保健師の訪問活動は、地域住民の健康と安全を守る上で不可欠ですが、同時に様々なリスクを伴います。予期せぬ事態に遭遇する可能性も考慮し、万全の準備と対策が必要です。
この記事では、2025年最新の情報をもとに、保健師が訪問活動で遭遇する可能性のあるリスクとその分析方法、効果的な予防対策、訪問中の安全確保策、緊急時の対応方法、組織的な安全管理体制の構築ポイント、地域特性に応じたリスク対応の違いと適応策などを網羅的に解説します。
この記事を読むことで、あなたは訪問活動におけるリスク管理の重要性を理解し、安全な訪問活動を実践するための具体的な知識とスキルを身につけることができるでしょう。
この記事で分かること
- 訪問活動における様々なリスクとその分析方法
- 効果的な予防対策と訪問前の安全確保策
- 訪問中の安全手順と緊急時の対応方法
- 組織的な安全管理体制の構築ポイント
- 保健師の訪問活動に特化した安全確保モデル「SAFER」の実践方法
- 地域特性に応じたリスク対応の違いと適応策
この記事を読んでほしい人
- 訪問活動に携わる保健師
- 地域保健活動を行う看護師
- 訪問看護に従事する医療従事者
- 保健師を目指す看護学生
- 医療施設の安全管理担当者
- 地域包括ケアに関わる多職種連携チームのメンバー
- 保健師の職場環境改善に取り組む管理者
訪問活動における危険とは?リスク分析の重要性

保健師の訪問活動においては、地域住民の生活の場に直接入り、支援を提供するという特性上、様々な危険やリスクが存在します。
効果的な安全対策を講じるためには、まず潜在的なリスクを特定し、分析することが不可欠です。
リスク分析は単なる危険回避のためだけでなく、質の高いケアを安心して提供するための基盤となります。
主な訪問活動のリスク
訪問活動で保健師が直面する可能性のある危険には、以下のようなものがあります。
物理的な危険
訪問活動では、移動中や訪問先での物理的な危険が存在します。
交通事故は特に注意が必要で、不慣れな地域での運転や悪天候時の移動には細心の注意が求められます。
また、訪問先の住環境によっては転倒・転落のリスクもあります。
特に高齢者宅では段差や滑りやすい床、整理整頓されていない環境などが危険因子となることがあります。
訪問先でのペットによる危害も見過ごせません。
事前に飼育動物の有無を確認し、必要に応じて対策を講じることが重要です。
また、季節に応じた危険も考慮する必要があります。
夏場の熱中症リスクや冬場の凍結による転倒リスクなど、季節特有の危険に対する対策も必要です。
人的リスク
訪問活動における人的リスクは、近年特に注意が必要とされている領域です。
対象者やその家族からの暴言・暴力は、精神的ストレスや身体的危害をもたらす可能性があります。
特に精神疾患を持つ方や、アルコール・薬物依存のある方への訪問では、予測不能な行動に備える必要があります。
また、訪問活動の性質上、保健師が対象者と一対一の関係になることが多く、セクハラ行為やストーカー行為のリスクも存在します。
このようなリスクを軽視せず、組織として明確な対応策を持つことが重要です。
ハラスメント行為に対する毅然とした態度と、適切な報告体制の整備が求められます。
環境的リスク
訪問先の環境に関連するリスクも多様です。
不衛生な環境は感染症リスクを高め、保健師自身の健康を脅かす可能性があります。
特に結核やインフルエンザなどの感染症がある家庭への訪問では、適切な感染対策が必須となります。
また、家屋の構造的問題により生じる危険も見逃せません。
老朽化した建物や適切なメンテナンスがされていない住居では、天井や床の崩落、電気系統の不備による火災リスクなどが潜在しています。
訪問前に可能な限り住環境の情報を収集し、必要に応じて対策を講じることが重要です。
心理的リスク
訪問活動は保健師自身の心理面にも影響を及ぼします。
困難ケースに継続的に関わることによる二次的トラウマやバーンアウトのリスクは看過できません。
特に虐待ケースや終末期ケースなど、精神的負担の大きい事例に関わる保健師には、適切なメンタルケアが必要です。
また、単独訪問による孤立感や、対応の難しいケースに一人で向き合うことによる無力感なども心理的リスクとなります。
これらのリスクに対しては、組織的なサポート体制の構築と、保健師自身のセルフケア能力の向上が重要となります。
リスク分析の実施手順
効果的なリスク分析を行うためには、体系的なアプローチが必要です。
以下に、リスク分析の具体的な実施手順を示します。
情報収集の徹底
リスク分析の第一歩は、質の高い情報収集です。
過去の訪問記録を丁寧に確認し、前回の訪問時の状況や特記事項を把握します。
特に、過去にインシデントが発生した事例については、その詳細と対応策を十分に理解しておくことが重要です。
他のスタッフからの情報も貴重です。
チームカンファレンスや申し送りの場で、訪問対象者に関する情報を積極的に共有し、多角的な視点からリスクを評価することが可能になります。
特に、複数のスタッフが関わっているケースでは、それぞれの視点からの情報が安全対策の質を高めることにつながります。
訪問先がある地域の特性把握も重要な要素です。
治安状況や交通アクセス、地理的条件(急な坂道や冬季の積雪など)を事前に把握しておくことで、移動中のリスクを軽減することができます。
地域の社会資源や緊急時の避難場所なども把握しておくことが望ましいでしょう。
リスク評価シートの活用
収集した情報を基に、体系的なリスク評価を行います。
訪問先ごとのリスク評価シートを作成し、様々な視点からリスクを評価することが効果的です。
リスク評価シートには、物理的リスク、人的リスク、環境的リスク、心理的リスクなど、多面的な評価項目を含めるべきです。
リスクレベルは通常、低・中・高の3段階で設定します。
例えば、「過去に暴力歴あり」は高リスク、「精神疾患があるが安定している」は中リスク、といった形で評価します。
評価結果に基づいて、必要な対策のレベルや訪問体制(単独か複数か)を決定することができます。
具体的な危険因子の特定も重要です。
「玄関に大型犬がいる」「家の周囲に街灯がなく夜間は暗い」「冬季は道路が凍結する」といった具体的な危険因子を特定することで、それに対応した具体的な対策を立てることができます。
これらの情報は訪問シートに記載し、訪問者間で共有することが大切です。
定期的な見直しの仕組み
リスク評価は一度行えば終わりではなく、定期的な見直しが必要です。
少なくとも3か月ごとにリスク評価を更新し、状況の変化に応じて対策を調整することが推奨されます。
特に、対象者の状態変化(症状の悪化、新たな疾患の発症など)があった場合は、速やかにリスク評価を見直す必要があります。
新たなリスク要因の追加も重要です。例えば、新たな家族の転入や、ペットの飼育開始、住環境の変化などがあった場合は、それに応じたリスク評価の見直しが必要となります。
また、地域の治安状況の変化や自然災害リスクの高まりなど、外部環境の変化も考慮する必要があります。
対策の有効性の検証も定期的に行うべきです。
実施した対策が実際に効果を上げているか、予期せぬ副作用はないか、コスト対効果は適切かなどを評価し、必要に応じて対策を修正します。
この検証プロセスを通じて、リスク管理の質を継続的に向上させることが可能になります。
「リスク分析は、単に危険を避けるためだけではなく、安心して質の高いケアを提供するための基盤となります。
体系的なリスク分析によって、保健師は自信を持って訪問活動に臨むことができるのです」(A県保健所 保健師長)
予防対策の確立:訪問前の安全確保

リスクを特定した後は、適切な予防対策を講じることが重要です。
特に訪問前の準備は、安全確保の鍵となります。
予防対策は、「備えあれば憂いなし」の精神で、起こりうる様々な状況に事前に対応策を準備しておくことです。
このセクションでは、訪問前に実施すべき具体的な予防対策と準備について詳しく解説します。
訪問前の準備と対策
訪問前の準備は、安全な訪問活動の基盤となります。
十分な準備により、多くのリスクを事前に軽減することが可能です。
事前情報の確認
