医療現場のデジタル化が進む中、正しい情報管理はますます重要になります。
本ガイドでは、患者情報の保護から効率的なデータ活用まで、現場で必要な知識と実践方法を詳しく解説します。
基本的な管理体制の構築から、具体的なセキュリティ対策、インシデント対応、さらには災害時対応まで、看護師が知っておくべき情報管理の全てを網羅しています。
この記事でわかること
- 医療情報の適切な管理方法と具体的な実践手順
- セキュリティインシデントへの効果的な対応方法
- 最新の技術動向を踏まえた情報保護対策
- 継続的な改善活動の具体的な進め方
- 法令遵守に必要な実践的な知識を得る
この記事を読んでほしい人
- 医療情報管理の基礎から実践まで体系的に学びたい方
- 情報セキュリティ対策の強化を検討している方
- 電子カルテなどのデジタル化に対応したい方
- インシデント対応や特殊状況での情報管理に不安がある方
- 最新の情報管理手法を学びたい方
情報管理の基本原則

医療情報の管理には、明確な原則と体系的なアプローチが必要不可欠です。
このセクションでは、情報管理における3つの基本原則と、それらを支える法的要件について詳しく解説します。
これらの原則を理解し実践することで、より安全で効率的な情報管理体制を構築することができます。
守るべき3つの基本原則
医療情報の管理において最も重要な3つの基本原則について、その意味と実践方法を詳しく説明します。
機密性の確保
機密性とは、患者情報への不正アクセスを防ぎ、許可された人のみがアクセスできる状態を維持することを指します。
医療現場では、患者のプライバシーを守り、信頼関係を維持するために極めて重要な原則となります。
アクセス制御の実装や暗号化技術の活用、そして物理的なセキュリティ対策を通じて実現していきます。
日常業務においては、画面の覗き見防止や、離席時の画面ロックなど、基本的な対策の徹底が重要です。
完全性の保持
完全性とは、情報が改ざんされることなく、正確な状態を保持することを意味します。
医療安全の確保と適切な治療の実施には、正確な情報管理が不可欠です。
データの定期的なバックアップやアクセスログの記録、改ざん検知システムの導入などを通じて、情報の完全性を担保します。
特に電子カルテシステムにおいては、入力時の確認手順や修正履歴の管理が重要となります。
可用性の確保
可用性とは、必要な時に必要な情報にアクセスできる状態を確保することです。
緊急時の医療提供や日常業務の効率維持には、情報への迅速なアクセスが欠かせません。
システムの冗長化や定期的なメンテナンス、災害対策の実施などにより、常時アクセス可能な環境を整備します。
特に地震や停電などの緊急時にも、必要な情報にアクセスできる体制づくりが重要です。
法的要件の理解
医療情報の管理には、様々な法的要件が関係します。これらを正しく理解し、遵守することが必要です。
1.2.1 個人情報保護法への対応
個人情報保護法は医療機関における患者情報の取り扱いに重要な影響を与えます。
特に要配慮個人情報として分類される医療情報については、より厳格な管理が求められます。
具体的には、患者からの同意取得手続き、開示請求への対応、安全管理措置の実施などが必要となります。
医療法における規定
医療法では、診療録の管理について具体的な規定が設けられています。
記載事項、保存期間、管理方法などについて、明確な基準が示されており、これらに準拠した運用が必要です。
電子カルテシステムを使用する場合は、さらに厚生労働省のガイドラインに従った管理が求められます。
施設固有の規定整備
各医療機関では、法令に基づきながら、施設固有の情報管理規定を整備する必要があります。
これには情報管理体制の構築、管理責任者の設置、具体的な運用手順の策定などが含まれます。
規定は定期的に見直し、必要に応じて改訂することが重要です。
実践的な管理体制の構築
基本原則と法的要件を踏まえ、実効性のある管理体制を構築することが重要です。
組織的な取り組み
情報管理は組織全体で取り組むべき課題です。
管理責任者の設置、部門間の連携体制の確立、定期的な評価と改善のサイクルを確立することが必要です。
特に看護部門では、24時間体制での情報管理が求められるため、シフト勤務を考慮した体制づくりが重要となります。
教育・研修の実施
情報管理の基本原則や法的要件について、定期的な教育・研修を実施することが重要です。
新人研修での基礎教育に加え、定期的な更新研修を通じて、知識とスキルの維持・向上を図ります。
