看護師として働く中で、インシデントは誰にでも起こりうるものです。しかし、その後の対応を誤ると、患者さんの安全を脅かすだけでなく、あなた自身の心にも深い傷を残してしまうかもしれません。
この記事では、インシデント発生時の具体的な対処法、再発防止のための対策、そしてメンタルケアまで、看護師が知っておくべき情報を網羅的に解説します。インシデントを乗り越え、さらに成長するためのヒントを見つけてください。
インシデントとは?

インシデントとは、ビジネス用語において「事件や事故などが起こる環境にある状況」を意味します。医療機関でのインシデントは、予期せず起こる突発的な出来事や問題を指し、患者の安全や健康に影響を与える事故やミス、失敗などをいいます。
これは新人看護師に限らず、ベテラン看護師にも起こりえるもので、看護師の仕事をしていくうえで、常に身近に存在するものです。
インシデントを起こした場合、看護師は迅速かつ冷静に対応し、適切な報告と記録を行い、その後の振り返りと学習を通じて再発防止に努めます。また、予防策や適切なコミュニケーション、教育を通じてインシデントを未然に防ぐ努力が重要です。
【事例あり】看護師に多いインシデント
看護師によるインシデントは、医療現場で日常的に発生する重要な問題の一つです。これらのインシデントは患者の安全や健康に影響を与える可能性があり、看護師が慎重に業務を遂行することが重要です。
看護師に多く見られるインシデントの主な事例とその対策について詳しく説明します。
インシデント①点滴・処方・与薬
点滴や薬の処方、投与時には患者の状態や適切な量を確認することが重要です。間違った薬剤や過剰な投与、誤った点滴速度、適切な情報伝達の不備などが発生する可能性があります。
対策
・電子カルテを使用したバーコード認証や看護師のダブルチェックする
・処方箋や医師の指示を正確に理解し、正しい薬剤・量・方法で投与する
・患者の正確なアレルギーや既往症の確認を行う
インシデント②患者の世話
患者の歩行介助、排泄介助時、食事などの世話をする際に、看護師が適切な注意を払わないことでインシデントが発生する可能性があります。
対策
・患者のリスクアセスメントを行い、適切なケアプランを立てる
・患者の移動や転倒予防のために適切な支援や装置を利用する
・排泄介助時や食事保護に関する適切な手順や規定に基づいて行動する
インシデント③ドレーン・チューブ
点滴のチューブやドレーン・チューブ抜けや外れ、点滴ラインの閉塞、漏れなどが多く報告されている事例です。特に、チューブを足に引っ掛けることによる「自己抜去」が最も多いとされています。
対策
・ドレーン・チューブが引っかかるリスクの高い箇所を把握し、患者の安全を確保するために注意深く行動する
・定期的なチェックと適切な位置調整を行い、引っかかりや異常がないか確認する
・点滴ラインが適切に流れるか定期的に確認する
・点滴ラインや接続部分がしっかりと固定されていることを確認し、患者の動きによる外れを防止する
インシデント④医療機器
医療機器の取り扱いや管理において、接続ミス、点検不足、トラブル対応の不備などがインシデントの原因となることがあります。
対策
・医療機器にアラーム設定をしてインシデントが起こったときに知らせてくれるようにする
・医療機器の適切な取り扱い方法やメンテナンス手順を熟知し、定期的な点検を実施する
・電子カルテを使用したバーコード認証や看護師のダブルチェックする
インシデント⑤検査
採血時の患者間違いや検体採取時の誤りなどにより、しっかりとした検査が行えず再検査を行わなければいけなくなったというインシデントも多いです。
対策
・正確な患者の身分確認を行い、採血や検体採取を遂行する
・検体の適切な取得方法とラベル付け手順を遵守する
