性
  • 重度の気管支痙攣中:吸引刺激で気管支痙攣が悪化する可能性
  • 重度の低酸素血症(SpO2 85%以下):まず酸素化の改善が優先
  • 止血困難な出血傾向がある場合:粘膜損傷による出血リスク

在宅での吸引指導|家族への教え方

在宅人工呼吸器管理の患者さんが増加する中、家族への吸引指導は訪問看護師の重要な役割です。医療者にとっては当たり前の手技でも、家族にとっては「命に直結する怖い行為」です。丁寧で段階的な指導が求められます。

家族指導のステップ

  • ステップ1:知識の提供 — 吸引の目的、必要性、手順を説明。パンフレットや動画教材を活用
  • ステップ2:デモンストレーション — 看護師が手技を見せながら、各ステップの理由を説明
  • ステップ3:見守りのもと実施 — 家族に実際にやってもらい、看護師がそばで見守る。最初は緊張するので、何度でもやり直してもらう
  • ステップ4:独立実施と定期評価 — 家族が一人でできるようになったら、訪問時に手技を確認し、誤った手順が定着していないかチェック

在宅吸引で特に注意すべき点

在宅では病院と異なり、急変時にすぐに医師や他のスタッフが駆けつけられません。そのため、以下の点を重点的に指導します。

  • 吸引のタイミング:「痰がゴロゴロしたら吸引する」というシンプルな判断基準を教える
  • 吸引時間:「10秒以内」を厳守。キッチンタイマーやスマホのタイマーの活用を提案
  • 緊急時の対応:SpO2が下がった時、出血した時の連絡先と対応手順を紙に書いて目に見える場所に貼る
  • 感染対策:カテーテルの保管方法、吸引瓶の洗浄方法、手指衛生の重要性を繰り返し指導
  • 物品の管理:カテーテルや精製水の在庫管理、注文方法を確認

家族の精神的な負担も見逃してはいけません。「吸引が怖い」「失敗したらどうしよう」という不安は当然のことです。「最初は誰でも怖いものです。でも、お母さん(お父さん)の吸引をしてあげられるのは、ご家族だけなんですよ」と励ましの声かけも大切な看護の一つです。

吸引は看護師のキャリアを通じて必要となる基本技術です。呼吸器内科やICU、在宅医療など、吸引技術を高いレベルで求められる職場は多く、スキルアップのチャンスに溢れています。もし今の職場で十分な症例数を経験できていない、あるいはより専門性の高い環境で力を磨きたいと考えているなら、教育体制が充実した施設への転職を検討するのも一つの選択肢です。まずは情報収集から始めて、自分のキャリアの可能性を広げてみてください。

Leave a Reply

*

看護のお仕事