
「助産師になりたいけど、実際の仕事内容や待遇はどうなんだろう?」「看護師から助産師へのキャリアチェンジは可能?」このような疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
本記事では、現役助産師へのインタビューデータと最新の調査結果に基づき、助産師という職業の実態を包括的に解説します。
この記事を読んでほしい人
- 助産師を目指している看護学生の方
- 看護師から助産師へのキャリアチェンジを検討している方
- 助産師の仕事内容や給与体系について知りたい方
- 将来の助産師としてのキャリアパスを考えている方
- 出産や母子支援に関わる医療職に興味がある方
- 助産師の働き方や勤務環境について調べている方
- 最新の助産師の待遇やトレンドを知りたい方
この記事で分かること
- 助産師の基本的な職務内容と専門性
- 勤務先別(病院・クリニック・助産院など)の業務の違い
- 新人からベテランまでの具体的な1日のスケジュール
- 助産師の給与体系と年収(経験年数別・勤務先別)
- 助産師のやりがいと直面する課題
- 助産師としてのキャリアパスと将来の可能性
- 助産師を目指すために必要な資格とスキル
- 現役助産師からの具体的なアドバイス
助産師の基本的な仕事内容と役割

助産師とは「母子の命と健康を守るスペシャリスト」です。単に「出産を取り扱う看護師」というイメージがありますが、その役割ははるかに幅広く専門的です。
まずは助産師の基本的な仕事内容について見ていきましょう。
妊婦健診と保健指導
妊婦健診では、母体と胎児の健康状態を確認します。体重や血圧などの基本的な測定はもちろん、子宮底長や腹囲の測定、胎児心音の聴取などを行います。また、妊婦さんの食事や生活習慣についてアドバイスを行い、安全な妊娠生活をサポートします。
A助産師(病院勤務・経験7年)は「妊婦健診では医学的なチェックだけでなく、妊婦さんの心理的なケアも大切です。特に初産婦さんは不安が強いので、しっかり話を聞くようにしています」と語ります。
出産介助と周産期ケア
助産師の最も重要な業務のひとつが出産介助です。自然分娩の場合、特に異常がなければ助産師が主導して分娩を管理します。陣痛が始まってから出産後の母子の安定までを担当し、必要に応じて会陰保護や臍帯切断なども行います。
出産時は母子の状態を継続的に観察し、異常の早期発見に努めます。異常が見られた場合は速やかに医師に連絡し、適切な医療介入が行われるようにします。
B助産師(総合病院勤務・経験15年)によると「出産の瞬間に立ち会えることは何物にも代えがたい喜びですが、同時に母子の命を預かる重責を感じる瞬間でもあります。緊急時の判断力と冷静さが求められる仕事です」とのことです。
母乳育児支援
出産後は母乳育児のサポートも重要な業務です。授乳姿勢の指導、乳房ケア、乳頭トラブルへの対応など、母乳育児が順調に進むようにサポートします。特に初産婦さんは授乳に不安を抱えることが多いため、丁寧な指導が求められます。
C助産師(クリニック勤務・経験5年)は「母乳育児は技術面だけでなく、お母さんの自信につながるメンタル面のサポートも重要です。うまくいかない時の焦りや不安に寄り添うことを大切にしています」と話します。
産後ケアと育児支援
退院後も母子の健康をサポートするのが助産師の役割です。産後の回復状況の確認、育児相談、産後うつの予防・早期発見などを行います。最近では産後ケアセンターや母乳外来など、専門的なサポート施設も増えてきています。
D助産師(産後ケアセンター勤務・経験10年)は「産後の女性は身体的な回復だけでなく、育児や家事の負担、ホルモンバランスの変化など様々なストレスを抱えています。そんな時期に寄り添い、専門的な視点からサポートできることがやりがいです」と語ります。
女性の健康支援
助産師の役割は妊娠・出産期だけにとどまりません。思春期から更年期まで、女性の生涯を通じた健康支援も重要な業務です。月経トラブルや避妊相談、更年期症状への対応など、女性特有の健康課題に専門的な立場からアドバイスを行います。
E助産師(大学病院勤務・経験20年)は「助産師は『生む・産む』だけの専門家ではなく、女性の健康を生涯にわたってサポートする存在です。特に最近は不妊や更年期など、多様な女性の健康課題に対応することが増えています」と指摘します。
助産師の一日:現場別スケジュール例

助産師の仕事内容は勤務先によって大きく異なります。
ここでは、代表的な勤務先別に、助産師の1日のスケジュール例をご紹介します。
これから助産師を目指す方にとって、具体的なイメージを持つ助けになるでしょう。
総合病院の産科病棟での一日
総合病院の産科病棟では、分娩件数も多く、ハイリスク妊娠や緊急対応も求められる傾向にあります。3交代制または2交代制の勤務体制が一般的です。