これらのインシデントは、看護師の注意と適切な手順の遵守、連携、教育が重要な役割を果たします。また、組織全体でのチームワーク、適切なトレーニング、意識の向上なども、インシデントの予防に重要な要素となります。
看護師は常に患者の安全を最優先に考え、責任を持って仕事に取り組むことが不可欠です。
<看護師・ナースのリアルな声>あなたのインシデント体験談を教えてください
インシデントを起こしたときの対応

インシデントを起こした場合は、正しい対応が求められます。ここからは、看護師がインシデントを起こしたときの対応について解説していきます。
報告・処置を行う
インシデントが発生したことを、すぐにチームや関係者に報告します。チーム全体で状況を共有し、まず速やかに患者の安全を確保することが最優先です。状況に応じて適切な措置を講じ、患者に影響が及ばないように努めます。
インシデントレポートの作成
インシデントの詳細や状況を客観的かつ正確に記録します。事実に基づいた記録が後の調査や対応のために重要です。
そのため、インシデントレポートを作成し、関係者に提出します。この報告書には、インシデントの背景、発生時の状況、対応した内容、患者への影響、再発防止策などが含まれます。
インシデントの原因を明らかにするため、チームや関係者と共に調査を行います。根本的な原因を特定し、再発防止に向けた対策を立案していき、インシデント防止を図るようにしていきます。
インシデントが起こった場合、冷静かつ迅速に対処することが重要です。患者の安全と状況の改善を最優先に考え、チームと連携して的確な対応を行うことが、良い結果へとつながります。
インシデントを減らす方法
インシデントの発生を減らすためには、看護師としての注意と意識が欠かせません。日常の業務の中で特に重要なポイントについて詳しく説明していきます。
ルーティンワークに注意する
ルーティンワーク中にも十分な注意を払うことが不可欠です。繰り返し行う業務であっても、一貫して慎重さを保つことが重要です。単調な作業であっても、患者の安全がかかっていることを常に認識し、ミスを防ぐために気を配りましょう。
業務再開時が危険
休憩や業務再開時には、気を引き締めて業務に戻ることが大切です。リラックスしている最中や業務再開時には、注意力が低下し、ミスが発生しやすくなります。特に、長時間の連続勤務後や交代勤務の際には、注意を怠らないようにしましょう。
医師の指示変更を確認する
医師の指示は患者の状態や治療方針に応じて変わることがあります。したがって、指示が変更された際には、確実にその変更を把握し、正確に実施することが重要です。指示の変更を見逃さないよう、連携を強化し、適切なコミュニケーションを図りましょう。
連携強化とチームワーク
看護師同士や他の医療関係者との連携とチームワークが、インシデント防止に重要です。意見交換や情報共有を積極的に行い、チーム全体で患者の安全を守るために努力しましょう。
教育とトレーニング
看護師の継続的な教育とトレーニングは、技術や知識の向上につながります。新しい手順や最新のガイドラインについて常に学び、実践することで、適切なスキルと自信を持ち、インシデントの減少につながります。
<看護師・ナースのリアルな声>あなたがインシデントを起こさないために気を付けたことは?
看護師がインシデントを起こした時の立ち直り方

看護師がインシデントを起こしてしまった場合、それに対する適切な立ち直りと学びは看護職の成長と改善につながります。ここからは、インシデント発生時の立ち直り方について詳しく説明します。
何を間違ったかきちんと理解する
インシデントが起こった際、まず冷静になり、何が誤っていたのか、なぜそれが問題となったのかを理解することが重要です。客観的に事実を振り返り、自身の行動や判断、状況を分析します。これによって、今後の改善点や学びを明確にすることが可能となります。
気持ちを切り替える
