医療の高度化と医師の働き方改革により、看護師の診療補助業務はますます重要性を増しています。
本記事では、看護師が行える診療補助業務の範囲と法的根拠を解説し、安全かつ効果的な実践方法を紹介します。
責任範囲や記録管理のポイント、特定行為研修制度の最新情報も網羅しています。
実践に役立つQ&Aや事例集を通して、自信を持って診療補助業務に取り組むための知識と技術を身につけましょう
この記事で分かること
- 看護師が行う診療補助業務の具体的な範囲と内容
- 診療補助業務を行う際の法的根拠と責任範囲
- 診療科別・場所別の特徴的な診療補助業務の実践方法
- 診療補助業務の適切な記録方法と管理のポイント
- 特定行為研修制度の概要と活用方法
- 診療補助業務における最新のトレンドと今後の展望
この記事を読んでほしい人
- 診療補助業務の範囲や法的根拠を明確に理解したい看護師
- 臨床現場で診療補助業務を安全に実践するためのポイントを学びたい看護師
- 記録管理の重要性と適切な方法を知りたい看護師
- 特定行為研修制度について理解し、キャリアアップを考えている看護師
- 診療補助業務に関する疑問や不安を解消したい新人・中堅看護師
- 看護師のタスクシフト/シェアについて最新情報を得たい管理職の看護師
業務範囲

看護師の診療補助業務は、医師または歯科医師の指示のもとで行われる医療行為を指します。
保健師助産師看護師法(保助看法)第5条に基づき、看護師の重要な役割の一つとして位置づけられています。
ここでは、診療補助業務の基本的な範囲から、診療科別の特徴、場所による違い、そして最新の業務拡大動向までを詳細に解説します。
基本的業務範囲
診療補助業務の基本的範囲は多岐にわたります。
主なものとしては、注射や点滴の実施・管理、採血、各種検査の介助・実施、薬剤の投与・管理、医療機器の操作・管理、創傷処置、カテーテル挿入・管理、人工呼吸器の管理などが挙げられます。
注射・点滴関連
注射・点滴関連の業務には、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、点滴静脈内注射などがあります。
これらは薬剤の種類、投与量、投与速度、投与経路などを厳密に確認し、無菌操作を遵守して実施する必要があります。
特に、抗がん剤や血液製剤などの特殊な薬剤の投与には、専門的な知識と技術が求められます。
静脈内注射では、血管確保の技術だけでなく、血管外漏出のリスク評価や対応策についても熟知しておく必要があります。
また、薬剤の配合変化や相互作用についても理解したうえで実施することが重要です。
検査関連
検査関連の業務には、血液検査のための採血、尿検査、便検査、心電図検査、呼吸機能検査、各種生体検査の介助などがあります。
それぞれの検査の目的や方法を理解し、患者に適切な説明と準備を行うことが求められます。
採血業務では、静脈穿刺の技術だけでなく、検体の取り扱いや保存方法、検査項目による採血管の選択なども重要な知識となります。
また、採血による神経損傷や血腫形成などの合併症への対応も熟知しておく必要があります。
処置関連
処置関連の業務には、創傷処置、ドレーン管理、気管内吸引、胃管や経鼻チューブの挿入・管理、導尿やカテーテル管理などがあります。
これらの処置は患者の状態や処置の目的に応じて適切な方法で実施する必要があります。
創傷処置では、創の観察とアセスメント、適切な洗浄方法の選択、ドレッシング材の選定などが重要です。
また、褥瘡予防や管理も重要な業務の一つであり、リスクアセスメントとケアプランの立案が求められます。
医療機器の操作・管理
医療機器の操作・管理には、人工呼吸器、輸液ポンプ、シリンジポンプ、心電図モニター、除細動器、PCPS(経皮的心肺補助装置)、CHDF(持続的血液濾過透析)などの操作と管理があります。
これらの機器の原理や使用方法を理解し、安全に操作できることが求められます。
人工呼吸器管理では、設定値の確認と記録、アラーム対応、回路の管理、加温加湿器の管理、気道分泌物の吸引など、多岐にわたる業務が含まれます。
また、人工呼吸器関連肺炎(VAP)予防のための口腔ケアや体位管理も重要な役割です。
診療科別特徴的業務
診療科によって特徴的な診療補助業務があります。ここでは主な診療科別の特徴的な業務について解説します。
内科系診療科
内科系診療科では、様々な検査や処置が行われます。
消化器内科では内視鏡検査の介助や前処置、循環器内科では心電図検査やホルター心電図の装着、呼吸器内科では呼吸機能検査や気管支鏡検査の介助などが特徴的です。
また、内分泌・代謝内科では糖負荷試験や各種ホルモン負荷試験の実施、腎臓内科では透析関連の業務、血液内科では骨髄穿刺の介助や輸血管理などが重要な業務となります。
特に、血液内科では免疫不全状態の患者が多いため、感染予防に配慮した診療補助業務が求められます。
外科系診療科
外科系診療科では、手術前後の管理や創傷処置、ドレーン管理などが特徴的です。
手術前には術前処置や投薬、手術後には創部管理、ドレーン管理、疼痛管理などの業務があります。
消化器外科では消化管ドレナージの管理や経腸栄養の管理、整形外科では牽引装置の管理や装具の装着指導、脳神経外科では意識レベルの評価や脳室ドレナージの管理などが特徴的です。
また、形成外科では創傷被覆材の選択や使用方法、皮弁の観察などの専門的知識が求められます。
小児科・産婦人科
小児科では、年齢や体格に応じた薬剤投与量の計算や投与方法の工夫、発達段階に応じた対応などが重要です。
また、予防接種の実施や成長発達の評価なども特徴的な業務です。
産婦人科では、妊婦健診の補助、分娩時の補助、新生児の管理、産褥期のケアなどがあります。
産科では胎児心拍モニタリングの装着と評価、子宮収縮の観察などが、婦人科では膣鏡診や子宮頸部細胞診の介助などが特徴的です。
救急・集中治療
救急・集中治療領域では、緊急性の高い処置や検査の介助、生命維持管理装置の操作・管理などが特徴的です。
気管挿管の介助、中心静脈カテーテル挿入の介助、動脈ライン確保の介助、除細動器の準備と操作などが含まれます。
また、急変時の対応やトリアージ、災害時の医療対応なども救急領域の重要な業務です。
集中治療領域では、人工呼吸器管理、血行動態モニタリング、CHDF(持続的血液濾過透析)などの特殊な治療の管理も行います。
場所・病期による違い
診療補助業務は、医療が提供される場所や患者の病期によっても異なります。
ここでは、場所や病期による診療補助業務の違いについて解説します。
病院(急性期・慢性期・回復期)
急性期病院では、緊急性の高い処置や検査、高度な医療機器の管理などが中心となります。
救急搬送患者の初期対応、手術前後の管理、集中治療室での管理などが特徴的です。
また、病状の急激な変化に対する迅速な対応が求められます。
慢性期病院では、長期的な治療計画に基づいた管理が中心となります。
慢性疾患の管理、リハビリテーションの補助、日常生活動作の向上に向けた支援などが特徴的です。
また、患者の状態変化を長期的に観察し、わずかな変化も見逃さない注意力が求められます。
回復期病院では、リハビリテーションの推進と日常生活への復帰に向けた支援が中心となります。
ADL(日常生活動作)の評価と支援、自宅退院に向けた環境調整、家族指導などが特徴的です。
また、他職種との連携がより重要となります。
診療所・クリニック
診療所やクリニックでは、外来診療の補助が中心となります。
診療の準備、検査の実施、処方薬の説明、予防接種の実施などが特徴的です。
また、地域に密着した健康管理や予防医療の提供も重要な役割です。
診療所では、医師が不在時の適切な判断と対応も求められることがあります。
また、少人数のスタッフで多岐にわたる業務を担当するため、幅広い知識と技術が必要です。
地域の特性や患者層を理解し、それに応じた診療補助を行うことも重要です。
在宅医療
在宅医療では、患者宅での診療補助が中心となります。
訪問診療の同行、医師の指示に基づく処置や検査、医療機器の管理指導などが特徴的です。
また、生活環境を考慮した医療提供や、家族への指導・支援も重要な役割です。
在宅での診療補助は、医療機関とは異なる環境下で行われるため、環境に応じた工夫や、限られた資源での対応が求められます。
また、医師との連携が時間的・空間的に制限されることもあるため、自律的な判断と行動が求められることもあります。
最新の業務拡大動向
医療の高度化や医師の働き方改革に伴い、看護師の診療補助業務の範囲は拡大傾向にあります。
ここでは、最新の業務拡大動向について解説します。
タスク・シフト/シェアの推進
医師の働き方改革の一環として、タスク・シフト/シェアが推進されています。これにより、従来は医師が行っていた業務の一部が看護師に移行されています。
例えば、静脈路確保、尿道カテーテル留置、直腸内投薬などが看護師の業務として明確化されています。
また、2024年4月からは、医師の働き方改革の本格施行に伴い、さらなるタスク・シフト/シェアが進められています。
これにより、看護師の診療補助業務の範囲はさらに拡大することが見込まれています。
特定行為研修制度の拡充
2015年に開始された特定行為研修制度も拡充されています。
特定行為区分の見直しや、研修方法の多様化などが進められています。
また、パッケージ化された研修プログラムの導入により、特定の領域に特化した研修も可能になっています。
2019年には「急性期パッケージ」や「在宅・慢性期パッケージ」などが新設され、2020年には「外科術後パッケージ」なども追加されています。
これにより、看護師がより専門的な診療補助業務を担える環境が整備されています。
法的根拠

看護師の診療補助業務を行ううえで、その法的根拠を理解することは極めて重要です。
ここでは、診療補助業務に関連する法律や解釈、判例、そして海外との比較について詳細に解説します。
保健師助産師看護師法詳細解説
保健師助産師看護師法(保助看法)は、看護師の業務範囲を定める最も基本的な法律です。
ここでは、保助看法における診療補助業務に関する条文とその解釈について詳細に解説します。
第5条(看護師の定義)
保助看法第5条では、「看護師とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくは女性に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう」と定められています。
この条文から、看護師の業務は「療養上の世話」と「診療の補助」の2つに大別されることがわかります。
「診療の補助」とは、医師または歯科医師の診療行為の一部を補助する行為を指します。
この「診療の補助」という概念は、医療の発展とともに解釈が変化してきており、現在では医師の指示のもとで行う医療行為全般を含むと解釈されています。
第37条(医師等の指示)
保助看法第37条では、「保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があった場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない」と定められています。
この条文から、看護師が診療補助業務を行うためには、医師または歯科医師の指示が必要であることがわかります。
この「指示」には、直接的な指示と間接的な指示があり、具体的な指示だけでなく、プロトコルに基づく包括的な指示も含まれると解釈されています。
また、「衛生上危害を生ずるおそれのある行為」とは何かについては、具体的な列挙はなく、その時代の医学・医療の水準によって判断されるべきものとされています。
第38条(名称の使用制限)
保助看法第38条では、看護師の名称使用の制限が定められています。
無資格者が看護師の名称を使用することは禁止されており、違反した場合には罰則が設けられています。
これは、看護師の資格と業務の専門性を保護するための規定です。
罰則規定
保助看法には罰則規定も設けられており、無資格での業務実施や名称使用に対する罰則が定められています。
第44条では、無資格で看護師の業務を行った者に対して、3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、またはこれらの併科が科せられることが規定されています。
関連法規と解釈
診療補助業務に関連する法律は保助看法だけではありません。
ここでは、医師法、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)などの関連法規と、その解釈について解説します。
医師法
医師法第17条では、「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定められています。
この「医業」とは何かについては具体的な定義はありませんが、一般的には「医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼすおそれのある行為」と解釈されています。
看護師が行う診療補助業務は、医師の指示のもとで行われる限りにおいて、医師法に抵触しないと解釈されています。
ただし、医師の指示なく独自の判断で医療行為を行った場合には、医師法違反となる可能性があります。
薬機法(旧薬事法)
薬機法では、医薬品や医療機器の取り扱いに関する規定が設けられています。
看護師が行う注射や投薬などの診療補助業務は、医師の指示のもとで行われる限りにおいて、薬機法に抵触しないと解釈されています。
特に、薬機法第24条では、「薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で調剤してはならない」と定められていますが、看護師が医師の指示のもとで行う調剤行為は、この条文に抵触しないと解釈されています。
医療法
医療法では、医療提供体制に関する規定が設けられています。
特に、医療法第15条では、「病院又は診療所の開設者は、その病院又は診療所に勤務する医師、歯科医師、看護師その他の従業者を、その医療又は歯科医療に必要な知識及び技能に関する研修に参加させるように努めなければならない」と定められています。
この条文から、看護師を含む医療従事者の研修参加が推奨されていることがわかります。
この「研修」には、診療補助業務に関する知識と技能の習得も含まれると解釈されています。
その他の関連法規
その他にも、感染症法、臓器移植法、終末期医療の決定プロセスに関するガイドラインなど、様々な法規やガイドラインが診療補助業務に関連しています。
