保健師は地域の健康を守る重要な存在です。
本記事では、保健師の基本的な役割から具体的な活動内容、そして将来展望まで詳しく解説します。
2025年の最新情報を踏まえた保健師の社会的価値と実践的な業務内容を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
この記事で分かること
- 保健師の基本的な役割と使命
- 具体的な活動内容と業務範囲
- 社会における保健師の責任と価値
- 保健師として必要なスキルと資質
- 保健師の将来展望と可能性
- 保健師活動の実践例と成功事例
- 保健師に関する最新の動向と課題
この記事を読んでほしい人
- 保健師を目指している看護学生
- 保健師への転職を検討している看護師
- 保健師として働き始めたばかりの方
- 保健師の役割について知りたい医療関係者
- 地域保健活動に関心のある方
- 公衆衛生分野でのキャリアを考えている方
- 地域の健康づくりに携わる多職種の方々
保健師の基本的な役割と使命

保健師は地域社会の健康を守り、増進するための中核的存在です。
その活動は個人や家族への支援にとどまらず、地域全体の健康レベル向上を目指す点が特徴的です。
このセクションでは、保健師の基本的な役割と使命について詳しく解説します。
保健師とは何か:定義と基本的役割
保健師は、「地域保健法」や「保健師助産師看護師法」に基づき、公衆衛生の向上と増進を目的として活動する専門職です。
看護師の資格を持ち、さらに保健師の国家資格を取得した医療専門職であり、個人や家族、地域全体の健康管理と疾病予防を担っています。
保健師の最も基本的な役割は、「予防」に重点を置いた活動です。
治療よりも予防を優先し、健康問題が発生する前に対策を講じることで、地域住民の健康を維持・向上させることを目指します。
2025年現在、保健師の役割はさらに拡大し、従来の保健指導や健康教育に加えて、地域の健康課題に対する政策立案や、多職種連携のコーディネーターとしての機能も重視されるようになってきています。
保健師の活動領域は非常に幅広く、保健所や市町村保健センターといった行政機関、病院や診療所などの医療機関、企業や学校などの様々な場で活躍しています。
特に行政機関で働く保健師は、地域全体の健康づくりの推進役として重要な役割を担っています。
保健師の活動の特徴として、「個」と「集団」の両方に対するアプローチがあります。
個別の健康課題に対応しながらも、そこから地域の健康課題を抽出し、集団への働きかけにつなげていくという、ミクロとマクロの視点を往復する活動が保健師の専門性です。
例えば、乳幼児健診で発達の遅れが気になる子どもを個別に支援すると同時に、そうした子どもが地域で増えていることを把握すれば、発達支援のための教室を企画したり、関連機関と連携した支援ネットワークを構築したりするといった活動につなげていきます。
また、保健師は地域の中で「予防」の視点を広める役割も担っています。
病気になってから対応するのではなく、健康な時から予防的な取り組みを行うことの重要性を地域住民に啓発し、健康づくりの文化を醸成することも保健師の重要な使命です。
2025年現在、社会の高齢化や生活習慣病の増加、メンタルヘルス問題の深刻化など、健康課題が多様化・複雑化する中で、予防を重視する保健師の役割はますます重要性を増しています。
予防活動と健康増進の重要性
保健師活動の核心は「予防」です。
一次予防(健康増進・疾病予防)、二次予防(早期発見・早期治療)、三次予防(リハビリテーション・再発防止)という三段階の予防活動を通じて、地域住民の健康を包括的に支援します。
特に近年は、生活習慣病の増加や超高齢社会の進展に伴い、一次予防の重要性が高まっています。
健康教室の開催や生活習慣の改善指導など、疾病の発生を未然に防ぐための活動が保健師の重要な使命となっています。
一次予防における保健師の役割は非常に重要です。
病気になる前の健康な段階から介入し、健康的な生活習慣の定着を支援することで、将来的な疾病リスクの低減を図ります。
具体的には、栄養・運動・休養のバランスが取れた生活習慣の確立、禁煙支援、適正飲酒の啓発、ストレスマネジメントの指導などが含まれます。
二次予防では、疾病の早期発見・早期治療を目指します。
各種健康診断の実施とその事後指導、がん検診の受診勧奨、生活習慣病の早期発見と生活改善指導などが主な活動です。
特に重要なのは、健診結果を単に伝えるだけでなく、その結果に基づいた具体的な保健指導を行うことです。
三次予防では、すでに疾病を持つ人の機能低下防止や再発予防、QOL(生活の質)の向上を支援します。
慢性疾患の自己管理支援、在宅療養支援、リハビリテーションの促進、社会復帰支援などが主な活動となります。
また、健康格差の是正も保健師の重要な役割です。
社会経済的状況や地理的条件などによって生じる健康格差を認識し、すべての住民が平等に健康サービスを受けられるよう支援することが求められています。
2025年現在、人生100年時代を迎え、「健康寿命の延伸」が社会的課題となる中で、保健師の予防活動の重要性はさらに高まっています。
単に寿命を延ばすだけでなく、いかに健康で自立した生活を長く維持できるかが重要視されており、そのための予防的アプローチの専門家として保健師の役割が注目されています。
さらに、近年の新興感染症の流行を経験する中で、感染症に対する予防活動の重要性も再認識されています。
正しい感染予防の知識と実践の普及、ワクチン接種の推進、集団感染の早期発見と対応など、公衆衛生の基本である感染症対策においても保健師の専門性が発揮されています。
地域保健における中核的存在
保健師は、地域保健活動の中核を担う存在です。
保健所や市町村保健センター、地域包括支援センターなどを拠点に、地域全体の健康レベルの向上を目指して活動します。
地域の健康課題を把握するために、健康統計データの分析や地域診断を行い、それに基づいた保健事業の企画・立案・実施・評価というPDCAサイクルを展開します。
このプロセスを通じて、地域特性に合わせた効果的な保健活動を展開することが保健師の重要な役割です。
保健師は「地区担当制」という形で活動することが多く、特定の地区を担当して地域の特性や住民の生活実態を把握した上で、その地域に合った保健活動を展開します。
この「地区活動」は保健師活動の基盤であり、地域に出向いて住民と直接関わることで得られる情報や信頼関係が、効果的な保健活動につながります。
また、保健師は地域の様々な健康課題に対応するために、住民組織や自治会、ボランティア団体などの育成・支援も行います。
住民が主体的に健康づくりに取り組むための仕組みづくりや、リーダーの育成などを通じて、地域の健康力を高める活動を展開しています。
近年は、地域包括ケアシステムの構築が進む中で、保健師には医療・介護・福祉の連携を促進する「つなぎ役」としての機能も強く求められています。
多職種協働のネットワークづくりや、地域の社会資源の開発・活用も保健師の重要な役割となっています。
特に2025年の現在、地域共生社会の実現に向けた取り組みが進められる中で、保健・医療・福祉・介護の連携だけでなく、教育、住宅、交通、環境など幅広い分野との協働が求められており、そのコーディネーターとしての保健師の役割はますます重要となっています。
また、近年の災害の多発を受けて、災害時の健康危機管理における保健師の役割も注目されています。
平常時からの備えとして、災害時要配慮者の把握や避難計画の策定、住民への防災教育などを行うとともに、災害発生時には迅速に被災者の健康ニーズを把握し、適切な支援につなげる役割を担っています。
2025年現在、地域保健における保健師の中核的役割は、単なるサービス提供者ではなく、地域全体の健康づくりの推進者、多様な資源をつなぐコーディネーター、そして地域の健康危機に対応する専門家として、ますます重要性を増しています。
保健師の具体的な活動内容

保健師の活動は多岐にわたります。
このセクションでは、保健師が実際にどのような場面で、どのような活動を行っているのかを具体的に解説します。
それぞれの活動分野における保健師の役割と具体的な業務内容について詳しく見ていきましょう。
母子保健活動
母子保健活動は保健師の重要な活動分野の一つです。
妊産婦や乳幼児の健康を守り、子どもの健やかな成長・発達を支援するための様々な取り組みを行います。
具体的な活動内容としては、まず妊娠期から始まる継続的な支援があります。
母子健康手帳の交付時には、妊婦の健康状態や生活環境の把握、妊娠に関する不安や悩みの相談に応じ、必要な情報提供や保健指導を行います。
また、妊婦教室や両親学級を開催し、出産や育児に関する知識の普及や、妊婦同士の交流の場を提供します。
