保健師の仕事内容をわかりやすく解説します。
地域の健康を支えるプロフェッショナルの業務と魅力とは。2025年最新情報を交えてお届けします。
この記事で分かること
- 保健師の典型的な1日の業務の流れ
- 保健師の主な仕事内容と活動領域
- 保健指導や健康相談の具体的な進め方
- 保健師に必要なスキルと資質
- 保健師の仕事ならではのやりがい
- 保健師のキャリアパスと将来性
- 現役保健師によるリアルな体験談
この記事を読んでほしい人
- 保健師を目指している看護学生
- 看護師から保健師への転職を考えている方
- 保健師の仕事に興味がある医療系学生
- 地域の保健活動について知りたい一般市民
- キャリアチェンジを検討中の看護師
保健師とは?仕事の基本を理解しよう
保健師は、地域や職場の人々の健康維持・増進を支援する専門職です。
看護師免許を持ち、さらに保健師の国家資格を取得した医療専門職として、予防的な視点から健康支援を行います。
個人だけでなく、家族や地域社会全体を対象とした「集団へのアプローチ」が特徴で、病気になる前の予防活動や健康増進活動に重点を置いています。
医療機関で働く看護師とは異なり、健康な人も含めた幅広い対象者と関わるのが保健師の特徴です。
主な活動場所は市区町村の保健センター・保健所、企業の健康管理部門、学校、病院の地域連携部門、医療保険者(健康保険組合など)です。
それぞれの現場で、地域や組織の特性に合わせた保健活動を展開しています。
保健師の業務は多岐にわたりますが、主に「健康課題の把握」「健康教育・保健指導」「健康相談」「家庭訪問」「地区活動」などが含まれます。
これらの活動を通じて、人々の健康づくりを支援し、健康的な地域社会の実現に貢献しています。
保健師の1日の流れ〜市町村保健センターの場合〜

保健師の勤務先によって業務内容は異なりますが、ここでは最も一般的な「市町村保健センター」で働く保健師の1日を紹介します。
保健師の仕事を具体的にイメージするための参考にしてください。
朝:8:30〜
8:30 出勤・朝礼
朝は職場に出勤し、まず朝礼から1日が始まります。
その日のスケジュールの確認や緊急の連絡事項の共有がなされます。
保健センターでは様々な事業が同時進行しているため、チームメンバーとの情報共有は重要です。
特に母子保健担当と成人保健担当、高齢者保健担当など、部署間の連携が必要な案件についても確認します。
「今日は4か月児健診があるので、会場準備は9時から始めましょう」「昨日の家庭訪問で気になるケースがあったので、後ほど相談させてください」などの情報交換がなされます。
9:00 事務作業・準備
朝礼後は、前日の訪問記録の整理や、当日の相談予約の確認など、事務作業に取り掛かります。
保健師の仕事は直接的な支援だけでなく、記録の作成やデータ管理なども重要な業務です。
また、午後に予定されている健康教室の資料チェックや、必要な物品の準備も行います。
メールチェックも欠かせない業務の一つです。
他機関からの連絡や、住民からの問い合わせなどに返信します。
特に医療機関や福祉施設からの連絡は、その後の支援計画に関わる重要な情報となることが多いです。
午前:9:30〜12:00
9:30 乳幼児健診
多くの市町村では月に数回、4か月児健診や1歳6か月児健診、3歳児健診などの乳幼児健診を実施しています。
この日は4か月児健診が予定されており、保健師は問診担当として赤ちゃんの発育・発達状況や生活リズム、親の育児状況などを確認します。
問診では母子健康手帳の記録を確認しながら、「おっぱいやミルクの飲みはどうですか?」「寝返りはしますか?」「夜はぐっすり眠れていますか?」など、具体的な質問を通じて赤ちゃんの成長を評価します。
同時に、母親の表情や応答の様子からメンタル面の状態も観察し、育児不安や産後うつの兆候がないかチェックします。
「最近夜泣きが激しくて、つらいです」という相談があれば、具体的な対応方法をアドバイスしたり、必要に応じて個別の育児相談につなげたりします。
11:30 ケース会議
健診終了後は、医師、栄養士、歯科衛生士、心理士など他職種と共にカンファレンスを行います。
健診で気になったケースについて情報を共有し、支援の方針を決定します。
例えば「Aさん家庭の第二子は体重増加が緩やかで、母親も疲れた様子だった」という情報があれば、「栄養士からは離乳食の進め方について個別相談があった」「以前から上の子の発達に不安があり、父親の育児参加も少ない」など、多職種からの情報を集約します。
そして「来週家庭訪問を行い、育児状況を詳しく確認する」「必要に応じて子育て支援センターの利用を勧める」など、具体的な支援計画を立てます。
昼休み:12:00〜13:00
昼休みは昼食をとりながら、午前中の記録の整理や午後の準備を行うことも少なくありません。
特に気になるケースがあった場合は、同僚の保健師に相談したり、過去の記録を確認したりすることもあります。
リフレッシュの時間としても大切にし、同僚とリラックスした会話をする時間を持つことで、午後の業務に向けて心身ともに整えます。
午後:13:00〜17:15
13:00 家庭訪問
午後は主に家庭訪問を行います。
この日は以下の4件の訪問が予定されています。
1つ目は新生児訪問です。
生後2週間の赤ちゃんと母親を訪問し、赤ちゃんの体重測定や全身状態の観察、母乳やミルクの飲みの確認などを行います。
また、母親の心身の回復状況や育児の不安などもじっくり聴き取ります。
「夜は何回ぐらい起きますか?」「おっぱいの張りや痛みはどうですか?」など、具体的な質問を通じて状況を把握します。
訪問の最後には育児に関する情報提供や、必要な社会資源の紹介も行います。
2つ目も新生児訪問ですが、初産婦で特に不安が強いケースです。
授乳方法のデモンストレーションや具体的なあやし方の実演なども交えながら、丁寧に支援を行います。
「おっぱいをこうやって持つと赤ちゃんが飲みやすいですよ」「抱っこの仕方はこうすると楽ですよ」など実践的なアドバイスを提供します。
3つ目は、育児不安が強く継続支援中の家庭への訪問です。
第一子が6か月で、母親はもともと不安が強い性格とのこと。
前回の訪問から1か月が経過し、「赤ちゃんの発達は順調ですね」「離乳食も少しずつ進んでいますね」と成長を一緒に喜びながら、母親の不安を軽減できるよう関わります。
4つ目は一人暮らしの高齢者宅への介護予防訪問です。
最近、地域の民生委員から「最近外出が減っている」との情報があったケースです。
「最近はどのように過ごされていますか?」「お食事は作っていますか?」などの質問を通じて生活状況を確認し、フレイル(虚弱)の兆候がないかアセスメントします。
必要に応じて介護予防教室の案内や、地域の通いの場の紹介などを行います。
15:30 事務所に戻り、記録作成
訪問を終えて事務所に戻ったら、訪問記録の入力や支援計画の修正を行います。
特に継続支援が必要なケースについては、次回の支援内容や方向性を明確にしておきます。
また、関係機関(児童福祉担当課や地域包括支援センターなど)への連絡や情報提供も必要に応じて行います。
「新生児訪問で関わったBさん家庭は、上の子に発達の遅れが疑われるため、子ども発達支援センターに情報提供の同意を得た」「高齢者のCさんは介護予防教室への参加に前向きなので、地域包括支援センターに連絡して送迎の調整を依頼する」など、他機関との連携も重要な業務です。
16:00 健康相談(来所・電話)
多くの保健センターでは、予約制や随時の健康相談を受け付けています。
この時間帯は、予約していた30代女性が骨密度検査の結果について相談に来所しました。
結果説明と共に、今後の生活習慣の改善点について一緒に考え、具体的なアドバイスを行います。
「カルシウムを多く含む食品はこのようなものがあります」「適度な運動は週に何回程度、どのくらいの強度で行うと効果的です」など、その人の生活に合わせた現実的なアドバイスを心がけます。
また、電話では40代男性から特定健診の結果について質問があり、検査値の見方や医療機関の受診の必要性について説明します。
「この数値はこういう意味があります」「○○内科クリニックは夜間診療もやっていますよ」など、具体的な情報提供を行います。
相談の合間に、次回の健康相談の予約調整も行います。
17:00 終業準備
1日の終わりには、翌日の訪問準備やスケジュール確認、記録の最終確認などを行います。
特に翌日の訪問先の情報を改めて確認し、必要な資料や物品をそろえておきます。
「明日は産後うつの疑いがあるDさん宅を訪問する予定なので、産後うつのスクリーニングシートと地域の子育て支援情報を準備しておこう」といった具合です。
また、1日の業務を振り返り、課題や気づきを整理する時間も大切にします。
「今日の新生児訪問では母親の疲労感が強く感じられたので、次回は父親も在宅している週末に訪問調整してみよう」「高齢者訪問では食事内容が気になったので、次回は栄養士と同行訪問できないか相談してみよう」など、次の支援につながる振り返りを行います。
時間外:17:15〜
通常の業務時間は17:15までですが、月に数回は時間外の活動があります。
例えば、働く世代向けの健康教室は夜間(19:00〜20:30頃)に開催されることもあります。
また、地域の自治会や民生委員との会合、健康づくりボランティアの育成研修なども、住民が参加しやすい夜間や休日に行われることがあります。
これらの活動は、普段接点の少ない働き盛りの世代や地域のキーパーソンとつながる貴重な機会となります。
例えば夜間の生活習慣病予防教室では、日中は仕事で忙しい40〜50代の方々に、運動や食事について実践的なアドバイスを提供します。
また、年に数回は休日に健康まつりや健診などの大きな行事があり、多くの住民と関われる機会となります。
これが基本的な1日の流れですが、配属先や担当業務によって大きく異なります。
また、保健師は「何でも屋」と言われるほど多様な業務を担当することもあり、常に柔軟な対応が求められます。
保健師の主な業務内容

保健師の業務は多岐にわたりますが、主に以下の5つに分類できます。
それぞれの業務について詳しく見ていきましょう。
1. 保健指導
保健指導は保健師の業務の中核です。
対象者の健康状態や生活習慣を評価し、健康増進のための具体的なアドバイスや支援を行います。
特定保健指導(メタボリックシンドローム対策)は、保健師が行う代表的な保健指導の一つです。
健診結果からメタボリックシンドロームのリスクが高いと判定された方に対して、生活習慣の改善をサポートします。
具体的には、初回面談で生活習慣の振り返りを行い、対象者と一緒に具体的な行動目標を設定します。
例えば「毎日10分多く歩く」「間食を週3回に減らす」「休肝日を週に2日設ける」など、実現可能な目標から始め、3〜6か月間継続的に支援します。
対象者の中には「忙しくて運動する時間がない」「おいしいものを我慢するのはつらい」などの声も多く聞かれますが、保健師は「通勤時にひと駅分歩く」「休憩時間に階段を使う」など、無理なく続けられる方法を一緒に考えます。
また「食事制限ではなく、バランスの良い食事を考えましょう」と前向きな表現を心がけ、対象者のモチベーション維持を支援します。
妊婦への保健指導も重要な業務です。
妊娠届出時や両親学級などの場で、妊娠中の過ごし方や出産への準備、産後のイメージづくりなどをサポートします。
「つわりがつらい時は無理せず、少量ずつ頻回に食事をとりましょう」「妊娠中の適切な体重増加は10〜12kg程度が目安です」「出産後の生活について、ご家族とも話し合っておくと安心ですね」など、妊婦さんの不安軽減と健康管理を支援します。
生活習慣病予防の指導では、高血圧や糖尿病などのリスクがある方に対して、食事や運動、禁煙などの具体的なアドバイスを行います。
特に行動変容が難しい方に対しては「いきなり完璧を目指すのではなく、まずは小さな一歩から始めましょう」と伝え、成功体験を積み重ねられるよう支援します。
保健指導の際には、単に「これをしてください」と指示するのではなく、対象者の生活背景や価値観を尊重しながら、実現可能な健康目標を一緒に考えていくことが大切です。
また、指導の場では「押し付け」ではなく「伴走者」としての姿勢を心がけ、対象者自身が主体的に健康づくりに取り組めるよう支援します。
2. 健康相談
健康相談は、住民や従業員からの健康に関する相談に応じ、適切なアドバイスや情報提供を行う業務です。
保健センターの窓口や電話、健診会場など、様々な場面で行われます。
育児相談は特に多い相談内容の一つです。
「赤ちゃんの体重増加が少なくて心配」「夜泣きがひどくて疲れています」「離乳食をなかなか食べてくれない」など、発育・発達や育児方法に関する相談が寄せられます。
保健師は具体的な状況を聴き取り、「今の体重は標準的な範囲内ですよ」「夜泣きの時期は誰かと交代しながら対応できるといいですね」「赤ちゃんのペースに合わせて、楽しく食事の時間を過ごしましょう」などのアドバイスを行います。
また、育児不安や産後うつの兆候がある場合は「無理をしないで、できることからしていきましょう」「一人で抱え込まずに、周囲に助けを求めることも大切ですよ」と伝え、必要に応じて専門的な支援につなげます。
心の健康相談も増加傾向にあります。
「最近眠れない」「何もする気が起きない」「家族のことで悩んでいる」など、メンタルヘルスに関する相談に対しては、まず丁寧に話を聴き、相談者の状況を把握します。
そして「睡眠の質を高めるために、寝る前のリラックスタイムを持ってみましょう」「無理せず少しずつ活動量を増やしていくといいですね」などのアドバイスを行います。
必要に応じて、医療機関や専門相談機関を紹介することもあります。
生活習慣病予防の相談では、健診結果の見方や生活習慣の改善方法について説明します。
「この数値がこのくらい高いと、将来このようなリスクがあります」「1日30分の運動を週3回から始めてみましょう」「塩分摂取量を減らすために、まずは調味料を見直してみましょう」など、具体的で実践しやすいアドバイスを心がけます。
がん検診や予防接種に関する相談も多く、「どの検診を受ければいいですか」「副作用が心配です」といった質問に対して、科学的根拠に基づいた正確な情報提供を行います。
相談者の中には、健康上の悩みだけでなく、経済的な問題や家族関係の悩みなど、複合的な問題を抱えている場合もあります。
そうした場合は「今は健康保険の窓口につなぎましょう」「地域包括支援センターではこのような支援が受けられます」など、適切な関係機関へつなぐ調整役として機能します。
健康相談の基本は「傾聴」です。
相談者の話をよく聴き、共感的な姿勢で接することで、相談者は安心して悩みを打ち明けることができます。
そして、単なる情報提供に終わらせず、その人の生活状況や価値観に合わせた実践的なアドバイスを行うことが、保健師の専門性が発揮される場面です。
3. 家庭訪問
家庭訪問は、保健師ならではの重要な活動の一つです。
様々な理由で保健センターなどに来所できない方や、個別の支援が必要な方の自宅を訪問し、健康状態の確認や支援を行います。
新生児・乳幼児訪問は、多くの自治体で行われている代表的な訪問活動です。
赤ちゃんが生まれた全家庭を対象に、生後1〜2か月頃に訪問します。
訪問では、赤ちゃんの体重測定や全身観察、母乳やミルクの飲み具合、黄疸の有無、へそのケアなどを確認します。
