

医療の現場において、患者さんの症状を正確に観察し、適切に記録・報告することは看護師の重要な責務です。
本記事では、効果的な症状観察のポイントと実践的なアプローチ方法を、具体的な事例を交えながら詳しく解説します。
臨床経験豊富なベテラン看護師の知見も取り入れながら、現場で即実践できる観察技術をお伝えします。
この記事で分かること
- 系統的な症状観察の具体的な方法と実践のポイント
- 患者の重要な変化を見逃さないための観察スキル
- 看護記録の効果的な書き方と報告の基準と実例
- ケースごとの具体的な観察ポイントと対応方法
この記事を読んでほしい人
- 臨床経験1-3年目の看護師
- 症状観察のスキルアップを目指している看護師
- 看護記録や報告に不安を感じている看護師
- 確実な症状把握と的確な判断力を身につけたい看護師
系統的な症状観察の基本アプローチ

患者さんの症状を的確に把握するためには、体系的な観察方法の確立が不可欠です。
このセクションでは、バイタルサインの評価から患者さんとのコミュニケーションまで、確実な症状観察に必要な基本的アプローチを詳しく解説します。
バイタルサインの包括的評価
バイタルサインは患者さんの生命徴候を示す重要な指標です。正確な測定と適切な評価により、患者さんの状態変化を早期に発見することができます。
体温測定と評価のポイント
体温は感染症や炎症性疾患の重要な指標となります。
測定部位による特徴を理解し、状況に応じた適切な測定方法を選択することが重要です。腋窩温の場合は10分間の測定を基本とし、電子体温計使用時でも安定するまで保持します。
発熱時は解熱剤の使用タイミングと効果も併せて観察します。また、低体温にも注意が必要で、特に高齢者や周術期の患者さんでは体温管理が重要となります。
脈拍測定の重要ポイント
脈拍は心機能を反映する重要な指標です。回数だけでなく、リズム、緊張度、左右差なども観察します。
不整脈の有無や、頻脈・徐脈の判断基準を理解し、異常時の報告基準を明確にしておくことが必要です。運動や食事、薬剤の影響も考慮に入れ、総合的に評価します。
血圧測定のテクニック
血圧は循環動態を反映する重要な指標です。カフの巻き方、測定時の体位、安静時間の確保など、正確な測定のための基本手技を確実に実施します。
また、体位変換時の血圧変動にも注意を払い、特に起立性低血圧のリスクがある患者さんでは慎重に観察します。
高血圧の患者さんでは、日内変動のパターンや服薬との関連も重要な観察ポイントとなります。
呼吸状態の詳細観察
呼吸の観察では、回数だけでなく、深さ、リズム、呼吸音、呼吸パターン、呼吸補助筋の使用有無なども含めて総合的に評価します。
また、SpO2値や呼吸困難感の有無、痰の性状なども重要な観察項目となります。呼吸器疾患を持つ患者さんでは、労作時の呼吸状態の変化も注意深く観察する必要があります。
意識レベルの評価方法
意識レベルの評価はJCSやGCSなどの客観的な指標を用いて行います。
評価の際は、声かけに対する反応、指示動作の理解度、見当識の確認なども含めて総合的に判断します。
意識レベルの変化は、様々な病態の初期症状として重要な意味を持つため、わずかな変化も見逃さないよう注意が必要です。
視診・聴診・触診の効果的活用
フィジカルアセスメントの基本となる視診・聴診・触診を効果的に組み合わせることで、より正確な症状把握が可能となります。
系統的な視診の実施方法
視診では、全身状態から局所の変化まで、系統的な観察を心がけます。皮膚の色調、浮腫の有無、発赤や発疹の状態、創部の状態などを詳細に観察します。
また、表情や姿勢、動作の特徴なども重要な観察ポイントとなります。
効果的な聴診のポイント
聴診器を使用した観察では、呼吸音、心音、腸蠕動音などの聴取を行います。
呼吸音では左右差や異常音の有無を確認し、心音では不整脈や雑音の有無を評価します。腸蠕動音は腸管機能の指標として重要で、術後や消化器症状のある患者さんでは特に注意深く観察します。
触診による状態把握
触診では体温分布、浮腫の程度、筋緊張、腹部の張りなどを評価します。特に腹部触診では、圧痛の有無や腫瘤の触知、腹壁の緊張度などを慎重に確認します。
また、四肢の冷感や末梢循環の状態も重要な観察項目となります。
患者とのコミュニケーション
効果的な症状観察には、患者さんとの適切なコミュニケーションが欠かせません。
症状の聴取方法
患者さんからの症状の聴取では、発症時期、性状、程度、増悪・軽快因子などを具体的に確認します。
痛みを訴える場合は、部位や性質、強さ、持続時間などを詳しく聞き取ります。また、日常生活への影響や患者さんの不安についても把握することが重要です。
非言語的コミュニケーションの活用