訪問を安全に実施するためには、対象者に関する基本情報の確認が不可欠です。
基本情報には、氏名、年齢、性別、住所、連絡先といった基本的な項目に加え、健康状態、疾患情報、服薬状況、ADL状況などの医療・健康情報も重要です。
また、家族構成や同居者の情報、日中の在宅状況なども確認しておくべき基本情報です。
過去の訪問記録の確認も重要なステップです。
特に初めて担当するケースでは、過去の訪問者からの情報が貴重な手がかりとなります。
過去の訪問でのコミュニケーションの特徴や反応、協力度、特記事項などを確認し、対象者の特性を把握しておくことが重要です。
また、過去にヒヤリハットや困難事例があった場合は、その詳細と対応策も確認しておきます。
特記事項や注意点としては、精神疾患の有無とその症状特性、暴力歴の有無、ペットの飼育状況、訪問拒否の経験、アルコールや薬物使用の状況などが挙げられます。
これらの情報は、リスク評価と対策立案の重要な要素となります。
また、認知症の有無や徘徊歴、異食行動などの特記事項も、訪問時の対応に大きく影響します。
訪問計画の作成
効果的な訪問計画は安全確保の重要な要素です。
訪問ルートの最適化では、複数の訪問先を効率良く回るためのルート設計が必要です。
Googleマップなどのナビゲーションツールを活用し、移動時間の見積もりと最適ルートの設計を行います。
特に冬季や悪天候時には、安全なルートを優先することが重要です。
時間帯の適切な選択も安全確保につながります。
基本的には日中の明るい時間帯の訪問が推奨されます。
特にリスクの高い地域や対象者への訪問は、午前中など比較的安定した時間帯を選ぶことが望ましいでしょう。
また、対象者の生活リズムに合わせて、最も面談に適した時間帯を選ぶことも重要です。
訪問時間の明確化も必要です。
対象者に事前に訪問時間を伝え、了承を得ておくことで、突然の訪問による混乱やトラブルを避けることができます。
また、訪問の目的と予定所要時間も伝えておくことで、対象者の心理的準備を促し、スムーズな訪問につなげることができます。
コミュニケーション体制の確保
安全な訪問活動には、適切なコミュニケーション体制の確保が不可欠です。
訪問スケジュールの共有は基本中の基本です。
所属機関内で訪問予定表を共有し、誰がいつどこを訪問しているかをチーム全体で把握できるようにします。
電子カレンダーやスケジュール共有アプリを活用し、リアルタイムでの情報共有が効果的です。
定期的な報告タイミングの設定も重要です。
訪問開始時と終了時の報告を基本とし、長時間訪問の場合は中間報告のタイミングも設定します。
例えば「訪問開始時、2時間ごと、訪問終了時に報告」といったルールを設け、定期的な安否確認を行うことが推奨されます。
緊急連絡先リストの準備も必須です。
所属機関の緊急連絡先、上司の連絡先、近隣の医療機関や警察署の連絡先などをリスト化し、常に携帯します。
また、訪問先近隣の避難場所や公共施設の情報も含めておくと、緊急時に役立ちます。
これらの情報は紙媒体とデジタル媒体の両方で保持することが望ましいでしょう。
適切な装備
訪問活動には適切な装備が必要です。
身分証明書の携帯は最も基本的な準備です。
所属機関発行の身分証明書や名札を常に携帯し、訪問時に明示することで、対象者に安心感を与えるとともに、保健師自身の立場を明確にします。
特に初回訪問時には、必ず身分証明書を提示することが重要です。
防犯ブザーや防犯スプレーなどの防犯グッズも携帯すべきです。
小型の防犯ブザーは、バッグやキーホルダーに取り付けて、緊急時にすぐに使えるようにしておきます。
また、防犯スプレーなどの護身用具も、地域の治安状況や訪問先のリスクレベルに応じて携帯を検討します。
モバイルバッテリーなどの通信機器用備品も重要です。
長時間の訪問や複数訪問がある日は、スマートフォンの充電切れを防ぐためにモバイルバッテリーを携帯します。
また、圏外地域への訪問が予想される場合は、あらかじめ代替通信手段(無線機など)を検討することも必要です。
感染対策用品の携帯も必須となっています。
マスク、手袋、消毒液などの基本的な感染対策用品を常備し、訪問先の状況に応じて適切に使用します。
感染症が疑われる世帯への訪問では、N95マスクやフェイスシールド、ガウンなどの追加防護具の使用も検討します。
これらの用品は訪問バッグに常備し、定期的な補充と点検を行うことが重要です。
高リスク訪問への対応
リスク評価で「高リスク」と判断された訪問先には、特別な対応策が必要です。
高リスクとなる主な要因としては、過去の暴力歴、重度の精神疾患、物質依存、社会的孤立、極端な生活環境などが挙げられます。
複数人での訪問
高リスク訪問では、単独訪問を避け、複数人での訪問を原則とします。
保健師だけでなく、必要に応じて警察官や精神保健福祉士との同行訪問を検討します。
複数人での訪問によるメリットは多岐にわたります。
まず、安全面での強化が図れることが大きなメリットです。万が一の事態が発生した場合でも、相互支援が可能となり、緊急連絡や避難などの対応がスムーズになります。
また、客観的な状況評価が可能になることも重要です。
複数の視点から状況を評価することで、リスク判断の精度が高まります。
一人の保健師が見落としたサインを、もう一人が気づくことも少なくありません。
さらに、専門性の相互補完も可能になります。
例えば、保健師と精神保健福祉士が同行することで、医療的視点と福祉的視点の両面からアプローチすることができます。
事前連絡の徹底
高リスク訪問では、突然の訪問によるトラブルを避けるため、事前連絡を徹底します。
訪問の目的や時間を明確に伝え、対象者の了承を得ることが重要です。
事前連絡の方法としては、電話が基本ですが、状況に応じて文書や関係者を通じた連絡も考慮します。
事前連絡の内容は具体的かつ簡潔にします。
訪問の目的(「健康状態の確認のため」「支援サービスの説明のため」など)、訪問者の名前と所属、訪問日時(「6月10日午前10時頃」など具体的に)、所要時間の目安(「30分程度」など)を明確に伝えます。
また、同行者がいる場合はその旨も伝えておくことが望ましいでしょう。
訪問時間の工夫
高リスク訪問では、訪問時間の選択も重要な安全対策です。
基本的には、午前中など比較的安全な時間帯の選択が推奨されます。
午前中は一般的に、対象者の体調や気分が安定している場合が多く、また日中であることから周囲の目も多いため、安全面で有利です。
特に、アルコール依存がある対象者の場合、飲酒が進む夕方以降の訪問は避けることが賢明です。
また、対象者の生活リズムに合わせた時間設定も考慮します。
例えば、服薬直後で症状が安定している時間帯を選んだり、家族が在宅している時間帯を選んだりすることで、安全性を高めることができます。
特に精神疾患がある場合は、主治医からの情報を基に、症状が安定している時間帯を選ぶことが重要です。
E保健所での取り組み事例: E保健所では、訪問前のリスクアセスメントシートを導入し、リスクレベルに応じた訪問体制を構築しています。
高リスク訪問には必ず複数名で対応し、訪問後の振り返りミーティングを実施することで、継続的な安全対策の改善を図っています。
特に効果的だったのは、リスクレベルを色分けした訪問管理表の導入です。
赤(高リスク)、黄(中リスク)、緑(低リスク)で視覚的に管理することで、チーム全体でリスクを共有しやすくなりました。
また、緊急時の応援要請システムとして「コードホワイト」を導入し、危険を感じた保健師が特定のコードワードを連絡することで、即座に応援が駆けつける体制を整えています。
この取り組みにより、訪問関連のインシデント発生率が前年比25%減少したという成果が報告されています。
安全手順の確認:訪問中の安全確保策

訪問中の安全を確保するためには、具体的な行動指針や手順が必要です。
以下に、訪問中に実践すべき安全確保策をご紹介します。
適切な安全手順を身につけることで、万が一の事態に冷静に対応し、自身の安全を守ることができます。
訪問時の基本的な安全行動
訪問時には、以下の基本的な安全行動を習慣化することが重要です。
これらの行動は、どんな訪問先でも共通して実践すべき基本的な安全対策です。
