
被介護者の介護をしていると、「もっと楽にケアしたい」と考える看護師が多いと思います。被介護者の移乗や体の向きを変えるときは特に大きな負担となり、中には腰を痛めてしまう看護師も多いんです。
そんな看護に役立つのがボディメカニクスです。介助する側・される側の双方の負担を減らすことができ、さらに働きやすい環境になることでしょう。
そこで本記事では、看護現場で推奨されているボディメカニクスについて、メリットや正しい方法について詳しく解説していきます。
ボディメカニクスとは?

ボディメカニクスは、身体の動きや姿勢を最適化し、効果的にエネルギーを使いながら腰痛を防止するためのテクニックです。看護師にとってボディメカニクスを理解し、実践することは、被介護者のケアだけでなく、自分の健康においてとても重要になります。
ボディメカニクスの目的
ボディメカニクスは、腰痛予防の効果的な対策として看護現場で行われているものです。厚生労働省は平成6年に「職場における腰痛予防対策指針」を発表し、改訂指針では腰痛発生の要因を動作要因、環境要因、個人的要因、心理・社会的要因の4つに分類しています。
医療現場では、被介護者を持ち上げる動作、一人で介護を行うことが多い環境、筋肉量の低さが個人的要因として挙げられます。また、女性が多く、職務上の心理的負担があることも腰痛の要因と考えられています。これらの要因から引き起こされる腰痛に対する効果的な対策として、ボディメカニクスを積極的に取り入れることが推奨されました。
<看護師・ナースのリアルな声>ボディメカニクスは役に立ちますか?
ボディメカニクスの原理

ボディメカニクスを正しく行うためには、原理を十分に理解することが大事です。まずは、ボディメカニクスの原理について解説していきます。
支持基底面積を広くとる
支持基底面積とは、何かを支える際に基盤となる底の面積のことで、この面積が広ければ広いほど、安定性が増します。例えば、コップの底が広い方が安定するのと同様の原理で、物を持つ際や人を支える際には、足を広げることで安定感を向上させることができます。人の場合も、足を左右前後に広げることで、より安定した姿勢を保つことができます。
重心を低くする
腰を曲げるのではなく、ひざを曲げて重心を下げることで、腰痛の軽減が期待できるばかりか、骨盤の安定化も図れます。この方法は、安定した姿勢での移動や運搬を可能にし、身体への負担を軽減する効果があります。
被介護者と自分の重心を近づける
介護を受ける側と介護する側の重心を近づけることで、安定した介護が可能です。体から離れた位置での介助ではなく、重心が近い状態で介助することで、効率的かつ安全に介護を行えます。
重心が近いと、少ない力でも効果的に支えることができるため、腰痛予防はもちろん、身体への負担を最小限に抑えることが可能です。例えば、被介護者がベッドから車椅子に移乗する際には、お互いの重心が近い状態で移動をサポートしましょう。
被介護者の体を小さくまとめる
四肢を伸ばした状態よりも、手やひざを曲げるなど体をまとめた状態の方が、介助がしやすくなります。体を小さくまとめることで、安全かつスムーズな移動が可能となり、被介護者の快適なケアにつながります。
重心の移動をスムーズにする
上半身だけでなく、下半身も含めた全身を使うことで、より確実に目標地点への移動が可能です。また、物を持ち上げるよりも水平移動する方が、重力に逆らわずに済むため、少ない力でスムーズに動かすことができます。全身を活用することで、安全かつ効果的な作業を心掛けましょう。
足先を動作の方向へ向け、手前に引く
介護の現場では、ベッド上での移動などで押すよりも、手前に引くイメージでアプローチすることが重要です。引く力を利用することで、被介護者の体を優しく移動させることが可能となり、安定感も増します。安全かつ効率的な介助を行うために、この方法を意識して動作しましょう。
テコの原理を活用する
看護師の膝や肘を支点とし、被介護者の体を移動させる際にこの力を活用します。この方法により、体力を最小限にしながら、効果的に被介護者さんの位置を変えることが可能です。また、仰臥位から側臥位への移動など、被介護者の回転にテコの原理を適用することで、スムーズかつ安全なケアが行えます。
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ボディメカニクスのメリット

ボディメカニクスを身につけることで、どのようなメリットがあるのか解説していきます。
無理な姿勢をする頻度がなくなる
ボディメカニクスを実践することで、無理な姿勢を取る頻度が減少します。適切な姿勢と動きを意識することで、筋肉や関節への負担が軽減され、健康的な状態を保つことができるでしょう。
腰痛防止につながる
ボディメカニクスは腰痛防止に効果的です。適切な姿勢や動きを身に付けることで、腰への負担が減少し、腰痛のリスクを低くすることができます。正しい重心の管理や動作の習慣化が、腰痛予防につながるでしょう。
安全で効率のいい介護ができる
ボディメカニクスを実践することで、介護の安全性が向上し、効率的な作業が可能となります。適切な動作や力の利用、道具の適切な活用により、介護の負担が軽減され、被介護者への適切なケアが行えるでしょう。
<看護師・ナースのリアルな声>ボディメカニクスで喜ばれた体験談を教えてください
ボディメカニクスのデメリット
メリットがある分、デメリットもいくつかあります。考えられるのは以下の3点です。
足の筋力がない人は重心を下げにくい
足の筋力が十分でない場合、重心を下げることが難しくなります。適切な体勢を維持するためには、足の筋力が必要であり、筋力が不十分な場合には安定した姿勢を保つのが難しくなるでしょう。
車いすに足があたることがある
ボディメカニクスを実践する際、被介護者が車椅子に乗っている場合、足が車椅子にあたることがあります。特に足を正しく使えない状態では、車椅子の操作や移動時に制約が生じ、適切なボディメカニクスの適用が難しいです。
<看護師・ナースのリアルな声>ボディメカニクスでの失敗談を聞かせてください
ボディメカニクスのコツ