特に法改正や新たな脅威への対応について、タイムリーな情報提供が必要です。
効果的な保護対策

医療情報を適切に保護するためには、物理的なセキュリティと技術的なセキュリティの両面からのアプローチが必要です。
このセクションでは、日常業務で実践できる具体的な保護対策について解説します。
これらの対策を確実に実施することで、情報漏洩やセキュリティインシデントのリスクを大幅に低減することができます。
物理的セキュリティ
物理的なセキュリティ対策は、情報保護の基礎となる重要な要素です。
具体的な実施方法と注意点について説明します。
執務環境の整備
執務環境における情報保護では、まず部外者の立ち入り管理が重要となります。
ナースステーションや記録室などの情報を扱う場所には、常に入室管理を徹底する必要があります。
また、窓口やカウンターでの情報の取り扱いには、パーティションやのぞき見防止フィルターを適切に配置することで、情報の露出を防ぐことができます。
書類・媒体の管理
紙カルテや検査データなどの物理的な記録媒体の管理も重要です。
使用時以外は必ず施錠された保管庫で保管し、持ち出し記録を確実につけることが必要です。
また、不要となった書類は、シュレッダーによる裁断や専門業者による溶解処理など、確実な方法で廃棄しなければなりません。
機器・設備の管理
パソコンやタブレット端末などの情報機器は、盗難や紛失を防ぐため、ワイヤーロックでの固定や、使用後の保管庫への収納を徹底します。
また、プリンターやFAX機器は、出力された書類が放置されないよう、アクセス制限機能の活用や定期的な巡回確認が必要です。
技術的セキュリティ
技術的なセキュリティ対策は、デジタル化が進む医療現場において、ますます重要性を増しています。
アクセス制御の実装
システムへのアクセスは、個人認証を基本とし、ICカードや生体認証などの導入も推奨されます。
特に共有端末の使用では、確実なログアウトの徹底と、定期的なパスワード変更が重要です。
また、長時間の離席時には自動ログアウト機能を活用することで、不正アクセスを防止します。
データの暗号化
患者情報を含むデータは、保存時と通信時の両方で適切な暗号化が必要です。
特にUSBメモリなどの外部記憶媒体を使用する場合は、暗号化機能付きの製品を使用し、紛失時の情報漏洩リスクを最小限に抑えます。
マルウェア対策
コンピュータウイルスやマルウェアからシステムを保護するため、ウイルス対策ソフトの導入と定期的な更新が不可欠です。
また、不審なメールの添付ファイルを開かない、許可されていないソフトウェアをインストールしないなど、基本的な対策の徹底が重要です。
継続的な改善活動
保護対策の効果を維持・向上させるためには、定期的な見直しと改善が必要です。
定期的な評価
実施している保護対策の有効性を定期的に評価し、新たな脅威や課題に対応できているか確認します。
特に新しいシステムの導入や業務フローの変更時には、セキュリティ面での影響を慎重に検討する必要があります。
インシデント分析
セキュリティインシデントが発生した場合は、その原因と影響を詳細に分析し、再発防止策を講じることが重要です。
これらの経験を組織全体で共有し、保護対策の改善に活かすことで、より強固なセキュリティ体制を構築することができます。
適切なアクセス管理

医療情報システムにおけるアクセス管理は、患者情報の保護と業務効率の両立を図る上で極めて重要な要素です。
このセクションでは、適切な権限設定の方法と、確実な認証管理の実践について解説します。
これらの対策を適切に実施することで、情報セキュリティを確保しながら、円滑な業務遂行を実現することができます。
権限設定の基本方針
医療情報へのアクセス権限は、必要最小限の原則に基づいて設定する必要があります。
職種や役割に応じた適切な権限管理について説明します。
職務に応じた権限設定
看護師の業務範囲は多岐にわたりますが、それぞれの職務内容に応じて必要な情報へのアクセス権限を適切に設定することが重要です。
病棟勤務と外来勤務では必要となる情報が異なるため、それぞれの業務に応じた権限設定を行う必要があります。
また、夜勤帯などの緊急時対応を考慮した権限設定も重要となります。
権限の定期的見直し
人事異動や業務内容の変更に応じて、アクセス権限を適切に見直すことが必要です。
特に部署移動や退職時には、不要となった権限を速やかに削除しなければなりません。
定期的な権限の棚卸しを実施することで、過剰な権限付与や権限の放置を防ぐことができます。