周囲の状況確認
訪問先に到着したら、まず周囲の状況を確認します。
訪問先周辺の環境チェックとして、近隣の家屋の状況、道路状況、人通りの多さ、明るさなどを観察します。
特に初めて訪問する地域では、周囲の雰囲気を感じ取ることが重要です。
不審な人物や状況の把握も重要です。
訪問先の周辺に不審な人物がいないか、異常な騒音や争いの声がしないかなどを確認します。
少しでも違和感を感じたら、訪問を延期するか、複数人での訪問に切り替えることも検討します。
緊急時の避難経路の確認は必須です。
訪問先に入る前に、緊急時にどのようなルートで退避するかを考えておきます。
最寄りの交番や公共施設、人通りの多い道路など、安全な場所への移動経路を確認しておくことが重要です。
車の駐車位置も安全確保の重要な要素です。
できるだけ出やすい場所(車の向きを出口に向ける、バックで駐車するなど)に駐車し、緊急時にすぐに発進できるようにしておきます。
玄関での対応
訪問先の玄関での対応は、その後の訪問の安全性に大きく影響します。
身分証明書の提示は基本中の基本です。
訪問時には必ず所属機関発行の身分証明書を提示し、自分の名前と所属を明確に伝えます。
訪問目的の明確な説明も重要です。
なぜ訪問したのか、どのようなことを話し合いたいのかを簡潔に説明します。
曖昧な説明は不信感を招く可能性があるため、具体的かつ分かりやすい説明を心がけましょう。
室内に入る前の状況確認も欠かせません。
玄関先で室内の様子を観察し、不審な物や人がいないか、室内が極端に散らかっていないかなどを確認します。
また、話し声や物音から、対象者以外の人物の存在を察知することも重要です。
靴を脱ぎやすい位置に置くことも、緊急退避のための重要なポイントです。
室内に入る際には、靴を脱ぎやすく、かつ緊急時にすぐに履けるような位置に置きます。
室内での注意点
室内での位置取りは安全確保の重要な要素です。
出入り口に近い位置に座ることで、緊急時の退避をスムーズにします。
対象者と保健師の間に適切な距離(通常は1.5~2メートル程度)を保ち、対象者の動きを常に観察できる位置を選びます。
常に出口が見える位置を確保することも重要です。
部屋のレイアウトを把握し、常に出口が視界に入る位置に座ります。
背中を壁に向けて座ることで、周囲の状況を把握しやすくなります。
危険物(刃物など)の位置に注意することも重要です。
室内に包丁やハサミ、重いものなど、武器として使用される可能性のあるものがないか確認します。
もし危険物が目につく場合は、それらから離れた位置に座るか、必要に応じて片付けを依頼することも検討します。
対象者と適切な距離を保つことも安全確保の基本です。
初回訪問時や警戒心の強い対象者との面談では、やや距離を取った位置での対応が望ましいでしょう。
コミュニケーションの工夫
安全な訪問活動には、適切なコミュニケーション技術も欠かせません。
穏やかで明確な話し方を心がけ、対象者を威圧しないよう配慮します。
低い声のトーンで、ゆっくりと分かりやすく話すことで、対象者の緊張や不安を和らげることができます。
対象者の感情変化への注意も重要です。
表情、声のトーン、姿勢、視線などから感情の変化を察知し、怒りや不安が高まっているサインを見逃さないようにします。
イライラや怒りのサインが見られた場合は、話題を変えたり、一時的に話を中断したりするなどの対応を考慮します。
対立を避ける会話術も身につけておくべきです。
対象者と意見が異なる場合でも、まずは相手の意見を受け止め、共感の姿勢を示します。
「私はこう思いますが、どう思われますか?」といった形で、押し付けでなく提案する形でコミュニケーションを取ることが効果的です。
専門用語を避けた分かりやすい説明も重要です。
医療や福祉の専門用語は、対象者にとって理解しづらく、時に不安や不信感を招く原因となります。
専門用語を使う必要がある場合は、分かりやすい言葉で補足説明を加えるなどの配慮が必要です。
危険察知時の対応
訪問中に危険を察知した場合の対応手順も明確にしておきましょう。
危険を早期に察知し、適切に対応することで、重大なインシデントを防ぐことができます。
段階的な撤退判断
危険レベルに応じた段階的な撤退判断が重要です。
軽度の不安を感じた段階では、相手との距離を取る、姿勢を低くするなどの対応を取りつつ、状況を見守ります。
警戒が必要な段階では、訪問の目的を簡潔に済ませ、早めに切り上げる判断をします。
即時退去が必要な場合の判断基準も明確にしておきます。
対象者が明らかな暴力行為を示した場合、脅迫的な言動があった場合、武器となるものを手に取った場合などは、躊躇せず退去することが重要です。
こうした状況では、自分の安全を最優先に考え、「臆病」と思われることを恐れず決断することが必要です。
退去のタイミング
相手の気分を害さないスムーズな退去方法も考えておく必要があります。
訪問の目的を簡潔に達成した後、「次回また伺いますね」など自然な流れで退去につなげると良いでしょう。
突然の退去は対象者の不信感を招く可能性があるため、可能な限り自然な形での退去を心がけます。
緊急退去が必要な場合は、「急な連絡が入りました」「事務所に戻る時間になりました」などの理由を述べて退去することも一つの方法です。
ただし、明らかな危険を感じる場合は、理由を説明せずに速やかに退去することも選択肢として持っておくべきです。
アラートの発信
危険を感じた際のアラート発信方法も確立しておきます。
定められた合図やコードワードの使用は効果的です。
例えば、所属機関への電話で「赤いファイルを持ってきてください」というコードワードを使うことで、危険な状況であることを伝えることができます。
また、スマートフォンのSOS機能やセキュリティアプリを活用することも有効です。
多くのスマートフォンには緊急SOS機能が搭載されており、特定のボタン操作で緊急連絡先に通知を送ることができます。
こうした機能の使い方を事前に練習しておくことが重要です。
報告の徹底
危険を感じた場合や実際にインシデントが発生した場合は、報告の徹底が重要です。
インシデント報告書の作成と共有を行い、発生した状況、取った対応、結果などを詳細に記録します。
この報告は、同様のインシデントの再発防止や、他のスタッフへの注意喚起のために非常に重要です。
また、心理的影響についても報告することが大切です。
危険な状況を経験した後の心理的ストレスや不安について、上司やメンタルヘルス担当者に相談することで、二次的なトラウマを防ぐことができます。
組織全体で事例を共有し、学びとして活かすことが、訪問活動の安全性向上につながります。
「危険を感じたら迷わず退去する。
これは臆病ではなく、プロフェッショナルとしての判断です。
自分の安全を確保することが、長期的には対象者への良質なケア提供につながるのです」(B訪問看護ステーション 管理者)
緊急対応の準備:いざという時のために

どれだけ予防策を講じても、緊急事態が発生する可能性はゼロにはなりません。
そのため、緊急時の対応手順を確立し、訓練しておくことが重要です。
本セクションでは、訪問活動中に起こりうる緊急事態に備えるための具体的な準備と対応方法について解説します。
緊急対応プロトコルの整備
緊急時に冷静かつ迅速に対応するためには、あらかじめ緊急対応プロトコル(手順書)を整備しておくことが不可欠です。
明確なプロトコルがあれば、パニック状態でも適切な判断と行動ができるようになります。
緊急連絡体制
緊急時の連絡体制は、安全管理の要となります。
連絡順序と手段の明確化として、まず誰に、どのような手段で連絡するかを明確にしておく必要があります。
例えば「まず所属機関の緊急連絡先に電話する」「連絡がつかない場合は直属の上司の携帯電話に連絡する」といった具体的な順序を決めておきます。
また、危険度に応じた連絡先(軽度なら上司、重度なら警察など)も設定しておくと良いでしょう。
緊急連絡先カードの携帯も有効です。
所属機関の代表番号、直属上司の連絡先、警察・消防の番号、最寄りの医療機関など、緊急時に必要な連絡先をカード化して常に携帯します。
