「また同期が辞めた」と気づいた時、何を考えればいいのか
カンファレンスの予定表を眺めていて、3か月前に名前があった同期がもういない。プリセプターとして担当した新人が、入職半年でいなくなった。年度末に「来年度から夜勤メンバーが3人減る」と聞かされて、今の体制で本当に病棟が回るのか不安になる。看護師として働いていると、誰かが辞めるニュースは、毎月のように耳に入ってきます。
「うちは離職が多い気がする」「自分も辞めた方がいいのか」「でも、転職先でも同じことが起きるんじゃないか」。そんな迷いの中で、ニュースサイトや SNS で看護師の離職率を検索すると、媒体ごとに違う数字が並び、結局自分の職場はどの位置にいるのか分からないまま閉じてしまう、ということもあるはずです。
公益社団法人 日本看護協会の「2025年 病院看護実態調査」(2026年3月31日公表)では、2024年度の離職率について、正規雇用看護職員11.0%、新卒採用者8.4%、既卒採用者16.1%という最新値が示されました(Source: 日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」結果速報、2026年3月31日)。一方で、都道府県別では大阪府・奈良県の14.1%から山形県の7.1%まで、約2倍の地域差があり、病床規模別・設置主体別でも数字は大きく動きます。
この記事は、2025年時点の看護師離職率の最新数値を一次情報で押さえつつ、「うちの職場は離職が多い方なのか」を判断する材料、今の職場で確認すべき項目、転職で解決しやすいこと/しにくいことを、現場目線で整理するためのものです。離職率の高さだけで職場を判断するのではなく、自分の働き方を見直す軸として、データを使ってください。
この記事でわかること
この記事は、職場の離職に違和感を抱きながら、次の一歩を考えたい看護師さんに向けて書いています。
この記事の価値:2025年時点の看護師離職率を一次情報で確認し、地域・規模・設置主体・部署ごとの違いを踏まえて、自分の職場が「離職が多い」のか「平均的」なのかを判断する材料が手に入ります。
読むと判断できること:今の職場の離職率を、何の数字と比べればよいか。離職が多い職場の何を確認すべきか。転職で変えられること・変えにくいことの線引き。
次にできること:上司・看護部・労務担当に確認したい項目を整理し、必要なら看護師向けの相談窓口や転職紹介サービスへ進む準備が整います。
読むポイントは6つです。
- 2025年時点で公表されている最新の離職率データ(全国・地域・規模・設置主体)
- 新卒・既卒・経験者で離職率がどう違うか、その背景
- 部署別(病棟・外来・訪問看護・救急・手術室など)の離職傾向
- 離職率が高い職場・低い職場の特徴と、確認すべき項目
- 「辞める」前に今の職場で確認すべき5項目チェックリスト
- 転職で解決しやすいこと・しにくいことを分けて考える
読後には、「離職率が高いから辞める」のではなく、「離職率の中身を見て、自分の働き方を判断する」視点が持てるはずです。
判断材料になる一次情報
この記事は、以下の一次情報をもとに整理しています。記事内の数字や制度説明は、原則として下記の出典に基づきます。
確認したいポイントは次の通りです。
看護師の離職率は、全国平均だけでは語れない。地域・病床規模・設置主体・部署で大きく違い、自分の職場をどの平均と比べるかで判断は変わる。新卒8.4%・既卒16.1%という差は、入職タイミングで離職リスクが大きく動くことを示している。
数字を見るときは、「全国平均と比べてどうか」より、「自分の職場と類似条件の平均と比べてどうか」が重要です。たとえば99床以下の医療法人病院に勤めている場合、500床以上の公立病院の平均と比べても判断材料にはなりません。
2025年時点の看護師離職率の最新数値
