バイタルサイン

【看護学生のための患者観察ポイント】活かせる観察技術の基本や一連のプロセスを解説

看護ケアの質を高める基本となるのが、正確な患者観察です。

この記事では、臨床実習や将来の看護実践で活用できる観察技術について、最新の知見を交えながら詳しく解説します。患者の些細な変化も見逃さない観察力を身につけ、アセスメントから記録・報告まで、一連のプロセスを効果的に実践できるようになりましょう。

この記事を読むと患者観察のポイントを網羅できます。

この記事で分かること

  • 系統的な患者観察の手順とポイント、および症状把握と早期発見方法
  • 効果的な記録の書き方と報告基準
  • 実習現場での観察アプローチと精度向上テクニック

この記事を読んでほしい人

  • 臨床実習前の看護学生、および基礎看護技術の復習を希望する1-2年生の方
  • 観察力とアセスメント能力の向上を目指す学生の方
  • 記録・報告に不安を感じている実習生の方

系統的な患者観察の基本

患者観察は看護ケアの出発点であり、その精度は看護実践の質を大きく左右します。

ここでは、効果的な観察を行うための基本的な考え方と具体的な技術について解説します。

観察の3つの基本姿勢

観察の質を高めるためには、まず適切な観察姿勢を身につけることが重要です。ここでは看護実践における3つの重要な観察姿勢について詳しく説明します。

客観的な視点の保持

患者観察において最も重要なのは、客観的な視点を持つことです。先入観や思い込みにとらわれることなく、目の前の事実を正確に捉える必要があります。

具体的な数値やデータを重視し、主観的な印象と客観的な所見を明確に区別することで、より正確な観察が可能となります。また、他者と共有可能な表現を用いることで、チーム医療における情報共有の質も向上します。

継続的な観察の実施

患者の状態は刻々と変化するため、一時点の観察だけでは不十分です。定期的な再評価と経時的な変化の把握が重要となります。

前回の観察結果と比較することで、わずかな変化も見逃さず、早期発見につなげることができます。特に急性期の患者さんでは、vital signsの変動や症状の進行を細かく観察することが求められます。

全体像の把握

患者さんを理解する際には、身体的な側面だけでなく、精神面や社会的背景も含めた全体像を把握することが重要です。

患者の生活環境や家族関係、社会的役割なども考慮に入れることで、より適切なケアの提供が可能となります。また、患者さんの価値観や希望を理解することで、個別性の高い看護計画を立案することができます。

観察の基本技術

基本的な観察技術には、視診、触診、聴診、打診があります。それぞれの技術を正しく理解し、適切に実施することが重要です。以下、各技術の具体的な実施方法について解説します。

視診の実施方法

視診は最も基本的な観察技術です。全身の状態から局所の変化まで、系統的に観察を行います。まず全体的な印象を捉え、次に部位ごとの詳細な観察へと進みます。左右差の有無や色調の変化、腫脹の有無などを確認します。また、表情や動作からも多くの情報を得ることができます。

触診のテクニック

触診では、手指の感覚を最大限に活用します。温度、硬度、振動、脈拍など、多くの情報を得ることができます。触診を行う際は、患者さんに声をかけ、適切な圧で優しく触れることが重要です。また、左右差の確認や深部触診など、目的に応じて適切な手技を選択します。

聴診の基本

聴診器を使用する際は、周囲の騒音に注意を払い、適切な聴診部位を選択します。呼吸音や心音、腸蠕動音など、目的に応じて聴診部位や聴診時間を調整します。また、正常音と異常音の違いを理解し、わずかな変化も見逃さないよう注意を払います。

打診の実施手順

打診は主に胸部や腹部の検査で用います。適切な強さと角度で打診を行い、得られた音の性質から臓器の位置や大きさ、内部の状態を判断します。打診音の違いを正確に判断できるよう、繰り返し練習することが重要です。

バイタルサイン測定と評価

バイタルサインは患者の生命徴候を示す重要な指標です。正確な測定技術と適切な評価能力は、看護師として必須のスキルとなります。

ここでは、各バイタルサインの測定方法と評価のポイントについて詳しく解説します。

体温測定の実践

体温測定は患者の健康状態を把握する基本的な指標です。デジタル体温計が主流となった現在でも、測定部位の選択や測定時の注意点を理解することが重要です。

測定部位の選択

腋窩温度は最も一般的な測定方法です。測定時は腋窩を十分に乾燥させ、体温計の感温部を確実に腋窩中心に密着させます。舌下温や直腸温など、状況に応じて適切な測定部位を選択することも重要となります。

正確な測定のためのポイント

測定値に影響を与える要因として、運動後、食事後、入浴後などの体温変動を考慮する必要があります。また、測定環境の温度や、患者の体動なども測定値に影響を与えるため、これらの要因を適切にコントロールすることが求められます。

脈拍測定の技術

脈拍測定では、回数だけでなく、リズム、緊張度、左右差なども重要な観察項目となります。

触診による脈拍測定

橈骨動脈での脈拍測定が最も一般的です。第2-3指の指腹を使用し、適度な圧で触知します。15秒間の測定値を4倍して1分間の脈拍数を算出しますが、不整脈が疑われる場合は1分間通して測定を行います。

脈拍の質的評価

脈拍の大きさ、リズム、緊張度を評価します。特に不整脈の有無や、脈拍の欠損の確認は重要です。また、末梢循環不全の早期発見のため、四肢の脈拍触知も定期的に実施します。

血圧測定のテクニック

血圧測定は循環動態を評価する上で重要な指標です。正確な測定値を得るためには、適切な手技と環境整備が不可欠です。

測定環境の整備

安静時の血圧を測定するため、測定前に5分程度の安静を確保します。測定環境の温度や騒音にも配慮が必要です。また、患者の体位や腕の位置にも注意を払い、心臓の高さで測定することが重要です。

測定手順と注意点

カフの巻き方や加圧の程度、減圧速度など、基本的な手技を確実に実施します。また、白衣高血圧や機器の特性による誤差なども考慮に入れ、状況に応じて複数回の測定を行います。

呼吸の観察と測定

呼吸の観察は、回数だけでなく、呼吸の質や呼吸パターンの評価も重要です。患者の状態を正確に把握するため、複合的な視点での観察が必要となります。

呼吸数の測定方法

呼吸数の測定は患者に意識させないよう、脈拍測定時などに合わせて実施します。胸腹部の動きを観察しながら、30秒間の呼吸回数を数えて2倍し、1分間の呼吸数を算出します。呼吸が不規則な場合は1分間通しての測定が必要です。

呼吸の質的評価

呼吸の深さ、リズム、呼吸様式(胸式呼吸か腹式呼吸か)を観察します。また、呼吸音の性状や左右差、呼吸補助筋の使用有無なども重要な観察項目となります。チアノーゼの有無や呼吸困難の程度についても併せて評価を行います。

症状別観察ポイント

症状に応じた的確な観察は、患者の状態変化を早期に発見し、適切な対応につなげるために不可欠です。

このセクションでは、各症状の特徴や、重点的に観察すべきポイントについて紹介します。この内容を理解することで、より効果的な看護ケアが可能となります。

呼吸器系症状の観察

呼吸器系の症状は生命に直結する重要な観察項目です。呼吸困難や咳嗽、喀痰など、それぞれの症状について詳細な観察と適切な評価が求められます。

呼吸困難の評価

呼吸困難の程度は、会話や日常生活動作への影響から判断します。また、体位による症状の変化や、酸素飽和度の値との関連性も重要な評価項目となります。呼吸困難を訴える患者には、速やかに楽な体位を確保し、必要に応じて酸素投与の準備を行います。

咳嗽と喀痰の観察

咳嗽の性状(乾性か湿性か)や発生時期、増悪因子などを確認します。喀痰については、量、性状、色調、臭気などを詳細に観察し、記録します。血痰の有無は特に重要な観察項目となります。

循環器系症状の観察

循環器系の症状は、緊急性の高い状態につながる可能性があるため、迅速な観察と評価が必要です。胸痛や動悸、浮腫など、各症状の特徴を理解し、適切な観察を行います。

胸痛の詳細な観察

胸痛の性状、部位、持続時間、放散痛の有無などを詳しく確認します。また、増悪因子や軽快因子、随伴症状の有無についても聴取します。狭心症を疑う場合は、バイタルサインの測定と心電図モニタリングを速やかに実施します。

動悸の評価方法

動悸の発生状況や持続時間、随伴症状について詳しく観察します。特に意識状態の変化や血圧低下などの危険な徴候がないかを確認します。また、日常生活での誘因や生活習慣との関連性についても評価を行います。

消化器系症状の観察

消化器系の症状は患者のQOLに大きく影響します。適切な観察と評価により、早期の対応と症状緩和が可能となります。

嘔気・嘔吐の観察

嘔気・嘔吐の発生時期や頻度、性状、量について詳細に観察します。また、食事との関連性や、脱水症状の有無についても注意深く評価します。嘔吐物の性状は、原因疾患の推測や重症度の判断に重要な情報となります。

腹痛の評価

腹痛の部位、性状、強度を詳しく観察します。また、痛みの移動の有無や、体位による症状の変化についても確認します。腹部の触診所見や腸蠕動音の聴取結果も併せて評価し、緊急性の判断を行います。

神経系症状の観察

神経系の症状は、迅速な対応が求められる場合が多く、系統的な観察と正確な評価が特に重要です。

意識レベルの評価

意識レベルの評価はJCSやGCSなどの評価スケールを用いて客観的に行います。また、瞳孔径や対光反射、運動機能、感覚機能についても詳細に観察します。意識レベルの変化は、経時的な評価と記録が特に重要となります。

運動・感覚機能の観察

麻痺や筋力低下、感覚障害の有無を確認します。上下肢の動きや握力、歩行状態など、具体的な機能評価を行います。また、しびれや痛みなどの感覚症状についても、部位や程度を詳しく観察します。

運動器系症状の観察

運動器系の症状は、患者の日常生活動作に直接影響を与えます。適切な観察と評価により、効果的なリハビリテーション計画の立案が可能となります。

関節可動域の評価

関節の可動域制限や疼痛の有無を確認します。また、日常生活動作への影響度や、補助具の必要性についても評価します。リハビリテーションの進行状況に応じて、定期的な再評価を行います。

重症度評価とアセスメント

患者の状態を適切に評価し、必要な看護介入を判断するためには、系統的な重症度評価とアセスメントが不可欠です。

ここでは、臨床現場で活用できる具体的な評価方法について解説します。

重症度評価の基準

重症度評価は患者の状態を客観的に判断し、適切な看護ケアを提供するための基礎となります。生理学的指標や日常生活動作の自立度など、多角的な視点での評価が必要です。

フィジカルアセスメントの実際

バイタルサインの測定結果や身体症状の有無、検査データの推移など、客観的な指標を総合的に評価します。特に呼吸・循環動態の安定性や意識レベルの変化には注意を払い、異常の早期発見に努めます。

生活機能の評価

食事、排泄、清潔保持など、基本的な日常生活動作の自立度を評価します。また、疾患や治療が生活機能に与える影響についても考慮し、必要な援助の程度を判断します。

優先順位の決定

複数の問題を抱える患者のケアでは、適切な優先順位の決定が重要です。生命への危険度や症状の緊急性を考慮しながら、効果的なケア計画を立案します。

緊急性の判断

生命に直結する症状や急激な状態変化には、最優先で対応する必要があります。バイタルサインの異常や意識レベルの低下、重篤な症状の出現などは、即座に医師への報告と必要な対応が求められます。

患者ニーズの把握

患者の訴えや希望を傾聴し、QOL向上のために必要なケアの優先度を判断します。また、家族の意向や社会的背景なども考慮に入れ、総合的な視点でケア計画を立案します。

アセスメントツールの活用

客観的な評価を行うため、各種アセスメントツールを適切に活用することが重要です。状況に応じて最適なツールを選択し、正確な評価を心がけます。

スケールの選択と使用方法

疼痛評価のNRSやVAS、褥瘡リスク評価のブレーデンスケール、せん妄評価のCAM-ICUなど、目的に応じた適切なスケールを選択します。各スケールの特徴と限界を理解し、適切に活用することが重要です。

経時的評価の重要性

患者の状態は刻々と変化するため、定期的な再評価と記録が重要となります。特に急性期の患者や状態が不安定な患者では、より頻回な観察と評価が必要です。

評価間隔の設定

患者の状態や治療段階に応じて、適切な評価間隔を設定します。急性期では数時間ごと、安定期では1日1回など、状況に応じて柔軟に対応します。また、症状の変化や新たな治療開始時には、評価頻度を見直す必要があります。

変化の記録と分析

経時的な変化を正確に記録し、傾向分析を行います。バイタルサインの推移や症状の変化、治療への反応など、客観的なデータの蓄積と分析が重要です。

効果的な記録方法

看護記録は医療の質を保証し、チーム医療を支える重要な文書です。

ここでは、正確で効果的な記録の作成方法について解説します。

基本的な記録の書き方

看護記録には客観性、正確性、簡潔性が求められます。事実に基づいた記述と、必要十分な情報の記載を心がけます。

記録の基本原則

主観的情報と客観的情報を明確に区別して記載します。また、時系列に沿った記録と、重要な情報の漏れがないよう注意を払います。医療者間で共通認識を持てるよう、標準化された用語や略語を適切に使用します。

記録の構成要素

患者の訴え、観察結果、実施したケア、患者の反応など、必要な情報を漏れなく記載します。特に異常の発見や状態変化時には、発見時の状況や対応内容を詳細に記録します。

SOAPの活用方法

SOAP形式の記録は、問題志向型の記録方式として広く普及しています。各項目の特徴を理解し、適切な記載を心がけます。

主観的情報(S)の記載

患者の訴えや感覚、家族からの情報など、主観的な情報を記載します。会話内容はできるだけ患者の言葉をそのまま用い、より正確な情報伝達を心がけます。

客観的情報(O)の記載

観察結果やバイタルサイン、検査データなど、客観的に確認できる情報を記載します。測定値や観察事項は具体的な数値や状態を明記し、あいまいな表現は避けます。

アセスメント(A)の記載

収集した情報を分析し、患者の状態や問題点を評価します。アセスメントには看護師の専門的判断を含め、その根拠となる情報も併せて記載します。

計画(P)の記載

アセスメントに基づいて立案した看護計画や、実施予定の看護介入について記載します。具体的な目標設定と介入方法を明確にし、評価計画も含めて記録します。

電子カルテの使用

電子カルテシステムでの記録には、システムの特性を理解し、効率的な記録方法を身につけることが重要です。

テンプレートの活用

よく使用する記録項目はテンプレート化し、効率的な記録を心がけます。ただし、個別性を考慮し、必要に応じて追加・修正を行います。

システム操作の注意点

誤入力や入力モレを防ぐため、入力後の確認を徹底します。また、システムトラブル時の対応方法についても、あらかじめ理解しておく必要があります。

記録の法的側面

看護記録は法的文書としての側面も持ちます。記録の作成と保管には、法的要件を満たす必要があります。

記録の要件

日時、記録者、実施者を明確にし、事実に基づいた客観的な記載を心がけます。訂正が必要な場合は、定められた方法で適切に対応します。

個人情報の保護

患者の個人情報保護に十分注意を払い、記録の閲覧や取り扱いには慎重を期します。また、記録の開示請求への対応についても理解しておく必要があります。

報告・連絡・相談

医療チームでの効果的なコミュニケーションは、安全で質の高い医療を提供するために不可欠です。

ここでは、適切な報告・連絡・相談の方法について解説します。

SBAR手法の詳細

SBAR(エスバー)は、医療現場での簡潔で効果的なコミュニケーション手法です。状況、背景、評価、提案の順で情報を整理し、伝達します。

状況(Situation)の伝え方

まず患者の現在の状況を簡潔に説明します。患者の基本情報と、報告が必要となった直接の理由を明確に伝えます。伝える内容は要点を絞り、重要な情報から優先的に報告します。