また、母親の身体的回復状況や精神的な状態も重要なチェックポイントです。
家庭訪問では、保健センターでは見えない生活環境を直接確認できることが大きな利点です。
例えば「部屋が極端に散らかっている」「衛生状態が気になる」といった生活環境の問題や、「兄弟への関わりが乱暴」「パートナーとの関係が良好でない」といった家族関係の課題に気づくこともあります。
こうした観察結果は、その後の支援方針を考える上で貴重な情報となります。
産後うつのリスクがある母親への訪問では、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)などのスクリーニングツールを活用しながら、丁寧な状態把握を行います。
「眠れていますか?」「食欲はありますか?」「赤ちゃんのことをどう感じていますか?」など、具体的な質問を通じてメンタル面の状態を評価します。
そして「無理せず助けを求めましょう」「少しでも休める時間を作りましょう」といったアドバイスや、必要に応じて医療機関や産後ケア事業の利用を提案します。
高齢者への訪問では、特に一人暮らしの方の健康状態や生活状況を確認します。
「規則正しい食事がとれていますか」「お薬は正しく飲めていますか」「最近外出する機会はありますか」など、生活全般にわたる質問を通じて、介護予防の視点からアセスメントを行います。
必要に応じて「地域のサロンに参加してみませんか」「配食サービスを利用されると便利ですよ」といった社会資源の紹介も行います。
精神疾患を持つ方への訪問は、特に繊細な対応が求められます。
本人の状態や生活状況の確認だけでなく、服薬状況や通院状況、家族の負担感なども重要なアセスメントポイントです。
「調子はいかがですか」「お薬は続けられていますか」「困っていることはありませんか」など、本人のペースに合わせた関わりを心がけます。
健診未受診者への訪問も重要な業務です。
特に乳幼児健診や特定健診の未受診者に対して、「何か受診を妨げる理由があるのではないか」という視点で訪問します。
中には「交通手段がなくて行けない」「子どもが多くて連れて行けない」「仕事が忙しくて時間がとれない」など、様々な事情を抱えているケースがあります。
そうした場合は「送迎サービスがありますよ」「土日の健診日もありますよ」など、対象者の状況に合わせた情報提供を行います。
家庭訪問は、プライバシーへの配慮が特に重要な活動です。
訪問前には必ず連絡を入れ、都合の良い日時を確認します。
また、訪問時には「支援」と「監視」の境界線に注意し、相手の生活や価値観を尊重する姿勢を大切にします。
さらに「何か困ったことがあれば、いつでも相談してくださいね」と伝え、継続的な相談窓口としての存在もアピールします。
4. 健康教育・普及啓発活動
健康教育は、集団を対象とした健康講座や教室を通じて、健康知識の普及や健康行動の促進を図る活動です。
対象者の特性に合わせた内容と方法で、効果的な学びの場を提供します。
母親学級・両親学級
妊婦とその家族を対象とした代表的な健康教育です。
「妊娠中の過ごし方」「出産の経過と呼吸法」「赤ちゃんのお世話の仕方」「産後の生活と心の変化」などをテーマに、実技を交えながら実践的な内容を提供します。
例えば「妊婦体験ジャケットを着用して、妊婦の大変さを体感してみましょう」「赤ちゃん人形でオムツ交換や抱っこの練習をしてみましょう」といった体験型の学習を取り入れます。
実際の開催では、参加者同士の交流も大切にし、情報交換や仲間づくりの場としても機能するよう配慮します。
初めて親になる夫婦には「産後は母親の休息を最優先してください」「家事や育児を分担する具体的な計画を立てておきましょう」など、産後の生活をイメージしたアドバイスも行います。
近年では、産後うつ予防の視点から、夫婦のコミュニケーションや育児分担の重要性も強調しています。
生活習慣病予防教室
メタボリックシンドロームや糖尿病、高血圧などのリスクがある方を対象に、食事や運動、ストレス管理などの健康習慣について学ぶ機会を提供します。
例えば「血圧が高めの方のための食事教室」では、減塩のコツや具体的な調理法を実演します。
「これくらいの量が適量です」「香辛料やレモンを活用すると、塩分が少なくてもおいしく感じます」など、実生活に役立つ情報を提供します。
また、参加者同士でレシピを持ち寄ったり、改善点を話し合ったりするグループワークも効果的です。
運動教室では「無理なく続けられる運動の種類と強度」「日常生活に運動を取り入れるコツ」などを伝えます。
座学だけでなく、実際にウォーキングやストレッチを体験してもらうことで、運動への抵抗感を減らし、「私にもできる」という自信につなげます。
認知症予防教室
高齢者を対象に脳トレーニングや運動、社会参加の重要性などを伝えます。
「計算問題や言葉遊びなどの頭の体操を毎日続けましょう」「趣味や社会活動を通じて人とのつながりを保ちましょう」など、認知機能維持のための具体的な方法を紹介します。
教室では脳を活性化させるゲームやクイズを取り入れ、楽しみながら学べる工夫をします。
また「認知症は誰もがなりうるものです」と伝え、認知症に対する正しい理解と偏見の解消も目指します。
認知症の初期症状や相談窓口についても情報提供し、早期発見・早期対応の重要性を伝えます。
「もの忘れが気になり始めたら、まずは地域包括支援センターに相談してみましょう」など、具体的な行動につながる情報を提供します。
介護予防教室
筋力トレーニングやバランス運動、口腔ケア、栄養指導などを通じて、フレイル(虚弱)予防の方法を伝えます。
「椅子に座ったままできる簡単な筋トレがあります」「バランスの良い食事は、タンパク質を意識することから始めましょう」など、高齢者でも無理なく実践できる内容を心がけます。
継続的な教室開催により、参加者同士の交流が生まれ、社会的つながりも強化されます。
「みんなと会えるのが楽しみで、毎回参加しています」という声も多く聞かれ、介護予防と同時に生きがいづくりにも貢献しています。
教室終了後も自主グループとして活動を続けられるよう支援し、持続可能な介護予防活動を目指します。
「教室で学んだ体操を、自分たちで週1回公民館に集まって続けています」といった自主活動につながると、保健師としても大きなやりがいを感じます。
思春期健康教育
学校と連携して行われることが多く、小中高校生を対象に性教育や生命の大切さ、心身の発達などについて伝えます。
「体の変化は誰にでも起こる自然なことです」「自分の体を大切にすることは、相手も大切にすることにつながります」など、思春期の子どもたちに分かりやすく丁寧に伝えます。
特に性教育では、専門的な知識だけでなく、人間関係や意思決定、コミュニケーションスキルなども含めた包括的な内容が重要です。
「相手に自分の気持ちをきちんと伝える練習をしてみましょう」「困ったときに相談できる大人や窓口を知っておきましょう」など、実践的なスキルも教えます。
学校の先生やスクールカウンセラーとの連携も大切にし、子どもたちが継続的にサポートを受けられる体制づくりも意識します。
健康まつり・イベント
地域住民を対象とした大規模な健康イベントも、普及啓発活動の重要な機会です。
「健康まつり」「健康フェア」などの名称で、様々な健康チェックや体験コーナー、相談ブースなどを設けます。
例えば「血管年齢測定」「骨密度チェック」「体組成測定」「肺年齢測定」といった各種測定コーナーや、「簡単エクササイズ体験」「野菜たっぷりレシピの試食」「禁煙相談」「お口の健康チェック」など、多様なブースを設置します。
「気軽に健康チェックができる」「家族で楽しめる」といった要素を取り入れることで、普段健康に関心の低い層も含めた幅広い住民の参加を促します。
「まつりに来たら、血圧が高めだと分かって医療機関を受診することにしました」といった成果も少なくありません。
このようなイベントの企画・運営は保健師の重要な業務の一つです。
予算管理、関係機関との調整、広報活動など、マネジメント能力も求められます。
健康情報誌・広報活動
広報誌や自治体のウェブサイト、SNSなどを活用した情報発信も、健康教育の一環です。
「今月は食育月間です」「熱中症予防のポイント」「インフルエンザ予防接種のお知らせ」など、季節や地域の健康課題に応じたタイムリーな情報を発信します。
特に紙媒体の広報は高齢者に効果的です。
「保健センターだより」などを定期的に発行し、健康情報や各種教室の案内を掲載します。
見やすい文字サイズ、わかりやすい表現、親しみやすいイラストなどを工夫し、読者の興味を引く内容にします。
一方、若い世代には自治体のSNSやアプリなどを活用した情報発信が効果的です。
「子育て応援アプリ」「健康ポイント事業」などのデジタルツールも普及してきており、時代に合わせた情報発信方法を常に模索しています。
職場の健康教育
企業保健師の場合は、従業員を対象とした健康教育が主な業務となります。
「メンタルヘルス研修」「腰痛予防教室」「VDT作業の健康対策」「禁煙セミナー」など、職場特有の健康課題に対応した教育を行います。
例えば「ストレス対処法セミナー」では「ストレスサインの見分け方」「効果的なリラクゼーション法」「周囲への相談の仕方」などを伝え、メンタルヘルス不調の予防と早期発見を促します。
実際にストレッチやリラクゼーション法を体験してもらうことで、日常生活に取り入れやすくします。
また、職場の管理職を対象とした「ラインケア研修」も重要です。
「部下のメンタルヘルス不調のサイン」「適切な声かけの方法」「職場環境の改善ポイント」などを伝え、働きやすい職場づくりをサポートします。
企業全体の健康経営推進の一環として、経営層向けの「健康経営セミナー」を行うこともあります。「従業員の健康が企業の生産性向上につながる」「健康投資のリターン」などのテーマで、経営的視点からの健康づくりの重要性を伝えます。
健康教育の工夫と評価
効果的な健康教育を行うためには、いくつかの工夫が必要です。
まず、一方的な知識提供ではなく、参加型の内容にすることが重要です。
グループワーク、実技、体験談の共有、ロールプレイなど、参加者が主体的に学べる方法を取り入れます。「今日学んだことの中で、明日から実践できることを一つ選んでみましょう」など、行動変容につながる仕掛けも効果的です。
また、参加者のレベルや関心に合わせた内容と表現を心がけます。
専門用語を避け、具体例やたとえ話を用いるなど、わかりやすさを重視します。「野菜はこれくらいの量が目安です」と実物を見せたり、「血管の詰まりはこのようなイメージです」と模型を使ったりするなど、視覚的な教材も効果的です。
さらに、健康教育の効果を評価することも重要です。
参加者アンケートで満足度や理解度を確認するだけでなく、「教室参加前後で行動が変化したか」「健診データに改善が見られたか」など、客観的な指標も用いて評価します。
この評価結果を次回の企画に活かすPDCAサイクルを回すことで、より効果的な健康教育を目指します。
最近では、オンラインを活用した健康教育も増えています。
コロナ禍をきっかけにZoomなどを使った教室が広がり、「天候に関係なく参加できる」「移動時間がかからない」「自宅で気軽に参加できる」などのメリットが注目されています。
一方で「高齢者にはハードルが高い」「実技指導が難しい」といった課題もあり、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド型の教室も模索されています。
健康教育は単なる知識提供の場ではなく、参加者同士の交流や情報交換の場としても重要な役割を果たします。
特に同じ健康課題を持つ仲間との出会いは「私だけじゃないんだ」という安心感につながり、行動変容の大きな動機づけとなります。
保健師はこうした参加者同士のつながりも意識しながら、教室運営を行っています。
保健師の具体的な活動事例

保健師の仕事を具体的にイメージするために、実際の活動事例をご紹介します。
これらの事例は保健師が日々どのように個人や地域の健康課題に取り組んでいるかを示す実例です。
様々な場面での保健師の役割や支援方法についてより深く理解していただけるでしょう。
事例1:特定保健指導でのアプローチ
Aさん(45歳男性)は特定健診で腹囲・BMI・中性脂肪の値が基準を超え、積極的支援の対象となりました。
初回面談で生活習慣を確認したところ、営業職で不規則な食生活、運動不足、飲酒量が多いことがわかりました。
保健師はまず、Aさんの健診結果を一緒に確認し、各数値の意味とリスクについて説明しました。
「この腹囲と中性脂肪の値が続くと、将来的に糖尿病や心臓病のリスクが高まります」と具体的に伝えつつも、改善可能であることを強調しました。
次に、Aさんの生活背景や価値観を丁寧に聴き取りました。
「仕事が一番の生きがいで、健康を害して仕事に支障が出るのは避けたい」という思いが強いことがわかりました。
そこで「仕事に支障なく健康を維持する」という目標を共有しました。
具体的な行動目標設定では、Aさんの生活リズムに合わせた実現可能な内容を一緒に考えました。
営業で移動が多いため「電車やバスでの移動時、一駅分歩く」という目標を立てました。
また「週3日は缶ビール2本までにする」「夕食は9時までに済ませる」など、無理なく続けられる目標を設定しました。
支援期間中は月1回の電話サポートを実施し、進捗確認と励ましを行いました。
「先週は目標を達成できませんでしたか。
忙しい時期は特に難しいですよね。
でも週末に少し歩けたのは素晴らしいことです」と、できていることを肯定的に評価し、モチベーション維持を支援しました。
3か月後の中間評価では、体重が2kg減少し、歩数も1日平均3000歩増加していました。
「少しずつ変化が出てきましたね。
体は軽くなりましたか?」と体感的な変化も確認しながら、成功体験を強化しました。
6か月後の最終評価では、体重-4kg、腹囲-3cm、中性脂肪値も改善していました。
Aさんからは「最初は無理だと思ったが、少しずつ習慣化できて驚いている。
健診が楽しみになった」という感想がありました。
この事例では、対象者の仕事スタイルや価値観に合わせた目標設定が成功のポイントでした。
また、できているところに焦点を当てたポジティブなアプローチも効果的でした。
Aさんは翌年の健診でも改善状態を維持しており、生活習慣の変化が定着した好例といえます。
事例2:産後うつのリスクがある母親への支援
Bさん(32歳)は第1子出産後、新生児訪問で「赤ちゃんの泣き声が怖い」「うまく育てられるか不安」と涙ぐむ場面がありました。
エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)の得点も高く、産後うつのリスクが考えられました。
保健師はまず、Bさんの気持ちを十分に聴く時間を設けました。
「赤ちゃんが泣くと何をして欲しいのかわからなくて、不安になりますね」「初めての育児で自信がないのは当然のことです」と共感的に関わりました。Bさんは「本当は良い母親になりたいのに、うまくできなくて自分が嫌になる」と涙ながらに話しました。
保健師は「そう感じるのは自然なことです。
多くのお母さんが同じ気持ちを経験しています」と伝え、Bさんの気持ちを正常化しました。
そして「完璧なお母さんになろうとせず、今はご自身の休息も大切にしましょう」とアドバイスしました。
具体的な支援として、週1回の電話フォローを提案し、Bさんの了承を得ました。
