
母性看護実習で避けて通れない授乳指導。しかし、「具体的な観察ポイントがわからない」「記録の書き方に自信が持てない」など、多くの看護学生が不安を感じているのではないでしょうか。
この記事では、授乳指導に必要な基礎知識から実践的なテクニックまで、実例を交えて詳しく解説します。
観察のポイントや記録の取り方、よくある困難事例への対応など、すぐに実習で活用できる知識が身につきます。先輩看護師の経験に基づいた実践的なアドバイスも満載です。この記事を読んで、自信を持って授乳指導に取り組みましょう。
この記事で分かること
- 授乳指導に必要な基本知識と手順
- 効果的な観察方法と支援のテクニック
- 実習記録の具体的な書き方とポイント
- 具体的な指導事例と解決策
この記事を読んでほしい人
- 母性看護実習を控えた看護学生の方
- 授乳指導の基礎を学びたい方
- 観察力と支援能力を向上させたい方
- 実習記録の書き方を確認したい方
授乳指導の基本と重要性

授乳指導は母子の健康と愛着形成を支援する重要な看護技術です。
このセクションでは、授乳指導の基本的な考え方と実践のポイントを解説します。
授乳指導の定義と目的
母親と新生児の健やかな関係を築くための支援活動です。母乳育児の確立と継続を目指します。
短期的な目標
母乳分泌の促進と正しい授乳方法の習得を支援します。
長期的な目標
母子の愛着形成と継続的な母乳育児をサポートします。
効果的な観察のポイント

母子それぞれの状態を適切に観察することは、効果的な授乳支援の基本となります。
このセクションでは具体的な観察項目とアセスメントの方法について解説します。
母親の観察とアセスメント
産後の母体の回復状況と心理面の変化を総合的に観察することが重要です。
乳房の状態観察
乳房の張り具合、乳頭の形状、皮膚の状態などを詳細に観察します。特に授乳前後での変化に注目し、トラブルの早期発見につなげます。授乳時の痛みの有無や程度、乳汁分泌量なども重要な観察項目となります。
母体の全身状態
産後の回復状況、疲労度、バイタルサインなどを確認します。特に発熱や悪露の状態、乳腺炎の兆候などに注意を払います。
心理状態の観察
授乳に対する不安や戸惑い、育児ストレスの有無を観察します。表情や発言内容から心理状態を把握し、適切な精神的支援につなげます。
新生児の観察とアセスメント
新生児の健康状態と発達段階に応じた観察が必要です。
全身状態の確認
体重の変化、皮膚色、活気、体温などを観察します。黄疸の程度や脱水の兆候にも注意を払います。
哺乳行動の観察
吸啜力、飲み方のリズム、嚥下の様子を観察します。授乳時間や回数、1回の授乳量なども重要な指標となります。
排泄状況の確認
排尿・排便の回数、性状、量を観察します。適切な栄養摂取ができているかを判断する重要な指標となります。
母子関係の観察
母子の相互作用や愛着形成の様子を観察することも重要です。
コミュニケーションの様子
授乳中の声かけやスキンシップ、アイコンタクトなどを観察します。母親の赤ちゃんへの関わり方や態度にも注目します。
授乳環境の評価
授乳時の姿勢や環境設定が適切かを確認します。必要に応じて環境調整の提案を行います。
観察記録の方法
効果的な支援につなげるため、観察内容を適切に記録することが重要です。
客観的な記録のポイント
観察した事実を具体的に記載します。主観的な表現は避け、できるだけ数値化や具体的な表現を用います。
記録の活用方法
観察記録を多職種で共有し、継続的な支援に活用します。母親への指導内容の振り返りにも活用します。
実践的な支援方法

効果的な授乳支援を行うためには、適切な技術と細やかな配慮が必要です。
このセクションでは具体的な支援手順とコミュニケーション方法について解説します。
基本的な支援手順
産後の母親に寄り添いながら、段階的な支援を行っていきます。
信頼関係の構築
初回面接では母親の気持ちに寄り添い、丁寧な傾聴を心がけます。授乳に対する不安や悩みを引き出し、共感的な態度で接することで信頼関係を築いていきます。
個別性を考慮したアセスメント
母親の年齢や経産回数、育児経験、家族のサポート状況などを確認します。母親の希望する育児方針も尊重しながら、適切な支援計画を立案します。
具体的な技術指導
実践的な授乳支援では、段階的な指導が効果的です。
ポジショニングの指導
正しい授乳姿勢の指導を行います。母親の体調や好みに合わせて、複数の授乳姿勢を提案します。クッションの使用方法なども含めて説明します。