これらの法規やガイドラインを理解し、遵守することも、看護師の重要な責務です。
判例・裁判例
診療補助業務に関連する判例や裁判例も少なくありません。
ここでは、診療補助業務に関連する主な判例・裁判例とその解釈について解説します。
診療補助業務の範囲に関する判例
診療補助業務の範囲については、いくつかの重要な判例があります。
例えば、看護師が医師の明示的な指示なく行った静脈注射が問題となった事例では、「静脈注射は看護師が行うことのできる診療補助業務の範囲内である」との判断が示されました(最高裁平成8年1月23日判決)。
この判決以降、厚生労働省は2002年(平成14年)に「静脈注射は診療の補助行為の範疇である」との通知を出し、看護師の業務範囲が明確化されました。
この判例は、看護師の診療補助業務の範囲拡大に大きな影響を与えました。
医師の指示に関する判例
医師の指示の解釈についても、いくつかの重要な判例があります。
例えば、看護師が医師の包括的指示のもとで行った投薬が問題となった事例では、「医師の包括的指示であっても、その内容が明確であり、看護師が適切に判断できる範囲内であれば、有効な指示である」との判断が示されました。
この判決からは、医師の指示には直接的・具体的な指示だけでなく、一定の条件下での包括的・一般的な指示も含まれることが分かります。
ただし、包括的指示の場合は、その内容の明確性や看護師の判断能力などが重要な要素となります。
過失責任に関する判例
診療補助業務における過失責任についても、多くの判例があります。
例えば、看護師の注射ミスによる医療事故が問題となった事例では、「看護師には、医師の指示の適切性を確認する義務がある」との判断が示されました。
この判決からは、看護師は単に医師の指示に従うだけではなく、その指示内容の適切性を確認し、疑問がある場合には確認する義務があることがわかります。
これは、看護師が医療チームの一員として、患者の安全を守る役割を担っていることを示しています。
海外との比較
診療補助業務の法的根拠は国によって異なります。ここでは、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの主要国における看護師の診療補助業務の法的根拠について比較解説します。
アメリカの場合
アメリカでは、看護師の業務範囲は州ごとに定められています。
各州には看護師免許法(Nurse Practice Act)があり、Registered Nurse(RN)の業務範囲が規定されています。
また、Advanced Practice Registered Nurse(APRN)という上級実践看護師の制度があり、一定の条件を満たせば、処方権や独立した診療権を持つことができます。
特に、Nurse Practitioner(NP)は、多くの州で一定の範囲内での診断や処方が認められており、プライマリケアの提供者として重要な役割を担っています。
この制度は、医師不足の解消や医療アクセスの向上を目的としています。
イギリスの場合
イギリスでは、看護・助産師評議会(Nursing and Midwifery Council: NMC)が看護師の業務範囲を規定しています。
従来の看護師に加えて、上級実践看護師(Advanced Nurse Practitioner: ANP)という制度があり、一定の研修を受けることで、より高度な診療補助業務を行うことができます。
また、非医療処方者(Non-medical Prescriber)という制度もあり、一定の研修を受けた看護師は処方権を持つことができます。
これにより、看護師が医師の処方なしに一定の範囲内で薬剤を処方できるようになり、医療サービスの効率化が図られています。
フランスの場合
フランスでは、看護師の業務範囲は保健医療法典(Code de la santé publique)で規定されています。
診療補助業務は医師の処方箋(Prescription médicale)に基づいて行われることが原則ですが、一部の行為については看護師の独自の判断で実施できるプロトコルが定められています。
また、2018年からは、看護実践の上級化(Pratique avancée)が法制化され、上級実践看護師(Infirmier en pratique avancée: IPA)という新たな職種が創設されました。
IPAは、慢性疾患の管理や健康教育など、より高度な業務を担うことができます。
ドイツの場合
ドイツでは、看護師の業務範囲は看護法(Pflegeberufegesetz)で規定されています。
診療補助業務は医師の指示に基づいて行われることが原則ですが、一部の行為については看護師の独自の判断で実施できる範囲が定められています。
また、2020年からは、看護師の専門性を高めるための専門看護師(Pflegefachkraft mit Fachweiterbildung)の制度が拡充されています。
これにより、特定の分野において、より高度な診療補助業務を担うことができるようになっています。
実践方法

診療補助業務を実践するうえでの基本原則、主要な診療補助行為の実践手順、事例検討、そしてトラブル対応について詳細に解説します。
実践方法を正しく理解し、安全かつ効果的に診療補助業務を行うための具体的な指針を提供します。
基本原則と共通事項
診療補助業務を実践するうえでの基本原則と、すべての診療補助行為に共通する事項について解説します。
医師の指示確認の原則
診療補助業務は、医師または歯科医師の指示に基づいて行われることが大原則です。
指示の確認方法には、口頭指示、書面指示、電子カルテでの指示、プロトコルに基づく指示などがあります。
口頭指示を受ける場合は、指示内容を復唱して確認し、できるだけ早く記録に残すことが重要です。
特に、緊急時の口頭指示は、後で書面化することが推奨されています。
書面指示や電子カルテでの指示の場合は、指示内容の確認だけでなく、指示の有効期限や条件も確認することが重要です。
また、指示内容に疑問や不明点がある場合は、必ず医師に確認することが求められます。
看護師には「疑義照会義務」があり、明らかに不適切な指示や危険な指示については、医師に再確認する義務があります。
患者確認の原則
すべての診療補助行為を行う前に、患者の確認を行うことは最も基本的かつ重要な原則です。
患者確認の方法には、患者にフルネームを名乗ってもらう方法、リストバンドの確認、写真付き ID の確認などがあります。
患者確認は、少なくとも2つ以上の独立した識別情報(氏名、生年月日、ID番号など)を用いて行うことが推奨されています。
また、患者が意識不明や認知症などの場合は、家族や他のスタッフによる確認も重要です。
インフォームドコンセントの原則
診療補助行為を行う前に、患者に対して実施する内容、目的、予想される効果や副作用などを説明し、同意を得ることが重要です。
看護師は医師による説明の補足や、患者の理解度の確認を行う役割も担っています。
特に侵襲性の高い処置や、薬剤投与の場合は、患者の不安や疑問に丁寧に対応することが求められます。
また、患者の自己決定権を尊重し、同意を拒否する権利があることも伝えることが重要です。
患者が十分な情報を得た上で意思決定できるよう支援することは、看護師の重要な役割の一つです。
安全管理の原則
診療補助業務を行う際には、常に安全管理を最優先することが求められます。
安全管理の基本として、手指衛生の徹底、適切な個人防護具の使用、無菌操作の遵守などがあります。
また、「指さし声出し確認」や「ダブルチェック」など、ヒューマンエラーを防止するための工夫も重要です。
特に、薬剤投与や輸血などのハイリスク行為では、複数人での確認が推奨されています。
環境整備や適切な照明、必要物品の事前準備なども、安全な診療補助業務のために重要な要素です。
主要診療補助行為の実践手順
主要な診療補助行為について、その実践手順と注意点を詳細に解説します。
各行為の目的、必要物品、実施手順、観察ポイント、記録のポイントなどを具体的に説明します。
注射・点滴の実施手順
注射・点滴は最も一般的な診療補助行為の一つです。
安全に実施するためには、以下の手順と注意点を理解することが重要です。
まず実施前には、医師の指示内容(薬剤名、用量、投与経路、投与速度など)を確認します。
患者の薬剤アレルギーの有無や、禁忌事項も必ず確認します。
薬剤の準備段階では、ダブルチェックを行い、「5つのRight(Right Patient、Right Drug、Right Dose、Right Route、Right Time)」を確認します。
皮下注射の場合は、腹部や上腕外側など皮下組織が多い部位を選択し、45度の角度で注射針を刺入します。
筋肉内注射の場合は、三角筋や大腿外側部など筋肉量が多く神経や血管の走行が少ない部位を選択し、90度の角度で注射針を刺入します。
静脈内注射の場合は、適切な静脈を選択し、駆血帯を用いて血管を怒張させます。
穿刺は、15-30度の角度で行い、血液の逆流を確認してから薬液を注入します。
点滴静脈内注射の場合は、輸液セットの接続、滴下速度の調整、固定方法などにも注意が必要です。
実施後は、刺入部の出血や腫脹、疼痛などの有無を確認し、副作用や合併症の早期発見に努めます。
また、実施内容、時間、患者の反応などを詳細に記録します。
採血の実践手順
採血は、患者の状態評価や診断のために重要な診療補助行為です。
安全かつ正確に実施するためには、以下の手順と注意点を理解することが重要です。
まず実施前には、医師の指示内容(検査項目、採取量など)を確認します。
検査項目に応じた採血管の選択も重要です。患者の既往歴や、血管の状態も事前に確認します。
採血の際は、適切な静脈を選択し、駆血帯を用いて血管を怒張させます。
穿刺部位の消毒を十分に行い、15-30度の角度で穿刺します。
血液の逆流を確認したら、採血管を接続し、必要量を採取します。
採血管への採取順序も重要で、一般的には「無菌検査用」「凝固系検査用」「生化学検査用」の順番で採取します。
採血後は、穿刺部位を圧迫止血し、出血や腫脹がないことを確認します。
採取した検体には、患者名、ID、採取日時などを明記したラベルを貼付し、検査部門への適切な提出方法にも注意します。
検体の取り扱いや保存方法も、検査の信頼性に影響するため重要です。
創傷処置の実践手順
創傷処置は、創傷の治癒を促進し、感染を予防するための重要な診療補助行為です。
創傷の種類や状態に応じた適切な処置を実施することが求められます。
まず処置前には、医師の指示内容(洗浄方法、消毒薬、被覆材など)を確認します。
患者の全身状態や、創傷部位の状態も事前に評価します。
処置の際は、無菌操作を徹底し、手袋やガウンなどの個人防護具を適切に使用します。
創傷の洗浄は、生理食塩水や洗浄剤を用いて、創部中心から外側に向かって行います。
消毒が必要な場合は、創部の状態に適した消毒薬を選択します。
被覆材の選択も重要で、創傷の深さ、浸出液の量、感染の有無などを考慮します。
湿潤環境を維持することで治癒を促進する湿潤療法の考え方も広く取り入れられています。
処置後は、創部の状態(大きさ、深さ、色調、浸出液、臭気など)を詳細に観察し、記録します。
また、次回の処置予定や、患者への自宅でのケア指導も重要です。
人工呼吸器管理の実践手順
人工呼吸器管理は、呼吸機能が低下した患者の生命維持に不可欠な診療補助行為です。
適切な管理と観察を行うことで、合併症を予防し、患者の安全を確保します。
まず人工呼吸器の設定値(換気モード、一回換気量、呼吸回数、PEEP、FiO2など)を確認し、医師の指示通りに設定されているかを確認します。
患者と人工呼吸器の同調性も重要な観察ポイントです。
定期的に、気道内圧、換気量、呼吸回数、SpO2、EtCO2などをモニタリングし、異常値の早期発見に努めます。
また、人工呼吸器関連肺炎(VAP)予防のため、ベッド頭側挙上(30-45度)の維持、口腔ケアの実施、気管チューブのカフ圧管理などを行います。
気管吸引も重要な技術で、無菌操作を徹底し、適切な吸引圧と時間で実施します。
吸引前後の酸素化や、患者の状態変化にも注意が必要です。
また、人工呼吸器のアラーム設定と対応方法を理解し、緊急時に適切に対応できるようにしておくことも重要です。
アラームが鳴った場合は、原因を特定し、適切な対応を行います。
事例検討と解説
実際の事例を通して、診療補助業務の実践上の課題や解決策を検討します。
様々な状況での判断や対応のポイントを事例をもとに解説します。
事例1:静脈注射におけるトラブル対応
70歳女性、糖尿病、高血圧で入院中の患者に対して、医師の指示で抗生剤の点滴静脈内注射を実施することになりました。
しかし、静脈確保が困難で、何度試みても成功しません。このような場合の対応について検討します。
まず、静脈確保が困難な原因を特定することが重要です。
脱水、肥満、血管の脆弱性、過去の採血や点滴による血管損傷などが考えられます。
また、血管の走行が見えにくい場合は、静脈可視化装置(静脈ファインダー)を使用することも検討します。
穿刺部位の選択も重要で、上肢の末梢から中枢に向かって順番に試みる、または反対側の腕を試すなどの工夫が必要です。
また、温罨法を用いて血管を拡張させることも有効です。
2回以上穿刺を試みても成功しない場合は、無理に続けるのではなく、他の看護師に交代することも重要です。
また、静脈確保が極めて困難な場合は、医師に報告し、中心静脈カテーテルや骨髄内輸液などの代替手段を検討することも必要です。
この事例からは、技術的な工夫だけでなく、患者の不安や苦痛に配慮した対応や、チーム医療としての連携の重要性も学ぶことができます。
事例2:急変時の対応と診療補助
80歳男性、心不全で入院中の患者が突然の意識レベル低下と呼吸困難を呈した場合の対応と診療補助について検討します。
まず、患者の状態評価(意識レベル、呼吸状態、循環動態など)を迅速に行い、医師に報告します。
必要に応じてコードブルー(院内救急コール)を発動し、応援を要請します。
急変時の診療補助としては、バイタルサインの測定、モニター装着、静脈路確保、酸素投与、心肺蘇生の補助などがあります。
医師の指示に基づき、薬剤投与や気管挿管の介助なども行います。
特に重要なのは、チームとしての連携です。
医師の指示を明確に理解し、必要な物品や薬剤を迅速に準備します。
また、他のスタッフとの役割分担を明確にし、効率的な対応を心がけます。
急変時は緊張と焦りがありますが、冷静に対応することが重要です。
日頃からの急変時シミュレーションや、救急対応のトレーニングが役立ちます。