出産後は、新生児訪問や乳児家庭全戸訪問(こんにちは赤ちゃん事業)を実施し、母子の健康状態の確認、授乳や育児に関する相談、産後うつの早期発見などを行います。
家庭訪問は保健師の重要な活動方法の一つであり、家庭という生活の場で対象者の状況を把握し、個別性に応じた支援を提供できる点が特徴です。
乳幼児健康診査の実施も母子保健活動の重要な柱です。
3〜4か月児、1歳6か月児、3歳児などの各時期に健診を実施し、子どもの成長・発達の確認、疾病や障害の早期発見、育児相談などを行います。
健診の結果、支援が必要と判断された子どもや家庭には、発達相談や療育教室の紹介、定期的な家庭訪問など、継続的な支援を提供します。
近年では、晩婚化・晩産化や核家族化の進行に伴い、孤立した育児環境にある母親のメンタルヘルスケアも重要な課題となっています。
保健師は、産後うつのスクリーニングやフォロー、育児不安を抱える母親のための相談や交流の場の提供など、母親のこころの健康を守るための取り組みも積極的に行っています。
また、児童虐待の予防と早期発見も保健師の重要な役割です。
妊娠期からのハイリスク家庭の把握と継続的な支援、乳幼児健診等でのスクリーニング、関係機関(児童相談所、子育て支援センター、医療機関など)との連携による支援ネットワークの構築など、虐待防止に向けた様々な取り組みを行っています。
2025年現在、少子化が進む中で「すべての子どもが健やかに育つ社会」の実現に向けて、母子保健活動の重要性はさらに高まっています。
特に、「子育て世代包括支援センター(母子健康包括支援センター)」を中心とした妊娠期から子育て期にわたる切れ目ない支援体制の構築において、保健師は中心的な役割を担っています。
成人・高齢者保健活動
成人・高齢者を対象とした保健活動も、保健師の主要な活動領域です。
特に生活習慣病の予防や管理、介護予防に焦点を当てた活動が重視されています。
成人保健活動の中心となるのは、特定健康診査(特定健診)と特定保健指導の実施です。
40〜74歳の国民を対象に実施される特定健診の結果に基づき、メタボリックシンドロームのリスクに応じた保健指導を行います。
リスクの程度に応じて「情報提供」「動機づけ支援」「積極的支援」の3段階に分かれており、特にハイリスク者に対しては個別面談や継続的な支援を通じて、生活習慣の改善を促します。
また、各種がん検診の受診勧奨や事後指導も重要な活動です。
胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんなどの各種がん検診の普及啓発を行い、特に受診率の低い層への働きかけを工夫しています。
さらに、要精密検査となった方への受診勧奨や精神的サポートも重要な役割です。
高齢者保健活動では、介護予防の推進が中心的な課題です。
65歳以上の高齢者を対象とした基本チェックリストの実施や後期高齢者健診の結果から、フレイル(虚弱)のリスクが高い高齢者を早期に発見し、介護予防教室や地域のサロン活動などにつなげる取り組みを行っています。
認知症予防・早期発見の取り組みも重要です。
認知症サポーター養成講座の開催や認知症カフェの運営支援、認知症初期集中支援チームの一員としての活動など、認知症の人とその家族を支える地域づくりに取り組んでいます。
在宅療養支援も保健師の重要な役割です。
訪問看護ステーションや地域包括支援センターに所属する保健師は、在宅療養者の健康管理や療養環境の調整、家族介護者への支援などを行います。
特に医療依存度の高い在宅療養者に対しては、医療機関と在宅サービスとの連携調整役を担うことも多いです。
2025年の現在、団塊の世代が後期高齢者となり、認知症や要介護状態の高齢者が増加する中で、保健師には「健康寿命の延伸」に向けた効果的な予防活動が求められています。
特に介護予防の視点からのフレイル対策や、高齢者の社会参加を促進する取り組みが重要視されています。
また、「地域包括ケアシステム」の構築が進む中で、保健師は医療・介護・予防・住まい・生活支援の連携を促進するコーディネーターとしての役割も担っています。
地域ケア会議への参加や在宅医療・介護連携の推進など、多職種協働による支援体制づくりにも積極的に取り組んでいます。
感染症対策・健康危機管理
保健師は感染症対策や健康危機管理においても重要な役割を担っています。
特に保健所に勤務する保健師は、地域の感染症対策の最前線で活動します。
感染症対策における保健師の基本的な役割は、感染症の発生動向の把握と分析です。
感染症発生動向調査(サーベイランス)を通じて地域の感染症発生状況を監視し、異常な発生パターンを早期に発見して対応する体制を整えています。
感染症患者が発生した場合には、積極的疫学調査を実施します。
患者への訪問調査を通じて感染経路や接触者の特定を行い、二次感染の防止に努めます。
特に結核などの二類感染症の場合は、患者の服薬支援や接触者健診の実施など、長期にわたる支援が必要となります。
また、平常時から感染症予防のための普及啓発活動も重要な役割です。
手洗い・咳エチケットの普及、予防接種の勧奨、食中毒予防の啓発など、基本的な感染予防策の定着に向けた健康教育を実施しています。
健康危機管理の面では、災害発生時の保健活動も保健師の重要な役割です。
避難所での健康管理や感染症対策、要配慮者への個別支援、心のケア活動など、災害時特有の健康課題に対応します。
また、災害発生後の復興期における地域の健康づくり活動の再構築も保健師の重要な役割です。
近年の新興・再興感染症の発生や、大規模自然災害の増加に伴い、保健師の健康危機管理能力はますます重要性を増しています。
平常時からの備えとともに、有事の際の迅速かつ的確な対応が求められています。
2025年現在、新型コロナウイルス感染症の流行を経験したことで、感染症対策における保健師の役割の重要性が社会的にも再認識されています。
特に、平時からの感染症対策の体制整備や人材育成、リスクコミュニケーション能力の向上など、次なる健康危機に備えた取り組みが強化されています。
また、気候変動に伴う新たな健康リスク(熱中症の増加、感染症の流行パターンの変化など)への対応も、保健師の新たな課題となっています。
今後も様々な健康危機に対応するための専門性と柔軟性が保健師には求められています。
精神保健福祉活動
精神保健福祉活動も保健師の重要な活動分野です。
精神疾患の予防から治療後の社会復帰支援まで、幅広い支援を行います。
精神保健活動の基本は、こころの健康づくりの推進です。
ストレスマネジメント講座の開催やこころの健康相談の実施など、精神疾患の予防と早期発見に向けた取り組みを行います。
特に近年は、職場におけるメンタルヘルス対策や、思春期・青年期のこころの健康支援にも力を入れています。
うつ病・自殺予防対策は特に重要な課題です。
ゲートキーパー養成研修の実施、自殺のハイリスク者への個別支援、自死遺族支援など、地域の自殺対策計画に基づいた様々な取り組みを展開しています。
特に、複数の問題(失業、借金、病気など)が絡み合った自殺ハイリスク者に対しては、多機関連携による包括的な支援が重要です。
精神障害者への地域生活支援も重要な活動です。
精神科病院から地域への移行支援、地域での生活を支えるための訪問支援、日中活動の場や住まいの確保支援など、精神障害者が地域で安心して暮らせるための環境整備に取り組んでいます。
また、精神障害者を抱える家族への支援も欠かせません。
家族教室や家族会の運営支援を通じて、家族の精神的負担の軽減を図るとともに、当事者と家族が地域で孤立せずに生活できるような支援ネットワークづくりを行っています。
精神保健福祉に関する普及啓発活動も重要です。
精神疾患や精神障害に対する偏見や差別の解消に向けた啓発活動を通じて、地域の理解を促進し、共生社会の実現に向けた取り組みを進めています。
2025年の現在、働き盛り世代のメンタルヘルス問題や高齢者の認知症・うつ病など、精神保健福祉の課題は多様化・複雑化しています。
保健師には、地域住民の心の健康を守るための予防的アプローチと、精神疾患を持つ人々が地域で安心して生活できるための環境整備が求められています。
また、近年は「地域共生社会」の実現に向けて、精神障害者を含む様々な障害を持つ人々が地域の一員として包摂される社会づくりが進められており、保健師にはそのための地域づくりの推進者としての役割も期待されています。
産業保健活動
企業や事業所で働く保健師(産業保健師)は、労働者の健康管理と職場環境の改善に取り組みます。
労働安全衛生法に基づく様々な健康管理活動を通じて、働く人々の健康の保持増進を支援しています。
産業保健師の基本的な業務は、定期健康診断の実施と事後指導です。
健診結果に基づいて、要医療者への受診勧奨や生活習慣改善のための保健指導を行います。
