
在宅医療のニーズが高まる中、介護保険による訪問看護サービスは、医療と介護の橋渡し役として重要性を増しています。2025年度の制度改正では、より利用者の状態に応じた柔軟なサービス提供が可能となり、医療依存度の高い方への支援体制も強化されました。
本記事では、介護保険における訪問看護の制度概要から、実際の利用手続き、費用計算の方法まで、現場の訪問看護師の声を交えながら分かりやすく解説します。
訪問看護の利用を検討されている方はもちろん、すでにサービスを利用している方や、在宅介護に関わる医療・介護専門職の方々にとっても、実践的で有益な情報をお届けします。
制度を正しく理解し、効果的に活用することで、より充実した在宅療養生活を実現しましょう。
この記事で分かること
- 2025年度の介護保険における訪問看護の制度概要と利用条件
- 要介護認定から利用開始までの具体的な手続きの流れ
- 介護報酬改定後の自己負担額と利用限度額の計算方法
- 医療保険との併用方法とサービス調整のポイント
- 実際の利用事例と効果的な活用方法
この記事を読んでほしい人
- 訪問看護の利用を検討している方とそのご家族の方
- 要介護認定をこれから受ける予定の方
- 既に訪問看護を利用していて制度の詳細を知りたい方
- 在宅介護に関わる医療・介護専門職の方
- 2025年度の制度改正の内容を確認したい方
介護保険における訪問看護とは

訪問看護は、介護を必要とする方の在宅生活を医療的な側面から支援するサービスです。利用者の自宅に看護師等が訪問し、医療処置やケアを提供することで、安心して在宅療養生活を送ることができます。
ここでは、サービスの基本的な内容から対象者の条件まで詳しく紹介していきます。
訪問看護サービスの基本的な枠組み
介護保険における訪問看護は、医師の指示に基づいて提供される医療サービスです。利用者の状態に応じて、医療処置から日常生活の支援まで、幅広いケアを提供します。
訪問看護で提供される主なケア内容
病状の観察や医療処置を中心に、日常生活の支援や家族への指導まで、包括的なケアを提供します。医療機器の管理や服薬指導なども重要な役割となっています。
訪問看護サービスの具体的な内容
訪問看護では、看護師が医師の指示書に基づいて、利用者の自宅を訪問してケアを提供します。病状の観察から医療処置、リハビリテーション指導まで、利用者の状態に合わせた多岐にわたるサービスを展開します。
日常的な健康管理
看護師は訪問時にバイタルサインの測定や全身状態の観察を行い、体調の変化を早期に発見します。また、普段の生活習慣や食事内容についても確認し、必要に応じて生活指導を行います。
医療処置とケア
医療処置には点滴管理、カテーテル管理、褥瘡処置などが含まれます。これらの処置は医師の指示のもと、熟練した看護師が安全に実施します。また、状態に変化があった際は速やかに医師に報告し、指示を仰ぎます。
在宅リハビリテーション支援
日常生活動作の維持・改善を目的としたリハビリテーション指導も行います。理学療法士や作業療法士と連携しながら、利用者の状態に合わせた運動プログラムを提案します。
利用対象者の条件
訪問看護サービスを利用するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。主治医からの指示書取得と要介護認定が基本的な条件となります。
要介護認定の基準
要介護認定は市区町村に申請を行い、調査員による訪問調査と主治医意見書をもとに判定されます。要支援1から要介護5までの認定区分に応じて、利用できるサービスの内容や範囲が決定されます。
主治医の指示書
訪問看護を利用するためには、主治医からの指示書が必要不可欠です。指示書には利用者の病状や必要な処置、注意事項などが記載されており、これに基づいて訪問看護師がケアを提供します。
医療保険との違いと併用の方法
介護保険による訪問看護は、原則として要介護者の在宅療養を支援するためのサービスです。一方、医療保険による訪問看護は、急性期の治療や特定の医療処置が必要な場合に利用されます。
併用が可能なケース
特定の疾患や医療処置が必要な場合は、介護保険と医療保険の訪問看護を併用することができます。例えば、がん末期の利用者や人工呼吸器を使用している方などが該当します。
給付の調整方法
介護保険と医療保険の併用時は、それぞれの保険制度における給付限度額や自己負担額に注意が必要です。ケアマネージャーや訪問看護ステーションと相談しながら、適切なサービス利用計画を立てることが重要です。
利用開始までの手続き

訪問看護サービスの利用を開始するまでには、いくつかの重要な手続きがあります。
ここでは、申請から実際のサービス開始までの流れを、具体的な手順とともに説明していきます。
要介護認定の申請方法
要介護認定は、介護保険サービスを利用するための最初のステップです。申請は本人または家族が市区町村の介護保険窓口で行います。
申請に必要な書類の準備
申請には介護保険証や健康保険証、マイナンバーカードなどの本人確認書類が必要です。また、すでに介護サービスを利用している場合は、現在の利用状況を示す資料も準備します。
認定調査の実施