認証管理の実践
確実な本人認証は、不正アクセスを防ぐための基本となります。多要素認証の導入など、より安全な認証方式の実践について解説します。
パスワード管理の徹底
パスワードは個人認証の基本となるため、その管理を徹底する必要があります。
強度の高いパスワードの設定や定期的な変更、共有の禁止などのルールを確実に実践することが重要です。
特に共有端末を使用する環境では、確実なログアウトの徹底が不可欠です。
多要素認証の活用
パスワードに加えて、ICカードや生体認証などを組み合わせた多要素認証の導入が推奨されます。
これにより、パスワードが漏洩した場合でも、不正アクセスのリスクを大幅に低減することができます。
特に重要な情報へのアクセスには、より厳格な認証方式を採用することが望ましいです。
アクセスログの管理
システムの利用状況を把握し、不正アクセスを検知するため、アクセスログの適切な管理が必要です。
ログの取得と保管
誰がいつどの情報にアクセスしたかを記録し、一定期間保管することが重要です。
これにより、インシデント発生時の原因究明や、不正アクセスの早期発見が可能となります。
ログの保管期間は、法令や院内規定に従って適切に設定する必要があります。
定期的な監査の実施
取得したアクセスログを定期的に分析し、不審なアクセスパターンがないか確認することが重要です。
特に通常とは異なる時間帯のアクセスや、大量のデータ抽出などの不自然な操作については、重点的に確認する必要があります。
セキュリティ強化策

医療情報システムのセキュリティを確実に維持するためには、日常的な対策の徹底とインシデント発生時の適切な対応が不可欠です。
このセクションでは、具体的な強化策と、万が一の場合の対応手順について解説します。
これらの対策を組織全体で共有し、実践することで、より強固なセキュリティ体制を構築することができます。
日常的な対策
セキュリティを維持するためには、日々の基本的な対策の積み重ねが重要です。
具体的な実施方法と注意点について説明します。
作業環境の管理
業務中の情報セキュリティを確保するため、クリーンデスクポリシーの実践が重要です。
使用していない書類は机上に放置せず、確実に収納することが必要です。
また、画面に表示された情報も第三者の目に触れないよう、離席時には必ず画面ロックを行う習慣をつけることが大切です。
データバックアップの実施
重要なデータは定期的にバックアップを取得し、災害や機器故障に備える必要があります。
バックアップデータは適切に暗号化し、安全な場所に保管することが重要です。
また、定期的にバックアップからの復元テストを実施し、確実に復旧できることを確認しておく必要があります。
システム更新の管理
セキュリティパッチの適用やソフトウェアの更新は、既知の脆弱性から システムを保護するために重要です。
更新プログラムは適切なタイミングで適用し、更新による影響を事前に検証することが必要です。
特に医療システムでは、更新による業務への影響を慎重に評価する必要があります。
インシデント対応
セキュリティインシデントが発生した際の適切な対応手順について説明します。迅速かつ的確な対応により、被害を最小限に抑えることができます。
初期対応の手順
インシデントを発見した際は、まず情報システム部門へ報告を行い、指示を仰ぐことが重要です。
その間、証拠となる画面やログを保存し、状況の記録を取ることが必要です。
また、必要に応じて当該システムの使用を一時停止し、被害の拡大を防止することも検討します。
影響範囲の特定
インシデントによる影響範囲を正確に把握することが、適切な対応を行う上で重要です。
どの情報が漏洩した可能性があるか、どのシステムが影響を受けているかなど、詳細な調査を行う必要があります。
特に患者情報が関係する場合は、より慎重な対応が求められます。
再発防止策の実施
インシデントの原因究明を行い、必要な再発防止策を講じることが重要です。
技術的な対策だけでなく、運用面での改善や、教育・訓練の見直しなども含めて、総合的な対策を検討する必要があります。
訓練と教育の実施
セキュリティ対策の実効性を高めるため、定期的な訓練と教育が重要です。
定期的な訓練の実施
インシデント対応訓練を定期的に実施し、手順の確認と改善を行うことが必要です。
実際の事例を基にしたシナリオを用いることで、より実践的な訓練となります。
また、訓練結果を評価し、手順の見直しに活かすことも重要です。
継続的な教育の提供
