
2025年4月からの医師の働き方改革完全施行まで、残り約1年となりました。多くの医療機関では、労働時間の上限規制への対応や業務効率化の推進が喫緊の課題となっています。
本記事では、先進的な医療機関の具体的な取り組み事例や、ICTを活用した最新の勤務時間管理手法について詳しく解説します。また、医師の健康管理とワークライフバランスの確保に向けた実践的なアプローチもご紹介します。
各医療機関の実情に合わせて活用できる具体的な施策と、段階的な改善のためのロードマップを、豊富な事例とともにお届けします。2025年の本格施行を見据えた効果的な労働時間管理の実現に向けて、ぜひご活用ください。
この記事で分かること
- 医師の労働時間管理における重要なポイントと法的要件の実践的な適用方法
- 効果的な業務効率化とシフト管理の具体的な実施手順とノウハウ
- 先進的な医療機関での成功事例と実践的なアプローチの詳細
- ICTを活用した最新の勤務時間管理システムの選定と導入方法
- 医師の健康管理とワークライフバランスの両立に向けた具体策
この記事を読んでほしい人
- 医療機関の経営者及び管理者の方々
- 人事部門の責任者の方々
- 診療科長及び医局長の方々
- 労務管理担当者の方々
- 医師の働き方改革に関心のある医療従事者の方々
医師の労働時間管理の現状と課題

医療現場における労働時間管理は、2024年度の診療報酬改定と2025年の働き方改革完全施行を見据え、待ったなしの課題となっています。現場の実態と法的要件の整合性を図りながら、実効性のある対策を講じることが求められています。
本章では、医師の労働時間管理における現状の課題と、それに対する具体的な取り組みの方向性について詳しく解説します。
労働時間管理の法的要件
医師の働き方改革において、2024年度の診療報酬改定では新たな評価体系が導入されました。これに伴い、医療機関には従来以上に厳格な労働時間管理が求められています。
時間外労働の上限規制
医師の時間外労働時間については、年間960時間を上限とする規制が原則として適用されます。特例水準が認められる医療機関においても、具体的な時間削減計画の策定と実施が必須となっています。
地域医療提供体制の確保の観点から、段階的な適用が認められる場合もありますが、最終的には全ての医療機関が規制に対応する必要があります。
勤務間インターバル制度
継続的な医療の質を確保するため、勤務間に一定の休息時間を確保することが義務付けられています。具体的には最低9時間のインターバル確保が推奨されており、これを実現するためのシフト管理体制の整備が必要です。
当直明けの勤務制限についても、医療機関の規模や診療科の特性に応じた柔軟な対応が求められています。
現場における実務上の課題
労働時間の適切な把握
医師の業務は、診療、研究、教育など多岐にわたるため、実際の労働時間の把握が困難な状況が続いています。特に、自己研鑽や研究活動の時間について、労働時間との線引きが課題となっています。また、オンコール対応や待機時間の取り扱いについても、明確な基準の設定が必要です。
診療科による業務負担の差
救急科や産婦人科などの特定の診療科では、時間外労働が著しく多くなる傾向があります。このような診療科特有の課題に対しては、診療科間の連携強化や人員配置の最適化など、組織的な対応が必要となります。
緊急対応が必要な診療科については、特に慎重な労働時間管理が求められます。
医療の質の確保と両立
継続的な医療提供体制の維持
労働時間の適正化を進めながら、医療の質を維持・向上させることが重要な課題となっています。特に、救急医療や周産期医療などの24時間体制が必要な分野では、シフト制の導入や応援体制の整備など、きめ細かな対応が必要です。
教育・研修機会の確保
若手医師の教育や臨床研修の質を確保しながら、労働時間管理を適正化することも重要な課題です。カンファレンスや症例検討会の時間確保、指導医の負担軽減など、教育体制の見直しも同時に進める必要があります。
効果的な労働時間管理の実践方法

医師の労働時間管理を効果的に実施するためには、現状の正確な把握から始めて、具体的な改善策の立案、実行、そして効果測定までの一連のプロセスを確立することが重要です。
本章では、実践的なアプローチと具体的な実施手順について詳しく解説します。
実態調査と現状分析
労働時間データの収集方法
客観的な労働時間管理の第一歩として、正確なデータ収集が不可欠です。ICカードやスマートフォンアプリを活用した勤怠管理システムの導入が効果的です。
特に、出退勤時刻の記録だけでなく、診療記録システムへのアクセス時間なども参考データとして活用することで、より精度の高い労働時間把握が可能となります。
