看護研究は、エビデンスに基づく看護実践の基盤となる重要な取り組みです。しかし、初めて研究に取り組む方にとって、テーマ選定から論文執筆までのプロセスは決して容易ではありません。
本記事では、研究の進め方を具体的な例を交えながら解説し、皆さまの研究活動をサポートします。
実践で活用できる研究手法と、つまずきやすいポイントの解決策を詳しく紹介していきます。
この記事を読んでほしい人
- 初めて看護研究に取り組む看護学生の方
- 臨床で研究を始める予定の看護師の方
- 研究指導を担当する教員・指導者の方
- 看護研究の質を向上させたい方
- 効率的な研究の進め方を知りたい方
この記事で分かること
- 看護研究のテーマ選定から論文執筆までの具体的な進め方
- 研究計画立案における重要なポイントと注意事項
- 研究倫理審査の申請手順と必要な配慮事項
- データ収集・分析の実践的な方法論
- 効果的な論文作成と研究発表のテクニック
研究テーマの選定方法

看護研究において、適切なテーマ選定は研究の成否を左右する重要な要素です。
臨床現場での課題や疑問から研究テーマを導き出すことで、実践的な価値のある研究となります。
臨床実践に基づくテーマ設定
患者ケアの質向上に関する研究テーマ
臨床現場における患者ケアの質向上は、看護研究の重要な領域です。
入院患者の QOL 向上、症状マネジメント、看護介入の効果検証などが含まれます。
看護実践の標準化に関する研究
看護ケアの標準化とエビデンスの構築は、看護の質を保証する上で重要な課題です。
具体的な手順の確立やアウトカム評価が求められます。
看護業務改善に関する研究
業務効率化の検討
看護業務の効率化は、質の高い看護を提供するための重要なテーマです。
タイムスタディによる業務分析や改善策の検討が含まれます。
研究計画の立案プロセス

研究計画は看護研究の基盤となるものであり、綿密な計画立案が研究の質を大きく左右します。
ここでは研究デザインの選択から具体的なデータ収集方法まで、実践的な計画立案のプロセスについてご説明します。
研究デザインの選択と特徴
量的研究アプローチの実際
量的研究は数値データを用いて仮説を検証する方法です。
看護実践の効果を統計的に実証する場合に適しています。
実験研究では介入効果を明確に示すことができ、準実験研究では臨床現場の制約の中でも実施可能な研究として注目されています。
実験研究の進め方
実験研究では介入群と対照群を設定し、介入効果を比較検討します。
ランダム化の実施においては、対象者の特性や倫理的配慮を十分に検討する必要があります。
サンプルサイズの設定では、統計的検出力分析を行い、適切な対象者数を算出することが重要です。
準実験研究のデザイン
準実験研究では、完全なランダム化が困難な臨床現場において、可能な限りバイアスを制御しながら介入効果を検証します。
時系列デザインやマッチングによる対照群の設定など、実施可能性と科学的厳密性のバランスを考慮したデザインを選択します。
質的研究アプローチの展開
質的研究は、人々の経験や認識を深く理解することを目的とします。
看護現場における患者の体験や看護師の実践知を明らかにする際に有効です。
現象学的研究の実践
現象学的研究では、対象者の生きた経験を深く理解することを目指します。
インタビューガイドの作成では、研究目的に沿った質問項目を慎重に検討し、対象者の語りを十分に引き出せるよう工夫します。
グラウンデッド・セオリーの展開
グラウンデッド・セオリーでは、データに密着した分析を通じて理論を生成します。
理論的サンプリングの過程では、得られた概念を深め、精緻化していくための対象者選定を計画的に進めていきます。
データ収集方法の詳細
量的データの収集手順
量的データ収集では、測定の信頼性と妥当性を確保することが重要です。
質問紙調査を実施する場合、既存の尺度の使用許諾を得ることや、新規に作成する場合の妥当性検証プロセスを計画に含める必要があります。
質問紙調査の設計
質問紙の設計では、研究目的に沿った項目選定と、回答者の負担を考慮した構成が求められます。