背景(Background)の説明

患者の既往歴や現病歴、これまでの経過など、状況の理解に必要な背景情報を提供します。特に現在の状況に関連する重要な情報を選択して伝えます。

評価(Assessment)の共有

現状のアセスメント結果を伝えます。観察結果や検査データに基づく判断、予測される展開について、自身の見解を述べます。根拠となる情報も併せて報告します。

提案(Recommendation)の実施

状況改善のために必要と考える対応や支援を具体的に提案します。緊急性の判断も含め、実行可能な選択肢を示します。

緊急時の報告

緊急時には、より簡潔で的確な報告が求められます。状況の重大性を適切に伝え、必要な対応を迅速に実施することが重要です。

緊急度の判断

バイタルサインの急激な変化や意識レベルの低下など、生命に関わる徴候を見逃さず報告します。躊躇することなく、速やかに上級医や指導者への報告を行います。

簡潔な情報伝達

緊急時の報告では、最も重要な情報を最初に伝えます。患者の状態、必要な対応、現在実施している処置など、優先度の高い情報から順に報告します。時間の経過とともに状態が変化する場合は、変化の推移も含めて報告します。

多職種連携

チーム医療において、多職種間での効果的なコミュニケーションは必要不可欠です。それぞれの専門性を理解し、適切な情報共有を行うことが重要となります。

職種間の情報共有

医師、看護師、理学療法士、薬剤師など、各職種との円滑な情報共有を心がけます。専門用語の使用は相手に応じて適切に調整し、誤解のない communication を図ります。

カンファレンスでの発言

多職種カンファレンスでは、看護の視点からの観察結果や評価を簡潔に伝えます。患者の生活面での情報や、ケアの実施状況なども重要な共有事項となります。

申し送りのコツ

申し送りは、継続的な看護ケアを提供するための重要な情報伝達の機会です。必要な情報を漏れなく、効率的に伝達することが求められます。

重要事項の優先順位

患者の状態変化や新たな指示事項など、特に注意が必要な情報を優先的に伝えます。ルーチン業務に関する情報は、重要度に応じて簡潔に要約します。

継続課題の明確化

次勤務帯で継続して観察や対応が必要な事項を明確に伝えます。観察のポイントや、予測される状態変化についても情報共有を行います。

ケーススタディ:臨床実践における患者観察の実際

ここまで解説したポイントを実際にどのような形で使用していくのかを知ることはとても効果的です。

ここでは、さまざまな場面において患者観察をどのように行っていくのかを紹介していきます。

急性期看護における観察とケア

ケース1:術後早期のバイタルサイン管理

68歳の山田太郎さんは胃がんによる幽門側胃切除術を受けた直後である。術前から高血圧症と2型糖尿病があり、術後の血圧変動と血糖値管理が課題となっている。術直後のバイタルサインは、血圧156/92mmHg、脈拍92回/分、体温37.2℃、SpO2 95%(酸素2L/分投与下)であった。

腹部正中創からの浸出液は淡血性で、腹腔ドレーンからの排液量は術後2時間で80mlである。疼痛スケールはNRS7であり、硬膜外麻酔による疼痛管理を実施中である。手術侵襲による生体反応と疼痛による血圧上昇が予測されるため、15分間隔でのバイタルサイン測定と疼痛評価を継続している。

ケース2:呼吸器合併症予防の観察

74歳の佐藤花子さんは肺炎による呼吸不全で入院し、人工呼吸器管理となっている。COPDの既往があり、長期の喫煙歴を有する。人工呼吸器の設定はAC mode、FiO2 0.4、PEEP 5cmH2O、PS 8cmH2Oである。呼吸数は22回/分、SpO2は94%で推移している。

両側の呼吸音は減弱しており、断続的な湿性ラ音を聴取する。気管内吸引では黄緑色の粘稠痰を認め、1回の吸引で約3mlの喀痰を吸引している。

体位変換時にSpO2の一過性低下がみられ、吸入酸素濃度の一時的な上昇を要することがある。人工呼吸器関連肺炎の予防と早期離脱に向けて、呼吸状態の綿密な観察を継続している。

ケース3:循環動態不安定患者の管理

62歳の鈴木一郎さんは急性心筋梗塞で緊急カテーテル治療を受けた。右冠動脈#2に99%狭窄を認め、薬剤溶出性ステントを留置した。治療後、血圧88/52mmHg、脈拍112回/分とショック状態を呈している。心電図モニターではII、III、aVFでST上昇が残存し、時折PVCを認める。

末梢冷感が著明で、尿量は0.3ml/kg/hrと乏尿傾向にある。ドパミン5γの持続投与を開始し、輸液負荷を実施している。心原性ショックの進行が懸念されるため、血行動態の継続的なモニタリングと組織灌流の評価を重点的に行っている。

7.2 慢性期看護における継続観察

ケース4:糖尿病患者の自己管理支援

55歳の田中正子さんは2型糖尿病のコントロール不良で教育入院となった。HbA1c 10.2%、空腹時血糖値280mg/dlと著明な高値を示している。糖尿病性網膜症と早期腎症を合併しており、両下肢には軽度の浮腫を認める。食事摂取量は不規則で、運動習慣はない。

職場でのストレスが強く、自己血糖測定も不定期である。食事療法と運動療法の習慣化、ストレスマネジメントを含めた包括的な生活指導を実施している。合併症の進行予防と自己管理能力の向上を目指し、継続的な観察と支援を行っている。

ケース5:透析患者の水分管理

70歳の渡辺和子さんは慢性腎不全で週3回の血液透析を受けている。透析間の体重増加が著しく、しばしば5kgを超える。高血圧と心不全の既往があり、下肢浮腫と労作時呼吸困難を認める。食事制限への理解は不十分で、特に塩分制限が守れていない。

透析中は血圧低下を起こしやすく、除水に難渋することが多い。心胸比は58%で心拡大を認め、心エコーでは左室肥大と壁運動低下を指摘されている。水分制限の重要性と適切な食事管理について、理解度に合わせた指導を継続している。

7.3 高齢者看護における観察の特徴

ケース6:認知症患者の転倒予防

83歳の中村良子さんは、アルツハイマー型認知症のため介護老人保健施設に入所している。HDS-R 12点、MMSE 15点と認知機能の低下を認め、見当識障害と短期記憶障害が顕著である。夜間の徘徊があり、過去3ヶ月で2回の転倒歴がある。

両下肢の筋力低下と歩行時のふらつきを認め、TUGテストは18秒と延長している。必要な介助を拒否する傾向があり、転倒リスクの高い行動がみられる。生活リズムの調整と安全な環境整備を行いながら、ADLの維持と転倒予防に向けた観察と支援を継続している。

ケース7:終末期患者の緩和ケア

78歳の木村美智子さんは、膵臓がん末期で在宅療養中である。疼痛コントロールのためモルヒネ持続皮下注射を使用しているが、breakthrough painが出現している。食事摂取量は著しく低下し、1日あたり200ml程度の水分摂取も困難となっている。

全身倦怠感が強く、PS4の状態である。夜間の不眠と不安を訴え、家族の疲労も顕著になってきている。緩和ケアチームと連携しながら、症状マネジメントとQOL維持に向けた支援を実施している。定期的な訪問看護で、患者と家族の心身両面のケアを継続している。

7.4 周術期看護における観察とケア

ケース8:大腸がん術後患者の回復支援

65歳の小林健一さんは、上行結腸がんに対して腹腔鏡下結腸右半切除術を受けた術後3日目である。創部の疼痛はNRS4程度で、硬膜外麻酔による疼痛管理を継続している。腸蠕動音は弱いが聴取可能で、少量の排ガスを認める。術後イレウス予防のため、早期離床を進めている。

硬膜外麻酔による血圧低下と起立性低血圧に注意しながら、リハビリテーションを段階的に進めている。腹部正中創の状態は良好で、浸出液や発赤は認めていない。創部の観察と疼痛管理を継続しながら、術後合併症の予防に努めている。

ケース9:心臓手術後の呼吸循環管理

72歳の高橋正夫さんは、大動脈弁置換術後ICUに入室中である。人工呼吸器管理下で、Swan-Ganzカテーテルによる循環動態モニタリングを実施している。心拍数80回/分、心房細動、CI 2.2L/min/m2、CVP 12mmHg、PCWP 15mmHgである。

胸腔ドレーンからの排液量は術後12時間で350mlで、淡血性である。利尿薬の持続投与により、尿量は1.0ml/kg/hrを維持している。循環動態の安定化と呼吸状態の改善を目指し、バイタルサインと各種パラメータの継続的なモニタリングを行っている。

ケース10:整形外科術後のリハビリテーション

58歳の山本京子さんは、変形性膝関節症に対して人工膝関節置換術を受けた術後5日目である。術後の疼痛コントロールは良好で、CPMによる関節可動域訓練を実施中である。膝関節の可動域は屈曲95度、伸展-5度まで改善している。

創部の状態は良好で、膝関節周囲の腫脹は軽度である。深部静脈血栓症の予防のため、間欠的空気圧迫法を実施し、下肢の腫脹や疼痛の有無を定期的に確認している。理学療法士と連携しながら、歩行器を使用した歩行訓練を段階的に進めている。

特殊な状況における看護観察

ケース11:精神疾患患者の自殺リスク管理

42歳の斎藤真理さんは、うつ病の増悪により精神科病棟に入院している。希死念慮が強く、入院前に過量服薬の既往がある。不眠と食欲低下が顕著で、1日の食事摂取量は3割程度である。自室に引きこもりがちで、他者とのコミュニケーションを避ける傾向にある。

表情は暗く、自責的な発言が多い。24時間の観察体制で自殺企図の予防に努めており、定期的な面談を通じて心理状態の評価を行っている。薬物療法の効果判定と副作用モニタリングも並行して実施している。

ケース12:重症熱傷患者の全身管理

35歳の井上太郎さんは、火災による40%熱傷(II度深達性・III度混在)で救命センターに入院している。気道熱傷を合併し、人工呼吸器管理となっている。Parkland’s formulaに基づく大量輸液療法を実施中で、尿量は0.8ml/kg/hrを維持している。

熱傷創は銀含有創傷被覆材でドレッシングを行い、感染予防に努めている。体温38.8℃、WBC 15,000/μl、CRP 8.5mg/dlと炎症反応の上昇を認める。熱傷創の状態観察と感染兆候の早期発見、適切な輸液管理を継続している。

ケース13:救急搬送された多発性外傷患者

25歳の加藤健司さんは、バイク事故による多発性外傷で救急搬送された。右大腿骨骨折、左血気胸、肝損傷(II型)を認める。来院時のバイタルサインはBP 95/60mmHg、HR 118/分、RR 24/分、GCS E3V4M6であった。

左胸腔ドレナージを実施し、大量輸液とRBC輸血を開始している。腹部エコーでは少量の腹腔内出血を認めるが、保存的加療の方針となっている。全身状態の継続的な評価と、出血性ショックの進行予防に重点を置いた観察を実施している。

ケース14:感染症患者の隔離管理

45歳の野田健一さんは、新型コロナウイルス感染症の重症化により人工呼吸器管理となっている。P/F比 150、PEEP 10cmH2O、FiO2 0.6の設定で、SpO2 93%を維持している。38.5℃の発熱が持続し、両側肺野のすりガラス影が拡大傾向である。

プロンポジションを1日2回実施し、酸素化の改善を図っている。感染対策を徹底しながら、呼吸状態の観察と全身管理を継続している。隔離環境下でのケア提供と心理的支援にも配慮している。

ケース15:小児救急患者の観察管理

3歳の伊藤さくらちゃんは、熱性けいれんで救急搬送された。来院時の体温39.8℃、けいれん発作は5分程度で自然停止した。既往歴として、1歳時に熱性けいれんの経験がある。バイタルサインは安定しているが、不機嫌で機嫌が悪く、水分摂取も不良である。

解熱剤の投与と冷罨法による体温管理を実施している。再度のけいれん発作に備え、気道確保の準備と酸素投与の準備を整えている。家族の不安も強く、精神的支援も含めた観察と管理を継続している。

よくある質問と回答「おしえてカンゴさん!」

基本的な観察技術について

Q1:フィジカルアセスメントの基本的な流れを教えてください

フィジカルアセスメントを行う際は、まず意識レベル、呼吸状態、循環動態といった生命に直結する項目から観察を始めます。次に全身状態を把握し、系統別の詳細な観察へと進みます。視診、触診、打診、聴診を組み合わせながら、効率的かつ系統的に進めることが重要です。

特に初学者は解剖学的な位置関係を意識しながら、頭部から足部へと順序立てて観察を進めると漏れがなく、効率的です。また、患者さんの羞恥心に配慮し、露出を最小限に抑えるよう心がけましょう。

Q2:バイタルサイン測定で気をつけることは何ですか

バイタルサイン測定では、まず適切な測定環境を整えることから始めます。体温測定では、運動や食事、入浴後は避け、安静時の体温を測定します。血圧測定では、カフの大きさや巻き方、測定姿勢に注意を払い、正確な値を得るよう心がけます。

脈拍測定では、不整脈の有無を確認するため、必要に応じて1分間通しての測定を行います。呼吸数の測定は患者さんに意識させないよう、さりげなく行うことがポイントです。

Q3:患者さんとのコミュニケーションで大切なことは何ですか

患者さんとのコミュニケーションでは、まず信頼関係の構築が重要です。挨拶や自己紹介を丁寧に行い、これから行う処置や観察について分かりやすく説明します。患者さんの話には傾聴の姿勢で臨み、言葉だけでなく表情や態度からも情報を読み取ります。

質問は開放型と閉鎖型を適切に使い分け、患者さんが話しやすい環境を整えることで、より詳細な情報収集が可能となります。また、専門用語は避け、患者さんの理解度に合わせた説明を心がけます。

記録と報告について

Q4:看護記録で気をつけるべきポイントを教えてください

看護記録では、客観的な事実と主観的な情報を明確に区別して記載することが重要です。出来事の経過や観察結果は時系列に沿って記載し、実施したケアとその結果、患者さんの反応まで漏れなく記録します。

特に異常の発見時には、発見時の状況、実施した対応、その後の経過を具体的に記載します。また、医療者間で共通認識を持てるよう、標準化された用語や略語を適切に使用することも大切です。

Q5:医師への報告で緊張してしまいます。どうすればよいですか

医師への報告時の緊張は多くの学生が経験することです。SBAR形式を活用し、状況(Situation)、背景(Background)、評価(Assessment)、提案(Recommendation)の順で整理して報告することで、必要な情報を漏れなく伝えることができます。

報告前にメモを準備し、優先度の高い情報から順に伝えることも効果的です。また、分からないことは正直に伝え、必要に応じて確認することも重要です。

症状観察のポイント

Q6:呼吸音の聴取で迷うことが多いのですが、コツはありますか

呼吸音の聴取では、まず適切な聴診部位の選択が重要です。前胸部では第2肋間、側胸部では第4-5肋間、背部では第7肋間付近を基準に、左右対称に聴診を進めます。聴診時は静かな環境を整え、患者さんには深呼吸をしてもらいます。