電話では体調や睡眠、授乳の状況など具体的に確認し、体調優先の視点からアドバイスを行いました。「夜は旦那さんに赤ちゃんを見てもらって、連続した睡眠時間を確保できるといいですね」「授乳中心の生活は想像以上に体力を使います。
できるだけ横になる時間を作りましょう」など、現実的な提案を心がけました。
2週間後に再訪問し、母子の状態を確認しました。Bさんは「少しずつ赤ちゃんのリズムがわかってきた」と話し、笑顔も見られるようになりました。
しかし、EPDSの点数は依然高く、継続的な支援が必要と判断しました。
Bさんの了承を得て、産婦人科医・小児科医との連携を図りました。
医療機関と情報共有することで、診察時にもBさんの状況に配慮した対応が可能になりました。
また、同じ月齢の子を持つ母親との交流の場として、地域の育児サークルを紹介しました。
初回は保健師が同行し、サークルのスタッフにBさんを紹介することで、スムーズな参加を支援しました。
さらに、必要に応じて産後ケア事業(デイサービス)の利用を提案し、実際に週1回の利用につなげました。
「専門職に赤ちゃんを見てもらいながら、ご自身はゆっくり休息できる時間を持ちましょう」と勧め、育児の負担軽減を図りました。
継続的な支援により、Bさんは徐々に育児に自信を持つようになりました。
4か月健診時には笑顔で子育ての様子を話せるようになり、EPDSの点数も低下していました。
「サークルで知り合ったお母さんと連絡を取り合うようになり、孤独感が減りました」と話すBさんの表情からも、精神状態の改善が感じられました。
この事例では、早期発見・早期支援が重要でした。
新生児訪問で産後うつのリスクを把握し、電話・訪問・他機関連携・社会資源活用など複合的な支援を展開することで、状態の悪化を防ぎました。
また、母親の心身の回復を最優先する視点が、結果的に母子関係の改善にもつながった好例です。
事例3:高齢者の介護予防活動
C地区は高齢化率が35%を超える地域でした。
保健師は地域診断を行い、高齢者の外出機会の減少とフレイル(虚弱)の進行が地域課題であることを特定しました。
保健師はまず、地域の健康課題を客観的データで把握するため、高齢者の健診データ分析や、民生委員へのヒアリング調査を実施しました。
その結果、「足腰の弱りを感じる高齢者が増加している」「独居高齢者の閉じこもりが目立つ」「通いの場が少なく、外出のきっかけがない」という課題が浮かび上がりました。
次に、地域の自治会長・民生委員と課題を共有し、対策を協議しました。
「高齢者が気軽に参加できる通いの場を増やす必要がある」という方向性を確認し、公民館を活用した介護予防活動を計画しました。
具体的な取り組みとして、まず地区サロンでフレイルチェック会を実施しました。
簡易的な体力測定や社会参加状況の確認を通じて、フレイルの早期発見と意識啓発を図りました。
参加者には「あなたの握力は同年代の平均よりも高いですね」「最近外出の機会が減っているようですが、週に何回かは外に出る機会を作りましょう」など、個別のフィードバックを行いました。
次のステップとして、住民ボランティアによる「いきいき百歳体操」グループの立ち上げを支援しました。
保健師は体操の指導方法を住民リーダーに伝え、活動場所の確保や広報活動もサポートしました。
「無理なく続けられる運動が大切です」「お互いに声を掛け合って参加を促すことが長続きのコツです」と、運営のポイントもアドバイスしました。
活動の継続意欲を高めるため、3か月ごとに体力測定会を開催し、効果を可視化しました。
「3か月前と比べて、みなさんの片足立ちの時間が平均10秒伸びています」「階段の上り下りが楽になったという声も多いですね」と、成果をフィードバックすることで、モチベーション維持を支援しました。
また、運動だけでなく社会的交流も重視し、体操後の茶話会の時間を設けました。
「今日の調子はどうですか?」「先週お休みされていましたが、体調は良くなりましたか?」と参加者同士が声を掛け合う様子が見られるようになりました。
保健師は定期的に活動に参加し、体操の効果や安全面の確認、参加者の健康相談なども行いました。
また、活動の様子を広報誌やホームページで紹介し、新たな参加者の獲得も支援しました。
この活動を1年間継続した結果、参加高齢者の筋力向上だけでなく、社会的つながりも強化されました。
「家から出るのが楽しみになった」「体操の日は朝から気持ちが違う」「知り合いが増えて会話が増えた」という声が多く聞かれました。
また、当初5人だった参加者が25人に増え、近隣地区からも見学者が訪れるようになりました。
さらに、この成功体験をもとに、地区内の別会場でも同様の活動が始まり、通いの場が増加しました。
住民主体で運営される持続可能な介護予防活動の広がりは、地域全体の健康づくりの推進力となっています。
この事例では、保健師が「点」としての個別支援だけでなく、「面」としての地域全体への働きかけを行った点が特徴です。
地域診断から課題を特定し、住民と協働で解決策を実践することで、持続可能な健康づくり活動が実現しました。
また、住民の力を引き出し、主体性を尊重した支援が、活動の定着と拡大につながった好例といえます。
事例4:職域における過重労働対策
D社は従業員300名の製造業で、繁忙期の長時間労働が課題となっていました。
産業保健師は、定期健康診断の結果分析から「40代男性社員の高血圧や脂質異常が増加傾向にある」「残業時間の多い部署ほど有所見率が高い」という問題を発見しました。
保健師はまず、健診データと勤怠データの関連分析を行い、具体的な数値で課題を可視化しました。
「月間残業時間が80時間を超える部署は、他部署と比較して高血圧者の割合が1.5倍高い」「2年連続で残業が多い社員は、健診項目の悪化率が高い」などの分析結果を、経営層や人事部門と共有しました。
次に、過重労働対策推進チームの立ち上げを提案し、人事部、安全衛生担当者、各部署の管理職と共に対策を検討しました。
保健師は医学的知見から「長時間労働がもたらす健康リスク」を説明し、具体的な改善策の立案をサポートしました。
具体的な取り組みとして、まず長時間労働者への面接指導体制を強化しました。
月間残業時間が80時間を超える社員全員に産業医面談を実施し、疲労蓄積度や心身の状態を確認しました。
保健師は面談前の問診を担当し、「最近の睡眠の質はいかがですか?」「食事の時間は規則的に取れていますか?」など具体的に健康状態を把握しました。
また、管理職向けに「ラインケア研修」を実施し、部下の健康管理と労働時間管理の重要性を伝えました。
「体調不良のサインに気づくためのチェックポイント」「適切な声かけの方法」「業務分担や優先順位付けの工夫」などを具体的に指導しました。
さらに、全社員向けに「セルフケア教育」も行いました。「疲労回復のための効果的な休息法」「短時間でできるリフレッシュ法」「健康的な食事の取り方」など、忙しい中でも実践できる健康管理法を伝えました。
保健師は出向いての健康支援も積極的に行いました。
特に残業の多い製造部門に定期的に足を運び、「今週はいかがですか?」「休憩はとれていますか?」と声をかけながら、現場の状況把握と個別相談に応じました。
この「出向く支援」により、普段健康相談に来ない社員とも関係を築くことができました。
また、組織的な改善として、人事部と協力して「ノー残業デー」の導入や「勤務間インターバル制度」の試験的実施を提案しました。
保健師は「十分な休息時間が確保できると、翌日のパフォーマンスが向上する」という科学的根拠を示し、制度導入の後押しをしました。
これらの取り組みを1年間継続した結果、月間80時間超の残業者数が30%減少し、健診における有所見率も改善傾向を示しました。
社員からは「健康を意識するようになった」「疲れを感じたら早めに相談するようになった」という声が聞かれるようになりました。
この事例では、産業保健師が個人の健康支援だけでなく、組織全体の健康課題に対して多角的なアプローチを行った点が特徴です。
データ分析による課題の可視化、関係部署との連携、教育・個別支援・制度設計という多層的な対策により、職場環境の改善と社員の健康意識向上の両方を実現しました。
労働安全衛生と健康経営を結びつけた好例といえます。
事例5:子育て世代への切れ目ない支援
E市では出生数の減少と若い世代の転出が課題となっていました。
保健師は母子保健事業の分析から「産後の相談窓口が複数あり、利用しづらい」「育児不安を抱える母親が孤立しやすい」という課題を特定しました。
保健師はまず、現状を詳細に把握するため、乳幼児健診時のアンケート調査や育児中の母親へのグループインタビューを実施しました。
「産前産後で相談窓口が変わるのが分かりにくい」「初めての育児で不安だが、誰に相談していいか分からない」「働きながらの子育てに関する相談先が見つけづらい」などの声が集まりました。
これらの課題に対応するため、保健師は「子育て世代包括支援センター」の設置を企画し、保健センター・子育て支援課・児童福祉課と連携して実現に向けた計画を立案しました。
センターのコンセプトは「妊娠期から子育て期までの切れ目ない支援」で、保健師が中心となって運営する体制を構築しました。
具体的な支援として、まず「母子健康手帳交付時からの継続的な関わり」を強化しました。
従来は窓口での手続きが中心でしたが、一人ひとりと個別面談の時間を設け、「体調はいかがですか?」「お仕事はどうされる予定ですか?」「妊娠生活で心配なことはありますか?」など丁寧に話を聴く機会を作りました。
また、「産前産後サポートプラン」の作成も開始しました。
妊娠中から出産後の生活をイメージし、利用可能なサービスや相談先を一覧にしたプランを、母親と一緒に作成します。
「出産後はご実家のサポートが受けられるのですね」「職場復帰の際には保育園の申請が必要ですね」と具体的な生活設計を支援しました。
産後は「新生児訪問」を全数実施し、保健師が家庭を訪問して母子の状態を確認します。
「授乳は上手くいっていますか?」「お母さんの休息は十分取れていますか?」「ご家族のサポートはありますか?」など具体的に確認し、必要に応じて継続支援につなげました。
特に支援が必要な家庭には「産後ケア事業」を案内し、デイサービスやヘルパー派遣など、母親の心身の回復を促すサービスを提供しました。
「少し離れて赤ちゃんを見てもらうことで、自分の時間が持てますよ」「専門職のアドバイスで不安が軽減されるかもしれませんね」と具体的なメリットを伝えました。
働く母親への支援として、土日開催の「パパママ教室」や夜間の「育児相談」も実施。
「仕事と育児の両立の工夫」「保育園選びのポイント」など、働く親のニーズに合わせた内容を提供しました。
さらに、「子育て応援アプリ」を導入し、健診のお知らせや予防接種のスケジュール管理、24時間相談機能などをデジタルで提供。
「いつでもどこでも相談できる安心感」を持てるよう工夫しました。
これらの取り組みを2年間継続した結果、「育児不安あり」と回答する母親の割合が15%減少し、「子育てに関する相談先がある」と回答する割合が25%増加しました。
また「E市は子育てしやすい」という評価も高まり、近隣市町村からの転入者も増加傾向を示しました。
この事例では、保健師が母子保健の専門性を活かしながら、多機関連携によるワンストップ支援体制を構築した点が特徴です。
妊娠期から子育て期までの「切れ目ない支援」という理念を、具体的な仕組みとして実現しました。
また、対象者のニーズを丁寧に把握し、働く世代や多様な家族形態に対応した支援策を展開した点も成功要因といえます。
子育て支援を通じた地域創生の好例として、全国からの視察も増えています。
保健師に必要なスキルと資質

保健師として効果的に活動するためには、専門的な知識や技術に加えて、様々なスキルや資質が求められます。
保健師は個人や集団、地域全体を対象に活動するため、多角的な能力が必要です。
ここでは、現場で実際に役立つスキルと資質について詳しく見ていきましょう。
コミュニケーション能力
保健師の仕事の根幹をなすのがコミュニケーション能力です。
様々な対象者と信頼関係を築き、適切な支援を行うために欠かせないスキルです。
傾聴スキル
対象者の話をしっかりと聴き、真のニーズを把握する力は保健師にとって最も基本的で重要な能力です。
傾聴とは単に黙って聴くだけではなく、相手の言葉の背景にある思いや価値観、生活背景までを理解しようとする積極的な行為です。
例えば、「最近食欲がない」という高齢者の言葉を聴いたとき、単に食事の内容を確認するだけでなく、「一人で食事をしているのかな」「買い物や調理が大変になってきているのかもしれない」「何か心配事があって食欲に影響しているのかな」など、多角的に考えながら聴くことが大切です。
傾聴のポイントとして、相手の話を遮らない、うなずきや相づちで聴いていることを伝える、オープンクエスチョン(「はい」「いいえ」で答えられない質問)を活用する、などの技術があります。
実際の現場では「もう少し詳しく教えていただけますか」「それはいつ頃からですか」など、相手が話しやすい質問を心がけることで、より多くの情報を得ることができます。
わかりやすい説明力
専門的な健康情報をわかりやすく伝える能力も重要です。
医学用語や専門用語を使わず、相手の理解度に合わせた説明ができることが求められます。
例えば、特定保健指導の場面で「あなたはメタボリックシンドロームのリスクがあります」と伝えるだけでなく、「内臓の周りに脂肪がつきやすくなっていて、将来的に生活習慣病になるリスクが高くなっています。
具体的には、このような変化が体の中で起きています…」と、図や模型を使いながら視覚的にもわかりやすく説明することが効果的です。
また、対象者の年齢や教育背景、関心の度合いなどに合わせて、説明の内容や言葉遣いを調整する柔軟性も必要です。
例えば、高齢者には「スマートフォンで歩数を記録しましょう」よりも「毎日の散歩の距離を少しずつ伸ばしていきましょう」という具体的でシンプルな表現の方が伝わりやすいこともあります。
信頼関係構築力
短時間の関わりでも相手と良好な関係を築ける能力は保健師の強みです。
初対面の家庭訪問や窓口相談でも、相手が心を開いて話せる雰囲気づくりができることが重要です。
信頼関係を築くためには、まず自己紹介をしっかり行い、訪問や相談の目的を明確に伝えることから始まります。
「今日はお子さんの発育状況とお母さんの体調を確認させていただきに来ました」など、相手が安心できる言葉かけを心がけます。
また、相手の話に共感を示し、「そうですね、初めての育児は不安なことが多いですよね」「そのように感じるのは自然なことです」など、相手の気持ちを肯定する言葉をかけることも大切です。
プライバシーの保護に配慮し、「ここでお話しいただいた内容は秘密厳守です」と伝えることで、相手が安心して話せる環境を整えます。
さらに、約束したことは必ず守る誠実さも信頼関係構築に欠かせません。
「次回は○月○日に訪問します」「調べてお返事すると言ったことは必ず連絡します」など、言葉と行動の一致が信頼につながります。
アセスメント力
保健師は対象者の健康状態や生活状況を的確に評価し、必要な支援を判断するアセスメント力が求められます。
観察力
言葉にならないサインや生活環境からの情報も見逃さない鋭い観察力は、保健師にとって重要なスキルです。
例えば、乳幼児健診で子どもの発達だけでなく、母親の表情や子どもへの関わり方、服装や身だしなみなどから育児の状況を読み取ります。