データ分析の具体的手法
収集したデータは、診療科別、職位別、時間帯別など、多角的な視点で分析を行います。特に時間外労働が多い診療科や、特定の時間帯に業務が集中する傾向などを詳細に把握することで、効果的な改善策の立案につながります。
改善計画の策定
優先課題の特定
分析結果に基づき、緊急度と重要度を考慮して優先的に取り組むべき課題を特定します。恒常的な時間外労働が発生している診療科や、特定の医師に業務が集中している状況などについて、具体的な改善目標を設定します。
実行可能な施策の立案
医療機関の規模や特性に応じた実現可能な改善策を検討します。タスクシフティングの推進、ICTツールの活用、診療科間の協力体制の構築など、具体的な施策を計画します。
実施体制の整備
組織体制の確立
労働時間管理の改善を推進する専門チームの設置が効果的です。人事部門、各診療科の代表者、事務部門などが連携して取り組む体制を構築します。定期的な進捗確認と課題解決のための会議体も設置します。
現場への周知と教育
改善施策の実効性を高めるために、全職員への適切な情報共有と教育が重要です。特に管理職層には、労働時間管理の重要性と具体的な管理手法について、詳細な研修を実施します。
モニタリングと効果測定
定期的な進捗確認
設定した目標に対する進捗状況を定期的に確認します。労働時間データの推移、改善施策の実施状況、現場からのフィードバックなど、多面的な評価を行います。
効果測定の指標設定
労働時間の削減効果だけでなく、医療の質への影響、職員の満足度、患者サービスの状況なども含めた総合的な評価指標を設定します。定量的な指標と定性的な評価を組み合わせることで、より実効性の高い改善につなげます。
継続的な改善サイクルの確立
PDCAサイクルの運用
効果測定の結果を踏まえて、施策の見直しと改善を継続的に行います。特に現場からの改善提案を積極的に取り入れ、実践的な改善につなげていきます。
先進的な医療機関における成功事例

医師の労働時間管理の改善に成功している医療機関の具体的な取り組みを紹介します。
これらの事例は、規模や地域性が異なる医療機関での実践例であり、それぞれの課題に対する具体的な解決策と、その効果について詳しく解説します。
大学病院での改革事例(S大学病院)
改革前の状況と課題
S大学病院では、2023年の実態調査において、複数の診療科で年間時間外労働が1,900時間を超える医師が確認されました。特に救急科、集中治療部、産婦人科において時間外労働が著しく、若手医師の教育時間の確保と研究活動の両立が困難な状況でした。
具体的な改善施策
医師の働き方改革推進チームを立ち上げ、各診療科の代表者と事務部門が協力して改善策を実施しました。特に効果が高かった取り組みとして、AI問診システムの導入があります。このシステムにより、初診時の問診業務が効率化され、医師の診察前の情報収集時間が約40%削減されました。
タスクシフティングの推進
医師の業務のうち、他職種に移管可能な業務を特定し、段階的に移行を進めました。具体的には、診断書作成補助や検査オーダーの下書き作成などを医師事務作業補助者に委託し、医師の事務作業時間を月平均20時間削減することに成功しています。
地域中核病院での取り組み(T医療センター)
シフト制導入の実践
T医療センターでは、従来の当直体制を見直し、交代制勤務システムを導入しました。特に救急外来では、日勤・準夜勤・夜勤の3交代制を確立し、継続的な医療提供体制を維持しながら、個々の医師の労働時間を適正化することに成功しています。
ICTツールの効果的活用
勤怠管理システムと電子カルテシステムを連携させ、リアルタイムでの労働時間管理を実現しました。システムからのアラート機能により、時間外労働が一定時間を超える前に管理者に通知が入り、業務分担の調整や応援体制の構築を迅速に行える体制を整備しています。
診療所グループでの働き方改革(M診療所グループ)
グループ内での連携強化
複数の診療所をネットワーク化し、医師の相互支援体制を構築しました。特に専門外来については、グループ内での専門医の巡回診療を実施することで、各診療所の医師の負担を軽減しています。
オンライン診療の活用
慢性疾患の定期フォローなど、適切な症例についてはオンライン診療を積極的に活用しています。これにより、医師の移動時間が削減され、より効率的な診療体制が実現しています。
成功事例から学ぶ重要ポイント
組織的なアプローチの重要性
各医療機関に共通する成功要因として、トップマネジメントの強いコミットメントと、現場の医師を含めた組織全体での取り組みが挙げられます。特に、改革推進チームの設置と定期的な進捗管理が効果的でした。