正常呼吸音と副雑音の違いを理解し、左右差の有無や呼吸音の性状の変化に注意を払います。不明な音があれば、指導者に確認することも大切です。

Q7:浮腫の観察方法について詳しく教えてください

浮腫の観察では、まず視診で左右差や皮膚の色調、緊満感などを確認します。次に圧痕テストを実施し、圧迫による陥凹の程度と、その戻り時間を評価します。浮腫の部位や範囲、日内変動の有無なども重要な観察ポイントです。

また、浮腫に伴う疼痛や熱感の有無、日常生活への影響度についても確認します。観察結果は数値化や図示により、経時的な変化が分かりやすいよう記録することが大切です。

急変時の対応

Q8:急変時の対応で気をつけることは何ですか

急変時には、まず生命徴候の確認と安全確保を最優先します。意識レベル、呼吸、循環動態を迅速に評価し、必要に応じて応援要請や救急カートの準備を行います。バイタルサインの変化や症状の進行を詳細に観察し、医師への報告を速やかに行うことが重要です。

また、患者さんの不安軽減にも配慮し、落ち着いた態度で対応することを心がけます。記録は時系列で詳細に残し、発見時の状況から対応の経過まで漏れなく記載します。

Q9:輸液ラインのトラブルが心配です。確認のポイントを教えてください

輸液ラインの管理では、定期的な滴下確認と刺入部の観察が基本となります。点滴の滴下速度、残量、薬液の性状を確認し、ライン類の接続部や固定状態も確実にチェックします。刺入部は発赤、腫脹、疼痛などの炎症所見がないか注意深く観察します。

また、輸液ポンプ使用時は設定値と実際の滴下状況が一致しているか確認し、アラーム設定も適切に行います。トラブル発生時の対応手順も事前に確認しておくことが重要です。

実習での学び方

Q10:効果的な実習記録の書き方について教えてください

実習記録では、その日の学びや気づきを具体的に記載することが重要です。患者さんの状態や実施したケア、その結果得られた反応を客観的に記録し、そこから考察したことや新たな課題を明確にします。文献を用いて理論的な裏付けを行うことで、より深い学びにつなげることができます。

また、指導者からのアドバイスや、カンファレンスでの学びも重要な記録内容となります。記録は次の実習に活かせるよう、整理して保管しておきましょう。

Q11:カンファレンスでの発言が苦手です。どうすれば良いですか

カンファレンスでの発言には、事前準備が重要です。その日の実習で経験したことや疑問点を整理し、自分の考えをまとめておきます。発言する際は、具体的な場面や状況を示しながら、自分の意見や気づきを述べることで、より分かりやすい発表となります。

また、他の学生の意見にも耳を傾け、自分の考えと比較することで、新たな気づきや学びを得ることができます。発言に自信がない場合は、まず質問から始めるのも良い方法です。

Q12:受け持ち患者さんとの関係づくりで困っています。アドバイスをください

受け持ち患者さんとの関係づくりは、まず信頼関係の構築から始めます。挨拶や自己紹介を丁寧に行い、学生という立場を明確にしながら、これから一緒に過ごさせていただくことへの理解を得ます。

日々のケアを通じて患者さんの好みや生活習慣を理解し、できる範囲でニーズに応えていくことで、徐々に関係性を深めることができます。また、患者さんの体調や気分に配慮しながら、コミュニケーションの時間を適切に設けることも大切です。

専門的な技術について

Q13:褥瘡の予防と観察について教えてください

褥瘡予防では、定期的な体位変換と適切な除圧が基本となります。褥瘡ハイリスク部位の観察を丁寧に行い、発赤や皮膚の変化を早期に発見することが重要です。スキンケアや栄養状態の管理も予防には欠かせません。

褥瘡発生時は、大きさや深さ、滲出液の性状、周囲の皮膚状態を詳細に観察し、適切なドレッシング材の選択と処置を行います。また、褥瘡の発生要因を分析し、予防策の見直しも必要です。

Q14:清潔ケアの優先順位はどのように決めればよいですか

清潔ケアの優先順位は、患者さんの全身状態と日常生活動作の自立度を考慮して決定します。発熱や発汗が多い場合、皮膚トラブルがある場合は、より頻回な清潔ケアが必要となります。

また、患者さんの希望や生活習慣も考慮に入れ、無理のない範囲でケアを計画します。清潔ケアは単なる身体の清潔保持だけでなく、皮膚の観察や患者さんとのコミュニケーションの機会としても重要です。

Q15:術後患者さんの観察ポイントを教えてください

術後患者さんの観察では、まず意識レベル、呼吸・循環動態の安定性を確認します。創部の状態、ドレーンからの排液量と性状、疼痛の程度も重要な観察項目です。また、麻酔からの回復に伴う悪心・嘔吐の有無や、腸蠕動音の回復状況も注意深く観察します。

術後合併症の予防に向けて、早期離床の進行状況や深部静脈血栓症の予防措置の実施状況も確認が必要です。バイタルサインの変化や症状の出現時は、速やかに報告することが重要です。 Copy

まとめ

患者観察は看護ケアの質を左右する基本的かつ重要なスキルです。正確な観察のためには、客観的な視点の保持、継続的な観察の実施、患者の全体像の把握という3つの基本姿勢が不可欠です。

バイタルサインの測定では、体温、脈拍、血圧、呼吸の正確な測定と評価が求められ、各症状に応じた観察ポイントを押さえることが重要です。

また、SOAPを活用した効果的な記録方法やSBARによる適切な報告・連絡・相談のスキルも、チーム医療において欠かせません。これらの技術は、実践を通じて継続的に向上させていく必要があります。

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参考文献

  • 医学書院 (2023) 『基礎看護技術』第8版
  • 厚生労働省 (2023) 『看護師等養成所の運営に関する指導要領』

【新人看護師のための確実な患者急変時の初期対応】初期対応成功率300%向上の実践戦略

突然の患者急変は、新人看護師にとって最も不安を感じる場面の一つです。しかし、適切な初期対応の手順を理解し、実践することで、その不安を自信へと変えることができます。

本記事では、ABCDアプローチを基本とした観察・評価の方法から、先輩看護師への報告手順、多職種との連携方法まで、実践的な対応術を詳しく解説します。

新人看護師の皆さんが経験する可能性が高い急変のパターンと、それぞれの場面での具体的な対応例を交えながら、現場で即実践できる知識とスキルを身につけていきましょう。

この記事で分かること

  • ABCDアプローチによる急変時の初期対応手順と観察ポイント
  • 先輩看護師への効果的な報告方法とSBAR活用術
  • 多職種連携におけるコミュニケーションの実践テクニック
  • 夜勤帯特有の急変対応と応援体制の確保方法
  • 実例から学ぶ急変対応の成功事例と改善ポイント

この記事を読んでほしい人

  • 急変対応に不安を感じている新人看護師
  • 観察力と報告スキルを向上させたい看護師
  • チーム医療における連携強化を目指す方
  • 夜勤での急変対応に自信をつけたい方

急変時の初期対応フローチャート

急変対応において、最も重要なのは発見から初期対応までの「黄金の10分間」です。この時間帯での適切な対応が、患者様の予後を大きく左右します。このセクションでは、発見時からの具体的な行動手順と、各段階での重要なポイントについて詳しく解説していきます。

発見時の基本行動

救命の連鎖において、最初の発見者の行動が患者様の予後を左右します。異常に気付いた際は、まず応援を要請し、次いでバイタルサイン測定と意識レベルの確認を並行して実施します。

発見時の具体的な行動手順

病室で患者様の異変を発見した際は、大きな声で応援を要請することから始めます。「応援お願いします。〇号室で患者様が急変しています」というように、場所と状況を明確に伝えることが重要となります。

同時に、病棟内の救急カートの位置を確認し、必要に応じて準備を依頼します。予期せぬ急変に備え、日頃から救急カートの設置場所と内容物の配置を確認しておくことをお勧めします。

初期評価のポイント

最初の評価では、意識レベル、呼吸状態、循環動態の3点を最優先で確認します。JCSやGCSなどの意識レベルスケールを用いた評価、呼吸数や呼吸音の聴取、橈骨動脈の触知による脈拍確認を実施します。これらの評価は30秒以内に完了することを目標とします。

ABCDアプローチの実践

A(Airway:気道)の評価と対応

気道評価では、患者様の発声の有無、気道音の聴取、頸部の視診・触診を行います。気道閉塞の危険がある場合は、速やかに頭部後屈あご先挙上法による気道確保を実施します。分泌物がある場合は吸引を行い、必要に応じて気道確保デバイスの使用を検討します。

B(Breathing:呼吸)の評価と対応

呼吸の評価では、まず呼吸数を30秒計測して2倍することで正確な値を得ます。同時に呼吸音の聴取を行い、左右差や異常音の有無を確認します。SpO2モニタリングも並行して実施し、胸郭の動きと対称性も観察します。必要に応じて酸素投与を開始します。

C(Circulation:循環)の評価と対応

循環の評価では、脈拍の強さ、リズム、速さを確認します。橈骨動脈での触知が困難な場合は、頸動脈での確認に移ります。血圧測定は必須であり、両上肢での測定を心がけます。末梢冷感や皮膚の湿潤、蒼白の有無も重要な観察項目となります。

D(Disability:意識障害)の評価と対応

意識レベルの評価はJCSやGCSを用いて行います。瞳孔径とその対光反射、四肢の動きと麻痺の有無も併せて確認します。意識レベルの変化は、脳血流や呼吸状態の悪化を示す重要なサインとなります。

部署別の急変対応の特徴

一般病棟での対応

一般病棟では、バイタルサインの変化や患者様からの訴えが急変発見の契機となることが多いです。急変の予兆を見逃さないために、検温時以外にも定期的な観察を心がけます。特に夜勤帯では、巡回時の細やかな観察が重要となります。

外来での対応

外来では、待合室や診察室での急変に備える必要があります。救急カートの配置場所や応援要請の方法について、事前に確認しておくことが大切です。また、患者様の基礎情報が不足している場合も多いため、速やかな情報収集が求められます。

手術室・ICUでの対応

集中治療室や手術室では、モニタリング機器を活用した継続的な観察が可能です。しかし、その分アラーム管理も重要となり、無駄なアラームによって重要なサインを見逃さないよう注意が必要です。

急変時の記録と振り返り

リアルタイムの記録方法

急変時は時系列での記録が重要です。発見時の状況、実施した処置、患者様の反応を時間と共に記録します。記録係を決めて対応することで、より正確な記録が可能となります。

デブリーフィングの実施

急変対応後は必ずデブリーフィングを行います。対応の適切性や改善点について、多職種でディスカッションを行うことで、次回の対応に活かすことができます。特に新人看護師にとっては、貴重な学びの機会となります。

予防的視点での患者観察

リスク評価の実施

急変を未然に防ぐために、患者様の基礎疾患や既往歴からリスク評価を行います。特に循環器疾患や呼吸器疾患を持つ患者様では、より慎重な観察が必要となります。

早期警告スコアの活用

Modified Early Warning Score(MEWS)などの早期警告スコアを活用することで、急変のリスクを客観的に評価できます。スコアの上昇傾向は要注意サインとして捉え、予防的な介入を検討します。

夜勤帯における急変対応の特徴

夜間の応援体制確保

夜勤帯は日勤帯と比べてマンパワーが限られるため、応援体制の確保が特に重要です。当直医師への連絡方法、他病棟からの応援要請の手順、近隣病棟のスタッフ配置などを事前に把握しておく必要があります。

夜間特有の観察ポイント

夜間は患者様の状態変化が見逃されやすい時間帯です。巡視時には呼吸音の聴取や末梢循環の確認など、より丁寧な観察を心がけます。また、睡眠中の異常は発見が遅れる可能性があるため、モニタリング機器の活用も検討します。

救急カートの確認と準備

定期的な点検項目

救急カートの内容物は定期的な確認が必須です。薬剤の使用期限、除細動器のバッテリー残量、気道確保デバイスの配置など、細かな点検項目を設けて確認します。また、点検記録を残すことで、チーム全体での情報共有を図ります。

使用後の補充手順

救急カートを使用した後は、速やかな物品の補充と整備が必要です。使用した物品のリストを作成し、補充漏れがないよう確認します。特に、頻用される物品については予備を常備しておくことをお勧めします。

シミュレーショントレーニングの活用

定期的な訓練の実施

急変対応の技術向上には、定期的なシミュレーショントレーニングが効果的です。実際の環境に近い状況を設定し、チームでの対応を練習することで、実践的なスキルを身につけることができます。特に、新人看護師は積極的に参加することをお勧めします。

シナリオ別の対応訓練

様々な急変シナリオを想定した訓練を行うことで、状況に応じた適切な対応を学ぶことができます。心肺停止、呼吸不全、意識障害など、典型的な急変のパターンについて、繰り返し練習することが重要です。

急変対応におけるコミュニケーション

チーム内での役割分担

急変時は、リーダー、記録係、処置介助など、明確な役割分担が必要です。各役割の責任と具体的な行動について、事前に理解を深めておくことで、スムーズな連携が可能となります。特に、リーダーシップをとる際は、指示を明確に伝えることを心がけます。

情報共有の方法

急変対応中は、バイタルサインの変化や実施した処置について、適宜チーム内で情報共有を行います。「声に出す」「復唱する」などの基本的なコミュニケーション技術を活用し、確実な情報伝達を心がけます。

このように、急変時の初期対応は手順を明確に理解し、実践することが重要です。次のセクションでは、より詳細な観察技術について解説していきます。

効果的な観察技術

急変時の観察は、些細な変化も見逃さない鋭い観察眼が求められます。このセクションでは、バイタルサインの正確な測定方法から、疾患別の観察ポイント、さらには医療機器の適切な使用方法まで、実践的な観察技術について解説していきます。

バイタルサインの正確な測定

呼吸の観察と測定

呼吸の観察では、呼吸数だけでなく、呼吸の質や型についても注意深く確認します。呼吸数は必ず30秒間計測して2倍する方法で測定し、同時に呼吸の深さやリズム、呼吸補助筋の使用有無も観察します。胸郭の動きの左右差や、努力呼吸の有無についても着目します。

循環状態の評価

血圧測定では、適切なカフサイズの選択が重要です。上腕周囲の40%を覆うカフ幅が適切とされており、肥満患者様や痩せ型の患者様では、それぞれに適したサイズを選択します。測定時の体位は、原則として座位または臥位とし、心臓の高さで測定することを心がけます。

体温測定の注意点

体温測定部位によって、正常値が異なることを理解しておく必要があります。腋窩温は中枢温より0.2~0.5℃低値を示すことが一般的です。また、測定時間は電子体温計でも十分に確保し、腋窩温では10分間の安静が望ましいとされています。

疾患別の重要な観察ポイント

循環器疾患

心不全患者様では、頸静脈怒張、下腿浮腫、夜間発作性呼吸困難の有無が重要な観察項目となります。また、心電図モニターの波形変化にも注意を払い、不整脈の出現や ST変化を見逃さないようにします。

呼吸器疾患

呼吸器疾患を持つ患者様では、呼吸音の性状変化が重要な観察ポイントとなります。両側の呼吸音を丁寧に聴取し、副雑音の有無や左右差を確認します。

また、痰の性状、量、色調の変化も重要な情報となるため、定期的な観察が必要です。SpO2値は体動やプローブの装着状態によって変動するため、値の妥当性を適宜確認します。

脳神経疾患

意識レベルの評価では、JCSやGCSを用いて客観的に評価します。瞳孔径と対光反射、四肢の麻痺の有無、構音障害の有無なども重要な観察項目です。バイタルサインの変動と合わせて、頭蓋内圧亢進の徴候にも注意を払います。

医療機器の適切な使用方法

モニタリング機器の設定

心電図モニターの電極装着では、正確な波形が得られるよう装着部位を適切に選択します。アラーム設定は患者様の状態に応じて個別に設定し、不要なアラームによって重要なサインを見逃さないよう注意します。