プレテストを実施し、質問項目の理解しやすさや回答のしやすさを確認することで、より質の高いデータ収集が可能となります。
観察法の確立
観察法を用いる場合、観察項目の標準化と観察者間の信頼性確保が重要です。
観察者トレーニングの実施計画や、観察データの記録方法についても具体的に定めていく必要があります。
質的データの収集技法
質的データ収集では、研究者自身が重要な研究道具となります。
インタビューやフィールドワークの技能を高めることが、データの質を左右します。
インタビュー調査の実施
インタビュー調査では、対象者との信頼関係構築が不可欠です。
面接環境の設定から逐語録作成まで、細やかな配慮と緻密な準備が必要となります。
研究参加者の権利保護と、豊かなデータ収集の両立を目指します。
フォーカスグループの運営
フォーカスグループでは、グループダイナミクスを活用しながら、参加者間の相互作用から新たな知見を得ることができます。
ファシリテーターの役割や進行方法について、具体的な計画を立てることが重要です。
研究計画書の作成手順
研究目的の明確化
研究目的は、具体的かつ達成可能な形で記述します。
何を、どのように明らかにしたいのか、研究の意義とともに簡潔に示すことが求められます。
研究の意義の記述
研究の意義では、臨床看護実践への貢献可能性を具体的に示します。
先行研究の検討結果を踏まえ、新規性や独自性について言及することが重要です。
研究課題の設定
研究課題は、測定可能で具体的な形で設定します。
量的研究では仮説を、質的研究ではリサーチクエスチョンを明確に示すことが求められます。
研究倫理の配慮と手続き

看護研究において倫理的配慮は最も重要な要素の一つです。
研究対象者の人権を守り、研究の公正性を確保するため、具体的な倫理的配慮と適切な手続きの実施が求められます。
研究倫理の基本原則
対象者の権利保護
研究対象者の自己決定権を尊重し、研究参加の自由意思を保証することが必要です。
対象者への説明では、研究目的や方法、予測されるリスクとベネフィット、研究参加の任意性について、わかりやすく丁寧に説明することが求められます。
インフォームド・コンセントの取得
研究参加の同意を得る過程では、対象者が十分に理解し、納得した上で意思決定できるよう配慮します。
説明文書は平易な言葉を用い、専門用語には適切な解説を加えることが重要です。
プライバシーの保護
個人情報の取り扱いについては、データの匿名化や情報管理の方法を具体的に示す必要があります。研究データの保管場所、保管期間、廃棄方法についても明確に定めます。
研究実施上の倫理的配慮
研究対象者への配慮
臨床現場での研究実施においては、対象者の心身の負担に十分な配慮が必要です。
データ収集の時間帯や所要時間、実施場所については、対象者の生活リズムや体調に配慮して設定します。
研究中断の保証
研究参加の途中でも、理由を問わず参加を中止できることを保証します。
参加中止による不利益が生じないことを明確に説明し、対象者が安心して意思表示できる環境を整えます。
倫理審査申請の実際
研究計画書の倫理的妥当性
研究の必要性と意義の説明
研究実施の必要性と期待される成果について、科学的根拠とともに社会的意義を明確に示します。
対象者にもたらされる利益とリスクのバランスについても詳細に検討します。
対象者選定の妥当性
研究対象者の選定基準と除外基準を明確に示し、その妥当性を説明します。
特に弱い立場にある対象者を含む場合は、追加の保護措置について具体的に記述します。
倫理審査申請書類の作成
申請書類の準備
倫理審査委員会に提出する書類は、研究計画書、説明文書、同意書、調査用紙など、必要書類を漏れなく準備します。
各書類の記載内容の整合性を確認することも重要です。
データ分析と結果解釈

研究データの分析と解釈は、研究成果の質を左右する重要なプロセスです。
ここでは量的データと質的データそれぞれの分析手法と、結果の適切な解釈方法について説明します。
量的データの分析手法
基礎統計量の算出と検討
データ分析の第一段階として、収集したデータの特性を把握することが重要です。