日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」は、2025年10月1日〜11月17日に全国の病院8,022施設の看護部長に回答を依頼し、3,502施設から有効回答を得て集計されたものです(有効回収率43.7%)(Source: 日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」結果速報、2026年3月31日)。2024年度(2024年4月〜2025年3月)の離職率を測定した、最新の全国規模調査です。
全国平均(2024年度)
- 正規雇用看護職員の離職率:11.0%(前年度比0.3ポイント減)
- 新卒採用看護職員の離職率:8.4%(前年度比0.4ポイント減)
- 既卒採用看護職員の離職率:16.1%(前年度と同水準)
(Source: 日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」結果速報、2026年3月31日/労働政策研究・研修機構「正規雇用看護職員の離職率は11.0%」2026年4月8日)
正規雇用が11.0%、新卒が8.4%、既卒が16.1%という3つの数字は、それぞれ意味する内容が違います。正規雇用は「正職員として働いている看護師のうち、その年度で辞めた割合」、新卒は「その年度に入職した新卒看護師のうち、年度内に辞めた割合」、既卒は「その年度に入職した既卒(経験者)のうち、年度内に辞めた割合」を指します。
つまり、新卒8.4%は「入職した最初の1年間で辞める確率」、既卒16.1%は「経験者として転職してきた人が、最初の1年で辞める確率」を表しています。既卒の離職率が新卒の2倍近いのは、転職時のミスマッチが解消できなかったケースが多いことを示唆しています。
全産業との比較
厚生労働省の雇用動向調査では、産業計(全業種)の離職率は概ね14〜15%前後で推移しており、看護師の11.0%は全産業の平均より低い水準です(Source: 日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」結果速報、解説部分)。「看護師は離職率が高い」というイメージは、人手不足の感覚と地域差・施設差から来るもので、全国平均だけ見れば極端に高いわけではありません。
ただし、ここで気をつけたいのは、「全国平均が低いから問題がない」ではなく、「自分の地域・施設・年齢層では、この数字とどれだけズレているか」を見ることです。次のセクションで、地域・規模・設置主体ごとの分布を確認していきます。
地域別の離職率:大阪・奈良14.1% vs 山形7.1%
日本看護協会の2025年調査では、都道府県別の正規雇用看護職員離職率が公表されています。
離職率が高い都道府県(正規雇用、上位)
- 大阪府:14.1%
- 奈良県:14.1%
- 神奈川県:13.3%
- 東京都:13.0%前後
- 千葉県:12.9%前後
(Source: 日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」結果速報、2026年3月31日/GemMed「看護職員の離職率は正規雇用11.0%・新卒8.4%・既卒16.1%に低下」解説)
離職率が低い都道府県(正規雇用、下位)
(Source: 同上)
大阪府・奈良県(14.1%)と山形県(7.1%)の差は約7ポイント、倍率にして約2倍です。同じ「看護師」という職種でも、勤務地が違えば、1年で離職する人の割合が2倍違うということになります。
この地域差の背景には、次の要因が指摘されています。
- 求人倍率の差:大都市部は看護師求人が多く、転職の選択肢が多いため、離職しても次の職場が見つかりやすい
- 病院密度:大都市部は同じ地域内に複数の大学病院・基幹病院があり、転職時のハードルが低い
- 賃金水準と生活費のバランス:大都市部は給与水準が高い一方で生活費も高く、可処分所得ベースの満足度が地方より低くなることがある
- 通勤環境:地方は車通勤中心で通勤負担が少なく、家族と同居しやすい一方、大都市部は通勤時間と住居コストが負担になる