パルスオキシメーターの使用

プローブの装着部位は、末梢循環の状態を考慮して選択します。低灌流や末梢冷感がある場合は、耳たぶやその他の部位での測定も検討します。体動による影響を最小限に抑えるため、適切な固定方法を工夫します。

継続的な観察のポイント

経時的な変化の評価

バイタルサインの変動傾向を把握するため、測定値の経時的な記録を行います。単回の測定値だけでなく、変動のパターンや速度にも注目することで、急変の予兆を早期に発見することができます。

患者様の訴えと客観的データの統合

患者様からの主観的な訴えと、バイタルサインなどの客観的データを総合的に評価することが重要です。特に、「いつもと様子が違う」という漠然とした訴えも、急変の重要なサインとなる可能性があります。

記録と報告の実際

観察記録の書き方

観察した内容は5W1Hを意識して記録します。特に異常所見を認めた場合は、その程度や範囲、持続時間などを具体的に記載します。また、実施した対応とその結果についても明確に記録します。

申し送り時の注意点

勤務交代時の申し送りでは、重要な観察項目と注意点を確実に伝達します。特に、急変リスクの高い患者様については、観察の頻度や具体的な対応方法についても共有します。

観察技術の向上のために

フィジカルアセスメントの基本

呼吸音の聴取や腹部の触診など、基本的なフィジカルアセスメント技術の習得は欠かせません。定期的な演習や実技指導を通じて、技術の向上を図ることをお勧めします。

先輩看護師からの学び

観察技術は経験を通じて磨かれていきます。先輩看護師の観察方法や着眼点を積極的に学び、自身の技術向上に活かすことが大切です。気になる点があれば、その場で質問し、理解を深めることをお勧めします。

状況別の観察ポイント

術後患者様の観察

術後患者様では、創部の状態や出血の有無、バイタルサインの安定性が重要な観察項目となります。創部からの出血や浸出液の性状、量、色調を注意深く観察します。

また、疼痛の程度や部位、性状についても詳細に評価し、適切な疼痛管理につなげます。ドレーンを挿入している場合は、排液の性状や量、色調の変化にも注意を払います。

透析患者様の観察

透析患者様では、血圧の変動や体液量の管理が特に重要です。透析前後での体重測定、血圧測定、浮腫の評価を確実に行います。また、シャント音の聴取やシャント肢の血流障害の有無についても定期的に確認します。

急変予防のための観察

リスクアセスメント

患者様の基礎疾患や既往歴、服用中の薬剤などから、起こりうる急変を予測します。特にハイリスク薬(抗凝固薬、降圧薬、血糖降下薬など)を使用している患者様では、副作用の早期発見に努めます。

早期警告サインの発見

急変の前駆症状として、以下のような変化に注意を払います。わずかな意識レベルの変化、活動性の低下、食欲不振、尿量の変化など、普段と異なる症状を見逃さないようにします。また、これらの変化を記録し、チーム内で共有することも重要です。

看護過程における観察の位置づけ

アセスメントの基盤としての観察

観察結果は看護過程における重要な情報源となります。得られた情報を適切にアセスメントし、看護計画の立案や評価に活かすことで、より質の高い看護ケアを提供することができます。観察結果の解釈には、解剖生理学的な知識や疾患の理解が不可欠です。

看護診断への活用

観察結果は看護診断の重要な根拠となります。客観的データと主観的データを統合し、患者様の状態を適切に診断することで、効果的な看護介入につなげることができます。定期的な再評価も忘れずに行います。

特殊な状況での観察技術

感染対策を要する場合

感染対策が必要な患者様の観察では、標準予防策に加えて必要な個人防護具を適切に使用します。観察に必要な物品は事前に準備し、効率的な観察を心がけます。また、使用した物品の適切な処理も重要です。

認知症患者様の観察

認知症を有する患者様では、通常の観察方法が適用できない場合があります。表情や態度の変化、生活リズムの変化などから、体調の変化を読み取る観察力が求められます。また、家族からの情報も重要な手がかりとなります。

このように、効果的な観察技術の習得には、基本的な知識と実践的な経験の積み重ねが重要となります。次のセクションでは、これらの観察結果を適切に報告・連絡する方法について解説していきます。

報告・連絡の具体的手順

急変時の報告は、適切な情報を簡潔かつ正確に伝えることが求められます。このセクションでは、SBAR方式による効果的な報告手順から、具体的な会話例、記録の書き方まで、実践的なコミュニケーション技術について解説していきます。

SBAR方式による報告

状況(Situation)の伝え方

状況説明では、まず患者様の基本情報と現在の状態を簡潔に伝えます。「〇〇号室の△△様、意識レベルが低下し、SpO2が85%まで低下しています」というように、重要な情報を優先的に報告します。

背景(Background)の説明

患者様の既往歴や現病歴、これまでの経過について必要な情報を伝えます。「糖尿病と心不全の既往があり、昨日から軽度の呼吸困難を訴えていました」など、現在の状況に関連する背景情報を選択して報告します。

アセスメント(Assessment)の報告

現在の状態について、観察結果に基づいたアセスメントを伝えます。「呼吸音の左右差があり、右下肺野での呼吸音の減弱を認めます。心不全の増悪による呼吸状態の悪化が考えられます」というように、客観的な所見と考えられる原因を簡潔に報告します。

提案(Recommendation)の方法

具体的な対応策や必要な指示について提案を行います。「酸素投与の開始と胸部レントゲン検査が必要と考えますが、いかがでしょうか」など、自身の判断も含めて報告します。

具体的な報告シーン別の対応

日勤帯での報告

日勤帯では、主治医や他職種との連携が取りやすい環境にあります。「至急の診察をお願いできますでしょうか」など、必要な対応を具体的に依頼することが可能です。

夜勤帯での報告

夜勤帯では、当直医への報告が基本となります。事前に当直医の連絡先や、どのような状況で報告するべきかの基準を確認しておくことが重要です。また、報告内容はより簡潔にまとめる必要があります。

記録の書き方

時系列での記載方法

急変時の記録は、発見時の状況から実施した対応、患者様の反応まで、時系列で詳細に記載します。時間の記載は24時間表記を用い、実施した処置や観察結果を具体的に記録します。

客観的な記録のポイント

記録は事実に基づいて客観的に記載します。バイタルサインなどの数値データは正確に記録し、主観的な表現は避けるようにします。また、医師の指示内容やその実施確認についても明確に記載します。

チーム内での情報共有

カンファレンスでの報告

定期的なカンファレンスでは、患者様の状態変化や気になる点について、簡潔にまとめて報告します。チームメンバーからの質問にも適切に回答できるよう、必要な情報を整理しておきます。

申し送り時の注意点

勤務交代時の申し送りでは、重要度に応じて報告内容を整理します。特に注意が必要な患者様については、観察ポイントや対応方法について具体的に伝達します。

多職種との連携

リハビリテーションスタッフへの報告

リハビリテーション実施前には、バイタルサインの変動や自覚症状の変化について報告します。また、リハビリテーション中の注意点についても明確に伝えます。

薬剤師との情報共有

服薬状況や副作用の有無について、薬剤師と定期的に情報共有を行います。特に、新規に開始された薬剤による変化については、詳細に報告します。

緊急度に応じた報告方法

コードブルー要請時の報告

心肺停止など、緊急性の極めて高い状況では、第一声で「コードブルー」を明確に伝えます。場所と状況を簡潔に伝え、応援者への具体的な指示も含めて報告します。発見時の状況や心肺蘇生の開始時刻なども、正確に記録しておく必要があります。

急変予兆時の報告

バイタルサインの変動や意識レベルの軽度低下など、急変の予兆を認めた場合は、早期に報告することが重要です。「いつもと様子が違う」という印象も、重要な情報として伝えるようにします。

電話での報告テクニック

準備と環境整備

電話報告の前には、必要な情報を整理しメモを準備します。患者様のカルテやバイタルサインの記録、最新の検査データなどを手元に用意し、質問に即座に回答できるようにします。また、周囲の騒音を避け、明確な発声を心がけます。

効果的な電話対応

電話での報告は、相手の表情が見えないため、より丁寧な言葉遣いと明確な発音が求められます。重要な数値や固有名詞は、相手に復唱してもらうことで、情報の正確な伝達を確認します。

報告内容の優先順位付け

重要度の判断基準

報告内容は、患者様の生命に関わる情報を最優先とします。バイタルサインの大きな変動、意識レベルの変化、出血や重篤な症状の出現などは、即座に報告が必要な事項となります。また、医師の指示内容や治療方針に影響を与える情報も、優先度が高くなります。

報告時期の判断

夜間や休日など、即時の対応が困難な時間帯では、報告の緊急度をより慎重に判断する必要があります。状態の安定性や対応の緊急性を考慮し、適切な報告時期を選択します。

報告時の確認事項

ダブルチェックの実施

重要な数値データや検査結果を報告する際は、必ずダブルチェックを行います。特に、検査値の単位や基準値からの逸脱度、時系列での変化については、慎重に確認します。また、報告を受けた相手にも重要な数値は復唱してもらい、情報の正確な伝達を確保します。

フィードバックの確認

報告後は、相手からの指示内容や対応方針について、必ず確認を行います。不明な点がある場合は、その場で質問し、明確な理解を得ることが重要です。また、実施した対応の結果についても、適切にフィードバックを行います。

このように、効果的な報告・連絡は患者様の安全を確保する上で極めて重要です。次のセクションでは、チーム医療における具体的な連携方法について解説していきます。

チーム医療における連携強化

急変対応では、多職種との円滑な連携が患者様の予後を大きく左右します。このセクションでは、医師、看護師、その他の医療スタッフとの効果的な連携方法と、チーム全体での情報共有の実践について解説します。

多職種連携の基本

医師との連携

医師とのコミュニケーションでは、簡潔かつ正確な情報提供が重要です。特に急変時は、バイタルサインの変化や実施した処置について、時系列で報告します。

また、医師からの指示内容は必ずメモを取り、実施後の患者様の反応についても適切にフィードバックを行います。

他部門との連携

検査部や放射線部など、他部門との連携も重要です。緊急検査の依頼では、検査の優先度や患者様の状態について明確に伝達します。また、搬送時の注意点や必要な医療機器についても事前に確認します。

情報共有の実践

カンファレンスでの共有

定期的なカンファレンスでは、患者様の状態変化や治療方針について、チーム全体で情報を共有します。各職種からの視点を統合することで、より質の高い医療を提供することができます。

記録を通じた共有

電子カルテやクリニカルパスを活用し、患者様の情報を正確に記録します。特に、急変時の経過や実施した処置については、他職種が理解しやすいように具体的に記載します。

夜間・休日の連携体制

当直体制での連携

夜間や休日の急変時は、限られた人員での対応が必要となります。当直医師との連携方法や、他病棟からの応援体制について、事前に確認しておきます。また、院内の救急対応チームとの連絡方法も把握しておく必要があります。

緊急時の応援体制

急変時の応援要請では、必要な人員と役割を明確に伝えます。特に、夜間帯では病棟間での協力が重要となるため、近隣病棟のスタッフ配置状況も把握しておきます。

救急対応チームとの連携

RRSの活用

Rapid Response System(RRS)を導入している施設では、早期警告スコアなどを用いて急変リスクを評価し、適切なタイミングでRRSを要請します。要請の基準や連絡方法について、日頃から確認しておくことが重要です。

コードチームとの連動

心肺停止など重篤な急変時には、院内のコードチームと連携します。コールの方法や初期対応の役割分担について、定期的な訓練を通じて習熟しておきます。

部門間の連携強化

薬剤部との連携

緊急時に必要な薬剤の在庫状況や、夜間の払い出し方法について、薬剤部と情報共有を行います。また、新規採用薬剤の使用方法や注意点についても、定期的に確認します。

検査部門との連携

緊急検査のオーダー方法や結果確認の手順について、検査部門と連携を図ります。特に、休日・夜間帯での対応可能な検査項目を把握しておくことが重要です。

効果的なリーダーシップの実践

リーダー看護師の役割

急変時のリーダー看護師は、チーム全体の調整役として重要な役割を担います。スタッフへの的確な指示出しと役割分担、医師との連絡調整、必要物品の確認など、多岐にわたる業務を統括します。特に、経験の浅いスタッフへの具体的な指示と支援が重要となります。

効果的な指示出し

リーダーは明確で簡潔な指示を心がけ、指示を受けたスタッフからの復唱確認を徹底します。また、実施状況の確認と必要に応じたサポートを行い、チーム全体の動きを把握します。

多職種カンファレンスの活用

定期カンファレンスの運営

週間カンファレンスでは、患者様の状態変化や治療方針について、多職種での意見交換を行います。各職種の専門的な視点を共有することで、より充実したケアプランの立案が可能となります。また、急変時の振り返りと改善点の検討も重要な議題となります。

臨時カンファレンスの開催

患者様の状態が大きく変化した際や、治療方針の変更が必要な場合には、臨時カンファレンスを開催します。関係職種が一堂に会することで、迅速な情報共有と方針決定が可能となります。

新人教育における連携

プリセプターシップの活用

新人看護師の教育では、プリセプターとの密接な連携が重要です。急変時の対応手順や観察ポイントについて、実践的な指導を行います。また、新人看護師の不安や疑問に対しても、丁寧なフォローアップを心がけます。

シミュレーション研修の実施

多職種参加型のシミュレーション研修を定期的に実施することで、実践的な連携スキルを養成します。特に、コミュニケーションエラーが起こりやすい場面を想定した訓練は、実際の急変対応に活かされます。

地域連携の強化

転院時の情報提供

患者様の転院時には、急変リスクや注意点について、転院先との綿密な情報共有が必要です。特に、夜間・休日の対応方針や、家族への説明内容についても明確に伝達します。

地域医療機関との連携

地域の医療機関との定期的な連絡会や症例検討会を通じて、円滑な連携体制を構築します。また、救急搬送時の受け入れ基準や連絡方法についても、事前に確認しておくことが重要です。

このように、効果的なチーム連携は患者様の安全を守る重要な要素となります。次のセクションでは、よくある急変のパターンと具体的な対応方法について解説していきます。

よくある急変パターンと対応

急変対応の成功率を高めるためには、典型的な急変パターンを理解し、それぞれの状況に応じた適切な対応を身につけることが重要です。このセクションでは、臨床現場でよく遭遇する急変パターンとその具体的な対応方法について解説します。

呼吸状態の急変

呼吸困難の出現

呼吸困難を訴える患者様では、まず呼吸数とSpO2値の測定を行います。呼吸音の聴取も重要で、両側の呼吸音を丁寧に確認し、副雑音の有無や左右差を評価します。必要に応じて、速やかに酸素投与を開始します。

喘鳴・喘息発作

喘鳴を認める場合は、気管支喘息の既往の有無を確認します。呼気性喘鳴が特徴的で、起座位をとる患者様が多いことが特徴です。ネブライザー治療の準備と、医師への報告を並行して行います。

循環動態の変化

血圧低下

突然の血圧低下では、出血や脱水、心原性ショックなどを考慮します。両上肢での血圧測定と、末梢冷感の有無を確認します。同時に、意識レベルの変化や尿量の減少についても観察します。

不整脈の出現

心電図モニターでの不整脈出現時は、脈の触知と血圧測定を速やかに実施します。特に、心房細動や心室性不整脈では、血行動態への影響を慎重に評価します。除細動器の準備も並行して行い、必要時にすぐ対応できる体制を整えます。

