
近年、医療現場における早期離床の重要性が高まっています。早期離床は、患者さんの回復を促進し、入院期間の短縮にも貢献する一方で、適切な安全管理が不可欠です。
本稿では、臨床現場で活用できる離床援助の具体的な手順と、安全確保のためのポイントについて解説します。アセスメントから段階的支援、観察のポイントまで、実践的な内容を網羅的にお届けします。
経験豊富な看護師の知見と、最新のエビデンスに基づく支援技術を組み合わせることで、より安全で効果的な離床援助の実現を目指しましょう。
第一線で活躍する看護師の皆さまに、すぐに実践できる具体的な支援方法をお伝えします。患者さんの安全と早期回復の両立を実現する、確かな技術を身につけていただけます。
この記事で分かること
- 離床援助に必要な包括的なアセスメント手法と評価基準
- 安全性を重視した6段階の離床支援プログラムの実践方法
- 病態別の観察ポイントとリスク管理のための具体的な対応策
- 実践で活用できる記録方法と多職種連携のポイント
この記事を読んでほしい人
- 臨床現場で離床支援を担当する看護師の方
- リハビリテーション病棟で勤務する医療スタッフの方
- 離床支援の質向上を目指す看護チームの方
- 早期離床プログラムの確立を検討している病棟管理者の方
離床援助における安全確保の重要性

近年の医療現場において、早期離床の重要性は広く認識されています。適切な離床援助は患者の早期回復を促進し、入院期間の短縮にも貢献します。
一方で、不適切な離床支援は転倒・転落事故のリスクを高める可能性があり、安全性の確保が極めて重要となります。
本稿では、安全で効果的な離床援助の実践方法について、最新のエビデンスと現場での実践例を交えながら詳しく解説します。
アセスメントの実施方法
離床援助を安全に実施するためには、患者さんの状態を包括的に評価することが不可欠です。アセスメントでは身体機能だけでなく、認知機能や環境要因なども含めて多角的に評価を行います。
ここでは、実践的なアセスメントの手順と評価のポイントについて詳しく解説します。
全身状態の評価
バイタルサインの確認
離床開始前のバイタルサイン測定は、安全な離床援助の第一歩となります。血圧、脈拍、呼吸数、体温、酸素飽和度の測定に加えて、数日間の変動傾向も確認します。特に血圧については、臥位から座位への体位変換時の変動にも注意を払う必要があります。
また、疾患によっては目標となるバイタルサインの範囲が異なるため、主治医と相談の上で離床可能な条件を設定しておくことが重要です。
意識レベルと認知機能の評価
患者さんの意識レベルは、JCSやGCSなどの評価スケールを用いて客観的に評価します。認知機能については、見当識や指示理解力、コミュニケーション能力などを総合的に判断します。特に高齢者の場合は、せん妄のリスク評価も重要となります。
身体機能の詳細評価
筋力評価と関節可動域
徒手筋力テストを用いて、主要な筋群の筋力を評価します。特に体幹保持に関わる腹筋群や背筋群、下肢の筋力は重要な評価項目となります。関節可動域については、特に股関節、膝関節、足関節の可動域制限の有無を確認します。
循環動態の安定性確認
心疾患を有する患者さんでは、心電図モニタリングによる不整脈の有無や、心不全症状の観察が必要です。また、末梢循環の状態も重要な評価項目となります。
リスク要因の評価
既往歴と合併症の確認
過去の転倒歴や手術歴、基礎疾患などの情報収集を行います。特に整形外科的疾患や神経学的疾患の有無は、離床援助の方法に大きく影響を与えます。また、合併症の状態や治療経過についても把握しておく必要があります。
服薬状況の把握
降圧剤や睡眠導入剤など、離床に影響を与える可能性のある薬剤の使用状況を確認します。特に、投薬タイミングと離床援助のスケジュールの調整が必要となる場合があります。
環境アセスメント
病室環境の評価
ベッドの高さや柵の位置、床材の状態など、物理的な環境要因を確認します。また、照明条件や室温なども離床援助の安全性に影響を与える要因となります。
支援機器の選定
歩行器や車いすなど、必要な福祉用具の選定と適合評価を行います。患者さんの身体機能や病室の広さに応じて、最適な支援機器を選択することが重要です。
アセスメント結果の統合
離床可能性の判断