ラッチオンの支援
赤ちゃんの抱き方や乳頭への含ませ方を具体的に指導します。母親が自信を持って実施できるまで、必要に応じてデモンストレーションを行います。
効果的なコミュニケーション
支援の成功は適切なコミュニケーションにかかっています。
声かけのタイミング
母親の状態や授乳の進行状況を見ながら、適切なタイミングで声かけを行います。特に初めての授乳時は、きめ細かな声かけが重要です。
肯定的なフィードバック
できている部分を具体的に伝え、母親の自信につなげます。改善が必要な点は、否定的な表現を避けて建設的な提案を心がけます。
継続的な支援体制
退院後の支援まで見据えた体制づくりが重要です。
家族を含めた支援
パートナーや家族にも授乳支援の方法を伝えます。退院後の育児環境を整えるための助言も行います。
地域連携の活用
退院後の支援体制について情報提供を行います。地域の母乳育児相談や助産師外来などの社会資源を紹介します。
トラブル対応と予防
授乳に関連する様々なトラブルへの対応方法を説明します。
乳頭トラブルの予防
正しい授乳方法の指導と合わせて、乳頭ケアの方法を説明します。トラブル発生時の対処法についても事前に説明を行います。
乳腺炎の予防
適切な搾乳方法や乳房マッサージの指導を行います。症状出現時の早期対応についても説明します。
記録の取り方と評価

適切な記録は継続的な支援と評価の基本となります。
このセクションでは具体的な記録方法とその活用について解説します。
基本的な記録項目
看護記録は客観的な事実と評価を明確に区別して記載します。
授乳状況の記録
授乳開始時刻、終了時刻、授乳時間を具体的に記録します。左右の乳房それぞれの授乳時間や順序についても記載します。搾乳を行った場合は、その量と方法についても記録します。
母親の状態記録
乳房の張り具合、乳頭の状態、疲労度などを具体的に記載します。母親の表情や発言内容など、心理面の観察結果も含めます。
記録の書き方のポイント
看護記録は第三者が読んでも理解できる内容である必要があります。
SOAPフォーマットの活用
主観的データ、客観的データ、アセスメント、プランを明確に区別して記載します。特に客観的データは具体的な数値や状態を含めて記録します。
記録の具体的表現
抽象的な表現を避け、具体的な状態や変化を記載します。「普通」や「良好」などの曖昧な表現は使用しません。
評価の方法
支援の効果を適切に評価することで、より良い支援につなげます。
短期的評価
授乳1回ごとの評価を行います。母親の技術習得度や赤ちゃんの哺乳状態を確認し、次回の支援計画に反映させます。
長期的評価
入院期間中の母乳育児の確立度を評価します。退院後の支援計画にも活用できるよう、具体的な到達状況を記録します。
記録の活用方法
記録は多職種間での情報共有と継続的な支援に活用します。
カンファレンスでの活用
チームカンファレンスで支援の方向性を検討する際の基礎資料として活用します。記録に基づいて具体的な支援策を立案します。
退院時サマリーへの反映
入院中の支援内容と成果を退院時サマリーに反映させます。地域への継続支援に必要な情報を簡潔にまとめます。
よくある困難事例と対処法
授乳支援では様々な困難事例に遭遇します。
このセクションでは代表的な事例と具体的な対処方法を解説します。
乳頭トラブルへの対応
乳頭痛や亀裂は早期の対応が重要です。
乳頭痛への対処
授乳姿勢の修正と正しいラッチオンの指導を行います。乳頭の手当てと保護方法についても説明します。必要に応じて一時的な搾乳の併用も検討します。
扁平乳頭の支援
授乳前のニプルケアや乳頭保護器の使用を指導します。赤ちゃんの含ませ方に特に注意を払い、丁寧な支援を行います。
乳汁分泌不足への対応
母乳不足感は母親の大きな不安要因となります。
母乳不足の評価
赤ちゃんの体重増加、おむつの数、機嫌などから適切な評価を行います。母親の不安に寄り添いながら、客観的な指標で説明します。
分泌促進の支援
頻回授乳や搾乳の方法を具体的に指導します。休息と栄養摂取の重要性についても説明を行います。
双子の授乳支援
複数児の授乳では特別な配慮が必要です。
時間管理の工夫
効率的な授乳スケジュールの立て方を提案します。家族の協力を得ながら、無理のない授乳計画を立てます。
授乳方法の選択
同時授乳と交互授乳それぞれのメリットを説明し、母親に合った方法を選択できるよう支援します。
精神的支援が必要な事例