日勤帯(8:30〜17:00)のスケジュール例:
朝は8:30に出勤し、前日夜勤からの申し送りを受けます。その後、入院中の産婦さんのバイタルチェックや朝食配膳の確認、授乳指導などを行います。午前中は産科外来での妊婦健診の補助や、入院患者さんのケアが中心です。
お昼休憩を挟んで、午後は分娩準備や分娩介助、新生児のケア、退院指導などを行います。また、翌日の予定確認や記録の整理も重要な業務です。17:00頃に夕勤スタッフへ申し送りを行い、日勤を終えます。
F助産師(総合病院勤務・経験3年目)は「総合病院では様々なケースに対応できる力が身につきます。ハイリスク妊娠や緊急帝王切開などの経験も積めるのがメリットですね」と語ります。
産婦人科クリニックでの一日
産婦人科クリニックでは、比較的リスクの低い妊婦さんが中心で、アットホームな雰囲気の中でケアを提供できることが特徴です。日勤のみ、または日勤とオンコール体制の組み合わせが多いようです。
クリニック勤務(9:00〜18:00)のスケジュール例:
朝9:00に出勤し、その日の外来予約状況を確認します。午前中は主に妊婦健診の補助や保健指導を担当。健診では体重測定や尿検査、血圧測定などの基本的なチェックを行い、医師の診察をスムーズに進められるよう準備します。
午後も外来診療のサポートを続けながら、母乳外来や産後健診、両親学級の運営なども担当します。分娩があれば随時対応し、閉院時間までに記録を整理して業務を終えます。分娩が夜間にかかる場合はオンコール対応となることも多いです。
G助産師(クリニック勤務・経験8年)は「クリニックでは妊婦さんとじっくり関わる時間が持てるのが魅力です。妊娠初期から産後まで継続的に関わることで、信頼関係が築きやすいですね」とメリットを語ります。
助産院での一日
助産院は助産師が主体となって運営する出産施設で、自然分娩にこだわったケアを提供することが多いです。病院やクリニックに比べて少人数体制のため、オンコール対応が基本となります。
助産院勤務の一日(例):
助産院では固定の勤務時間というよりも、その日の予定に合わせた勤務形態が多いようです。妊婦健診や母乳相談は予約制で行い、分娩は24時間オンコール体制で対応します。
妊婦健診では医療機関よりも長い時間(30分〜1時間程度)をかけて、妊婦さんの心身の状態を丁寧に確認します。食事や生活習慣についての相談、出産に向けた心の準備など、総合的なケアを提供します。分娩時は入院から退院まで、場合によっては一人の助産師が継続して担当することもあります。産後のフォローも手厚く、家庭訪問による授乳指導や育児相談なども行います。
H助産師(助産院勤務・経験12年)は「助産院では自然分娩に向き合い、妊婦さんの力を最大限に引き出すケアを大切にしています。時間に追われずにケアができる点はやりがいですが、休日が不規則になることも多いですね」と話します。
行政機関(保健センターなど)での一日
市区町村の保健センターなどで働く助産師は、地域の母子保健に携わります。母親学級の開催や新生児訪問、育児相談などが主な業務です。公務員としての安定した勤務形態が特徴です。
保健センター勤務(8:30〜17:15)のスケジュール例:
朝は8:30に出勤し、その日の予定確認や準備を行います。午前中は乳児健診や新生児訪問、電話での育児相談対応などを担当。健診では発育状況の確認や母乳育児の相談に応じます。
午後は母親学級や両親学級の運営、特定妊婦のケースカンファレンスへの参加など、予防的な母子保健活動を行います。17:15に業務を終え、翌日の訪問予定の確認などを行ってから退勤します。
I助産師(保健センター勤務・経験6年)は「病院勤務時代と比べると、地域で暮らす母子の日常に寄り添えるのが魅力です。予防的な関わりができることで、母子の健康づくりに貢献できる実感があります」と語ります。
助産師に必要なスキルと資格

助産師として活躍するためには、どのようなスキルと資格が必要なのでしょうか。
基本的な要件から、実務で役立つ専門スキルまで詳しく見ていきましょう。
助産師になるための基本要件
助産師になるためには、まず看護師の国家資格を取得した上で、助産師養成機関(大学の助産学専攻科や専門学校など)で1年以上の教育を受け、国家試験に合格する必要があります。
取得ルートとしては主に以下の3つがあります:
- 看護大学の助産学専攻(4年間で看護師と助産師の資格を同時取得)
- 看護大学卒業後、助産師養成課程(1年)へ進学
- 看護専門学校卒業後、助産師養成学校(1年)へ進学
J助産師(教育機関勤務・経験25年)は「近年は大学での統合カリキュラムが増えていますが、看護師としての経験を積んでから助産師を目指すルートも価値があります。どちらのルートにもメリット・デメリットがあるので、自分の目標に合わせて選ぶとよいでしょう」とアドバイスします。