申請後、認定調査員が自宅を訪問し、心身の状態や日常生活の様子を確認します。調査項目は全国共通の基準に基づいており、客観的な評価が行われます。
主治医意見書の取得
主治医意見書は、かかりつけ医が作成する重要な医療情報です。訪問看護の必要性や注意点が詳しく記載されます。
意見書の記載内容
主治医意見書には、現在の病状や治療状況、必要な医療処置、日常生活上の留意点などが記載されます。この情報は、要介護認定の判定材料としても使用されます。
医療機関との連携方法
主治医意見書の作成を依頼する際は、普段の診療時に相談するのがよいでしょう。必要に応じて、訪問看護の利用目的や希望する支援内容を具体的に伝えます。
ケアプラン作成のプロセス
ケアプランは、介護支援専門員(ケアマネージャー)が中心となって作成する介護サービスの利用計画です。
ケアマネージャーの選定
ケアマネージャーは、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所に所属しています。相談しやすい方を選ぶことが重要です。
サービス担当者会議の開催
ケアプラン作成にあたっては、本人、家族、医療・介護の専門職が参加するサービス担当者会議が開催されます。ここで具体的なサービス内容や頻度を検討します。
訪問看護ステーション選定のポイント
訪問看護ステーションの選択は、サービスの質に直接影響する重要な決定です。
事業所の評価基準
看護師の人数や経験年数、24時間対応の可否、特定の医療処置への対応能力などを確認します。また、利用者の自宅からの距離も重要な判断材料となります。
体験利用と相談
多くの訪問看護ステーションでは、利用開始前の見学や相談を受け付けています。実際のスタッフと話をすることで、サービスの質や相性を確認できます。
契約から利用開始までの流れ
全ての準備が整ったら、いよいよ契約締結と実際のサービス利用開始となります。
契約時の確認事項
契約書には、サービス内容、利用料金、緊急時の対応方法などが明記されています。不明な点があれば、その場で確認することが重要です。
初回訪問の準備
初回訪問では、訪問看護計画書の作成と具体的なケア内容の確認が行われます。必要な医療材料や機器の準備も、この段階で行います。
費用と給付の仕組み
介護保険による訪問看護の費用は、介護報酬制度に基づいて算定されます。
2025年度の改定内容を踏まえながら、具体的な費用計算方法から利用限度額まで詳しく解説します。
介護報酬単価の仕組み
介護報酬は、サービスの種類や提供時間、利用者の要介護度によって設定された基本単価をもとに計算されます。
基本単位数の設定
訪問看護の基本単位数は、20分未満の場合は311単位、30分未満で467単位、1時間未満で816単位となっています。この単位数に地域区分ごとの単価(10円から11.40円)を乗じて報酬額が決定されます。
訪問時間による区分
訪問時間は利用者の状態や必要な処置内容によって決定されます。医療処置が多い場合や状態が不安定な場合は、長時間の訪問が必要となることがあります。
自己負担額の計算方法
介護保険サービスの利用者負担は、原則としてサービス費用の1割から3割です。所得に応じて負担割合が決定されます。
負担割合の判定基準
65歳以上の方の場合、合計所得金額が160万円以上220万円未満で2割負担、220万円以上で3割負担となります。ただし、同じ世帯の65歳以上の方の年金収入とその他の合計所得金額の合計が一定額未満の場合は、1割負担となります。
高額介護サービス費
1か月の利用者負担が上限額を超えた場合、申請により超えた分が後から払い戻されます。上限額は所得に応じて設定されており、一般的な世帯では44,400円となっています。
利用限度額の管理
要介護度ごとに設定された区分支給限度基準額の範囲内でサービスを利用します。
要介護度別の限度額
要介護1は167,650円、要介護2は197,050円、要介護3は270,480円、要介護4は309,380円、要介護5は362,170円が月々の限度額となっています。
限度額の活用方法
限度額は訪問看護だけでなく、他の居宅サービスと合わせた総額の上限となります。効果的なサービス利用のために、ケアマネージャーと相談しながら計画を立てることが重要です。
加算・減算の種類と条件
基本報酬に加えて、様々な加算や減算が設定されています。これらは特定の条件を満たした場合に適用されます。
主な加算項目
緊急時訪問看護加算(574単位/月)や特別管理加算(500単位/月または250単位/月)など、利用者の状態や提供するケアの内容に応じて加算が算定されます。
減算対象となる場合
同一建物内の利用者が一定数を超える場合や、看護職員の人員配置基準を満たさない場合などに減算が適用されます。
医療保険併用時の費用計算
特定の疾患や処置が必要な場合は、医療保険による訪問看護と併用することができます。
併用時の費用負担
医療保険の訪問看護を利用する場合は、医療保険の自己負担割合(通常3割)が適用されます。ただし、高額療養費制度の対象となる場合もあります。
給付調整の方法
介護保険と医療保険の併用時は、それぞれの制度における給付限度額や自己負担額に注意が必要です。適切なサービス利用計画を立てるために、ケアマネージャーや訪問看護ステーションとよく相談することが重要です。