段階的な改善の実施
急激な変更ではなく、試行期間を設けながら段階的に施策を導入することで、現場の混乱を最小限に抑えることができています。特に、新しいシステムやツールの導入時には、十分な研修期間を確保することが重要です。
効果測定と継続的な改善
数値的な成果
これらの取り組みにより、各医療機関では以下のような具体的な成果が得られています。S大学病院では年間の時間外労働が最大で40%削減され、T医療センターでは当直明けの勤務が実質的にゼロとなりました。
ICTを活用した最新の勤務時間管理システム

医師の労働時間を適切に管理するためには、ICTを活用した効率的なシステムの導入が不可欠です。
本章では、システムの選定から導入、運用に至るまでの具体的なプロセスと、効果的な活用方法について解説します。
システム選定のポイント
基本機能の評価
勤務時間管理システムを選定する際には、労働時間の記録、集計、分析といった基本機能の充実度を重視する必要があります。特に、電子カルテシステムとの連携機能や、スマートフォンからのアクセス機能は、実務での使いやすさに直結します。
拡張性と柔軟性
医療機関の規模や特性に応じたカスタマイズが可能であることも重要な選定基準となります。将来的な機能拡張や、診療報酬改定への対応なども考慮に入れる必要があります。
システム導入プロセス
導入準備段階
システム導入に先立ち、現行の業務フローの整理と、新システムへの移行計画の策定が必要です。特に、データの移行方法や、並行稼働期間の設定について、詳細な計画を立てることが重要です。
職員教育と周知
新システムの効果的な活用のためには、全職員への適切な教育と周知が不可欠です。特に管理職層には、システムの管理機能や分析機能について、より詳細な研修を実施する必要があります。
効果的な運用方法
日常的な管理運用
システムを活用した日々の労働時間管理では、リアルタイムでのモニタリングと、適切なアラート設定が重要です。特に時間外労働が一定時間を超える前に警告を発する機能は、労働時間の適正化に大きく貢献します。
データ分析と活用
収集したデータを活用し、労働時間の傾向分析や、業務効率化の検討に役立てることが重要です。診療科別、職位別、時間帯別など、多角的な分析を行うことで、より効果的な改善策を見出すことができます。
システム運用上の留意点
セキュリティ対策
医療情報システムとしての高度なセキュリティ確保が必要です。特に、個人情報の保護と、システムへのアクセス管理については、厳格な運用ルールを設定する必要があります。
トラブル対応体制
システムトラブル発生時の対応手順を明確化し、バックアップ体制を整備することが重要です。特に、24時間体制の医療現場では、システムダウン時の代替手段を確保しておく必要があります。
システムの継続的改善
定期的な評価と改善
システムの利用状況や効果を定期的に評価し、必要に応じて機能改善や運用方法の見直しを行います。特に、現場からのフィードバックを積極的に収集し、実務に即した改善を進めることが重要です。
医師の健康管理とストレス対策
医師の労働時間管理において、身体的及び精神的な健康管理は極めて重要な要素となります。
本章では、医師の健康維持とストレス管理について、具体的な対策と実践的なアプローチを解説します。
5.1 健康管理体制の構築
5.1.1 定期的な健康チェック
医師自身の健康状態を定期的にモニタリングする体制の整備が必要です。年間の健康診断に加えて、月次でのセルフチェックや、産業医による面談機会の確保など、きめ細かな健康管理の仕組みを構築することが重要です。
疲労度の客観的評価
連続勤務や夜勤後の疲労度を客観的に評価するシステムの導入も効果的です。特に、睡眠時間や休息時間の確保状況について、定量的な把握と管理を行うことが推奨されます。
メンタルヘルスケアの実践
ストレスチェック制度の活用
法定のストレスチェックに加えて、医療現場特有のストレス要因を考慮した独自の評価項目を設定することが有効です。特に、診療科特有のストレス要因について、きめ細かな把握と対応が必要となります。
相談支援体制の整備
医師が気軽に相談できる窓口の設置と、専門家によるカウンセリング体制の整備が重要です。特に、若手医師のメンタルヘルスケアについては、より丁寧なサポート体制が求められます。
働きやすい職場環境の整備
休憩環境の改善
医師が適切に休息を取れる環境の整備が重要です。当直室の環境改善や、仮眠スペースの確保など、具体的な施設面での対応が必要となります。
コミュニケーション促進
診療科内及び診療科間のコミュニケーションを促進し、相互支援の体制を強化することが重要です。定期的なミーティングや情報共有の機会を設けることで、職場の支援体制を強化します。