実務で求められる専門スキル
助産師の仕事では、資格だけでなく様々な専門スキルが求められます。特に重要なものとして以下が挙げられます:
医学的知識と判断力
妊娠・分娩・産褥期の正常・異常の判断ができる専門的な知識が必要です。特に分娩時は母子の命に関わる判断を迫られることもあり、高度な医学的知識と冷静な判断力が求められます。
コミュニケーション能力
妊産婦やその家族との信頼関係を築くためのコミュニケーション能力は必須です。不安や痛みを抱える妊産婦に寄り添い、適切な情報提供や精神的サポートができる力が求められます。
緊急時対応能力
分娩は予測不能な展開をすることがあります。緊急時に冷静に対応し、適切な処置ができる能力が重要です。出血や新生児蘇生などの緊急対応スキルは、定期的なトレーニングで維持・向上させる必要があります。
チームワークと連携能力
医師や他の看護スタッフ、時には他科や他施設との連携も必要です。チーム医療の一員として、適切なコミュニケーションと連携ができる能力が求められます。
K助産師(総合病院勤務・経験18年)は「技術面では新生児蘇生法(NCPR)やBLSなどの救急対応スキルが重要です。また、分娩監視装置の判読や超音波検査の基本的な見方なども必須スキルとなっています」と語ります。
キャリアアップのための追加資格
基本的な助産師資格に加えて、キャリアアップのための追加資格もあります。
助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)
日本看護協会が認定する助産実践能力のレベル認証システムです。アドバンス助産師の認証を受けることで、より専門性の高い助産ケアが提供できると認められます。
専門・認定看護師資格
母性看護専門看護師や新生児集中ケア認定看護師など、特定分野での高度な看護実践能力を認定する資格があります。これらの資格を取得することで、キャリアの幅が広がります。
その他の関連資格
母乳育児支援のための国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC)や、ベビーマッサージインストラクター、チャイルドケアアドバイザーなど、専門性を高める資格も多数あります。
L助産師(開業助産師・経験30年)は「資格は手段であって目的ではありません。何のために、誰のために学びを深めるのかという視点が大切です。私の場合は母乳育児支援を深めたいとの思いからIBCLCを取得しましたが、自分のビジョンに合った学びを選ぶことをお勧めします」とアドバイスしています。
助産師の給与体系と待遇

助産師を目指す方や、キャリアチェンジを検討している方にとって、給与や待遇は重要な関心事です。
ここでは2025年最新の調査データに基づいて、助産師の給与体系と待遇について詳しく解説します。
平均年収と給与体系
助産師の平均年収は、経験年数や勤務先、地域によって差がありますが、一般的には400万円〜600万円程度となっています。看護師と比較すると、専門性の高さから若干高めの傾向があります。
勤務先別の年収目安(経験5年程度の場合):
- 総合病院:500万円〜600万円
- 一般病院:450万円〜550万円
- クリニック:400万円〜500万円
- 助産院:400万円〜500万円(開業の場合はこれ以上の可能性も)
- 行政機関:500万円〜550万円
給与体系は月給制が一般的で、基本給に各種手当(夜勤手当、通勤手当、住宅手当など)が加わる形となります。特に夜勤手当は収入を大きく左右する要素で、夜勤回数によって月収に10万円以上の差がつくこともあります。
M助産師(都内総合病院勤務・経験10年)によると「夜勤が月8回程度あると、手取りで月30万円前後になります。ボーナスを含めると年収550万円程度です。ただし、体力的な負担は決して小さくないので、収入と生活の質のバランスは考える必要があります」とのことです。
勤務形態と休日
助産師の勤務形態は勤務先によって大きく異なります。
病院の場合
2交代制(日勤・夜勤)または3交代制(日勤・準夜勤・深夜勤)が一般的です。シフト制のため、土日祝日も交代で勤務することになります。月の休日数は概ね8〜10日程度で、年間休日は110日前後というケースが多いようです。
クリニックの場合
日勤のみの勤務が基本ですが、分娩対応のためのオンコール体制がある場合も多いです。休日は医院の休診日に準じますが、分娩は24時間365日発生するため、完全に休めるわけではないことも念頭に置く必要があります。
助産院の場合
少人数体制のため、分娩に合わせた不規則な勤務になりがちです。予約制の健診や相談業務以外は、基本的にオンコール対応となることが多いでしょう。