セキュリティに関する最新の脅威や対策について、定期的な教育を実施することが重要です。
新入職員への基本教育はもちろん、定期的な更新教育を通じて、全職員のセキュリティ意識の維持・向上を図る必要があります。
評価と改善

医療情報セキュリティの確保には、実施している対策の有効性を定期的に評価し、継続的に改善を図ることが不可欠です。
このセクションでは、セキュリティ対策の評価方法と、効果的な改善プロセスについて解説します。
これらの取り組みを通じて、より強固で実効性の高いセキュリティ体制を構築することができます。
セキュリティ評価の実施
セキュリティ対策の実効性を確認するため、定期的な評価を実施することが重要です。
評価の方法と重要なポイントについて説明します。
定期的な監査の実施
セキュリティ監査を定期的に実施し、現状の把握と課題の抽出を行うことが必要です。
内部監査では、規定やマニュアルの遵守状況、日常的な運用状況などを確認します。
また、定期的な外部監査を受けることで、客観的な視点からの評価を得ることも重要です。
脆弱性評価の実施
システムの脆弱性を定期的に評価し、必要な対策を講じることが重要です。
新たな脅威や攻撃手法に対する耐性を確認し、必要に応じて追加の対策を実施します。
特に重要なシステムについては、専門家による詳細な評価を受けることが推奨されます。
改善活動の推進
評価結果に基づき、継続的な改善活動を推進することが重要です。
効果的な改善の進め方について説明します。
PDCAサイクルの実践
計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のサイクルを確実に回すことで、継続的な改善を実現します。
評価結果から明らかになった課題に対して、具体的な改善計画を立案し、確実に実行することが重要です。
ベストプラクティスの共有
成功事例や効果的な対策について、部門間で積極的に情報共有を行うことが有効です。
他部門の取り組みを参考にすることで、より効率的な改善活動を展開することができます。
継続的な最適化
セキュリティ対策は、環境の変化に応じて常に最適化を図る必要があります。
新技術への対応
情報技術の進歩に伴い、新たなセキュリティ対策の手法や技術が登場します。
これらの新技術について積極的に情報収集を行い、導入の検討を進めることが重要です。
導入にあたっては、費用対効果や運用への影響を慎重に評価する必要があります。
組織体制の見直し
セキュリティ管理体制についても、定期的な見直しと最適化が必要です。
責任者の配置や権限の設定、連絡体制など、組織的な対応の仕組みを継続的に改善することで、より効果的なセキュリティ管理を実現することができます。
実践的なケーススタディ

医療現場で実際に発生している、あるいは発生する可能性のあるセキュリティインシデントについて、具体的な事例を基に解説します。
このセクションでは、実際の事例とその対応策を詳しく分析することで、同様の事態が発生した際の適切な対応方法を学ぶことができます。
これらの事例研究を通じて、より実践的なセキュリティ対策の知識を身につけることができます。
患者情報漏洩に関する事例
医療情報の中でも特に慎重な取り扱いが求められる患者情報の漏洩事例について解説します。
電子カルテの画面放置による情報漏洩
診察室での電子カルテ操作中に緊急対応が発生し、画面ロックを せずに離席したことで、患者情報が第三者の目に触れてしまった事例です。
この事例では、画面に表示されていた患者の基本情報や診療内容が、他の患者の目に触れる可能性がありました。
対策としては、離席時の画面ロックの徹底、自動ログアウト機能の設定時間の見直し、緊急時対応手順の整備などが重要となります。
また、定期的な研修を通じて、画面ロックの重要性について再認識を促すことも効果的です。
紙カルテの持ち出しによる紛失
在宅診療のため紙カルテを持ち出した際に、移動中の紛失が発生した事例です。
この事例では、患者の診療履歴や個人情報が含まれた書類が紛失したことで、重大な情報漏洩リスクが発生しました。
対策としては、電子カルテシステムのモバイル端末の活用、持ち出し記録の徹底、必要最小限の情報のみの持ち出しルールの策定などが必要です。
また、紛失時の報告体制や対応手順を明確化しておくことも重要です。
不正アクセスに関する事例
システムへの不正アクセスによって発生するセキュリティインシデントについて解説します。
パスワード管理の不備による不正アクセス
