
医療機関で働いていると、一度は聞いたことがあるのがラバーです。ただし、看護師の中には一体それが何なのか詳しくわからないという方も多いと思います。
そこで本記事では、看護師の評価システムであるラバーについて詳しく解説していきます。
看護師のラダーとは?

看護師のラダーは、個々の能力やキャリアを段階的に評価し、質の向上や成長を促す重要なツールです。英語でのラダーははしごを意味し、キャリアアップの道筋を示したキャリアラダーと、看護実践能力の水準を定めたクリニカルラダーの2種類があります。
クリニカルラダーとは
クリニカルラダーは、看護師の評価システムであり、看護実践能力の向上を支援する枠組みで、日本看護協会によって2016年5月に発表されました。個々の能力やキャリアを段階的に評価し、質の向上や成長を促す重要なツールです。
キャリアラダーとは
キャリアラダーは、看護職のキャリアアップを目指す際の指標の一つです。看護師の専門的能力の発達や開発、臨床実践能力だけでなく、マネジメント能力を含む管理的な能力が求められ、病院や施設内で、主任、看護師長、看護部長、または専門看護師、認定看護師、特定行為研修修了看護師などの看護師を目指す際の評価資料として活用されることが多いです。
クリニカルラダーの目的
クリニカルラダーは、看護実践能力を客観的かつ適切に評価し、個人の成長とキャリアアップを支援するための重要なツールです。この評価システムを通じて、看護師の専門的な能力の発展や実践レベルが明確に示され、それに基づいた適切な位置づけや役割分担が可能となります。
1.看護実践能力の評価の客観化
看護実践能力を客観的に評価することで、個々の実力やスキルを適切に位置づけ、成長の方向性を明示します。
2.安定した能力評価の提供
環境の変化に左右されない評価基準を提供し、引っ越しや転職などで場所が変わっても、能力を一貫して評価できる環境を整備します。
3.安全で質の高い看護ケアの保障
看護実践能力の明確な評価により、患者や利用者への安全で安心な看護ケアの提供を担保し、看護全体の質を向上させます。
これにより、将来的には看護実践能力の担保や、あらゆる職場での看護師の能力評価への活用、ラダーに基づいた適切な役割分担や処遇の提供に貢献することが期待されています。
評価は5段階でおこなう
クリニカルラダーは、看護実践能力を評価するための指標であり、5段階のレベルでそれぞれの看護実践能力を定義しています。
レベル1:基本的な看護手順に従い、必要に応じて助言を得て看護を実践する
レベル2:標準的な看護計画に基づき、自立して看護を実践する
レベル3:ケアの受け手に合わせて個別的な看護を実践する
レベル4:幅広い視野で予測的判断を持ち、看護を実践する
レベル5:より複雑な状況で、ケアの受け手にとって最適な手段を選択し、QOLを高めるための看護を実践する
看護学校で学んだ知識をもとに、新人看護師はまずレベル1の基本的な看護手順に従う段階からスタートします。クリニカルラダーは、看護の著名な学者であるパトリシア・ベナーの看護論に基づいており、レベル2からレベル5への移行は、新人からベテランへの成長を示しています。
レベル2:新人
レベル3:一人前
レベル4:中堅
レベル5:看護の達人
クリニカルラダーは、看護実践能力の客観的な評価を通じて、個々の成長とキャリアパスを明示し、看護の質の向上を目指しています。
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クリニカルラダーの評価項目

クリニカルラダーは、看護実践能力の多面的な評価を目指す指標であり、以下の4つの評価項目を貸して成長を促しています。
ニーズをとらえる力
ニーズをとらえる力は、患者や利用者の身体的、精神的、社会的なニーズを敏感に感じ取る能力を指します。状況や環境に適応しながら、個々のニーズを的確に把握することが求められます。また、コミュニケーションスキルや観察力が重要であり、これらを活用して適切なケアプランの策定や実践が行われます。
ケアする力
ケアする力は、患者や利用者に対する適切かつ効果的なケアを提供する能力を示します。これには、看護技術の習得とその実践、患者との信頼関係の構築、安全な環境の維持、緊急時の対応などが含まれます。看護師は、個々の状態やニーズに応じて最適なケアを提供することが求められます。