行政機関の場合
平日の日勤のみで、土日祝日は基本的に休みとなります。公務員としての安定した勤務形態が特徴です。
N助産師(地方総合病院勤務・経験7年)は「病院勤務の場合、夜勤や当直があるため不規則な生活になりますが、その分まとまった休みが取れることもメリットです。ライフスタイルに合わせた職場選びが重要ですね」と語ります。
福利厚生とワークライフバランス
公的医療機関・大規模病院
福利厚生が充実していることが多く、退職金制度や各種保険、職員寮などの住宅補助、育児支援制度などが整っているケースが多いです。
民間クリニック
小規模な施設では福利厚生が限定的な場合もありますが、その分柔軟な働き方ができるというメリットもあります。
ワークライフバランス
出産や育児に関わる仕事柄、助産師自身のワークライフバランスも重要なテーマです。育休取得率は比較的高いものの、夜勤を含む勤務体制との両立は課題となっています。
O助産師(40代・子育て中)は「子育てをしながらの夜勤は負担が大きいので、一時的に日勤のみの部署に異動させてもらいました。病院によって対応は異なりますが、ライフステージに合わせた働き方について相談できる環境かどうかは重要なポイントです」とアドバイスしています。
給与アップのポイント
助産師としてキャリアを積みながら収入を増やしていくためのポイントをご紹介します。
専門資格の取得
アドバンス助産師や専門看護師など、専門性を高める資格を取得することで、給与アップや活躍の場が広がる可能性があります。
管理職への昇進
主任助産師や看護師長などの管理職になることで、基本給や役職手当が増額されます。
勤務先の選択
総合病院や大学病院など、規模の大きな医療機関の方が給与水準は高い傾向にあります。また、都市部の方が地方よりも給与水準が高いケースが多いようです。
夜勤の選択
体力と相談しながら、夜勤回数を調整することで収入を増やすことも可能です。
P助産師(転職経験あり・経験15年)は「給与だけでなく、自分の目指したいキャリアや生活スタイルとのバランスを考えることが大切です。私の場合、専門性を高めるために大学院に進学し、その後教育職に就くことで、キャリアアップと収入アップの両方を実現できました」と語ります。
助産師のやりがいと直面する課題

助産師という職業には、他の医療職にはない独自のやりがいがある一方で、様々な課題にも直面します。
ここでは、現役助産師の声をもとに、やりがいと課題の両面について掘り下げていきます。
助産師ならではのやりがい
助産師の多くが「この仕事を選んで良かった」と感じる瞬間について、以下のようなエピソードが寄せられています。
命の誕生に立ち会える喜び
分娩介助の経験が何百例を超えても、新しい命の誕生に立ち会える感動は色あせないと多くの助産師が語ります。「赤ちゃんの第一声を聞いた瞬間の喜びは何物にも代えがたい」という声は共通しています。
母子と長期的な関係を築ける
妊娠期から産後まで、時には次の妊娠・出産まで関わることで、家族の成長を見守れることも大きな喜びです。「何年も経って『あのとき助けてくれてありがとう』と声をかけられた時は、この仕事をしていて良かったと心から思います」(Q助産師・経験20年)
女性の人生の重要な場面に寄り添える
出産や育児は女性の人生における大きな転機です。そんな重要な瞬間に専門家として寄り添い、サポートできることは大きな意義があります。「女性の力を引き出し、自信につながるお手伝いができるのは助産師ならではの特権だと思います」(R助産師・経験8年)
自律した専門職としての誇り
助産師は医師の指示を必要とせず、自らの判断で正常分娩を取り扱うことができる数少ない医療職です。「自分の判断と技術が直接ケアに反映される責任の重さとやりがいは、助産師の大きな魅力です」(S助産師・経験15年)
直面する課題と対処法
一方で、助産師が直面する課題や悩みも少なくありません。リアルな現場の声から見えてくる課題と、それに対する対処法を紹介します。
身体的・精神的負担
不規則な勤務や夜勤、緊急対応などによる身体的負担は大きいです。また、ハイリスク分娩や緊急時の精神的ストレスも無視できません。
対処法としては「体力づくりを意識的に行う」「チームでサポートし合う体制を作る」「定期的にリフレッシュする時間を確保する」などが挙げられています。
責任の重さとプレッシャー
母子の命を預かる責任の重さは、時に大きなプレッシャーとなります。特に経験の浅い助産師にとっては、判断の難しさに悩むケースも多いようです。
「先輩や同僚に相談できる環境づくりが重要」「継続的な学習と技術向上で自信をつける」「事例検討会で経験を共有する」などの工夫が行われています。
ワークライフバランスの難しさ