共有アカウントのパスワードが長期間変更されていなかったことで、退職者による不正アクセスが発生した事例です。
この事例では、過去の職員が患者情報に不正にアクセスする可能性があり、情報セキュリティ上の重大なリスクとなりました。
対策としては、個人アカウントの原則化、定期的なパスワード変更の強制、退職時のアカウント管理手順の整備などが必要です。
また、アクセスログの定期的な確認も重要な対策となります。
フィッシング攻撃による情報流出
医療機関を装った不審なメールにより、システムの認証情報が流出した事例です。
この事例では、スタッフが不審なメールのリンクをクリックしたことで、ID・パスワード情報が外部に流出するリスクが発生しました。
対策としては、フィッシングメールの特徴に関する教育、不審なメールへの対応手順の整備、多要素認証の導入などが重要です。
定期的な注意喚起と、実際の不審メール事例を用いた訓練も効果的です。
システム障害に関する事例
システムの不具合や障害によって発生するセキュリティ問題について解説します。
6.3.1 バックアップ不備によるデータ消失
システム障害が発生した際に、バックアップデータの復旧に失敗した事例です。
この事例では、直近の患者データが消失し、診療に支障が生じるリスクが発生しました。
対策としては、定期的なバックアップの確実な実施、バックアップデータの復旧テスト、災害対策を考慮したバックアップ場所の分散化などが必要です。
また、システム障害時の代替手段の確保も重要です。
ウイルス感染によるシステム停止
医療機器に接続されたPCがウイルスに感染し、システムが停止した事例です。この事例では、診療機器の使用が制限され、患者の診療に直接的な影響が出るリスクが発生しました。
対策としては、ウイルス対策ソフトの適切な運用、セキュリティパッチの適用、ネットワークの分離などが重要です。
また、感染時の対応手順の整備と訓練も必要です。
運用ミスに関する事例
日常的な運用における人的ミスによって発生するセキュリティ問題について解説します。
メール誤送信による情報漏洩
患者向けの連絡メールを誤って別の患者に送信してしまった事例です。
この事例では、患者の予約情報や基本的な診療情報が誤って他者に送信されるリスクが発生しました。
対策としては、メール送信時のダブルチェック体制の構築、送信前確認手順の整備、メール送信システムの機能強化などが必要です。
また、誤送信時の対応手順の明確化も重要です。
廃棄文書の不適切な処理
患者情報を含む文書を適切な処理を行わずに廃棄してしまった事例です。
この事例では、廃棄された文書から患者情報が流出するリスクが発生しました。
対策としては、文書の適切な廃棄手順の整備、シュレッダーの設置と使用ルールの徹底、専門業者による確実な廃棄処理の実施などが必要です。
また、定期的な廃棄手順の確認と教育も重要です。
情報管理チェックリスト

日常業務における情報管理を確実に実施するためには、体系的なチェック体制が重要です。
このセクションでは、業務の各段階で確認すべき項目と、それらの実践的な活用方法について解説します。
これらのチェック項目を日常的に活用することで、より確実な情報管理を実現することができます。
業務開始時の確認事項
業務開始時には、情報セキュリティの基本的な確認が必要です。具体的な確認手順について説明します。
システム起動時の確認
システム起動時には、まずログイン認証の確実な実施が必要です。
パスワードの入力は周囲に見られないよう注意し、二要素認証が導入されている場合は、ICカードや生体認証も確実に行います。
また、アンチウイルスソフトの稼働状況やシステムの動作状況についても確認が必要です。
作業環境の確認
業務開始前に、作業環境の安全性を確認することが重要です。
のぞき見防止フィルターの装着状況、プリンターやFAXの用紙残量、シュレッダーの状態など、情報漏洩防止に関わる機器の状態を確認します。
また、前日の業務で残された書類がないことも確認が必要です。
業務実施中の確認事項
業務遂行中は、継続的な情報セキュリティの確認が必要です。
具体的な確認ポイントについて説明します。
情報取り扱い時の確認
患者情報を取り扱う際は、特に慎重な確認が必要です。
対象患者の確認、アクセス権限の確認、情報の正確性の確認などを、その都度実施します。
また、情報を印刷する際は、プリンターからの速やかな回収と、印刷枚数の確認も重要です。
中断時の確認
業務を一時中断する際は、情報セキュリティの確保が重要です。