また、急変後の振り返りも重要で、対応の評価と改善点の抽出を行います。
これにより、次回の急変時により良い対応ができるようになります。
事例3:特定行為実施のプロセス
特定行為研修を修了した看護師が、人工呼吸器装着中の患者に対して、気管カニューレの交換を行う際のプロセスについて検討します。
まず、医師との包括的指示のもと、患者の状態評価(呼吸状態、循環動態、全身状態など)を行います。
特定行為実施の適応条件(例:定期交換の時期、カニューレの汚染や閉塞がある場合など)を確認します。
実施前には、患者や家族への説明と同意取得を行います。
また、必要物品の準備と、緊急時の対応策(例:医師の待機、代替カニューレの準備など)を検討します。
実施時には、手順書に従って、無菌操作を徹底して行います。
特に、低酸素血症や気管損傷などの合併症に注意が必要です。
実施後は、患者の状態観察(呼吸状態、出血の有無、新カニューレの位置など)を十分に行います。
実施内容や患者の反応は詳細に記録し、医師への報告も忘れずに行います。
また、自身の実施技術や判断についての振り返りも重要です。
この事例からは、特定行為実施における患者評価の重要性、医師との連携、手順書の遵守、合併症予防と対応、記録と報告の重要性などを学ぶことができます。
トラブル対応
診療補助業務における主なトラブルと、その対応方法について解説します。
予防策からトラブル発生時の初期対応、報告・記録の方法までを詳細に説明します。
医療事故・インシデント発生時の対応
診療補助業務中に医療事故やインシデントが発生した場合、迅速かつ適切な対応が求められます。
対応の基本は「患者の安全確保」「医師への報告」「記録」「再発防止策の検討」です。
まず、患者の状態を確認し、必要な応急処置を行います。
バイタルサインの変化や異常反応を評価し、状態の安定化を図ります。
速やかに医師に報告し、指示を仰ぎます。
発生した事象の経過、対応、患者の状態変化などを詳細に記録します。
事実のみを客観的に記録し、推測や感情的な表現は避けます。施設の医療安全管理部門への報告も忘れずに行います。
また、発生した事故・インシデントの原因分析と再発防止策の検討も重要です。
個人の責任追及ではなく、システムとしての改善点を検討することが大切です。
薬剤関連トラブルへの対応
薬剤投与に関連するトラブルとしては、投与量・投与速度の誤り、投与経路の誤り、薬剤の取り違え、患者の誤認などがあります。
これらのトラブルへの対応と予防策について解説します。
薬剤関連トラブルが発生した場合、まず投与を中止し、患者の状態を確認します。バイタルサインの変化や副作用・アレルギー反応の有無を評価します。
速やかに医師に報告し、指示を仰ぎます。
誤った薬剤や投与量に対する拮抗薬や対症療法が必要な場合は、医師の指示のもとで実施します。
患者や家族への説明も、医師と相談のうえで適切に行います。
予防策としては、「5つのRight」の確認の徹底、ハイリスク薬剤のダブルチェック、類似名称薬剤の区別化、バーコード認証システムの活用などがあります。
また、インシデントレポートの分析と対策立案、スタッフ教育も重要です。
感染管理上のトラブル対応
診療補助業務における感染管理上のトラブルとしては、針刺し・切創、血液・体液曝露、感染経路別予防策の不備などがあります。
これらのトラブルへの対応と予防策について解説します。
針刺し・切創が発生した場合、まず流水と石鹸で十分に洗浄します。必要に応じて消毒も行います。
速やかに医師や感染管理部門に報告し、血液検査や予防的投薬の必要性を検討します。
血液・体液曝露が発生した場合も同様に、曝露部位の洗浄と報告を行います。
曝露源の患者の感染症の有無も確認し、必要な対応を検討します。
感染経路別予防策の不備が発生した場合は、患者と自身の感染リスクを評価し、必要な対策を講じます。
また、他のスタッフへの注意喚起も重要です。
予防策としては、標準予防策の徹底、適切な個人防護具の使用、安全器材(安全装置付き針など)の活用、感染経路別予防策の教育と実践などがあります。
責任範囲

診療補助業務における看護師の責任範囲について詳細に解説します。
法的責任の所在、インシデント対応、チーム医療における責任分担、そして看護師の自己防衛策について説明します。
法的責任の所在
診療補助業務における法的責任の所在について解説します。
医師の指示責任と看護師の実施責任の関係、責任の限界、免責事由などについて詳細に説明します。
医師と看護師の責任分担
診療補助業務における責任は、医師と看護師の間で分担されます。
医師には「指示責任」があり、看護師には「実施責任」があります。
医師の指示責任とは、適切な診断と判断に基づいて、適切な指示を出す責任です。
指示内容の妥当性、安全性、適時性などが問われます。
一方、看護師の実施責任とは、医師の指示を正確に理解し、適切に実施する責任です。
技術的な適切さ、観察と報告、記録などが問われます。
両者の責任は明確に分離されるものではなく、連続的かつ相互補完的なものです。
例えば、明らかに不適切な指示に対しては、看護師にも「疑義照会義務」があり、医師に確認や再考を求める責任があります。
過失責任の成立要件
診療補助業務において過失責任が成立するためには、以下の要件が必要です。
「注意義務違反(過失)」「結果の発生(損害)」「因果関係」「予見可能性」「結果回避可能性」です。
看護師の注意義務の水準は、同様の状況下における平均的な看護師が払うべき注意の水準(善良なる管理者の注意義務)とされています。
ただし、専門的な研修を受けた看護師や、特定の領域での経験が豊富な看護師には、より高い水準の注意義務が求められることもあります。
例えば、点滴実施時の過失責任が問われる場合、薬剤や投与量の確認義務、適切な投与経路の選択義務、投与中の観察義務などが注意義務として検討されます。
免責事由と抗弁
診療補助業務における過失責任に対する免責事由や抗弁としては、以下のものがあります。
「緊急避難」「患者の自己決定」「予見不可能な事態」「医療水準の限界」などです。
緊急避難とは、差し迫った危険を回避するためにやむを得ず行った行為による損害は免責される場合があるという考え方です。
例えば、心肺停止患者に対する緊急の処置で生じたある程度の損害は、生命を救うためのやむを得ない措置として免責される可能性があります。
患者の自己決定とは、十分な説明を受けた上での患者の同意に基づく医療行為については、ある程度のリスク実現に対する責任が軽減されるという考え方です。
ただし、説明不足や不適切な同意取得の場合は、この抗弁は成立しません。
実例から見る責任の所在
実際の医療訴訟から、診療補助業務における責任の所在について検討します。
例えば、看護師の静脈注射ミスによる神経損傷事例では、注射技術の適切性だけでなく、患者の訴えに対する対応の適切性も問われました。
また、医師の指示ミスと看護師の実施ミスが重なった事例では、両者の責任割合が争点となりました。
明らかに不適切な指示であっても、看護師がそれを疑問に思わずに実施した場合は、看護師にも一定の責任が認められています。
このような事例からは、診療補助業務における責任が複合的であり、チーム医療としての総合的な安全管理の重要性が浮かび上がります。
インシデント対応
診療補助業務におけるインシデント(ヒヤリハット)や事故発生時の対応について解説します。
初期対応、報告の流れ、分析方法、再発防止策立案などについて詳細に説明します。
インシデントの定義と分類
インシデントとは、患者に障害が発生する可能性があったが、実際には発生しなかった事例(ヒヤリハット)、または軽微な障害にとどまった事例を指します。
一方、アクシデントとは、患者に中等度以上の障害が発生した事例を指します。
インシデントは、事象の種類(投薬、転倒、医療機器など)、発生場所、発生時間帯、当事者の経験年数など、様々な観点から分類されます。
これらの分類は、発生傾向の分析や対策立案に役立ちます。
また、影響度による分類も重要で、「影響度レベル0(患者に実施されなかった)」「影響度レベル1(患者への影響が小さい)」「影響度レベル2(経過観察や簡単な治療が必要)」などに分けられます。
インシデント発生時の初期対応
インシデント発生時の初期対応の基本は「患者の安全確保」「医師への報告」「記録」です。
まず、患者の状態を確認し、必要な応急処置を行います。
バイタルサインの測定や異常の有無の確認も重要です。
速やかに医師に報告し、必要な指示を仰ぎます。
また、上司(看護師長など)への報告も忘れずに行います。
発生した事象の経過、対応、患者の状態変化などを詳細に記録します。
患者や家族への説明は、医師と相談の上で行います。
誠実な対応と、必要に応じた謝罪が重要です。
また、他の患者への同様のリスクがないかを確認し、必要な対策を講じることも大切です。
インシデントレポートと分析
インシデントレポートは、発生した事象を客観的に記録し、再発防止策を検討するための重要なツールです。
レポートには、発生日時、場所、当事者、事象の内容、患者への影響、対応などを記載します。
特に重要なのは「事実」の記録であり、推測や感情的な表現は避けるべきです。
また、「なぜそのような行動をとったのか」という背景要因の記載も重要です。
インシデントの分析には、RCA(根本原因分析)やSHEL分析、KYT(危険予知トレーニング)などの手法が用いられます。
これらの分析を通じて、人的要因だけでなく、環境要因やシステム要因なども特定します。
再発防止策とフィードバック
インシデント分析に基づいて、再発防止策を立案します。
防止策は「個人レベル」「部署レベル」「組織レベル」の各階層で検討します。
個人レベルでは教育や訓練、部署レベルではマニュアルの改訂やチェック体制の強化、組織レベルではシステムの改善や環境整備などが考えられます。
立案された防止策は、実施可能性や効果を評価し、優先順位を付けて実施します。
また、実施後の効果評価も重要です。
期待した効果が得られない場合は、対策の見直しを行います。
インシデント情報と防止策は、関係者にフィードバックし、組織全体で共有することが重要です。
個人を責めるのではなく、システムとしての改善点を共有することで、組織全体の安全文化を醸成します。
チーム医療での責任分担
診療補助業務はチーム医療の一環として行われます。
ここでは、チーム医療における責任分担のあり方と、効果的な連携方法について解説します。
多職種連携における役割と責任
チーム医療における各職種の役割と責任は、法的な業務範囲と専門性に基づいて分担されます。
医師は診断と治療方針の決定、看護師は療養上の世話と診療の補助、薬剤師は薬剤の管理と指導、理学療法士はリハビリテーションの実施など、それぞれの専門性を活かした役割があります。
診療補助業務においても、各職種との連携が重要です。
例えば、薬剤投与においては、医師の処方と薬剤師の調剤、看護師の投与という流れの中で、それぞれの責任と確認ポイントがあります。
チーム医療の基本は「情報共有」と「相互理解」です。
カンファレンスやラウンド、電子カルテなどを通じて、患者情報や治療方針を共有することが重要です。
また、各職種の専門性と限界を相互に理解し、尊重することも大切です。
指示系統と報告体制
診療補助業務における指示系統と報告体制の明確化は、安全なチーム医療の基盤となります。
指示系統は、通常、医師からの指示が看護師に伝達される形で構築されていますが、緊急時や夜間帯などには、当直医や主治医代行などの複雑な指示系統が生じることもあります。
指示の受け方も重要で、口頭指示の場合は復唱して確認し、可能な限り早く記録に残すことが求められます。
また、指示内容に疑問がある場合は、遠慮なく確認することが重要です。
この「疑義照会」は、看護師の重要な責務の一つです。
報告体制も明確にしておく必要があります。
患者の状態変化や検査結果、治療の効果などについて、適時に適切な相手に報告することが重要です。
報告の遅れや漏れは、患者の安全に大きく影響する可能性があります。
カンファレンスとコミュニケーション
チーム医療における責任分担を明確にし、効果的な連携を図るためには、定期的なカンファレンスと日常的なコミュニケーションが不可欠です。
多職種カンファレンスでは、患者の状態評価、治療方針の検討、ケアプランの立案など、チーム全体で情報を共有し、方針を決定します。
このプロセスを通じて、各職種の役割と責任が明確になります。
看護師は、患者に最も近い存在として、日常的な観察結果や患者の反応、生活上の課題などの情報を提供する重要な役割を担っています。
また、患者と他職種との橋渡し役としても機能します。
効果的なコミュニケーションのためには、SBAR(Situation:状況、Background:背景、Assessment:評価、Recommendation:提案)などの構造化されたコミュニケーションツールの活用も有効です。
特に、緊急時や重要な報告の際には、この構造に沿って簡潔明瞭に伝えることが推奨されています。
自己防衛策
診療補助業務を行ううえでの法的・倫理的リスクから自身を守るための方策について解説します。
適切な記録の保持、継続的な学習、保険加入などについて詳細に説明します。
適切な記録の保持
診療補助業務における最も基本的な自己防衛策は、適切な記録の保持です。
記録は医療行為の証拠となるだけでなく、万が一の紛争時には重要な防御資料となります。
記録の基本原則は「事実のみを客観的に記載する」ことです。
主観的な評価や感情的表現は避け、観察した事実、実施した行為、患者の反応などを具体的に記載します。
また、医師への報告内容とその結果も記録しておくことが重要です。
電子カルテの場合は、入力者の特定が容易なため、他者のIDでの記録入力は絶対に避けるべきです。
また、記録の修正や追記が必要な場合は、施設のルールに従って適切に行います。
修正の履歴が残るシステムが多いため、不適切な修正は避けるべきです。
リスクの高い診療補助行為(例:抗がん剤投与、輸血など)については、チェックリストやプロトコルに基づいた記録を残すことも有効です。
これにより、必要な確認プロセスを踏んでいたことを証明できます。
知識・技術の継続的な更新
医療の進歩は速く、診療補助業務に関する知識や技術も常に更新されています。
自己防衛の観点からも、継続的な学習と技術の更新は不可欠です。
施設内の研修や勉強会への参加だけでなく、外部の研修や学会、オンライン学習なども積極的に活用するとよいでしょう。
特に、自身が頻繁に行う診療補助行為については、最新のガイドラインや手技を常に把握しておくことが重要です。