24時間体制の医療現場では、プライベートとの両立が難しいと感じる場面も多いでしょう。特に自身の出産・育児期には葛藤も生じやすいです。
「ライフステージに合わせた働き方を選択する」「職場内で協力し合える関係を築く」「キャリアは長い目で計画する」といった考え方が参考になるかもしれません。
医療安全と訴訟リスク
産科医療は他の診療科に比べて訴訟リスクが高いと言われています。記録の重要性や、説明と同意の徹底など、医療安全
医療安全と訴訟リスク
産科医療は他の診療科に比べて訴訟リスクが高いと言われています。記録の重要性や、説明と同意の徹底など、医療安全に対する意識が一層求められます。
「丁寧な説明と記録を習慣づける」「緊急時のシミュレーションを定期的に行う」「チーム内のコミュニケーションを密にする」などが重要な対策となります。
T助産師(リスクマネジメント担当・経験17年)は「どんなに経験を積んでも、基本的な確認作業を省略しないことが大切です。特に分娩時は母子の状態が急変することもあるため、常に最悪の事態を想定した準備と対応が必要です」と強調します。
助産師が感じるやりがいの変化
キャリアステージによって、助産師が感じるやりがいにも変化が見られます。新人時代から中堅、ベテランへと成長していく過程での「やりがいの変化」について見ていきましょう。
新人時代(1〜3年目)
技術習得の喜びが大きいのが特徴です。「初めて一人で分娩介助ができた時」「母乳育児支援で成功体験を得られた時」など、スキルアップによる達成感が原動力となります。
中堅時代(4〜10年目)
経験と知識が深まることで、より複雑なケースにも対応できるようになります。「個別性の高いケアを提供できた時」「後輩の成長を支援できた時」などにやりがいを感じる声が多いです。
ベテラン(10年以上)
若手の育成や組織づくり、時には政策提言など、より広い視点での役割にやりがいを見出すケースが増えます。「自分のケア哲学を後進に伝えられること」「助産師としての経験を社会に還元できること」などが挙げられています。
U助産師(大学病院勤務・経験25年)は「最初は技術や知識の習得に必死でしたが、年数を重ねるうちに、『どのような助産師でありたいか』『助産師としてどのような社会貢献ができるか』といった、より本質的な問いと向き合うようになりました。やりがいの質が変わっていくのを実感します」と語ります。
助産師のキャリアパスと将来性

助産師としてのキャリアは、一人ひとりの価値観や目標によって多様な道があります。
ここでは、代表的なキャリアパスと、これからの助産師に求められる役割について解説します。
多様なキャリアパスの選択肢
助産師のキャリアパスには、大きく分けて以下のような選択肢があります。それぞれの道について、実際の事例とともに紹介します。
臨床キャリア
病院やクリニックで経験を積み、主任助産師や看護師長などの管理職を目指すキャリアです。臨床実践能力を高めながら、部署運営や人材育成にも携わります。
V助産師(総合病院産科師長・経験22年):「臨床現場でのケアを極めたいという思いから、一貫して病院勤務を選びました。管理職になってからは、スタッフが働きやすい環境づくりや、質の高いケアを提供するためのシステム構築に力を入れています。若手の成長を見守れることも大きなやりがいです」
開業・起業
助産院の開業や産後ケア施設の運営など、独立したキャリアを選ぶ道もあります。自分の理念に基づいたケアを提供できる反面、経営面での知識や責任も求められます。
W助産師(助産院開業・経験18年):「病院勤務では叶えられない、一人ひとりに寄り添ったケアを提供したいと思い、35歳で助産院を開業しました。経営は簡単ではありませんが、『ここで産んで良かった』という声を直接いただけることが何よりの励みです。開業前に経営や会計の基礎知識を学んでおくことをお勧めします」
教育者
大学や専門学校などで次世代の助産師を育成する道です。臨床経験を活かしながら、教育者としての専門性も求められます。
X助産師(看護大学教員・経験20年):「臨床で15年働いた後、大学院で学び、教員になりました。現場感覚を大切にした教育を心がけています。学生が成長していく過程に関われることが最大の喜びです。教育と研究の両立は大変ですが、助産学の発展に貢献できるやりがいがあります」
行政・公衆衛生分野
保健所や市区町村の母子保健担当として、地域の母子をサポートする道です。予防的な観点から母子の健康を支える役割を担います。
Y助産師(市役所母子保健課・経験13年):「病院では対応しきれない社会的ハイリスク家庭の支援に関わりたいと考え、行政職を選びました。妊娠期から子育て期まで切れ目のない支援体制づくりに携わることで、地域全体の母子保健の向上に貢献できることにやりがいを感じています」
国際協力・海外活動