画面ロックの実施、書類の一時保管、アクセスログの保持など、必要な措置を確実に実施します。
特に急な対応が必要な場合でも、最低限の安全措置は必ず実施することが重要です。
業務終了時の確認事項
業務終了時には、情報の安全な保管と環境の確認が必要です。具体的な確認手順について説明します。
情報の保管確認
使用した書類や電子媒体の適切な保管を確認します。
重要書類は施錠可能な保管庫への収納、電子媒体は指定された場所への保管を確実に実施します。
また、一時保管していた書類の回収漏れがないことも確認が必要です。
システムの終了確認
システムの完全なログアウトと、使用機器の電源オフを確認します。
特に共有端末の場合は、ログイン状態が継続していないことを必ず確認します。
また、プリンターやFAXなどの周辺機器についても、適切な終了処理を実施します。
トラブルシューティング

医療情報システムの運用において、様々なトラブルが発生する可能性があります。
このセクションでは、一般的なトラブルへの対応方法と、情報漏洩時の具体的な対応手順について解説します。
これらの知識を身につけることで、トラブル発生時に迅速かつ適切な対応を取ることができます。
システムトラブル時の対応
システムトラブルが発生した際の基本的な対応手順について説明します。
迅速な対応により、業務への影響を最小限に抑えることができます。
初期対応の実施
システムトラブルを発見した際は、まず現状の正確な把握が重要です。
エラーメッセージの内容、発生時の状況、影響範囲などを記録します。
システム管理者への報告は、これらの情報を整理した上で行うことで、より効率的な対応が可能となります。
また、応急処置として安全な範囲でのシステムの再起動や、代替手段の検討も必要です。
業務継続手段の確保
システム停止時でも必要な医療サービスを継続できるよう、代替手段を確保することが重要です。
紙での記録や、バックアップシステムの利用など、状況に応じた対応方法を事前に準備しておく必要があります。
また、復旧までの見込み時間に応じて、適切な代替手段を選択することも重要です。
情報漏洩時の対応
情報漏洩が発生した、あるいは発生の可能性が確認された際の対応手順について説明します。
緊急対応の実施
情報漏洩を発見した際は、まず被害の拡大防止が最優先となります。
該当するシステムやアカウントの利用停止、関係者への緊急連絡、証拠の保全などを速やかに実施します。
また、発生した事象の正確な記録を取ることも、後の原因究明や再発防止に重要です。
関係者への報告
情報漏洩の影響範囲や重要度に応じて、適切な報告ルートで情報を共有することが必要です。
院内の責任者への報告はもちろん、必要に応じて関係機関への届出や、影響を受ける可能性のある患者への通知も検討します。
報告内容は正確かつ簡潔にまとめ、優先順位を付けて実施することが重要です。
再発防止策の策定
トラブル対応後は、類似事案の防止に向けた取り組みが重要です。
原因分析の実施
発生したトラブルの詳細な原因分析を行い、技術的な問題点や運用上の課題を明確にします。
システムの設定変更、運用手順の見直し、教育内容の改善など、必要な対策を検討します。
特に人的要因による問題については、より実効性の高い防止策を考える必要があります。
対策の実施と評価
策定した再発防止策を確実に実施し、その効果を評価することが重要です。
対策の実施状況を定期的に確認し、必要に応じて改善を加えることで、より強固な体制を構築することができます。
また、得られた知見を組織全体で共有し、類似事案の防止に活かすことも重要です。
最新のセキュリティ動向

医療情報セキュリティを取り巻く環境は日々変化しており、新たな脅威や技術が次々と登場しています。
このセクションでは、最新のセキュリティ動向と、それらへの効果的な対応方法について解説します。
これらの知識を活用することで、より先進的で効果的なセキュリティ対策を実現することができます。
新たな脅威と対策
サイバーセキュリティの分野では、新たな攻撃手法が次々と出現しています。
最新の脅威動向とその対策について説明します。
ランサムウェアへの対応
医療機関を標的としたランサムウェア攻撃が増加しています。
患者データの暗号化や医療システムの停止を引き起こすこれらの攻撃に対しては、適切なバックアップ体制の構築が重要です。
定期的なバックアップの実施と、オフラインでのバックアップデータの保管により、被害を最小限に抑えることができます。