協働する力
協働する力は、多職種との連携やチームでの効果的なコミュニケーション、協力を通じて、患者や利用者に最適なケア環境を提供する能力を指します。効果的なチームプレイやコーディネーション、情報共有、コンフリクトの解決能力が評価されます。看護師は、多様な専門家と連携しながら、ホリスティックなケアを提供する役割を果たします。
意思決定を支える力
意思決定を支える力は、看護実践において適切な判断と決断を行う能力を示します。例えば、患者の最期や治療法など、本人やその家族とどのように意見をすり合わせていくか、患者の尊厳を守る最善の方法を提示できる看護師を目指します。
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クリニカルラダーの評価方法
クリニカルラダーでは、5段階の評価スケールを用いて評価が行われます。
S(非常に良い)
A(良い)
B(普通)
C(努力が必要)
D(非常に努力が必要)
この評価は、単に上司による「他者評価」だけでなく、「自己評価」も同時に行われます。この両方の評価を組み合わせることで、評価する側は評価される側の自己認識を把握でき、評価される側は自己認識と客観的な評価のギャップを確認できます。
プロセスを通じて、相互理解が深まり、信頼関係が築かれることが期待されます。評価される側が自己評価を意識することで、主体的にキャリアを進めていく実感を得ることができます。自己評価は、個人が目標に向かって進むための励みとなり、積極的な行動を後押しします。
このような対話を通じた評価手法により、看護職のプロフェッショナリズムが向上し、チーム全体のパフォーマンスも向上することが期待されます。また、定期的な評価を通じて、個人の成長や発展に向けた計画やサポートが行われ、組織と個人との共存共栄が促進されるでしょう。
この評価プロセスは、看護職の発展と質の向上に寄与する重要な手段であり、専念と努力が重視される職業としての看護師の役割を確立するのに貢献します。
ラダーを活用するメリット

このラダー制度によって、看護師にはどんなメリットがあるのかご紹介していきます。
キャリアステップが分かりやすくなる
クリニカルラダーは、段階的なレベル分けを行うことで、看護師がどの段階に位置しているのかを明確に示します。これにより、現在のキャリアステージや目標までのステップが分かりやすくなります。具体的な目標を持つことで、個人の成長意欲が高まり、職務への取り組みがより意識的になります。
モチベーションの向上につながる
クリニカルラダーを活用することで、看護師は自身の成長やキャリアパスに対する明確な方向性を持つことができます。明確な目標やステップが示されることで、達成感や充実感が得られ、モチベーションが向上します。自己満足だけでなく、組織全体の成果にも貢献する意欲が高まるでしょう。
転職しても自分の能力を示しやすい
クリニカルラダーは、看護実践能力を客観的かつ体系的に評価する枠組みを提供します。転職時には、これらの評価を基にした自己PRや面接での説明が可能となります。これにより、転職先での適切なポジションや役割を見つけやすくなり、スムーズなキャリア移行が可能となります。
客観的な評価が可能
クリニカルラダーは、客観的な評価を可能にします。主観的な評価だけでなく、明確な基準に基づく評価が行われるため、公平かつ適正な評価が期待できます。評価の透明性が高まることで、評価の信頼性が向上し、職場全体の信頼や協力関係が強化される効果もあります。
医療機関にとってのメリット
医療機関におけるクリニカルラダーの導入は、質の高い看護師の育成を効率的に行うための重要な手段となります。この導入によって、医療機関は以下の点で大きなメリットを得られることが考えられます。
質の高い看護師の育成
クリニカルラダーは、看護師の実践能力を段階的に評価するため、適切な研修や教育プログラムの提供が可能となります。これにより、看護師は自身の弱点や成長のポイントを明確に認識し、質の高い看護実践能力を身につけることができます。