サービス利用の実際

訪問看護の実際のサービス提供では、利用者一人ひとりの状態や生活環境に合わせた細やかな対応が行われます。
ここでは具体的なサービス内容から、他職種との連携まで詳しく説明します。
訪問看護計画書の作成と運用
訪問看護計画書は、利用者の状態とケアの目標を明確にし、具体的なサービス内容を定める重要な文書です。
アセスメントの実施
初回訪問時には、利用者の心身の状態や生活環境、家族の介護力などを詳しく評価します。この評価結果をもとに、具体的なケア内容を計画していきます。
具体的な目標設定
短期目標と長期目標を設定し、定期的に評価と見直しを行います。目標は利用者や家族と共有し、同意を得た上でケアを進めていきます。
日々の訪問看護の展開
実際の訪問では、計画に基づいた様々なケアが提供されます。利用者の状態に応じて柔軟に対応することも重要です。
基本的なケアの流れ
訪問時には、まずバイタルサインの測定と全身状態の観察を行います。その後、必要な医療処置やケアを実施し、状態に応じた生活指導を行います。
記録と報告の方法
提供したケアの内容や利用者の状態変化は、訪問看護記録書に詳しく記載します。特に注意が必要な点は、主治医やケアマネージャーに速やかに報告します。
多職種との連携体制
訪問看護では、医師や他の介護サービス事業者との緊密な連携が不可欠です。
医療機関との情報共有
定期的に主治医に報告書を提出し、利用者の状態や治療方針について確認します。必要に応じて、診療への同行や担当者会議への参加も行います。
他サービスとの調整
デイサービスやホームヘルプサービスなど、他の介護サービスを利用している場合は、サービス担当者会議などを通じて情報共有と支援内容の調整を行います。
緊急時の対応体制
24時間の連絡体制を整備し、利用者の急変時に適切に対応できる体制を確保します。
緊急連絡網の整備
利用者や家族に緊急時の連絡先を明確に伝え、連絡方法を具体的に説明します。医療機関や救急搬送先の情報も事前に確認しておきます。
急変時の対応手順
利用者の状態が急変した場合は、あらかじめ定められた手順に従って対応します。必要に応じて、救急要請や医療機関への連絡を行います。
効果的なサービス利用のポイント
より良い在宅療養生活を実現するために、いくつかの重要なポイントがあります。
情報共有の工夫
連絡ノートや情報共有シートを活用し、利用者、家族、サービス提供者間で必要な情報を確実に共有します。
モニタリングと評価
定期的にサービスの効果を評価し、必要に応じて計画の見直しを行います。利用者の状態改善や目標達成に向けて、継続的な支援を行います。
よくあるケースと解決方法

訪問看護の利用では、様々な状況や課題に直面することがあります。
ここでは実際によくある事例を紹介し、その解決方法について具体的に説明していきます。
事例1:医療依存度の高い利用者の在宅移行
医療機関から在宅療養への移行を検討している、人工呼吸器を使用する70歳の男性の事例です。
課題と対応策
退院前から病院の看護師と訪問看護師が連携し、在宅での医療機器管理や介護方法について家族に指導を行いました。医療保険と介護保険を併用することで、必要な訪問回数を確保しています。
成功のポイント
退院前カンファレンスで詳細な情報共有を行い、在宅での環境整備を入念に準備したことが、スムーズな在宅移行につながりました。
事例2:認知症がある利用者の服薬管理
独居の85歳女性で、軽度認知症があり服薬管理が困難なケースです。
具体的な支援内容
訪問看護師が服薬カレンダーを導入し、毎回の訪問時に服薬状況を確認します。ケアマネージャーと相談し、訪問介護との連携で服薬時間帯の声かけ支援も実施しています。
改善までのプロセス
服薬支援アプリの活用や、家族との定期的な連絡体制の構築により、徐々に服薬管理の安定化が図られました。
事例3:ターミナル期の利用者と家族支援
がん末期の65歳女性を自宅で介護する家族への支援事例です。
医療と介護の連携
在宅主治医との24時間連携体制を確立し、症状の変化に応じて柔軟に対応できる体制を整えました。緊急時の対応手順も明確化しています。
家族支援の実際
家族の疲労度に配慮し、レスパイトケアの利用を提案しました。また、家族の不安軽減のため、定期的なカウンセリングも実施しています。
事例4:リハビリテーション中心の支援
脳梗塞後の麻痺がある60歳男性の在宅リハビリテーション支援の事例です。
多職種協働の実際
理学療法士と連携し、日常生活動作の改善に向けた運動プログラムを実施しています。作業療法士による住環境の評価と改善提案も行われました。
継続的な支援体制
目標達成度を定期的に評価し、リハビリテーション計画の見直しを行っています。家族への介助方法の指導も並行して実施しています。
Q&A「おしえてカンゴさん!」
訪問看護に関して、利用者やご家族からよく寄せられる質問について、現役の訪問看護師が分かりやすく解説します。実践的な内容から制度に関する疑問まで、幅広く対応していきます。
利用に関する基本的な質問
Q1:訪問看護は何回まで利用できますか?