JICAなどの国際協力機関や、NGOなどで途上国の母子保健向上に貢献する道もあります。グローバルな視点から助産師としてのスキルを活かします。
Z助産師(国際協力経験あり・現在病院勤務):「アフリカでの2年間の活動は私の人生観を変えました。日本では当たり前の医療資源が限られた環境で、いかに母子の命を守るかを考える日々でした。帰国後は、その経験を日本の医療現場や教育に還元しています。言語力と異文化適応力が求められる仕事ですが、視野が大きく広がります」
これからの助産師に求められる役割
医療・社会環境の変化に伴い、助産師に求められる役割も変化しています。今後特に重要となる役割について考えてみましょう。
少子化時代のプロフェッショナル
出生数が減少する中で、一人ひとりの妊産婦に対するケアの質がより一層問われるようになっています。質の高いエビデンスに基づくケアと、個別性を重視したアプローチが求められます。
多様な家族形態への対応
晩婚化・晩産化、シングルマザー、同性カップル、不妊治療による妊娠など、様々な背景を持つ家族に対応できる柔軟性と知識が必要です。
ハイリスク妊産婦の増加への対応
高齢出産や合併症のある妊婦の増加に伴い、リスク管理能力やチーム医療の中での調整力がより重要になっています。
テクノロジーの活用
遠隔医療や医療ITの進展に伴い、新しいテクノロジーを活用したケア提供のあり方も模索されています。伝統的なケアと新しいツールを融合させる視点が求められます。
AA助産師(周産期医療センター・経験16年)は「これからの助産師には、専門性の追求と同時に、社会の変化に対応できる柔軟性も求められます。伝統的な『技』を大切にしながらも、新しい知識や技術を取り入れる姿勢が大切だと思います」と未来の助産師像について語っています。
ケーススタディ:助産師の具体的な働き方

ここでは、様々なキャリアステージにある助産師の具体的な働き方を紹介します。
これから助産師を目指す方や、キャリアチェンジを考えている方の参考になれば幸いです。
ケース1:新人助産師A(総合病院勤務・1年目)
Aさんは看護大学卒業後、都内の総合病院に就職した新人助産師です。現在は産科病棟に配属され、先輩助産師の指導のもとで経験を積んでいます。
一日のスケジュール(日勤の場合)
- 8:00 出勤・申し送り
- 8:30 モーニングケア・バイタルチェック
- 10:00 分娩室での見学・補助
- 12:00 昼休憩
- 13:00 産褥ケア・授乳指導
- 15:00 退院指導の見学
- 16:30 記録・申し送り準備
- 17:00 申し送り
- 17:30 退勤
給与・待遇
基本給22万円、夜勤手当(1回1.2万円×月7回)、賞与年2回。手取り月収は約33万円、年収は約450万円程度。
やりがいと悩み
「先輩方の技術の高さに日々刺激を受けています。特に分娩介助の技術は奥が深く、一つひとつ学べることが楽しいです。一方で、夜勤での緊急対応や、複数の業務を並行して行うことにまだ慣れず、体力的にもきついと感じることがあります。でも、お母さんや赤ちゃんの笑顔を見ると疲れも吹き飛びますね」
将来の展望
「まずは分娩介助の技術を確実に身につけたいです。産褥ケアや新生児ケアも含めて幅広く経験を積み、5年後には一人前の助産師になることが目標です。将来的には母乳育児支援の専門性を高めたいと考えています」
ケース2:中堅助産師B(産婦人科クリニック勤務・8年目)
Bさんは大学病院で6年間勤務した後、ワークライフバランスを考えて産婦人科クリニックに転職した助産師です。現在は母乳外来も担当しています。
一日のスケジュール
- 8:30 出勤・準備
- 9:00 外来診療サポート開始
- 12:00 昼休憩
- 13:00 母乳外来担当
- 16:00 両親学級準備・運営
- 18:00 記録・翌日の準備
- 18:30 退勤 ※分娩がある場合は対応のため残業あり
給与・待遇
基本給26万円、オンコール手当あり。夜間分娩対応時には別途手当あり。日勤のみの勤務で、オンコール以外の夜勤はなし。年収約480万円程度。
やりがいと悩み
「病院時代とは異なり、妊婦健診から産後までじっくり関わることができるのが魅力です。特に母乳外来では、お母さんの悩みに寄り添い、授乳がうまくいくようになった時の喜びを共有できるのがやりがいです。一方で、分娩件数は病院より少ないため、ハイリスク分娩への対応力を維持することが課題だと感じています」
将来の展望
「現在、国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC)の資格取得を目指して勉強中です。将来的には、母乳育児支援の専門家として地域に貢献したいと考えています。また、産後ケアにも関心があり、いずれは産後ケア施設の立ち上げにも携わりたいという夢があります」