また、不審なメールの添付ファイルを開かないなど、基本的な予防措置の徹底も重要です。
フィッシング詐欺対策
医療機関や関連組織を装ったフィッシングメールによる情報窃取の試みが増加しています。
これらの攻撃に対しては、メール送信元の慎重な確認と、不審なリンクのクリック防止が重要です。
また、多要素認証の導入により、仮に認証情報が漏洩した場合でも、不正アクセスを防ぐことができます。
最新技術の活用
セキュリティ対策においても、新しい技術の活用が進んでいます。効果的な技術の導入方法について説明します。
AI技術の活用
人工知能(AI)を活用したセキュリティ監視システムの導入が進んでいます。
通常とは異なるアクセスパターンの検知や、不正な操作の早期発見など、AIによる高度な監視が可能となっています。
また、セキュリティインシデントの予測や、効果的な対策の提案にもAI技術が活用されています。
クラウドセキュリティの強化
医療情報システムのクラウド化が進む中、クラウドセキュリティの重要性が増しています。
データの暗号化、アクセス制御、監査ログの管理など、クラウド環境特有のセキュリティ対策が必要です。
また、クラウドサービス提供者との適切な契約締結や、セキュリティ要件の明確化も重要となります。
将来的な課題への対応
今後予想される課題とその対応について説明します。
IoT機器のセキュリティ
医療IoT機器の普及に伴い、これらの機器のセキュリティ対策が重要となっています。
機器の認証管理、ファームウェアの更新、通信の暗号化など、適切な対策を講じる必要があります。
また、機器の導入時には、セキュリティ機能の確認と、適切な設定が重要です。
法規制への対応
個人情報保護法の改正や、新たなセキュリティ基準の策定など、法規制の変更に迅速に対応することが求められています。
最新の法令やガイドラインの内容を把握し、必要な対策を講じることが重要です。
また、国際的な規制への対応も考慮に入れる必要があります。
持続可能な情報管理体制の構築

これまでの内容を踏まえ、より実効性の高い情報管理体制を構築するためのポイントをまとめます。
このセクションでは、組織全体での取り組みの重要性と、個人の意識向上について解説します。
これらの要素を適切に組み合わせることで、持続可能な情報管理体制を実現することができます。
組織全体での取り組み
情報管理は組織全体で取り組むべき重要な課題です。
効果的な体制づくりのポイントについて説明します。
管理体制の確立
情報管理における責任と権限を明確にし、組織的な管理体制を確立することが重要です。
管理責任者の設置、部門間の連携体制の構築、定期的な評価と改善のサイクルを確実に実施することで、より効果的な管理が可能となります。
また、現場の意見を積極的に取り入れ、実践的な体制づくりを進めることも重要です。
継続的な改善活動
PDCAサイクルに基づく継続的な改善活動を推進することが必要です。
定期的な評価を通じて課題を特定し、改善策を実施することで、より強固な管理体制を構築することができます。
また、成功事例や課題を組織内で共有し、全体的なレベルアップを図ることも重要です。
今後の展望
医療情報管理を取り巻く環境は今後も変化を続けます。将来を見据えた取り組みについて説明します。
技術革新への対応
新しい技術の導入と、それに伴うセキュリティ対策の更新が継続的に必要となります。
AIやIoTなどの新技術を適切に活用しながら、それらがもたらす新たなリスクにも対応できる体制を整えることが重要です。
また、職員の技術的なスキルアップも継続的に行う必要があります。
社会的要請への対応
医療情報の保護に対する社会的な要請は、今後さらに高まることが予想されます。
患者のプライバシー保護を最優先としながら、医療の質の向上と効率化を両立させる取り組みが求められます。
常に最新の動向を把握し、適切な対応を取ることが重要です。
付録
このガイドの内容をより深く理解し、実践するために役立つ補足情報を提供します。
関連する法規制やガイドライン、重要な用語の解説をいたします。
これらの情報を活用することで、より確実な情報管理を実現することができます。
A. 関連法規・ガイドライン
医療情報の管理に関連する主要な法規制とガイドラインについて解説します。
個人情報保護法
医療分野における個人情報保護について、法律の基本的な考え方と具体的な要求事項を説明します。
特に要配慮個人情報としての医療情報の取り扱いや、安全管理措置の基準について理解を深めることが重要です。