このカードは防水加工を施し、スマートフォンのバッテリー切れなどの事態にも対応できるよう、紙媒体で持っておくことをお勧めします。
ホットラインの設置も検討すべきです。
特にリスクの高い訪問を行う場合は、緊急時専用のホットラインを設置することも効果的です。
このホットラインは常に誰かが対応できる体制を整え、SOS信号を受けたらすぐに対応できるようにしておきます。
複数の保健師が同時に訪問活動を行っている場合は、交代制でホットライン当番を設けることも考えられます。
SNSやメッセージアプリのグループ活用も現代的な方法です。
LINEやSlackなどのメッセージアプリを活用し、訪問スタッフ間の連絡グループを作成しておくと、迅速な情報共有が可能になります。
位置情報共有機能を活用すれば、緊急時に仲間の居場所を即座に特定することもできます。
ただし、個人情報保護の観点から、これらのツールの使用ルールを明確にしておくことが必要です。
緊急時行動マニュアル
状況別の対応手順を明確にしておくことも大切です。
暴力行為に遭遇した場合、精神状態が不安定な対象者に遭遇した場合、感染症の疑いがある場合など、想定される様々な状況に対する具体的な対応手順を文書化しておきます。
特に初動対応(最初の10分間の行動)を具体的に示しておくことが重要です。
定期報告がない場合の確認手順も定めておきましょう。
例えば「訪問開始から2時間経過しても連絡がない場合は電話で確認」「電話に出ない場合は訪問先に連絡」「それでも連絡がつかない場合は訪問先へ向かう」といった段階的な確認手順を決めておきます。
これにより、トラブルの早期発見と迅速な対応が可能になります。
暴力・脅迫時の対応も明確にしておく必要があります。
基本的には「自分の安全を最優先に確保する」「挑発に乗らない」「できるだけ冷静に対話を試みる」「退路を確保しながら段階的に対応する」といった原則を確認しておきます。
また、護身術の基本(相手との距離の取り方、防御姿勢など)についても研修を通じて学んでおくことが望ましいでしょう。
救急要請の判断基準も明確にしておくべきです。
対象者の急変時や事故発生時など、いつ救急要請(119番通報)すべきかの判断基準を具体的に示しておきます。
例えば「呼びかけに反応がない」「呼吸が困難そう」「出血が止まらない」などの状況別の判断基準を設定しておくと、緊急時の迷いが少なくなります。
位置情報の共有
GPSトラッキングアプリの活用は現代の安全対策として効果的です。
スマートフォンの位置情報共有機能やGPSトラッキングアプリを活用し、訪問中の保健師の位置を所属機関で把握できるようにします。
「Find My」(iPhone)や「デバイスを探す」(Android)などの標準機能や、専用の位置追跡アプリを活用することができます。
定期的な位置報告システムの導入も考えられます。
例えば「訪問開始時」「訪問中30分ごと」「訪問終了時」に位置情報を共有するシステムを構築します。
自動で位置情報を送信するアプリもありますが、手動での報告を組み合わせることで、保健師自身の安否も確認できるようになります。
スマートウォッチのSOS機能も最近の有効なツールです。
多くのスマートウォッチには緊急SOS機能が搭載されており、特定のボタン操作で緊急連絡先に通知を送ることができます。
操作が目立たないため、緊張した状況でも周囲に気づかれることなくSOSを発信できる利点があります。
機能の使い方を十分に練習しておくことが重要です。
車両位置管理システムの導入も検討価値があります。訪問に公用車を使用する場合は、車両位置管理システムの導入も効果的です。
GPS機能付きのドライブレコーダーや車載型位置追跡装置を活用すれば、車両の現在位置をリアルタイムで把握することができます。
これにより、緊急時の応援派遣もスムーズに行えるようになります。
警察との連携
高リスク訪問の事前相談は有効な予防策です。
暴力歴のある対象者や、精神状態が不安定な対象者への訪問を計画している場合は、事前に地域の警察署に相談しておくことが効果的です。
訪問予定日時と場所を伝えておくことで、万が一の際の警察の対応がスムーズになります。
ただし、個人情報保護に配慮した相談方法を検討する必要があります。
緊急時の迅速な協力体制も構築しておきましょう。
地域の警察署と「訪問活動中の緊急対応に関する協定」などを結んでおくと、緊急時の連携がスムーズになります。
特に、精神疾患がある方への対応など、専門的な知識が必要なケースでは、警察と保健師がどのように連携するかを事前に協議しておくことが重要です。
合同訓練の実施も連携強化に役立ちます。
年に1~2回程度、警察や消防と合同で緊急対応訓練を実施することで、実際の緊急時の連携がスムーズになります。
特に、精神疾患による興奮状態への対応や、暴力行為への介入など、専門性が求められる場面での訓練は非常に有益です。
訓練を通じて、お互いの役割分担や連絡方法を確認しておくことが大切です。
地域警察との関係構築も日常的に行っておくべきです。
日頃から地域の交番や駐在所と良好な関係を築いておくことで、緊急時の連携がスムーズになります。
定期的な挨拶回りや、地域の防犯会議への参加などを通じて、顔の見える関係を構築しておくと良いでしょう。
特に、担当区域の警察官とは、連絡先を交換しておくことが望ましいです。
緊急対応訓練の実施
実際の緊急事態に冷静に対応するためには、定期的な訓練が欠かせません。
訓練を通じて対応手順を体に染み込ませることで、実際の場面でも適切に行動できるようになります。
シミュレーション訓練
様々なシナリオに基づいたロールプレイは効果的な訓練方法です。
「暴言・暴力に遭遇した場合」「対象者が急変した場合」「感染症の疑いがある場合」など、想定される様々な状況を設定し、実際にロールプレイ形式で対応訓練を行います。
訓練後は必ず振り返りを行い、改善点を共有することが重要です。
現実的な状況設定も訓練効果を高めます。
訓練は、できるだけ実際の訪問先に近い環境で実施することが効果的です。
例えば、実際の住宅や模擬的な訪問環境を設定し、家具のレイアウトや出入り口の位置なども実際に近い状態で訓練を行います。
また、時間帯(夜間など)や天候(雨天時など)による対応の違いも考慮した訓練が望ましいでしょう。
段階的な訓練実施も効果を高めます。
最初は基本的な状況から始め、徐々に複雑な状況設定に移行していくことで、スキルを段階的に向上させることができます。
また、個人訓練からチーム訓練へと発展させることで、個人の対応力とチームの連携力の両方を高めることができます。
専門家の指導の下での訓練も有効です。
警察官、救急救命士、精神科医、臨床心理士など、各分野の専門家を講師として招き、専門的な視点からの指導を受けることが効果的です。
特に、de-escalation(興奮状態の沈静化)技術や、危機介入の方法については、専門家からの指導が非常に有益です。
通報訓練
実際の通報システムを使用した訓練も重要です。
緊急時の119番通報や110番通報の訓練を実施します。
通報時に伝えるべき情報(場所、状況、対象者の状態など)を整理し、簡潔かつ正確に伝える練習を行います。
実際の緊急ダイヤルではなく、訓練用の電話番号を設定して実施することもできます。
通報時の会話例も用意しておくと良いでしょう。
「訪問先で暴力行為があった場合」「対象者が急変した場合」など、想定される状況別に通報時の会話例をあらかじめ作成しておきます。
これにより、緊急時のパニック状態でも必要な情報を漏れなく伝えることができるようになります。
実際の会話例を基にしたロールプレイ訓練も効果的です。
通報後の対応も訓練に含めます。
通報後、警察や救急隊が到着するまでの間にすべきことや、到着後の情報提供の方法なども訓練に含めると良いでしょう。
例えば、「現場の安全確保の方法」「救急隊への引き継ぎ方法」「警察への状況説明の仕方」などを具体的に練習しておくことが重要です。
避難訓練
様々な状況下での安全確保と避難の訓練も必要です。
訪問先から安全に避難する方法を訓練します。
「最も近い出口はどこか」「どのルートで退避するか」「避難後どこに向かうか」などを確認し、実際に歩いて確認する訓練が効果的です。