特に、高血圧や糖尿病などの生活習慣病予備群に対する早期介入は、将来的な疾病リスクの低減につながる重要な活動です。
特殊健康診断の実施と職業病予防も重要な役割です。
有機溶剤、粉じん、騒音、放射線など、特定の有害業務に従事する労働者を対象とした特殊健康診断を実施し、職業性疾病の早期発見と予防に努めています。
職場環境の衛生管理も産業保健師の重要な役割の一つです。
作業環境測定の実施や結果の評価、職場巡視による有害要因の把握と改善提案など、労働者が安全に働ける環境づくりを支援します。
メンタルヘルス対策の推進も近年特に重視されている活動です。
ストレスチェックの実施と高ストレス者への面談、メンタルヘルス不調の早期発見と対応、職場復帰支援プログラムの運営など、労働者のこころの健康を守るための様々な取り組みを行っています。
過重労働対策も重要な課題です。
長時間労働者への医師面談の調整、過重労働による健康障害防止のための保健指導、労働時間管理や業務内容の見直しの提案など、過労死や過労自殺の防止に向けた取り組みを進めています。
健康教育・健康相談の実施も産業保健師の基本的な活動です。
生活習慣病予防、腰痛予防、VDT作業対策、女性特有の健康問題など、様々なテーマで健康教育を実施するとともに、個別の健康相談にも応じています。
2025年の現在、働き方改革の推進や健康経営の重視など、職場における健康管理の重要性はますます高まっています。
産業保健師には、労働者の健康保持増進と企業の生産性向上という両面からのアプローチが求められています。
また、テレワークの普及やギグワーカーの増加など、働き方の多様化に伴い、従来の産業保健の枠組みでは対応が難しい新たな健康課題も生じています。
産業保健師には、こうした変化に柔軟に対応し、すべての働く人々の健康を守るための新たな産業保健活動のあり方を模索することが求められています。
保健師の社会的責任と価値

保健師は単なる保健サービスの提供者ではなく、地域の健康課題に向き合い、その解決に向けて様々な役割を担う専門職です。
このセクションでは、保健師が社会に対して負う責任と、その活動がもたらす社会的価値について考えていきます。
地域の健康課題の把握と分析
保健師の重要な社会的責任の一つは、地域の健康課題を的確に把握し、分析することです。
地域診断と呼ばれるこのプロセスは、効果的な保健活動の基盤となります。
地域診断は、量的データと質的データの両方を活用して行われます。
量的データとしては、人口動態統計(出生率、死亡率、平均寿命など)、健康診断データ(有所見率、要医療率など)、疾病統計(疾患別の有病率、死因順位など)などが用いられます。
質的データとしては、住民との対話から得られる情報、地域踏査による観察結果、関係者からの聞き取り情報などが活用されます。
保健師は、これらの多様なデータを統合・分析することで、地域特有の健康課題を浮き彫りにします。
例えば、単に「高齢化率が高い」という情報だけでなく、「高齢者が多く住む山間部では、公共交通機関の減少により通院が困難になっている」といった具体的な健康課題を抽出することが重要です。
また、地域診断では健康課題だけでなく、地域の強み(健康資源)も把握します。
活発な住民組織、充実した医療機関、自然環境の豊かさなど、地域の健康づくりに活かせる資源を発掘し、それらを効果的に活用した保健活動を計画します。
地域診断の結果は、具体的な保健事業の企画・立案に活かされます。
地域の優先的健康課題に対応した事業を計画し、限られた資源(人員、予算、時間など)を効果的に配分することで、地域全体の健康レベルの向上を目指します。
さらに、保健事業の実施後には評価を行い、その結果を次の地域診断・事業計画に反映させるというPDCAサイクルを展開します。
このように、地域診断を起点とした継続的な健康づくりのプロセスを推進することが、保健師の重要な社会的責任です。
2025年現在、地域診断の手法も進化しており、GIS(地理情報システム)を活用した健康マップの作成や、ビッグデータ解析による健康課題の可視化など、新たな技術を活用した地域診断も広がっています。
こうした新しい手法も取り入れながら、地域の健康課題をより的確に把握し、効果的な保健活動につなげていくことが求められています。
健康格差の是正と公平な保健サービスの提供
健康格差の是正も保健師の重要な社会的責任です。
経済状況、教育レベル、地理的条件などによって生じる健康格差に注目し、誰もが公平に保健サービスを受けられる環境づくりに取り組みます。
健康格差とは、社会経済的要因によって生じる健康状態や平均寿命の差のことです。
例えば、所得が低い層ほど生活習慣病のリスクが高く、平均寿命が短い傾向があることが様々な研究で明らかになっています。
また、地理的条件によるアクセス格差(医療過疎地域の存在など)も健康格差の一因です。
保健師は、このような健康格差の実態を把握し、特に健康リスクの高い集団や地域に対して重点的な支援を行います。
例えば、健診受診率の低い地域への出張健診の実施、経済的に困窮している世帯への個別訪問支援、外国人住民向けの多言語対応の健康教育資材の作成など、様々な工夫を通じて健康格差の是正に取り組んでいます。
特に、健康課題を抱えながらも自ら支援を求めることが難しい「ハイリスク・アクセス困難者」へのアウトリーチ(積極的な働きかけ)は、保健師ならではの重要な活動です。
例えば、民生委員や町内会などと連携して地域の独居高齢者を把握し、保健師から積極的に訪問することで、潜在的な健康ニーズを発掘し支援につなげるといった取り組みを行っています。
また、社会的に弱い立場にある人々(生活困窮者、障害者、外国人住民、性的マイノリティなど)が直面する特有の健康課題にも目を向け、その解決に向けた取り組みを進めることも保健師の重要な役割です。
例えば、障害者の健診受診率向上のためのバリアフリー化や、外国人住民の健康相談に対応するための通訳サービスの導入など、多様な住民のニーズに応じた保健サービスの提供を目指しています。
2025年の現在、新型コロナウイルス感染症の流行を経て、健康格差の問題はさらに深刻化しています。
保健師には、社会的に弱い立場にある人々に特に目を向けた活動が求められています。
また、デジタル技術の進展に伴うデジタルディバイド(情報格差)が新たな健康格差を生む懸念も高まっており、オンライン健康サービスの普及と並行して、デジタル技術を利用できない住民への配慮も重要な課題となっています。
多職種連携のコーディネーター
保健師は、地域の保健・医療・福祉・介護の連携を促進する「つなぎ役」としての役割も担っています。
多職種連携のコーディネーターとして、地域包括ケアシステムの構築に貢献することも保健師の重要な社会的責任です。
地域の健康課題は複雑化・多様化しており、単一の専門職や機関だけでは解決が難しいケースが増えています。
保健師は、自らの専門性を活かしながらも、他の専門職(医師、看護師、管理栄養士、社会福祉士、介護支援専門員など)と連携し、多角的なアプローチで住民の健康課題の解決を図ります。
例えば、複合的な問題を抱える事例(認知症と経済的困窮が重なるケースなど)では、保健師がケース会議を開催して関係機関・専門職の連携を促進し、包括的な支援体制を構築します。
保健師は、医療的視点と福祉的視点の両方を持ち合わせているため、異なる分野の専門職間の「通訳者」としての役割も果たします。
また、保健師は様々なネットワークづくりにも取り組んでいます。
行政機関、医療機関、福祉施設、住民組織、NPOなど、地域の様々な資源をつなぐネットワークを構築し、地域全体で健康課題に取り組む体制づくりを進めています。
地域包括ケアシステムの構築においても、保健師は重要な役割を担っています。
地域ケア会議への参加、介護予防・日常生活支援総合事業の推進、在宅医療・介護連携の調整など、様々な場面で多職種連携のコーディネーターとしての機能を発揮しています。
2025年の現在、地域包括ケアシステムの深化・推進が進む中で、保健師のコーディネーター機能はますます重要性を増しています。
特に、高齢者だけでなく、障害者や子育て世帯も含めた「全世代型地域包括ケアシステム」の構築に向けて、世代や分野を超えた連携を促進する役割が保健師に期待されています。
また、地域共生社会の実現に向けた「断らない相談支援」「参加支援」「地域づくり」の一体的推進においても、保健師には多機関協働のコーディネーターとしての役割が期待されています。
複合的な課題を持つ世帯への包括的支援を実現するためのネットワークづくりが、保健師の新たな社会的責任として位置づけられています。
政策立案・評価への参画
保健師は、地域の健康課題に対応するための政策立案や評価にも積極的に参画することが求められています。