また、自己の能力の限界を認識し、経験や知識が不足している行為については、率直に申告し、指導を求めることも重要です。
無理に行って事故を起こすよりも、指導を受けながら安全に実施する方が、患者にとっても看護師にとっても利益となります。
学習の記録を残しておくことも有効です。
施設によっては、継続教育の記録を管理するシステムがありますが、個人でも研修受講歴や資格取得などの記録を残しておくとよいでしょう。
これにより、自己の専門性の向上を証明できます。
保険加入と相談体制の確保
万が一の医療事故や訴訟に備えて、看護師賠償責任保険への加入を検討することも自己防衛策の一つです。
施設の保険でカバーされる範囲と、個人で加入する保険の範囲を確認し、必要に応じて補完的に加入することを検討するとよいでしょう。
また、法的問題や倫理的ジレンマに直面した際の相談先を確保しておくことも重要です。
施設内の医療安全管理部門や倫理委員会、所属する職能団体の相談窓口などを把握しておくとよいでしょう。
特に、指示内容に疑問がある場合や、自己の能力を超えた業務を求められた場合など、判断に迷う状況では、一人で抱え込まず、上司や同僚、医療安全管理者などに相談することが重要です。
チーム内での相談体制を日頃から構築しておくことで、リスクを低減できます。
患者・家族とのコミュニケーション
患者や家族との良好なコミュニケーションも、重要な自己防衛策の一つです。
診療補助行為の目的や方法を丁寧に説明し、同意を得ることで、相互理解と信頼関係を構築できます。
特に、侵襲性の高い処置や、副作用のリスクがある薬剤投与などの際には、事前の十分な説明と同意確認が重要です。
また、実施中の声かけや、実施後の経過確認なども、患者の安心感につながります。
患者やご家族からの質問や不安の表出には、真摯に対応することが大切です。
自分で回答できない質問については、「確認して回答します」と伝え、適切な職種に繋ぐことも重要です。
誠実なコミュニケーションは、トラブルの予防と早期解決に有効です。
記録管理

診療補助業務における記録の重要性、基本的な記録方法、記録の具体例、電子カルテでの記録のポイント、そして記録の監査と改善について詳細に解説します。
適切な記録は、医療の質と安全の確保だけでなく、法的保護の観点からも極めて重要です。
記録の重要性と基本
診療補助業務における記録の重要性と、記録の基本原則について解説します。
なぜ記録が必要なのか、どのような記録が求められるのかを詳細に説明します。
記録の意義と目的
診療補助業務の記録には、複数の重要な意義と目的があります。
まず第一に、記録は「医療の継続性を確保する」ための重要なツールです。
チームメンバー間での情報共有により、一貫した医療・ケアの提供が可能になります。
第二に、記録は「医療の質と安全を保証する」ための基盤となります。
実施した医療行為の内容や患者の反応を記録することで、ケアの評価と改善が可能になります。
また、実施した確認プロセスや安全対策も記録に残すことで、安全文化の醸成につながります。
第三に、記録は「法的証拠」としての役割を持ちます。
医療訴訟の際には、記録内容が重要な証拠資料となります。
適切な記録は、医療者の適正な業務遂行を証明する重要な手段です。
さらに、記録は「医療の透明性を確保する」ための手段でもあります。
患者が自身の医療記録を閲覧する権利が法的に認められており、記録を通じて提供された医療の内容を確認できます。
このように、診療補助業務の記録は、医療の質、安全、継続性、法的保護、透明性など、多面的な意義を持っています。
記録の基本原則
診療補助業務の記録には、いくつかの基本原則があります。
まず、「事実に基づく客観的な記載」が重要です。
主観的な解釈や感情的表現は避け、観察した事実や実施した行為を具体的に記載します。
次に、「簡潔かつ明確な記載」も重要です。
不必要な冗長さを避け、要点を明確に記載します。
ただし、重要な情報の省略は避けるべきです。
特に、リスクの高い診療補助行為については、より詳細な記録が求められます。
また、「適時性」も重要な原則です。
診療補助行為の実施後、できるだけ早く記録することが望ましいです。
時間が経過すると、記憶が曖昧になり、正確な記録が難しくなります。
特に、緊急時の対応などは、落ち着いた後に速やかに記録すべきです。
さらに、「守秘義務の遵守」も重要です。
記録には個人情報が含まれるため、不適切な開示や漏洩を防止する必要があります。
電子カルテの画面を放置したり、紙の記録を放置したりすることは避けるべきです。
最後に、「修正の適正な手続き」も重要です。
記録の誤りに気づいた場合は、適切な方法で修正する必要があります。
修正の際は、修正日時と修正者を明記し、元の記録も残しておくことが原則です。
記録の法的側面
診療補助業務の記録には、重要な法的側面があります。
まず、医師法第24条および保健師助産師看護師法では、診療に関する記録の作成と保存が義務付けられています。
これには、看護師が行う診療補助業務の記録も含まれます。
記録は、医療訴訟の際の重要な証拠資料となります。
記録がない場合や不十分な場合は、「実施していない」または「不適切に実施した」と判断される可能性があります。
逆に、適切な記録があれば、医療者側の有力な証拠となります。
また、個人情報保護法の観点からも、記録の適切な管理が求められます。
不必要な個人情報の記載や、記録の不適切な開示は、法的問題となる可能性があります。
さらに、カルテ開示請求への対応も重要な法的側面です。
患者やご家族から記録の開示請求があった場合は、施設の規定に従って適切に対応する必要があります。
この際、記録内容の適正さが改めて問われることになります。
POMRとSOAP形式
診療補助業務の記録方法として、POMR(Problem Oriented Medical Record:問題志向型医療記録)とSOAP形式が広く用いられています。
POMRは、患者の抱える問題や課題を中心に記録する方法です。
問題リスト、初期計画、経過記録、退院サマリーなどから構成されます。
患者の問題を明確化し、それに対する計画と評価を一貫して記録できる利点があります。
SOAP形式は、POMRの経過記録の部分で用いられる形式で、以下の4要素から構成されます。 S(Subjective:主観的データ):患者の訴えや感じていることを記録します。
O(Objective:客観的データ):観察や測定、検査などの客観的事実を記録します。
A(Assessment:アセスメント):主観的・客観的データに基づく評価や判断を記録します。 P(Plan:計画):今後の計画や実施した対応を記録します。
SOAP形式は、情報の整理と思考プロセスの明確化に役立ちます。
また、他者が記録を読む際にも、情報が整理されて理解しやすいという利点があります。
記録の具体例
診療補助業務の記録について、具体的な例を示しながら解説します。
様々な場面や行為における記録の書き方のポイントを詳細に説明します。
注射・点滴の記録例
注射や点滴などの薬剤投与に関する記録は、特に正確さが求められます。
以下に具体例を示します。
「2024年2月28日 10:30 医師A氏の指示により、生理食塩水100mlにソルメドロール40mgを混注し、右前腕静脈より点滴開始。
滴下良好、刺入部の発赤・腫脹なし。バイタルサイン:血圧135/85mmHg、脈拍76回/分、SpO2 98%(室内気)
患者より「痛みなく楽に入りました」と発言あり。
実施者:看護師B」
この記録例には、実施日時、指示医師名、薬剤名と用量、投与経路、患者の状態観察(滴下状況、刺入部の状態、バイタルサイン)、患者の反応、実施者名が含まれています。
これらの要素は、薬剤投与の記録に不可欠な情報です。
点滴中の観察記録も重要です。
例えば以下のような記録が考えられます。
「2024年2月28日 11:30 点滴中間確認。
滴下良好、刺入部の発赤・腫脹なし。バイタルサイン変化なし。
患者より特記すべき訴えなし。
確認者:看護師C」
点滴終了時の記録も忘れずに行います。
例えば以下のような記録が考えられます。
「2024年2月28日 12:30 点滴終了。
刺入部の発赤・腫脹なし、止血確認。バイタルサイン:血圧130/80mmHg、脈拍72回/分、SpO2 99%(室内気)
患者より「特に違和感はありません」と発言あり。
実施者:看護師B」
処置の記録例
創傷処置や各種カテーテル管理などの処置に関する記録も、具体的かつ詳細に記載することが重要です。
以下に具体例を示します。
「2024年2月28日 14:00 医師A氏の指示により、腹部手術創の処置実施。
創部の状態:長さ約10cm、発赤軽度、浸出液少量、縫合部離開なし。
生理食塩水にて洗浄後、ゲンタシン軟膏塗布し、ガーゼにて被覆。
患者の疼痛訴えは処置前NRS(Numerical Rating Scale)3から処置後NRS2に軽減する。
処置中「前回より痛みが少ない」との発言あり。
実施者:看護師D」
この記録例には、実施日時、指示医師名、処置内容、創部の詳細な状態観察、使用した薬剤や被覆材、患者の疼痛評価と反応、実施者名が含まれています。
これらの要素は、処置の記録に不可欠な情報です。
ドレーン管理の記録も重要です。例えば以下のような記録が考えられます。
「2024年2月28日 16:00 腹腔ドレーン管理。
ドレーンからの排液:血性漿液性、量100ml/8時間、性状に異常なし。
ドレーン挿入部:発赤なし、固定良好。ドレーンの屈曲・閉塞なし。
実施者:看護師E」
医療機器管理の記録例
人工呼吸器や輸液ポンプなどの医療機器管理に関する記録も、詳細かつ正確に行うことが重要です。
以下に具体例を示します。
「2024年2月28日 08:00 人工呼吸器設定確認。
モード:SIMV、一回換気量:450ml、呼吸回数:12回/分、PEEP:5cmH2O、FiO2:0.4。
患者との同調性良好。
気道内圧:最高圧20cmH2O、平均圧8cmH2O。SpO2 97%、EtCO2 38mmHg。
口腔内分泌物少量、吸引実施。気管チューブカフ圧25cmH2O確認。
実施者:看護師F」
この記録例には、実施日時、人工呼吸器の詳細な設定値、患者の呼吸状態の観察、関連するケア(吸引、カフ圧確認など)、実施者名が含まれています。
これらの要素は、医療機器管理の記録に不可欠な情報です。
輸液ポンプの記録も重要です。例えば以下のような記録が考えられます。
「2024年2月28日 09:00 輸液ポンプ設定確認。
薬剤:ドパミン塩酸塩、流量:3ml/時(3γ)。
投与ルート確認、閉塞なし。三方活栓の接続部確認、緩みなし。
バイタルサイン:血圧120/70mmHg、脈拍80回/分、尿量30ml/時。
実施者:看護師G」
特定行為実施の記録例
特定行為研修を修了した看護師が実施する特定行為については、より詳細な記録が求められます。以下に具体例を示します。
「2024年2月28日 13:00 特定行為「気管カニューレの交換」実施。患者の状態:意識清明、呼吸状態安定、酸素3L/分鼻カニューレ投与下でSpO2 96%。医師A氏の包括指示に基づき、定期交換のため実施(前回交換日:2024年2月14日)。
旧カニューレ(サイズ7.5mm)抜去後、新カニューレ(同サイズ)挿入。
挿入中の最低SpO2 94%、挿入後SpO2 96%に回復。
カニューレの固定良好、両側呼吸音清、左右差なし。患者の不快感訴えなし。
医師A氏に実施報告済み。
実施者:特定行為研修修了看護師H」
この記録例には、実施日時、実施した特定行為の名称、患者の状態評価、実施の判断根拠、具体的な実施内容、実施中・後の患者の状態、合併症の有無、医師への報告、実施者の資格(特定行為研修修了看護師であること)が含まれています。
これらの要素は、特定行為の記録に不可欠な情報です。
電子カルテでの記録
近年、多くの医療機関で電子カルテが導入されています。
ここでは、電子カルテでの診療補助業務の記録のポイントや注意点について解説します。
電子カルテの特徴と利点
電子カルテの主な特徴と利点には以下のようなものがあります。
まず、「情報の共有と検索の容易さ」が挙げられます。
多職種間での情報共有がリアルタイムに可能となり、過去の記録の検索も容易です。
これにより、チーム医療の質が向上します。
次に、「テンプレートの活用による効率化」があります。
定型的な診療補助業務については、あらかじめ設定されたテンプレートを使用することで、記録の効率化と標準化が図れます。
また、「リマインダーや警告機能」も重要な特徴です。
薬剤の相互作用チェックや、アレルギー情報の警告表示などにより、医療安全の向上に貢献します。
さらに、「データの二次利用」も可能です。
診療データを統計的に分析し、医療の質改善や研究に活用できます。
これらの特徴により、電子カルテは診療補助業務の記録の質と効率を高める可能性を持っています。
電子カルテ記録の注意点
電子カルテでの記録には、紙カルテとは異なる注意点があります。
まず、「認証とセキュリティ」が重要です。
自分のIDとパスワードを他者と共有したり、ログインしたまま席を離れたりすることは厳禁です。
また、自分のIDで他者の実施した診療補助業務を記録することも避けるべきです。
次に、「テンプレートの過信」に注意が必要です。
テンプレートは便利ですが、個々の患者の特性や状況に応じたカスタマイズが必要な場合があります。
テンプレートをそのまま使用せず、必要に応じて修正や追記を行うことが重要です。
また、「入力ミス」にも注意が必要です。
特に、プルダウンメニューからの選択ミスや、オーダー入力ミスは重大な医療事故につながる可能性があります。
入力後の確認を徹底することが重要です。
さらに、「コピー&ペースト」の安易な使用は避けるべきです。
過去の記録をコピーして流用する際は、現在の状況との整合性を必ず確認する必要があります。
不適切なコピー&ペーストは、記録の信頼性を損なう要因となります。
電子カルテ導入時の移行期の対応
電子カルテ導入時や、システム更新時の移行期には、特別な注意が必要です。
まず、「二重記録の防止」が重要です。
紙カルテと電子カルテが併用される期間には、記録の重複や欠落が生じないよう、記録ルールを明確にする必要があります。
次に、「システムダウン時の対応」も重要です。
停電やシステム障害時の代替記録方法を事前に確認し、訓練しておくことが必要です。
特に、生命維持に関わる診療補助業務の記録方法は、全スタッフが理解しておくべきです。
また、「新システムへの習熟」も重要な課題です。