自分自身に対する反省や後悔は避けられないものですが、それにとらわれすぎないことも重要です。インシデントが起きたことは事実であり、過去の出来事を変えることはできません。ここで重要なのは、これを貴重な経験として捉え、前向きに気持ちを切り替え、今後の成長に活かすことです。
繰り返さないための対策を考える
インシデントを経験したら、同様の事態が再び発生しないようにするための対策を考えることが重要です。これには、自身のスキルアップ、チームとのコミュニケーション改善、作業手順の再確認、リーダーシップの強化などが含まれます。具体的な改善策を考案し、実施することで、同様のインシデントを未然に防ぐ努力を行います。
サポートを受ける
インシデントが起きた際は、他の看護師や上司、同僚、カウンセラーなどの支援を受けることが重要です。自分ひとりで抱え込まず、感情や経験を共有することで、心の整理ができ、立ち直りや対策の思考がしやすくなります。
インシデントは、看護師にとって避けて通れない局面の一つですが、それが経験と学びに変わることで、将来のケアに対する洞察と質の向上が図れます。前向きに捉え、自己成長の機会として取り組むことが大切です。
<看護師・ナースのリアルな声>インシデントを起こしたときの気持ちを教えてください
インシデントレポートの必要性
インシデントレポートは、医療機関やケア施設において、ミスを起こさないための重要な情報です。インシデントが発生した際に、適切な対処法や再発防止のために不可欠なものとなります。
インシデントレポートの目的
インシデントレポートは、事故やエラー、危険な状況など、医療提供におけるさまざまな問題を把握し、記録するための手段です。これにより、過去のインシデントの傾向や特徴を把握し、今後の対策を練る基盤を作ることが可能となります。
インシデントレポートは、医療従事者や関係者間で情報共有と教育を促進します。報告されたインシデントの内容や対策は、他のスタッフにとっても重要な教訓となり、類似の問題を未然に防ぐ助けとなります。
要因を知り対策を練るため
インシデントレポートは、問題発生の背景や要因を明らかにします。これにより、単なる表面的な問題解決ではなく、根本原因に対するアプローチを可能にします。例えば、人的要因、システムの問題、コミュニケーションの課題など、幅広い要因が考えられます。
このレポートにより、なぜなぜ分析や問題の特定を行うことで、対策を効果的に立案し、実施することが可能となります。また、対策の効果を評価し、継続的な改善を進める土台となります。
インシデントレポートはリスクマネジメントの一環として活用され、リスクの特定と評価を通じて、患者安全の向上とリスクの最小化に向けた対策を講じるための重要なツールとなります。
なぜなぜ分析をおこなうため
なぜなぜ分析とは、題の要因を探究して、根本的な解決策を見つけるための分析方法で、「なぜこの事象が起きたのか」という問いかけを繰り返すことで、本当の原因を探る手段のことをいいます。
インシデントレポートは、このなぜなぜ分析を通じて、因果関係を理解するための基盤を提供します。問題がなぜ発生したのか、その背景にある要因やプロセスの関連性を明らかにすることで、適切な対策を練ることができます。
また、インシデントの再発防止に向けた持続的な改善が可能となり、問題の本質を理解し、対策を講じることで、類似の問題を未然に防ぐことができ、組織全体の学習機会を創出してくれます。
インシデントレポートはインシデントの発生状況や要因を明らかにする重要なツールであり、なぜなぜ分析を通じて問題の根本原因を特定し、対策を練るための基盤となります。これにより、医療の質の向上と患者安全の確保に向けた効果をもたらすことができます。
<看護師・ナースのリアルな声>インシデントレポートを作成したことはありますか?それは難しいですか?