「笑顔が少ない」「子どもの反応に無関心」「極端に疲れた様子」といった非言語的な情報から、育児不安や産後うつの可能性を察知することもあります。
家庭訪問では、家の中の様子からも多くの情報を得ることができます。
「掃除が行き届いていない」「カーテンが閉められたまま」「食品の賞味期限が切れている」といった環境の変化は、生活機能の低下や孤立などのサインかもしれません。
こうした観察結果を総合的に判断することで、言葉では表現されない問題を早期に発見できます。
分析力
収集した様々な情報から健康課題を特定し、原因や背景要因を分析する力も必要です。
例えば、地域の健診データを分析する際、単に「高血圧の有所見率が高い」と把握するだけでなく、「特に農村部で高齢女性に多い」「塩分摂取量の多い食文化がある地域と一致している」など、地域特性と関連づけて分析します。
また「介護予防教室の参加者が減少している」という現象の背景に「会場へのアクセスが悪い」「内容がマンネリ化している」「口コミが広がっていない」などの要因を探ります。
分析には、量的データ(健診結果や統計情報など)と質的データ(住民の声や観察結果など)の両方を活用することが大切です。
データを多角的に見て、点と点をつなげて全体像を把握する力が、効果的な支援計画の立案につながります。
予測力
現在の状況から起こり得るリスクを予測し、予防的な対応を考える力も保健師に求められます。
例えば、独居高齢者の訪問で「最近買い物に行くのが億劫になってきた」という言葉を聞いたとき、「今後、栄養状態の低下や外出機会の減少によるフレイルのリスクがある」と予測します。
そして「配食サービスの利用」「買い物支援ボランティアの紹介」「週に1回のサロン参加」など、予防策を提案します。
また、妊婦健診で「上の子の世話で大変」と話す妊婦に対して、「産後に育児負担が増大し、産後うつのリスクがある」と予測し、「産前から家族の協力体制を整える」「産後ケア事業の利用を検討する」「上の子を一時的に預けられる場所を確保する」など、先手を打った支援を計画します。
このような予測力は、経験を積むことで磨かれますが、常に「この先どうなるか」を考える習慣と、過去の事例から学ぶ姿勢が大切です。
企画・調整力
保健師は地域の健康課題を解決するための事業を企画し、多機関・多職種との連携・調整を行います。
事業企画力
地域のニーズに合った健康事業を企画・実施できる力は、保健師の重要な専門性の一つです。
例えば、若い世代の健診受診率が低い地域で「働き盛り世代の生活習慣病予防教室」を企画する場合、まず対象者の生活実態やニーズを調査します。
「仕事が忙しく平日は参加困難」「健康に関心はあるが優先順位が低い」といった特性を踏まえ、「土曜日の午前中に開催」「30分間の簡易健康チェックと個別相談」「参加者特典として健康グッズをプレゼント」など、参加しやすい工夫を盛り込みます。
企画では、目的・対象・内容・方法・評価計画までを一貫して考える力が求められます。
「なぜこの事業が必要か」「誰を対象とするのか」「何をどのように実施するのか」「どのような効果を期待するのか」「どう評価するのか」という基本的な枠組みを明確にすることで、効果的な事業となります。
また、限られた予算や人員の中で最大限の効果を上げるための創意工夫も大切です。
「住民ボランティアの育成と活用」「既存の地域資源との連携」「ICTの活用」など、持続可能な事業設計ができる視点が求められます。
連携・調整力
多職種・多機関と効果的に連携し、チームとして支援を展開できる力も重要です。
例えば、複合的な問題を抱える家庭への支援では、保健師が中心となって関係機関との連携会議を開催することがあります。
医療機関、福祉事務所、児童相談所、学校、地域包括支援センターなど、様々な立場の専門職が集まる中で、「この家庭に必要な支援は何か」「誰がどのような役割を担うか」「情報共有の方法はどうするか」を整理し、支援の方向性を調整します。
連携・調整では、各機関の役割や強み、限界を理解した上で、全体像を見据えたコーディネートが求められます。
例えば「この問題は医療機関が中心となって対応するべきだが、生活面のサポートは福祉サービスが必要」「短期的には危機介入が優先だが、中長期的には予防的支援も必要」など、総合的な視点で調整します。
連携を円滑にするためには、日頃からの「顔の見える関係づくり」も大切です。
関係機関との定期的な会議や研修、非公式な情報交換の場などを通じて、普段から連携しやすい環境を整えておくことが、いざというときの迅速な対応につながります。
問題解決力
保健活動の中で発生する様々な問題や困難に対して、柔軟に対応し解決策を見いだす力も必要です。
例えば、「健康教室の参加者が集まらない」という問題に対して、「広報の方法を見直す」「対象者のニーズに合わせて内容を修正する」「参加しやすい時間帯や場所に変更する」「口コミで広がるような特典や工夫を取り入れる」など、様々な角度から解決策を検討します。
また、家庭訪問で「なかなか会えない」「介入を拒否される」といった困難に遭遇した場合も、「訪問時間を変える」「手紙や電話でのアプローチを試みる」「本人の関心事から関わりを始める」「信頼関係のある人を通じて働きかける」など、状況に応じた対応策を考えます。
問題解決力を高めるためには、前例や慣習にとらわれず、「なぜそうなっているのか」「別の方法はないか」と常に問い直す姿勢が大切です。
また、チームで知恵を出し合ったり、他地域の好事例を学んだりすることで、より創造的な解決策が見つかることもあります。
専門知識
保健師には、幅広い専門知識が求められます。
看護の基礎知識に加えて、公衆衛生学や地域看護学などの専門的知識も必要です。
公衆衛生学の知識
集団や地域全体の健康を支援するための理論と方法論を理解することが重要です。
例えば、感染症対策では「感染源対策」「感染経路対策」「感受性対策」の3つの視点から対策を考えます。
インフルエンザ予防であれば「発症者の早期発見と隔離(感染源対策)」「手洗い・マスク着用の徹底(感染経路対策)」「予防接種の推奨(感受性対策)」といった包括的な対策を地域全体で展開します。
また、健康の社会的決定要因(教育、収入、住環境など)が健康格差に影響することを理解し、「なぜこの地域の健康課題が生じているのか」を社会的背景も含めて多角的に分析します。
例えば「低所得地域の子どもの肥満率が高い」という課題に対して、「安価な高カロリー食品への依存」「安全に遊べる公園の不足」「健康教育の機会格差」などの観点から問題構造を理解し、対策を考えます。
保健師は個人へのアプローチだけでなく、社会環境や制度の改善を通じて健康を支援する視点も持ち合わせています。
「個別支援と地域支援の循環」を意識し、個別事例から見えてきた課題を地域全体の取り組みにつなげる力が求められます。
保健統計の理解
データに基づいた活動計画を立案するために、保健統計の基礎知識と活用法を理解することが必要です。
地域診断では「人口動態統計」「国民生活基礎調査」「特定健診・保健指導データ」など様々な統計情報を活用します。
例えば「高齢化率」「死因別死亡率」「疾病別有病率」「健診受診率」「要介護認定率」などのデータから地域の健康課題を特定し、優先順位をつけて対策を立案します。
統計データを扱う際には、単に数値を見るだけでなく「時系列での変化」「他地域との比較」「年齢・性別による差異」「地区ごとの特徴」など、多角的な分析が大切です。例えば「市全体の糖尿病有病率は県平均より低いが、特定の地区では高い傾向がある」「過去5年間で高齢者の骨折率が増加している」といった詳細な分析から、効果的な対策が見えてきます。
近年では、地理情報システム(GIS)などを活用して、健康課題の地域分布を視覚化する取り組みも広がっています。
「どの地区で健康課題が集中しているか」「住民の生活圏と健康資源の分布はどうなっているか」など、空間的な視点からも地域を把握する力が求められます。
最新の健康情報
エビデンスに基づいた指導を提供するために、最新の健康情報を常にアップデートすることも大切です。
例えば、栄養指導の分野では「健康日本21(第二次)」の目標値や「日本人の食事摂取基準」の改定内容を理解し、科学的根拠に基づいた指導を心がけます。
また、予防接種の変更点や新しい健診項目の意義なども、常に最新情報を把握しておく必要があります。
健康情報は日々更新されるため、「学会や研修への参加」「専門誌の定期購読」「研究論文の閲覧」「厚生労働省等の公的情報の確認」など、継続的な学習姿勢が求められます。
インターネット上には様々な健康情報があふれていますが、科学的根拠の確かさを見極める目も大切です。
専門知識の習得は終わりのない過程ですが、「なぜそうなのか」という根拠までを理解することで、様々な状況に応用できる実践力となります。
人間性・資質
保健師としての専門性を発揮するためには、知識やスキルだけでなく、人間性や資質も重要な要素です。
共感性
相手の立場や感情を理解し、寄り添える共感性は保健師の基本的資質です。
例えば、育児に悩む母親の「子どもが言うことを聞かなくてイライラする」という訴えに対して、「それは大変ですね。
毎日のことだとさらに辛いですね」と気持ちに共感した上で支援を考えます。
批判や否定ではなく、まずは相手の気持ちを受け止めることが信頼関係の基盤となります。
共感は相手と同じ感情を持つことではなく、相手の感情を理解し尊重することです。
時には「私には想像もつかない大変さですね」と自分の限界を認めつつも、理解しようとする姿勢を示すことも大切です。
共感的な関わりは特に、困難な状況にある人々(精神疾患を抱える方、虐待リスクのある家庭、終末期の患者など)への支援において重要です。
「あなたの気持ちを理解したい」という誠実な姿勢が、相手の心を開く鍵となります。
忍耐力
変化が見えにくい予防活動でも粘り強く継続できる忍耐力も必要です。
保健師の活動は、病気の「治癒」という明確な成果が見えにくく、健康の「維持」や疾病の「予防」という目に見えにくい成果を目指します。
例えば、「生活習慣病予防教室」を実施しても、その効果は何年も先にならないと統計的に確認できないこともあります。
また、行動変容を促す関わりも、すぐに結果が出るものではありません。
「禁煙支援」や「減塩指導」など、生活習慣の変更を伴う支援では、対象者が何度も挫折を繰り返すこともあります。
そんな時も「小さな変化を認め、肯定的に評価する」「中長期的な視点で見守る」姿勢が大切です。
地域活動においても、住民の主体性が育つまでには時間がかかります。
「健康づくりサークル」の立ち上げや「見守りネットワーク」の構築など、地域の力を育む活動は数年単位の取り組みになることも少なくありません。
目に見える成果を焦らず、「種まき」の段階から丁寧に関わる忍耐強さが求められます。
柔軟性
多様な価値観や生活背景を受け入れ、画一的でない支援ができる柔軟性も重要です。
保健師が関わる対象者は、年齢、性別、職業、家族構成、経済状況、教育背景、文化的背景など多様です。
「健康的な生活」の形も人それぞれであり、保健師の考える「理想的な健康行動」を押し付けるのではなく、相手の生活状況や価値観を尊重した支援が求められます。
例えば、働き盛りの男性に「バランスの良い食事と適度な運動が大切です」と一般論を伝えるだけでなく、「忙しい中でもできる簡単な運動から始めましょう」「外食が多い場合は、この程度のメニュー選びを心がけてみては」など、現実的な提案ができる柔軟さが大切です。
また、支援方法も対象者に合わせて柔軟に変えることが必要です。
「個別面談が効果的な人」「グループ支援が合う人」「文書での情報提供が良い人」「デジタルツールが活用できる人」など、様々なアプローチ方法を持ち合わせ、対象者に合わせて選択できる引き出しの多さが求められます。
柔軟性は「変化への対応力」としても重要です。
新たな健康課題(新興感染症など)や社会変化(高齢化、情報化など)に合わせて、常に自分の知識や技術をアップデートし、時代に合った保健活動を展開できる姿勢が必要です。
現役保健師が語るやりがい

保健師として働く魅力はどこにあるのでしょうか。
現役保健師の声をもとに、この仕事ならではのやりがいをご紹介します。
一人ひとりの経験から語られる生の声は、保健師という仕事の魅力を深く理解する手がかりとなるでしょう。
1. 予防的な関わりができる
「看護師時代は病気になってからの関わりが中心でしたが、保健師は病気を『予防する』関わりができます。
『あのとき保健師さんに言われたことを実践したら、健診の数値が改善した』という言葉をいただいたときは本当に嬉しいですね。
病気になる前に関われる予防の仕事は、地味かもしれませんが、とても価値があると感じています」。
(市町村保健センター勤務・保健師歴15年)
この保健師は、看護師から保健師に転職した経験を持ちます。
病院では既に病気になった方への治療支援が中心でしたが、保健師になってからは健康な人も含めた予防的な関わりができるようになりました。
特に特定保健指導を担当する中で、生活習慣の改善によって実際に健診結果が良くなった方を何人も見てきたそうです。
「数値の改善は目に見える成果ですが、それ以上に『体が軽くなった』『階段が楽に上れるようになった』という日常生活の変化を聞くと、予防活動の意義を実感します。
病気になってからでは戻れない部分もありますから、元気なうちからの関わりは本当に大切だと思います」と語ります。
また、地域全体の健康レベルを上げる取り組みにも大きなやりがいを感じているそうです。
「当市では特定健診の受診率が5年前より15%上昇し、県内でも上位になりました。
私たち保健師チームが地道に電話勧奨や啓発活動を続けてきた成果だと思うと、とても誇らしいです。
一人一人への支援の積み重ねが、地域全体の健康につながるのは保健師ならではの醍醐味ですね」と目を輝かせます。
2. 長期的な関わりと成長の実感
「母子保健を担当していると、赤ちゃんが生まれる前から関わり、乳幼児期、学童期と成長を見守ることができます。
新生児訪問で会った赤ちゃんが、何年か後に『保健師さ〜ん!』と健診で声をかけてくれたときは感動します。
家族の成長に長く関われるのは保健師ならではの醍醐味です」。
(市町村保健センター勤務・保健師歴8年)
この保健師は母子保健を担当して6年目になります。
同じ地域で長く働くことで、かつて新生児訪問で関わった赤ちゃんが幼児健診で再会し、さらに就学時健診でも出会うというつながりを経験しています。
「初めての出産で不安だった母親が、数年後には堂々と子育てをする姿を見ると、本当に成長したなと感動します。
『あのとき保健師さんに励まされて頑張れました』と言われると、自分の仕事の意義を実感しますね」と語ります。
また、多胎児の家庭を継続的に支援したエピソードも印象的です。
「双子を出産したお母さんは当初、育児に自信がなく涙ぐむこともありました。
訪問を重ねる中で少しずつ笑顔が増え、今では地域の多胎児サークルのリーダーとして活躍されています。
そんな成長の軌跡に立ち会えるのは特別な経験です」と目を細めます。
保健師は担当地区制を取ることが多いため、同じ地域の住民と長期的な関わりを持つことができます。
「顔の見える関係」だからこそ、ちょっとした変化に気づき、早期の支援につなげることもできます。
「前回より表情が暗いな」「最近外出が減ったかな」といった微妙な変化に気づける関係性が、適切な支援のきっかけになることも少なくありません。