意識障害

意識レベル低下

意識レベルの低下を認めた場合は、JCSやGCSでの評価を行います。瞳孔径と対光反射の確認、四肢の麻痺の有無も重要な観察項目です。低血糖の可能性も考慮し、血糖値の測定も実施します。

けいれん発作

けいれん発作時は、まず患者様の安全確保を行います。発作の持続時間と性状を観察し、記録します。気道確保と呼吸状態の観察を継続し、必要に応じて酸素投与を開始します。

循環器系の急変

胸痛

急性冠症候群を疑う胸痛では、発症時刻と性状、増悪因子を確認します。12誘導心電図の測定と、バイタルサイン、症状の変化を継続的に観察します。ニトログリセリンの使用にあたっては、血圧低下に注意します。

心肺停止

心肺停止を認めた場合は、直ちにコードブルーをコールし、心肺蘇生を開始します。胸骨圧迫の質を確保し、早期の除細動実施を心がけます。蘇生チーム到着後は、役割分担に従って行動します。

消化器系の急変

吐血・下血

消化管出血では、出血量と性状の観察が重要です。バイタルサインの変動に注意し、大量出血時は輸液ルートの確保を優先します。患者様の体位は、意識レベルに応じて選択します。

腹痛

急性腹症では、痛みの部位と性状、随伴症状の有無を確認します。腹部の視診、聴診、触診を実施し、必要に応じて腹部レントゲン検査の準備を行います。

神経系の急変

脳卒中疑い

脳卒中が疑われる場合は、FAST(Face, Arm, Speech, Time)の評価を速やかに実施します。顔面の左右差、上肢の麻痺、構音障害の有無を確認し、発症時刻を正確に記録します。血圧管理も重要で、適切な値を維持できるよう慎重にモニタリングを行います。

髄膜炎症状

急激な発熱と頭痛、項部硬直を認める場合は、髄膜炎を疑います。意識レベルの変化や、羞明、嘔吐などの随伴症状についても注意深く観察します。感染対策を徹底し、迅速な医師への報告と検査準備を行います。

代謝性の急変

重症低血糖

低血糖症状を呈する患者様では、意識レベルの変化や発汗、振戦などの自律神経症状に注意します。血糖値の測定を速やかに実施し、意識レベルに応じて経口摂取や静脈内ブドウ糖投与の準備を行います。糖尿病治療薬の使用状況も確認します。

高血糖緊急症

高血糖状態では、口渇や多尿、意識障害などの症状に注意します。血糖値と電解質の測定を行い、必要に応じて輸液療法の準備を進めます。血糖値の推移と尿量のモニタリングを継続的に実施します。

アレルギー反応

アナフィラキシー

アナフィラキシーショックでは、皮膚症状、呼吸器症状、循環器症状の出現に注意します。原因物質の特定と除去を試み、バイタルサインの頻回な測定を実施します。アドレナリン自己注射薬の準備と、気道確保の体制を整えます。

薬剤性アレルギー

薬剤投与後の皮疹や呼吸困難、血圧低下などの症状に注意します。投与薬剤の中止を検討し、アレルギー症状の進行を慎重に観察します。既往歴や投与薬剤の記録を確認し、類似薬剤での注意喚起も行います。

術後合併症

術後出血

創部からの出血や、ドレーンからの排液量増加に注意します。バイタルサインの変動と、貧血症状の出現を観察します。出血量の正確な測定と記録を行い、輸血準備の必要性について検討します。

術後せん妄

高齢者や長時間手術後に多い術後せん妄では、昼夜のリズム障害や異常行動に注意します。安全確保を最優先し、必要に応じて抑制帯の使用を検討します。家族の協力を得ながら、環境調整と再発予防に努めます。

このように、各急変パターンに応じた適切な初期対応を実践することで、患者様の安全を確保することができます。次のセクションでは、具体的なケーススタディを通じて、実践的な対応方法を学んでいきます。

実践的なケーススタディ

実際の急変場面では、これまでに解説した知識と技術を統合して対応することが求められます。このセクションでは、典型的な急変事例を通じて、発見から初期対応、チーム連携までの一連の流れを具体的に学んでいきます。

症例A:呼吸状態悪化への対応

患者情報

70歳男性、慢性心不全で入院中の患者様です。夜間巡視時に呼吸困難感の訴えがあり、SpO2の低下を認めました。

発見時の状況

夜間23時の巡視時、患者様より「息が苦しい」との訴えがありました。SpO2が88%まで低下し、起座位をとる様子が見られました。頸静脈怒張があり、両下肢に軽度の浮腫を認めました。

実施した対応

まず応援を要請し、酸素投与を開始しました。同時に、バイタルサイン測定と呼吸音の聴取を実施しました。SBAR形式で当直医師に報告を行い、胸部レントゲン検査の指示を受けました。

経過と転帰

適切な初期対応により、SpO2は酸素投与10分後に93%まで改善しました。胸部レントゲン検査では肺うっ血像を認め、心不全の急性増悪と診断されました。利尿薬の投与により、翌朝には呼吸状態の改善が見られました。

症例B:術後出血への対応

患者情報

55歳女性、乳がんで乳房切除術を施行した術後1日目の患者様です。創部からの出血を認め、血圧低下が見られました。

発見時の状況

術後1日目の朝、創部ドレーンからの排液量増加と、ガーゼの血性浸出液の増加を認めました。血圧が90/50mmHgまで低下し、冷感と頻脈を伴っていました。

実施した対応

直ちに主治医に報告し、輸液負荷を開始しました。同時に手術室への連絡と、輸血準備を行いました。バイタルサインの頻回測定と、出血量の正確な記録を継続しました。

症例C:意識障害への対応

患者情報

68歳男性、糖尿病で内服加療中の患者様です。昼食前に意識レベルの低下を認めました。

発見時の状況

昼食配膳時、声掛けに対する反応が鈍く、発汗が著明でした。血糖値は45mg/dLと低値を示し、手指の振戦も認められました。

実施した対応

意識レベルの評価と血糖値の再測定を行い、ブドウ糖投与の準備を進めました。医師への報告と並行して、経口摂取可能な状態かの評価を行いました。

症例D:高齢者の誤嚥への対応

患者情報

82歳女性、脳梗塞後遺症で嚥下機能低下のある患者様です。昼食時に誤嚥を起こし、急激な酸素化低下を認めました。

発見時の状況

昼食介助中、突然の咳込みと呼吸困難が出現しました。SpO2が80%まで低下し、頻呼吸と努力呼吸が見られました。意識レベルは清明を保っていました。

実施した対応

直ちに半座位とし、口腔内の食物残渣を除去しました。酸素投与を開始し、吸引の準備を行いました。医師への報告と並行して、バイタルサインの継続的な観察を実施しました。

症例E:精神症状急変への対応

患者情報

45歳男性、統合失調症で内服加療中の患者様です。夜間に突然の興奮状態となり、暴力的な言動が出現しました。

発見時の状況

23時頃、大声で叫ぶ声が聞こえ、訪室すると興奮状態で、医療スタッフに対して攻撃的な態度を示していました。他患者様も不安な様子を呈していました。

実施した対応

まず応援を要請し、患者様との安全な距離を保ちながら、落ち着いた口調で話しかけました。必要時の薬剤使用について医師に確認し、他患者様の安全確保も並行して行いました。

症例からの総合的考察

予防的介入の重要性

各症例を通じて、リスク評価に基づく予防的介入の重要性が示されています。基礎疾患や患者背景を十分に把握し、起こりうる急変を予測することで、より適切な対応が可能となります。

観察技術の向上

急変の予兆を見逃さない観察眼の重要性が、全ての症例で示されています。バイタルサインの変化だけでなく、患者様の些細な変化に気づく力を養うことが必要です。

このように、実際の急変場面では、状況に応じた適切な判断と対応が求められます。次のセクションでは、よくある質問とその回答について解説していきます。

おしえてカンゴさん!よくあるQ&A

新人看護師の皆さんから寄せられる急変対応に関する質問について、具体的な回答と実践的なアドバイスをご紹介します。日々の業務で感じる不安や疑問の解消にお役立てください。

Q1:急変の予兆を見逃さないためには?

夜勤帯での急変に備え、いつもと様子が違う点に注意を向けることが大切です。呼吸の仕方、顔色の変化、反応の違いなど、普段と異なる点があれば記録に残し、継続観察を行います。また、各勤務帯でのバイタルサインの変動傾向を把握しておくことも重要です。

Q2:報告時に緊張して上手く伝えられません

SBAR方式を活用し、伝えるべき内容を整理することをお勧めします。メモを準備し、重要な数値は事前に確認しておきます。また、日頃から先輩看護師に相談し、報告の練習を重ねることで、緊張を軽減することができます。

Q3:夜勤での急変が不安です

夜勤帯では、当直医師への連絡方法や、救急カートの場所、応援要請の手順を事前に確認しておくことが重要です。また、夜間特有の観察ポイントについて、先輩看護師からアドバイスを受けることをお勧めします。

Q4:急変時の記録はどのように書けばよいですか?

時系列での記録が基本となります。発見時の状況、実施した処置、患者様の反応を具体的な時間と共に記録します。特に、バイタルサインの変化や医師の指示内容は正確に記載します。後から振り返りができるよう、できるだけ具体的な記載を心がけます。

Q5:急変時のリーダー業務が不安です

リーダー業務では、全体の状況把握と適切な指示出しが重要です。スタッフの経験度に応じた役割分担と、具体的な指示を心がけます。また、医師との連絡や、記録の確認なども重要な役割となります。

Q6:急変時の家族対応はどうすればよいですか?

家族への説明は、医師からの説明を基本としますが、看護師からも状況に応じた説明と支援が必要です。家族の不安に寄り添いながら、現在の状況と実施している対応について、わかりやすく説明します。

Q7:シミュレーション訓練は有効ですか?

シミュレーション訓練は非常に有効です。実際の急変場面を想定した訓練を通じて、必要な技術と知識を身につけることができます。特に、チーム連携や報告方法の練習には最適です。

Q8:他職種との連携で気をつけることは?

それぞれの職種の役割を理解し、適切な情報共有を心がけます。医師への報告は簡潔に、検査部門との連絡は具体的に、といったように、相手に応じたコミュニケーションを意識します。

このように、急変対応には様々な不安や疑問が伴いますが、一つ一つ経験を積み重ねることで、確実な対応力を身につけることができます。最後のセクションでは、これまでの内容のまとめと、今後の学習ポイントについて解説します。

まとめ

急変対応は新人看護師にとって大きな不安要素ですが、基本的な観察技術と報告手順を身につけ、チーム連携を強化することで、適切な対応が可能となります。本記事で解説した知識とスキルを日々の実践に活かしながら、少しずつ経験を積み重ねていきましょう。

より詳しい急変対応の実践例や、新人看護師向けの教育プログラムについては、【ナースの森】看護師専門サイトをご覧ください。当サイトでは、実践的な動画コンテンツや、先輩看護師からのアドバイス、症例検討会の情報など、キャリアアップに役立つ情報を多数掲載しています。

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2024年最新【新人看護師の緊急時対応ガイド】初期対応成功率250%向上の実践法

深夜勤務中の急変対応、一人で判断を迫られる緊急時の対応、先輩看護師に連絡すべきかの判断基準など、新人看護師にとって緊急時の対応は大きな不安要素となっています。当サイトが全国の新人看護師500名を対象に実施した調査によると、83%が「緊急時の対応に不安を感じている」と回答しています。

実際に、新人看護師のAさんは夜勤中に受け持ち患者の急変に遭遇した際、「何から始めればいいのか分からず、頭が真っ白になってしまった」と振り返っています。しかし、適切な知識と準備があれば、新人看護師でも自信を持って緊急時に対応することができます。

この記事では、新人看護師が緊急時に確実な対応ができるよう、実践的な手順とノウハウをお伝えします。

当サイト独自の分析による「5ステップ緊急対応フレームワーク」と、実際の成功事例から導き出された「初期対応チェックリスト」を活用することで、冷静な判断と適切な初期対応が可能になります。これらの方法は、すでに多くの新人看護師の実践で効果が実証されており、導入した病棟では緊急時の初期対応成功率が250%向上しています。

この記事で分かること

  • 緊急時における効果的な初期評価と判断基準の実践方法
  • 医師・先輩看護師への適切な報告・連絡の具体的手順
  • チーム医療を成功させるための効果的な連携方法
  • 夜勤帯での緊急時対応に必要な準備と実践のポイント

この記事を読んでほしい人

  • 緊急時の対応に不安を感じている新人看護師
  • 夜勤での緊急対応に自信をつけたい方
  • チーム医療での連携力を向上させたい方
  • 実践的な緊急時対応スキルを身につけたい方
  • より確実な初期対応ができるようになりたい方

緊急時の初期評価

緊急時の対応で最も重要なのが、最初の数分間の評価と判断です。当サイト独自の分析により開発された「5ステップ緊急対応フレームワーク」に従うことで、新人看護師でも確実な初期評価が可能になります。このフレームワークは、従来のPABCDアプローチを、より実践的かつ具体的な手順として再構築したものです。

5ステップ緊急対応フレームワーク

第1ステップ:Position(体位)評価と対応

まず、患者さんの体位を評価し、意識レベルに応じた適切な調整を実施します。現在の体位と呼吸状態との関連性を確認し、安全確保のためのポジショニングを行います。特に気道確保の観点から、頭位の微調整が重要となります。体位変換の際は、必要に応じて応援を要請し、安全な実施を心がけます。

第2ステップ:Airway(気道)確認と確保

気道の開通性評価では、視診による口腔内の確認から始めます。同時に聴診による気道音の評価を行い、必要に応じて吸引の準備を進めます。気道確保が必要な場合は、エアウェイの使用も検討します。

第3ステップ:Breathing(呼吸)評価と支援

呼吸状態の評価では、呼吸数だけでなく、呼吸の質と努力度を総合的に判断します。胸郭の動きを観察し、補助呼吸筋の使用有無を確認します。聴診では肺野の左右差やラ音の有無を評価し、必要に応じて酸素投与の準備を進めます。SpO2値は継続的にモニタリングし、急激な低下にも対応できるよう準備します。

第4ステップ:Circulation(循環)評価と管理

循環動態の評価では、血圧と脈拍の測定に加え、末梢循環の状態も重要な指標となります。皮膚の色調や温度、爪床の色調変化、四肢の冷感の有無を確認します。同時に、静脈路確保の必要性を判断し、準備を開始します。出血のリスクがある場合は、出血部位の観察と圧迫止血の準備も並行して行います。

第5ステップ:Disability(意識)評価と対応

意識レベルの評価では、JCSやGCSを用いた定量的な評価を実施します。瞳孔径と対光反射の確認、四肢の動きと握力の評価も重要な観察項目です。意識レベルの変化が認められた場合は、血糖値測定も考慮に入れ、準備を整えます。

バイタルサインの評価と異常値への対応

バイタルサインの評価は、患者さんの状態を客観的に判断する上で最も重要な指標です。各項目の正常値と、異常値を認めた際の対応について詳しく解説します。

呼吸に関する評価指標

呼吸に関する評価では、呼吸数、SpO2値、呼吸音、呼吸パターンを総合的に判断します。呼吸数が24回/分を超える場合や、SpO2値が90%未満の場合は、直ちに当直医師への報告が必要です。また、努力呼吸の有無、呼吸音の左右差、喘鳴の有無なども重要な評価項目となります。

循環動態の評価指標

循環動態の評価では、血圧、脈拍、末梢循環を中心に確認します。収縮期血圧が90mmHg未満、または普段の値より40mmHg以上の低下がある場合は要注意です。また、脈拍が120回/分を超える頻脈や、50回/分未満の徐脈も、直ちに報告が必要な状態です。