平均値、標準偏差、度数分布などの基礎統計量を算出し、データの全体像を明らかにしていきます。
記述統計の実施方法
データの分布特性を確認し、適切な統計手法の選択につなげます。
外れ値やデータの正規性についても確認し、必要に応じてデータの変換や補正を検討します。
欠損値の取り扱い
欠損データの処理方法を決定し、分析結果への影響を最小限に抑えます。
欠損値の発生パターンを確認し、適切な補完方法を選択することが重要です。
統計的検定の実施
検定手法の選択
研究目的とデータの特性に応じて、適切な統計的検定方法を選択します。
パラメトリック検定とノンパラメトリック検定の選択基準を理解し、適用することが求められます。
多変量解析の活用
複数の変数間の関係性を分析する場合、重回帰分析や因子分析などの多変量解析手法を用います。
変数間の交互作用や媒介効果についても検討を行います。
質的データの分析プロセス
コード化とカテゴリー化
オープンコーディング
インタビューデータや観察記録から意味のある記述を抽出し、コード化を行います。
データの文脈を保持しながら、適切なコード名を付与していきます。
カテゴリーの生成
類似したコードをグループ化し、より抽象度の高いカテゴリーを生成します。
カテゴリー間の関係性を検討し、データの構造化を進めていきます。
質的データの解釈
文脈的理解の深化
データの背景にある文脈を理解し、より深い解釈を導き出します。
対象者の置かれた状況や環境要因についても考慮に入れます。
理論的考察の展開
生成されたカテゴリーを既存の理論や概念と照らし合わせ、新たな知見を見出します。
研究目的に照らして、findings の意味を検討します。
結果の統合と解釈
分析結果の妥当性検討
信頼性の確保
データ分析の過程を明確に記録し、分析の再現性を確保します。
必要に応じて複数の研究者による確認を行い、分析の信頼性を高めます。
妥当性の検証
研究結果の妥当性を多角的に検討します。
量的研究では統計的検定の適切性を、質的研究ではメンバーチェックなどを通じて確認します。
研究目的との整合性
結果の統合
量的データと質的データを収集した場合、それぞれの結果を適切に統合し、より豊かな理解を目指します。
結果の矛盾点や補完関係についても検討します。
論文作成と研究発表

研究成果を論文として執筆し、効果的に発表することは研究プロセスの集大成です。
ここでは論文執筆の具体的な手順から、説得力のある研究発表の方法まで、実践的なポイントについて解説します。
論文執筆の基本
論文構成の設計
序論の作成
研究の背景と意義を明確に示し、先行研究のレビューを通じて研究課題の位置づけを説明します。
研究目的へと論理的に展開していくことが重要です。
研究方法の記述
研究デザイン、対象者の選定、データ収集方法、分析手順について、再現可能性を意識しながら具体的に記述します。
倫理的配慮についても漏れなく記載します。
結果の記述方法
量的研究の結果提示
統計解析の結果は、適切な図表を用いて視覚的に示します。
検定結果の報告では、統計量、有意確率、効果量など、必要な情報を正確に記載します。
質的研究の結果表現
分析により得られたカテゴリーと具体的なデータを、文脈を保持しながら記述します。
研究参加者の語りを適切に引用し、現象の理解を深める記述を心がけます。
考察の展開方法
結果の解釈と考察
主要な知見の解釈
研究結果から得られた主要な知見について、先行研究との比較検討を行います。
新たな発見や特徴的な点について、理論的な考察を加えます。
実践への示唆
研究結果の臨床応用可能性について具体的に検討します。
看護実践の改善や発展に向けた提言を、エビデンスに基づいて示します。
研究の限界と課題
限界点の明示
研究の限界について誠実に記述し、結果の解釈における注意点を示します。
対象者の特性や研究環境による制約についても言及します。
今後の課題提示
研究過程で明らかになった新たな課題や、将来の研究の方向性について提案します。
実践の発展に向けた具体的な展望を示します。
研究発表の準備
口頭発表の構成
プレゼンテーションの設計
発表時間に応じて、重要なポイントを効果的に伝える構成を考えます。
