
医療の質向上と看護研究において、統計処理スキルの重要性が年々高まっています。
本記事では、看護現場で活用できる統計処理の基礎から実践的な手法まで、体系的に解説します。
この記事でわかること
- 看護研究における統計処理の基本概念と重要性
- データ分析の具体的な進め方と各種統計手法の選び方
- 研究結果の正しい解釈方法とエビデンスに基づく報告の作成方法
- 実際の看護現場での統計活用事例と実践的なテクニック
この記事を読んでほしい人
- 所属部署で研究やデータ分析を担当している方
- これから看護研究を始める方
- 統計処理に苦手意識がある看護師
- データ分析のスキルを向上させたい方
看護統計処理の基礎理解

看護実践における統計処理は、科学的根拠に基づいたケアの提供と質の向上に不可欠な要素となっています。
統計処理の歴史的背景
看護における統計活用は、フローレンス・ナイチンゲールの時代にまで遡ります。
統計処理の歴史的背景
ナイチンゲールは1850年代のクリミア戦争時に、死亡率と衛生状態の関連性を統計的に示し、近代看護における科学的アプローチの基礎を築きました。
以来、医療統計は看護の質向上に重要な役割を果たし続けています。
近代看護における統計の発展
20世紀に入り、統計手法は急速に発展し、看護研究においても様々な分析手法が確立されました。
特に1950年代以降、コンピュータの普及により、より複雑な統計解析が可能となりました。
現代の看護統計
現在では、ビッグデータの活用やAIの導入により、より高度な統計解析が可能となっています。
これにより、より精密な看護ケアの評価やエビデンスの構築が実現しています。
基本概念の理解
統計処理の基礎となる重要な概念について、看護実践に即した形で解説します。
母集団と標本の関係
研究対象となる集団全体を母集団と呼び、実際に調査を行う一部の対象を標本と呼びます。
例えば、病棟の糖尿病患者全体が母集団で、その中から無作為に選んだ30名が標本となります。
代表値の種類と特徴
データの特徴を表す代表的な値として、平均値、中央値、最頻値があります。
それぞれの特徴を理解し、データの性質に応じて適切な代表値を選択することが重要です。
分布と散布度の理解
データのばらつきを表す指標として、分散と標準偏差が重要な役割を果たします。
標準偏差が小さいほど、データが平均値の周りに集中していることを示します。
正規分布の特性
多くの自然現象やバイタルサインは、正規分布に従う傾向があります。
正規分布では、平均値から標準偏差の範囲内に約68%のデータが含まれます。
統計的仮説検定の基礎
看護研究では、介入効果や関連性を科学的に検証するために、統計的仮説検定を使用します。
帰無仮説と対立仮説
研究では最初に、差がないという帰無仮説を設定します。
例えば、新しい褥瘡予防ケアと従来のケアに効果の差がないと仮定します。
有意水準とp値
有意水準は通常5%(0.05)に設定され、これを基準に仮説を判定します。
p値が有意水準より小さい場合、帰無仮説を棄却し、研究仮説を支持する根拠となります。
統計用語の実践的理解
看護研究でよく使用される統計用語について、実践的な例を交えながら解説します。
相関と因果関係
2つの変数間の関連性を示す相関係数は、-1から+1の範囲で表されます。
ただし、相関関係があることは必ずしも因果関係を意味しないことに注意が必要です。
効果量の考え方
統計的有意差だけでなく、その差がどの程度の大きさなのかを示す効果量の理解も重要です。
効果量は、研究結果の臨床的な意義を判断する際の重要な指標となります。
効果的なデータ分析の進め方

看護研究におけるデータ分析は、計画立案から結果の解釈まで、体系的なアプローチが必要です。
研究計画の立案方法
研究の成功は、綿密な計画立案から始まります。
研究目的の明確化
研究テーマに基づいて、具体的で測定可能な目的を設定します。
例えば、「手術後の疼痛管理における新規プロトコルの効果検証」のように、明確な目標を定めます。
研究デザインの選択
目的に応じて、前向き研究か後ろ向き研究か、介入研究か観察研究かを決定します。
研究デザインによって必要なデータや統計手法が異なってくるため、慎重な検討が必要です。
データ収集の実際
適切なデータ収集は、信頼性の高い研究結果を得るための基盤となります。
測定項目の決定
研究目的に沿って、必要な測定項目を過不足なく設定します。
測定項目には、基本属性、主要評価項目、副次評価項目などが含まれます。
サンプルサイズの設定
統計的検定力分析を用いて、適切なサンプルサイズを算出します。
サンプルサイズが小さすぎると、意味のある差を見逃す可能性が高くなります。
データの前処理
収集したデータは、分析に適した形に整理する必要があります。
データクリーニング
入力ミスや異常値の確認を行い、必要に応じて修正や除外を判断します。
欠損値の処理方法についても、研究の特性に応じて適切に選択します。
データの正規化
必要に応じて、データの変換や標準化を行います。
例えば、著しく偏った分布を示すデータは、対数変換などで正規分布に近づけることがあります。
分析ツールの活用
効率的なデータ分析のために、適切なツールの選択と活用が重要です。
統計ソフトの選択
EZR、SPSS、Rなど、研究目的や予算に応じて適切な統計ソフトを選びます。
初心者の場合は、操作が比較的容易なEZRから始めることをお勧めします。
Excelの活用法
基本的な集計や簡単な統計処理は、Excelでも実行可能です。
ピボットテーブルや分析ツールを使用することで、効率的なデータ整理が可能です。
適切な統計手法の選択