収集した情報を統合し、離床の可否や開始時期を判断します。この際、多職種カンファレンスでの検討も有効です。
支援計画の立案
アセスメント結果に基づいて、具体的な離床支援計画を立案します。計画には目標設定、実施手順、観察項目などを含めます。
段階的支援プログラムの実践

安全な離床援助を実現するためには、患者さんの状態に応じた段階的な支援プログラムの実施が重要です。
ここでは、臨床現場で実践できる具体的な支援手順と、各段階での注意点について解説します。
第1段階:ベッド上での準備運動
関節可動域訓練の実施方法
臥床時から開始する準備運動は、安全な離床の基盤となります。はじめに足関節の底屈・背屈運動から開始し、徐々に膝関節、股関節へと範囲を広げていきます。運動時は患者さんの疲労度や痛みの有無を細かく確認します。
呼吸機能トレーニング
深呼吸やハフィングなどの呼吸訓練を実施します。特に長期臥床患者さんでは、肺合併症予防の観点からも重要となります。酸素飽和度の変動に注意を払いながら、段階的に強度を上げていきます。
第2段階:ギャッジアップ訓練
角度調整の基本手順
ベッドの角度は15度から開始し、患者さんの状態を確認しながら30度、45度と徐々に上げていきます。各角度で最低5分間は保持し、めまいや気分不快の有無を確認します。
循環動態の観察ポイント
血圧低下や頻脈などの症状に注意を払います。特に心疾患を有する患者さんでは、心電図モニタリングを継続しながら実施します。
第3段階:端座位訓練
安全な移動方法
ベッドサイドへの移動は、必ず2名以上のスタッフで実施します。患者さんの麻痺側や点滴類の位置を考慮し、最も安全な移動経路を選択します。
座位保持の評価
座位保持時間は最初の3分間が重要です。この間の血圧変動や姿勢の崩れに特に注意を払います。徐々に保持時間を延長し、最終的には15分程度の保持を目指します。
第4段階:立位訓練
立ち上がり動作の指導
立位訓練では、まず足底をしっかりと床につけることから始めます。膝関節の伸展と体幹の前傾を意識した動作指導を行い、必要に応じて平行棒や歩行器を使用します。
バランス評価の実施
静的バランスと動的バランスの評価を行います。開眼・閉眼での立位保持時間や、重心動揺の程度を観察します。
第5段階:歩行訓練
歩行補助具の選択
歩行器、杖、シルバーカーなど、患者さんの状態に合わせた適切な補助具を選択します。補助具の高さ調整や使用方法の指導も丁寧に行います。
歩行距離の設定
最初は病室内の数歩から開始し、徐々に廊下歩行へと移行します。1日の歩行回数と距離は、患者さんの疲労度に応じて調整します。
第6段階:ADL拡大
生活動作への応用
トイレ動作や更衣動作など、具体的な生活場面での動作訓練を実施します。必要に応じて福祉用具の使用も検討します。
自立度の評価
各動作の自立度をBarthel IndexやFIMなどの評価スケールを用いて定期的に評価します。
段階的支援の管理
プログラムの進行管理
各段階での目標達成状況を定期的に評価し、次の段階への移行を判断します。リハビリテーションスタッフと密に連携を取りながら進めることが重要です。
リスク管理の徹底
各段階でのリスク評価を継続的に実施します。特に疲労の蓄積や急性増悪の兆候には注意を払います。必要に応じてプログラムの一時中断や修正を検討します。
安全管理とリスク対策

離床援助における安全管理は、医療安全の重要な要素です。
ここでは具体的なリスク対策と、安全確保のための実践的なアプローチについて解説します。
リスクマネジメントの基本方針
リスク評価システムの構築
離床援助開始前のリスクスクリーニングでは、転倒転落アセスメントスコアを活用します。評価結果に基づいて、患者さんごとの具体的な注意点と対策を立案していきます。
安全基準の設定
離床援助における安全基準は、バイタルサインの許容範囲や中止基準を明確に定めます。血圧の変動幅や心拍数の上限値など、具体的な数値目標を設定することで、スタッフ間での判断基準を統一します。
インシデント予防策
環境整備の実践
病室内の環境整備では、ベッド周囲の整理整頓を徹底します。コード類の配置や床面の状態確認、適切な照明確保など、具体的なチェックポイントを設定します。
支援機器の管理
歩行補助具や移動用具の定期的な点検を実施します。車椅子のブレーキ機能や歩行器の安定性など、細かな部分まで確認することで事故を未然に防ぎます。