スライドの枚数や内容の配分を適切に調整します。
スライド作成の実際
視覚的な情報伝達を重視し、図表やグラフを効果的に活用します。
文字の大きさや配色にも配慮し、見やすいスライド作成を心がけます。
発表技術の向上
発表原稿の作成
要点を明確に伝える原稿を作成し、時間配分を考慮した練習を重ねます。
専門用語の使用と説明のバランスにも注意を払います。
質疑応答の準備
予想される質問とその回答を準備し、建設的なディスカッションができるよう備えます。
研究の限界点についても誠実に説明できるよう準備します。
研究成果の普及
実践への還元
研究成果の活用
研究結果を臨床現場で活用するための具体的な方策を検討します。
実践の改善に向けた取り組みを計画的に進めます。
フィードバックの収集
研究成果を実践に適用した際の効果や課題について、現場からのフィードバックを収集します。
継続的な改善につなげる視点を持ちます。
成果の発信方法
論文投稿の実際
研究成果を適切な学術誌に投稿し、広く共有することを目指します。
投稿規定の確認や査読への対応も丁寧に行います。
おしえてカンゴさん!よくある看護研究の疑問Q&A

看護研究について寄せられる質問に、経験豊富なカンゴさんがお答えします。
研究に取り組む際の参考にしてください。
Q1:看護研究のテーマが決まりません。どうやって選べばいいですか?
カンゴさん:日々の看護実践の中で「なぜだろう」「もっと良い方法はないかな」と感じることを大切にしましょう。
例えば、患者さんの転倒予防や褥瘡ケア、服薬指導の方法など、現場での課題を研究テーマにすることをお勧めします。
実践に直結するテーマであれば、研究への動機づけも高まりますよ。
Q2:文献検索の効率的な方法を教えてください。関連文献が見つかりません。
カンゴさん:医中誌Webを使う場合は、シソーラス用語(統制語)を活用すると効率的です。
また、キーワードを組み合わせる際は、広すぎず狭すぎない範囲で検索できるよう工夫しましょう。
最初は過去5年程度の文献を中心に探し、重要な文献が見つかったら、その文献の引用文献リストもチェックすることをお勧めします。
Q3:統計解析の方法がわかりません。どのような検定を選べばいいですか?
カンゴさん:まずは研究の目的と仮説を明確にしましょう。
2群の平均値を比較する場合はt検定、3群以上の比較には分散分析、関連性を見る場合は相関分析というように、目的に応じて適切な検定方法があります。
不安な場合は、統計の専門家に相談することをお勧めします。
研究の質を高めるためにも、適切な統計手法の選択は重要ですよ。
Q4:質的研究でのインタビューの進め方を教えてください。
カンゴさん:インタビューでは、研究参加者が話しやすい環境を整えることが大切です。
事前に大まかな質問項目を準備しつつ、参加者の語りに柔軟に対応できるよう、半構造化インタビューがお勧めです。
また、参加者の表情や態度といった非言語的な情報もメモしておくと、分析時に役立ちますよ。
Q5:倫理審査を通るコツはありますか?何度も修正を求められて困っています。
カンゴさん:倫理審査では、研究参加者の権利と安全の保護が最も重要です。
特に、同意取得の方法、個人情報の保護、データの管理方法について具体的に記載しましょう。
また、研究の必要性と期待される成果についても、先行研究を踏まえて明確に説明することが大切です。
提出前に指導者や同僚に確認してもらうと、不備を事前に発見できますよ。
まとめ:より良い看護実践のために
看護研究は、日々の臨床実践をより良いものにしていくための重要なプロセスです。
テーマ選定から論文執筆まで、一つ一つのステップを丁寧に進めることで、確かな成果を導き出すことができます。
研究の成果は、患者さんへのより良いケアの提供につながり、看護の質の向上に貢献します。
皆さまの研究が、看護実践の発展への大きな一歩となることを願っています。
【はたらく看護師さん】でさらに活躍の場を広げよう!
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