操作に不慣れな時期には、入力ミスやオーダー漏れなどのリスクが高まります。
十分な研修と、導入初期のサポート体制が不可欠です。
さらに、「データ移行の確認」も重要です。
旧システムから新システムへのデータ移行時には、アレルギー情報や重要な既往歴などの重要情報が正確に移行されているか確認することが重要です。
電子カルテでの記録の実践例
電子カルテでの診療補助業務の記録について、具体的な実践例を示します。
投薬実施記録の例
「医師オーダーに基づき、アセトアミノフェン錠500mg 1錠 経口投与実施。
服用後30分で「頭痛が和らいできました」との発言あり。
バイタルサイン変化なし。副作用症状なし。」
この記録では、電子カルテのオーダリングシステムと連動した投薬実施記録に、患者の反応や状態変化を具体的に追記しています。
多くの電子カルテでは、基本情報(薬剤名、用量、投与経路、時間など)は自動的に記録されるため、それ以外の重要情報を追記することがポイントです。
また、フリーテキスト入力とテンプレート入力を適切に組み合わせることも重要です。
例えば、中心静脈カテーテア管理のテンプレートに、「挿入部の発赤なし、浸出液なし、カテーテルの屈曲なし」などの標準的な観察項目を設定しつつ、個別の状況に応じた所見を追記できるようにすることが有効です。
記録の監査と改善
診療補助業務の記録の質を維持・向上させるためには、定期的な監査と継続的な改善が重要です。
ここでは、記録監査の方法と改善のプロセスについて解説します。
記録監査の目的と方法
記録監査の主な目的は、記録の質を評価し、改善点を特定することです。
具体的には、記録の正確性、完全性、適時性、適法性などを評価します。
記録監査の方法には、「定期的監査」と「テーマ別監査」があります。
定期的監査では、一定期間ごとに無作為抽出した記録を評価します。
テーマ別監査では、特定の診療補助業務(例:輸血管理、中心静脈カテーテル管理など)に焦点を当てた監査を行います。
監査の実施者としては、看護管理者、医療安全管理者、記録委員会のメンバーなどが考えられます。
また、多職種による監査も有効で、医師や薬剤師、リスクマネージャーなどの視点を取り入れることで、より多角的な評価が可能になります。
監査の評価項目としては、「必須項目の記載の有無」「患者確認プロセスの記載」「医師の指示確認の記載」「実施内容の具体的記載」「患者の反応や状態変化の記載」「合併症の有無の記載」「実施者の署名」などが挙げられます。
これらの項目について、評価基準を明確にし、点数化することも一つの方法です。
記録の質向上のための取り組み
記録監査の結果を踏まえ、記録の質向上のための様々な取り組みが考えられます。
まず、「スタッフ教育」が基本となります。記録の基本原則や法的意義、具体的な記載方法などについての研修を定期的に実施することが重要です。
特に、新入社員や異動者に対する教育は重点的に行うべきです。
次に、「記録テンプレートの整備」も有効です。
頻繁に実施される診療補助業務については、標準化された記録テンプレートを作成し、必要な要素が漏れなく記録できるようにします。
ただし、テンプレートは定期的に見直し、最新の医療水準や法的要件に合わせて更新することが重要です。
また、「ピアレビュー」も効果的な方法です。
同僚間で互いの記録を確認し合うことで、記録の質向上と標準化を図ることができます。
このプロセスは、批判ではなく相互学習の機会として位置づけることが大切です。
さらに、「グッドプラクティスの共有」も重要です。
優れた記録例を共有し、模範とすることで、記録の質向上を促進します。
部署会やニュースレターなどを通じて、定期的に共有するとよいでしょう。
フィードバックと継続的改善
記録監査の結果は、適切な方法でスタッフにフィードバックすることが重要です。
フィードバックは、「組織全体」と「個人」の両レベルで行うことが効果的です。
組織全体へのフィードバックでは、監査結果の集計データや傾向、全体的な改善点などを共有します。
個人へのフィードバックでは、具体的な記録例を示しながら、良い点と改善点を具体的に伝えます。
特に、肯定的なフィードバックを先に伝え、改善点は建設的な提案として伝えることが大切です。
フィードバックを受けた後の改善プロセスも重要です。
「Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)」のPDCAサイクルに沿って、継続的な改善を図ることが理想的です。
記録の質向上のための具体的な行動計画を立て、実施し、その効果を評価し、さらなる改善につなげるというサイクルを回すことで、記録の質は着実に向上していきます。
また、記録監査の結果や改善状況を、病院全体の医療安全管理委員会や質改善委員会などに報告することも重要です。
組織全体で記録の質向上に取り組む姿勢を示すことで、記録文化の醸成につながります。
記録関連インシデントの分析と対策
記録に関連するインシデント(記載漏れ、誤記載、不適切な修正など)も、重要な改善の機会です。
これらのインシデントを収集・分析し、システムとしての対策を講じることが重要です。
記録関連インシデントの発生要因としては、「知識不足」「時間的制約」「システムの使いにくさ」「チェック体制の不備」などが考えられます。
これらの要因を特定し、対策を講じることが重要です。
例えば、知識不足に対しては教育プログラムの強化、時間的制約に対しては業務フローの見直し、システムの使いにくさに対してはユーザーインターフェースの改善、チェック体制の不備に対しては相互確認の仕組みの導入などが考えられます。
重要なのは、個人の責任追及ではなく、システムとしての改善策を検討することです。
記録は個人の作業ではなく、組織全体の重要な機能の一つとして捉えることが大切です。
特定行為研修制度

2015年に開始された特定行為研修制度について詳細に解説します。
制度の概要、特定行為の種類と内容、研修方法、そして特定行為研修修了者の活動実態について説明します。
制度概要
特定行為研修制度の背景、目的、法的根拠、運用体制などについて解説します。
看護師の診療補助業務の拡大と質向上における本制度の意義を詳細に説明します。
制度創設の背景と目的
特定行為研修制度は、2014年に成立した「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(医療介護総合確保推進法)に基づき、2015年10月から開始された制度です。
この制度創設の背景には、医療の高度化・複雑化に伴う看護師の役割拡大の必要性、医師の働き方改革の推進、地域医療の確保などの社会的要請がありました。
特に、在宅医療や過疎地域での医療提供体制の充実のために、一定の診療補助行為を、医師の指示のもとで看護師が実施できるようにすることが目的でした。
また、これまでグレーゾーンとされていた一部の医行為を、研修を修了した看護師が実施できる「特定行為」として法的に明確化したという意義もあります。
これにより、安全性と質の担保された形で、看護師の業務範囲の拡大が図られることになりました。
特定行為研修制度の主な目的は以下の通りです。
医師の包括的指示のもとで、特定行為を実施できる看護師を養成すること。
医療安全を確保しつつ、タイムリーな医療提供が可能となる仕組みを構築すること。
チーム医療のキーパーソンとなる看護師を育成し、医療の質向上を図ること。
地域医療や在宅医療の質と安全を高めることです。
法的根拠と厚生労働省令
特定行為研修制度の法的根拠は、保健師助産師看護師法(保助看法)第37条の2に規定されています。
この条文では、「特定行為を手順書により行う看護師は、指定研修機関において、当該特定行為の特定行為区分に係る特定行為研修を受けなければならない」と定められています。
また、2015年3月に公布された厚生労働省令「保健師助産師看護師法第37条の2第2項第1号に規定する特定行為及び同項第4号に規定する特定行為研修に関する省令」(特定行為研修省令)では、特定行為の具体的な内容や区分、研修の基準などが詳細に規定されています。
この省令により、特定行為として38行為が指定され、それらが21の特定行為区分に分類されています。
また、特定行為研修は「共通科目」と「区分別科目」から構成されることや、研修時間の基準、研修方法などについても規定されています。
さらに、2019年の省令改正では、領域別のパッケージ研修が導入され、特定の領域(在宅・慢性期領域、外科術後管理領域、術中麻酔管理領域など)に特化した効率的な研修が可能となりました。
特定行為と手順書について
特定行為とは、「診療の補助であり、看護師が手順書により行う場合には、実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされるもの」と定義されています。
具体的には、脱水症状に対する輸液による矯正や、創傷に対する陰圧閉鎖療法の実施など、38行為が指定されています。
手順書とは、「医師又は歯科医師が看護師に診療の補助を行わせるためにその指示として作成する文書又は電磁的記録」と定義されています。
手順書には、「医行為の内容」「対象となる患者の病状の範囲」「実施の判断に必要な検査」「判断の基準」「医師への報告の時期・条件」などが記載されています。
手順書は、包括的指示の一種と位置づけられており、個別具体的な指示とは異なります。
手順書に基づく特定行為の実施においては、看護師自身が患者の状態を評価し、手順書の範囲内で実施の判断をすることになります。
これにより、医師の指示を待つことなく、タイムリーな医療提供が可能となります。
手順書の作成は医師の責任で行われますが、特定行為研修修了看護師との協議のもとで作成されることが望ましいとされています。
また、定期的な見直しも重要です。
研修制度の運用体制
特定行為研修制度の運用体制は、厚生労働大臣が指定する「指定研修機関」を中心に構築されています。
指定研修機関には、大学、病院、医師会、看護協会などがあり、厚生労働大臣の指定基準(カリキュラム、教員資格、施設設備など)を満たす必要があります。
指定研修機関は、共通科目と区分別科目の研修を提供し、修了者には「特定行為研修修了証」を交付します。
また、修了者情報は看護師籍に登録され、特定行為研修修了者であることが公的に証明されます。
研修の質保証のために、指定研修機関には「特定行為研修管理委員会」の設置が義務付けられています。
この委員会は、研修の企画・運営・評価を行い、研修の質向上に努めます。委員会のメンバーには、医師、看護師、教育関係者などが含まれます。
また、厚生労働省には「看護師の特定行為研修に関する検討会」が設置され、制度全体の評価と改善が行われています。
この検討会の提言に基づき、2019年にはパッケージ化された研修や、共通科目の時間数の見直しなどが実施されました。
特定行為一覧と解説
特定行為として指定されている38行為と21区分について詳細に解説します。
それぞれの行為の内容、必要な知識と技術、実施する際の注意点などを説明します。
呼吸器関連
呼吸器関連の特定行為には、気道確保関連、人工呼吸器関連、気道ドレナージ関連などの区分があります。
「気道確保に係る特定行為区分」には、「経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整」が含まれています。
これは、気管挿管患者のチューブの深さや固定位置を適切に調整する行為です。
チューブの誤挿入や抜去のリスクがあるため、正確な技術と判断力が求められます。
「人工呼吸療法に係る特定行為区分」には、「侵襲的陽圧換気の設定の変更」と「非侵襲的陽圧換気の設定の変更」が含まれています。
これらは、人工呼吸器の換気モード、一回換気量、呼吸回数、PEEP、FiO2などの設定を、患者の呼吸状態に応じて変更する行為です。
不適切な設定変更は、低酸素血症や換気障害などの重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、呼吸生理の深い理解と適切な評価能力が必要です。
「気道ドレナージ関連」の区分には、「気管カニューレの交換」が含まれています。
これは、気管切開患者のカニューレを新しいものに交換する行為です。
気管損傷や出血、低酸素血症などのリスクがあるため、解剖学的知識と確実な技術が求められます。
循環器関連
循環器関連の特定行為には、動脈血液ガス分析関連、循環動態に係る薬剤投与関連、栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連などの区分があります。
「動脈血液ガス分析関連」の区分には、「直接動脈穿刺法による採血」と「橈骨動脈ラインの確保」が含まれています。
これらは、動脈血ガス分析のための採血や、持続的な動脈圧モニタリングのためのカテーテル挿入を行う行為です。
動脈損傷や出血、血腫形成などのリスクがあるため、解剖学的知識と確実な穿刺技術が必要です。
「循環動態に係る薬剤投与関連」の区分には、「持続点滴中の降圧剤の投与量の調整」「持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整」などが含まれています。
これらは、血圧や心拍出量などの循環動態に基づいて、薬剤の投与量を調整する行為です。
不適切な調整は循環不全や高血圧クリーゼなどの重篤な状態を引き起こす可能性があるため、循環生理の深い理解と適切な評価能力が必要です。
「栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連」の区分には、「持続点滴中の利尿剤の投与量の調整」や「脱水症状に対する輸液による補正」などが含まれています。
これらは、体液バランスや腎機能に基づいて、利尿剤の投与量や輸液の種類・量を調整する行為です。
不適切な調整は、電解質異常や体液過剰などのリスクがあるため、体液生理の理解と適切な評価能力が必要です。
創傷管理関連
創傷管理関連の特定行為には、創傷管理関連、創部ドレーン管理関連などの区分があります。
「創傷管理関連」の区分には、「褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去」「創傷に対する陰圧閉鎖療法」などが含まれています。
壊死組織の除去(デブリードメント)は、創傷治癒を促進するために重要な処置ですが、出血や感染などのリスクがあるため、創傷治癒のメカニズムの理解と適切な判断力が必要です。
陰圧閉鎖療法は、専用の機器を用いて創部に陰圧をかけることで、浸出液の除去、肉芽形成の促進、創収縮などの効果を得る治療法です。