自分の勤務地が大阪府や奈良県の場合、「うちの病棟で年に1割以上辞めるのは当たり前」という地域平均の中にいるのか、それとも地域平均より明らかに高いのかを区別する必要があります。逆に山形県や徳島県で勤務している場合は、地域平均(7%台)と比べてどうかを基準にすることが重要です。
新卒・既卒の地域別ランキング
新卒採用看護師の離職率が高い都道府県(2024年度)には、香川県、東京都、大阪府などが挙げられ、香川県では15%前後の数値が報告されている年度もあります(Source: 日本看護協会「2024年 病院看護実態調査」報告書 No.101)。既卒採用看護師の離職率では、大分県、鹿児島県、沖縄県といった九州・沖縄地方が高い傾向にあり、これは中途採用市場が小さく、ミスマッチが起きやすい地域構造を反映している可能性があります。
病床規模別:99床以下13.1% vs 500床以上10.0%
病床規模別の正規雇用看護職員離職率(2024年度)は、おおむね次のような傾向になっています(Source: 日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」結果速報、2026年3月31日)。
- 99床以下:約13.1%(最高水準)
- 100〜199床:12%台
- 200〜299床:11%台
- 300〜399床:11%前後
- 400〜499床:10%台
- 500床以上:約10.0%(最低水準)
病床規模が小さいほど離職率が高く、大規模病院ほど離職率が低い傾向が一貫しています。前回の2024年調査(2023年度データ)でも、99床以下の医療機関で12.6%、500床以上で10.4%という同様の構造が報告されており、これは長年続く傾向です(Source: 日本看護協会「2024年 病院看護実態調査」報告書 No.101)。
小規模病院で離職率が高い背景には、次の要因が指摘されています。
- 人員配置の薄さ:少人数で病棟を回すため、1人欠ければ即座にシフトに影響し、残ったスタッフへの負担が大きい
- 教育体制の差:プリセプター制度や認定看護師の配置が大規模病院ほど整っておらず、新人が孤立しやすい
- 昇給・賞与の制約:診療報酬の算定要件で大規模病院が有利な加算が多く、原資の差が給与水準に反映される
- キャリアパスの選択肢:小規模病院は専門領域の経験を積みにくく、ステップアップを求めて転職する人が出やすい
ただし、小規模病院には「人間関係が把握しやすい」「夜勤回数が少ない」「自宅から近い」「ライフイベントとの両立がしやすい」といった大規模病院にはない強みもあります。「離職率が高い=悪い職場」ではなく、その規模に求められる役割と、自分が求めるキャリア像が一致しているかを見ることが大切です。
設置主体別:医療法人・医療生協が高め、公立・赤十字が低め
設置主体別の正規雇用看護職員離職率は、施設のオーナーシップによって大きく異なります(Source: 日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」結果速報、2026年3月31日/GemMed解説)。
離職率が高い傾向(正規雇用)
- 医療生協:約14.4%
- 医療法人:14.4%前後
- その他法人:12%台
離職率が低い傾向(正規雇用)
- 会社(企業立病院):約7.3%
- 公立病院(都道府県・市町村立):8%前後
- 日本赤十字社:9.4%前後
- 国立病院機構:9%台
公立病院や日本赤十字社、国立病院機構で離職率が低い背景には、公務員またはそれに準じた身分保障、退職金制度、育児休業・介護休業の取得しやすさ、研修体制の充実といった、長期勤務を支える制度設計があります。一方、医療法人は経営判断の柔軟性が高い反面、給与・福利厚生・研修制度に法人ごとのばらつきが大きく、経営状況が悪化すると離職が増えやすい構造があります。
ただし、設置主体だけで職場の良し悪しは判断できません。公立病院でも病棟ごと・部署ごとで離職率が大きく違うことがあり、医療法人でも長く勤め続けられる職場は多くあります。設置主体別の数字は「平均的にどういう傾向があるか」を理解する材料にとどめ、個別の職場の判断は別の軸(次のチェックリスト)で行ってください。
