認知症患者様とのコミュニケーションは、看護学生にとって大きな課題となっています。特に実習では、どのように接すれば良いのか、どんな観察が必要なのか、不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、認知症患者様との効果的なコミュニケーション方法について、基本的な対話技術から実践的な観察のポイント、記録の取り方まで、具体的な事例を交えながら詳しく解説します。
2025年最新の知見と、現場で活躍する看護師の実践例を基に、すぐに活用できるスキルを身につけることができます。
この記事で分かること
- 認知症患者様との信頼関係を築くための基本的な対話技術
- 効果的な観察と記録の具体的な方法
- 症状や状況に応じた適切な対応方法
- 実習での具体的な活用方法とポイント
- 評価と改善に向けた実践的なステップ
この記事を読んでほしい人
- 看護学生で実習を控えている方
- 認知症患者様との関わりに不安を感じている方
- コミュニケーション技術を向上させたい方
- より良いケアを提供したいと考えている方
認知症患者様との基本的な対話技術

認知症患者様とのコミュニケーションにおいて、最も重要なのは相手の立場に立って考え、寄り添う姿勢です。
この章では、効果的な対話を実現するための基本的な技術について、具体例を交えながら解説します。
信頼関係構築の基礎
信頼関係の構築は、すべてのケアの土台となります。患者様の気持ちに寄り添い、安心感を提供することが重要です。
基本的な接し方
まずは患者様と同じ目線の高さで、優しく穏やかな口調で話しかけることから始めます。急かすことなく、ゆっくりと対応することで、患者様の不安を軽減することができます。
コミュニケーションの基本姿勢
患者様の尊厳を守り、一人の人として敬意を持って接することが大切です。名前を呼ぶときは必ず「さん」付けで呼び、丁寧な言葉遣いを心がけます。また、患者様の生活歴や趣味などについても関心を持ち、会話の糸口として活用していきます。
非言語コミュニケーションの活用
非言語コミュニケーションは、言葉以上に重要なメッセージを伝えることがあります。表情やジェスチャー、声のトーンなど、様々な要素を意識的に活用することで、より効果的なコミュニケーションが可能となります。
表情とアイコンタクト
穏やかな表情で接し、適度なアイコンタクトを保つことで、患者様に安心感を提供します。過度な視線は威圧感を与える可能性があるため、自然な視線の交わし方を心がけます。
身振り手振りの活用
言葉だけでなく、適切な身振り手振りを添えることで、メッセージがより伝わりやすくなります。ただし、大きな動作は患者様を驚かせる可能性があるため、穏やかで自然な動きを心がけます。
環境調整の重要性
コミュニケーションの質は、環境によって大きく影響を受けます。適切な環境調整を行うことで、より良い対話が可能となります。
物理的環境の整備
騒音や明るさ、室温など、物理的な環境要因に配慮します。特に認知症の患者様は環境の変化に敏感なため、快適な環境を整えることが重要です。
心理的環境の整備
安心して話ができる雰囲気づくりを心がけます。プライバシーに配慮し、必要に応じて個室や仕切りのある空間を活用します。
症状別アプローチ
認知症の症状は患者様によって異なり、また同じ患者様でも時間帯や状況によって変化します。症状に応じた適切なアプローチを選択することが重要です。
記憶障害がある場合
同じ質問を繰り返される場合でも、初めて聞くかのように丁寧に対応します。過去の記憶に関する話題を活用し、患者様が安心できる会話を心がけます。
見当識障害がある場合
現実を強制的に指摘するのではなく、患者様の世界観に寄り添いながら、徐々に現実認識を促していきます。時計やカレンダーなどの環境的手がかりを活用することも有効です。
効果的な観察のポイント

認知症患者様のケアにおいて、的確な観察は適切なケア提供の基盤となります。
この章では、身体状態から精神状態まで、包括的な観察方法について解説します。
身体状態の観察
基本的なバイタルサインの確認に加え、認知症特有の身体症状についても注意深く観察することが重要です。
バイタルサインの確認方法
血圧や体温の測定時は、患者様に測定の目的を分かりやすく説明します。測定値だけでなく、測定時の様子や反応についても注意を払います。
日常生活動作の観察
食事、排泄、清潔保持など、基本的な生活動作における自立度や援助の必要性を確認します。特に、できることとできないことを明確に把握し、適切な支援につなげていきます。
精神状態の観察
認知機能の状態や感情の変化を適切に観察することで、より効果的なケアが可能となります。