また、本人同意の取得方法や、開示請求への対応手順についても確認が必要です。
医療法における規定
医療法で定められている診療情報の管理に関する規定について説明します。
診療録の記載事項、保存期間、管理方法など、基本的な要件を確実に理解することが重要です。
また、電子保存に関する要件や、外部保存を行う場合の基準についても確認が必要です。
B. 用語集
情報管理やセキュリティに関する重要な専門用語について解説します。
技術用語の解説
情報セキュリティに関する基本的な技術用語について説明します。
暗号化、認証、アクセス制御など、日常的に使用される用語の意味と重要性を理解することで、より確実な情報管理が可能となります。
また、新しい技術に関する用語についても随時更新していくことが重要です。
B.2 運用管理用語
情報管理の運用に関する重要な用語について説明します。
インシデント管理、リスクマネジメント、コンプライアンスなど、組織的な取り組みに関する用語の理解を深めることで、より効果的な管理体制を構築することができます。
おしえてカンゴさん!医療情報セキュリティQ&A

こんにちは!普遍で臨床経験20年のカンゴさんです。
今日は皆さんから寄せられた医療情報管理に関する質問に答えていきます。
日々の業務で感じる疑問や不安を一緒に解決していきましょう。
Q1: 「夜勤中の急変対応で、電子カルテの画面ロックを忘れることが心配です」
カンゴさん:とても不安です、よくわかります。
急変対応では一秒一秒が大切ですね。私のいる病院では、自動ログアウトを3分に設定しています。
緊急時でも個人情報を守れるよう、システムの力を借りています。
ロックは立ちながらでもできますよ。新人さんには声出し確認も推奨しています。
「画面ロックよし!」と確認でき、忙しい時でも意識できるようになります。
Q2: 「他院からの患者情報をFAXで受け取る時、気になることがあります」
カンゴさん:情報漏洩が心配ですよね。実は私も以前、誤送信のヒヤリハットを経験しました。
その予告から、今は送信元との電話連絡を徹底しています。
事前に送信予定を確認し、受信後は必ず到着確認の電話を入れます。
FAXが届いたらすぐにに回収し、その場で内容確認。
一時保管も専用のファイルを使用し、最も早く電子カルテに取り込むようにしています。
最近は医療連携システムの導入も進んでいますので、システム部門に相談してみるのも良いかもしれません。
Q3: 「電子カルテを入力する際、周りの目が気になります」
カンゴさん:確かに、特にナースステーションは人通りが多いので要注意です。
私たちの病院では、画面が廊下から見えない配置を基本としています。
また、最近は視野角の狭いのぞき見防止フィルターも利用しています。
患者さんへの説明時は、必要な情報だけを表示するよう心がけましょう。
文字サイズも正しく設定することで、画面の可読性を視野に入れながら情報の保護も実現できます。
共有PCを使用する際は、他のスタッフのセッションが残っていないかの確認も忘れずに。
Q4: 「電子カルテの修正って、どこまでOKですか?」
カンゴさん:この質問、よく受けます。
電子カルテは法的な文書なので、修正には正しい手順が必要です。
入力直後の明らかな誤入力なら、すぐに修正して問題はありません。
記録が残る方法で対応しましょう。
修正理由も明確に記載が必要です。
大切なのは、修正の必要性を減らすこと。
記録を確定する事前見直しや、重要な情報の場合は同僚にダブルチェックを依頼するなど、日々の予防策が効果的です。
Q5: 「社内メールで患者情報を共有する際の注意点は?」
カンゴさん:多方面連携では情報共有が必要ではありません。
但し、メールでの患者情報の取り扱いには細心の注意が必要です。
私は基本的に、電子カルテ内のメッセージ機能を優先して使用しています。
気をつけたいのが宛先の確認です。
オートコンプリート機能による誤選択を防ぐため、送信前の確認を徹底しています。重要な情報の場合は、受信確認も忘れずに。
また、送信済みメールは定期的に整理し、不要なものは確実に削除しましょう。
まとめ
情報管理の基本は、日々の小さな心構えから始めます。
完璧を目指すのではなく、できることから一つずつ実践していきましょう。
このような情報管理の悩みや、その他の看護師業務に関する疑問について、より詳しい情報は「はたらく看護師さん」でご覧いただけます。
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