研究目的とデータの特性に応じて、最適な統計手法を選択することが重要です。
基本的な統計手法の概要
看護研究でよく使用される統計手法について、その特徴と適用場面を解説します。
t検定の活用
2群間の平均値を比較する際に用いる統計手法です。
対応のあるt検定は同一対象の前後比較に、対応のないt検定は異なる群間の比較に使用します。
分散分析の実施
3群以上の平均値を比較する際に使用する統計手法です。
一元配置分散分析は1つの要因について、二元配置分散分析は2つの要因について分析を行います。
統計手法の実施手順
各統計手法の具体的な実施手順について、ステップバイプステップで解説します。
データの準備
統計解析の前に、データの型や分布を確認します。
正規性の検定やデータの変換など、必要な前処理を行います。
解析の実行
統計ソフトを用いて、選択した手法による解析を実行します。
必要なパラメータを設定し、適切なオプションを選択します。
結果の確認と解釈
統計解析の結果を正しく理解し、適切な解釈を行うことが重要です。
有意差の判定
p値や信頼区間を確認し、統計的有意差の有無を判断します。
有意水準(通常0.05)と比較して、結果の統計的な意味を解釈します。
効果量の評価
統計的有意差に加えて、効果の大きさを示す効果量を計算します。
Cohen’s dやオッズ比など、適切な効果量の指標を選択します。
分析上の注意点
統計解析を行う際の重要な注意点について解説します。
前提条件の確認
各統計手法には、データが満たすべき前提条件があります。
正規性や等分散性など、必要な条件を事前に確認します。
多重性の問題
複数の検定を行う場合、多重性の問題に注意が必要です。
Bonferroni法などの多重比較法を適切に使用します。
分析結果の解釈と報告

統計分析の結果を正しく解釈し、効果的に報告することは研究の質を左右する重要な要素です。
結果の解釈方法
研究結果の解釈には、統計的意義と臨床的意義の両面からの検討が必要です。
統計的有意性の理解
p値が0.05未満であることは、結果が偶然ではない可能性が高いことを示します。
ただし、p値の大小は効果の大きさを直接反映するものではありません。
臨床的意義の評価
統計的有意差がある場合でも、その差が臨床的に意味のある大きさかどうかを検討します。
効果量や信頼区間を用いて、結果の実践的な価値を判断します。
報告書の作成方法
研究結果を効果的に伝えるため、報告書は論理的で分かりやすい構成が求められます。
構成要素の理解
報告書には目的、方法、結果、考察の各セクションを明確に記載します。
統計手法の選択理由や解析過程も、再現性を確保するために詳細に記述します。
図表の効果的な活用
データを視覚的に表現することで、結果の理解を促進します。
適切なグラフや表を選択し、必要な情報を過不足なく表示します。
結果の可視化技術
データの特性に応じて、最適な可視化方法を選択することが重要です。
グラフの種類と選択
連続データには折れ線グラフや散布図、カテゴリカルデータには棒グラフや円グラフを使用します。
エラーバーや信頼区間を適切に表示し、データの不確実性も表現します。
表の作成方法
表は必要な情報を簡潔かつ明確に示すように構成します。
統計量や検定結果は、標準的な表記法に従って記載します。
研究結果の発表
学会や論文での発表を見据えた、効果的なプレゼンテーション方法を解説します。
口頭発表の準備
限られた時間内で重要な結果を効果的に伝える工夫が必要です。
視覚資料を活用し、聴衆の理解を促進します。
論文作成のポイント
投稿規定に従いながら、研究の新規性と意義を明確に記述します。
統計解析の詳細な記述により、研究の再現性を確保します。
ケーススタディ