特に行政機関に勤務する保健師は、住民の健康ニーズを政策に反映させる重要な役割を担っています。
保健師は、日常の保健活動を通じて把握した住民の健康課題や支援ニーズを、具体的な保健事業や施策として企画・立案します。
例えば、高齢者の閉じこもり予防のための地域サロン活動の推進や、若年層の自殺予防のためのSNSを活用した相談事業の立ち上げなど、地域の実情に応じた施策を提案します。
政策立案の過程では、科学的根拠(エビデンス)に基づくアプローチが重要です。
保健師は、地域診断のデータや先行研究の知見、モデル事業の結果などを活用して、効果的・効率的な政策を立案します。
また、費用対効果の視点も重要であり、限られた予算で最大の健康効果を得られるような政策提案が求められます。
実施した事業・施策の効果を評価し、次の政策立案に活かすというPDCAサイクルを回すことも保健師の重要な役割です。
評価の際には、単なる実施回数や参加者数といったアウトプット評価だけでなく、健康指標の改善や行動変容の定着などのアウトカム評価も重視します。
保健師は、こうした政策プロセスへの参画を通じて、「現場の声」を政策に反映させる役割を担っています。
例えば、高齢者の閉じこもり予防のために開始した「いきいき百歳体操」が効果を上げていることが評価され、市の介護予防事業として正式に位置づけられ予算化されるといったケースがあります。
このように、現場のニーズや実践の成果を政策レベルに反映させることも保健師の重要な役割です。
2025年の現在、超高齢社会における健康寿命の延伸や、新興感染症への備えなど、保健師の専門的知見を活かした政策立案がますます重要となっています。
特に、「健康を支え、守るための社会環境の整備」というヘルスプロモーションの視点に立った政策提言が保健師に期待されています。
また、「健康影響評価(Health Impact Assessment)」の導入も進んでおり、健康に関連する様々な分野(都市計画、交通政策、環境政策など)の政策決定プロセスに保健師が参画し、健康の視点を取り入れた社会づくりを推進する役割も広がっています。
保健師に必要なスキルと資質

保健師として効果的に活動するためには、様々な専門的スキルと資質が求められます。
このセクションでは、保健師に必要な知識・技術や人間性について詳しく見ていきます。
専門的知識と技術
保健師には、公衆衛生学、疫学、保健統計学、地域看護学などの専門的知識と、それを実践に活かすための技術が求められます。
まず基盤となるのは、看護学の知識・技術です。
保健師は看護師の資格を持つ専門職であり、人体の構造と機能、疾病の成り立ちと回復過程、基本的な看護技術などの知識を基盤としています。
これに加えて、公衆衛生学や疫学、保健統計学などの集団アプローチに関する知識が求められます。
保健師に特に重要な技術として、まず「地域診断能力」が挙げられます。
量的・質的データを収集・分析し、地域の健康課題を的確に把握する能力は、効果的な保健活動の基盤となります。
統計データの読み解き方や、住民の声から本質的なニーズを抽出する力などが求められます。
次に「健康教育・保健指導技術」も重要です。
対象者の特性や学習ニーズに合わせて、効果的な健康教育プログラムを企画・実施する能力が求められます。
特に、知識の伝達だけでなく、行動変容を促すための動機づけ面接技術やグループワークの手法などの習得が重要です。
「家庭訪問技術」も保健師の基本的かつ重要な技術です。
対象者の生活の場を訪問し、その人らしい生活を支援するための観察力、アセスメント力、支援技術が求められます。
また、訪問時の信頼関係の構築や、プライバシーへの配慮なども重要なスキルです。
「健康相談技術」では、傾聴と共感に基づくカウンセリングスキルが求められます。
相談者の健康課題を適切にアセスメントし、必要な情報提供や支援を行う能力が重要です。
特に、表面的な訴えの背後にある本質的な問題を見抜く洞察力が求められます。
「グループ支援技術」では、集団の力を活かした健康づくり活動を支援する能力が必要です。
グループダイナミクスの理解や、グループの発達段階に応じた適切な支援方法の習得が求められます。
自助グループの育成・支援なども重要な技術です。
「地域組織活動支援技術」では、住民組織や自治会などの地域の組織と協働し、住民主体の健康づくり活動を支援する能力が必要です。
住民のエンパワメントを促し、地域の力を引き出すファシリテーション技術などが求められます。
「保健事業の企画・立案・評価能力」も重要です。
地域診断に基づいて効果的な保健事業を企画し、その実施と評価を通じて継続的な改善を図る能力が求められます。
特に、PDCAサイクルを意識した事業管理能力が重要です。
2025年現在、エビデンスに基づく保健活動(Evidence-Based Public Health)の重要性が高まっており、最新の研究成果を実践に活かす能力も求められています。
また、デジタル技術を活用した保健活動(オンライン保健指導、健康データの分析など)のスキルも重要性を増しています。
コミュニケーション能力と対人関係スキル
保健師の活動は「人」との関わりが基本です。
そのため、優れたコミュニケーション能力と対人関係スキルは保健師に不可欠な資質です。
まず、基本となるのは「傾聴と共感の姿勢」です。
相手の話に真摯に耳を傾け、その気持ちに寄り添うことで、信頼関係を築くことができます。
特に、保健師は様々な健康課題や生活上の困難を抱える人々と関わることが多いため、批判や否定をせずに受容的な態度で接することが重要です。
「信頼関係構築能力」も保健師にとって欠かせないスキルです。
特に家庭訪問や継続支援の場面では、対象者との信頼関係が支援の効果を大きく左右します。
誠実さ、約束を守る姿勢、プライバシーへの配慮などを通じて、信頼される保健師であることが求められます。
「適切な情報提供能力」も重要です。
専門的な健康情報をわかりやすく伝える能力や、対象者の理解度や関心に合わせた情報提供の工夫が求められます。
視覚教材の活用や、具体的な事例を交えた説明など、相手に伝わるコミュニケーション技術が重要です。
「動機づけ面接技術」は、特に生活習慣の改善を支援する場面で重要です。
対象者の変化への準備性(レディネス)を見極め、その人の内発的な動機を引き出す対話技術が求められます。
指示や説得ではなく、対象者自身が変化の必要性に気づき、自ら行動を選択できるよう支援することが大切です。
「対象者の強みを引き出す力」も保健師に求められるスキルです。
問題点や課題ばかりに注目するのではなく、その人が持つ強み(ストレングス)や資源に着目し、それを活かした支援を行うことが重要です。
ストレングスモデルに基づくアプローチは、対象者のエンパワメントにつながります。
「多様な価値観・文化への理解」も不可欠です。
保健師は様々な背景を持つ人々と関わるため、異なる価値観や文化的背景を尊重し、柔軟に対応する姿勢が求められます。
特に多文化共生が進む現代社会では、文化的感受性(カルチュラルセンシティビティ)を持った対応が重要です。
「対立・葛藤の調整能力」も必要とされます。
多職種連携や地域づくりの場面では、異なる立場や意見の対立が生じることがあります。
そうした状況でも冷静に対話を促進し、建設的な解決策を見出すためのファシリテーション能力が求められます。
特に重要なのは、支援を拒否したり、なかなか行動変容が進まなかったりする対象者に対しても、粘り強く関わり続ける姿勢です。
短期的な成果にこだわらず、長期的な視点で信頼関係を築きながら支援を続けることが、保健師活動の真髄とも言えます。
2025年の現在、多文化共生社会の進展に伴い、文化的背景の異なる対象者とのコミュニケーション能力もますます重要となっています。
また、オンラインコミュニケーションが増える中で、デジタルツールを介した効果的な対人支援のスキルも求められるようになっています。
リーダーシップと調整力
保健師には、地域の健康づくり活動を推進するリーダーとしての役割も期待されています。
住民組織の育成・支援や、多機関・多職種の連携促進など、様々な場面でリーダーシップを発揮することが求められます。
保健師に求められるリーダーシップの基本は「ビジョン構築と共有能力」です。
地域の健康課題と将来像を明確に描き、それを関係者に分かりやすく伝えることで、共通の目標に向かって人々を動かす力が求められます。
特に、データや具体例を用いて説得力のあるビジョンを示すことが重要です。
「関係者の合意形成能力」も重要なスキルです。
地域の健康づくり活動では、行政、医療機関、住民組織など様々な立場の関係者が関わります。
異なる意見や立場を尊重しながらも、建設的な対話を通じて合意点を見出し、協働の基盤を作る能力が求められます。