部署別の離職傾向:救急・手術室・回復期で何が違うか
日本看護協会の調査は病院単位での集計が中心で、部署別の離職率を全国規模で出した最新の公表データは限定的です。ただし、過去の調査や個別病院の事例から、部署別に離職リスクの傾向が指摘されています。
離職リスクが相対的に高い部署
- 急性期病棟・救急外来:身体的・精神的負担が大きく、超過勤務が長くなりやすい
- 手術室:オンコール体制と専門スキル習得の負担、産休復帰後のシフト調整が難しい
- ICU・HCU:精神的緊張が継続し、患者死亡を経験する頻度が高い
- 小児科病棟:保護者対応の精神的負担、ターミナル症例の経験が累積しやすい
- 訪問看護ステーション:単独訪問の責任、オンコール対応、移動負担
離職リスクが相対的に低い部署
- 外来:日勤中心でライフイベントとの両立がしやすい
- 健診センター・人間ドック:定型業務が中心で、急変対応のストレスが少ない
- 地域包括ケア病棟・回復期リハ病棟:超急性期ほどの緊張感はなく、患者の回復過程を見届けられる
- 看護学校教員:夜勤がなく、学事日程に沿った働き方ができる
訪問看護ステーションについては、神奈川県の看護職員実態調査で、訪問看護ステーション勤務の離職率(過去年度)が病院勤務より高めに出ることが報告されており、単独訪問の負担、オンコール対応の負担、ステーション規模の小ささが背景として指摘されています(Source: 日本看護協会「2024年度 診療報酬・介護報酬改定等に向けた訪問看護実態調査」関連資料)。
「離職率が高い部署=働き続けられない」ではなく、「その部署に長く勤める看護師が何を工夫しているか」を職場で確認することが、自分の判断軸になります。
新卒看護師が辞める理由:精神的疾患52.5%、適性への不安47.4%
新卒看護師の離職理由については、日本看護協会の調査で、病院管理者の認識として次のような項目が上位に挙げられています(Source: 日本看護協会「2024年 病院看護実態調査」報告書 No.101)。
- 健康上の理由(精神的疾患):52.5%
- 看護職員としての適性への不安:47.4%
- 看護実践能力への不安:41.6%
- 上司・同僚との人間関係:29.8%
- 他施設への関心・転職:21.8%
- 転居:9.2%
- 結婚:7.9%
- 家族の健康問題・介護:7.8%
- 出産・育児:4.5%
精神的疾患が約半数を占めること、適性への不安・実践能力への不安が4〜5割を占めることから、新卒看護師の離職は「単に職場が合わない」というよりも、「現場の負担に心身が追いつかない」状態で発生していることが分かります。
これは、新人個人の能力の問題ではなく、入職前から想定していた業務量・夜勤負担・責任の重さと、現場の実態にギャップがあることを示しています。プリセプター制度、メンター制度、心理職や産業医との連携といった支援体制が、新卒離職率を下げる鍵になります。
新卒採用看護師の離職率が、2023年度8.8%から2024年度8.4%へと低下したのは、コロナ禍で停滞していた新人研修体制が再構築されたこと、メンタルヘルス対応の整備が進んだことが要因として指摘されています。ただし、依然として10人に1人弱の新卒が初年度で辞めている現実は変わっていません。
既卒(中途)看護師が辞める理由:転職時のミスマッチ
既卒採用看護師の離職率16.1%は、新卒の8.4%と比べて約2倍です。経験者として転職してきた看護師の6人に1人が、転職先で1年以内に辞めている計算になります。
既卒離職の主な理由として、次のようなパターンが指摘されています。
- 求人票と実態のギャップ:月給・年収・夜勤回数・残業時間が、求人票の説明と現場で大きく違う
- 役職・配置のミスマッチ:「リーダー候補」として採用されたが、配属先で求められる役割が違った
- 教育体制の認識違い:経験者として即戦力を期待されたが、職場のシステムや書式に慣れる時間が確保されなかった