フィジカルアセスメントの実践手順

フィジカルアセスメントでは、視診、触診、聴診、打診の順で評価を行います。特に緊急時には、短時間で効率的な評価が求められます。

視診による全身状態の評価

視診では、患者さんの全身状態、表情、皮膚色、発汗、浮腫、呼吸様式などを観察します。チアノーゼの有無、四肢の動き、表情の非対称性なども重要な所見となります。また、創部がある場合は、出血や浸出液の有無も確認します。

触診による詳細評価

触診では、皮膚の温度、湿潤度、緊張度を評価します。また、脈拍の触知部位、血圧の触診法、腹部の診察手順についても、実践的な手技を身につけることが重要です。末梢の冷感や、皮膚の湿潤も重要な所見となります。

緊急度判定の基準とトリアージ

緊急度の判定は、収集した情報を総合的に判断して行います。特に新人看護師は、以下の判断基準を参考に、報告や対応の優先順位を決定します。

レベル別の緊急度判定基準

緊急レベルは、生命の危機に直結する「レベル1」から、経過観察可能な「レベル5」まで分類されます。バイタルサインの異常、意識レベルの変化、症状の進行速度などを総合的に判断し、適切なレベル判定を行います。特に、エアウェイ、ブリージング、サーキュレーションに関する異常は、上位レベルでの対応が必要となります。

優先順位の決定方法

優先順位の決定では、生命に関わる症状を最優先とし、次いで機能障害のリスク、苦痛度の順で判断します。また、複数の患者さんが同時に対応を必要とする場合は、緊急度と重症度を組み合わせたマトリクスを用いて判断します。

効果的な報告・連絡手順

緊急時の報告と連絡は、その後の医療対応の質を大きく左右する重要な要素です。特に新人看護師は、「何をどのように報告すべきか」「誰にまず連絡するべきか」という判断に戸惑うことが少なくありません。このセクションでは、効果的な報告・連絡の具体的な手順と、実践的なコミュニケーション方法についてお伝えします。

SBAR報告の実践的活用法

SBAR報告は、医療現場で標準的に用いられている情報伝達の形式です。この形式を使うことで、緊急時でも必要な情報を漏れなく、簡潔に伝えることができます。それぞれの要素について、実践的な活用方法をご説明します。

Situation(状況)の伝え方

状況の報告では、まず患者さんの基本情報から始めます。「〇〇号室の△△さん、75歳、心不全で入院中の患者さんです。現在、急激な呼吸困難が出現しています」というように、誰が、どのような状態なのかを端的に伝えます。この際、現在の状態が発生した時刻も明確に伝えることが重要です。

Background(背景)の説明方法

背景情報では、現病歴や関連する既往歴、現在の治療内容について簡潔に説明します。例えば「昨日の夕方から軽度の呼吸困難があり、安静にて経過観察していました。基礎疾患として心不全があり、利尿剤を使用中です」というように、現在の状態に関連する重要な情報を選択して伝えます。

Assessment(評価)の報告基準

評価の報告では、バイタルサインを中心とした客観的な情報を伝えます。「現在、脈拍120回/分、血圧85/45mmHg、SpO2は88%(室内気)、呼吸数28回/分です。起座呼吸があり、両側下肺野で湿性ラ音を聴取しています」というように、具体的な数値とその変化を明確に伝えます。

Recommendation(提案)の具体的内容

提案では、現状で必要と考えられる対応について具体的に述べます。「酸素投与の開始と利尿剤の追加投与の指示をお願いしたいです。また、心不全の急性増悪の可能性があるため、心電図モニターの装着を考えています」というように、具体的な処置や検査の提案を行います。

緊急連絡網の効果的な活用

緊急時の連絡では、適切な優先順位で必要な職種や部門に連絡することが求められます。ここでは、状況に応じた連絡の優先順位と、効果的な連絡方法についてご説明します。

連絡優先順位の判断基準

連絡の優先順位は、患者さんの状態の緊急度によって判断します。意識レベルの低下や重篤なバイタルサインの変化がある場合は、直ちに当直医師への報告を最優先とします。同時に、病棟の看護師長や副師長への報告も行い、応援体制を確保します。

部門間連携の実践方法

検査部門や薬剤部門との連携も重要です。緊急検査が必要な場合は、検査部門へ状況を簡潔に説明し、優先度を伝えます。また、緊急で必要な薬剤がある場合は、薬剤部門への連絡も必要となります。

記録の書き方と留意点

緊急時の記録は、その後の治療方針の決定や経過観察に重要な役割を果たします。正確で分かりやすい記録を残すための方法をご説明します。

時系列記録の重要性

経時的な変化を追えるよう、時刻を明確に記載します。バイタルサインの変化、実施した処置、投与した薬剤、医師への報告内容など、すべての項目に時刻を記載することで、状態の変化や対応の流れが明確になります。

客観的事実の記載方法

記録には、観察した事実を客観的に記載します。「苦しそう」という表現ではなく、「起座呼吸あり、呼吸数28回/分、会話が途切れ途切れ」というように、具体的な状態を記載します。また、医師の指示内容やその実施確認も明確に記録します。

効果的なコミュニケーション技術

緊急時のコミュニケーションでは、正確な情報伝達と円滑なチーム連携が求められます。ここでは、効果的なコミュニケーションのためのテクニックをご紹介します。

クローズドループコミュニケーション

指示を受けた際は、必ず復唱して内容を確認します。「生理食塩液500mLの急速投与を開始します」というように、実施する内容を具体的に伝え返すことで、指示内容の誤認を防ぎます。また、実施後は必ず報告を行い、情報の共有を確実にします。

非言語コミュニケーションの活用

緊急時は、言葉だけでなく、ジェスチャーやアイコンタクトなども効果的に活用します。特に、処置中の医師とのコミュニケーションでは、必要な物品を指さしで示すなど、状況に応じた非言語的なコミュニケーションも重要となります。

初期処置の実践手順

緊急時の初期処置は、その後の治療効果を左右する重要な段階です。当サイトの分析により作成された「初期対応チェックリスト」に沿って対応することで、重要なステップの抜け漏れを防ぎ、確実な初期対応が可能となります。

初期対応チェックリスト

患者安全確保の実践

患者さんの安全確保を最優先に実施します。適切な体位を確保し、転落防止策を講じます。処置に必要な医療機器類は安全に配置し、緊急処置のためのスペースを十分に確保します。周囲の環境整備も同時に行い、安全な処置環境を整えます。

バイタルサイン評価の実際

生命徴候の評価は、意識レベルの確認から開始します。JCSまたはGCSを用いて評価し、続いて呼吸数と呼吸様式を観察します。SpO2値の測定、血圧測定、脈拍の確認を行い、体温測定と瞳孔径・対光反射の確認まで、順序立てて実施します。

緊急連絡手順の確認

緊急時の連絡体制は、院内規定に従って迅速に実施します。当直医師への連絡を最優先とし、同時に看護師長やリーダー看護師への報告も行います。各部門との連携が必要な場合は、検査部門や薬剤部門への連絡も並行して進めます。また、家族への連絡の必要性も判断し、適切なタイミングで実施します。

必要物品準備の実際

救急カートの準備では、除細動器の作動確認から始めます。気道確保用具、吸引器具、輸液セット、各種モニター類を配置し、すぐに使用できる状態にします。薬剤の準備では、救急薬品の使用期限を確認し、必要な希釈計算も事前に行います。感染防護具の準備も忘れずに行い、安全な処置環境を整えます。

記録管理の重要項目

時系列での記録は、発見時の状況から始めます。バイタルサインの変化、実施した処置、使用した薬剤、医師への報告内容とその時刻を詳細に記録します。患者さんの反応や症状の変化も具体的に記載し、チーム内での情報共有に活用します。検査データや画像結果も時系列で記録し、治療経過の参考となるよう整理します。

これらのフレームワークとチェックリストを活用することで、緊急時により確実な対応が可能となります。定期的な訓練と振り返りを通じて、実践力を高めていくことが重要です。

呼吸困難時の対応手順

呼吸困難を訴える患者さんへの対応では、まず適切な体位の確保が重要です。ファーラー位やセミファーラー位など、患者さんが最も楽な体位を確保します。同時にSpO2モニターを装着し、酸素投与の準備を行います。

酸素投与が必要な場合は、医師の指示のもと、適切な投与量とデバイスを選択します。マスクの種類は症状の程度に応じて、鼻カニューレ、簡易酸素マスク、リザーバーマスクから選択します。また、呼吸音の聴取や呼吸パターンの観察も継続的に行う必要があります。

意識レベル低下時の対応要領

意識レベルが低下している患者さんでは、まず気道確保を最優先とします。必要に応じて吸引器を準備し、口腔内の分泌物除去を行います。

また、血糖値の測定も重要な初期対応となります。意識レベルの評価はJCSやGCSを用いて定期的に行い、その変化を記録します。頭部の保護も重要で、必要に応じてベッド柵の調整やクッションの使用を行います。バイタルサインの測定も頻回に行い、特に血圧、脈拍、呼吸数の変化に注意を払います。

循環不全時の対応方法

循環不全が疑われる場合は、まず末梢静脈路の確保を試みます。この際、できるだけ太い静脈を選択し、両腕に確保することが望ましいです。輸液の準備も同時に行い、医師の指示に従って適切な輸液剤を選択します。心電図モニターの装着も必須で、不整脈の有無や心拍数の変化を継続的に観察します。

また、末梢循環の評価として、四肢の冷感や爪床の色調変化、CRT(毛細血管再充満時間)も定期的に確認します。

各診療科別の特徴と注意点

各診療科特有の緊急時対応について、その特徴と注意点をご説明します。診療科の特性を理解することで、より適切な初期対応が可能となります。

内科系病棟での対応特徴

内科系病棟では、慢性疾患の急性増悪や、全身状態の変化に注意が必要です。特に、心不全患者さんの呼吸困難や、糖尿病患者さんの血糖値の変動には注意が必要です。

また、高齢者が多い傾向にあるため、転倒・転落のリスク管理も重要になります。さらに、複数の疾患を持つ患者さんも多いため、薬剤の相互作用にも注意を払う必要があります。

外科系病棟での注意事項

外科系病棟では、術後の出血や感染症、循環動態の変化に特に注意が必要です。術後の創部観察や、ドレーンからの排液量・性状の確認も重要な観察項目となります。

また、術後の深部静脈血栓症や肺塞栓症のリスクにも注意を払い、早期発見に努める必要があります。疼痛管理も重要で、患者さんの痛みの訴えには迅速な対応が求められます。

救急薬品の使用方法

緊急時に使用される主な薬剤について、その使用方法と注意点をご説明します。適切な薬剤の準備と投与は、緊急時対応の重要な要素となります。

主な救急薬品の特徴

救急カートに配置される主な薬剤には、アドレナリン、アトロピン、リドカイン、ドパミンなどがあります。これらの薬剤の適応、用量、投与方法、副作用について理解しておくことが重要です。また、薬剤の希釈方法や投与速度についても、確実に習得しておく必要があります。

投与時の注意点と観察項目

救急薬品の投与時は、投与前後のバイタルサインの変化を慎重に観察します。特に、血圧、心拍数、心電図波形の変化には注意が必要です。

また、投与後の副作用の出現にも注意を払い、異常が見られた場合は直ちに報告する必要があります。薬剤の投与経路や投与速度も重要で、特に静脈注射の場合は、血管外漏出に注意が必要です。

感染対策の実践

緊急時であっても、標準予防策は確実に実施する必要があります。ここでは、緊急時における感染対策の実践方法をご説明します。

標準予防策の実施手順

手指衛生、個人防護具の使用、無菌操作など、基本的な感染対策は確実に実施します。特に、血液や体液に触れる可能性がある処置では、適切な防護具の選択と着用が重要です。また、使用した医療器材の適切な処理も、感染対策の重要な要素となります。

感染性廃棄物の処理方法

感染性廃棄物は、決められた手順に従って適切に処理します。特に、注射針などの鋭利物の処理には十分な注意が必要です。また、使用した個人防護具の脱衣手順も重要で、二次感染を防ぐため、適切な手順で実施する必要があります。

チーム連携のポイント

緊急時の医療対応は、一人の力ではなく、チーム全体の連携によって支えられています。特に新人看護師は、チームの一員としての役割を理解し、効果的なコミュニケーションを図ることが求められます。このセクションでは、緊急時におけるチーム連携の具体的な方法と、それぞれの役割における実践的なポイントについてご説明します。

効果的なコミュニケーション手法

緊急時のコミュニケーションでは、正確な情報共有と迅速な意思疎通が不可欠です。ここでは、医療チームの中で効果的なコミュニケーションを実現するための具体的な方法をご説明します。

クローズドループコミュニケーションの実践

医師や先輩看護師からの指示を受けた際は、必ず復唱して内容を確認します。例えば「生理食塩液500mLの急速投与を開始します」と、実施する内容を具体的に伝え返すことで、指示内容の誤認を防ぎます。

また、実施後は「生理食塩液の投与を開始しました」と、必ず実施報告を行います。このような双方向のコミュニケーションにより、チーム内での情報共有が確実になります。

情報共有のタイミングとポイント

状態の変化や新たな情報は、適切なタイミングでチームメンバーに共有する必要があります。定期的な状態報告はもちろん、急な変化がある場合は直ちに報告します。また、申し送りの際は、重要な情報を優先順位をつけて伝えることで、効率的な情報共有が可能になります。

役割分担の明確化と実践

緊急時には、チームメンバーそれぞれが明確な役割を持ち、協力して対応することが重要です。ここでは、各役割の具体的な内容と実践のポイントについてご説明します。

リーダーの役割と実践ポイント

リーダーは、チーム全体の指揮を執り、状況の把握と方針決定を行います。具体的には、医師との連絡調整、役割分担の指示、処置の優先順位決定などを担当します。また、チームメンバーの状況を把握し、必要に応じて応援要請も行います。

実施者の具体的な役割

実施者は、直接的な処置やケアを担当します。バイタルサイン測定、処置の実施、投薬管理などが主な役割となります。特に、処置の際は感染対策を徹底し、安全な実施を心がけます。また、観察した内容や気になる点は、速やかにリーダーに報告します。

チーム内での情報伝達方法

緊急時の情報伝達は、正確さとスピードの両立が求められます。ここでは、効果的な情報伝達の方法と、実践的なポイントについてご説明します。

状況報告の具体的手順

状況報告では、SBAR形式を活用することで、必要な情報を漏れなく伝えることができます。また、報告の際は、優先度の高い情報から順に伝えることで、効率的な情報共有が可能になります。数値データは具体的に伝え、主観的な表現は避けるようにします。

記録と申し送りの実践

記録は時系列で詳細に残し、チームメンバー全員が状況を把握できるようにします。また、申し送りの際は、重要なポイントを整理して伝えることで、確実な情報共有が可能になります。記録には、実施した処置、観察した内容、医師の指示内容などを漏れなく記載します。

応援要請と追加人員の配置

緊急時には、適切なタイミングでの応援要請が重要です。ここでは、応援要請の判断基準と、追加人員の効果的な配置方法についてご説明します。

応援要請の判断基準

患者の状態悪化や、処置の複雑さに応じて、早めの応援要請を心がけます。特に、複数の処置が同時に必要な場合や、重症度が高い場合は、躊躇せずに応援を要請します。また、夜間帯など人員が限られる時間帯では、より早めの判断が必要となります。

追加人員の効果的な配置

応援者が到着した際は、その場の状況を簡潔に説明し、必要な役割を明確に伝えます。また、既存のチームメンバーとの連携がスムーズになるよう、コミュニケーションを密に取ります。追加人員の専門性や経験を考慮し、最適な役割分担を行うことで、効果的なチーム対応が可能となります。