「プロジェクト管理能力」も保健師のリーダーシップに欠かせません。
保健事業や地域づくり活動を円滑に進めるために、目標設定、役割分担、進捗管理、評価などを適切に行う能力が必要です。
限られた資源(人員、予算、時間など)を効果的に配分するマネジメント力も重要です。
「チームビルディング能力」では、多様な専門職や住民が力を発揮できるチームづくりが求められます。
それぞれの強みを活かし、相互に補完し合える関係性を構築するためのファシリテーション能力が重要です。
特に、対立や葛藤が生じた際の調整力が試されます。
「地域の資源発掘・活用能力」も保健師のリーダーシップの重要な要素です。
地域に潜在する健康資源(人材、施設、組織、文化的資源など)を発掘し、それらを健康づくり活動に活かすための創造的な発想が求められます。
特に「ないものねだり」ではなく「あるもの探し」の視点が重要です。
「住民の主体性を引き出す力」は、地域づくりにおいて特に重要なスキルです。
保健師主導ではなく、住民が主体的に健康課題に取り組む力を引き出し、支援する姿勢が求められます。
住民のエンパワメントを促し、持続可能な地域づくりの基盤を作ることが重要です。
「危機管理能力」も保健師のリーダーシップの重要な側面です。
感染症の流行や災害発生時など、健康危機に際して冷静かつ迅速に判断し、関係者を適切に動かす力が求められます。
平常時からの備えと有事の際の対応力の両方が重要です。
特に重要なのは、トップダウン型のリーダーシップだけでなく、住民や関係者の主体性を尊重し、「黒子」に徹することもできる柔軟なリーダーシップです。
状況に応じて前面に立つこともあれば、後方支援に回ることもある、臨機応変なスタンスが求められます。
2025年の現在、地域共生社会の実現に向けて、専門職だけでなく住民も含めた「協働」の推進者としての役割がますます重要となっています。
特に、従来の専門職の枠を超えた「越境的リーダーシップ」の発揮が保健師に期待されています。
政策立案能力と情報発信力
保健師には、地域の健康課題を政策レベルで解決するための政策立案能力や、効果的な情報発信力も求められています。
政策立案の基本となるのは「地域診断に基づく政策提言能力」です。
地域の健康課題や住民ニーズを科学的に分析し、それに基づいた具体的な政策提言を行う能力が求められます。
特に、現場での実践知と科学的エビデンスの両方を融合させた説得力のある提言が重要です。
「保健事業の企画・立案・評価能力」も政策立案の重要な要素です。
地域診断の結果に基づいて効果的な保健事業を企画し、PDCAサイクルを通じて継続的な改善を図る能力が求められます。
特に、費用対効果の視点や持続可能性を考慮した事業設計が重要です。
「データ分析・活用能力」も欠かせません。
健康統計データや事業評価データを適切に分析し、政策提言の根拠として活用する能力が求められます。
近年は、GISを活用した健康マップの作成やビッグデータ解析など、より高度なデータ活用スキルも重要となっています。
「プレゼンテーション能力」は、政策提言を効果的に伝えるために不可欠です。
複雑な健康課題や提案内容を、分かりやすく説得力のある形で伝える能力が求められます。
特に、決定権を持つ行政幹部や議会などに対して、簡潔かつ要点を押さえた説明ができることが重要です。
「報告書・企画書作成能力」も重要なスキルです。
地域診断の結果や事業提案を論理的かつ説得力のある文書にまとめる能力が求められます。
特に、エビデンスに基づいた論理展開と、具体的な数値目標や評価指標の設定が重要です。
「メディアを活用した情報発信能力」も近年重視されています。
地域の健康課題や保健活動の成果を、広報誌やウェブサイト、SNSなどを通じて効果的に発信する能力が求められます。
特に、専門的内容を一般市民にも分かりやすく伝えるコミュニケーション力が重要です。
「健康危機管理における情報管理能力」も保健師に求められる重要なスキルです。
感染症の流行や災害発生時には、正確な情報を迅速に収集・分析し、適切に関係者や住民に提供する能力が求められます。
特に風評被害を防ぐための適切なリスクコミュニケーションが重要です。
特に重要なのは、現場で把握した住民の健康ニーズを、具体的な事業や施策として「見える化」する能力です。
「この地域ではこんな健康課題があるから、こんな事業が必要だ」という論理的な筋道を立て、政策決定者を納得させる提案力が求められます。
また、活動の成果を適切に評価し、エビデンスとして蓄積・発信していく能力も不可欠です。
「この事業によってこれだけの健康効果があった」という成果を示すことで、次の政策展開につなげることができます。
2025年の現在、ヘルスデータの活用やデジタル技術を駆使した保健活動の推進など、新たな時代に対応した政策立案・情報発信能力が求められています。
特に、「データヘルス」の推進において、保健師には健康データの分析と活用を通じた科学的根拠に基づく政策立案が期待されています。
保健師の具体的な活動事例

このセクションでは、保健師の活動がどのように実践され、どのような成果を上げているのかを具体的な事例を通して紹介します。
実際の現場での取り組みから、保健師の役割と価値について理解を深めていきましょう。
地域における健康課題への取り組み:C市の事例
C市では、健康診断データの分析から、特に40〜50代男性の生活習慣病リスクが高いことが判明しました。
しかし、この年代は仕事が忙しく、平日の健康教室などには参加しにくいという課題がありました。
C市の保健師チームは、この課題に対応するため、まず詳細な状況分析を行いました。
健診データの詳細分析に加えて、対象となる男性へのグループインタビューを実施し、「仕事が忙しく時間がない」「健康への関心はあるが優先順位が低い」「一人では続かない」といった具体的な障壁を特定しました。
これらの分析結果を踏まえ、C市の保健師チームは「忙しい働き盛り世代でも参加しやすい健康づくり」をコンセプトに、以下のような取り組みを企画・実施しました。
まず、地元企業と連携し、ランチタイムや就業後の時間を活用した短時間の出前健康講座を実施しました。
15分程度のミニ講座と簡単な体操を組み合わせた「健康ミニ講座」は、忙しい社員でも参加しやすいと好評でした。
また、土日や平日夜間に「メンズヘルスチェック&相談会」を開催し、健康診断と個別相談を組み合わせたサービスを提供しました。
特に、ショッピングモールなど普段から人が集まる場所での開催が効果的でした。
さらに革新的だったのは、スマートフォンアプリを活用した健康管理支援プログラムの導入です。
歩数計機能や食事記録機能を持つアプリを活用し、参加者同士で競い合ったり励まし合ったりできるコミュニティ機能を取り入れることで、継続率の向上に成功しました。
家族を巻き込んだアプローチも効果的でした。
「夫婦で参加する健康クッキング教室」や「親子でチャレンジ!健康ミッション」など、家族全体で健康づくりに取り組めるプログラムを提供し、特に配偶者の協力を得ることで男性の行動変容を促進しました。
また、同年代の健康リーダーの育成にも力を入れました。
健康づくりに熱心な男性社員を「健康サポーター」として養成し、職場内での健康づくり活動の推進役として活躍してもらう取り組みです。
ピア(同僚)からの働きかけが効果的であることが実証されました。
この総合的な取り組みの結果、C市では40〜50代男性の特定健診受診率が3年間で12%向上し、メタボリックシンドロームの該当者・予備群の割合も8%減少するという成果が得られました。
特にスマートフォンアプリを活用した健康管理支援は好評で、参加者の約70%が3か月後も継続して利用し、そのうち約半数に血圧や体重の改善が見られました。
C市の保健師は「対象者のライフスタイルに合わせた健康支援の提供が鍵。特に働き盛り世代は『時間』『場所』『続けやすさ』へのハードルを下げることが重要です」と話しています。
このC市の取り組みは、対象者のライフスタイルに合わせた健康支援の提供という保健師の特性を活かした好事例であり、他の自治体からも視察が相次いでいます。
災害時の保健師活動:D県E町の事例
D県E町では、大規模な水害が発生し、多くの住民が避難所生活を余儀なくされました。
E町の保健師チームは、発災直後から積極的に保健活動を展開しました。
発災直後、E町の保健師チームはまず迅速に保健活動体制を確立しました。
保健師の班編成と役割分担を明確にし、全避難所をカバーする巡回計画を立てました。
また、近隣自治体や県からの応援保健師との連携体制も構築しました。
避難所での活動の第一歩は、避難者の健康状態のスクリーニングでした。
特に、高齢者や障害者、妊産婦、乳幼児など要配慮者の把握と優先的な支援を行いました。