- 人間関係:転職先のチーム文化に馴染めず、既存スタッフとの距離が縮まらない
- 給与の構造:基本給は前職並みでも、夜勤手当・賞与・退職金算定基礎の違いで年収ベースで下がった
既卒離職率が高いのは、「転職すれば解決する」と思って動いた看護師さんが、転職先で再びミスマッチを抱えるケースが少なくないことを示しています。次の職場が今より良くなる保証はなく、転職活動の精度が結果を左右します。
離職率が高い職場・低い職場の特徴
地域・規模・設置主体・部署で離職率は変わりますが、同じ条件の中でも「離職率が低い職場」と「高い職場」の差があります。離職率が低い職場には、次のような共通点が指摘されています。
離職率が低い職場の特徴
- 看護師1人あたりの患者数が少ない(夜勤帯の患者対看護師比が緩い)
- 有給休暇取得率が高い(年7割以上)
- 超過勤務時間が短い(月15時間以内)
- 教育体制が明文化されている(プリセプター、ラダー、認定看護師の配置)
- 看護部長・主任が現場の声を吸い上げる仕組みがある
- 産休・育休からの復帰率が高い(時短勤務、夜勤免除の選択肢がある)
- 給与体系が明文化され、昇給ルールが共有されている
離職率が高い職場の特徴
- 人員配置が薄く、夜勤回数が月9回以上のスタッフが複数いる
- 有給休暇取得率が低い(年5割未満)
- 超過勤務が月30時間以上常態化している
- プリセプター不在の病棟がある、または新人研修が形骸化している
- 看護部長・主任との距離が遠く、現場の声が上がらない
- 産休復帰後に夜勤強要があり、復帰率が低い
- ハラスメント(パワハラ・モラハラ)の相談窓口が機能していない
これらの特徴は、入職前の見学・面接で完全に把握するのは難しいですが、現職の看護師であれば、自分の職場がどちらに近いかは、ある程度判断できます。
「辞める」前に今の職場で確認する5項目
「離職率が高そうだから辞める」ではなく、辞める前に職場で確認すべき5項目を整理します。
1. 自分の病棟の離職率と前年比
看護部や人事に「うちの病棟の正規雇用看護師離職率は何%ですか」「前年・前々年と比べてどう推移していますか」と聞ける環境かを確認します。聞ける環境であり、回答が公開されている職場は、それ自体が透明性の高い職場です。
2. 有給休暇取得率と超過勤務時間
自分が所属する病棟・部署の有給休暇取得率、超過勤務時間の実績を確認します。労働基準法の「年5日有給取得義務」は最低ラインで、本来は付与日数の7割以上の取得が目指されるべきです。超過勤務は月20時間以内が一つの目安です。
3. 教育体制と相談ルート
プリセプター制度、ラダー、認定看護師・専門看護師の配置、外部研修の補助、メンタルヘルス相談窓口、ハラスメント相談窓口の有無を確認します。書面で明文化されているか、実際に機能しているかは別の話で、同僚や先輩に「相談窓口を使った人を知っていますか」と聞いてみるのも有効です。
4. 夜勤回数とシフト調整
月の夜勤回数の上限、夜勤明け翌日の休日確保、夜勤中の休憩・仮眠の実態、産休・育休復帰後の夜勤免除制度の有無を確認します。日本看護協会「2025年 看護職員実態調査」では、夜勤継続の条件として「納得感のある夜勤手当」「夜勤明け翌日の休日確保」「夜勤中の十分な休憩・仮眠」が上位に挙げられています(Source: 日本看護協会「2025年 看護職員実態調査」結果、2026年3月31日)。
5. 給与の透明性と昇給実績
基本給、諸手当、賞与算定基礎、夜勤手当の単価、昇給ルール、過去3年の昇給実績を確認します。基本給テーブルが公開されている職場、給与モデル(5年目・10年目の想定年収)が示せる職場は、長期勤務を前提に設計されています。
5項目を確認した結果、複数項目で曖昧な回答しか得られない、または改善の見通しが立たない場合は、次の選択肢を検討する段階に入ります。
自分の離職リスク診断(5パターン)
自分が「辞めるか残るか」の判断に迷っている時、次の5パターンのどれに該当するかで、必要なアクションが変わります。
パターン1:新人で適応に苦しんでいる(入職1〜2年目)