産後うつなどのリスクに注意が必要です。
早期発見のポイント
母親の表情や言動の変化に注意を払います。支援者は共感的な態度で接し、必要に応じて専門家につなぎます。
家族を含めた支援
パートナーや家族との連携を強化し、母親の精神的負担を軽減します。利用可能な社会資源についても情報提供を行います。
授乳支援に必要な解剖生理
効果的な授乳支援には、乳房の構造や母乳分泌のメカニズムを理解することが重要です。
このセクションでは必要な解剖生理学的知識を解説します。
乳房の基本構造
母乳育児を支援するための基礎知識として乳房の構造を理解します。
乳腺組織
乳腺葉と乳管系の構造について理解します。15から20の乳腺葉があり、それぞれが独立して乳汁を産生します。乳管は乳頭に向かって集まり、乳汁を運搬する役割を担います。
血管とリンパ系
豊富な血管網とリンパ系が乳房全体を巡っています。これらは母乳産生と乳房の健康維持に重要な役割を果たします。
母乳分泌のメカニズム
ホルモンの働きと母乳産生の過程について説明します。
分泌開始のプロセス
プロラクチンとオキシトシンの役割について理解します。プロラクチンは母乳の産生を促し、オキシトシンは射乳反射を引き起こします。
自律調節のしくみ
母乳分泌量は赤ちゃんの吸啜により自然に調節されます。頻回な授乳は母乳産生を促進する重要な要因となります。
新生児の哺乳生理
効果的な授乳支援には新生児の哺乳機能の理解が欠かせません。
吸啜反射のメカニズム
原始反射の一つとして生後すぐから備わっている吸啜反射について説明します。舌と顎の動きの協調により、効果的な哺乳が可能となります。
嚥下のプロセス
吸啜、嚥下、呼吸の協調について理解します。新生児期特有の哺乳パターンと注意点を説明します。
実習記録の書き方例
実習記録は看護過程の展開と学びを示す重要な文書です。
このセクションでは具体的な記録例と作成のポイントを解説します。
基本的な記録の構成
看護実習記録は論理的な構成で作成します。
情報収集の記載
母子の基本情報を簡潔かつ具体的に記載します。母親の年齢、妊娠分娩歴、新生児の出生時情報などを含めます。授乳に関する情報は特に詳しく記録します。
アセスメントの展開
収集した情報を適切にアセスメントします。母乳育児に影響を与える要因を多角的に分析し、記載します。
SOAPによる記録方法
看護記録の基本形式であるSOAP形式での記載方法を説明します。
S(主観的情報)の書き方
母親の訴えや気持ちを具体的に記載します。授乳に関する不安や希望、痛みの程度なども含めます。
O(客観的情報)の記載
観察した事実を具体的に記録します。乳房の状態、授乳姿勢、赤ちゃんの哺乳状態など、数値化できる情報は数値で記載します。
看護計画の立案
具体的な支援計画を記載します。
目標設定の方法
短期目標と長期目標を具体的に設定します。評価可能な表現を用いて記載します。
具体的な援助計画
目標達成のための具体的な支援内容を記載します。実施可能な計画となるよう配慮します。
評価の記録方法
支援の成果を適切に評価し記録します。
目標達成度の評価
設定した目標に対する達成度を具体的に記載します。客観的な指標を用いて評価します。
今後の課題
継続的な支援に向けて、残された課題を明確に記載します。次の支援者に伝えるべき情報を整理します。
ケーススタディ
実践的な理解を深めるため、実際の支援事例を紹介します。それぞれの事例から効果的な支援のポイントを学びましょう。
Case A:初産婦への支援事例
産後3日目、授乳への不安が強い初産婦への支援です。
症例の概要
25歳初産婦、経腟分娩、児は在胎39週5日、出生体重3100g。母乳分泌は良好ですが、乳頭痛を訴え、授乳に対する不安が強い状態です。
支援の実際
乳頭痛の原因となっていた不適切な授乳姿勢を修正し、正しいラッチオンの方法を指導しました。母親の不安に寄り添いながら、できている部分を具体的に伝え、自信につながる支援を行いました。
Case B:双子の授乳支援
双子の母親への効果的な授乳支援の事例です。
症例の概要
32歳経産婦、帝王切開分娩、双胎。児はともに在胎37週2日、出生体重はA児2800g、B児2750g。授乳の時間管理に不安を感じています。
支援の経過
効率的な授乳スケジュールの提案と、同時授乳の方法を指導しました。家族の協力を得ながら、無理のない授乳リズムを確立していきました。
Case C:乳頭トラブルのある母親への支援