特に、高層階からの避難や、夜間の避難など、特殊な状況での訓練も取り入れると良いでしょう。
様々な障害物を想定した訓練も有効です。
実際の緊急時には、家具や物が散乱していたり、停電で暗かったりする可能性もあります。
そうした状況を想定し、障害物がある中での避難訓練や、暗闇での避難訓練なども実施すると、実践的なスキルが身につきます。
訓練後の振り返りでは、より安全で効率的な避難方法を検討します。
集合場所と安否確認方法の確認も含めておきましょう。
避難後の集合場所と安否確認方法も訓練に含めます。
例えば、「最寄りの公共施設に集合」「所属機関に電話で安否報告」といった具体的な手順を確認し、実際に訓練で実施します。
複数人での訪問の場合は、互いの安否確認方法も確立しておくことが重要です。
F市保健センターの事例: F市保健センターでは、年2回の緊急対応訓練を実施しています。
実際の訪問先で起こりうる様々なシナリオを設定し、保健師がロールプレイで対応することで、実践的なスキルを身につけています。
また、警察や消防とも連携し、合同訓練を行うことで、緊急時の連携をスムーズにする工夫をしています。
特に効果的だったのは、実際の訪問ケースを匿名化したシナリオを使用した訓練です。
現実に起こりうる状況に基づいた訓練により、保健師のリスク対応能力が大幅に向上し、訪問活動中のインシデント発生率が30%減少したとの成果が報告されています。
体制整備の推進:組織的な安全管理

個人の対策だけでなく、組織としての体制整備も安全確保には不可欠です。
安全文化を醸成し、継続的な改善を図るための体制づくりを進めることで、保健師の訪問活動全体の安全レベルを高めることができます。
本セクションでは、効果的な組織的安全管理体制の構築方法について解説します。
組織的な安全管理体制
訪問活動の安全を確保するためには、組織全体で取り組む体制を整備することが重要です。
個人の努力だけでは限界があり、組織としての方針や仕組みを確立することで、持続的な安全確保が可能になります。
安全管理委員会の設置
定期的な会議の開催は安全管理の基本です。
月に1回程度、安全管理委員会を開催し、訪問活動の安全に関する課題や対策を協議します。
委員会のメンバーには、管理職だけでなく現場の保健師も含め、実践的な視点からの意見を取り入れることが重要です。
事例検討と対策立案も委員会の重要な役割です。
実際に発生したインシデントや、ヒヤリハット事例を取り上げ、詳細に分析します。
「何が起きたのか」「なぜ起きたのか」「どうすれば防げたのか」という視点で検討し、再発防止策を立案します。
マニュアルの定期的見直しも欠かせません。
安全管理マニュアルは作成して終わりではなく、定期的(少なくとも年1回)に見直し、最新の状況や知見を反映させる必要があります。
特に法改正や新たな安全対策技術の導入など、外部環境の変化に応じた更新が重要です。
報告・記録システムの整備
インシデント報告書の標準化は重要な第一歩です。
インシデントが発生した際の報告書式を標準化し、必要な情報が漏れなく記録できるようにします。
報告書には、発生日時、場所、関係者、事象の詳細、取った対応、結果などを明記できるようにします。
ヒヤリハット事例の収集も積極的に行うべきです。
実際の事故やインシデントだけでなく、「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたりした体験も、貴重な学びの素材になります。
これらの事例を積極的に収集するため、報告しやすい雰囲気づくりや、報告者を表彰するなどの仕組みを取り入れることも効果的です。
データベース化と分析も有効です。
収集した報告書をデータベース化し、傾向分析を行います。
例えば、「どの時間帯に多いか」「どのような対象者に多いか」「どのような種類のインシデントが多いか」といった多角的な分析を行うことで、効果的な予防策の立案につなげることができます。
サポート体制の確立
メンタルヘルスケアは安全管理の重要な側面です。
訪問活動におけるトラウマ体験や日常的なストレスに対応するためのメンタルヘルスケア体制を整備します。
定期的なストレスチェックの実施、専門家への相談体制の確立、ストレス対処法に関する研修など、多層的なサポート体制が効果的です。
スーパービジョンの実施も有効です。
経験豊富な保健師やスーパーバイザーによる定期的なスーパービジョンを実施し、訪問活動における困難事例や安全上の懸念について相談できる場を設けます。
個別スーパービジョンとグループスーパービジョンを組み合わせることで、個々の課題に対応しつつ、集合知による解決策の探索も可能になります。
ピアサポートグループの形成も効果的です。
同じような経験や課題を持つ保健師同士が支え合うピアサポートグループを形成します。
定期的な集まりを持ち、日常の悩みや対処法を共有することで、心理的支援と実践的なノウハウの両方を得ることができます。
継続的な教育・研修
新人研修プログラムは安全教育の基盤です。
新任保健師に対しては、訪問活動の安全に関する基本研修を必ず実施します。
座学だけでなく、ロールプレイや実地研修を通じて、実践的なスキルを身につけるプログラムを設計します。
定期的な安全研修は全職員に必要です。
全ての保健師を対象に、年2〜3回程度の安全研修を実施します。
最新の安全対策技術や、法律・制度の変更点、新たに明らかになったリスク要因などについて学ぶ機会を設けます。
外部講師を招いての専門研修や、他機関との合同研修なども効果的です。
ケーススタディによる学習も深い理解を促します。
実際に発生したインシデント事例や、他機関での事例を基にしたケーススタディを用いた学習を取り入れます。
「あの時、どうすれば良かったか」を多角的に検討することで、実践的な対応力を高めることができます。
安全文化の醸成
組織全体で安全意識を高めるための取り組みも重要です。
安全文化とは、組織の一人ひとりが安全を最優先する価値観と行動様式を共有している状態を指します。
安全優先の価値観共有
安全を最優先する組織理念の明確化は基本です。
「安全なくして質の高いケアなし」という価値観を組織理念として明確に打ち出し、あらゆる場面で繰り返し伝えることが重要です。
理念は単なる掲示物やスローガンではなく、日々の意思決定や行動の指針として実際に機能するものでなければなりません。
オープンなコミュニケーション
懸念や問題を自由に話し合える風土づくりも不可欠です。
保健師が安全上の懸念や問題点を躊躇なく報告し、話し合えるオープンなコミュニケーション文化を醸成します。
定期的なケースカンファレンスや安全ミーティングを開催し、現場の声を積極的に拾い上げる仕組みを作ります。
「組織の安全文化は一朝一夕には築けません。
日々の小さな取り組みの積み重ねが、最終的に強固な安全基盤を形成します。
特に重要なのは、トップダウンとボトムアップの双方向のアプローチです」(C保健センター 所長)
実践的な安全確保モデル:SAFER訪問アプローチ

ここまでご紹介した内容を踏まえ、訪問活動における安全確保のための独自モデル「SAFER訪問アプローチ」をご提案します。
このモデルは、リスク分析から実際の訪問、事後評価まで、一連の流れを体系化したものであり、どのような訪問活動にも応用可能な実践的なフレームワークです。
日々の訪問活動に取り入れることで、安全レベルを段階的に向上させることができます。
SAFERモデルの概要
SAFERモデルは、訪問活動における安全確保のために開発された包括的なアプローチです。
頭文字をとって「SAFER(セイファー)」と名付けられたこのモデルは、保健師が訪問活動を行う際の安全確保のための実践的なガイドラインとなります。
Sの要素:Survey(調査・分析)
Survey(調査・分析)は、訪問前の重要なステップです。
事前情報収集とリスク分析を丁寧に行うことで、訪問先の潜在的なリスクを把握し、適切な対策を準備することができます。
具体的には、過去の訪問記録を確認し、対象者の特性や過去の訪問における特記事項を把握します。
また、他の医療・福祉専門職からの情報も収集し、多角的な視点からリスクを評価します。