表情や仕草、声のトーン、態度などの非言語的な情報も重要な観察ポイントとなります。特に、痛みや不安を言葉で表現することが難しい患者さんの場合、これらの非言語的なサインを見逃さないよう注意が必要です。
また、文化的背景や価値観の違いにも配慮しながら、信頼関係の構築に努めます。
重要症状の把握と優先順位付け

患者さんの安全と適切なケアのために、重要な症状の早期発見と優先順位の判断が重要です。
このセクションでは、緊急性の高い症状と継続的なモニタリングが必要な症状について詳しく解説します。
緊急性の高い症状
緊急性の高い症状を見逃さないことは、患者さんの生命予後に直結します。迅速な対応が求められる症状について、その特徴と観察のポイントを説明します。
意識レベルの急激な変化
意識レベルの急激な低下は、脳血管障害や代謝異常など、重篤な病態を示唆する可能性があります。
JCSやGCSでの評価に加え、瞳孔径や対光反射、麻痺の有無なども併せて観察します。バイタルサインの変化や、発症前後の状況も重要な情報となります。
急激な血圧低下とショック症状
血圧の急激な低下は、出血や心原性ショック、アナフィラキシーなどの可能性があります。
血圧値だけでなく、脈拍の状態、末梢循環、意識レベル、皮膚の冷感や湿潤なども注意深く観察します。また、原因となり得る要因(出血、薬剤、感染など)の確認も重要です。
呼吸困難と呼吸状態の悪化
急性呼吸不全は生命に直結する緊急事態です。
呼吸数の増加や減少、SpO2値の低下、呼吸補助筋の使用、チアノーゼの出現などを観察します。
また、痰の性状や量、喘鳴の有無なども重要な観察項目となります。基礎疾患や投薬内容も考慮しながら、総合的に評価を行います。
重度の疼痛
激しい痛みは、重篤な病態の初期症状である可能性があります。
特に、突然の胸痛や激しい頭痛、急性腹症などは要注意です。痛みの部位、性質、強度に加えて、随伴症状や疼痛の経時的変化も観察します。
また、疼痛による循環動態や呼吸状態への影響にも注意を払います。
継続的なモニタリングが必要な症状
慢性疾患の管理や術後の経過観察では、症状の継続的なモニタリングが重要となります。
慢性疾患の増悪兆候
慢性疾患を持つ患者さんでは、症状の増悪を示唆する微妙な変化を見逃さないことが重要です。
糖尿病患者さんの血糖値の変動、心不全患者さんの体重増加や浮腫の進行、COPD患者さんの呼吸状態の変化などを、定期的かつ丁寧に観察します。
また、服薬状況や生活習慣の変化との関連も重要な観察ポイントとなります。
術後の回復経過
術後の観察では、バイタルサインの安定性、創部の状態、ドレーンからの排液、疼痛コントロール、離床の進捗状況などを継続的に評価します。
また、合併症の予防と早期発見のため、深部静脈血栓症や術後感染のリスク因子にも注意を払います。
投薬後の副作用モニタリング
薬剤投与後は、期待される効果と同時に、副作用の出現にも注意が必要です。
特に、新規に開始された薬剤や、ハイリスク薬(抗凝固薬、降圧薬、糖尿病薬など)の使用時は慎重なモニタリングが求められます。
バイタルサインの変化、皮疹や消化器症状の出現、意識レベルの変化などを注意深く観察します。
効果的な記録と報告の実践
適切な症状観察は、正確な記録と報告によって初めて医療チームで共有できる貴重な情報となります。このセクションでは、効果的な記録方法と、適切な報告の基準について解説します。
SOAP形式による記録
看護記録の基本となるSOAP形式について、実践的な記載方法を説明します。
主観的情報(Subjective)の記載方法
患者さんからの訴えや家族からの情報を、できるだけ具体的に記載します。
「痛い」「つらい」といった表現をそのまま記載し、その程度や持続時間、増悪・軽快因子なども含めて記録します。発言をそのまま記載する場合は「」(かぎかっこ)を使用し、客観的な観察事項と区別します。
客観的情報(Objective)の記載のポイント
測定値や観察結果など、客観的な事実を数値や具体的な状態として記載します。
バイタルサインの値、身体所見、検査結果などを、時系列で追えるように記録します。観察した事実と解釈を明確に区別し、根拠となる所見を具体的に記載することが重要です。
アセスメント(Assessment)の記載要点
観察した情報を統合し、患者さんの状態を適切に評価します。
バイタルサインの変動、症状の経過、検査結果などから、患者さんの現状を総合的にアセスメントします。その際、根拠となる情報を明確に示し、アセスメントの妥当性を担保します。
また、前回のアセスメントとの比較や変化についても言及することで、経時的な状態変化を把握しやすくします。
計画(Plan)の具体的な記載
アセスメントに基づいて立案した看護計画を具体的に記載します。
短期目標と長期目標を明確にし、具体的な看護介入の内容とその優先順位を示します。