機器の設定や、治療効果の評価には専門的知識が必要です。
「創部ドレーン管理関連」の区分には、「創部ドレーンの抜去」が含まれています。
これは、手術後などに挿入されたドレーンを、適切なタイミングで抜去する行為です。
早すぎる抜去は血腫や漿液腫形成のリスクがあり、遅すぎる抜去は感染リスクを高める可能性があるため、適切な判断力が求められます。
その他の特定行為
その他の特定行為として、「栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理関連)」「精神及び神経症状に係る薬剤投与関連」「皮膚損傷に係る薬剤投与関連」などの区分があります。
「中心静脈カテーテル管理関連」の区分には、「中心静脈カテーテルの抜去」が含まれています。
これは、不要となった中心静脈カテーテルを適切に抜去する行為です。
空気塞栓症や出血などのリスクがあるため、正確な知識と技術が必要です。
「精神及び神経症状に係る薬剤投与関連」の区分には、「抗けいれん剤の臨時の投与」や「抗精神病薬の臨時の投与」などが含まれています。
これらは、患者の症状に応じて、医師の事前指示に基づき、適切なタイミングで薬剤を投与する行為です。
副作用や効果の評価には、専門的知識が必要です。
「皮膚損傷に係る薬剤投与関連」の区分には、「抗癌剤による皮膚障害に対する薬剤の選択・使用」などが含まれています。
これは、抗癌剤による皮膚障害(ハンドフット症候群など)に対して、適切な外用薬を選択し使用する行為です。
皮膚障害の評価と薬剤の選択には専門的知識が必要です。
研修方法と取得後の実践
特定行為研修の具体的な方法と内容、修了後の実践の実際について解説します。
研修の受講方法から、修了後の活動領域、チーム医療における役割などを詳細に説明します。
研修カリキュラムの構成
特定行為研修のカリキュラムは、「共通科目」と「区分別科目」から構成されています。
共通科目は、特定行為を行ううえで共通して必要な知識と技能を学ぶ部分で、すべての特定行為区分に共通して履修する必要があります。
共通科目の内容としては、「臨床病態生理学」「臨床推論」「フィジカルアセスメント」「臨床薬理学」「疾病・臨床病態概論」などがあり、合計315時間の講義と演習が設定されています。
区分別科目は、特定行為区分ごとに特化した知識と技能を学ぶ部分で、履修する特定行為区分に応じて選択します。
区分別科目の内容としては、各特定行為の「講義」「演習」「実習」があり、区分によって15時間から72時間の時間数が設定されています。
また、2019年からは、共通して学ぶべき内容をまとめた「パッケージ研修」も導入されました。
例えば、「在宅・慢性期領域パッケージ」「外科術後管理領域パッケージ」「術中麻酔管理領域パッケージ」などがあり、特定の領域で必要とされる特定行為区分をまとめて効率的に学ぶことができます。
研修の受講方法と修了要件
特定行為研修の受講方法には、「集合研修」「e-ラーニング」「シミュレーション研修」「臨床実習」などがあります。
集合研修は、指定研修機関に通学して受講する形式です。
他の受講生との交流やディスカッションを通じて学びを深めることができますが、勤務との両立が課題となる場合があります。
e-ラーニングは、インターネットを通じて講義を受講する形式です。
時間や場所の制約が少なく、自分のペースで学習できるメリットがありますが、自己管理が求められます。
多くの指定研修機関では、共通科目の一部をe-ラーニングで提供しています。
シミュレーション研修は、模擬患者やシミュレーター(人体模型)を用いて、特定行為の技術を安全に練習する形式です。
実際の臨床に近い状況で技術を学ぶことができ、失敗しても安全であるというメリットがあります。
臨床実習は、実際の臨床現場で、指導医や指導看護師の監督のもとで特定行為を実践する形式です。
実際の患者に対応することで、実践的な判断力と技術を養うことができます。
修了要件としては、共通科目と区分別科目のすべての科目において、筆記試験や実技試験などの評価に合格することが必要です。
また、臨床実習では、一定数以上の症例を経験し、実践能力が身についていることを評価されます。
修了後の実践と活動領域
特定行為研修修了後は、所属施設で特定行為を実践することになります。
実践にあたっては、医師と協働で手順書を作成し、それに基づいて特定行為を実施します。
活動領域としては、急性期病院、回復期病院、慢性期病院、在宅医療、診療所など多岐にわたります。
特に、医師が常駐していない夜間帯や、医師の少ない地域医療や在宅医療の現場では、特定行為研修修了看護師の存在が大きな意義を持ちます。
具体的な活動例としては、
急性期病院での術後管理(気管チューブの位置調整、人工呼吸器設定の変更など)、
集中治療室での重症患者管理(カテコラミン投与量の調整、血糖コントロールなど)、
在宅医療での医療処置(気管カニューレの交換、中心静脈カテーテルの抜去など)などがあります。
また、特定行為研修修了看護師は、単に特定行為を実践するだけでなく、チーム医療のキーパーソンとしての役割も期待されています。
医師と他の看護師の橋渡し役となり、医療チーム全体の質向上に貢献することが求められています。
特定行為研修修了者の活動実態調査
厚生労働省や日本看護協会などが実施している調査によると、特定行為研修修了者の活動実態には以下のような特徴があります。
修了者の所属施設としては、病院が最も多く、次いで訪問看護ステーション、診療所の順となっています。
病院の中では、大学病院や地域医療支援病院などの大規模病院が多い傾向にあります。
実践している特定行為としては、
「創傷管理関連」「血糖コントロールに係る薬剤投与関連」「栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連」などが多く報告されています。
一方、「動脈血液ガス分析関連」「中心静脈カテーテル管理関連」などは、実践している修了者の割合が比較的少ない傾向にあります。
特定行為の実践頻度は、修了者や施設によって大きく異なります。
頻繁に実践している修了者がいる一方で、手順書の整備が進まないなどの理由で、ほとんど実践できていない修了者も少なくありません。
特定行為研修修了者の活動による効果としては、「タイムリーな医療提供」「患者の苦痛軽減」「医師の負担軽減」「看護の質向上」などが報告されています。
一方、課題としては、「手順書の整備」「施設内の理解促進」「活動時間の確保」「診療報酬上の評価」などが挙げられています。
パッケージ研修と今後の展望
2019年に導入されたパッケージ研修の概要と、特定行為研修制度の今後の展望について解説します。制度の発展方向性や、看護師の診療補助業務における位置づけの変化などを詳細に説明します。
パッケージ研修の概要と特徴
パッケージ研修とは、特定の領域で必要とされる特定行為区分をまとめて効率的に学ぶことができる研修プログラムです。
2019年に導入された比較的新しい研修形態です。
主なパッケージ研修としては、以下のようなものがあります。
「在宅・慢性期領域パッケージ」には、気管カニューレの交換、胃ろうカテーテルの交換、末梢留置型中心静脈カテーテルの挿入などが含まれています。
「外科術後管理領域パッケージ」には、動脈血液ガス分析、術後疼痛管理のための薬剤投与、せん妄の兆候がある患者への薬剤投与などが含まれています。
「術中麻酔管理領域パッケージ」には、経口用気管チューブの位置調整、侵襲的陽圧換気の設定変更、持続点滴中のカテコラミンの投与量調整などが含まれています。
パッケージ研修の特徴としては、「効率性」と「専門性」が挙げられます。
効率性については、共通科目の時間数が短縮され(315時間から180時間)、より短期間で修了できるようになりました。
専門性については、特定の領域に特化した特定行為群を集中的に学ぶことで、より専門的な実践能力を養うことができます。
パッケージ研修の導入により、研修のハードルが下がり、修了者数の増加が期待され
パッケージ研修の導入により、研修のハードルが下がり、修了者数の増加が期待されています。
特に、地域医療や在宅医療の現場では、パッケージ研修修了者の活躍が期待されています。
制度創設後の評価と課題
特定行為研修制度が創設されてから約9年が経過し、様々な評価と課題が明らかになっています。
制度の評価としては、まず「特定行為研修修了者の増加」が挙げられます。
2023年3月時点で、全国で約5,000人の特定行為研修修了者が誕生しています。
当初の目標である「2025年までに10万人の養成」には遠く及ばないものの、着実に増加しています。
また、「チーム医療の推進」という点でも一定の評価がされています。
特定行為研修修了看護師が医師と協働することで、より効率的かつ質の高い医療提供が可能になったという報告が多くあります。
特に、医師が常駐していない夜間帯や、医師の少ない地域医療の現場では、その効果が顕著です。
一方、課題としては、まず「修了者数の伸び悩み」があります。
研修期間の長さや研修費用の負担、勤務との両立の難しさなどが、受講のハードルとなっています。
また、「施設内での活用体制の未整備」も課題です。
手順書の作成や活用のための体制が整っていない施設では、修了しても特定行為を実践できないケースもあります。
さらに、「診療報酬上の評価の不十分さ」も課題として挙げられています。
特定行為研修修了看護師の活動に対する診療報酬上の評価が限定的であり、施設側の導入メリットが見えにくい状況です。
また、「他職種との役割分担の明確化」も課題です。
特に、医師や診療看護師(NP)との役割分担が不明確な場合があり、チーム医療における位置づけの明確化が求められています。
医師の働き方改革との関連
2024年4月から本格施行された医師の働き方改革は、特定行為研修制度にも大きな影響を与えています。
医師の時間外労働に上限規制が設けられたことで、医師の業務のうち、他職種に移管可能なものを整理する「タスク・シフト/シェア」が推進されています。
その中で、特定行為研修修了看護師への期待が高まっています。
厚生労働省の「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」では、
特定行為研修修了看護師が担うべき業務として、「病棟での薬剤投与量の調整」「術後の創部管理」「人工呼吸器設定の変更」などが具体的に例示されています。
また、医療機関の機能評価係数においても、特定行為研修修了看護師の配置が評価項目として検討されています。
これにより、医療機関が特定行為研修修了看護師を積極的に採用・育成するインセンティブとなることが期待されています。
医師の働き方改革を推進するためには、特定行為研修修了看護師の数を増やし、その活動領域を拡大することが不可欠です。
そのため、研修体制の更なる充実や、修了者の活動支援の強化などが進められています。
今後の展望と発展方向性
特定行為研修制度の今後の展望としては、以下のようなことが考えられます。
まず、「研修体制の更なる充実」が期待されます。
パッケージ研修の種類の増加や、オンライン研修の拡充など、より受講しやすい環境整備が進むでしょう。
また、施設内での研修(On-the-Job Training)の推進など、実践に即した研修方法の開発も期待されます。
次に、「診療報酬上の評価の拡充」も重要です。
現在は一部の特定行為に限定されている診療報酬上の評価を拡大し、特定行為研修修了看護師の活動をより評価する仕組みが求められています。
これにより、医療機関のインセンティブとなり、修了者の活用が促進されるでしょう。
また、「特定行為の範囲の見直し」も検討されています。
医療の発展や看護師の能力向上に伴い、特定行為として指定すべき行為の範囲を見直す議論も進んでいます。
一方で、安全性の担保という観点からの慎重な検討も必要です。
さらに、「チーム医療における位置づけの明確化」も重要です。
医師、特定行為研修修了看護師、一般看護師、他のメディカルスタッフなど、各職種の役割分担と連携のあり方を明確にし、効率的かつ質の高いチーム医療の実現が求められています。
特定行為研修制度は、看護師の診療補助業務の拡大と質向上において、重要な役割を果たしています。
医師の働き方改革や地域医療の確保など、社会的要請に応える形で、今後も発展していくことが期待されています。
Q&A・事例集

診療補助業務に関するよくある質問とその回答、具体的な事例とその解説を集めました。
実践的な疑問解決と、具体的なイメージの形成に役立てていただける内容となっています。
よくある質問と回答
診療補助業務に関してよく寄せられる質問とその回答を、テーマ別にまとめました。
法的な疑問から実践上の悩みまで、幅広く対応しています。
業務範囲に関する質問
Q1: 医師の指示なしで実施できる診療補助行為はありますか。
A1: 診療補助行為は、原則として医師または歯科医師の指示が必要です。
保健師助産師看護師法第37条では、「保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があった場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない」と規定されています。
ただし、緊急時の応急処置や、特定行為研修修了看護師が手順書に基づいて行う特定行為などは、個別具体的な指示がなくても実施できる場合があります。
Q2: 看護師が静脈注射を実施することは法的に問題ないのでしょうか。
A2: 2002年(平成14年)の厚生労働省医政局長通知により、看護師が静脈注射を実施することは診療の補助行為として認められています。
この通知以前は、静脈注射は原則として医師が行うべき行為とされていましたが、現在では看護師の基本的な診療補助行為として位置づけられています。
ただし、薬剤の特性や患者の状態に応じたリスク評価と、適切な技術の習得が前提となります。
特に、抗がん剤や血液製剤など、特殊な薬剤の投与については、施設ごとの規定や必要な研修などがあることも多いです。
Q3: 口頭指示を受けて診療補助行為を実施する際の注意点は何ですか。
A3: 口頭指示を受ける際には、以下の点に注意することが重要です。まず、指示内容を復唱して確認し、誤解がないようにします。
可能であれば、他のスタッフにも聞いてもらうダブルチェックが望ましいです。
また、指示内容に疑問や不明点がある場合は、必ず確認します。
口頭指示を受けた後は、できるだけ早く記録に残し、事後に必ず医師に確認・署名をもらうことが望ましいです。