平常時から準備していた要配慮者リストが大いに役立ちました。
次に重要だったのは、慢性疾患を持つ避難者の医療継続支援です。
高血圧や糖尿病などの持病がある避難者の服薬状況を確認し、薬を流失した方には医療救護班と連携して処方を受けられるよう調整しました。
また、人工透析患者などの医療依存度の高い方は、専門医療機関への搬送を優先的に行いました。
避難所における感染症予防対策も重要な活動でした。
保健師は避難所の環境アセスメントを行い、トイレや手洗い場の衛生状態の改善、食品衛生の管理、感染症予防のための健康教育などを実施しました。
避難所内の配置も、感染リスクを考慮して適切な間隔を確保するよう調整しました。
エコノミークラス症候群予防も喫緊の課題でした。
保健師は避難所内で定期的に簡単な体操の時間を設け、自ら指導することで避難者の運動不足を解消しました。
また、水分摂取の重要性や足首の運動方法などについての健康教育も行いました。
被災者の心のケアにも力を入れました。
保健師は避難所を定期的に巡回し、孤立しがちな被災者に積極的に声をかけ、話を聴く時間を設けました。
特に表面的には問題がないように見えても、実際には強いストレスを抱えている「隠れた要支援者」の発見に努めました。
また、子どもたちのストレス緩和のための遊びの場を設けたり、高齢者の生きがいづくりを支援したりするなど、心の健康を守るための様々な取り組みを行いました。
避難所から仮設住宅への移行期には、新たな健康課題への対応が必要となりました。
保健師は全仮設住宅を訪問し、入居者の健康状態や生活状況を把握するとともに、孤立予防のためのコミュニティづくり支援を行いました。
仮設住宅での「お茶会」や「健康教室」の開催は、住民同士のつながりを作る重要な機会となりました。
この活動を通じて、E町では避難所生活に起因する健康二次被害(肺炎や深部静脈血栓症など)の発生を最小限に抑えることができました。
また、仮設住宅での孤立死もゼロを達成しています。
E町の保健師長は「災害時こそ予防的視点が重要。避難所生活の長期化による二次的健康被害を防ぐことが私たち保健師の使命です。また、平常時からの備えと地域のつながりづくりが災害時の対応力を左右します」と語っています。
この事例は、健康危機管理における保健師の専門性と、地域のレジリエンス(回復力)を高める保健師活動の重要性を示しています。
母子保健活動の成功例:F市の事例
F市では、産後うつや育児不安を抱える母親の増加が課題となっていました。
F市の母子保健担当保健師チームは、この課題に対応するため、詳細な状況分析を行いました。
まず、F市の保健師チームは、乳児健診時の問診票や新生児訪問の記録から、産後の母親の心身の状態や育児環境に関するデータを収集・分析しました。
その結果、「産後1〜2か月の時期に育児不安が高まる」「核家族や転入者など育児サポートが得にくい母親のリスクが高い」「産後の疲労回復が十分でないケースが多い」といった具体的な課題が明らかになりました。
また、育児中の母親を対象としたフォーカスグループインタビューも実施し、「24時間休みなく続く育児の大変さ」「相談相手がいない孤独感」「母親としての自信のなさ」など、当事者の生の声も収集しました。
これらの分析結果を踏まえ、F市の保健師チームは「切れ目ない産前・産後支援」をコンセプトに、「産後ケア事業」を企画・立案しました。
この事業は、単なるサービス提供ではなく、地域全体で子育て家庭を支える仕組みづくりを目指したものでした。
具体的な取り組みとしては、まず全産婦を対象とした産後2週間健診と産後1か月健診の実施があります。
これにより、産後うつや育児不安の早期発見・早期対応が可能になりました。
健診では、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)を活用し、スコアが高い母親には保健師による継続的な支援を行う体制を整えました。
次に、産後ケアセンターの設置も重要な取り組みでした。
デイサービス型(日中数時間の利用)と宿泊型(1〜数泊の利用)の両方を提供し、母親が心身の休息をとりながら育児技術や知識を学べる場として機能しています。
特に、産後の疲労回復や授乳サポートに重点を置いたプログラムが好評でした。
また、訪問型の支援も充実させました。
助産師による訪問ケアを導入し、授乳指導や乳房ケア、産後の体調管理などの専門的サポートを家庭で受けられるようにしました。
特に、産後すぐの時期の訪問は、母乳育児の定着や育児不安の軽減に効果的でした。
さらに、先輩ママによるピアサポート体制の構築も革新的な取り組みでした。
育児経験のある母親を「産後サポーター」として養成し、同じ目線での相談や情報提供を行うピアサポート活動を展開しました。
同じ経験をした先輩ママからのアドバイスは、特に初産婦の安心感につながりました。
父親の育児参加促進も重要な柱でした。
「パパの育児教室」や「父子で参加する遊びのプログラム」など、父親が育児スキルを学び、自信を持って育児に参加できるプログラムを提供しました。
特に休日を活用したプログラム展開が参加率向上につながりました。
また、多職種連携による切れ目ない支援体制の整備にも力を入れました。
産婦人科、小児科、精神科、子育て支援センター、保育所など、関係機関の連携会議を定期的に開催し、情報共有と支援方針の統一を図りました。
特に産科医療機関との連携強化により、妊娠期からハイリスク家庭を把握し、分娩後の早期支援につなげる体制ができました。
この総合的な取り組みの結果、F市では産後うつのスクリーニング陽性率が導入前の18%から3年後には11%に減少し、「育児に自信が持てる」と答える母親の割合も65%から78%に増加しました。
また、産後1か月までの完全母乳育児率も10%向上するという成果が得られました。
特に評価されたのは、「予防」と「早期発見・早期対応」の視点を重視した点です。
産後うつや育児不安が深刻化する前に、早期の段階で支援することで、より効果的な結果が得られました。
F市の保健師は「単なる事業の実施ではなく、地域全体で子育てを支える文化づくりが重要。特に当事者である母親や家族の声を大切にし、実際のニーズに応える支援を考え続けることが成功の鍵です」と強調しています。
この取り組みは厚生労働省のモデル事業としても注目され、全国的に普及しつつあります。
F市の保健師チームは今後、産前からの切れ目ない支援のさらなる強化と、特に支援が届きにくいハイリスク家庭へのアプローチ強化を目指しています。
保健師の将来展望

保健師の役割や活動内容は、社会の変化に応じて常に発展しています。
このセクションでは、今後の保健師活動の方向性や、新たな課題への対応について考えていきます。
デジタル技術の活用と新たな保健活動
2025年の現在、保健活動においてもデジタル技術の活用が急速に進んでいます。
保健師の将来展望としては、こうした技術を効果的に活用した新たな保健活動の展開が期待されています。
オンライン保健指導・健康相談の普及は、特に注目される変化の一つです。
従来の対面型保健指導に加えて、ビデオ通話を活用したオンライン保健指導が普及しつつあります。
特に、就労世代や子育て世代など、時間的・地理的制約で従来のサービスにアクセスしにくかった層へのリーチが広がっています。
ウェアラブルデバイスを活用した健康管理支援も拡大しています。
活動量計や血圧計、血糖測定器などのウェアラブル・モバイルデバイスから得られるリアルタイムの健康データを活用した、個別化された保健指導が可能になっています。
例えば、歩数や活動量のデータに基づいて、個人の生活パターンに合わせた運動プログラムを提案するといった支援が行われています。
AIによる健康リスク予測と早期介入も進んでいます。
健診データや生活習慣データなどを機械学習で分析し、将来的な疾病リスクを予測する技術が発展しつつあります。
保健師は、こうしたAI予測に基づいて、特にリスクが高い対象者に優先的にアプローチする「予測型予防活動」を展開しています。
PHR(Personal Health Record)の活用促進も重要な取り組みです。
個人の健康情報を一元管理するPHRシステムを活用し、健診データの経年変化や服薬情報、生活習慣データなどを包括的に把握した上での保健指導が可能になっています。
特に、複数の医療機関にかかっている高齢者などの健康管理に効果を発揮しています。
バーチャル健康教室・自助グループの運営も新しい取り組みです。
オンライン上に健康教室や自助グループの場を設け、地理的な制約なく参加できる環境を提供しています。
特に、希少疾患の患者や、地方在住で同じ健康課題を持つピアに出会いにくい方々にとって、貴重な交流・学習の場となっています。