また、計画の評価時期や評価指標についても明記し、継続的なケアの質の向上につなげます。
報告すべき変化の基準
医療チームでの情報共有を円滑にするため、報告基準を明確にしておくことが重要です。
バイタルサインの変動基準
各項目における報告基準値を把握し、速やかな報告ができるよう準備します。
体温38.5度以上の発熱、収縮期血圧の20%以上の変動、SpO2値90%以下、心拍数120回/分以上または50回/分以下など、施設のプロトコルに基づいた報告基準を理解しておくことが重要です。
また、患者さんの基礎疾患や治療内容によって、個別の報告基準が設定されている場合もあります。
新規症状出現時の報告
新たな症状が出現した場合の報告手順を理解しておきます。
特に、意識レベルの変化、急性の痛み、呼吸困難、出血、アレルギー症状などは、速やかな報告が必要です。
症状の程度や発症時期、随伴症状なども含めて報告することで、適切な対応につなげることができます。
治療効果の評価に関する報告
投薬や処置による治療効果の評価も重要な報告事項です。
疼痛コントロールの状況、解熱効果、血圧コントロール、創傷治癒の経過など、治療効果を示す指標の変化を適切に報告します。
また、期待される効果が得られない場合や、副作用が疑われる場合も、速やかに報告する必要があります。
ケーススタディ:効果的な症状観察の実例

実際の臨床現場での症状観察について、具体的な事例を通して解説します。各ケースでは観察のポイントと実践的な対応方法を詳しく説明します。
Case A:術後患者の観察
患者背景と手術内容
60歳男性、胃がんに対する幽門側胃切除術後1日目の患者さんです。高血圧の既往があり、術前からARBを内服しています。術中出血量は200ml、手術時間は3時間でした。
観察の重点項目
術後の全身状態の安定性を確認するため、バイタルサインを1時間ごとに測定しています。
特に血圧の変動、心拍数、体温の推移を注意深く観察します。また、腹部症状や創部の状態、ドレーンからの排液量と性状も重要な観察項目となります。
フィジカルアセスメントの実際
創部の状態は、発赤や熱感はなく、浸出液も少量です。腹部は軽度膨満していますが、腸蠕動音は聴取可能です。
深呼吸時に創部痛の訴えがあり、疼痛スケールでNRS6程度とのことで、指示された鎮痛薬を使用しています。
経過観察のポイントと対応
術後の疼痛コントロールは良好で、予防的抗菌薬の投与も計画通り実施されています。
術後6時間目から水分摂取を開始し、嘔気や嘔吐なく経過しています。
術後1日目の血液検査では炎症反応の軽度上昇を認めますが、その他の異常値は認められません。
Case B:慢性心不全患者の観察
患者背景と現病歴
75歳女性、慢性心不全の急性増悪で入院となった患者さんです。自宅で労作時の息切れと下肢の浮腫が増強し、夜間の起座呼吸も出現したため受診されました。基礎疾患に高血圧と糖尿病があります。
観察の重点項目と実施内容
呼吸状態の観察が最重要です。呼吸数、SpO2値、呼吸音に加えて、労作時の息切れの程度や酸素需要の変化を注意深く観察します。
また、心不全の増悪兆候として、下肢浮腫の程度、夜間の呼吸状態、体重の変動なども重要な観察項目となります。
症状の評価と介入
利尿薬投与後の尿量と体重の変化を経時的に記録し、心不全治療の効果を評価します。
また、心不全手帳を活用して、日々の症状変化を患者さんと共有しながら観察を行います。
Case C:救急搬送患者の初期観察
患者背景と来院時の状況
45歳男性、職場で突然の激しい腹痛を訴え救急搬送された患者さんです。
来院時、冷汗を伴う強い上腹部痛を訴え、痛みのためほとんど動けない状態です。既往歴は特になく、普段は健康とのことです。
初期評価と緊急度判断
来院時のバイタルサインは、血圧165/95mmHg、心拍数112/分、体温37.2度、SpO2 98%(室内気)です。腹部全体に圧痛を認め、特に上腹部で強く、筋性防御も認められます。嘔気があり、発症後2回の嘔吐がありました。
経時的観察と対応
痛みの性状は持続的な鈍痛で、体動で増強します。血液検査では膵酵素の上昇を認め、急性膵炎が疑われます。30分ごとのバイタルサイン測定と、疼痛スケール、腹部症状の変化を詳細に観察します。
治療開始後の観察ポイント
大量補液療法開始後は、尿量、浮腫の有無、呼吸状態の変化に特に注意を払います。また、疼痛コントロールの効果判定と、腹部症状の推移を慎重に観察します。
おしえてカンゴさん!よくある質問
現場で実際に直面する疑問や課題について、Q&A形式でわかりやすく解説します。経験豊富な看護師の視点から、具体的なアドバイスをお届けします。
観察技術の基本
Q1:夜勤時の観察ポイントは何ですか?