訪問先の環境評価も調査の重要な要素です。
訪問先の住環境や周辺地域の特性を事前に把握することで、移動中や訪問先での物理的リスクを予測することができます。
特に初めて訪問する地域の場合は、地図アプリなどを活用して道順や周辺環境をあらかじめ確認しておくことが重要です。
過去の訪問記録の確認は、継続事例においては特に重要です。
過去の訪問でどのような対応が効果的だったか、あるいは難しかったかという情報は、次回訪問の安全確保に直結します。
記録には、対象者の反応や言動の特徴、コミュニケーション上の注意点なども含めておくと、より効果的です。
Aの要素:Arrange(準備・手配)
Arrange(準備・手配)は、調査・分析の結果に基づいて具体的な準備を行うステップです。
訪問計画の立案では、訪問の目的、時間、場所、所要時間などを明確にし、効率的かつ安全な訪問ルートを設計します。
リスク評価に基づいて、単独訪問か複数人訪問かを決定し、必要に応じて同行者の手配も行います。
必要なリソースの確保も重要です。
訪問に必要な書類、医療・保健用具、防犯グッズ、感染対策用品などを準備します。
特に高リスクと評価された訪問先には、防犯ブザーや通信機器の予備バッテリーなど、追加の安全対策グッズを用意することも考慮します。
季節や天候に応じた装備(日傘、防寒具など)も忘れてはいけません。
連絡体制の確認も準備段階で行います。
緊急時の連絡先リストを更新し、報告のタイミングと方法を確認します。
例えば「訪問開始時、終了時に事務所に連絡する」「2時間以上経過したら確認の連絡が入る」などのルールを明確にしておきます。また、位置情報共有アプリの設定確認も行っておくと安心です。
Fの要素:Follow(手順遵守)
Follow(手順遵守)は、実際の訪問時に標準的な安全手順を遵守することの重要性を強調しています。
標準的な訪問手順の遵守として、訪問先での一連の行動(周囲の確認、身分証明書の提示、室内での位置取りなど)を標準化し、どの訪問でも同じ手順で行うことで、安全確保の習慣化を図ります。
これにより、緊急時でも冷静な判断と行動が可能になります。
安全チェックリストの活用も効果的です。
訪問前、訪問中、訪問後に確認すべき安全事項をチェックリスト化し、それに沿って確認を行います。
例えば、訪問前には「緊急連絡先の確認」「バッテリー残量の確認」などをチェックし、訪問中は「出口の位置確認」「危険物の有無確認」などをチェックします。
チェックリストは携帯しやすいカードサイズにすると良いでしょう。
定期的な状況報告も安全確保の鍵です。
訪問開始時と終了時には必ず所属機関に報告し、長時間の訪問の場合は途中経過も報告します。
これにより、万が一のトラブル発生時に早期発見・早期対応が可能になります。
ただし、報告の方法は対象者のプライバシーに配慮し、個人情報が漏れないよう注意することが重要です。
Eの要素:Emergency Plan(緊急計画)
Emergency Plan(緊急計画)は、万が一の事態に備えた準備です。
緊急時対応手順の確認として、訪問前に「もし危険を感じたらどうするか」「対象者が急変したらどうするか」などの緊急時の対応手順を頭の中で確認しておきます。
特に初めての訪問先や高リスクと評価された訪問先では、具体的なシナリオをイメージしておくことが重要です。
退避ルートの確保も欠かせません。
訪問先に到着したら、まず出口の位置を確認し、緊急時にどのルートで退避するかを把握しておきます。
室内では出口に近い位置に座り、いつでも退避できる体勢を保ちます。
複数の出口がある場合は、それぞれのルートを把握しておくことが望ましいでしょう。
支援要請の方法も明確にしておきます。
危険を感じた場合にどのように応援を要請するか、具体的な連絡方法(電話、メッセージ、コードワードなど)を確認しておきます。
スマートフォンの緊急通報機能やSOS機能の使い方も事前に練習しておくことが重要です。
緊急時には冷静な判断が難しくなるため、シンプルで確実な方法を選びましょう。
Rの要素:Review(振り返り)
Review(振り返り)は、訪問後に行う重要なステップです。
訪問後の振り返りでは、訪問中に気づいたリスク要因や安全上の懸念点を記録し、次回の訪問に活かします。
「対象者の様子で気になる点はあったか」「環境面で新たなリスク要因はなかったか」などを振り返ることで、リスクアセスメントの精度を高めることができます。
改善点の特定と共有も大切です。
訪問中に感じた不安や対応に迷った点などを振り返り、より良い対応方法を検討します。
これらの気づきはチーム内で共有し、組織全体の安全対策の向上につなげることが重要です。
定期的なケースカンファレンスやチームミーティングの場で、安全に関する気づきを共有する時間を設けると良いでしょう。
次回訪問への反映は振り返りの重要な目的です。
振り返りで得られた気づきや改善点を、次回の訪問計画に具体的に反映させます。
例えば、「次回は午前中の訪問に変更する」「複数人で訪問する」「具体的な声かけの方法を工夫する」など、具体的な行動計画として落とし込むことが重要です。
この継続的な改善サイクルが、訪問活動の安全レベルを段階的に向上させます。
SAFERモデルの実践例
D県の訪問保健師チームでは、SAFERモデルを活用し、訪問活動の安全性を大幅に向上させました。
具体的な取り組みについてご紹介します。
訪問前の取り組み
訪問前の取り組みとして、全訪問に対してSurveyとArrangeを実施し、リスクレベルに応じた準備を行っています。
D県では、訪問前のリスク評価シートを標準化し、過去の訪問記録や他の支援者からの情報を基に、多角的なリスク評価を行います。
評価結果は赤(高リスク)、黄(中リスク)、緑(低リスク)の3段階で視覚化し、チーム全体で共有しています。
高リスク訪問には必ず複数名での対応を原則とし、必要に応じて警察や精神保健福祉士との連携も行っています。
また、すべての訪問予定をデジタルマップ上で管理し、訪問ルートの最適化と共有を図っています。
これにより、緊急時の応援体制もスムーズになりました。
訪問中の安全確保
訪問中の安全確保策として、Followの要素を徹底し、2時間ごとの定時連絡を実施しています。
D県では、スマートフォンアプリを活用した位置情報共有と定時連絡システムを導入し、訪問中の保健師の安全を常に確認できる体制を整えています。
また、訪問中の安全確認用チェックリストをカードサイズにまとめ、すべての保健師が携帯しています。
このカードは訪問の各段階(到着時、室内入室時、退出時)で確認すべき項目をシンプルにまとめたもので、安全行動の習慣化に役立っています。
緊急時の対応
緊急時の対応としては、Emergency Planに基づき、コードワードを使った支援要請システムを導入しています。
例えば、「赤いファイルを持ってきてください」というコードワードを電話で伝えることで、危険な状況であることを事務所に知らせることができます。
このコードワードを受けた事務所は、すぐに警察への通報や応援の派遣など、適切な対応を取ります。
また、すべての保健師にパーソナル防犯アラームを配布し、緊急時の自己防衛と周囲への注意喚起ができるようにしています。
訪問用の公用車には、GPS機能付きのドライブレコーダーを設置し、車両の位置と状況をリアルタイムで把握できるようにしています。
訪問後の評価と改善
訪問後の取り組みとしては、すべての訪問後にReviewを実施し、気づきや改善点を記録しています。
特に高リスク訪問後は、チームでの振り返りミーティングを行い、多角的な視点から安全対策の評価と改善を図っています。
また、月に1回の安全対策会議では、収集された気づきや改善点を組織全体で共有し、マニュアルや研修内容の更新に活かしています。
こうした継続的な改善サイクルにより、D県では訪問に関するインシデント報告が前年比30%減少し、保健師の安全意識も向上しています。
「SAFERモデルを導入してから、スタッフ一人ひとりの安全意識が高まり、”何となく不安”だった感覚を具体的なリスク要因として言語化できるようになりました。