予防的アプローチの実践
ストレス要因の早期発見
業務量の急激な増加や、困難な症例への対応など、ストレス要因となり得る状況を早期に把握し、予防的な対応を行うことが重要です。管理職による定期的な面談や、日常的な声かけなどが効果的です。
レジリエンス強化
ストレス耐性を高めるための研修や、セルフケアの方法について学ぶ機会を提供することも重要です。特に、若手医師に対しては、キャリア形成支援と併せた包括的なサポートが効果的です。
効果測定と改善
定期的な評価
健康管理施策の効果を定期的に評価し、必要に応じて改善を行うことが重要です。特に、労働時間の適正化と健康状態の関連性について、継続的なモニタリングを行います。
おしえてカンゴさん!よくある質問コーナー
医師の労働時間管理に関して、現場でよく寄せられる質問について、実践的な回答を提供いたします。具体的な事例や解決策を交えながら、分かりやすく解説していきます。
労働時間管理の基本
Q1:医師の労働時間管理で最も重要なポイントは何ですか
医師の労働時間管理において最も重要なのは、客観的な労働時間の把握と、それに基づく具体的な改善策の実施です。特に、ICTを活用した勤怠管理システムの導入により、正確な労働時間データを収集し、分析することが効果的です。
また、各診療科の特性に応じた柔軟なシフト管理と、医師の健康管理を両立させることも重要なポイントとなります。
Q2:自己研鑽の時間はどのように扱うべきでしょうか
自己研鑽の時間については、業務との区分を明確にすることが重要です。具体的には、院内での研究活動や学会準備などについて、事前に申告制を導入し、労働時間としてカウントする範囲を明確化することが推奨されます。
特に若手医師の場合、教育研修との線引きが難しい場合もあるため、個別の状況に応じた柔軟な対応が必要となります。
実務的な対応
Q3:当直明けの勤務制限をどのように実現していますか
当直明けの勤務制限については、代替医師の確保や業務の再分配など、組織的な対応が必要です。具体的には、当直明けの外来診療を制限し、緊急性の高い業務のみに従事するような仕組みを構築することが効果的です。
また、診療科間での相互支援体制を整備することで、より柔軟な対応が可能となります。
Q4:シフト制の導入はどのように進めればよいでしょうか
シフト制の導入には、現場の実態把握と段階的な移行が重要です。まずは、業務量の多い時間帯や診療科から試験的に導入し、課題を抽出しながら徐々に拡大していくアプローチが推奨されます。
特に、交代時の情報共有や緊急対応の体制について、詳細な運用ルールを整備することが必要です。
システム活用
Q5:勤怠管理システムの選定ポイントを教えてください
勤怠管理システムの選定では、電子カルテとの連携機能や、モバイル端末からのアクセス機能が重要なポイントとなります。
また、診療科ごとの特性に応じたカスタマイズが可能であることや、将来的な機能拡張への対応も考慮に入れる必要があります。システムの導入後のサポート体制についても、事前に確認することが推奨されます。
健康管理
Q6:医師のストレスチェックはどのように実施すべきでしょうか
医師のストレスチェックは、法定の項目に加えて、医療現場特有のストレス要因を考慮した独自の評価項目を設定することが効果的です。また、結果に基づく面談機会の確保や、継続的なフォローアップ体制の整備も重要です。
特に、診療科特有のストレス要因については、きめ細かな把握と対応が必要となります。
業務効率化
Q7:タスクシフティングを進める上での注意点は何でしょうか
タスクシフティングを進める際は、医療安全の確保と業務の質の維持が最も重要です。具体的には、移管可能な業務の洗い出しと、段階的な移行計画の策定が必要です。
また、関連する職種への教育研修や、新たな業務フローの確立など、体制整備を丁寧に行うことが求められます。
今後の展望
まとめ
医師の労働時間管理は、2025年の働き方改革完全施行に向けて、すべての医療機関が取り組むべき重要な課題となっています。
本記事で解説した内容を参考に、各医療機関の実情に合わせた対応を進めていただければ幸いです。ICTツールの活用や業務プロセスの見直しを段階的に実施し、医療の質の向上と医師の働き方改革の両立を目指していきましょう。
より詳しい医療現場の働き方改革や業務改善の情報については、【ナースの森】看護師のためのサイト・キャリア支援サイトをご覧ください。医療従事者の方々に役立つ実践的な情報や、キャリアアップのためのヒントを多数掲載しています。
【ナースの森】看護師のためのサイト・キャリア支援サイトはこちら