3. 地域全体を視野に入れた活動
「個人の健康問題を地域の課題として捉え、施策レベルで解決策を考えられるのは保健師の醍醐味です。
例えば、高齢者の熱中症予防に取り組む中で、地域の見守りネットワークの構築につながったり。
一人ひとりの健康問題が、まちづくりにつながる瞬間があります」。
(保健所勤務・保健師歴12年)
この保健師は、最初は個別の熱中症相談対応から始まった活動が、地域全体の取り組みに発展した経験を語ります。
独居高齢者の熱中症搬送が続いたことをきっかけに、行政だけでなく民生委員、自治会、商店街などと連携し、地域ぐるみの見守り体制を構築したのです。
「熱中症予防の啓発だけでなく、孤立しがちな高齢者の社会とのつながりづくりまで視野に入れた活動ができました。
専門職だけでは限界がありますが、地域の力を借りることで支援の輪が広がります。
その過程で『地域の健康は地域で守る』という意識が住民の間に育まれたのは、大きな財産です」と話します。
また、地域診断から活動計画立案までの過程にもやりがいを感じているようです。
「健診データや住民アンケート、統計情報などを分析し、『この地区に多い健康課題は何か』『なぜこの地区に多いのか』と紐解いていく作業は探偵のようで面白いです。
そこから効果的な対策を立案し、実際に実行して成果を出せたときは、保健師としての力を発揮できたと感じます」と語ります。
このように個人の健康問題と地域全体の健康課題をつなげ、両方にアプローチできることが保健師の特徴であり、大きなやりがいとなっています。
「点と点をつなげて面にする」保健師の視点は、地域全体の健康レベルの向上に不可欠なものです。
4. 自律的な活動
「病院と違って、自分で考えて企画・実施する自由度が高いのが魅力です。
地域の健康課題を見つけ、住民と一緒に解決策を考え、形にしていく過程は創造的で楽しいです。
もちろん責任も大きいですが、その分やりがいも大きいと感じています」。
(企業保健師・保健師歴5年)
この保健師は、以前は病院勤務でしたが、現在は大手企業の健康管理室で産業保健師として活躍しています。
病院では医師の指示のもとでの業務が中心でしたが、保健師として働く現在は、企画から実施、評価まで一連の流れを主体的に担当しています。
「社員の健診データを分析したところ、若手社員の運動不足が目立ったので、『ランチタイムウォーキング』という企画を立ち上げました。
参加者を募り、昼休みに15分程度のウォーキングをするという単純な内容ですが、継続参加者からは『習慣化できた』『同僚との交流が増えた』という声も上がっています。
自分の発案から始まった活動が根付いていく様子を見るのは格別です」と話します。
また、保健師は多くの場合、少人数で配置されているため、幅広い業務を担当し、様々な経験を積むことができます。
「一つの部署にいながら、母子保健、成人保健、精神保健、感染症対策など多岐にわたる経験ができる職種は少ないと思います。
オールラウンドなスキルが身につくのも保健師の魅力ですね」と語ります。
さらに、自律的な活動は困難にぶつかることもありますが、それを乗り越えた時の成長実感も大きいようです。
「最初は企画が上手くいかなかったり、参加者が集まらなかったりと苦労もしましたが、試行錯誤の末に成功体験を積み重ねることで、専門職としての自信につながりました。
自分の力で何かを変えていく実感は、何物にも代えがたいです」と振り返ります。
5. 住民との協働
「保健師の仕事は『教える』というより『一緒に考える』こと。
健康づくりのサークルで住民リーダーが育ち、自分たちで活動を広げていく姿を見ると感動します。
最初は支援が必要だった方が、今度は地域の支え手として活躍される。
そんな住民の力に日々驚かされます」。
(市町村保健センター勤務・保健師歴20年)
長年にわたり地域保健活動に携わってきたこの保健師は、住民主体の健康づくり活動を支援する中で多くの感動を経験してきました。
特に印象深いのは、介護予防の体操教室から始まった住民活動が、今では地域の見守り活動や交流の場にまで発展した事例だそうです。
「最初は保健師主導で始めた体操教室でしたが、『自分たちでもできるのでは』と住民から声が上がり、リーダー養成講座を開催しました。
今では10の会場で住民主体の体操教室が開かれ、私たち保健師の手を離れて自立的に運営されています。
しかも単なる体操にとどまらず、参加者の安否確認や季節の行事の開催など、地域の絆づくりの場にもなっているんです」と目を輝かせます。
また、住民との協働は支援する側とされる側の境界が曖昧になる面白さもあります。
「健康づくりサークルのメンバーが、今度は新しい参加者をサポートする側になる。
健診をきっかけに生活習慣を改善した方が、今度は健診の大切さを周囲に伝える伝道師になる。
そうやって健康の輪が自然に広がっていくのを見ると、『きっかけづくり』としての保健師の役割の大切さを実感します」と語ります。
さらに、住民との協働は保健師自身の学びにもつながります。
「正直なところ、専門職の私たちが考える『理想の健康づくり』と、住民の皆さんが考える『現実的で続けられる健康づくり』にはギャップがあることもあります。
住民と一緒に活動する中で、『押し付けでない、その人に合った健康支援とは何か』を常に問い直す機会をもらっています。
住民から学ぶことは本当に多いですね」と謙虚に話します。
住民の力を引き出し、それを地域の財産として育てていく過程は、保健師ならではの醍醐味となっています。
「自分一人では変えられないことも、地域の力を借りれば可能になる。
そんな協働の経験が、保健師としての喜びにつながっています」と笑顔で締めくくりました。
6. 多様な活動領域と専門性の深化
「保健師の魅力は、様々なフィールドで活躍できることです。
私自身、市町村、産業保健、教育機関と異なる現場を経験してきましたが、どの場でも保健師の視点が活かせることに気づきました。
また、特定の分野で専門性を深めることもできるのが保健師の面白さです」。(大学保健室勤務・保健師歴17年)
この保健師は、市の保健センター、製造業の健康管理室を経て、現在は大学の保健室で学生の健康支援に携わっています。
様々な現場を経験する中で、保健師としてのキャリアの幅広さを実感しているそうです。
「最初の市役所時代は母子保健を担当し、乳幼児健診や妊婦支援に携わりました。
次の企業では従業員の生活習慣病対策や職場環境改善に取り組み、現在の大学では若者のメンタルヘルス支援が中心です。
対象者も活動内容も全く異なりますが、『対象者の健康レベルを上げる』という保健師の基本的な役割は変わりません。
多様なフィールドで経験を積めるのは、保健師ならではの魅力だと思います」と語ります。
また、特定の分野で専門性を深めることで得られるやりがいも大きいそうです。
「大学での仕事を通じて思春期・青年期のメンタルヘルスに興味を持ち、関連の研修を受けて専門性を高めてきました。
学んだことを実践に活かせると、より適切な支援ができる実感があります。
専門性を深めながらも、保健師としての幅広い視点を持ち続けることで、バランスの取れた支援ができると思います」と話します。
さらに、保健師としての経験を教育や研究に活かすキャリアパスも魅力の一つだそうです。
「現場での経験を整理し、後進の育成や研究活動につなげることで、個人的な経験が社会的な財産になります。
実践と教育・研究の両方に関われるのも保健師の面白さですね」と目を輝かせます。
このように、保健師は様々な活動領域で経験を積みながら、自分の関心や強みに合わせて専門性を深めていくことができます。
「ジェネラリストとしての視点」と「スペシャリストとしての専門性」の両方を持ち合わせることが、保健師としての成長とやりがいにつながっています。
7. 社会的課題への貢献
「保健師の仕事は社会的課題の解決に直結していることを実感します。
少子高齢化、メンタルヘルス問題、健康格差など、現代社会が抱える課題に対して、保健師だからこそできるアプローチがあります。
自分の仕事が社会貢献につながっていると感じられるのは大きなやりがいです」。(県保健所勤務・保健師歴10年)
この保健師は、県の保健所で地域保健活動に携わる中で、保健師の社会的役割の重要性を日々感じているそうです。
特に印象的なのは、社会的孤立の問題に取り組んだ経験だといいます。
「8050問題(80代の親と50代のひきこもりの子が同居する問題)に関連した相談が増えていることに気づき、関係機関と連携して実態調査と支援体制の構築に取り組みました。
保健、福祉、医療、就労支援など多機関が連携するプラットフォームを立ち上げ、包括的な支援の入り口として保健師が機能する体制ができました。
社会からこぼれ落ちそうな方々を支える仕組みづくりに関われたことは、保健師としての大きな誇りです」と語ります。
また、災害時の保健活動にも従事した経験から、危機的状況における保健師の役割の重要性も実感しているそうです。
「豪雨災害の被災地に派遣され、避難所での健康管理や要援護者の支援に携わりました。
混乱の中でも『住民の健康を守る』という保健師の使命感が、チームの原動力になっていました。
被災者から『保健師さんが来てくれて安心した』と言われたときは、この仕事を選んで良かったと心から思いました」と振り返ります。
さらに、健康格差の問題にも熱心に取り組んでいます。
「同じ県内でも、地域によって健診受診率や健康指標に大きな差があることに問題意識を持ちました。
社会経済的要因も絡む複雑な問題ですが、『健康は平等に享受されるべき権利』という信念のもと、特に支援が必要な地域や層に重点的に関わる活動を展開しています。
目に見える成果が出るまでには時間がかかりますが、社会正義の実現に少しでも貢献できていると思うと、日々の業務の原動力になります」と力強く話します。
このように、保健師は個人の健康支援にとどまらず、社会的課題の解決に向けた取り組みにも携わることができます。
「自分の仕事が社会をより良くすることにつながっている」という実感が、保健師としてのやりがいと誇りを支えています。
保健師の職場による仕事内容の違い

保健師の勤務先によって、業務内容や特徴は大きく異なります。
それぞれの職場には独自の魅力や専門性があり、同じ保健師資格でも活かし方は様々です。
ここでは代表的な職場ごとの特徴を詳しく見ていきましょう。
市町村保健センター
市町村保健センターは、最も多くの保健師が勤務する場所の一つです。
地域住民の身近な健康の拠点として、幅広い保健サービスを提供しています。
主な業務
市町村保健センターでは、母子保健、成人保健、高齢者保健、精神保健など幅広い業務を担当します。
具体的には、乳幼児健診、両親学級、特定健診・特定保健指導、健康教育、健康相談、訪問指導、介護予防事業などを実施します。
また、新型コロナウイルス感染症対策など、緊急時の対応も重要な役割です。
担当地区制を取っている自治体では、特定の地区を担当し、その地区の住民の健康課題全般に関わることも多いです。
「私の地区の健康は私が守る」という意識で活動することで、地域に根差した支援が可能になります。
市町村保健センターの保健師は、「健康づくり推進員」「食生活改善推進員」などの住民ボランティアの育成・支援も行います。
住民と協働して健康なまちづくりを進めることが特徴です。
特徴
市町村保健センターの大きな特徴は、地域に密着した活動ができることです。
住民との長期的な関わりを通じて、信頼関係を築きながら支援を展開できます。
また、妊娠期から高齢期まで、生涯を通じた健康支援に携われることも魅力の一つです。
「うちの地域の方々の顔と名前が一致するようになると、街で出会ったときに声をかけていただいたり、健康相談を持ちかけられたりすることもあります。
そうした『顔の見える関係』の中で支援できるのが市町村保健師の良さだと思います」と、ある市保健センターの保健師は語ります。
また、地域の健康課題を把握し、それに対応した施策や事業を企画・運営する力も身につきます。
「健診データの分析から『この地域は高血圧の方が多い』と分かれば、減塩教室を企画したり、特定の地区に重点的に働きかけたりと、データに基づいた活動ができます」と、保健センター勤務10年目の保健師は話します。
メリット
市町村保健センターで働く最大のメリットは、住民との長期的な関わりを持てることです。
「新生児訪問で出会った赤ちゃんが、成長して成人式で再会するなど、長いスパンでの関わりがあると、保健師としての喜びも大きいです」と、ベテラン保健師は言います。
また、幅広い経験を積めることも大きな魅力です。
母子保健、成人保健、高齢者保健、精神保健など、様々な分野の業務を経験できるため、オールラウンドな保健師として成長することができます。
公務員として働く場合は、雇用の安定性や福利厚生の充実もメリットとして挙げられます。
育児休業などの制度も整っており、ワークライフバランスを取りやすい環境であることが多いです。
勤務体制
基本的に平日の日勤勤務(8:30〜17:15頃)が中心ですが、健診や健康教室などで土日勤務や夜間勤務が発生することもあります。
その場合は振替休日や時間外手当で対応することが一般的です。
緊急時(感染症流行時や災害時など)には、通常業務を超えた対応が求められることもあります。
「コロナ禍では電話相談や疫学調査に追われる日々でしたが、地域の健康危機に対応するのも保健師の重要な役割だと実感しました」と、市保健センターの保健師は振り返ります。
保健所
保健所は都道府県や政令指定都市、中核市などに設置されている広域的な健康の専門機関です。
地域保健法に基づき、専門的・広域的な保健サービスを提供しています。
主な業務
保健所の主な業務は、感染症対策、難病対策、精神保健福祉、医療監視、食品衛生、環境衛生などです。
保健師は主に感染症対策、難病対策、精神保健福祉などの分野で活躍します。
感染症対策では、結核患者の治療支援や接触者健診、新興感染症の疫学調査・まん延防止対策などを担当します。
「感染症発生時は迅速な対応が求められます。
患者さんへの支援だけでなく、接触者の調査や感染拡大防止の啓発など、多岐にわたる業務を担います」と、保健所勤務5年目の保健師は話します。
難病対策では、特定疾患医療受給者の支援、患者会活動支援、療養相談などを行います。
「難病患者さんとご家族の暮らしを支えるために、医療機関や福祉サービスとの連携調整が重要です。
専門的な知識が必要ですが、その分やりがいも大きいです」と、難病担当保健師は語ります。
精神保健福祉では、精神疾患を持つ方や家族への相談支援、訪問活動、自殺対策、精神科医療機関との連携などを担当します。
「精神保健分野は地域生活を支えるための継続的な関わりが大切です。
時に困難なケースもありますが、チームで対応することで乗り越えられます」と、精神保健担当保健師は言います。
特徴
保健所の特徴は、より専門的・広域的な保健活動を展開できることです。
市町村保健センターよりも広い範囲を対象とし、専門性の高い業務に従事します。
また、保健所は地域の健康危機管理の要となる機関です。
感染症の集団発生や食中毒、災害時の保健活動など、緊急時の対応も重要な役割です。
「平常時から関係機関とのネットワークを築き、緊急時に迅速に対応できる体制づくりに努めています」と、保健所勤務のベテラン保健師は語ります。
保健所では、統計資料の分析や疫学的手法を用いた地域診断など、より科学的・専門的なアプローチも学ぶことができます。