特に若手保健師からは、明確な行動指針があることで訪問への不安が軽減されたという声が多く聞かれます」(D県保健師長)
保健師の実体験に基づくコラム

訪問活動における安全確保の重要性を理解するためには、実際の現場で保健師が経験した事例から学ぶことが非常に有効です。
本セクションでは、現役保健師の実体験に基づいたコラムを通して、訪問活動における危険と安全対策について、より実践的な視点からお伝えします。
これらの経験談は、同様の状況に直面する可能性のある保健師の皆さんにとって、貴重な学びとなるでしょう。
「予兆を見逃さない大切さ」 G市保健センター 保健師 Hさん(経験年数15年)
私が忘れられないのは、精神疾患を持つ40代男性への訪問事例です。
この方は統合失調症の診断を受けていましたが、薬の自己中断を繰り返し、定期的な見守り訪問を行っていました。
ある日の訪問時、いつもと違う様子に気づきました。
部屋の片付けが普段以上に行き届いていたのです。
統合失調症の方が極端に部屋を片付けるのは、何か特別なことが起こる前兆であることがあります。
更に気になったのは、台所のナイフが目につく場所に置かれていたことです。
これらの「いつもと違う」サインを見て、私は直感的に危険を感じました。
通常なら30分程度の訪問予定でしたが、「今日は他の訪問があるので」と言い訳をして15分ほどで切り上げました。
後日分かったことですが、その方は私の訪問の数時間後に急性増悪状態となり、近隣住民とのトラブルで警察が介入する事態になったのです。
この経験から学んだのは、「いつもと違う」という微細な変化を見逃さないことの重要性です。
現在では、訪問前に過去の記録を丁寧に確認し、前回との違いを意識的に観察するようにしています。
また、違和感を感じたらその場で無理をせず、安全第一で行動することの大切さも実感しました。
直感や「なんとなくの不安」を軽視せず、むしろ重要なサインとして捉える姿勢が、私の安全確保の基本となっています。
「チームの支えが命を守る」 I県保健所 保健師 Jさん(経験年数8年)
私が危険を感じた最も怖い経験は、ある引きこもり世帯への初回訪問でした。
事前情報では「父親がやや協力的ではない」という程度でしたが、実際に訪問すると、父親は明らかに酩酊状態で、私が息子の話題に触れた途端、激しい怒りを表出し始めました。
テーブルを叩きながら近づいてくる父親に、身の危険を感じました。
幸い、私たちの保健所では「2時間ごとの定時連絡」というルールを設けており、ちょうどその時間になっていました。
私は事前に決めていたコードワード「赤いファイルの件で確認したいことがあります」を電話で伝えることができました。
このコードワードは「危険を感じているので応援が必要」という意味です。
その後すぐに「急ぎの対応が必要になったので中断させてください」と伝え、何とか退去することができました。
驚いたのは、私が事務所に戻る前に、上司と同僚が既に私の訪問先近くまで車で向かっていたことです。
更に、地域の交番にも連絡が入れられていました。
このチームの迅速な対応に、本当に救われた思いでした。
この経験から、一人で抱え込まず、チームで対応する体制の重要性を痛感しました。
現在では、訪問前のリスク評価を徹底し、少しでも危険が予測される場合は最初から複数人で訪問するようにしています。
また、定時連絡とコードワードの取り決めは、全ての訪問で欠かさず実施しています。
組織的な安全管理体制があったからこそ、私は今も保健師として活動を続けられているのだと思います。
「現場での実体験から学ぶことは、どんな教科書よりも価値があります。
一人ひとりの経験を共有し、組織の知恵として蓄積していくことが、私たち保健師の安全を高める最も確かな方法だと信じています」(K総合病院 地域連携部長 保健師)
地域別の特徴やリスク対応の違い

保健師の訪問活動におけるリスクは、活動する地域の特性によって大きく異なります。
都市部、郊外、農村部、山間部など、それぞれの地域には固有の特徴とリスク要因があり、それに応じた安全対策が必要です。
本セクションでは、地域特性に応じたリスク要因とその対応策について解説し、地域の実情に合わせた安全確保の方法を考えます。
都市部における特徴と対応策
都市部での訪問活動には、独自のリスクと課題があります。
高層集合住宅が多く、エレベーターや共用部分でのトラブルリスクがあるのが特徴です。
エレベーター内での閉じ込めリスクや、見知らぬ人との遭遇機会が多いため、常に周囲に注意を払う必要があります。
また、訪問先の特定が難しい場合もあり、事前に詳細な住所情報(部屋番号、棟番号など)を確認することが重要です。
人口密度が高いため、プライバシーへの配慮も重要な要素です。
訪問時の身分証明書の提示や、訪問目的の明確な説明が特に重要となります。
また、都市部では交通渋滞による移動時間の予測が難しいため、余裕を持ったスケジュール設定が必要です。
駐車場の確保も課題となるため、公共交通機関の活用や、事前の駐車場情報の確認が有効です。
L市保健センターでは、都市部特有のリスクに対応するため、GPS機能付きのスマートフォンアプリを全保健師に導入し、リアルタイムの位置情報共有を実施しています。
また、高層住宅での訪問には「エレベーター・チェックリスト」を作成し、安全確認のポイントを標準化しています。
郊外・農村部における特徴と対応策
郊外や農村部では、移動距離が長く、住宅が点在しているため、訪問効率と安全確保のバランスが課題です。
携帯電話の電波が不安定な地域もあり、通信手段の確保が重要となります。
また、季節や天候による道路状況の変化も大きいため、天候に応じた訪問計画の見直しや、四輪駆動車の活用などの対策が必要です。
地域コミュニティのつながりが強い特徴を活かし、地域の民生委員や自治会長など、キーパーソンとの連携が効果的です。
これにより、訪問先の情報を事前に得たり、必要に応じて同行訪問の協力を得たりすることができます。
また、動物(特に放し飼いの犬)によるリスクも考慮し、事前に飼育状況を確認することが重要です。
M県の農村地域では、訪問前に地域の駐在所や消防団との情報共有を徹底し、緊急時の協力体制を構築しています。
また、オフライン対応可能なGPSトラッキングデバイスを導入し、電波状況に関わらず位置情報を記録できるようにしています。
山間部・離島における特徴と対応策
山間部や離島では、アクセスの困難さと孤立のリスクが顕著です。
道路状況の悪化や、災害時の孤立リスクを考慮した訪問計画が必要です。
特に冬季の積雪地域では、訪問ルートの再検討や、スノータイヤ・チェーンの装備、防寒対策などが不可欠となります。
通信手段の確保も重要な課題です。
携帯電話が通じない地域では、衛星電話や無線機などの代替手段を検討します。
また、一日の訪問件数を少なめに設定し、余裕を持ったスケジュールを組むことで、移動中のトラブルにも対応できるようにします。
燃料の残量確認や、非常食・飲料水の携行も山間部訪問の基本です。
N町の保健師チームでは、山間部訪問専用の安全キットを作成し、すべての公用車に配備しています。
このキットには、非常食、水、簡易トイレ、防寒具、モバイルバッテリー、救急用品などが含まれており、車両故障や道路閉鎖などで孤立した場合にも対応できるようになっています。
また、悪天候が予想される日の訪問は原則中止とし、電話での対応に切り替えるなどの柔軟な対応を行っています。
「地域特性を理解し、それに応じた安全対策を講じることは、保健師の基本スキルです。
特に地域によって異なるリスク要因を把握し、先手を打つことで、多くの危険を回避することができます」(O大学 地域看護学教授)
おしえてカンゴさん!Q&A
保健師の訪問活動における安全確保について、現場での疑問や不安に「カンゴさん」がお答えします。
この Q&A セクションでは、訪問活動に携わる保健師から寄せられる具体的な質問に対して、経験豊富な「カンゴさん」が実践的なアドバイスを提供します。
現場で直面する可能性のある様々な状況に対する対応策を知ることで、より安全で効果的な訪問活動を行うための参考にしてください。
Q1:訪問時に、予想外の暴言や威嚇行為を受けた場合、どのように対応すべきですか?