夜勤帯特有の緊急対応

夜勤帯は、日中と比べて人員が限られ、様々な医療資源へのアクセスも制限される特殊な時間帯です。特に新人看護師にとって、夜勤帯での緊急対応は大きな不安要素となっています。このセクションでは、夜勤帯特有の課題と対応方法、そして限られたリソースを最大限に活用するための具体的な戦略についてご説明します。

夜間の特殊性への対応

夜勤帯では、患者さんの状態変化の発見が遅れやすく、また対応の判断も難しくなります。ここでは、夜間特有の課題に対する効果的な対応方法をご説明します。

暗所での観察ポイント

夜間の病室は照明が制限されるため、患者さんの状態観察には特別な注意が必要です。ペンライトを使用する際は、他の患者さんの睡眠を妨げないよう配慮しながら、顔色や末梢の状態を注意深く観察します。また、モニター画面の輝度調整や、必要最小限の照明使用など、環境への配慮も重要となります。

静寂環境での聴診方法

夜間は周囲が静かなため、呼吸音や心音の聴取がしやすくなる反面、わずかな物音でも患者さんの睡眠を妨げる可能性があります。聴診器の当て方や移動時の足音にも注意を払い、必要な観察を確実に行いながら、環境への配慮を心がけます。

限られたリソースでの対応

夜勤帯は、使用できる設備や人員が制限されます。そのような状況下での効果的な対応方法についてご説明します。

必要物品の事前確認

夜勤帯では、薬剤部や検査部などの部門が限られた体制となるため、必要な物品の事前確認が特に重要です。救急カートの内容、頻用する薬剤の在庫、検査キットの配置などを、夜勤開始時に必ず確認します。また、普段使用頻度の低い物品の保管場所も把握しておくことが重要です。

応援体制の確保方法

夜勤帯での応援要請は、日中以上に計画的に行う必要があります。他部署からの応援可能な人員や、当直医師との連絡方法を事前に確認しておきます。また、緊急時の連絡網や、応援要請の基準についても、夜勤開始時に再確認しておくことが重要です。

患者観察の強化ポイント

夜間は患者さんの状態変化を見逃しやすい時間帯です。そのため、より慎重な観察と判断が必要となります。

巡回時の重点観察項目

夜間の巡回では、呼吸状態、循環動態、意識レベルなど、生命徴候に関わる項目を重点的に観察します。特に、日中に状態が不安定だった患者さんや、術後の患者さんについては、より頻回な観察が必要です。また、睡眠中の患者さんの呼吸音や体位なども注意深く確認します。

状態変化の早期発見方法

夜間の状態変化は、わずかな兆候から始まることが多いため、前回の観察時との比較が重要です。特に、呼吸パターンの変化、発汗の状態、顔色の変化などの微細な変化も見逃さないよう注意を払います。また、モニター音の変化にも敏感に反応し、早期発見に努めます。

夜間特有の救急対応

夜間の救急対応では、日中とは異なる配慮や手順が必要となります。ここでは、夜間特有の救急対応についてご説明します。

緊急時の動線確保

夜間は廊下や病室内の照明が制限されるため、緊急時の動線確保が特に重要です。必要な機器や物品を運搬する際の経路を確認し、障害物がないよう整理しておきます。また、緊急時に使用する照明の位置や操作方法も把握しておく必要があります。

他患者への配慮

緊急対応中も、他の患者さんへの配慮を忘れてはいけません。特に、大きな物音や話し声は最小限に抑え、必要に応じてカーテンや衝立を使用して視覚的な配慮も行います。また、長時間の対応が必要な場合は、他の患者さんの状態確認も定期的に行います。

夜間の記録と申し送り

夜間の記録や申し送りは、より正確さが求められます。ここでは、夜間特有の記録方法と申し送りのポイントについてご説明します。

時系列記録の重要性

夜間の出来事は、特に時系列での記録が重要です。状態変化の発見時刻、実施した処置、医師への報告時刻など、すべての事項について時刻を明確に記録します。また、実施した観察や処置の結果についても、具体的に記載することが重要です。

効果的な申し送り方法

夜間の出来事を日勤帯に申し送る際は、特に重要な情報を優先的に伝えます。状態変化があった患者さんの経過や、継続して観察が必要な事項などを、簡潔かつ正確に伝えることが重要です。また、未完了の処置や、フォローアップが必要な事項についても、確実に申し送りを行います。

ケーススタディ

実際の緊急対応事例を通じて学ぶことは、新人看護師の皆さんにとって非常に効果的な学習方法となります。このセクションでは、実際の現場で起きた緊急事例を5つ取り上げ、その対応プロセスと成功・失敗のポイントを詳しく解説します。それぞれの事例から、実践的な対応手順と重要な学びのポイントを理解しましょう。

ケース1:夜間の急性呼吸不全

症例概要と経過

75歳の男性患者Aさん、慢性心不全で入院中の方です。夜勤帯の23時頃、突然の呼吸困難を訴えました。既往歴には高血圧と糖尿病があり、利尿薬を服用中でした。日中から軽度の咳嗽があり、夕方の検温時には体温37.2度でしたが、バイタルサインは安定していました。

実際の対応手順

新人看護師のBさんは、患者の訴えを聞いてすぐにベッドサイドに向かいました。最初にSpO2モニターを装着し、88%(室内気)と低値を確認。直ちに当直医に報告する判断をしました。報告と並行して、半座位への体位調整を実施。

その後、医師の指示のもと酸素投与(リザーバーマスク10L/分)を開始しました。継続的なバイタルサイン測定により、SpO2は95%まで改善を確認できました。

対応の分析と評価

この事例での成功ポイントは、初期評価の迅速さと適切な報告判断でした。特に、SpO2値の低下を確認した時点での迅速な医師への報告が、早期介入につながりました。

また、報告と並行して行った体位調整も、呼吸困難の軽減に効果的でした。一方で、より早期の段階で、日中からの咳嗽症状に注目し、予防的な観察強化ができた可能性も指摘されています。

ケース2:術後出血

症例概要と経過

68歳の女性患者Cさん、胃がんの手術後2時間が経過した時点での事例です。術後の経過観察中、創部ドレーンからの急激な出血量増加を認めました。術前の状態は安定しており、特記すべき既往歴はありませんでした。

実際の対応手順

新人看護師のDさんは、21時の観察時にドレーンからの出血量が30分で100mLを超えていることを発見。同時に、血圧の低下(92/58mmHg)と頻脈(118回/分)を確認しました。直ちに先輩看護師に応援を要請し、外科当直医への報告を行いました。

その間、もう一名の看護師が末梢静脈路を確保。医師到着後、緊急手術の方針となり、手術室へ移送となりました。

対応の分析と評価

この事例では、出血量の増加と循環動態の変化を適切に関連付けて評価できた点が評価されています。

また、応援要請と医師への報告を並行して行い、チーム対応を効果的に展開できました。一方で、術後観察のポイントについて、事前の準備学習があれば、より早期の段階で異常を察知できた可能性も指摘されています。

ケース3:低血糖発作

症例概要と経過

45歳の男性患者Eさん、2型糖尿病でインスリン療法中の方です。深夜2時のラウンド時、意識レベルの低下を発見しました。夕食後のインスリン投与は通常通り実施されていましたが、就寝前の補食を拒否されていた経緯がありました。

実際の対応手順

新人看護師のFさんは、声かけに対する反応が鈍いことを確認後、直ちに血糖値を測定。32mg/dLと著明な低値を認めました。すぐに当直医に報告し、50%ブドウ糖液の投与指示を受けました。投与後、血糖値は145mg/dLまで回復し、意識レベルも改善。その後の経過観察で再低下がないことを確認しました。

対応の分析と評価

この事例での成功ポイントは、意識レベル低下時の血糖値測定を最優先で実施した判断でした。また、治療後の継続的な観察も適切に行われています。一方で、就寝前の補食拒否の情報がより早期に共有されていれば、予防的な対応が可能だった可能性も示唆されています。

ケース4:アナフィラキシーショック

症例概要と経過

32歳の女性患者Gさん、肺炎で入院中に抗生剤投与開始5分後、突然の呼吸困難と全身の発赤が出現しました。既往歴に薬剤アレルギーの記載はありませんでした。

実際の対応手順

新人看護師のHさんは、症状出現後直ちに抗生剤の投与を中止。バイタルサインを確認したところ、血圧80/45mmHg、SpO2 89%と低下を認めました。アナフィラキシーを疑い、直ちに当直医に報告。医師の指示のもと、アドレナリン筋注と補液を開始しました。その後、症状は徐々に改善し、ICUでの経過観察となりました。

対応の分析と評価

この事例では、アナフィラキシーの早期認識と、抗生剤投与中止の迅速な判断が評価されています。また、救急薬品の準備と投与もスムーズに行われました。一方で、投与前の薬剤アレルギー歴の再確認の重要性も、この事例から学ぶことができます。

ケース5:急性心不全の増悪

症例概要と経過

82歳の女性患者Iさん、慢性心不全で入院中の方です。夜間帯に徐々に進行する呼吸困難と起座呼吸を認めました。日中から軽度の下腿浮腫の増強を認めていました。

実際の対応手順

新人看護師のJさんは、22時の巡回時に患者の呼吸状態の変化に気づきました。聴診でラ音を確認し、SpO2は92%(室内気)でした。状態変化を当直医に報告し、心不全の急性増悪と診断。利尿剤の投与と酸素療法を開始しました。その後、症状は徐々に改善し、重症化を防ぐことができました。

対応の分析と評価

この事例では、日中からの浮腫の増強と夜間の呼吸状態の変化を適切に関連付けて評価できた点が高く評価されています。

また、聴診器を用いた的確な評価も、適切な対応につながりました。今後の課題として、心不全患者の症状悪化の予測因子についての知識を深めることが指摘されています。

Q&A「おしえてカンゴさん!」

このセクションでは、新人看護師の皆さんから多く寄せられる緊急時対応に関する質問について、経験豊富な看護師「カンゴさん」が実践的なアドバイスを提供します。日々の臨床現場で直面する具体的な課題や不安について、実例を交えながら分かりやすく解説していきます。

緊急対応の基本に関する質問

Q1: 夜勤で急変に遭遇した場合、最初に何をすべきですか?

カンゴさん: 緊急時の最初の対応は、必ずPABCDアプローチを実践することです。まず、患者さんの安全を確保し、気道(Airway)、呼吸(Breathing)、循環(Circulation)の順で評価を行います。同時に、他の看護師に応援を要請することも重要です。特に夜勤帯は人手が限られているため、早めの応援要請が大切です。

また、バイタルサインの測定と並行して、救急カートの準備も進めておくと良いでしょう。

Q2: 急変時、緊張して頭が真っ白になってしまいます。どうすれば良いですか?

カンゴさん: 緊張するのは当然のことです。そのような時は、深呼吸を1-2回行い、まずは落ち着くことから始めましょう。事前に緊急時対応手順を確認し、シミュレーション訓練に参加することで、実際の場面での対応力が向上します。

また、病棟での緊急時対応マニュアルを定期的に読み返し、イメージトレーニングを行うことも効果的です。実際の現場では、声に出して自分の行動を確認しながら進めることで、より冷静な対応が可能になります。

報告・連絡に関する質問

Q3: SBAR報告で特に気をつけるべきポイントは何ですか?

カンゴさん: SBAR報告では、特にSituation(状況)とAssessment(評価)の部分が重要です。状況説明では「誰が」「どうなった」を簡潔に伝え、評価では具体的な数値(バイタルサイン等)を必ず含めるようにします。

また、報告前に要点を整理し、優先順位をつけて伝えることも大切です。医師が必要とする情報を予測しながら報告することで、より効果的なコミュニケーションが可能になります。

Q4: 医師への報告のタイミングに迷います。どのような状態なら報告すべきですか?

カンゴさん: 基本的に、バイタルサインが基準値から大きく外れた場合や、患者さんの様子が普段と明らかに異なる場合は報告が必要です。具体的には、SpO2が90%未満、収縮期血圧が90mmHg未満、心拍数が120回/分以上、または50回/分未満の場合は、速やかに報告しましょう。

また、「何か様子がおかしい」と感じた場合も、躊躇せずに報告することが重要です。経験を重ねることで、報告の判断基準が身についていきます。

チーム連携に関する質問

Q5: 先輩看護師に応援を要請する際、どのように伝えれば良いですか?

カンゴさん: 応援要請の際は、「〇〇号室の△△さんの状態が悪化しています。血圧低下と呼吸困難があり、対応をお願いできますか」というように、具体的な状況と必要な支援を明確に伝えましょう。

また、自分が現在実施している対応についても簡潔に伝えることで、より効果的な支援を受けることができます。緊急性が高い場合は、その旨も必ず付け加えるようにしましょう。

Q6: 緊急時のチーム内での役割分担について、新人看護師ができることは何ですか?

カンゴさん: 新人看護師でも、バイタルサインの測定や記録係として重要な役割を担うことができます。

また、必要物品の準備や、他のスタッフへの連絡役としても貢献できます。特に記録は、その後の治療方針の決定に重要な情報となるため、時系列での正確な記録を心がけましょう。さらに、先輩看護師の指示のもと、基本的な処置の補助を行うこともできます。

具体的な処置に関する質問

Q7: 酸素投与の開始時期や流量の判断に自信が持てません。どのような基準で判断すれば良いですか?

カンゴさん: 一般的に、SpO2が94%未満の場合は酸素投与を検討します。ただし、COPDなど基礎疾患がある場合は個別の目標値に従います。流量は、SpO2や呼吸状態に応じて段階的に調整していきます。まずは2-3L/分から開始し、効果を確認しながら増減を検討します。ただし、重要なのは必ず医師の指示のもとで実施することです。

Q8: 末梢静脈路の確保が上手くできません。コツはありますか?

カンゴさん: 末梢静脈路の確保は、経験を重ねることが大切です。まずは、十分な観察と触診で適切な血管を選択することが重要です。前腕の内側や手背など、血管の走行が確認しやすい部位から始めましょう。

また、駆血帯の締め具合や穿刺角度にも注意を払います。失敗しても焦らず、必要に応じて先輩看護師に協力を依頼することも大切です。

記録と振り返りに関する質問

Q9: 緊急時の記録で特に注意すべき点は何ですか?

カンゴさん: 緊急時の記録では、時系列での正確な記載が最も重要です。発見時の状況、実施した処置、バイタルサインの変化、医師への報告内容とその時刻を具体的に記録します。

また、使用した薬剤や医療機器の設定なども漏れなく記載しましょう。記録は診療の重要な証拠となるため、客観的な事実を中心に記載することを心がけてください。

Q10: 緊急対応後の振り返りは、どのように行うべきですか?

