【看護師の残業代完全ガイド】未払い問題の真相と対策!計算方法から請求手順まで徹底解説

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看護師として働く中で、残業代について疑問や不満を感じたことはありませんか?「新人だから残業代がもらえない」「残業代の申請がしづらい」といった声をよく耳にします。実は、これらの問題は看護師の権利を脅かす深刻な課題なのです。

本記事では、看護師の残業代に関するすべての疑問にお答えします。未払い問題の真相から、正確な計算方法、効果的な請求手順まで、詳細に解説します。新人からベテランまで、すべての看護師に役立つ情報が満載です。

残業代の問題は、単なる金銭的な問題ではありません。それは、看護師の労働環境や健康、さらには患者へのケアの質にも影響を与える重要な課題です。この記事を読めば、自分の権利を守り、より良い労働環境を実現するためのヒントが見つかるはずです。

看護師としての経験を最大限に活かしながら、適正な評価と報酬を受けるためのスキルを身につけましょう。あなたの働き方を変える第一歩が、ここにあります。

看護師の残業

看護師に限らず一般的に残業といえば、その日一日の業務が終わらなかったり、期限までに作成しなければならない資料ができていなかったりなどといった理由で規定の勤務時間を終えても、オフィスに残って業務を継続するというイメージです。

しかし、看護師の場合一般的な残業の概念とは異なる側面があり、前残業と後残業の2つに分類できます。ここではそれぞれの残業の概要について解説していきます。

看護師の前残業とは

看護師の前残業とは、業務開始までの準備のための業務を行う時間を言います。業務開始前に必要な準備やシフト交代時の申し送りなど、本来業務時間内に行うべきことなのにも関わらず勤務先によっては業務時間外に行うことが慣例となっていることも少なくありません。

また、患者の緊急対応などで、タイムカードを押す前といった本来の業務開始時間より前に突発的に業務を開始した場合にも前残業とみなされます。

看護師の後残業とは

看護師の後残業は、一般的な残業と同じようにその日の業務が終わらないために発生します。業務終了後に急にナースコールに対応したり、急患を受け入れたり、場合によっては看護記録をつける時間がなかったりするなどして、残業せざるを得ないことがあるでしょう。

<看護師・ナースのリアルな声>勤務先の残業代の申請方法は?

 

看護師の平均残業代

看護師の平均残業代についてははっきりとした数値は判明していません。

ただし、厚生労働省の毎月就労統計調査 令和5年6月分結果速報によると、医療・福祉業界における月刊現金給与額のうち所定外給与は13,889円となっており、看護師も近い金額ではないかと予想されます。

参考資料:厚生労働省「毎月就労統計調査 令和5年6月分結果速報 p6」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r05/2306p/dl/pdf2306p.pdf

<看護師・ナースのリアルな声>一ヶ月あたりの残業時間はどれくらい?

 

看護師の残業代が支払われないことが多い理由

年々働き方改革が日本社会全体で推進されているとはいえ、看護師の場合、前残業と後残業が常態化していることが当たり前で、多くの事業所では看護師の残業代が支払われていないのが現状です。

ここでは看護師の残業代が支払われないことが多い理由を4つ解説していきます。

 

  • 緊急対応が頻繁にあるから
  • 看護記録などの確認業務が多いから
  • 研修・勉強会が自主参加扱いになることがあるから
  • 残業申請しづらい雰囲気だから

 

緊急対応が頻繁にあるから

対患者の仕事である看護師の場合、何事も予定通りに進むとは限らないのが常です。

入院病棟であれば急なナースコールの呼び出しがあったり、患者の容体が急変したり、手術時間が延びたり、外来であっても急患が来たりと常日頃突発的に発生した事象に対し、臨機応変に的確に対応することが求められます。

しかもその後退勤の時間を迎えたり超過したりしたからといって、引き継ぎを終えずに退勤することは憚れてしまい、結果的に残業が常態化してしまうのです。

この状況を多くの事業所は理解しているはずですが、「看護師だから仕方ない」などと旧態依然の考えが色濃く残っていることが多く、残業代が支払われないケースが多発しているといえます。

 