新卒離職の主因である「精神的疾患」「適性への不安」のリスク層です。すぐに辞める前に、産業医・心理職・プリセプター・看護部長との面談、部署異動の可能性、勤務調整(夜勤回数調整・時短勤務)を確認します。3か月単位の様子見と、外部の看護師向け相談窓口(カンゴさんなど)の併用が現実的です。
パターン2:中堅で同期がいなくなった(経験3〜7年目)
最も転職市場で需要が高い層です。「辞めなくても続けられる選択肢」と「他の職場で得られる条件」を比較する余裕があります。求人票を1〜2件見るだけで決めず、3〜5件の比較、給与モデルの確認、見学・面接での確認を重ねます。
パターン3:ライフイベント(結婚・出産・育児・介護)と両立できない
時短勤務、夜勤免除、育児休業、介護休業の制度が現職にあるか、実際に取得した先輩がいるかを確認します。制度はあっても使えない職場、制度がない職場、制度はないが個別対応可能な職場で、判断は変わります。
パターン4:管理職としての行き詰まり(経験10年以上)
主任・師長・看護部長へのキャリアラダーが明確か、現職で昇進機会があるか、外部研修・大学院進学の補助があるかを確認します。管理職層は離職市場で需要が落ちる年齢層でもあり、転職タイミングを慎重に選ぶ必要があります。
パターン5:給与・労働条件への不満が決定的
ベースアップ評価料・賃上げ支援事業の活用状況、賞与算定基礎、夜勤手当の単価が他院と比較して劣っている場合、転職で改善する可能性は高いです。ただし、給与だけで決めると、人員体制・教育体制・職場の雰囲気を見落とすリスクがあるため、3軸(給与・体制・人間関係)で比較します。
どのパターンに該当するかが分かれば、すぐに辞める必要があるのか、職場で確認すべきことがあるのか、転職活動を始めるべきかが見えやすくなります。
転職で解決しやすいこと・しにくいこと
「離職率が高いから転職する」「辞めれば楽になる」と考える前に、転職で実際に何が変わって、何が変わらないかを整理しておく必要があります。
転職で解決しやすいこと
- 物理的な勤務地・通勤時間(近い職場へ移ることで通勤負担は確実に減る)
- 基本給テーブルと給与モデルの透明性(公開している職場を選べばよい)
- 夜勤回数の上限(夜勤少なめ・なしの職場へ移ることで明確に変わる)
- 病棟の機能(急性期・回復期・慢性期・在宅で求められる役割は明確に違う)
- 看護師1人あたりの患者数(人員配置基準が明文化されている職場を選べる)
- 教育体制(プリセプター制度・ラダー・外部研修補助の有無は事前に確認できる)
転職で解決しにくいこと
- 看護師という職業全体の特性(夜勤・命に関わる責任・精神的負担は職場が変わっても残る)
- 人間関係(次の職場でも新しい人間関係を一から構築する必要がある)
- 自分自身の働き方の癖(残業を抱え込みやすい、断れない、抱え込んで体調を崩しやすい等)
- ライフイベントとの両立(制度はあっても使う側の意思決定が必要)
- 管理職・ベテランとの相性(どの職場にも合わない人は一定数いる)
転職で解決しやすいことを目的に動けば、転職は手段として機能します。しかし、転職で解決しにくいことを目的にすると、転職先で同じ悩みを繰り返すことになります。自分の悩みがどちらの分類に入るかを、辞める前に整理する時間が大切です。
看護師離職率を読む時の落とし穴
ニュースサイトや転職サイトで「看護師離職率」を検索すると、出典が違う数字が並びます。読み比べる時の注意点を整理しておきます。
注意1:出典の年度を確認する
「看護師離職率11.0%」という数字は2024年度(2025年調査)のもの、「11.3%」は2023年度(2024年調査)のもの、「11.8%」は2022年度のもの、というように、毎年公表され微減しています。記事中の数字が何年度の調査かを確認しないと、最新情勢を読み違えます。
注意2:「正規雇用」「新卒」「既卒」「全体」を区別する
「離職率」と一言で書かれていても、正規雇用全体、新卒、既卒で意味が違います。新卒8.4%と既卒16.1%を平均して「離職率12%」と書く媒体もありますが、本来は別々に見るべき指標です。