ケース3:ベテラン助産師C(開業助産師・経験25年)
Cさんは総合病院での15年間の経験を経て、10年前に助産院を開業しました。自然分娩にこだわったケアを提供しています。
一日のスケジュール(分娩のない日)
- 9:00 助産院オープン・準備
- 10:00 妊婦健診(4〜5人)
- 13:00 昼食・記録
- 14:00 産後ケア(2人)
- 16:00 両親学級
- 18:00 記録・翌日の準備
- 19:00 閉院 ※分娩があれば24時間対応
収入・経営状況
月間分娩取扱数は4〜5件程度。健診や産後ケア、母乳相談なども含め、年収は約700万円程度。ただし、施設維持費や保険料などの経費も自己負担。
やりがいと悩み
「妊娠から産後まで、じっくり寄り添ったケアを提供できることが最大の喜びです。分娩では、産婦さん自身の力を最大限に引き出せるよう心がけています。長年の信頼関係で、第2子、第3子の出産で再び選んでもらえることもあり、家族の成長に関われる喜びは格別です。一方で、24時間体制の負担や、経営面での不安定さは課題です。また、リスクの見極めと医療機関との連携は常に気を配っています」
将来の展望
「助産院での活動を続けながら、若手助産師の育成にも力を入れていきたいと考えています。助産師の独立開業は簡単ではありませんが、志を同じくする若い世代に経験を伝え、地域における助産師の存在価値を高めていきたいです。また、地域の子育て支援拠点としての役割も果たしていきたいと思っています」
助産師を目指す方へのアドバイス

最後に、これから助産師を目指す方や、看護師からのキャリアチェンジを考えている方へ、現役助産師からのアドバイスをまとめました。
進路選択のポイント
早期からの目標設定
助産師になるルートは複数ありますが、早い段階から目標を持つことで効率的に進めることができます。看護学生の方は、助産師課程のある大学や、卒業後の進学先について早めに情報収集しておくとよいでしょう。
実習・見学の活用
可能であれば、助産実習や施設見学に積極的に参加してみましょう。実際の現場の雰囲気や業務内容を知ることで、自分に合った進路かどうかの判断材料になります。
基礎看護力の重視
助産師は高度な専門職ですが、その土台には確かな看護技術が必要です。看護学生の間に基礎看護技術をしっかり身につけておくことが、将来の助産師としての活躍にもつながります。
BB助産師(助産師養成所教員・経験20年)は「助産師を目指す方には、『女性の健康に関わりたい』という明確な志と、基礎的な看護技術の習得を両立してほしいと思います。また、コミュニケーション力や観察力を磨くことも重要です」とアドバイスしています。
助産師としての心構え
生涯学習の姿勢
医療は日々進化していますので、最新の知識や技術を学び続ける姿勢が大切です。研修や学会参加、文献検索などを通じて、常に学び続けましょう。
チームワークの大切さ
助産師は自律した専門職ですが、多職種連携の中でチームの一員として働く場面も多いです。医師や他のスタッフとの良好な関係づくりも意識しましょう。
自己管理の重要性
24時間体制の医療現場で働くためには、自身の健康管理も重要です。体力づくりやストレス管理の方法を身につけることで、長く活躍することができます。
CC助産師(大学病院勤務・経験12年)は「助産師は女性の人生の大切な場面に寄り添う特別な職業です。その責任の重さを自覚しつつ、自分自身も成長し続けることが大切だと思います。辛いことも多いですが、それ以上の喜びと感動がある素晴らしい仕事です」と語っています。
転職・キャリアチェンジのコツ
すでに看護師として働いている方が助産師を目指す場合のアドバイスです:
計画的な準備
助産師養成課程は1年以上の全日制教育が基本ですので、経済面や生活面での準備が必要です。奨学金制度の活用や、復職制度のある職場かどうかの確認も重要です。
実務経験の活用
産科や NICU などの関連領域での勤務経験があると、助産師課程での学習もスムーズになる場合があります。可能であれば、転職前に関連部署での経験を積むことも検討してみましょう。
モチベーションの明確化
「なぜ助産師になりたいのか」という動機を明確にすることで、学習や就職活動の方向性が定まります。自分のビジョンや価値観を大切にしましょう。
DD助産師(30代・看護師から転職)は「看護師として5年働いた後、助産師養成所に進学しました。働きながら学ぶのは大変でしたが、具体的な目標があったからこそ乗り越えられたと思います。実務経験があることで、学んだことをより実践的に理解できるメリットもありました」と自身の経験を語っています。
看護師さんからのQ&A「おしえてカンゴさん!」

ここでは、助産師を目指す看護師や学生の皆さんからよくある質問にお答えします。
Q1:助産師の平均年収はどのくらいですか?