緊急時以外は、原則として書面または電子カルテでの指示を受けることが安全です。
口頭指示のルールについては、施設ごとの規定がある場合は、それに従う必要があります。
Q4: 診療補助行為と療養上の世話の違いは何ですか。
A4: 診療補助行為は、医師または歯科医師の指示のもとで行われる医療行為を指します。
具体的には、注射や点滴、検査の介助、処置の実施など、診断や治療に直接関わる行為です。
一方、療養上の世話は、患者の日常生活の援助や、健康状態の観察など、看護師が自らの判断で行う行為を指します。
具体的には、清潔ケア、食事介助、排泄介助、安楽の提供などです。
両者の大きな違いは、医師の指示の必要性です。
診療補助行為には医師の指示が必要ですが、療養上の世話は看護師の判断で行います。
ただし、実際の臨床では両者の境界が曖昧な場合もあり、施設の規定や個々の状況に応じた判断が必要です。
法的責任に関する質問
Q1: 医師の指示に従って診療補助行為を行い、患者に有害事象が生じた場合、看護師にも責任がありますか。
A1: 医師の指示に従って診療補助行為を行った場合でも、看護師にも一定の責任が生じる可能性があります。
基本的に、医師には「指示責任」、看護師には「実施責任」があります。看護師の責任が問われるのは、主に以下のような場合です。
指示内容の確認不足や誤解、技術的な実施ミス、患者の状態観察や異常の報告の不備などです。
また、明らかに不適切な指示であるにもかかわらず、疑義照会せずに実施した場合も、看護師の責任が問われる可能性があります。
一方、医学的に適切な指示であり、看護師が適切に実施し、適切な観察と報告を行っていた場合は、仮に有害事象が生じたとしても、看護師の責任は問われにくいと考えられます。
Q2: プロトコルに基づく診療補助行為の法的責任はどのようになりますか。
A2: プロトコル(院内の標準化された手順書)に基づく診療補助行為は、医師の「包括的指示」の一形態と考えられています。
法的責任の所在は、プロトコルの内容や、実施時の状況によって異なります。
プロトコルが医師によって適切に作成され、看護師がそれに従って適切に判断・実施した場合、基本的な責任は指示を出した医師にあると考えられます。
一方、プロトコルの適用条件を誤った場合や、プロトコルに従わなかった場合には、看護師の責任が問われる可能性があります。
また、プロトコルに従った判断や実施が適切でなかった場合の責任の所在は、状況に応じて判断されます。
プロトコルに基づく診療補助行為を安全に実施するためには、プロトコルの内容を十分に理解し、適用条件を慎重に判断することが重要です。
Q3: インシデントレポートの記載内容が、医療訴訟の際の証拠として使用されることはありますか。
A3: インシデントレポートの記載内容が、医療訴訟の際の証拠として使用される可能性はあります。
医療訴訟では、カルテなどの診療記録だけでなく、インシデントレポートも含めた関連文書が証拠として提出を求められることがあります。
ただし、インシデントレポートは医療安全の向上を目的とした内部報告書であり、事実の客観的な記録とともに、当事者の主観的な分析や反省点なども含まれます。
このような主観的な記載が、そのまま法的責任の根拠とされるわけではありません。
インシデントレポートを記載する際は、事実を正確に記録し、推測や感情的表現は避けることが望ましいです。
また、記載内容に不安がある場合は、医療安全管理者や上司に相談することも大切です。
インシデントレポートの記載を怠ったり、内容を歪めたりすることは、医療安全文化の醸成を妨げるだけでなく、かえって法的リスクを高める可能性があります。
Q4: 看護師賠償責任保険への加入は必要ですか。
A4: 看護師賠償責任保険への加入は、個人の状況や勤務環境を考慮して判断すべきです。
多くの医療機関では、施設として賠償責任保険に加入しており、その範囲内で看護師の業務上の過失による損害も補償されます。
しかし、施設の保険でカバーされる範囲は限定的であり、以下のような場合には個人での加入を検討する価値があります。
施設の保険で補償されない範囲の業務を行っている場合、複数の施設で勤務している場合、施設外(訪問看護など)での活動が多い場合、特定行為研修修了看護師として高度な行為を行う場合などです。
看護師賠償責任保険は比較的低廉な保険料で加入できるものが多く、心理的な安心感も含めて、加入することのメリットは大きいと言えます。
ただし、保険に加入していることが、注意義務の軽減を意味するわけではなく、常に安全で適切な看護実践を心がけることが最も重要です。
実践方法に関する質問
Q1: 医師の指示に疑問がある場合、どのように対応すべきですか。
A1: 医師の指示に疑問がある場合は、患者の安全を第一に考え、適切に疑義照会を行うことが重要です。
具体的には、以下のような対応が推奨されます。
まず、指示内容を再確認し、何が疑問点なのかを明確にします。
次に、適切なタイミングと場所で、丁寧な言葉遣いで医師に確認します。
この際、「このような理由で疑問があります」と具体的な根拠を示すことが効果的です。
医師が不在の場合や、緊急を要する場合は、上司や他の医師に相談することも検討します。
疑義照会の結果、指示の修正や追加説明があった場合は、それを記録に残します。
また、組織として同様の疑義が繰り返されないよう、必要に応じてカンファレンスや委員会での検討を提案することも有効です。
患者の安全を守るために、疑問があれば遠慮なく確認するという文化を醸成することが重要です。
Q2: 診療補助行為の実施前後の観察ポイントは何ですか。
A2: 診療補助行為の実施前後の観察ポイントは、行為の種類や患者の状態によって異なりますが、一般的な観察ポイントとしては以下のようなものがあります。
実施前の観察としては、患者の全身状態(バイタルサイン、意識レベル、全身状態など)、実施部位の状態(皮膚の状態、感染徴候の有無など)、禁忌事項の有無(アレルギー、合併症など)、患者の理解度と不安の程度などが重要です。
実施後の観察としては、バイタルサインの変化、実施部位の状態(出血、腫脹、疼痛など)、期待される効果の発現状況、副作用や合併症の徴候、患者の主観的反応(痛み、不快感など)などに注目します。
これらの観察結果は、適切に記録し、必要に応じて医師に報告することが重要です。
また、行為ごとに特有の観察ポイントがあるため、事前に確認しておくことも大切です。
Q3: 診療補助行為の技術向上のために、どのような学習方法が効果的ですか。
A3: 診療補助行為の技術向上のためには、様々な学習方法を組み合わせることが効果的です。
まず、基本的な知識の習得のために、専門書や文献、オンライン学習資源などを活用します。
解剖学、生理学、薬理学などの基礎知識と、実施する行為の目的、方法、リスクなどの専門知識を深めることが重要です。
次に、実技練習のためにシミュレーション学習を活用します。
多くの施設では、モデル人形や模擬環境でのトレーニングが可能です。
また、専門的な研修プログラムや、認定資格の取得も効果的です。
実施頻度の少ない行為については、定期的な実技研修で技術を維持することが重要です。
さらに、実際の臨床での経験を積み、先輩看護師や医師からのフィードバックを受けることで、実践的な技術が向上します。
また、実施後の振り返りや事例検討を通じて、自己の技術を客観的に評価し、改善点を見出すことも大切です。
技術向上は一朝一夕ではなく、継続的な学習と実践の積み重ねが重要です。
Q4: チーム医療における効果的なコミュニケーション方法は何ですか。
A4: チーム医療における効果的なコミュニケーション方法としては、以下のようなものがあります。
まず、構造化されたコミュニケーションツールの活用が有効です。
例えば、SBAR(Situation:状況、Background:背景、Assessment:評価、Recommendation:提案)は、簡潔かつ網羅的に情報を伝える方法として広く用いられています。
特に、緊急時や重要な報告の際に有用です。
次に、定期的なカンファレンスやラウンドの実施も重要です。
多職種が一堂に会して情報共有し、治療方針や課題について議論することで、チームの一体感と相互理解が深まります。
また、電子カルテなどの情報共有ツールの活用も効果的です。
リアルタイムで情報を更新し、チーム全体で共有することで、情報の齟齬を防ぎます。
さらに、オープンな質問と傾聴の姿勢も大切です。
特に、経験の少ないスタッフが質問しやすい環境作りが、医療安全の向上につながります。
コミュニケーションの障壁となる職種間の壁を取り払い、患者中心のチーム医療を実現するためには、相互尊重と信頼関係の構築が基盤となります。
特定行為・タスクシフトに関する質問
Q1: 特定行為研修を受講するメリットは何ですか。
A1: 特定行為研修を受講するメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
まず、専門的な知識と技術の習得により、より高度な医療行為を実践できるようになります。
これにより、患者にタイムリーな医療を提供し、早期回復や苦痛軽減に貢献できます。
次に、キャリアアップにつながります。特定行為研修修了者としての専門性を活かし、チーム医療のキーパーソンとして活躍できます。
さらに、医師との協働関係が深まり、より広い視点で医療を捉えることができるようになります。
特に「医学的視点」を取り入れた看護実践が可能になり、看護の質向上にもつながります。
また、施設によっては、特定行為研修修了者に対する手当や、専門的な役割の付与などの処遇改善があることもあります。
さらに、医師の働き方改革が進む中で、特定行為研修修了看護師の需要は今後さらに高まることが予想され、就職や転職の際にも有利になる可能性があります。
ただし、研修には時間と費用がかかることや、修了後に特定行為を実践するためには施設の理解と体制整備が必要であることなど、考慮すべき点もあります。
Q2: タスク・シフト/シェアの推進により、看護師の業務はどのように変化していくと予想されますか。
A2: タスク・シフト/シェアの推進により、看護師の業務は以下のように変化していくと予想されます。
まず、医師から看護師へのタスク・シフトにより、これまで医師が行っていた一部の医療行為が看護師の業務に加わります。
具体的には、静脈路確保、尿道カテーテル留置、直腸内投薬などが、より明確に看護師の業務として位置づけられています。
特に、特定行為研修修了看護師は、より高度な医療行為を担うことが期待されています。
一方で、看護師から他職種へのタスク・シフトも進んでいます。
看護補助者への清潔ケアや移送業務の委譲、薬剤師への薬剤関連業務の委譲、リハビリテーションスタッフへの早期離床支援の委譲などが進められています。
これにより、看護師はより専門性の高い業務に集中できるようになります。
また、多職種連携がさらに重要になり、看護師はチーム医療のコーディネーターとしての役割がより強調されていくでしょう。
一方で、業務範囲の拡大に伴う責任の増大や、教育・研修の必要性の高まりなど、新たな課題も生じることが予想されます。
このような変化に適応するためには、継続的な学習と、変化を前向きに捉える柔軟な姿勢が重要になります。
Q3: 特定行為研修を修了していなくても実施できる診療補助行為と、特定行為研修が必要な行為の違いは何ですか。
A3: 特定行為研修を修了していなくても実施できる診療補助行為と、特定行為研修が必要な行為の違いは主に以下の点にあります。
特定行為は、「診療の補助であり、看護師が手順書により行う場合には、実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされるもの」と定義されています。
つまり、高度な判断力や技術が必要であり、リスクが相対的に高い行為です。
具体的には、気管カニューレの交換、中心静脈カテーテルの抜去、人工呼吸器の設定変更などが特定行為に指定されています。
一方、一般的な診療補助行為は、医師の具体的指示のもとで実施され、相対的にリスクが低いか、標準化された手順で実施できる行為です。
例えば、静脈採血、末梢静脈路確保、点滴の準備と実施などは、適切な研修を受けた一般の看護師が実施できます。
ただし、施設の方針や個々の看護師の経験・能力によっても、実施できる行為の範囲は異なります。
また、特定行為であっても、医師の具体的指示のもとであれば、特定行為研修を修了していない看護師も実施できる場合があります。
重要なのは、各行為のリスクと、必要な知識・技術を理解したうえで、自己の能力の範囲内で安全に実施することです。
Q4: 特定行為研修修了後、実際に特定行為を実施するためには何が必要ですか。
A4: 特定行為研修修了後、実際に特定行為を実施するためには、以下のような準備と体制が必要です。
まず、医師と協働で手順書を作成することが不可欠です。
手順書には、行為の内容、対象患者の病状範囲、実施の判断に必要な検査、判断の基準、医師への報告のタイミングなどを具体的に記載します。
次に、施設内での位置づけと活動体制の整備が必要です。
特定行為研修修了看護師の役割や権限、活動範囲などを明確にし、施設内で周知します。
医師や他の看護師との連携・報告体制も整備しておくことが重要です。
また、施設によっては、特定行為の実施に関する院内認定や、実技確認などのプロセスが設けられている場合もあります。
さらに、実施した特定行為の記録方法や、評価・見直しの方法も事前に決めておく必要があります。
特定行為を安全に実施するためには、技術の維持・向上に向けた継続的な学習も重要です。
特に、実施頻度が少ない行為については、定期的なシミュレーション訓練などで技術を維持することが推奨されます。
特定行為を実施するための体制整備は、医師の理解と協力が不可欠であり、医師と看護師の良好な協働関係が基盤となります。
参考事例
診療補助業務の実践において参考となる具体的な事例を集めました。
実際の臨床場面での判断や対応のポイントを解説しています。
点滴関連トラブル対応事例
事例1: 80歳女性、心不全で入院中。右前腕に末梢静脈路を確保し、カルペリチド(ハンプ)を持続点滴中。
夜間帯に点滴刺入部の腫脹と疼痛の訴えがあり、看護師が確認したところ、血管外漏出を認めた。
対応のポイント:この事例では、まず点滴を中止し、患者の状態評価を行うことが最優先です。
血管外漏出を起こした薬剤(カルペリチド)は、血管収縮作用はないため組織障害のリスクは低いですが、漏出量や範囲、患者の症状記録監査の方法には、「定期的監査」と「テーマ別監査」があります。