実際の看護研究における統計処理の応用例を、3つの異なる事例を通して詳しく解説します。
事例1:褥瘡予防プロトコルの効果検証
A病院の外科病棟で実施された褥瘡予防に関する研究事例を紹介します。
研究概要
術後患者200名を対象に、新規褥瘡予防プロトコルの効果を6ヶ月間にわたり検証しました。
対象を無作為に介入群と対照群に分け、褥瘡発生率と重症度を比較しました。
統計解析の手順
群間比較にはカイ二乗検定を用い、重症度の比較にはMann-WhitneyのU検定を実施しました。
データ解析にはEZRを使用し、有意水準は5%に設定しました。
結果と考察
介入群では褥瘡発生率が43%減少し、統計的に有意な差が認められました(p<0.01)。
この結果により、新プロトコルの有効性が実証されました。
事例2:看護師の勤務満足度調査
B病院における看護師の勤務満足度に関する横断的調査研究です。
研究概要
病院全体の看護師500名を対象に、職務満足度と関連要因を調査しました。
質問紙調査により、満足度スコアと各種要因のデータを収集しました。
統計解析の手順
満足度スコアと各要因の関連性を、重回帰分析を用いて検討しました。
変数選択にはステップワイズ法を採用し、モデルの適合度も確認しました。
結果と考察
労働時間と上司のサポートが満足度に強い影響を与えることが判明しました(R2=0.68)。
この結果を基に、具体的な職場環境改善策が提案されました。
事例3:感染対策研修の教育効果
C病院で実施された感染対策研修プログラムの効果検証研究です。
研究概要
新人看護師100名を対象に、6ヶ月間の教育プログラムの効果を評価しました。
知識テストと実技評価を研修前後で実施し、スコアの変化を分析しました。
統計解析の手順
研修前後のスコア比較には、対応のあるt検定を使用しました。
実技評価の信頼性は、評価者間の一致率で検証しました。
結果と考察
知識テストでは平均点が25%上昇し、有意な改善が確認されました(p<0.001)。
実技評価でも同様の改善が見られ、プログラムの有効性が示されました。
看護師さんからのQ&A「おしえてカンゴさん!」
看護研究における統計処理に関して、よくある疑問や悩みについて回答します。
研究計画に関する質問
Q1:研究テーマの選び方について教えてください
臨床現場での課題や疑問から始めるのがよいでしょう。
日々の看護実践で「なぜ」「どうして」と感じる場面を研究テーマにすることで、より実践的な研究になります。
Q2:サンプルサイズの決め方が分かりません
統計的検定力分析を用いて算出します。
一般的な目安として、検出力80%、有意水準5%で、期待される効果量から必要なサンプルサイズを求めます。
統計手法の選択について
Q3:どの統計手法を使えばよいか迷います
データの種類と比較したい内容によって選択します。
2群の平均値を比較する場合はt検定、3群以上の場合は分散分析、関連性を見る場合は相関分析というように、目的に応じて選択します。
Q4:ノンパラメトリック検定とは何ですか
データが正規分布に従わない場合や順序尺度の場合に使用する検定方法です。Mann-WhitneyのU検定やWilcoxonの符号順位検定などが代表的です。
データ分析の実践について
Q5:外れ値の扱い方を教えてください
外れ値の定義を明確にし、その原因を検討することが重要です。
明らかな測定ミスの場合は除外し、そうでない場合は分析に含めるかどうかを研究目的に照らして判断します。
Q6:欠損値の処理はどうすればよいですか
欠損値の発生メカニズムを検討し、完全に無作為な欠損の場合は欠損値の補完を検討できます。
系統的な欠損の場合は、バイアスの可能性を考慮する必要があります。
結果の解釈について
Q7:p値が0.05より大きい場合は意味がないのでしょうか
p値は研究結果の一側面に過ぎません。
臨床的な意義や効果量も考慮して総合的に判断することが重要です。
Q8:効果量はどのように解釈すればよいですか
効果量は標準化された指標で、一般的にCohen’s dでは0.2が小、0.5が中、0.8が大とされています。
ただし、研究分野や文脈によって解釈は異なります。
統計ソフトの使用について
Q9:初心者にお勧めの統計ソフトは何ですか
EZRがお勧めです。
無料で使用でき、日本語インターフェースで操作も比較的簡単です。基本的な統計解析から高度な分析まで対応可能です。
Q10:エクセルでどこまでの分析ができますか
基本的な記述統計や単純な検定は実行可能です。
ただし、高度な分析や大規模データの処理には専用の統計ソフトの使用をお勧めします。
まとめ
統計処理は看護研究の質を高める重要なツールです。
本記事で解説した基礎知識と実践手法を活用し、エビデンスに基づく看護実践の向上にお役立てください。初めは簡単な分析から始め、徐々にスキルを磨いていくことをお勧めします。
より詳しい看護研究の方法や、統計処理の実践的なテクニックについては、【はたらく看護師さん】の研究支援コンテンツをご覧ください。
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