A:経験年数や勤務先によって差がありますが、一般的に400万円〜600万円程度です。病院勤務では夜勤の回数で大きく変わりますし、開業助産師の場合は取扱件数によって収入が左右されます。
独立開業の場合は700万円以上稼ぐケースもありますが、設備投資や保険料などの経費負担も考慮する必要があります。
Q2:助産師になるには、看護師経験は必要ですか?
A:法的には看護師経験がなくても、看護基礎教育を修了し、助産師養成課程を経て国家試験に合格すれば助産師になれます。
しかし、実際の採用においては、新卒助産師よりも看護師経験のある助産師を優先する施設も少なくありません。特にハイリスク妊産婦を扱う施設では、看護師としての基礎力が求められるケースが多いです。
Q3:助産師の仕事と看護師の仕事の大きな違いは何ですか?
A:最大の違いは「医師の指示を必要とせず、自律して業務を行える範囲」です。助産師は正常な妊娠・分娩・産褥において、医師の指示を必要とせずに助産診断や助産技術を提供できます。
また、母子に対する継続的なケアを提供できる点も特徴的です。看護師よりも専門性が高く、責任も大きい仕事と言えるでしょう。
Q4:助産師として働く上で、最も大変なことは何ですか?
A:多くの助産師が挙げるのは「不規則な勤務形態」「緊急時の判断の重圧」「常に最新の知識・技術を求められること」などです。
特に分娩は予測不能な面があるため、夜間や休日の対応も多く、プライベートとの両立が難しいと感じることもあります。また、母子の命に関わる判断を迫られる場面もあり、精神的な負担も少なくありません。
Q5:助産師はどのような場所で働けますか?
A:主な就職先としては「総合病院・大学病院」「一般病院」「産婦人科クリニック」「助産院」「保健センターなどの行政機関」「教育機関」などがあります。それぞれ特徴がありますので、自分の目指す助産師像に合った職場を選ぶとよいでしょう。
最近では産後ケア施設や企業の母性健康管理担当など、新たな活躍の場も広がっています。
Q6:助産師の需要は今後どうなりますか?
A:少子化に伴い出生数は減少傾向にありますが、ハイリスク妊産婦の増加や産後ケアの充実化などにより、質の高い助産ケアへのニーズは高まっています。
また、女性の健康支援や不妊相談など、従来の周産期ケア以外の分野への広がりも見られます。量的な需要は地域によって差がありますが、質の高い専門性を持つ助産師へのニーズは今後も続くと予想されます。
Q7:男性でも助産師になれますか?
A:法律上、男性も助産師になることは可能です。ただし、実際には女性の身体的・心理的なケアという側面から、多くの施設では女性の助産師が求められる傾向にあります。
男性助産師は現状ではごく少数ですが、教育機関や行政、研究分野などで活躍している方もいらっしゃいます。
まとめ
助産師は「母子の命と健康を守るスペシャリスト」として、重要な役割を担う専門職です。本記事では、助産師の基本的な仕事内容から給与体系、やりがいと課題、キャリアパスに至るまで、包括的に解説してきました。
これから助産師を目指す方には、基礎的な看護力を高めながら、女性の健康に対する深い関心と献身的な姿勢を持ち続けてほしいと思います。様々な勤務先や働き方の選択肢がありますので、自分のライフスタイルや価値観に合ったキャリアパスを見つけてください。
助産師という仕事は、時に厳しく、時に感動に満ちた素晴らしい職業です。本記事が、これから助産師を目指す方や、キャリアアップを考えている助産師の方々にとって、少しでも参考になれば幸いです。
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