ボディメカニクスの原則を理解し実践することは大事ですが、コツをつかむことでさらに負担の少ない介護が可能です。ここでは、ボディメカニクスのコツをご紹介していきます。
被介護者に協力してもらうながら行う
被介護者の協力を得ながら、移動や日常の動作を行うことで、負担を最小限に抑えつつ効率的な介護が実現できます。例えば、移乗時には被介護者に体を動かす協力をお願いすることで、安全かつ円滑な移動が可能となるでしょう。
さらに、コミュニケーションを大切にし、声をかけながら作業することで、信頼関係を築きながら作業を進めることがポイントです。介護者と被介護者の協力とコミュニケーションを通じて、より質の高いケアを提供しましょう。
声をかけながら行う
被介護者が介護の進行や動作を理解し、安心感を得るために、声をかけることが不可欠です。具体的な行動や目的を丁寧に伝えることで、被介護者は動作に対する恐怖心を軽減させ、適切な姿勢を維持できるようになります。
例えば「ベッドに移動します」と事前に伝え、進行を説明することで、被介護者は安心して協力できます。介護中も、どのようなアクションを行うのか声をかけることで、被介護者は安心感を得ながら介護を受けることができます。声を通じてコミュニケーションを取るように心掛けてください。
<看護師・ナースのリアルな声>あなただけの上手にボディメカニクスを行うコツがあれば教えてください
ボディメカニクスを活用するべき場面
最後に、看護においてボディメカニクスを活用するべき場面をご紹介していきます。
起き上がるとき
ベッドから起き上がるときにボディメカニクスが役立ちます。まず、横向きから仰向けになり、膝を曲げて足を床にしっかりつけます。両手を使って上半身を支え、腰を起こしながら片足をつかってゆっくり立ち上がりましょう。重心を意識して安定した姿勢で立ち上がることで、腰への負担を軽減し、安全に起床できます。
移乗するとき
移乗の際にも、ボディメカニクスを利用して、被介護者との安全な移乗を実現しましょう。まず、支援者は床からの高さや移動先の高さを考慮し、適切な高さの腰を保ちます。被介護者の姿勢や重心を理解し、適切な手順で移乗を行ってください。支点を意識し、力を均等に分散させることで、安定した移動が可能です。
立ち上がるとき
立ち上がる際には、ボディメカニクスを活用して安定した姿勢で立ち上がることが重要です。まず、椅子の高さや床からの高さを考慮し、腰を少し前傾させます。両手を使って椅子の手すりやテーブルにつかまり、膝を曲げながらゆっくりと立ち上がりましょう。重心を意識して安定した姿勢を保ちつつ、立ち上がるのがコツです。
座るとき
被介護者が座る際には、ボディメカニクスを活用して安定した座り方を意識しましょう。椅子の高さや床からの高さを考慮し、正しい姿勢で椅子に向かってゆっくりと座らせてください。腰を軽く前傾させつつ、両膝を曲げて座ることで、重心を適切に保ちつつ安定した姿勢で座らせることができます。
体の向きを変えるとき
体の向きを変える際には、ボディメカニクスを活用して安全で効率的な動きを心掛けます。横向きから仰向けに移る場合には、まず片膝を立てて安定した姿勢を保ちながら、体をゆっくりと回転させます。重心の移動や支点の活用を意識しつつ、体を優しく動かすことで、安全な体位変換が可能です。
ボディメカニクス以外の腰痛予防法
ここまでは、ボディメカニクスによる負担の減らし方を解説してきましたが、それ以外の方法もご紹介していきます。
スライディングシートやスライディングボードを活用する
スライディングシートやスライディングボードは、腰痛予防や腰への負担軽減に有用な福祉用具です。移乗やベッドから車椅子への移動などの際に、患者さんを滑らせるように移動させることで、腰への負担を最小限に抑えることができます。
ストレッチをする
定期的にストレッチを行い、身体の緊張をほぐすのも腰痛防止には効果的です。
腰痛予防に効果的なストレッチ方法として、まず、背筋を伸ばし、座った状態で膝を曲げ、両手を床につけて上半身をゆっくり前に倒します。
このとき、腰や背中の筋肉を感じる程度で止め、数秒間キープしてください。また、仰向けに寝て両膝を曲げ、膝を胸に向けて引き寄せるストレッチも効果的です。これにより、腰周りの筋肉がストレッチされ、血行が良くなります。
日常的に軽くストレッチを行い、腰の筋肉をほぐすことで、腰痛の予防や改善につながるでしょう。
まとめ
この記事では、看護師の負担を軽減するボディメカニクスについて解説してきました。
ボディメカニクスを意識して介助を行うことで、被介護者にも安心感を与える介護が可能となるだけでなく、体位変換や歩行、移乗などの際の体への負担を軽減できます。もし腰痛やひざの痛み、肩こりなどの不調が改善されれば、その仕事を長く続けることができるでしょう。
ただし、ボディメカニクスだけでは腰痛を完全に予防することはできません。福祉用具の適切な利用や定期的なストレッチも行い、腰痛の予防に努めましょう。腰痛が発生した際には適切に職場に報告し、適切な対処を行うことが重要です。腰痛の悪化を防ぎながら、無理のない安全な介護を心がけましょう。