急変時の対応体制
緊急時対応手順
急変時の対応フローを明確化し、チーム内で共有します。特に意識レベルの低下や循環動態の変化に対する初期対応手順を、具体的に定めておきます。
救急カートの整備
救急カートの配置場所と内容物の確認を定期的に行います。必要な医療機器や救急医薬品がすぐに使用できる状態を維持します。
スタッフ教育と訓練
技術研修の実施
定期的な技術研修を通じて、スタッフの離床援助スキルの向上を図ります。特に新人スタッフに対しては、段階的な指導プログラムを組み立てます。
シミュレーション訓練
実際の急変事例を基にしたシミュレーション訓練を実施します。チーム内での役割分担や連携方法を実践的に学ぶ機会を設けます。
多職種連携の強化
情報共有システム
カンファレンスやデジタルツールを活用し、患者さんの状態や離床進捗状況を多職種間で共有します。特にリハビリスタッフとの密な連携体制を構築します。
チーム医療の実践
医師、看護師、理学療法士、作業療法士など、各専門職の知識と技術を統合したアプローチを実現します。定期的なカンファレンスを通じて、支援方針の調整を行います。
記録と評価
モニタリングシステム
離床援助の実施状況と患者さんの反応を詳細に記録します。デジタル記録システムを活用し、経時的な変化を視覚化することで、効果的な評価を可能にします。
品質改善活動
インシデントレポートや患者さんのフィードバックを分析し、継続的な改善活動につなげます。定期的な事例検討会を通じて、チーム全体での学習機会を創出します。
症例研究

実際の離床援助事例を通じて、効果的な支援方法とリスク管理について学びます。
ここでは代表的な3つの症例を取り上げ、それぞれの特徴と具体的な支援内容を解説します。
症例1:心不全を伴う高齢患者の離床支援
患者背景
A氏、82歳女性、慢性心不全の急性増悪で入院となりました。入院前はADL自立していましたが、入院による臥床で全身の筋力低下が進行していました。
支援の実際
心機能を考慮した段階的な離床プログラムを実施しました。特に血圧と心拍数の変動に注意を払い、SpO2モニタリングを継続しながら支援を行いました。
成功のポイント
リハビリテーションスタッフと連携し、患者さんの疲労度に応じて休憩を適切に設定したことで、安全に離床を進めることができました。
症例2:脳梗塞後の片麻痺患者への支援
患者背景
B氏、58歳男性、右片麻痺を呈する脳梗塞患者です。麻痺側の筋力は上肢2/5、下肢3/5でしたが、意欲的なリハビリへの取り組みがみられました。
支援の実際
麻痺側の支持性を考慮した移乗動作の訓練から開始し、平行棒での立位訓練を経て歩行器歩行へと進めました。
工夫したポイント
移乗方法を写真付きの手順書にまとめ、チーム内で統一した支援を実現しました。
症例3:術後早期離床プログラム
患者背景
C氏、45歳男性、腹腔鏡下胆嚢摘出術後1日目の患者です。術前のADLは自立していましたが、術後の創部痛による活動制限が懸念されました。
支援の進め方
術後疼痛管理を徹底しながら、呼吸訓練から開始し、段階的に離床を進めました。手術創部の保護にも配慮しながら、安全な動作方法を指導しました。
効果的だった介入
早期から理学療法士と連携し、術後1日目からのプロトコルに沿った離床支援を実施したことで、スムーズな回復につながりました。
症例からの学び
リスク管理の重要性
各症例において、疾患特性に応じたリスク評価と対策が重要でした。特に循環動態の変化や疼痛管理については、継続的なモニタリングが必要でした。
多職種連携の効果
医師、看護師、リハビリスタッフの密な情報共有により、より安全で効果的な支援が可能となりました。定期的なカンファレンスでの方針確認も有効でした。
個別性への配慮
標準的なプログラムをベースとしながらも、患者さんの状態や生活背景に応じた個別的な配慮が重要でした。
記録・評価方法
離床援助における記録と評価は、継続的な支援の質を確保するために重要です。
ここでは実践的な記録方法と評価の視点について解説します。
記録の基本事項
観察項目の設定
患者さんのバイタルサイン、自覚症状、離床の進捗状況を具体的に記録します。特にバイタルサインの変動や疲労度の評価は、次回の離床支援計画に直接影響を与えます。