SNSを活用した健康情報発信も活発化しています。
保健師は、FacebookやTwitter、Instagramなどのソーシャルメディアを活用して、タイムリーな健康情報の発信や、健康キャンペーンの展開を行っています。
特に若年層へのリーチには、こうしたデジタルチャネルの活用が効果的です。
ビッグデータ解析による地域診断の高度化も進んでいます。
健診データだけでなく、レセプトデータ、介護データ、そして移動データや購買データなど、多様なビッグデータを組み合わせた地域診断が可能になりつつあります。
こうした多角的な分析により、より精緻な健康課題の把握と、効果的な介入ポイントの特定が可能になっています。
一方で、こうしたデジタル技術の活用には課題もあります。
特に、高齢者などデジタルデバイスの利用に不慣れな層へのデジタルデバイドの問題や、健康データのプライバシー保護、セキュリティ確保などの課題に対応することも重要です。
また、デジタル技術はあくまでツールであり、対面での関わりや人間関係の構築といった保健師活動の本質的価値を置き換えるものではないという認識も大切です。
保健師には、デジタルと対面のハイブリッドな支援モデルを構築し、それぞれの良さを活かした活動を展開することが求められています。
2025年の保健師は、こうした新たな技術を駆使しながらも、「人と人とのつながり」を基盤とした保健活動の本質を守り発展させていくという挑戦に取り組んでいます。
地域包括ケアシステムにおける保健師の役割拡大
地域包括ケアシステムの深化・推進が進む中で、保健師の役割はさらに拡大しています。
医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供される地域づくりの中で、予防の専門家である保健師の存在感はますます高まっています。
地域ケア会議のコーディネーターとしての役割は特に重要です。
地域ケア会議は、高齢者の個別課題の解決から地域課題の発見・解決までを目指す場として機能しており、保健師はその運営や多職種連携の促進役を担っています。
特に、個別ケースの検討から浮かび上がる地域課題を政策形成につなげるプロセスにおいて、保健師の「地域を診る力」が発揮されています。
介護予防・日常生活支援総合事業の推進者としての役割も重要です。
総合事業は、介護予防と生活支援を一体的に提供する仕組みとして発展しており、保健師はその企画・運営・評価の中心的役割を担っています。
特に、住民主体の通いの場の創出や、地域の多様な主体による生活支援サービスの開発において、保健師のコーディネート機能が活かされています。
在宅医療・介護連携の調整役としての役割も拡大しています。
医療と介護の連携は地域包括ケアの基盤であり、保健師は両分野の知識と経験を持つ専門職として、両者の「架け橋」となる役割を果たしています。
特に、退院支援や看取りの場面では、医療と介護の連携調整が重要であり、保健師の調整力が発揮されています。
認知症初期集中支援チームのメンバーとしての役割も注目されています。
認知症の早期発見・早期対応を目指すこのチームでは、保健師は医療と介護の連携や、本人・家族への支援において重要な役割を担っています。
特に、受診拒否や介護サービス利用への抵抗感がある事例では、保健師の訪問による継続的な関わりが効果を発揮しています。
住民主体の通いの場づくりの支援者としての役割も重要です。
介護予防や社会参加の場としての「通いの場」を住民主体で運営・拡大していくための支援において、保健師は住民のエンパワメントを促す役割を担っています。
特に、「やらされ感」ではなく住民自身の「やりがい」を大切にした支援が重要です。
地域共生社会の実現に向けた多機関連携の推進者としての役割も拡大しています。
高齢者、障害者、子育て世帯など世代や分野を超えた包括的支援体制の構築において、保健師は分野横断的な視点を持つ専門職として重要な役割を担っています。
特に、複合的な課題を抱える世帯への「断らない相談支援」の実現に向けた多機関連携の推進が求められています。
複合的課題を持つ世帯への包括的支援の調整役としての役割も重要です。
8050問題(80代の親と50代のひきこもりの子の問題)やダブルケア(育児と介護の同時進行)など、複合的な課題を抱える世帯への支援では、分野横断的な調整が必要であり、保健師の包括的視点が活かされています。
特に注目されているのは、「かかりつけ保健師」としての機能です。
地区担当制を基盤に、住民の健康課題を生涯にわたって継続的に支援する体制の構築が進んでいます。
例えば、母子保健で関わった家庭に、その後も地区担当保健師として継続的に関わり、ライフステージの変化に応じた支援を提供するモデルが広がっています。
2025年の現在、地域包括ケアシステムは高齢者だけでなく、障害者や子育て世帯も含めた「全世代型」への発展が進んでおり、保健師にはライフステージを超えた包括的な視点での活動が期待されています。
特に「予防」の視点を持ちながら、地域住民の「暮らし」全体を支える仕組みづくりにおいて、保健師の役割はますます重要となっています。
グローバルヘルスへの貢献
日本の保健師活動のノウハウは、グローバルヘルスの文脈でも大きな価値を持っています。
特に、地域に根ざした予防活動や、母子保健システムは国際的にも高く評価されており、保健師の国際的な活躍の場も広がっています。
JICAなどを通じた国際協力活動は、保健師のグローバルな貢献の重要な形態です。
アジアやアフリカなどの開発途上国に派遣された日本の保健師は、現地の公衆衛生人材の育成や地域保健システムの構築支援などに携わっています。
特に母子保健の分野では、日本の乳幼児健診システムや母子健康手帳の導入支援など、日本の経験を活かした協力が行われています。
WHO等国際機関での政策立案への参画も進んでいます。
世界保健機関(WHO)や国連児童基金(UNICEF)などの国際機関では、公衆衛生の専門家として日本の保健師が活躍する場が広がっています。
特に、プライマリヘルスケアの推進や健康の社会的決定要因への取り組みなど、グローバルヘルス政策の形成に日本の保健師の知見が活かされています。
途上国の公衆衛生人材育成支援も重要な貢献分野です。
JICA研修などを通じて来日する途上国の公衆衛生人材に対して、日本の保健師が講師やメンターとして指導にあたるケースが増えています。
また、海外の大学や研修機関と連携した人材育成プログラムに日本の保健師が参画するケースも増加しています。
災害時の国際緊急援助チームへの参加も注目される活動です。
大規模災害発生時には、国際緊急援助隊の一員として日本の保健師が被災地に派遣され、保健医療支援活動に従事するケースが増えています。
特に避難所における健康管理や感染症対策など、日本の災害対応の経験を活かした支援が評価されています。
グローバルヘルスに関する研究活動も活発化しています。
大学や研究機関に所属する保健師研究者が、国際共同研究や比較研究を通じて、グローバルヘルスの課題解決に貢献するケースが増えています。
特に、高齢化対策や地域包括ケアなど、日本が先行的に直面している課題に関する知見の国際的な共有が重要視されています。
国際的な保健師ネットワークの構築も進んでいます。
国際会議やオンラインプラットフォームを通じて、各国の地域保健従事者(コミュニティヘルスワーカーなど)と日本の保健師の交流が活発化しています。
こうしたネットワークを通じた相互学習や実践知の共有が、グローバルヘルスの推進に貢献しています。
多文化共生社会における外国人住民への保健活動も重要な課題です。
日本国内においても、在留外国人の増加に伴い、文化的背景や言語の異なる住民への保健サービス提供が課題となっています。
保健師は、通訳サービスの活用や多言語資料の作成、文化的感受性を持ったアプローチなど、多文化に対応した保健活動のあり方を模索しています。
日本の高齢化対策や感染症対策の経験は、今後同様の課題に直面する国々にとって貴重なモデルとなります。
特に、地域保健を基盤とした予防活動や、医療・福祉・介護の連携システムは、国際的に注目される日本のモデルです。
保健師には、そうした日本の公衆衛生の知見を国際社会に発信していく役割も期待されています。
2025年の現在、新興感染症への対応や気候変動に伴う健康課題など、グローバルな健康危機が増加する中で、国境を越えた協力の重要性はますます高まっています。
保健師には、地域に根ざした活動の経験と、グローバルな視点を融合させた「グローカル」な実践が期待されています。
おしえてカンゴさん!Q&Aセクション
保健師に関する疑問や質問にお答えするコーナーです。
よくある質問とその回答をQ&A形式でご紹介します。
Q1: 保健師になるためには、どのような教育や資格が必要ですか?