注意3:全産業との比較は意味が薄い
「全産業の平均が14〜15%だから看護師の11.0%は低い」という比較は、業種の特性が違いすぎて参考になりません。看護師として転職を考える時の比較対象は、地域・規模・設置主体が近い病院群の平均です。
注意4:個別事例の引用に注意
「3年以内離職率80%が20%に改善した病院がある」といった事例は実在しますが、それは特定の病院の取り組みであり、業界全体の平均ではありません。個別事例は「こういう取り組みが効く」というヒントとして読み、業界平均と混同しないようにします。
注意5:転職サイトの数字には期待値が混ざる
転職紹介サービスが公表する離職率や定着率は、自社が紹介した求人の実績であり、必ずしも業界平均ではありません。判断材料の一つにはなりますが、一次情報(日本看護協会・厚生労働省)と並べて読むことが大切です。
誰にも言えない離職の悩みは、まずカンゴさんに話してみる
「同期がまた辞めた」「自分も辞めた方がいいのか」という悩みは、職場では同僚に話しづらく、家族に話すと「我慢しなさい」「もったいない」と返されがちです。看護学校時代の友人と話しても、立場や勤務先が違うとアドバイスが噛み合わないこともあります。
「うちの病棟は離職が多すぎる気がする」「同期が3人辞めて、次は自分かもしれない」「上司に相談したいけど、評価に響くのが怖い」。こうした声は、はたらく看護師さんで提供しているカンゴさんに匿名で相談できます。
カンゴさんは、看護師さん専用の相談相手です。職場の人間関係、夜勤の負担、給料への不満、結婚・育児・介護との両立など、誰にも言えない本音を話せます。離職の悩みを整理してからでないと、転職を考えるにも判断がぶれます。まずは話して整理する場所として使ってください。
求人を見比べるなら、離職率と定着率を聞ける紹介会社を選ぶ
転職を視野に入れる場合、求人票だけで判断するのは危険です。月給・年収だけが大きく見えても、配属先病棟の離職率、過去3年の新人定着率、夜勤回数の実態が見えない求人は、入職後にミスマッチが起きやすくなります。
レバウェル看護のような看護師専門の転職紹介サービスでは、求人票の月給・年収だけでなく、配属先病棟の離職率、新人・既卒の定着率、夜勤回数、超過勤務時間、有給休暇取得率、産休復帰後の働き方まで、職場に確認して教えてもらえます。離職率の低い職場を選ぶことで、転職後の継続勤務の可能性が大きく変わります。
転職をするかどうかの判断は焦らず、まずは「今の職場の数字」と「他の職場の数字」を比較する材料を集めることから始めてください。
まとめ
日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」では、2024年度の看護師離職率は正規雇用11.0%、新卒8.4%、既卒16.1%と、いずれも前年度より低下傾向です。ただし、
- 地域別では大阪・奈良14.1%から山形7.1%まで約2倍の差
- 病床規模別では99床以下13.1%から500床以上10.0%まで段階的な差
- 設置主体別では医療法人14.4%から会社(企業立)7.3%まで約2倍の差
- 新卒・既卒では16.1%対8.4%と入職タイミングで大きな差
があり、全国平均だけでは自分の職場を判断できません。
「離職率が高そうだから辞める」ではなく、自分の地域・規模・設置主体・部署の平均と、今の職場を比較し、5項目(離職率の推移/有給取得率と超過勤務/教育体制/夜勤とシフト/給与の透明性)を確認することが、判断の出発点になります。
転職で解決しやすいことと解決しにくいことを分け、自分の悩みがどちらに分類されるかを整理してから動くことで、転職先で同じ悩みを繰り返すリスクを下げられます。
まずは、自分の病棟の正規雇用看護師離職率と、前年・前々年の推移を、看護部または人事に確認してみてください。 その数字と地域平均・規模平均を比較するだけで、自分の職場の立ち位置が大きく見えてきます。
よくある質問
看護師の離職率は本当に下がっているのですか?