カンゴさん: 振り返りは、できるだけ早いタイミングで行うことをお勧めします。対応に携わったスタッフと共に、時系列での対応内容を確認し、良かった点や改善点を具体的に話し合います。特に、初期対応の判断や、チーム連携の面での課題を明確にすることが重要です。

また、個人での振り返りノートを作成し、学びを記録することも効果的です。これらの経験を次回の対応に活かすことで、着実にスキルアップしていくことができます。

まとめ

緊急時の対応は、新人看護師にとって大きな不安要素となりますが、本記事で解説した実践的なフレームワークと具体的な手順を身につけることで、自信を持って対応することが可能になります。

特に重要なポイントは以下の通りです。初期評価ではPABCDアプローチを基本とし、系統的な観察を行います。報告はSBAR形式を活用し、簡潔かつ正確な情報伝達を心がけます。チーム連携では、それぞれの役割を理解し、効果的なコミュニケーションを実践します。また、夜勤帯特有の課題に対しては、事前準備と応援体制の確保が重要です。

実際の現場では、本記事で紹介したケーススタディのような様々な状況に遭遇する可能性があります。そのような時は、一人で抱え込まず、チームの支援を積極的に求めましょう。また、経験を重ねるごとに、対応力は確実に向上していきます。

より詳しい看護技術や実践的なノウハウについては、「はたらく看護師さん」で多数の記事を公開しています。新人看護師の方々に向けた特集や、先輩看護師からのアドバイス、実践的な症例検討など、日々の業務に役立つ情報を随時更新していますので、ぜひご覧ください。

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参考引用文献

  • 日本看護協会「看護実践能力」
  • 厚生労働省「新人看護職員研修ガイドライン」
  • 日本集中治療医学会「重症患者リハビリテーション 診療ガイドライン」

【看護師のバイタルサイン完全ガイド2024】測定方法から解釈まで徹底解説

看護師の仕事をするうえで切り離せないものに「バイタル」があります。バイタルは、患者の健康状態を数値で表される情報であり、看護師にとって基本中の基本といえるでしょう。しかし、現場によっては測定する機械が違うことで、戸惑う看護師が多い業務でもあります。

 

そこで本記事では、バイタルの基本的な測定方法を中心に、バイタルの目的や小児科に努める看護師向けに、小児に対するバイタル測定の注意点などもご紹介していきます。

 

バイタルとは?

 

無料写真 美しいスマートアジア医師と患者が議論してクリップボードで何かを説明

 

バイタルとは、患者の生命徴候を示す基本的な情報を指します。これは、患者の状態や緊急性を数値化し、客観的に把握・伝達するための重要なデータとなります。バイタルは、簡易的な測定器や視覚・触診でも測定可能であり、数値から患者の健康状態を迅速にチェックすることができます。

 

バイタルには、「脈拍(心拍)」「呼吸」「血圧」「体温」の4つが含まれます。一方で、救急医療現場や集中治療室では、「バイタル」としてこれに加えて「意識レベル」と「尿量」の2項目を追加することもあります。一般的には、朝・昼・晩の1日3回、バイタルを測定して記録します。

 

バイタルを測定する目的

 

バイタルを測定する目的は、患者の状態が正常値や基準値から逸脱していないか、および前回の測定値との変化を把握することです。正常値から大きく逸脱していれば、適切な処置が急務となり、生命の維持に関わる可能性があります。

 

また、前回の測定値と比較することで、状態の悪化や改善の傾向を把握し、治療方針の見直しを行います。バイタルの正常値や基準値は患者個人の状況によって異なるため、個々の状態に適した判断を重視します。

 

日常的にバイタルを記録しておくことで、異常を早期に発見し、患者の生命活動を保護する役割を果たします。

 

バイタルを測定する際の注意点

 

まず第一に、正確な測定器を使用し、標準的な手順に従うことが重要です。適切な測定位置を選び、患者が安静でリラックスしている状態で測定することもポイントです。測定中に患者とのコミュニケーションを保ち、不安や疑問を解消することも心掛けましょう。

 

また、測定データは正確に記録し、過去のデータと比較して変化を把握することで、状態の変動を的確に判断できます。最後に、バイタルの異常値や変化は適切な専門家や医療チームに報告し、必要な対応を迅速に行うことが重要です。

 

バイタルの基準値

 

バイタルの正常値は、一般的な基準範囲ですが、個人の健康状態や年齢、性別、活動レベルなどによって異なる場合があります。以下は一般的な正常値の範囲です。

 

1.体温(Temperature)

 

・正常範囲:36.0°Cから37.0°C

 

2.脈拍(心拍数)(Pulse Rate)

 

・正常範囲:60~100拍/分

 

3.呼吸数(Respiratory Rate)

 

・正常範囲:14~20呼吸/分

 

4.血圧(Blood Pressure)

 

・正常範囲:収縮期血圧(Systolic BP)80~120mmHg

 

・拡張期血圧(Diastolic BP)60~80mmHg

 

これらの数値は一般的な正常範囲であり、異なるケースでは医師や看護師が患者の個別の状態に応じて評価します。患者のバイタルがこれらの範囲から逸脱する場合には、注意が必要であり、適切な評価と対応が求められます。

 

バイタルの測定方法

 

無料写真 医者は患者の体温を測定するために体温計を見ています。

 

ご紹介したように、バイタルの正常値は人によって個人差があるため幅広くとられています。そのため、患者の数値を把握しておかなければ、除隊の変化に気付くことができません。ここでは、バイタルの正しい測定方法を解説していくので、以上がみられる場合はすぐに医師に報告するようにしましょう。

 

脈拍測定

 

脈拍測定は、血液が心臓の拍動によって動脈に駆出され、末梢血管まで到達する際の波動を感知することです。通常の脈拍の基準値は、1分間に60〜100回です。脈が100回/分以上である場合は頻脈、50回/分以下である場合は徐脈といいます。

 

測定を行う際には、一般的に最も脈が触れやすい橈骨動脈が選択されます。ただし、血圧が低い場合には撓骨動脈では脈拍が感知できないことがあります。また、膝窩動脈や後脛骨動脈、足背動脈は通常は使わず、下腿の循環動態を把握する際に選択されることがあります。

 

測定方法は、指先を軽く当てて15秒または30秒間の脈拍をカウントし、その後「15秒間の測定値×4」または「30秒間の測定値×2」で1分間の脈拍数を算出します。不整脈や脈拍欠損がある場合は、1分間継続して測定する必要があります。左右の差も確認するポイントです。測定者の手指が冷たくないか事前に確認することも大切です。

 

血圧測定

 

血圧は、心臓が血液を拍出し、それが血管抵抗を通って血管内に及ぼす圧力を指します。血圧は日内変動があり、昼に高く、夜は低くなる傾向があります。正常値は、収縮期血圧が120mmHg以下かつ拡張期血圧が80mmHg以下です。

 

血圧を測定する際には、動いた直後は血圧が高くなるため、5分程度安静にしてから、坐位か仰臥位で測定します。測定の際には、常に同じ体勢と部位で測定することが重要です。一般的には上腕部が測定されますが、特定の理由がある場合には大腿部や下腿部での測定も行います。

 

血圧の測定方法には、観血的測定法と非観血的測定法があります。観血的測定法は、血管内に管を留置して血圧を直接測定する方法であり、非観血的測定法では血圧計を使用します。近年は水銀を使用しない上腕式電子血圧計が推奨されています。

 

血圧測定の際のポイントは、マンシェットを巻く位置と心臓の高さが同じになるよう腕の位置や体位を調整することです。このような注意点を踏まえて、正確な血圧の測定を行います。

 

呼吸測定

 

呼吸測定は患者の健康状態を把握する重要な要素です。正常な呼吸数は1分間に14〜20回ですが、患者が測定を意識することなく自然な呼吸数を求めます。測定時に患者がリラックスしている状態で、脈拍を測定する際などに一緒に呼吸数を計測する工夫が必要です。

 

呼吸音の聴診では、患者に大きめな呼吸を繰り返してもらい、左右対称に聴取します。聴取部位、呼吸音の大きさや左右差、異常音の有無を確認します。特に異常音が聞こえた場合には、その種類や体位、咳嗽による違いも注視します。呼吸数は敗血症の指標qSOFAにも含まれており、急変の徴候を捉えるためにも重要です。

 

呼吸数を測定する際のポイントは、患者が意識することなく自然な呼吸数をカウントすることです。患者に「呼吸数を測りますね」と伝えるのではなく、自然な状態で呼吸数を測定します。

 

体温測定

 

体温の測定は患者の健康状態を把握する重要な手段です。体温は表面体温、口腔温・腋渦窩温、深部体温の3種類あり、医療者が使用する「体温」は一般的に「深部体温」を指します。

 

深部体温測定時は、体温計の先端を腋窩最深部に差し込み、できるだけ密着させて測定します。特定の状況下では、尿道バルーンや肛門から計測器を差し込んで測定することがあります。

 

腋窩検温法では、腋窩が発汗していないことを確認し、身体の軸に対して30〜45度の角度で体温計の先端を挿入します。口腔検温法では、手袋を装着し、口唇・口腔内に異常がないか確認した後、体温計を挿入して舌下に感温部を当てます。

 

測定の際のポイントとしては、体温は早朝から夕方にかけて高まる傾向があるため、毎日一定の時間帯に同じ方法で測定することが重要です。また、検温時の室温は25度を目安にし、運動や入浴、食事の直後は避けて、測定前に30分ほど安静状態を保つことがすすめられています。これにより正確な体温の測定が可能となります。

 

意識レベル

 

バイタルだけでは不十分な患者の場合、全身状態を正確に把握するために意識レベルと合わせて判断することもあるため重要です。

 

簡易的な意識レベルの評価方法として、声をかける、刺激を与える、痛み刺激を与える、という順序で行います。ただし、激しく揺さぶるなどの行為は首の骨折などを考慮し避ける必要があります。医療現場では、より詳細な意識レベルの評価のために、JCSやGCS(などの専用スケールが利用されます。

 

JCSは、短時間で意識レベルを評価する簡便な方法で、間脳・中脳・延髄への侵襲の目安として判定できる特徴があります。一方でGCSは、「開眼・最良言語反応・最良運動反応」の3つの側面で評価します。評価がやや複雑であることと、1項目でも判定が困難な場合は意味をなさないという課題があります。

 

意識レベルの適切な評価は、患者の状態把握と適切な医療介入のために不可欠であり、緊急時や重症患者の管理において重要な役割を果たします。

 

尿量測定

 

尿量の測定は患者の健康状態や腎臓機能を評価する重要な手段です。正常な尿量の基準は、1回につき約200~400mlであり、1日の総量として約1,000~2,000mlです。尿量が異常に少ない場合、乏尿と呼ばれ、1日の尿量が500~600ml以下の場合に該当します。更に、無尿は1日の尿量が50ml未満の状態を指します。

 

異常な尿量が示される場合、泌尿器の疾患や腎臓機能の異常が疑われます。正確な尿量の評価のためには、膀胱留置カテーテルなどを使用して尿の量を定量的に測定することが必要です。これにより、適切な医療介入や処置が可能となり、患者の健康状態を適切に管理するうえで重要です。

 

<看護師・ナースのリアルな声>バイタル測定で気を付けていることはありますか?

 

<看護師・ナースのリアルな声>バイタル測定での失敗談を教えてください

 

バイタルの測定の流れ

 

無料写真 病院のベッドの患者-医療とヘルスケアのシニアコンセプトでシニア高齢女性患者を調べる医師

 

ここからは、バイタルを測定するまでの流れを簡単に解説していきます。

 

バイタル測定に必要なもの

 

まず、バイタルの測定には以下のものが必要です。

 

1.聴診器

 

2.秒針付き時計

 

3.電子体温計

 

4.電子血圧計

 

5.アルコール綿

 

バイタル測定する前の準備

 

バイタル測定の事前準備では、まず聴診器を適切に装着し、音が正しく伝わるか確認します。血圧計のマンシェットが正しく加圧されているか、目盛りが反応するかも確認します。患者の肌に触れる部分はアルコール綿で消毒し、衛生的な状態を保ちます。これらの準備が整ったら、正確なバイタルサインの測定に移ることができます。

 

患者さんへの説明

 

バイタルサインの測定を行う際には、患者さんに対して適切な説明と同意を得ることが重要です。まず、測定の目的やその重要性について丁寧に説明します。患者さんが理解しやすいように言葉を選び、質問や疑念があれば丁寧に答えます。測定に対して拒否的な患者さんには無理強いせず、配慮が必要です。

 

もし患者さんが拒否の意思を示す場合は、無理に測定を行わず、時間をおいて再度アプローチするか、別の対応者が担当することを検討します。また、医師に相談して、測定回数や時間帯の変更を検討するなど、患者さんの状況や意向に適した対策を講じます。

 

測定開始

 

バイタルサインの測定を開始する際には、特定の順序が厳格に決まっているわけではありません。ただし、患者さんへの刺激や影響を最小限に抑えるため、マンシェットの装着や体温計の挟むなどの侵襲が少ないものから始めることが重要です。

 

患者さんによっては、測定結果に過敏な反応を示す場合もあるため、そのようなケースでは医療者同士で情報を共有し、適切な配慮を行います。時には、患者さんが測定結果を聞いてきた際に、適切に情報を伝えることも求められます。

 

<看護師・ナースのリアルな声>バイタル測定を行うときに困った患者はいますか?

 

小児相手のバイタル測定方法

 

無料写真 母と娘の聴診器で医者を演奏

 

小児のバイタルサイン測定は、成人と比較して生理機能が未熟であり、外部刺激に敏感でバイタルサインが変動しやすい特徴があります。加えて、年齢が低いため症状や苦痛を的確に表現できないことが挙げられます。このため、客観的なバイタルサインが異常の早期発見や治療判断の重要な要素となり、看護ケアにおいて不可欠です。

 

小児のバイタルサイン測定では、体動や泣き声が測定値に影響する可能性があるため、ストレスを最小限に抑えることが重要です。適切な測定方法と道具の選択、遊びを取り入れる工夫が求められます。

 

また、発達段階や状況に応じて臨機応変にアプローチすることが必要です。家族の協力を得ることも重要で、保護者と連携しながら情報収集や子どもの状態変化の把握を行います。

 

バイタルサイン測定の順番

 

バイタルサイン測定の順番は、患者の年齢や状態によって異なる要素があります。一般的な大人の場合では、「体温」→「脈拍」→「呼吸」→「血圧」という順序が一般的です。

 

しかし、小児の場合はその生理機能の未熟さや感受性が影響を与えるため、「呼吸」→「脈拍」→「体温」→「血圧」の順で測定するのが基本です。ただし、患児の発達段階や理解力、機嫌、病状などに応じて順番を工夫することが重要です。柔軟な対応が必要です。

 

小児相手にバイタル測定するときのポイント

 

小児相手にバイタルサインの測定を行う際は、子供たちの心地よく安心できる雰囲気を作り出すことが大切です。ここでは、小児相手のバイタル測定での大事なポイントをご紹介していきます。

 

優しく説明してあげる

 

まず第一に、優しさと理解をもって接することが大切です。子供たちが緊張せず、安心感を持てるように、笑顔で声をかけ、やさしく説明します。「全然怖くないから安心してね」「ちょっと体のこと見てみようか」など、優しい声掛けで恐怖心を取り除くことが可能です。

 

また、おもちゃや珍しい機械などを触れさせてあげることで、そちらの集中させて穏やかな状態でバイタル測定を行うことが可能になります。

 

終わったら褒める

 

測定が終わったら、子供たちを褒めてあげましょう。「すごく良くできました!お利口さんだね。」と褒めることで、子供たちが測定を良い経験として覚えることができます。

 

<看護師・ナースのリアルな声>小児のバイタルで気を付けていることはありますか?

 

<看護師・ナースのリアルな声>子供たちがすんなりバイタル測定を行ってくれるコツを教えてください

 

まとめ

 

この記事では、看護師の業務でも基本となるバイタルについて詳しく解説してきました。

 

バイタルサインは、患者の健康状態を理解する上で重要な情報源です。正常値との比較を通じて、患者の状態を把握し、変化を敏感に察知することができます。定期的な測定を行うことで、異常を早期に発見できるため、日々の健康管理だけでなく、異常の早期発見にもつなげることができます。

 

医療従事者としては、各測定のポイントや手順を熟知し、いつでもスムーズに実行できるよう努めることが大切です。このような取り組みが、患者の安全と適切な治療につながることを覚えておきましょう。