夜間の症状観察では、睡眠状態の質、不安の有無、痛みのコントロール状況を重点的に観察します。
また、夜間特有の症状悪化(呼吸困難感の増強、不穏の出現など)にも注意が必要です。定期巡回時は、睡眠を妨げないよう配慮しながら、呼吸状態やバイタルサインの確認を行います。
Q2:観察した内容をどのように記録すればよいですか?
客観的事実と主観的判断を明確に区別し、時系列で変化がわかるように記載することが重要です。SOAP形式を活用し、観察した症状や徴候、実施したケア、その反応を具体的に記録します。
特に異常値や変化が見られた場合は、その経過と対応を詳細に記載します。
Q3:患者さんの些細な変化を見逃さないコツはありますか?
患者さんとの日常的なコミュニケーションを大切にし、いつもの状態をよく把握しておくことが重要です。
また、定期的な観察時には、前回との比較を意識しながら系統的に観察を行います。気になる変化があれば、その場で詳しく観察し、必要に応じて再評価を行います。
Q4:バイタルサインの正確な測定方法を教えてください。
測定値の信頼性を高めるため、適切な測定環境を整えることが重要です。
体温は安静後10分以上経過してから測定し、血圧は適切なカフサイズを選択して心臓の高さで測定します。
脈拍は1分間完全に測定し、不整脈の有無も確認します。測定値に疑問を感じた場合は、必ず再測定を行います。
Q5:観察内容を他のスタッフに確実に申し送るコツはありますか?
重要な情報を漏れなく伝えるため、SBAR(状況、背景、評価、提案)の形式を活用します。
特に、バイタルサインの変動、新たな症状の出現、治療への反応などは優先的に報告します。
また、記録した内容と口頭での申し送り内容に差異が生じないよう注意が必要です。
Q6:観察技術を向上させるために、どのような学習が効果的ですか?
基礎的な解剖生理の知識を深めることが重要です。
また、疾患の病態生理を理解し、予測される症状や合併症について学習することで、観察の視点が広がります。
カンファレンスでの症例検討や、経験豊富な先輩看護師からのアドバイスを積極的に取り入れることも効果的です。
Q7:アセスメントを深めるためのポイントを教えてください。
観察した情報を関連付けながら分析することが重要です。
例えば、バイタルサインの変動と症状の関係性、投薬内容と副作用の可能性、患者さんの生活習慣と症状の増悪因子などを総合的に評価します。
また、基礎疾患や既往歴も考慮に入れたアセスメントを行います。
Q8:患者さんの不安や苦痛をより正確に観察するコツはありますか?
表情や態度、声のトーンなどの非言語的なサインに注意を払うことが大切です。
また、日常的なコミュニケーションを通じて信頼関係を構築し、患者さんが不安や苦痛を表出しやすい環境を整えます。
必要に応じて、痛みスケールや不安スケールなどの評価ツールも活用します。
Q9:急変の予兆を見逃さないために気をつけることは?
バイタルサインの微細な変化や、普段と異なる症状の出現に注意を払います。
特に、呼吸状態の変化、意識レベルの変動、循環動態の不安定さなどは要注意です。また、患者さんやご家族からの「いつもと様子が違う」という訴えは、重要な情報として捉えます。
まとめ

効果的な症状観察は、患者さんの安全と適切なケアの提供に不可欠です。
系統的な観察方法、正確な記録、適切な報告を実践することで、質の高い看護ケアを提供することができます。
さらなる観察力向上のためには、継続的な学習と経験の積み重ねが重要です。
より詳しい看護技術や症例について学びたい方は、【はたらく看護師さん】をご活用ください。
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