認知機能の評価
見当識や記憶力、理解力などの認知機能について、日常会話や行動から自然に評価します。強制的なテストは避け、自然な関わりの中で状態を把握します。
感情状態の観察
不安やイライラ、抑うつなどの感情の変化に注意を払います。表情や声の調子、態度の変化から、感情状態を読み取ることが重要です。
行動パターンの理解
日常生活における行動パターンを把握することで、異常の早期発見や適切な対応が可能となります。
生活リズムの把握
睡眠覚醒のパターンや、食事、活動時間など、一日の生活リズムを観察します。普段と異なる様子が見られた場合は、その原因について考察します。
行動の特徴理解
徘徊や帰宅願望など、特徴的な行動がある場合は、その行動が起こる時間帯や状況について詳しく観察します。
リスクアセスメント
安全で快適な生活を支援するため、様々なリスク要因について継続的に評価します。
転倒リスクの評価
歩行状態や環境要因を確認し、転倒のリスクを評価します。特に、夜間のトイレ移動など、リスクが高まる場面について注意深く観察します。
生活環境のリスク評価
居住環境や使用している物品について、安全性の観点から評価します。危険物の管理や環境整備の必要性について検討します。
実践的な対応方法

認知症患者様への対応には、状況に応じた適切な判断と柔軟な対応が求められます。
この章では、実際の現場で活用できる具体的な対応方法について解説します。
場面別対応例
日常のケアにおいて遭遇する様々な場面での具体的な対応方法を紹介します。
食事場面での対応
食事時間は患者様との重要なコミュニケーションの機会です。食事の準備から後片付けまで、一連の流れにおける適切な声かけと支援方法について説明します。
入浴場面での対応
入浴は事故のリスクが高い場面であり、特に注意深い観察と適切な支援が必要です。安全性を確保しながら、患者様の自立を支援する方法を解説します。
困難事例への対処
認知症患者様との関わりにおいて遭遇する可能性のある困難な状況とその対処方法について説明します。
BPSD(行動・心理症状)への対応
興奮や攻撃的な行動が見られた場合の適切な対応方法について解説します。原因の特定から、状況の改善に向けた具体的なアプローチまでを詳しく説明します。
コミュニケーション困難時の対応
言語的なコミュニケーションが難しい場合の対応方法について説明します。非言語コミュニケーションの活用や、代替的なコミュニケーション手段について解説します。
チーム連携の重要性
効果的なケアを提供するためには、多職種との連携が不可欠です。チームケアの実践方法について解説します。
情報共有の方法
申し送りやカンファレンスなど、チーム内での効果的な情報共有方法について説明します。特に重要な観察点や注意事項の伝達方法について詳しく解説します。
多職種との連携
医師、理学療法士、作業療法士など、他職種との連携方法について説明します。それぞれの専門性を活かした効果的なケア提供について解説します。
記録と評価

適切な記録と評価は、継続的なケアの質の向上に不可欠です。
この章では、効果的な記録方法と評価の実践について説明します。
効果的な記録方法
看護記録は、患者様のケアの継続性を保証する重要な手段です。正確で分かりやすい記録の方法について解説します。
基本的な記録の書き方
時系列に沿って、客観的な事実を簡潔かつ正確に記録します。主観的な解釈と客観的な事実を明確に区別して記載することが重要です。
重要な観察ポイントの記録
認知機能の変化や身体状態の変化など、特に注意が必要な項目については、より詳細な記録を心がけます。
評価指標の活用
適切な評価指標を用いることで、ケアの効果を客観的に測定することができます。
認知機能の評価方法
認知機能評価スケールの適切な使用方法と、結果の解釈について説明します。定期的な評価により、変化を早期に発見することが可能となります。
日常生活動作の評価
ADL評価スケールを用いた生活機能の評価方法について解説します。評価結果を今後のケア計画に反映させる方法についても説明します。
改善プロセスの実践
記録と評価を基に、ケアの質を継続的に改善していく方法について説明します。
PDCAサイクルの活用
計画、実行、評価、改善のサイクルを効果的に回す方法について解説します。具体的な改善事例を交えながら説明します。
チームでの評価と改善
カンファレンスなどを通じて、チーム全体で評価と改善を行う方法について説明します。多角的な視点からの評価が、ケアの質の向上につながります。
ケーススタディ
実際の事例を通じて、認知症患者様とのコミュニケーションについて理解を深めていきます。