医師の指示書に基づいて、必要な回数の訪問が可能です。介護保険の区分支給限度基準額の範囲内であれば、週1回から毎日の訪問まで、状態に応じて柔軟に対応できます。ただし、医療保険が適用される場合は、別途回数が定められることがあります。
費用に関する質問
Q2:医療保険と介護保険の併用は可能ですか?
特定の疾患や医療処置が必要な場合は、医療保険による訪問看護と介護保険による訪問看護を併用することができます。具体的な併用方法は、主治医やケアマネージャーと相談して決定します。
緊急時の対応について
Q3:夜間や休日の対応は可能ですか?
24時間対応体制加算を算定している訪問看護ステーションでは、緊急時の電話相談や必要に応じた臨時訪問に対応しています。利用開始時に具体的な連絡方法や対応範囲について確認することをお勧めします。
サービス内容に関する質問
Q4:どのような医療処置に対応できますか?
点滴管理、褥瘡処置、胃瘻管理、人工呼吸器管理など、様々な医療処置に対応可能です。ただし、訪問看護ステーションによって対応できる処置が異なる場合がありますので、事前に確認が必要です。
他のサービスとの関係
Q5:デイサービスと併用できますか?
デイサービスと訪問看護の併用は可能です。それぞれのサービスの特徴を活かしながら、より充実した在宅療養生活を送ることができます。サービスの調整は担当のケアマネージャーが行います。
家族支援について
Q6:介護方法を教えてもらえますか?
訪問時に、その場で具体的な介護方法をお伝えします。例えば、体位変換や移乗介助、口腔ケアなど、実践的な技術指導を行います。また、介護負担の軽減につながる工夫もアドバイスさせていただきます。
制度に関する質問
Q7:要介護度が変わったら利用できなくなりますか?
要介護度が変更になっても、医師が必要と判断する限り、継続して訪問看護を利用することができます。ただし、要介護度に応じて利用限度額が変わるため、サービスの回数や組み合わせを見直す必要が生じる場合があります。
まとめと今後の展望
訪問看護は、在宅での療養生活を支える重要なサービスとして、ますます需要が高まっています。2025年度の制度改正を踏まえ、より効果的なサービス利用のポイントと今後の展望についてまとめます。
訪問看護活用の重要ポイント
医療と介護の連携強化が進む中、訪問看護は在宅療養の要となるサービスです。利用者の状態に合わせた柔軟なサービス提供と、多職種との緊密な連携が重要となります。
効果的な利用のために
サービス開始前の十分な情報収集と、詳細な利用計画の作成が重要です。医師の指示内容を確認し、他のサービスとの調整を行いながら、最適なケア内容を検討していきます。
制度の今後の動向
2025年度の介護報酬改定では、在宅療養支援の充実が図られています。特に医療ニーズの高い利用者への支援体制強化が重視されています。
期待される変化
オンライン等を活用した効率的なサービス提供体制の整備や、多職種連携の更なる推進が見込まれます。また、看護師の専門性を活かした新たな加算の創設も検討されています。
訪問看護の利用を検討している方は、まずは地域包括支援センターやケアマネージャーに相談することをお勧めします。専門家のアドバイスを受けながら、最適なサービス利用計画を作成していきましょう。
利用を検討される際は、本記事で解説した申請手続きや費用計算の仕組みを参考に、ケアマネージャーや訪問看護ステーションに相談することをお勧めします。
訪問看護に関するより詳しい情報や、実際の看護師の体験談は【ナースの森】でご覧いただけます。【ナースの森】は、看護師のキャリアを総合的にサポートするサイトです。