看護記録などの確認業務が多いから

担当患者全員に必要な看護記録ですが、看護師の通常勤務時間内に看護記録の全てを記載することは難しい傾向にあります。

 

さらに事業所によっては、看護記録は業務時間内ではなく退勤後に書くのが常態化していることもあり、こうした事業所にあたってしまうと、1人だけ残業代を申告することを躊躇せざるを得ないこともあるでしょう。

 

研修・勉強会が自主参加扱いになることがあるから

 

看護師は日々自己研鑽して知識や技術をアップデートしていくことが求められる職業です。自らの意思で研修・勉強会に積極的に参加している人も多いでしょう。

 

もちろん勤務先の命令で研修・勉強会に参加するケースも少なくありません。しかし、勤務先の命令であっても研修・勉強会は自己参加扱いになることもあり、その場合には当然のように残業代はおろか参加中の給与は支払われないのです。

 

残業申請しづらい雰囲気だから

 

看護師の前残業も後残業も本来であれば残業代が支払われるべき業務といえます。しかし、旧態依然の風潮が色濃く残っている事業所では、残業代が出ないのは慣例だからといった理由で残業申請しづらい雰囲気が漂っているのが現状です。

 

さらに急患対応ややむを得ない手術の延長などの人の生死に直結するような突発的な業務に対応した場合、気持ち的に残業申請しにくいと思ってしまうこともあるでしょう。

 

<看護師・ナースのリアルな声>残業代はきちんと全て申請している?

 

新人看護師は残業代が支払われない?

これから看護師になる予定の看護学生の中には、新人看護師は残業代が支払われないという噂を聞いたことがある人もいるかもしれません。

 

確かに新人看護師は先輩から様々な業務を学びつつ、毎日仕事に慣れるまで何事も対応に時間がかかってしまうため、先輩たちが業務時間内に終わらせられる業務でも退勤時間以降まで継続して行わないと終わらせられないことがあるのは事実です。

 

そして、勤務先によっては慣例で残業代の申請すら難しい雰囲気になっていることも多く、一番歴の浅い新人が残業代をもらえるわけがないと思う人も多いでしょう。

 

しかし、本来であれば残業代というのは職歴や勤続年数に関わらず、誰もが請求でき、雇用主が支払うべきものであることを忘れないでください。

 

<看護師・ナースのリアルな声>申請した残業代は全て支払われている?

 

看護師の残業代の計算方法

看護師の残業代は、勤務先の労働時間制度によって算出方法が異なります。

 

ここでは下記2パターンの制度ごとに残業代の計算方法をみていきましょう。

 

  • 一般的な労働時間制
  • 変形労働時間制

 

一般的な労働時間制

 

厚生労働省ホームページにも記載されていますが、一般的な労働時間制をとっている事業所の場合、労働者は1日に8時間、1週間換算で40時間以上の労働はできないことになっています。

 

その上、労働時間が6時間以上となる場合には最低45分以上の休憩、労働時間が8時間を超える場合には1時間以上の休憩を取らなければならないことを覚えておきましょう。

 

1.残業時間の計算

 

まずはじめに自分がどのくらいの残業をしているか計算します。一般的な労働時間制の事業所の場合、労働者が1日8時間を超えて勤務すると超えた分がそのまま残業時間とみなされます。

 

ぜひこの機会に自分はどれくらい残業しているか見返してみてください。

 

2.残業代を種類ごとに分類

 

残業代は細かく分類すると、法定時間内残業、法定時間外残業、深夜残業の3つに分離可能です。

 

  • 法定時間内残業:1日8時間かつ1週40時間の法定労働時間の範囲内の残業
  • 法定時間外残業:1日8時間かつ1週40時間の法定労働時間を超過した分の残業
  • 深夜残業:法定労働時間を超過しなおかつ22時以降の残業

 

ちなみに法定時間外残業をさせた場合には雇用主は労働者に対し25%以上の割増賃金の支払いが必要なだけでなく、深夜残業の場合にはさらに25%の割増率で計算しなければなりません。

 

自分の残業した時間をこれら3つに分類できると、本来受け取れる残業代が明確になります。

 

3.月給を時給換算にする

 