はい、日本看護協会の調査では2022年度11.8%、2023年度11.3%、2024年度11.0%と微減傾向にあります。ただし、これは病院全体の平均で、地域・規模・設置主体・部署によって動きは違います。自分の職場が同じ傾向で下がっているかは、看護部に確認する必要があります。
自分の職場の離職率は誰に聞けばいいですか?
直属の主任・師長、看護部長、人事・労務担当のいずれかに確認するのが現実的です。労働組合がある場合は組合経由でも確認できます。聞ける環境がない、または回答が曖昧な職場は、それ自体が透明性の課題を抱えている可能性があります。
離職率が高い病棟と低い病棟、同じ病院でも差はありますか?
はい、同じ病院でも病棟・部署で離職率は大きく違います。急性期・救急・ICU・小児科は身体的・精神的負担が大きく離職率が高めに、外来・健診センター・回復期は低めに出る傾向があります。病院全体の平均だけ見るのではなく、自分の所属部署の数字を確認することが大切です。
新卒で1年以内に辞めるのは「弱い」のですか?
いいえ。日本看護協会の調査では、新卒離職の理由として精神的疾患52.5%、適性への不安47.4%、実践能力への不安41.6%が上位を占めており、現場の負担と新人の心身のキャパシティのギャップが主因と分析されています(Source: 日本看護協会「2024年 病院看護実態調査」報告書 No.101)。個人の能力の問題ではなく、入職前の想定と現場のギャップ、教育体制、メンタルヘルス対応の不足が背景にあります。
既卒で転職したのに1年で辞めたくなりました。続けるべきですか?
既卒採用看護師の離職率16.1%は、6人に1人が1年以内に辞めている数字です。同じ悩みを抱えるのは珍しくありません。続けるべきか辞めるべきかは、転職時の動機が満たされているか、職場で改善の見通しが立つか、次に動くなら何を変えるかの3点で判断します。すぐに動かず、看護師向けの相談窓口で整理してから次の選択肢を検討するのが現実的です。
訪問看護ステーションは病院より離職率が高いと聞きました。本当ですか?
地域や事業所規模によりますが、訪問看護ステーションの離職率が病院より高めに出る調査結果は複数あります(神奈川県の看護職員実態調査では、訪問看護17.7%対病院13.3%等)。背景には単独訪問の責任、オンコール対応、ステーション規模が小さい場合の人員配置の薄さがあります。事業所ごとの差が大きいため、5名以上配置の事業所、夜間オンコール体制が明文化された事業所を選ぶことで離職リスクは下げられます。
産休・育休復帰後の離職率が高い理由は何ですか?
復帰後に夜勤強要、時短勤務不可、子の急病による早退に対する周囲の理解不足、保育園送迎との両立困難が主因として指摘されています。離職を防ぐには、復帰前面談での勤務調整、時短勤務制度の利用、夜勤免除制度の確認、院内保育所・病児保育の活用が現実的な選択肢になります。
公立病院は本当に離職率が低いのですか?
日本看護協会の調査では、公立病院・国立病院機構・日本赤十字社は離職率が9%前後と低めに出ています。背景には公務員またはそれに準じた身分保障、退職金制度、育児休業・介護休業の取得しやすさ、研修体制の充実があります。ただし、病棟ごとの差は公立でも大きく、配属先によっては平均より高いこともあります。
大都市の方が離職率が高いのは、どうしてですか?
求人倍率が高く転職の選択肢が多いこと、生活費が高く可処分所得ベースの満足度が地方より低くなりやすいこと、複数の基幹病院が密集しているため転職ハードルが低いこと、通勤時間が長くなりやすいことが背景として指摘されています。大阪・奈良・神奈川・東京・千葉が上位に並ぶのはこの構造を反映しています。
辞める前に絶対に確認した方がいいことは何ですか?
5項目です。(1)自分の病棟の離職率と前年比、(2)有給休暇取得率と超過勤務時間、(3)教育体制と相談ルートの実態、(4)夜勤回数とシフト調整の柔軟性、(5)給与の透明性と昇給実績。これらが曖昧なまま辞めると、次の職場で同じ悩みを繰り返すリスクが高まります。
参考資料