実施内容の記載
実施した離床援助の具体的な内容と所要時間を記録します。使用した補助具や介助者の人数なども、安全管理の観点から重要な記録項目となります。
評価指標の活用
客観的評価スケール
Barthel IndexやFIMなどの評価スケールを用いて、定期的に機能評価を実施します。これらの指標により、離床支援の効果を客観的に評価することが可能となります。
経時的変化の分析
日々の記録をグラフ化するなど、視覚的に理解しやすい形式で評価結果をまとめます。これにより、支援の効果や課題が明確になります。
多職種間での情報共有
カンファレンス記録
多職種カンファレンスでの検討内容や決定事項を具体的に記録します。特に支援方針の変更や新たな目標設定については、その根拠とともに記載します。
申し送り事項の明確化
勤務交代時の申し送りでは、重要度の高い情報を優先的に共有します。特に注意が必要な事項については、別途強調して記録します。
電子カルテの活用
テンプレートの運用
効率的な記録のために、施設独自のテンプレートを作成します。必要な項目が漏れなく記録できるよう、入力フォーマットを工夫します。
データの分析活用
蓄積された記録データを分析し、離床支援プログラムの改善に活用します。定期的なデータレビューにより、支援の質向上につなげます。
おしえてカンゴさん!Q&A(想定文字数:1500字)
現場で実際に発生する疑問や課題について、Q&A形式で解説します。よくある質問とその解決策を具体的に紹介します。
離床援助の基本
Q1:離床時の血圧低下が心配です。どのような対策がありますか?
臥床時から段階的なギャッジアップを行い、急激な体位変換を避けることが重要です。また、離床前には必ず血圧測定を実施し、低下傾向がある場合は医師に相談します。弾性ストッキングの使用も効果的な対策の一つとなります。
Q2:認知機能が低下している患者さんへの離床援助のコツを教えてください
まずは患者さんの生活リズムを把握し、覚醒度の高い時間帯を選んで実施します。シンプルな声かけと実際の動作を組み合わせた指導が効果的です。家族の協力を得られる場合は、一緒に支援を行うことで安心感を与えることができます。
安全管理
Q3:夜勤帯での離床援助について注意点はありますか?
夜勤帯では複数のスタッフで対応することが基本です。照明は適度に確保し、特に転倒リスクの高い患者さんについては、トイレ誘導のタイミングを日中から把握しておくことが重要です。
Q4:点滴やドレーン類が入っている場合の注意点は?
移動時のルートの確認と整理が重要です。特に立ち上がり時や方向転換時に引っ張られないよう、十分な長さを確保します。また、固定部位の観察も忘れずに行います。
多職種連携
Q5:リハビリスタッフとの連携で大切なことは?
日々の患者さんの状態変化や離床の進捗状況を共有することが重要です。特に、新たな症状の出現や活動量の変化については、速やかに情報共有を行います。定期的なカンファレンスでの目標設定も効果的です。
トラブル対応
Q6:離床中に患者さんが気分不良を訴えた場合は?
即座に中止し、安全な体位を確保します。バイタルサインの測定と症状の確認を行い、必要に応じて医師に報告します。原因分析を行い、次回の離床計画に反映させることが重要です。
Q7:転倒のリスクが高い患者さんへの対応は?
環境整備を徹底し、必要に応じてセンサーマットなどの機器を活用します。また、患者さんの生活パターンを把握し、予測的な対応を心がけます。家族への説明と協力依頼も重要なポイントとなります。
まとめ
安全で効果的な離床援助の実現には、適切なアセスメントと段階的な支援プログラムの実施が不可欠です。患者さんの状態に応じた個別的なアプローチと、多職種による包括的な支援体制の構築が重要となります。
継続的な観察とリスク管理を徹底し、患者さんの回復段階に合わせた支援を提供することで、早期離床による効果を最大限に引き出すことができます。チーム全体で情報を共有し、統一した支援を提供することで、より安全で効果的な離床援助が実現できます。
より詳しい離床援助の実践方法や、現場での具体的な事例については、【ナースの森】看護師専門サイトでさらに詳しく解説しています。
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