A1: 保健師になるためには、まず看護師の国家資格を取得した上で、保健師の国家試験に合格する必要があります。
教育課程としては、大学の看護学部で保健師養成課程(選択制の場合あり)を修了するか、看護師資格取得後に保健師養成学校(1年課程)で学ぶ方法があります。
大学院の公衆衛生看護学専攻で学ぶ道もあります。
カリキュラムでは、公衆衛生看護学、疫学、保健統計学、健康教育学などを学び、地域での実習も重視されます。
2025年現在、保健師の人材需要は高く、特に行政機関や産業保健分野での求人が多い状況です。
専門性を高めるために、卒後教育として認定保健師や専門保健師などの資格取得を目指す方も増えています。
Q2: 保健師と看護師の仕事の違いは何ですか?
A2: 保健師と看護師の最大の違いは、対象と活動の場です。
看護師は主に医療機関で病気や怪我を持つ「患者」を対象に、診療の補助や療養上の世話を行いますが、保健師は地域社会や職場などで健康な人も含めた「生活者」全体を対象に、予防活動や健康増進を行います。
また、看護師が個人へのケアを中心とするのに対し、保健師は個人だけでなく家族や地域全体へのアプローチを行う点も特徴的です。
活動の時間軸も異なり、看護師が現在の健康問題に対応するのに対し、保健師は将来の健康リスクも視野に入れた予防的な活動を展開します。
さらに、保健師は地域の健康課題を政策につなげる役割も担っており、より社会的・公共的な視点での活動が求められます。
両者はお互いに連携し、それぞれの専門性を活かして人々の健康を支えています。
Q3: 保健師が活躍できる職場にはどのようなところがありますか?
A3: 保健師の活躍の場は、大きく分けて以下のような職場があります。
一番多いのは行政機関で、市町村保健センターや保健所、福祉事務所などで地域住民の健康づくりや母子保健、感染症対策などに従事します。
次に多いのが企業や事業所の健康管理部門で、従業員の健康管理や健康増進活動を担当する産業保健師として働きます。
また、医療機関の地域連携部門や訪問看護ステーションで地域と医療をつなぐ役割を担ったり、健康保険組合でデータヘルス計画の推進や特定保健指導に従事したりする保健師も増えています。
学校や大学の保健室で学校保健活動に従事する道もあります。
さらに、近年は介護予防や地域包括ケアの推進に関わる地域包括支援センターや、健康増進事業を展開する健康関連企業などでも保健師の活躍が広がっています。
研究者として大学や研究機関で働く道も開かれています。
Q4: 地域での保健師活動で大切にしていることは何ですか?
A4: 地域での保健師活動で大切にしているのは、まず「住民目線」で考え行動することです。
専門職としての知識や技術を持ちながらも、住民の生活実態や価値観を尊重し、押し付けではない支援を心がけています。
次に「予防的視点」も重要です。
問題が顕在化する前に予防的に関わることで、健康被害を最小限に抑える取り組みを重視しています。
また、「地域の強みを活かす」という姿勢も大切にしています。
課題ばかりに目を向けるのではなく、地域の資源や住民の力を見出し、それを活かした活動を展開しています。
「継続性」も保健師活動の重要な価値です。
一過性のイベントではなく、持続可能な健康づくりの仕組みを作ることを目指しています。
そして何より「つながりを大切にする」ことが基本です。
住民同士のつながり、専門職同士のつながり、そして住民と専門職のつながりを通じて、健康を支える地域のネットワークを構築しています。
Q5: 保健師の仕事のやりがいと難しさは何ですか?
A5: 保健師の仕事の最大のやりがいは、地域全体の健康レベルの向上に貢献できることです。
個人の変化だけでなく、地域の健康文化が育まれていく過程に関われるのは、保健師ならではの喜びです。
また、乳幼児から高齢者まで、ライフステージ全体を通した支援ができることや、健康課題を政策レベルで解決できる可能性があることも魅力です。
一方、難しさとしては、成果が見えにくく時間がかかることが挙げられます。
予防活動の効果は数値化しにくく、長い時間をかけて徐々に現れることも多いため、短期的な評価が難しい側面があります。
また、様々な価値観や生活背景を持つ住民との関わりの中で、「正解」のない課題に向き合うことの難しさもあります。
さらに、近年は複合的な課題を抱える住民への対応や、多職種連携のコーディネーションなど、高度な調整能力が求められることも難しさの一つです。
しかし、こうした難しさを乗り越えたときの達成感こそが、保健師の仕事の醍醐味と言えるでしょう。
Q6: 今後、保健師に特に求められる能力や役割は何だと思いますか?
A6: 今後、保健師に特に求められる能力としては、まず「データ分析・活用能力」が挙げられます。
健康データやビッグデータを分析し、エビデンスに基づいた保健活動を展開する力がますます重要になるでしょう。
次に「多様性への対応力」も重要です。
多文化共生や価値観の多様化が進む中で、様々な背景を持つ人々に対応できる柔軟性と文化的感受性が求められます。
「デジタル技術の活用力」も欠かせません。
オンライン保健指導やウェアラブルデバイスのデータ活用など、デジタル技術を駆使した新たな保健活動が広がっています。
また、「コーディネーション能力」もさらに重要性を増すでしょう。
複雑化する健康課題に対応するため、多職種・多機関の連携を促進するコーディネーターとしての役割が期待されています。
さらに「政策立案能力」も必要です。
現場の健康課題を政策レベルで解決するための提言力や、事業の企画・評価能力が重視されています。
そして何より「変化への適応力」が大切です。
社会環境や健康課題が急速に変化する中で、常に学び続け、新たな課題に対応できる柔軟性と創造性が今後の保健師にとって不可欠な能力となるでしょう。
こうした能力を備えた保健師は、これからの地域包括ケアシステムや地域共生社会の実現において、中核的な役割を担うことが期待されています。
まとめ
保健師は地域の健康を守る重要な専門職であり、予防活動を中心に幅広い役割を担っています。
個人から地域全体まで、多様な対象へのアプローチと、予防・早期発見・健康増進の視点が特徴です。
社会の変化に伴い、多職種連携のコーディネーターや政策立案への参画など、保健師の役割はさらに拡大しています。
これからも保健師は地域の健康づくりの中核として、人々の健康と幸せを支える重要な存在であり続けるでしょう。
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