「データに基づいた保健活動の企画・立案・評価のサイクルを経験できるのは、保健所ならではの学びです」と、保健所保健師は話します。
メリット
保健所で働くメリットは、専門性の高い業務経験を積めることです。
「特定の分野について深く学び、専門性を高められるのが大きな魅力です」と、保健所勤務7年目の保健師は言います。
また、行政職としての視点や能力も身につきます。
施策立案、予算管理、関係機関との折衝など、管理的・行政的な経験は、キャリアアップにも有利に働きます。
さらに、医師、薬剤師、獣医師、栄養士、検査技師など多職種と協働する環境があり、チームで活動する力も養われます。
「様々な専門職の視点や知識に触れることで、自分自身の視野も広がります」と、保健所保健師は話します。
勤務体制
基本的に平日の日勤勤務(8:30〜17:15頃)が中心ですが、感染症発生時などには緊急対応が必要となることがあります。
「新型コロナウイルス感染症の流行時には、夜間や休日の対応も多く、大変な時期もありましたが、公衆衛生の最前線で働いているという実感がありました」と、保健所保健師は振り返ります。
また、災害時には被災地支援のために派遣されることもあります。
「豪雨災害の被災地に派遣され、避難所での健康支援活動に携わりました。
厳しい環境でしたが、保健師としての使命感を強く感じる経験でした」と、災害支援経験のある保健師は語ります。
企業(産業保健)
企業の健康管理部門で働く産業保健師は、従業員の健康管理やメンタルヘルス対策、職場環境改善などに取り組みます。
近年、健康経営の推進に伴い、産業保健師の需要は高まっています。
主な業務
産業保健師の主な業務は、健康診断の企画・運営、健診結果に基づく保健指導、メンタルヘルス対策、生活習慣病予防対策、健康教育・健康相談などです。
健康診断関連業務では、健診の企画・運営から結果の分析、事後措置(要再検者や要治療者への受診勧奨など)まで幅広く担当します。
「健診は目的ではなく健康づくりの手段。
健診結果をいかに効果的な健康支援につなげるかが重要です」と、大手製造業の産業保健師は語ります。
特定保健指導では、メタボリックシンドロームのリスクがある従業員に対して、生活習慣の改善支援を行います。
「仕事が忙しく、不規則な生活になりがちな社員さんが多いので、『まずは小さな一歩から』を合言葉に、実現可能な目標設定を心がけています」と、保険組合の保健師は話します。
メンタルヘルス対策では、ストレスチェックの実施・分析、高ストレス者への面談、メンタル不調者の職場復帰支援などを担当します。
「心の健康は目に見えにくいからこそ、日頃から社員さんとコミュニケーションを取り、変化に気づけるようにしています」と、IT企業の産業保健師は言います。
特徴
産業保健の特徴は、働く世代を対象とした健康支援ができることです。
生産性の向上や欠勤率の低下など、企業経営にも貢献する視点が求められます。
また、職場環境の改善にも関わることができるのが大きな魅力です。
「健康診断の結果から、特定の部署に腰痛が多いことが分かり、作業環境や作業方法の改善につなげました。
個人の健康だけでなく、職場全体の健康リスクを低減できるのは産業保健ならではの面白さです」と、建設業の産業保健師は語ります。
さらに、同じ集団を継続的に支援できることも特徴です。
「健診で『要再検』と判定された方が、保健指導をきっかけに受診し、生活習慣を改善して翌年は『異常なし』になった時は、本当にやりがいを感じます」と、製造業の産業保健師は話します。
メリット
産業保健師として働くメリットは、比較的良好な待遇が期待できることです。
特に大手企業では、給与水準や福利厚生が充実していることが多いです。
また、健康経営の推進役として企業内での存在感が高まっている点も魅力です。
「以前は『健診の時だけ会う人』という印象でしたが、今では経営層からも『健康は経営資源』という認識が広がり、様々な健康施策を提案する機会が増えました」と、商社の産業保健師は語ります。
さらに、一定の集団を対象とするため、取り組みの効果を評価しやすいという利点もあります。
「健康教育を実施した後の行動変容率や健診データの改善率など、取り組みの成果が数値として見えやすいのは励みになります」と、金融機関の産業保健師は話します。
勤務体制
基本的に平日の日勤勤務(9:00〜17:30頃)が中心ですが、企業によっては複数の事業所を担当する場合もあります。
「当社では全国に事業所があるため、月に数回は出張があります。
出張先では集中的に健康相談や職場巡視を行い、各事業所の健康課題の把握に努めています」と、全国展開している企業の産業保健師は話します。
また、企業の繁忙期には残業が発生することもありますが、一般的には規則的な勤務形態が多いです。
「病院勤務時代と比べると、夜勤がなく生活リズムが整いやすいのは大きなメリットです」と、病院から企業に転職した保健師は言います。
4. 学校
大学や高等学校などの保健室で働く保健師は、学生や生徒の健康管理、健康教育、健康相談などを担当します。
養護教諭と協力しながら、教育機関における健康支援に取り組みます。
主な業務
学校保健師の主な業務は、健康診断の実施・事後指導、けがや体調不良時の応急処置、健康相談、健康教育、感染症対策などです。
大学の保健室では、学生のメンタルヘルス支援も重要な業務です。
「思春期・青年期特有の悩みや、一人暮らしの健康管理、学業ストレスなど、様々な相談に対応します。
必要に応じて学内外の専門機関と連携し、学生の心身の健康をサポートします」と、国立大学の保健師は語ります。
また、学生への健康教育も大切な役割です。
「成人期の健康習慣の基礎を築く大切な時期なので、アルコール、喫煙、性、栄養、運動などをテーマに健康教育を行っています。
将来の健康リスクを低減するための『投資』だと考えています」と、私立大学の保健師は話します。
高等学校などでは、思春期特有の健康課題(月経不順、スポーツ障害、摂食障害など)への対応や、生徒への性教育、心の健康教育なども担当します。
「思春期は心身ともに大きく変化する時期。
生徒一人ひとりの発達段階に合わせた支援が求められます」と、高校の保健師は言います。
特徴
学校保健の特徴は、若年層への健康支援を通じて、将来の健康づくりの基盤形成に関われることです。
健康的な生活習慣や自己管理能力を育む支援が重要になります。
また、教育機関という環境を活かした健康教育の展開も魅力です。
「授業や学校行事と連携した健康教育プログラムを実施することで、学生の健康リテラシー向上に貢献できます」と、大学保健室の保健師は語ります。
さらに、長期休暇(春休み、夏休みなど)がある勤務形態も特徴の一つです。
学校のスケジュールに合わせた業務展開となるため、年間の忙しさにメリハリがあります。
メリット
学校保健師として働くメリットは、教育と保健の両面から若者の成長に関われることです。
「健康面のサポートを通じて学生の成長を見守り、社会に羽ばたく姿を見送ることは大きな喜びです」と、大学保健室で長年勤務する保健師は語ります。
また、大学などでは研究活動や教育活動に参画する機会もあります。
「保健室での実践を研究としてまとめたり、医学部や看護学部の学生実習を受け入れたりと、実践と教育・研究をつなぐ役割も担っています」と、大学病院併設の保健管理センターの保健師は話します。
さらに、学校カレンダーに準じた勤務形態により、長期休暇を取得しやすいこともメリットです。
「夏休みなどの長期休暇中は、自己研鑽の時間や家族との時間に充てられるのは大きな魅力です」と、私立高校の保健師は言います。
勤務体制
学校の開講時間に合わせた勤務(8:30〜16:30頃)が基本ですが、学校行事や健康診断などで時間外勤務が発生することもあります。
「健康診断シーズンは忙しいですが、それ以外の時期はコンスタントな業務量で、計画的に仕事を進められます」と、大学保健室の保健師は話します。
学校カレンダーに準じた勤務となるため、長期休暇(春休み、夏休み、冬休みなど)があることも特徴です。
「長期休暇中も交代で出勤する体制ですが、通常期よりも静かで、年間計画の立案など腰を据えた業務に取り組める貴重な時間です」と、大学保健師は語ります。
5. 医療保険者(健康保険組合など)
健康保険組合や協会けんぽなどの医療保険者で働く保健師は、被保険者(加入者)とその家族の健康づくりを支援します。
データヘルス計画に基づいた保健事業の企画・実施が主な業務です。
主な業務
医療保険者の保健師の主な業務は、特定健診・特定保健指導の実施、医療費分析、健康増進事業の企画・運営、健康教育、健康相談などです。
特定健診・特定保健指導では、メタボリックシンドロームのリスクがある方への生活習慣改善支援を行います。
「単なる指導ではなく、対象者の生活背景や価値観を尊重した支援を心がけています。『あなたのために』ではなく『あなたと一緒に』考える姿勢が大切です」と、健保組合の保健師は語ります。
医療費分析では、レセプト(診療報酬明細書)データを分析し、加入者の健康課題を把握します。
「データ分析から『この年代の男性に糖尿病が多い』『この地域は高血圧の医療費が高い』などの傾向が見えてくると、効果的な保健事業の企画につなげられます」と、協会けんぽの保健師は話します。
健康増進事業では、ウォーキングイベント、健康セミナー、禁煙支援などの企画・運営を担当します。
「加入者のニーズに合った企画と、参加しやすい工夫が鍵です。
特に働き盛り世代は忙しいので、短時間で効果的なプログラムを心がけています」と、健保組合の保健師は言います。
特徴
医療保険者の保健活動の特徴は、データに基づいた事業展開ができることです。
健診データと医療費データの両方を活用し、費用対効果を意識した保健事業を企画・実施します。
また、保健事業の評価指標が明確である点も特徴です。
「健診受診率」「保健指導実施率」「メタボ該当者の減少率」「医療費の伸び率」など、数値で成果を把握しやすく、PDCAサイクルを回しやすい環境があります。
さらに、健康保険組合では事業主(企業)と協力して健康づくりを進めることができます。
「健康経営の視点から企業と連携し、より効果的な健康支援体制を構築できるのは大きな強みです」と、大手企業の健保組合保健師は語ります。
メリット
医療保険者で働くメリットは、データ分析スキルが身につくことです。
「健診データやレセプトデータの分析方法を学び、エビデンスに基づいた保健活動を展開できるようになりました」と、健保組合の保健師は話します。
また、費用対効果を意識した事業展開を学べることも魅力です。
「限られた予算の中で最大限の効果を上げるために、ターゲットを絞った効率的な保健事業の企画力が身につきます」と、協会けんぽの保健師は言います。
さらに、保健師としての専門性を発揮しながら、実務的なビジネススキル(企画力、プレゼンテーション能力、交渉力など)も身につけられる点が挙げられます。
「理事会での事業提案や予算折衝など、保健師としての専門性だけでなく、ビジネスパーソンとしての能力も問われる環境です」と、健保組合の保健師は語ります。
勤務体制
基本的に平日の日勤勤務(9:00〜17:00頃)が中心ですが、健診や保健指導の実施時は出張や時間外勤務が発生することもあります。
「被保険者が参加しやすい時間帯(早朝や夕方以降)に保健指導を設定することもあります」と、健保組合の保健師は話します。
また、健保組合によっては全国の事業所を担当することもあり、出張が多い場合もあります。
「当健保は全国に加入事業所があるため、定期的に出張があります。
その分、様々な地域の特性や働き方の違いを知る貴重な機会にもなっています」と、全国展開している健保組合の保健師は語ります。
地域別の保健師活動の特色

保健師の活動は、地域の特性によって大きく異なります。
都市部と農村部、過疎地域と観光地など、それぞれの地域には固有の健康課題や活動の特徴があります。
ここでは、地域特性による保健師活動の違いについて詳しく見ていきましょう。
都市部の保健師活動
人口密度が高く、様々な社会資源が集まる都市部では、多様な住民層に対応した幅広い保健活動が展開されています。
都市部の健康課題
都市部では、ライフスタイルの多様化や社会経済的格差による健康課題が顕著です。
具体的には、ストレス関連の健康問題、生活習慣病、孤立による精神的問題などが挙げられます。
「都市部では、表面的なつながりが多く、深い人間関係が構築されにくい傾向があります。
高層マンションで孤立した子育て家庭や、近所付き合いのない高齢者世帯など、都市型の孤立が健康課題に発展するケースも少なくありません」と、東京都内の保健師は語ります。
また、ライフスタイルの多様化により、保健サービスを利用する時間的余裕がない住民も多いです。「平日の昼間に健康教室を開催しても、働いている世代は参加できません。そのため、夜間や休日の保健サービス提供も重要な課題です」と、都市部の保健センター保健師は話します。
さらに、外国人住民の増加に伴う言語・文化の壁も、都市部特有の課題です。
「当区では10か国以上の言語が使われており、母子健診や予防接種の案内が伝わらないことも多いです。
通訳サービスの活用や多言語パンフレットの作成など、多文化共生の視点を持った保健活動が求められます」と、国際色豊かな地区を担当する保健師は言います。
都市部での活動の工夫
都市部の保健師は、このような課題に対して様々な工夫を凝らしています。
アクセスの良さを活かした拠点型サービスでは、駅近くの施設を活用した「まちなか保健室」や、商業施設内での健康相談会など、住民の生活動線上でのサービス提供を行っています。
「帰宅途中の駅ビル内で血圧測定や健康相談ができると、普段保健センターに来ない層にもアプローチできます」と、駅前保健相談所の保健師は話します。
また、デジタル技術の活用も積極的に進めています。
オンライン健康相談、健康アプリの導入、SNSを活用した情報発信など、ICTを活用したサービスの拡充が特徴です。
「若い世代には、LINEやInstagramでの健康情報発信が効果的です。
保健師のいる場所に来てもらうだけでなく、デジタル空間でもつながれる仕組みを作っています」と、デジタル保健活動を推進する保健師は語ります。
社会資源の連携も都市部の強みです。
医療機関、福祉施設、NPO、企業など、多様な社会資源との協働による重層的な支援体制を構築しています。
「孤立した子育て家庭の支援では、医療機関、子育て支援NPO、民間の一時預かりサービスなど、複数の資源を組み合わせた支援パッケージを提案できるのが都市部の強みです」と、子育て世代包括支援センターの保健師は言います。
都市部の保健師の声
「都市部の保健師として働く魅力は、多様な住民との出会いと、豊富な社会資源を活用できることです。
一方で、関係性が希薄になりがちなので、意識的に『顔の見える関係づくり』を心がけています。
デジタルとアナログのハイブリッドな活動が都市部保健師の特徴かもしれません」と、政令指定都市の保健師は語ります。
農村部・郊外の保健師活動
自然環境に恵まれ、比較的コミュニティの結びつきが強い農村部や郊外では、地域の特性を活かした保健活動が行われています。
農村部・郊外の健康課題
農村部や郊外では、高齢化の進行や若年層の流出による地域活力の低下が健康課題に影響しています。
特に、高齢者の健康維持や介護予防、交通弱者の健康アクセス確保などが重要な課題です。