カンゴさん:まず、自分の安全を最優先に考えましょう。
相手と距離を取り、姿勢を低くして威圧感を与えないようにします。
穏やかな口調で「お気持ちはわかります」など共感の言葉を使い、必要なら「また改めて伺います」と言って退去するのが賢明です。
退去後は必ず上司に報告し、次回の訪問方法を検討してください。
相手の怒りが強い場合は、無理に説得せず、安全な退去を優先しましょう。
また、暴言の内容が脅迫に当たる場合や、身の危険を感じるレベルであれば、警察への相談も検討する必要があります。
このような経験をした後は、精神的なショックを軽視せず、同僚や上司と話し合うなど、自身のケアも大切にしてください。
次回訪問時には複数人で訪問するなど、安全体制を強化することをお勧めします。
Q2:一人暮らしの高齢者宅を訪問する際、特に注意すべき安全対策はありますか?
カンゴさん:高齢者宅訪問では、まず環境面のリスクに注意が必要です。
転倒リスクに注意し、床の状態やケーブル類の配置などを確認し、安全な動線を確保しましょう。
また、認知症などにより予測不能な行動がある場合は、事前に家族や前任者から情報を得ておくことが重要です。
訪問時間は日中に設定し、必ず訪問予定を職場に残しておきましょう。
緊急時のために、対象者の親族や近隣の支援者の連絡先も把握しておくことをお勧めします。
また、孤立した高齢者宅では、突然の体調変化や転倒などの緊急事態に遭遇する可能性があるため、基本的な救急対応の準備も重要です。
高齢者の中には、訪問者に対して警戒心が強い方もいらっしゃいます。
身分証明書の提示と訪問目的の丁寧な説明を心がけ、信頼関係を築くための時間を大切にしましょう。
また、定期訪問の場合は、できるだけ同じ保健師が担当することで、安心感を提供することも効果的です。
Q3:訪問時に感染症のリスクを最小限に抑えるためには、どのような対策が効果的ですか?
カンゴさん:基本的な感染対策として、マスク着用、手指消毒、使い捨て手袋の携帯が必須です。
訪問前後の手洗いも徹底しましょう。
訪問バッグは床に直接置かず、使い捨てのシートを敷くなどの工夫も効果的です。
感染症の疑いがある家庭を訪問する場合は、N95マスクやガウンなど適切な防護具を着用し、訪問後は衣服の交換や消毒を行うことが重要です。
また、感染リスクの高い訪問の場合は、できるだけ訪問時間を短くし、対象者との距離を適切に保つよう心がけましょう。
車での移動時にも感染対策を忘れずに行います。
複数人で車に乗る場合は換気を良くし、共用部分の消毒を定期的に行いましょう。
また、訪問スケジュールを組む際には、感染リスクの高い訪問と低い訪問を同日に行う場合、リスクの低い訪問から高い訪問へと順序を組むことをお勧めします。
定期的に自身の健康状態をチェックし、体調不良時は無理に訪問せず、代替手段を検討しましょう。
感染症の流行期には、可能であれば電話やオンライン面談に切り替えることも検討すべきです。
Q4:単独訪問が避けられない場合、安全を確保するための効果的な方法はありますか?
カンゴさん:単独訪問が必要な場合は、まず訪問前の準備を徹底しましょう。
GPSトラッキング機能付きの携帯電話を常に携帯し、定期連絡のルールを設定します。
例えば「訪問開始と終了時に必ず事務所に連絡する」「2時間以上連絡がない場合は確認の連絡をする」などのルールを決めておくと良いでしょう。
また、いつでも助けを求められるよう、防犯ブザーや緊急通報アプリを活用することも効果的です。
訪問先での滞在時間を事前に伝えておき、予定より長引く場合は必ず連絡を入れる習慣をつけましょう。
リスクアセスメントを慎重に行い、高リスクと判断される訪問先への単独訪問は避けるべきです。
どうしても訪問が必要な場合は、訪問時間を短くする、公共の場所での面談に変更するなどの工夫を検討しましょう。
また、訪問ルートを事前に計画し、安全な経路を選ぶことも重要です。
単独訪問の際は、直感を大切にしましょう。
少しでも危険を感じたら躊躇せずに退去し、後から複数人での訪問に切り替えるなど、柔軟な対応を心がけることが重要です。
Q5:訪問後に精神的なストレスを感じる場合、どのようなケアが有効ですか?
カンゴさん:訪問活動によるストレスケアは非常に重要です。
まず、同僚や上司との定期的なデブリーフィング(振り返り)の機会を持ちましょう。
困難事例について話し合い、感情を共有することで精神的負担が軽減されます。
専門的なサポートとして、定期的なスーパービジョンやカウンセリングの活用も効果的です。
特に、トラウマ的な事例に関わった後は、専門家のサポートを受けることをためらわないでください。
また、ピアサポートグループでの経験共有も、孤立感の軽減に役立ちます。
ワークライフバランスを意識し、趣味や運動など自分をリフレッシュする時間を意識的に確保することも大切です。
ストレス軽減のための自己ケア方法(深呼吸、マインドフルネス、アロマテラピーなど)を身につけ、日常的に実践することもお勧めします。
組織としてもメンタルヘルスケアの研修や相談窓口の設置など、支援体制を整えることが求められます。
個人の努力だけでなく、組織的なサポートがあることで、持続可能な訪問活動が可能になります。
Q6:訪問先で予期せぬ緊急事態(対象者の急変など)に遭遇した場合の対応手順は?
カンゴさん:まず冷静な判断が必要です。
対象者の急変の場合、必要に応じて救急要請(119番)を最優先します。
その際、住所や状況を明確に伝え、可能な応急処置を行いましょう。
同時に所属機関にも連絡し、支援を要請します。
訪問先での急変対応に備えて、基本的な救命講習を受けておくことも重要です。
特に、心肺蘇生法やAEDの使用方法、窒息時の対応など、緊急時に必要な基本スキルを習得しておくと、自信を持って対応できます。
対象者の急変だけでなく、自然災害や火災など、様々な緊急事態を想定した対応策を事前に考えておくことも大切です。
訪問地域のハザードマップを確認し、避難経路や避難場所を把握しておきましょう。
また、緊急事態発生後は必ず詳細な記録を残し、事後カンファレンスで振り返りを行うことで、今後の対応改善につなげましょう。
記録には時系列での対応内容、連絡した相手と時間、取った措置などを詳細に記載することが重要です。
Q7:新型感染症の流行期における訪問活動の安全確保策は?
カンゴさん:感染症流行期には、まず訪問の必要性を再評価し、可能なら電話やオンラインでの対応に切り替えることを検討しましょう。
訪問が必要な場合は、事前に対象者の健康状態を電話で確認し、感染リスクを評価します。
訪問時は標準予防策に加え、状況に応じた追加の防護具(フェイスシールド、ガウンなど)の着用を検討してください。
訪問時間は必要最小限にとどめ、換気の良い場所での対応を心がけましょう。
また、物品の受け渡しは最小限にし、書類記入などは事前に済ませておくなどの工夫も有効です。
訪問後は使用した防護具の適切な処理と手指消毒を徹底し、自身の健康モニタリングも欠かさないことが重要です。
また、訪問活動のスケジュールを見直し、一日の訪問件数を減らすことで、一件ごとの感染対策に十分な時間を確保するといった対応も検討しましょう。
組織としては、最新の感染症情報や予防対策に関する定期的な研修を実施し、必要な防護具の十分な備蓄を確保することが重要です。
また、保健師自身の感染予防として、ワクチン接種の推奨やスタッフの健康管理体制の強化も不可欠です。
まとめ:効果的なリスク管理と安全確保のために
保健師の訪問活動における安全確保は、個人の努力と組織全体での取り組みが不可欠です。
本記事でご紹介した「SAFERモデル」を活用し、リスク分析の徹底、予防対策の確立、安全手順の遵守、緊急対応の準備、組織的な体制整備の推進という5つのポイントを意識した実践を心がけましょう。
安全確保は質の高いケア提供の土台であり、一人ひとりの意識と行動が、保健師全体の安全を高めることにつながります。
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