フルタイムで働いている看護師の場合、自分の給与は月給ベースでしか考えたことがないかもしれませんが、残業代を計算するためには一旦月給を時給換算する必要があります。

 

月給を時給換算する際には、まずはじめに1ヶ月あたりの平均所定労働時間を算出します。

 

1ヶ月あたりの平均所定労働時間=(1年間の日数−年間所定休日数)×1日の所定労働時間÷12

 

その後下記指揮の通り月給を時給換算しましょう。

 

月給÷1ヶ月あたりの平均所定労働時間

 

ただし上記式の月給には、住宅手当や通勤手当などといった労働者個人個人によって異なる手当は含まないようにしてください。

 

4.残業代の計算

 

残業代を算出する際の計算式は次の通りです。

 

残業代=1時間あたりの時給×残業時間×割増率

 

これまで導き出した数字を元に本来受け取れるはずの残業代をみることで、もしかしたらものすごく損をしていることに気付けるかもしれません。

 

変形労働時間制

 

変形労働時間制とは、労使協定あるいは就業規則などによって定めることで一定時間を平均してなおかつ1週間あたりの労働時間が法定労働時間を超過しない範囲内で、特定の日あるいは週に法定労働時間を超えて労働する制度です。

 

事業所によって1ヶ月、1週間、1年単位のいずれかを採用しています。

 

例えば、1ヶ月単位の変形労働時間制を取り入れている事業所では、1日の労働時間が8時間を超えてしまっていたとしても、1ヶ月あたりの労働時間が40時間内に収まっていれば残業代は発生しないことになります。

 

看護師の場合、夜勤および休日出勤が多い傾向にあるシフト制の病院で採用されていることがあるので、自分の勤務先や雇用条件がどのようになっているかあらかじめ確認しておいてください。

 

看護師が未払いの残業代を請求するには

看護師として働いていて明らかに残業が発生しているのに残業代が支払われていないことに気づいたら、新人ベテラン問わず未払いの残業代を勤務先に請求できます。

 

ここでは具体的な残業代請求の流れをみていきましょう。

 

1.残業代の計算をする

 

2.労働条件・労働時間を証明する各種書類の準備

 

3.勤務先と交渉・任意の支払い請求

 

4.労働基準監督署へ申請

 

5.弁護士に依頼して通常訴訟を起こす

 

1.残業代の計算をする

 

前述した「看護師の残業代の計算方法」を参考に、自身の残業代の計算を行います。

 

その上で未払い分があるかどうか、未払い分はいくらなのかを確認してください。

 

2.労働条件・労働時間を証明する各種書類の準備

 

未払いの残業代を明確に算出したら、雇用主と契約している労働条件や、これまでの労働時間を証明することができる下記のような各種書類の準備をします。

 

  • 就業規則
  • タイムカード
  • シフト表
  • 勤務先で使用しているPCやタブレットなどのログイン記録
  • カルテや電子カルテ
  • 勤務時間のメモや日記

 

どれか1つだけではなく、可能な限り色々な書類を複数集めておくことで説得力のある証拠となります。

 

もしすでに退職した勤務先に残業代未払いがあるなら、元同僚などに協力を仰ぐとよいかもしれません。

 

3.勤務先と交渉・任意の支払い請求

 

どれくらい自分が残業していて、何円の未払い残業代があるかという証拠を集めたら、勤務先に未払い残業代の支払いを求めて交渉および任意の支払い請求を行います。

 

もし労働組合が存在しているなら、単独で交渉に臨むよりも労働組合に相談して交渉しても良いかもしれません。

 

ただし、勤務先によってはそもそも話し合いに応じてくれなかったり、色々な理由を提示して請求を断ろうとしてきたり、全ての残業代を支払ってくれなかったりと思うように進まないときがあります。こうした場合のみ、次のステップ「4.労働基準監督署へ申請」に進みましょう。

 

4.労働基準監督署へ申請

 

勤務先に任意の支払い請求をしても拉致が開かないという時には、全国各地に存在している労働基準監督署に相談・申請してください。

 

集めた証拠に合理性があって、請求が正当だと認められれば勤務先に対して指導および是正勧告をしてくれる場合があります。

 