安心・安全な看護サービスの提供
質の高い看護師が充実していることで、医療機関は安心できる看護サービスを患者に提供することが可能となります。適切なケアや的確な判断が行われることで、患者は適切な医療を受けられ、安全な環境のもとで治療を受けることができます。
<看護師・ナースのリアルな声>ラダー制度の評価でここが役に立ったというものを教えてください
ラダー制度の注意点
このように、看護師としてのキャリアを後押ししてくれるメリットが多いため、ラダー制度を導入している医療機関で働きたいと考える看護師もたくさんいますが、デメリットもいくつかありますのでご紹介していきます。
評価を意識しすぎて患者に寄り添った看護ができなくなる
ラダー制度の導入により、看護師は自身の評価に意識を向ける傾向があります。評価の結果や昇進への期待から、患者との真摯なコミュニケーションがおろそかになる可能性があります。ここで重要なのは、評価だけでなく、患者のケアに真摯に向き合う心を持ち続けることです。
スケジュール管理が必要
ラダー制度を適切に活用するためには、時間管理とスケジュールの適切な調整が不可欠です。看護師は患者のケアだけでなく、評価に向けた準備や学習、研修などにも時間を割かなければなりません。効果的な時間管理とスケジュールの調整が、ラダー制度の活用のポイントとなります。
<看護師・ナースのリアルな声>ラダーの評価で不満に感じたことを教えてください
ラダー制度の課題

ラダー制度は看護職における評価やキャリア形成の重要な手法として広く導入されていますが、その導入にはいくつかの課題が存在します。これらの課題に適切に対応することが、日本看護協会が求める、ラダー制度の効果的な運用と、看護師のレベル向上に不可欠です。
給与に影響を与えすぎる
ラダー制度が給与と直接関連していると、看護師の気持ちが報酬や昇進に向かってしまう可能性があります。給与への影響が大きすぎると、看護師が真の成長や患者ケアに焦点を当てることが難しくなります。解決策としては、給与以外の評価項目やフィードバックの充実化、組織文化の構築が挙げられます。
ラダーの対象ではない部分が評価されない
ラダー制度は特定の能力や実践に焦点を当てていますが、看護職の実際の業務にはそれ以外の多くの側面が含まれています。
人間関係の構築やチームでの協力、コミュニケーション能力、組織への貢献なども重要ですが、これらが評価の対象外になることで、看護師がバランスの取れた職務を担うことが難しくなる可能性があります。評価項目の充実や多面的な評価体系の導入が解決策として考えられます。
自己評価と他者評価に差がある
ラダー制度では自己評価と他者評価が行われますが、これらの評価が大きく異なる場合、不公平感やモチベーション低下につながる可能性があります。この問題の解決には、評価基準の明確化やフィードバックの適切な提供、対話を通じた意見交換の機会を充実させることが必要です。
仕事や業務を圧迫する
ラダー制度の運用が過度に強調されると、看護師の業務量や負担が増大し、ストレスや疲労が蓄積される可能性があります。過剰な評価やキャリアアップへのプレッシャーは、看護師の健康やワークライフバランスに悪影響を与える可能性があります。適切な評価の導入と、適度な負担の配分が必要です。
看護職の実態やニーズを十分に理解し、職場環境の整備や労働条件の改善も欠かせない要素となります。ラダー制度の効果的な運用は、これらの課題に適切に対処することであり、看護職の発展と良質な看護サービスの提供に向けた重要な一環と言えるでしょう。
<看護師・ナースのリアルな声>今後、ラダー制度がこうなればいいと思うことを聞かせてください
まとめ
この記事では、看護師であれば一度は聞いたことがあるラダー制度について詳しく解説してきました。
看護師の成長は、経験年数だけでなく、論理的思考や知識・技術の習得といった要素が重要です。クリニカルラダーは、経験だけでなく、知識と技術の有無を評価する枠組みです。経験年数だけが能力の高さを示すわけではありません。
この制度は、個人の能力を適切に評価し、それが看護全体の質の向上につながることが期待されています。日々の仕事や勉強が重なる中で、クリニカルラダーを活用して、成長を目指しましょう。