乳頭痛が強く、授乳継続に不安を感じている母親への支援事例です。
症例の概要
28歳初産婦、経腟分娩、児は在胎40週0日、出生体重3250g。両側乳頭に亀裂があり、授乳時の痛みが強い状態です。
対応の実際
一時的な搾乳の併用と乳頭保護剤の使用を提案し、段階的に直接授乳を増やしていく計画を立案しました。痛みの軽減とともに授乳への自信を取り戻すことができました。
Case D:母乳不足感の強い母親への支援
母乳不足感から不安が強い母親への支援事例です。
症例の概要
30歳初産婦、経腟分娩、児は在胎38週6日、出生体重2980g。母乳分泌は実際には良好ですが、強い不足感を訴えています。
支援内容
体重増加や排泄状況など、客観的な指標を用いて赤ちゃんの状態を説明しました。母親の不安に寄り添いながら、適切な評価方法を伝えることで、自信を持って授乳を継続できるようになりました。
おしえてカンゴさん!Q&A
授乳指導に関する疑問や悩みについて、よくある質問とその回答を紹介します。実習での学びに役立ててください。
基本的な授乳指導について
看護学生からよく寄せられる質問に答えます。
Q1:授乳指導で最も重要なポイントは何ですか
個別性を重視した支援が最も重要です。母親の状態や希望を丁寧に確認し、それに合わせた支援を提供します。一方的な指導ではなく、母親の気持ちに寄り添いながら進めることで、効果的な支援につながります。
Q2:効果的な観察のコツを教えてください
系統的な観察と適切な記録が重要です。特に授乳前後の変化に注目し、母親の様子、乳房の状態、赤ちゃんの反応を詳しく観察します。観察した内容は具体的に記録し、継続的な支援に活用します。
実践的な支援方法
具体的な支援技術に関する質問について解説します。
Q3:授乳姿勢の指導はどのように行えばよいですか
まず母親の体調や希望を確認し、無理のない姿勢を選択します。クッションの使用方法も含めて具体的に説明し、必要に応じて実際に援助します。母親が自信を持って実施できるまで、段階的に支援を行います。
Q4:搾乳指導のポイントは何ですか
衛生的な手技と適切な圧力での搾乳方法を説明します。搾乳の必要性と目的を理解してもらい、無理のないペースで実施できるよう支援します。保存方法や消毒方法についても具体的に説明します。
トラブル対応について
授乳に関連するトラブルへの対応方法を説明します。
Q5:乳頭トラブルへの対処法を教えてください
早期発見と適切な対応が重要です。授乳姿勢の修正と正しいラッチオンの指導を行い、必要に応じて一時的な搾乳の併用も検討します。乳頭保護剤の使用方法についても説明します。
Q6:母乳不足感がある場合の支援方法は
客観的な指標を用いて赤ちゃんの状態を評価し、説明します。体重増加や排泄状況など、具体的な数値で示すことで母親の不安軽減につなげます。必要に応じて授乳回数の調整や搾乳の併用を提案します。
多職種連携のポイント
授乳支援を効果的に行うためには、多職種との連携が不可欠です。
このセクションでは具体的な連携方法について解説します。
医療チームとの連携
医師、助産師、他の看護師との連携について説明します。
情報共有の方法
カンファレンスやカルテを通じて、母子の状態や支援内容を共有します。特に授乳に関する問題点や支援計画は具体的に伝達します。
役割分担の明確化
各職種の専門性を活かした支援を行います。母乳育児支援における各職種の役割を理解し、適切な連携を図ります。
地域との連携
退院後の継続支援に向けた地域連携について説明します。
地域の社会資源
利用可能な母乳育児相談や助産師外来について情報収集します。母親に適切な情報提供ができるよう、地域の支援体制を把握します。
連携方法の実際
退院時サマリーの作成や関係機関への連絡方法を具体的に説明します。切れ目のない支援を実現するための連携のポイントを解説します。
まとめ
この記事では、授乳指導における基本的な知識から実践的なスキルまでを詳しく解説してきました。
授乳指導は母子の健康と愛着形成を支援する重要な看護技術です。個別性を重視した観察と支援、適切な記録、多職種連携が成功の鍵となります。この記事で学んだ知識を実践で活かし、より良い支援が提供できることを願っています。
より詳しい授乳指導の知識や、看護師としてのキャリアアップについて知りたい方は、【ナースの森】看護師のためのサイトをご覧ください。【ナースの森】看護師のためのサイト はたらく看護師さんの最新コラムはこちら