「当町では高齢化率が35%を超え、独居高齢者や高齢者のみ世帯が増加しています。
農作業を引退した後の活動量低下やフレイルの進行が健康課題として浮上しています」と、農村地域の保健師は話します。
また、医療機関が少なく、公共交通機関も限られているため、健康管理の継続が難しい住民もいます。「最寄りの病院まで車で30分以上かかる地区もあります。
車の運転ができない高齢者は、受診や健診の機会が減ってしまうことが課題です」と、中山間地域の保健師は語ります。
さらに、農作業や建設業など、地域の主要産業に関連した健康課題もあります。
「農業従事者の腰痛や熱中症、農薬使用に関連した健康問題なども地域特有の課題です」と、農村部の保健師は言います。
農村部・郊外での活動の工夫
このような課題に対して、農村部・郊外の保健師は地域の特性を活かした創意工夫を行っています。
地域のつながりを活用した見守り活動では、民生委員や自治会と連携し、地域ぐるみの健康見守りネットワークを構築しています。
「ご近所同士の『お互いさま』の関係を大切にしながら、地域全体で高齢者を見守る体制づくりを進めています」と、中山間地域の保健師は話します。
また、出張型の保健サービスも特徴です。
公民館や集会所での出張健康相談、移動健診車による訪問健診、買い物支援と組み合わせた健康チェックなど、住民の生活に寄り添ったサービス提供を行っています。
「月に1回、地区の集会所で『まちの保健室』を開催し、血圧測定や健康相談を行っています。
交通手段がなくても参加できるよう、歩いていける距離での開催を心がけています」と、郊外地域の保健師は語ります。
地域資源の再発見と活用も重要な取り組みです。
地域の自然環境を活かしたウォーキングコースの設定、伝統的な食文化を活かした食育活動、地域の祭りや行事と連携した健康啓発など、地域の強みを健康づくりに活かしています。
「当地区には古くからの温泉があるので、『温泉を活用した介護予防教室』を開催しています。
地域の資源を健康づくりに結びつけることで、参加者の愛着と継続意欲も高まります」と、温泉地域の保健師は言います。
農村部・郊外の保健師の声
「農村部の保健師は『何でも屋』です。
専門職が少ないので幅広い対応が求められますが、その分、住民との距離が近く、信頼関係が築きやすいのが魅力です。
『あの保健師さんなら相談できる』と思ってもらえる存在になれるよう心がけています」と、農村地域の保健師は語ります。
また、「郊外地域ならではの『顔の見える関係』を大切にしています。
健診でお会いした方を、次は買い物先でばったり会うといったことも珍しくありません。
地域に溶け込みながら活動できる点が、都市部と異なる魅力だと思います」と、郊外地域の保健師は話します。
過疎地域の保健師活動
人口減少が進み、高齢化率が特に高い過疎地域では、限られた資源の中で創意工夫を凝らした保健活動が展開されています。
過疎地域の健康課題
過疎地域では、高齢化の一層の進行と若年層の流出により、地域の健康課題が複雑化しています。
特に深刻なのは、医療・福祉サービスへのアクセス不足、買い物困難、社会的孤立などの問題です。
「当村では高齢化率が50%を超える集落もあります。
診療所まで公共交通機関がなく、タクシーで片道5,000円以上かかる地区もあるため、定期受診を諦めてしまう高齢者もいます」と、山間部の保健師は話します。
また、介護人材の不足も大きな課題です。
「介護職が不足しており、介護サービスが限られるため、家族の介護負担が大きくなっています。
さらに、その家族も高齢というケースも少なくありません」と、過疎地域の保健師は言います。
さらに、地域の支え手不足により、伝統的な互助機能も低下しています。
「かつては隣近所の助け合いが当たり前でしたが、人口減少で『隣の家まで1km以上ある』という状況では、日常的な見守りも難しくなっています」と、過疎が進む地域の保健師は語ります。
過疎地域での活動の工夫
このような厳しい状況の中でも、過疎地域の保健師は様々な工夫を凝らして活動しています。
多機能・複合型のサービス提供では、保健・医療・福祉・生活支援を一体的に提供する拠点づくりを進めています。
「診療所、保健センター、介護予防教室、買い物支援、移動サービスなどを一カ所に集約し、『小さな拠点』として機能させています」と、過疎地域の統括保健師は話します。
また、オンライン技術の活用も進んでいます。
遠隔医療相談、オンライン保健指導、タブレットを活用した見守りシステムなど、距離の壁を超えるデジタル技術の導入が特徴です。
「高齢者でもタブレットで健康管理ができるよう、民生委員や地域おこし協力隊と連携した支援体制を作っています」と、ICT活用を推進する保健師は語ります。
地域の潜在力の発掘と人材育成も重要な取り組みです。
元気高齢者の健康サポーターとしての育成、UIターン者の健康づくり活動への参画促進、地域おこし協力隊との協働など、限られた人材を最大限に活かす工夫を行っています。
「70代でも元気な方は『支えられる側』ではなく『支える側』として活躍していただいています。
『生きがい』と『地域貢献』の両立が実現できています」と、住民参加型の健康づくりを進める保健師は言います。
過疎地域の保健師の声
「過疎地域で働く保健師は『地域の灯台』のような存在です。
一人何役もこなすことは大変ですが、『あなたがいてくれて助かる』という住民の言葉が何よりも励みになります。
創意工夫と粘り強さが求められる現場ですが、その分やりがいも大きいです」と、山間地域の保健師は語ります。
また、「過疎地域では『保健師さん』というより『○○さん』と名前で呼ばれる関係性が築けます。
プライベートと仕事の境界線は曖昧になりがちですが、地域の一員として受け入れられる信頼関係は何物にも代えがたいです」と、離島の保健師は話します。
観光地・リゾート地の保健師活動
観光業が主要産業となっている地域では、季節変動や交流人口の多さなど、独自の健康課題に対応した保健活動が行われています。
観光地・リゾート地の健康課題
観光地やリゾート地では、観光シーズンの繁忙期と閑散期の落差による健康影響や、観光業特有の労働環境に関連した健康課題が見られます。
「観光シーズンは長時間労働が続き、閑散期になると収入が不安定になるという波があります。
この波が心身の健康に影響を及ぼすことが少なくありません」と、観光地の保健師は話します。
また、外国人観光客や移住者への対応も課題です。
「当地域では外国人観光客が多く、緊急時の医療通訳や感染症対策の多言語情報提供など、国際的な視点での保健活動が求められます」と、国際観光地の保健師は語ります。
さらに、季節労働者や若年層の流動性の高さも特徴です。
「季節雇用の若者が多く、健診受診率が低い傾向があります。
また、生活習慣の乱れやストレス、アルコール問題なども見られます」と、リゾート地の保健師は言います。
観光地・リゾート地での活動の工夫
このような特有の課題に対して、観光地・リゾート地の保健師は様々な工夫を行っています。
観光業のリズムに合わせた保健活動では、閑散期を活用した集中的な健康づくり事業の実施、繁忙期に配慮した短時間・分散型のサービス提供などを行っています。
「旅館やホテルの従業員向けに、閑散期に集中的な健康教室を開催したり、繁忙期には職場に出向いての『出前健康相談』を行ったりしています」と、温泉街の保健師は話します。
また、観光業界との連携も特徴です。
ホテル・旅館組合と連携した従業員の健康支援、観光協会と協働した健康づくり観光(ヘルスツーリズム)の開発など、産業と健康の好循環を目指しています。
「当地域では『健康をテーマにした観光プログラム』を開発し、観光振興と健康づくりの両立を図っています。
地元の温泉や食材を活かした『健康保養プラン』は観光客にも好評です」と、観光地の保健師は語ります。
多文化共生の視点での保健活動も重要です。
多言語対応の健康情報提供、外国人住民のための通訳付き健康相談、文化の違いに配慮した保健指導などを実施しています。
「英語、中国語、タイ語など多言語対応の『緊急医療ガイド』を作成し、観光施設や宿泊施設に配布しています。
また、外国人居住者向けの『やさしい日本語』を使った健康教室も開催しています」と、国際観光地の保健師は言います。
観光地・リゾート地の保健師の声
「観光地の保健師は、観光産業と住民の健康をつなぐ橋渡し役。
観光地ならではの資源(温泉、自然環境、食文化など)を健康づくりに活かしながら、観光と健康の両立を目指しています。
季節変動の大きさは大変ですが、地域の特性を活かした独自の活動ができるのが魅力です」と、リゾート地域の保健師は語ります。
また、「観光地は『ハレの場』と『ケの場』の二面性があります。
観光客に見える部分と地域住民の日常生活の両方を理解し、バランスのとれた保健活動を心がけています。
地域の魅力を再発見しながら健康づくりに活かせるのは、観光地保健師ならではの楽しさです」と、観光地の保健師は話します。
都市近郊農業地域の保健師活動
都市と農村の両方の特性を持つ都市近郊農業地域では、多様な住民層に対応した柔軟な保健活動が展開されています。
都市近郊農業地域の健康課題
都市近郊農業地域では、従来からの農業従事者と新たに移住してきた都市生活者が混在し、多様な健康ニーズが生まれています。
「当地域では、代々農業を営む高齢者と、田園生活を求めて移住してきた若いファミリー層が混在しています。
価値観や生活習慣の違いから、同じ健康課題でもアプローチ方法を変える必要があります」と、都市近郊の保健師は語ります。
また、都市化の進行による地域コミュニティの変容も課題です。
「新興住宅地が増え、従来の地縁組織が弱まる中で、新たなつながりづくりが健康課題の解決には不可欠です」と、宅地開発が進む地域の保健師は話します。
さらに、農業と他の職業の兼業も多く、多忙な生活の中での健康管理が難しい住民もいます。
「日中は会社勤めで、帰宅後や休日に農作業をするという方も多く、健康管理の時間確保が難しい状況です」と、混住地域の保健師は言います。
都市近郊農業地域での活動の工夫
このような特性に対応するため、都市近郊農業地域の保健師は柔軟な活動を展開しています。
多様なニーズに応じた複線型のサービス提供では、従来型の地域組織活動と新たなテーマ型コミュニティ活動の両方を支援しています。
「伝統的な婦人会活動も大切にしながら、子育てサークルやウォーキンググループなど、共通の関心でつながる新しいコミュニティづくりも支援しています」と、混住地域の保健師は話します。
また、農業の特性を活かした健康づくりも推進しています。
農作業と健康増進の関連づけ、地産地消を通じた食育活動、農業体験を通じた多世代交流など、地域資源を活用した取り組みを行っています。
「地元で採れた野菜を使った料理教室や、休耕田を活用した『健康農園』など、農業と健康をつなげる活動を展開しています」と、都市近郊農業地域の保健師は語ります。
新旧住民の交流促進も重要な取り組みです。
健康をテーマにした交流イベント、互いの知恵や技術を共有するワークショップ、地域の歴史や文化を学ぶ健康ウォークなど、異なる背景を持つ住民の相互理解を促進する活動を行っています。
「新旧住民が交流する『健康まつり』を開催し、従来からの住民の知恵と新住民の新しい視点が融合する場づくりを心がけています」と、混住が進む地域の保健師は言います。
都市近郊農業地域の保健師の声
「都市近郊農業地域の保健師は『通訳者』のような役割も担っています。
従来からの価値観と新しい価値観の間で、互いを尊重しながら健康という共通テーマで橋渡しすることを心がけています。
多様性を活かしあう地域づくりの一員として活動できるのは、大きなやりがいです」と、都市近郊地域の保健師は語ります。
また、「都市と農村の『いいとこどり』ができるのが魅力です。
都市の利便性と農村の人のつながりの両方を活かした保健活動ができます。
様々な住民層のニーズに応える難しさはありますが、その分、創意工夫の幅も広がります」と、都市近郊農業地域の保健師は話します。
最新の保健活動トレンド

保健師の活動は、時代の変化や社会のニーズに応じて常に進化しています。
ここでは、2025年現在の最新保健活動トレンドについて解説します。
これらの新しい取り組みは、より効果的かつ効率的な健康支援を実現するものであり、保健師の活動の幅をさらに広げています。
デジタルヘルスの活用
テクノロジーの発展に伴い、保健活動においてもデジタルツールの活用が急速に進んでいます。
オンライン保健指導
コロナ禍をきっかけに普及したオンライン保健指導は、現在では一般的な保健活動の選択肢となっています。
特定保健指導や母子保健指導、精神保健相談など、様々な場面でオンラインツールが活用されています。
「時間や場所の制約がなくなることで、これまで保健サービスにアクセスしづらかった働き盛り世代や遠隔地の方々も参加しやすくなりました。
また、自宅という安心できる環境での相談は、特にメンタルヘルスの問題を抱える方には有効です」と、オンライン保健指導を実践する保健師は語ります。
さらに、オンライン保健指導の特性を活かした新たな手法も開発されています。
「画面共有機能を使って健診結果をわかりやすく説明したり、デジタル食事記録を一緒に確認したりと、対面では難しかった視覚的サポートが可能になりました。
また、短時間・頻回のフォローアップも実施しやすくなっています」と、デジタルヘルス推進担当の保健師は話します。
ウェアラブルデバイスとPHR(Personal Health Record)
健康情報を自動的に記録・管理できるウェアラブルデバイスやPHR(個人健康記録)の普及により、日常的な健康管理のあり方も変化しています。
「健診データ、日々の活動量、睡眠、食事などの情報を統合的に管理できるPHRの活用により、保健指導がより個別化・精緻化しています。
『あなたの歩数は平日より休日の方が2000歩少ないですね』『睡眠の質と血圧に相関関係が見られます』など、客観的データに基づいた具体的なアドバイスが可能になりました」と、データ活用型保健指導を実践する保健師は語ります。
また、住民自身の健康意識向上にも役立っています。
「自分の健康状態を可視化することで、『見える化』による行動変容のきっかけになっています。
特に数値や目標達成を好む方には効果的なアプローチです」と、健康アプリを活用した保健活動を推進する保健師は話します。
AI・データ分析の活用
ビッグデータとAI(人工知能)の活用により、より効果的な保健活動の企画・実施が可能になっています。
「健診データ、医療レセプト、介護データなどを統合分析することで、地域の健康課題をより精確に把握できるようになりました。
例えば『この地区は高血圧の有病率が高く、特に60代男性の受診率が低い』といった具体的なターゲティングが可能になり、効果的な保健事業の企画につながっています」と、データヘルス計画担当の保健師は語ります。
さらに、AI予測モデルを活用した予防的アプローチも始まっています。
「過去のデータから将来のリスクを予測し、優先的に支援すべき対象者を特定するAIモデルを試験的に導入しています。
例えば、生活習慣病の重症化リスクが高い方や、社会的孤立のリスクが高い高齢者などを早期に発見し、予防的な支援を行うことができるようになりました」と、先進的な自治体の保健師は話します。
遠隔医療連携
医療機関との連携においても、デジタル技術の活用が進んでいます。