定期的監査では、一定期間ごとに無作為抽出した記録を評価します。
テーマ別監査では、特定の診療補助業務(例:輸血管理、中心静脈カテーテル管理など)に焦点を当てた監査を行います。
監査の実施者としては、看護管理者、医療安全管理者、記録委員会のメンバーなどが考えられます。
また、多職種による監査も有効で、医師や薬剤師、リスクマネージャーなどの視点を取り入れることで、より多角的な評価が可能になります。
監査の評価項目としては、「必須項目の記載の有無」「患者確認プロセスの記載」「医師の指示確認の記載」「実施内容の具体的記載」「患者の反応や状態変化の記載」「合併症の有無の記載」「実施者の署名」などが挙げられます。
これらの項目について、評価基準を明確にし、点数化することも一つの方法です。
血管外漏出を起こした薬剤(カルペリチド)は、血管収縮作用はないため組織障害のリスクは低いですが、漏出量や範囲、患者の症状を詳細に観察する必要があります。
具体的には、点滴ラインを抜去し、漏出部位を軽くマッサージして薬液の拡散を促進します。
漏出部の発赤、腫脹、疼痛の程度を確認し、患者の苦痛を軽減するために冷罨法を施行します。
また、漏出時の状況(推定漏出量、漏出範囲、発見時の状態など)を詳細に記録し、医師に報告します。
医師の指示により、新たな血管確保の必要性を検討し、必要に応じて他部位での静脈路確保を行います。
高齢者の場合、皮膚や血管が脆弱なため、血管外漏出のリスクが高くなります。
点滴刺入部の固定方法や、定期的な観察の頻度を見直すことも重要です。
この事例からの学び:高齢者や循環不全のある患者では血管外漏出のリスクが高いため、点滴刺入部の頻回な観察が必要です。
また、点滴刺入部の違和感や疼痛を訴えられない患者も多いため、定期的な視診・触診による確認が重要です。
血管外漏出を早期発見するための観察ポイントを、チーム内で共有することも有効です。
事例2: 65歳男性、胃がん術後。中心静脈カテーテル(CVC)から高カロリー輸液を投与中。
夜間に突然の呼吸困難と胸痛を訴え、SpO2の低下を認めた。CVC挿入から3日目であった。
対応のポイント:この症状は、中心静脈カテーテル関連の合併症である気胸や空気塞栓症、カテーテル先端の位置異常などを疑う必要があります。
まず、患者のバイタルサインを確認し、意識レベル、呼吸状態、循環動態を評価します。
酸素投与を開始し、必要に応じてベッド上安静とし、左側臥位(空気塞栓が疑われる場合)をとります。
速やかに医師に報告し、診察と胸部X線検査などの指示を仰ぎます。
気胸が疑われる場合は、呼吸音の左右差やチアノーゼの有無なども確認します。
カテーテルの破損や接続部の緩みがないかも確認し、必要に応じて輸液を一時中断します。
医師の指示に従い、必要な検査(胸部X線、心電図、血液ガス分析など)の準備と介助を行います。
診断に基づいて、カテーテルの抜去や再挿入、胸腔ドレナージなどの処置が必要になる場合もあります。
この事例からの学び:中心静脈カテーテル管理においては、挿入時だけでなく、留置中の合併症にも注意が必要です。
特に、呼吸困難や胸痛などの症状が突然出現した場合は、カテーテル関連合併症を念頭に置いた迅速な対応が重要です。また、リスクの高い処置後の患者教育も重要で、違和感や症状があれば遠慮なく知らせるよう説明しておくことが大切です。
特定行為実践事例
事例1: 70歳男性、慢性呼吸不全で在宅酸素療法中。
気管切開状態で、定期的な気管カニューレ交換が必要。
訪問看護ステーションの特定行為研修修了看護師が、医師の作成した手順書に基づいて気管カニューレの定期交換を実施。
実践のポイント:特定行為「気管カニューレの交換」の実践には、以下のポイントが重要です。
まず実施前に、患者の呼吸状態、全身状態、発熱の有無、気管分泌物の性状などを評価します。
手順書に定められた実施条件(発熱がない、呼吸状態が安定しているなど)を満たしていることを確認します。
実施にあたっては、必要物品(新しいカニューレ、同サイズの予備カニューレ、滅菌手袋、消毒液など)を準備し、患者と家族に実施内容を説明して同意を得ます。
無菌操作を徹底し、気管内の吸引を十分に行ってから交換します。
交換中は患者の呼吸状態と酸素飽和度を継続的にモニタリングします。
交換後は、カニューレの固定状態、両側の呼吸音、酸素飽和度、患者の呼吸状態や不快感の有無などを確認します。
実施内容と患者の状態を詳細に記録し、手順書に従って医師に報告します。
次回の交換予定日や、緊急時の対応についても患者と家族に説明します。
この事例の意義:特定行為研修修了看護師による在宅での気管カニューレ交換は、患者の通院負担の軽減や、タイムリーな医療提供に貢献します。
また、定期的な訪問により、早期に呼吸器合併症を発見し、予防することも可能になります。
医師との連携と信頼関係が基盤となり、患者を中心としたチーム医療の推進につながる事例です。
事例2: 65歳女性、糖尿病性腎症で透析中。下肢の糖尿病性潰瘍があり、特定行為研修修了看護師が、医師の作成した手順書に基づいて、血流のない壊死組織のデブリードメントを実施。
実践のポイント:特定行為「褥瘡または慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去」の実践には、以下のポイントが重要です。
まず実施前に、創部の状態(大きさ、深さ、壊死組織の範囲、分泌物、臭気など)と、患者の全身状態(栄養状態、血糖コントロール、末梢循環など)を詳細に評価します。
手順書に定められた実施条件(明らかな感染徴候がない、出血傾向がないなど)を満たしていることを確認し、患者に説明して同意を得ます。
実施にあたっては、疼痛管理に配慮し、必要に応じて局所麻酔や鎮痛薬の使用を検討します。
無菌操作を徹底し、適切な器具(ハサミ、ピンセット、メスなど)を用いて、壊死組織のみを選択的に除去します。
実施後は、出血の有無、創部の状態、患者の疼痛などを確認し、適切な創傷被覆材を選択して貼付します。
実施内容と創部の状態を詳細に記録し、手順書に従って医師に報告します。
次回の処置予定や、創部の自己管理方法についても患者に説明します。
この事例の意義:特定行為研修修了看護師による壊死組織のデブリードメントは、創傷治癒の促進と感染予防に貢献します。
特に慢性創傷の管理は長期にわたるため、患者の生活背景や心理的側面も考慮した包括的なケアが可能になります。
医師による診察と特定行為研修修了看護師による処置を組み合わせることで、効率的かつ質の高い創傷管理が実現します。
医療安全に関する事例
事例1: 50歳男性、交通事故による多発骨折で入院中。医師の指示で、モルヒネ塩酸塩注射液10mg静脈内投与の指示があった。
看護師Aは、誤ってモルヒネ塩酸塩注射液100mgを準備してしまった。
しかし、投与直前に、ダブルチェックをしていた看護師Bが誤りに気づき、未然に防止された。
分析と対策:この事例の根本原因としては、似た外観の薬剤の保管方法、確認プロセスの不備、業務の集中と中断などが考えられます。
誤りが発見されたのは、投与前のダブルチェックというシステムが機能したからです。
再発防止策としては、まず薬剤の管理方法の見直しが必要です。
高濃度のモルヒネなどのハイリスク薬は、通常濃度の薬剤と明確に区別して保管し、取り出す際の注意喚起(警告ラベルなど)を強化します。
次に、ダブルチェックの方法を標準化し、単なる確認作業ではなく、それぞれが独立して計算・確認するプロセスを確立します。
また、与薬業務中の中断を最小限にするための環境整備や、「5つのRight」(Right Patient、Right Drug、Right Dose、Right Route、Right Time)の確認の徹底などの基本的対策も重要です。
薬剤部と連携した安全対策(例:ハイリスク薬の希釈剤の標準化、薬剤師の関与拡大など)も検討します。
事例を共有し、類似事例の防止に向けた教育・啓発活動も実施します。
この事例の教訓:ハイリスク薬の投与は、複数の安全対策(保管方法の工夫、ダブルチェック、標準化されたプロセスなど)を組み合わせることが重要です。
また、「うっかりミス」は誰にでも起こりうるという前提に立ち、個人の注意喚起だけでなく、システムとして事故を防止する仕組みの構築が必要です。
組織の安全文化として、ヒヤリハット事例を積極的に報告・共有し、改善につなげる姿勢が大切です。
事例2: 75歳女性、脳梗塞後のリハビリテーション目的で入院中。嚥下障害があり、経鼻胃管から注入食を投与していた。
朝の注入食投与時、看護師Cは別の患者への対応に追われており、患者確認が不十分なまま、同室の別の患者(80歳女性、経鼻胃管あり)に注入食を投与してしまった。
幸い、両者とも同じ組成の注入食であったため、重篤な有害事象には至らなかった。
分析と対策:この事例の根本原因としては、患者確認プロセスの不備、業務の中断と焦り、同室に類似した状態の患者が複数いたことなどが考えられます。
再発防止策としては、まず患者確認のプロセスを厳格化します。
注入食の投与前には必ずベッドネームと患者リストバンドを確認する、または患者本人に名乗ってもらうなどの方法を徹底します。
次に、注入食の準備段階でも患者確認を行い、注入食のボトルやシリンジに患者氏名を明記します。
また、業務環境の改善も重要です。
注入食投与などの重要な業務中は中断しないよう、チームでサポートする体制を整えます。
さらに、類似した状態の患者については、ベッド配置の工夫や、視覚的な識別方法(カラーバンドなど)の導入も検討します。
事例を共有し、類似事例の防止に向けた教育・啓発活動も実施します。
この事例の教訓:患者確認は医療安全の基本中の基本であり、どんなに急いでいても省略してはならないプロセスです。
特に、類似した状態の患者が複数いる場合や、業務が中断される状況では、注意が散漫になりやすいため、より慎重な確認が必要です。
また、「焦り」や「慣れ」が事故につながることを認識し、常に基本に立ち返る姿勢が重要です。
チーム全体で安全文化を醸成し、互いに声をかけ合える環境づくりも大切です。
インフォームドコンセントに関する事例
事例1: 60歳男性、肺がんの化学療法目的で入院。
抗がん剤(シスプラチン)の投与前に、医師から副作用や注意点について説明がされたが、患者は専門用語が多く十分理解できなかった。
担当看護師は、患者の表情から理解が不十分と感じ、医師の説明後に改めて患者に確認したところ、「先生の説明は難しくてよくわからなかった」との発言があった。
対応のポイント:この事例では、看護師は患者の理解度を適切に評価し、補足説明を行う役割を担います。
まず、患者が具体的にどの部分を理解していないかを確認します。
専門用語を平易な言葉に置き換えたり、イラストや模型を用いたりして、わかりやすく説明します。
また、患者が質問しやすい雰囲気を作り、疑問点を引き出します。
必要に応じて、家族にも同席してもらうことも検討します。
患者の理解度を確認しながら進め、「復唱」や「教え返し」の方法を用いて、理解度を評価します。
患者の理解が不十分であると判断した場合は、医師にその旨を伝え、再度説明の機会を設けることも必要です。
患者の理解と同意なしに治療を進めることは避けるべきです。
また、説明内容を文書化し、患者に渡すことも有効です。
後日、再度質問できる機会があることも伝えておきます。
この事例の意義:インフォームドコンセントは、単に説明して同意書にサインをもらうだけの形式的なプロセスではなく、患者が十分に理解したうえで自己決定するための重要なプロセスです。
看護師は、医師と患者の橋渡し役として、患者の理解度を評価し、必要な補足説明を行う重要な役割を担っています。
患者中心の医療を実現するためには、多職種が協働してインフォームドコンセントのプロセスを支援することが不可欠です。
事例2: 85歳女性、認知症があり、尿路感染症で入院。膀胱留置カテーテルの挿入が必要となったが、患者は処置の必要性を理解できず、拒否する場面があった。
家族は遠方に住んでおり、すぐには来院できない状況だった。
対応のポイント:この事例では、認知症患者への説明と同意取得、そして患者の意思を尊重しながらも必要な医療を提供するという難しい判断が求められます。
まず、患者の認知機能の程度を評価し、理解できる範囲での説明を試みます。簡潔で具体的な言葉を使い、視覚的な補助材料も活用します。
患者が処置を拒否する理由(恐怖心、羞恥心、過去の嫌な経験など)を理解しようと努め、それに対応する工夫をします。
例えば、同性の看護師が担当する、プライバシーに配慮する、処置の前にリラックスできる時間を設けるなどです。
強制的な処置は避け、患者の意思を尊重することが基本ですが、医学的に必要性が高く、代替手段がない場合は、家族への連絡と説明を行います。
家族とは電話で状況を説明し、患者の普段の様子や効果的なコミュニケーション方法についての情報を得ることも有効です。
また、病院の倫理委員会や認知症ケアチームなどに相談し、多職種での検討を行うことも検討します。
この事例の意義:認知症患者へのインフォームドコンセントは、通常のプロセスが適用できないことが多く、患者の意思尊重と医学的必要性のバランスを取ることが求められます。
その際、患者の最善の利益を第一に考え、多職種での検討や家族との連携が重要になります。
また、認知症患者の意思表示をどう解釈し尊重するかという倫理的課題についても、日頃からチームで議論しておくことが大切です。
まとめ
本ガイドでは、看護師の診療補助業務について、業務範囲から法的根拠、実践方法、責任範囲、記録管理まで体系的に解説しました。
診療補助業務は医師の指示のもと行われる医療行為であり、その実践には確かな知識と技術が不可欠です。
医療の高度化と医師の働き方改革に伴い、特定行為研修制度の重要性も増しています。
看護師は法的責任を理解し、安全で質の高い診療補助業務を通じて、チーム医療の要としての役割を果たしましょう。
さらに詳しい情報や、看護師としてのキャリアアップに関する情報は、【はたらく看護師さん】看護師のためのサイト・キャリア支援サイトをご覧ください。
最新の医療情報や特定行為研修の体験談、診療補助業務に関するQ&Aなど、実践に役立つコンテンツが充実しています。
【はたらく看護師さん】では、会員登録いただくと、診療補助業務に関する詳細マニュアルのダウンロードや、オンライン相談、キャリアアドバイザーによる個別サポートなど、さらに充実したサービスをご利用いただけます。
日々進化する医療現場で活躍する看護師をサポートする情報が満載ですので、ぜひご活用ください。