ここでは3つの代表的な事例を取り上げ、それぞれの状況における対応方法と学びのポイントを解説します。
事例1:徘徊行動のある患者様への対応
事例の概要
Aさん(85歳、女性)は、アルツハイマー型認知症と診断されており、特に夕方になると「家に帰らなければならない」と落ち着かなくなり、病棟内を歩き回る様子が見られます。
アセスメントと対応
夕暮れ症候群の症状が強く出ている状態と考えられます。Aさんの生活歴から、この時間帯は以前、お孫さんの帰宅時間で迎えに行く習慣があったことが分かりました。
この背景を理解した上で、不安な気持ちに寄り添いながら、安全な環境で過ごせるよう支援を行いました。
実践内容と結果
穏やかな声かけと共に、夕方の時間帯に趣味の編み物や塗り絵などの活動を提供することで、徐々に落ち着いて過ごせるようになりました。
事例2:食事拒否がある患者様への対応
事例の概要
Bさん(78歳、男性)は、レビー小体型認知症の診断を受けており、食事を「毒が入っている」と言って拒否する様子が見られるようになりました。
アセスメントと対応
妄想的な症状により、食事への不信感が生じている状態でした。直接的な否定は避け、安全性を丁寧に説明しながら、一緒に食事を準備する時間を設けることで、信頼関係の構築を目指しました。
実践内容と結果
食事の準備段階から関わることで、食事への不安が軽減し、徐々に摂取量が増加していきました。
事例3:コミュニケーション困難な患者様への対応
事例の概要
Cさん(82歳、女性)は、進行した認知症により、言語的なコミュニケーションが困難な状態です。
アセスメントと対応
言語的な表現は難しいものの、表情や仕草から感情を読み取ることが可能でした。非言語的なコミュニケーションを中心に、スキンシップや音楽療法を取り入れた関わりを行いました。
実践内容と結果
音楽を聴く時間を設けることで笑顔が増え、穏やかに過ごせる時間が増加しました。また、手を軽く握るなどのスキンシップにより、安心感を得られる様子が観察されました。
おしえてカンゴさん!Q&A
認知症患者様とのコミュニケーションに関する、よくある質問とその回答をまとめました。実践的な疑問に対して、具体的な解決方法を提案します。
Q1:同じ質問を何度も繰り返される場合の対応は?
繰り返される質問には、その都度丁寧に答えることが基本です。質問の背景にある不安や心配事を理解し、安心感を提供することが重要です。時計やカレンダーなどの視覚的な手がかりを活用することで、より効果的な対応が可能となります。
Q2:妄想的な発言がある場合、どう対応すればよいですか?
妄想的な発言に対して否定や訂正を急ぐことは避けましょう。まずは患者様の気持ちに寄り添い、不安や困りごとについて傾聴します。その上で、現実的な対応策を一緒に考えていくアプローチが効果的です。
Q3:食事を拒否される場合の対応方法を教えてください。
食事拒否の背景には、様々な要因が考えられます。口腔内の状態、食事環境、食事形態などを確認し、原因を特定することが重要です。また、食事の準備から一緒に関わることで、食事への関心を高める工夫も効果的です。
Q4:夜間の不穏時の対応はどうすればよいですか?
夜間の不穏には、環境調整が重要です。適切な照明、室温の管理、そして安心できる環境づくりを心がけます。また、日中の活動を増やすことで、生活リズムを整えることも効果的な対策となります。
Q5:他の患者様とのトラブルが起きた場合の対応は?
まずは双方の安全確保を最優先します。その後、それぞれの患者様の気持ちを理解し、適切な距離を保ちながら、穏やかな環境を提供することが重要です。必要に応じて、座席配置の工夫なども検討します。
Q6:帰宅願望が強い場合の対応方法について教えてください。
帰宅願望の背景にある気持ちに共感することが重要です。家族や自宅への思いを受け止めながら、現在の環境で安心して過ごせるよう支援します。気分転換となる活動を提供することも効果的です。
Q7:コミュニケーションが困難な患者様との関わり方は?
言語的なコミュニケーションが難しい場合は、非言語的なコミュニケーションを重視します。表情やジェスチャー、タッチングなどを活用し、患者様の反応を丁寧に観察しながら関わります。
まとめ
認知症患者様とのコミュニケーションにおいて最も大切なことは、その方の人格を尊重し、気持ちに寄り添う姿勢です。基本的な対話技術と観察力を身につけ、個別性を重視したケアを提供することで、より良い関係性を築くことができます。
日々の実践の中で、この記事で学んだ知識とスキルを活かし、患者様の心に寄り添うケアを目指していきましょう。
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