ただし、労働基準監督署による指導や是正勧告には強制力がないため、勤務先によっては指導や是正勧告を受けたとしても残業代を支払ってくれないことがあるので、注意が必要です。

 

もし、労働基準監督署による指導および是正勧告後も残業代が支払われないという場合にのみ最終手段として次の「5.弁護士に依頼して通常訴訟を起こす」に踏み切りましょう。

 

5.弁護士に依頼して通常訴訟を起こす

 

労働基準監督署による指導や是正勧告を受けても、頑なに勤務先が残業代の支払いに応じない場合には、最終手段として弁護士に依頼し通常訴訟を起こすしかありません。

 

ただし、大きな事業所ほど顧問弁護士などを抱えていることが多いため、示談を持ちかけられたり、裁判が長引いたりする可能性が高いだけでなく、弁護士に支払う費用がかさむなど、時間的・金銭的な負担も大きいことを覚えておいてください。

 

番外編:労働環境が改善されないようなら転職も視野に

 

労働基準監督署に相談したり、弁護士を雇って訴訟を起こしたりすると、同僚などにも話が広がるなどして、同じ勤務先で働き続けることが精神的に難しくなることも多く、結果的に退職に追い込まれてしまうこともあります。

 

また、仮に残業代の支払いが行われたとしても、そもそもの人員体制や労働環境が変わらなければ、今後も残業は常態化してしまい、残業代未払いといったことが再び起こりかねません。

 

よって、労働環境の改善が見込まれないような事業所であれば、別の勤務先に転職するといったことも視野に入れて交渉を進めていくとよいでしょう。

 

<看護師・ナースのリアルな声>残業代未払いで上司や勤務先に直談判した時の体験談

 

看護師が残業代を請求する際の注意点

最後に看護師が残業代を請求する際の注意点について、3つピックアップしてご紹介していきます。

 

  • 職場環境が悪くならないようにする
  • 時間外業務をメモする
  • 時効になる前に行動する

 

職場環境が悪くならないようにする

 

残業代が未払いの場合、同僚たちも同じように残業代を受け取っていないことが多いです。一方で残業代未払いに対して不満を感じている人もいれば、看護師なんだから多少のサービス残業は当たり前と思っている人もいます。

 

そのため、残業代が未払いだからと声を上げることで誰もが喜ぶわけではないことを念頭に置き、周りの人々に迷惑にならないよう配慮し、人間関係などの職場環境が悪くならないように務める必要があるのです。

 

また、そもそもだらだらと残業することは好ましくありません。自分が普段している残業は本当にやむを得ないものなのか、それともより効率よく動けば残業時間を削減できるのかを今一度考えて自分の中でも働き方を工夫してみるとよいでしょう。

 

時間外業務をメモする

 

看護師の勤怠管理は基本的にタイムカードなどで行われていますが、時間外業務は打刻されないため、出退勤に関わる公的な記録には残り辛い傾向にあります。

 

よって、時間外業務が発生した場合には、西暦・月日・時間を細かくスケジュール帳などにメモし記録を取っておき、必要に応じて提出できるようにしておくと証拠になるので安心です。

 

時効になる前に行動する

 

残業代には時効が存在しており、未払いの残業代は最大3年遡ってしか請求できません。

 

退職後に支払い請求することもできますが、同じく3年で時効となり消滅してしまうため、未払いの残業代を請求したいなら早め早めに行動を起こすようにしてください。

 

まとめ

 

看護師の残業代について、この記事では、新人看護師は残業代が支払われないのかをはじめ、看護師の残業代が支払われないことが多い理由や残業代の請求方法など、看護師のリアルな声と合わせて解説してきました。

 

患者の命を預かる医療現場になくてはならない看護師だからこそ、やむを得ない残業が発生してしまったらサービス残業と思わず、きちんと勤務先に残業代を支払ってもらうのがベストです。

 

もちろんホワイトな勤務先では問題なく残業代を受け取れる場合もありますが、そうではないという場合、未払いの残業代があるのはおかしいと声を挙げてみることも必要なのではないでしょうか。

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