インシデントレポートの作成方法

インシデントを起こしたときに、必ず作成しなければいけないインシデントレポートですが、今後の対策を練る基盤になるものなので、正確に作成する必要があります。
そこで、インシデントレポートの作成方法について詳しく説明します。
インシデントレポートの書式
インシデントレポートは、医療機関によって多少異なるので、指定されている書式で作成しなければいけません。始めは戸惑うところもあるかもしれませんが、必要な内容はほとんど変わりません。
①タイトル
インシデントレポートの性質や内容を簡潔に表すタイトルを設定します。
②日時・場所
インシデントが発生した日時と場所を明記します。
③作成期日
レポートの作成日を記載します。
④作成者
レポートを作成した者の氏名や役職を明示します。
⑤インシデントレベル
インシデントの深刻度に応じてレベルを示します(レベル0~レベル2)。
⑥背景・状況
インシデントの背景や発生した状況を詳細に記述します。
⑦関係者
インシデントに関与した関係者や関係部署を明示します。
⑧インシデントの詳細
インシデントの内容、経過、関連する行動・判断、および影響について記述します。
⑨原因分析
インシデントの根本的な原因を特定します。
⑩対応・改善策
インシデントを防止するための対策や改善案を提案します。
⑪検討事項
インシデントから得られた教訓や今後の予防対策について検討すべき事項を列挙します。
作成期日
インシデントが発生した直後に速やかにレポートを作成することが重要です。時間経過により記憶が薄れたり、証拠が失われたりする可能性があるため、できる限り早く作成し提出することが求められます。
作成者
インシデントレポートを誰が書くかは決まっていません。インシデントを起こした本人、関係者など、いろいろ考えられますが、まずは再発を防止することを考えて作成することが必要です。
提出先
こちらも、医療機関によって異なるので、どこに提出するか確認するようにしてください。
5w1hでなく6w1hで作成
インシデントレポートの作成は、通常の5W1H(Who, What, When, Where, Why, How)に加えて、「whom(誰に)」を加えた6W1H分析を行います。これにより、インシデントの原因や影響を多角的に把握し、要因が分析しやすいレポートになります。
レベル0~レベル2に該当するミスを記載する
インシデントにはレベル0からレベル2まであり、それ以降はアクシデントに分類され、レベル3からレベル5となります。それに応じた対応や改善策を明記します。このレベル分類は、インシデントの深刻度を客観的に把握するために役立ちます。
レベル0:間違ったことが発生したが、患者には実施されなかった
レベル1:間違ったことを実施したが、患者に変化は生じなかった。またはその場の対処ですみ、今後に影響を及ぼさないと考えられる
レベル2:生命に異常はないが今後経過観察を要し、検査の必要性が出た。緊急の治療は必要なかった
インシデントレポートの作成手順
これらを踏まえ、インシデントレポートの作成手順をご紹介していきます。
事実収集
インシデントが発生した状況や背景を事実に基づいて収集します。関係者への聞き取りや資料の収集などを行います。
事実確認と整理
収集した事実を整理し、冷静に分析することで、問題の要因や経緯を明確にします。
分析
6W1H分析を用いて、なぜ問題が発生したのか、その根本原因を特定します。これにより、再発防止策を練る基盤とします。
対応策の提案
インシデントの原因や影響を踏まえ、適切な対応策や改善案を提案します。可能な限り具体的かつ実現可能なものに焦点を当てます。
レポートの作成と提出
上記の項目をもとに、適切な書式でインシデントレポートを作成します。必要に応じて上司や関係者にレポートを提出し、承認を得ます。
反省と学び
インシデントレポートの作成プロセスや結果について反省し、将来のインシデント防止のために学びを得ます。
インシデントレポートは、医療従事者や組織にとって貴重な情報源であり、インシデントを防止するための具体的な対策や改善案を導く基盤です。正確かつ詳細な情報をもとに作成することで、医療の安全性と品質を向上させる重要なツールとなります。
<看護師・ナースのリアルな声>インシデントを起こして落ち込んでいる方にエールをお願いします!
インシデントレポートは国家試験にも出題される!
インシデントレポートは、看護師国家試験などの医療関連資格試験でも出題される重要なテーマです。
過去の試験では、「インシデントレポートの目的」「インシデントレポートについて正しいものを選ぶ」などが出題されていますが、今回ご紹介した内容を把握しておけば、しっかり回答できるものが多くなっています。
もし試験に出ぢされてもいいように、インシデントレポートについて、しっかり把握しておくことが必要になります。
まとめ
この記事では、看護師のインシデントについて詳しく解説してきました。
インシデントは、看護師が避けては通れないものです。もしインシデントを起こしてしまった時は、今後同じようなミスを起こさないためにも、医療チーム全員で共有し、再発防止に取り組むようにしましょう。
また、いつまでも引きずらず気持ちを整理し、自分の成長の糧とすることが重要です。どんな業界でもそうですが、ミスをしない人はいません。そのミスを、今後の自分に活かしていくようにしましょう。
インシデントを通して大きく成長し、より良い看護を目指し頑張っていきましょう。