特に医療資源が限られた地域では、遠隔医療との連携が重要な役割を果たしています。
「当町では、保健師が家庭訪問時にタブレット端末を持参し、必要に応じて遠隔地の専門医との三者間ビデオ相談を実施しています。
例えば、認知症が疑われる高齢者宅を訪問した際に、その場で認知症専門医の評価を受けられるシステムです。
住民の負担軽減と早期対応の両立が可能になりました」と、遠隔医療連携を実践する過疎地域の保健師は語ります。
また、医療と保健の情報共有もスムーズになっています。
「クラウド型の情報共有システムにより、病院の退院支援部門と地域の保健師がリアルタイムで情報連携できるようになりました。
退院直後の切れ目ない支援が実現し、再入院率の低下にもつながっています」と、医療連携担当の保健師は話します。
データヘルスの進化
保健活動におけるデータの活用は、単なる現状分析から予測・評価まで含めた包括的なアプローチへと進化しています。
エビデンスに基づく保健活動(EBPH)
Evidence-Based Public Health(エビデンスに基づく公衆衛生)の考え方が浸透し、科学的根拠に基づいた保健活動の実践が標準となっています。
「以前は経験則や前例踏襲で行われていた保健活動も、今では科学的エビデンスに基づいて設計・評価するのが当たり前になりました。
例えば『この健康教育プログラムは無作為化比較試験で効果が証明されている』といった根拠を示しながら事業を企画することで、効果的な保健活動の実現と行政職や住民への説明責任の両立が可能になっています」と、EBPH推進に取り組む保健師は語ります。
また、現場での実践と研究の連携も進んでいます。
「大学や研究機関と協働で、現場の保健活動の効果検証を行う実践研究が増えています。
現場の知恵を形式知化し、エビデンスとして蓄積していくことが、保健師の専門性向上にもつながっています」と、研究協力事業に参加する保健師は話します。
健康の社会的決定要因へのアプローチ
健康格差の原因となる社会的要因(所得、教育、住環境など)にも目を向けた包括的な保健活動が広がっています。
「健康は個人の生活習慣だけでなく、社会経済的要因や環境要因にも大きく影響されることが明らかになっています。
当市では、健診データと社会経済指標を統合分析し、健康格差の見える化を行いました。
その結果、特に支援が必要な地域や集団を特定し、重点的な保健活動を展開しています」と、健康格差対策に取り組む保健師は語ります。
また、多機関連携による包括的アプローチも進んでいます。
「健康部門だけでなく、福祉、教育、住宅、雇用、交通などの部門と連携し、『健康都市プロジェクト』を推進しています。
例えば、高齢者の健康増進と移動支援を組み合わせた『健康バス』の運行や、低所得世帯の子どもに配慮した学校給食の充実など、健康の社会的決定要因に働きかける取り組みを行っています」と、自治体の統括保健師は話します。
費用対効果を重視した保健事業
限られた財源の中で最大の健康効果を目指す、費用対効果の高い保健事業への転換も進んでいます。
「保健事業の『投資対効果』を検証する視点が重要になっています。
例えば、特定保健指導による医療費適正化効果や、介護予防事業による要介護認定の遅延効果など、経済的な側面からも保健活動の価値を示すことが求められています」と、保健事業評価に取り組む保健師は語ります。
こうした背景から、保健活動においても「選択と集中」の考え方が導入されています。
「全住民を対象とした一律のサービスだけでなく、健康リスクや効果予測に基づいて、限られたリソースを効果的に配分する取り組みが進んでいます。
例えば、重症化リスクの高い方への集中的な支援や、効果の高い年齢層へのターゲティングなど、メリハリのある事業展開を意識しています」と、データヘルス計画担当の保健師は話します。
地域包括ケアシステムとの連携
超高齢社会の進展に伴い、保健師は地域包括ケアシステムの中で重要な役割を担っています。
医療・介護連携における保健師の調整機能
医療と介護の連携において、保健師は双方を理解するコーディネーターとして活躍しています。
「保健師は医療の視点と生活の視点の両方を持ち合わせているため、医療機関と介護サービスの『通訳者』のような役割を果たしています。
例えば、退院支援カンファレンスでは、医療機関の治療方針と在宅での生活実態をつなぐ視点で発言することで、より実現可能な支援計画の立案に貢献しています」と、地域連携担当の保健師は語ります。
また、多職種連携の推進役としても活躍しています。
「当市では保健師が中心となって『多職種連携研修』を企画・運営しています。
医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、介護職などが一堂に会し、事例検討や情報交換を行うことで、顔の見える関係づくりと連携強化につなげています」と、地域包括ケア推進室の保健師は話します。
フレイル予防・介護予防の強化
健康な高齢期を支えるため、フレイル(虚弱)予防・介護予防に力を入れた保健活動が広がっています。
「以前の介護予防は、主に運動機能の維持に焦点が当てられていましたが、現在はフレイルの多面性(身体的・精神的・社会的側面)を考慮した包括的アプローチが主流です。
当市では『フレイルチェック』を入り口に、栄養・運動・社会参加のバランスがとれた予防プログラムを展開しています」と、フレイル予防推進リーダーの保健師は語ります。
また、住民主体の活動支援も重要な役割です。
「専門職が提供するサービスだけでなく、住民自身が担い手となる『通いの場』の立ち上げと継続支援に力を入れています。
公民館や空き店舗を活用した『ふれあいカフェ』や『いきいき百歳体操』など、地域の実情に合った活動が各地で広がっています」と、介護予防担当の保健師は話します。
認知症フレンドリーな地域づくり
認知症になっても安心して暮らせる地域づくりも、保健師の重要な役割となっています。
「認知症の早期発見・早期対応のため、『認知症初期集中支援チーム』の一員として活動する保健師が増えています。
認知症が疑われるケースへの訪問や、本人・家族の思いを尊重した支援計画の立案など、医療と生活の両面からサポートすることが保健師の強みです」と、認知症施策推進員を兼務する保健師は語ります。
また、地域全体で認知症を理解し支える環境づくりも進んでいます。
「『認知症サポーター養成講座』の企画・運営や、認知症カフェの立ち上げ支援、学校での認知症教育など、認知症に対する正しい理解と支え合いの土壌づくりに取り組んでいます。
認知症の方もその家族も、地域で孤立せず安心して暮らせる社会を目指しています」と、認知症施策に取り組む保健師は話します。
多様性と包摂を重視した保健活動
社会の多様化に伴い、様々な背景や状況を持つ人々に対応した保健活動が求められています。
多文化共生の視点での保健活動
外国人住民の増加に伴い、文化的背景に配慮した保健サービスの提供が重要となっています。
「当市では10か国以上の言語を母国語とする住民が暮らしています。
母子健康手帳の多言語版の活用や、通訳ボランティアと連携した乳幼児健診、文化的習慣に配慮した保健指導など、言語や文化の壁を超えた支援に取り組んでいます」と、多文化共生推進地域の保健師は語ります。
また、外国人コミュニティとの協働も進んでいます。
「外国人住民の中から『健康サポーター』を育成し、同国出身者への健康情報の橋渡し役を担ってもらっています。
住民同士の『顔の見える関係』を通じて、保健サービスへのアクセス向上を図っています」と、外国人住民の多い地域の保健師は話します。
社会的孤立への対応
核家族化や単身世帯の増加、地域コミュニティの希薄化に伴い、社会的孤立への対応も重要な課題となっています。
「健康課題の背景に社会的孤立がある場合も少なくありません。
当市では『孤立リスクアセスメント』を開発し、健診や相談の機会を活用して早期発見に努めています。
特に、退職後の男性、子育て中の母親、独居高齢者などは孤立のリスクが高い傾向があります」と、社会的処方に取り組む保健師は語ります。
また、つながりづくりの支援も活発に行われています。
「健康をテーマにした『居場所』づくりを推進しています。
例えば、男性限定の料理教室、子育て世代のカフェ、多世代交流型の健康サロンなど、それぞれの対象に合わせた交流の場を設け、健康づくりと社会参加の一体的な支援を行っています」と、地域共生社会推進担当の保健師は話します。
健康格差への対応
社会経済的状況による健康格差の拡大に対応するため、公平性に配慮した保健活動も重視されています。
「健診データと社会経済指標の分析から、健康課題の地域差が明らかになりました。
特に健康課題が集中している地域には、『まちの保健室』を重点的に配置し、アウトリーチ型の健康支援を強化しています」と、健康格差対策に取り組む保健師は語ります。
また、様々な困難を抱える人々への支援も充実しています。
「生活困窮、障害、ひとり親家庭など、複合的な課題を抱える方々への支援では、保健・医療・福祉・教育などの多機関が連携した『断らない相談支援』を実施しています。
保健師は健康の視点からチームに参画し、医療アクセスの確保や心身の健康管理支援を担っています」と、包括的支援体制の構築に関わる保健師は話します。
SDGsと健康まちづくり
持続可能な開発目標(SDGs)の視点を取り入れた健康まちづくりも、新しい保健活動のトレンドです。
健康と環境の一体的な取り組み
健康づくりと環境保全を結びつけた活動が注目されています。
「『グリーンヘルス』という考え方のもと、健康と環境の好循環を生み出す取り組みを進めています。
例えば、ウォーキングと地域清掃を組み合わせた『プロギングイベント』の開催や、地域の緑地保全活動と健康増進を結びつけた『健康の森づくり』など、SDGsの視点を取り入れた活動を展開しています」と、環境部門と連携する保健師は語ります。
また、気候変動と健康の関連にも注目が集まっています。
「熱中症対策や感染症予防など、気候変動に関連した健康リスクへの適応策に取り組んでいます。
特に脆弱な集団(高齢者、子ども、基礎疾患を持つ方など)への重点的な支援と、地域全体のリスク管理能力の向上を目指しています」と、健康危機管理担当の保健師は話します。
官民連携による健康まちづくり
行政だけでなく、企業や市民団体との協働による健康まちづくりも広がっています。
「『健康都市連合』に加盟し、『健康を核としたまちづくり』を推進しています。
例えば、地元企業とのコラボによる健康ポイント事業や、商店街と連携した『健康マルシェ』の開催など、官民連携による健康づくりの仕掛けづくりに力を入れています」と、健康都市推進担当の保健師は語ります。
さらに、健康影響評価(Health Impact Assessment)の導入も始まっています。
「都市計画や交通政策など、様々な分野の政策決定プロセスに『健康の視点』を取り入れる健康影響評価を試験的に導入しています。
保健師は健康の専門家として、多部署の政策立案に関わることで、『健康を支えるまちづくり』の推進に貢献しています」と、健康都市政策に関わる保健師は話します。
新しい健康課題への挑戦
社会変化に伴い新たに顕在化した健康課題にも、保健師は積極的に取り組んでいます。
メンタルヘルス対策の強化
現代社会のストレスや生きづらさに対応した精神的健康支援が重視されています。
「従来の精神疾患対応だけでなく、『メンタルウェルビーイング』の視点での予防的支援が広がっています。
ストレスマネジメント教育、マインドフルネス講座、レジリエンス(回復力)を高めるグループワークなど、心の健康を育む多様なプログラムを展開しています」と、メンタルヘルス推進リーダーの保健師は語ります。
また、若者のメンタルヘルスにも注目が集まっています。
「学校や大学、就労支援機関などと連携し、若年層のメンタルヘルス支援体制を構築しています。
SNSを活用した相談窓口の設置や、ピア(仲間)サポーターの育成など、若者が相談しやすい環境づくりに取り組んでいます」と、若者支援に関わる保健師は話します。
災害・感染症などの健康危機管理
近年の災害や感染症流行の経験を踏まえ、健康危機管理における保健師の役割も重要性を増しています。
「新型コロナウイルス感染症の経験から、感染症対応における保健師の調整機能の重要性が再認識されました。
現在は、次なる健康危機に備えた『レジリエントヘルスシステム』の構築に取り組んでいます。
例えば、平時からの関係機関との連携強化や、災害時保健活動マニュアルの整備、住民も参加した訓練の実施などを行っています」と、健康危機管理担当の保健師は語ります。
また、被災・罹患後の中長期的な健康支援も重視されるようになっています。
「災害や感染症の『その後』にも目を向けた支援体制を整えています。
例えば、災害後のPTSD対応や、コロナ後遺症に悩む方への相談支援など、長期的な視点での健康回復支援に取り組んでいます」と、災害支援経験のある保健師は話します。
テレワーク時代の健康支援
働き方の変化に対応した新たな健康支援のあり方も模索されています。
「テレワークの普及に伴い、『仕事と生活の境界のあいまい化』『運動不足』『コミュニケーション不足』など、新たな健康課題が生じています。
当社では産業保健師が中心となり、『テレワーカーのための健康管理ガイド』の作成や、オンラインでの運動プログラム提供、バーチャル健康相談室の開設など、新しい働き方に対応した健康支援を展開しています」と、IT企業の産業保健師は語ります。
また、コミュニティづくりの支援も重要になっています。
「孤立防止のために、オンラインとリアルを組み合わせた『ハイブリッド型健康コミュニティ』の形成を支援しています。
時には画面越しで、時には実際に会って交流できる場を設けることで、多様な働き方の中でも人とのつながりを持てる機会を創出しています」と、健康経営推進担当の保健師は話します。
保健師のキャリアパス

保健師として働き始めた後、どのようなキャリアを歩むことができるのでしょうか。
保健師の道は決して一本道ではなく、様々な可能性が広がっています。
ここでは、保健師のキャリアパスと将来性について詳しく見ていきましょう。
自治体保健師のキャリアステップ
市町村や都道府県などの自治体で働く保健師には、経験に応じたキャリアステップがあります。
新任期(1〜3年目)
新任期は保健師としての基本的な知識・技術を習得する時期です。
主に先輩保健師の指導のもと、家庭訪問や健康相談、健診業務などの基本的な保健活動を経験します。
「新任期は何でも吸収しようという姿勢が大切です。
先輩の家庭訪問に同行させてもらい、対象者との関わり方や家庭の様子の見方などを学びました。
一つひとつの経験が今の自分の基盤になっています」と、市保健センター勤務10年目の保健師は振り返ります。
中堅期(4〜10年目)
中堅期になると、一人で担当業務を任されることが増え、特定分野の専門性を高める時期となります。
母子保健、成人保健、高齢者保健、精神保健など、特定の分野に深く関わることで専門的な知識・技術を身につけていきます。
「母子保健を5年間担当し、虐待予防や育児支援について深く学びました。
経験を積むにつれて、『この家庭にはこんな支援が必要だな』と見立てる力が身についてきたと感じます」と、中堅期に母子保健を担当した保健師は話します。
管理期(10年目以降)
管理期になると、チームの統括や組織運営、政策立案などの役割を担うようになります。
係長、課長、部長などの管理職に就く道や、統括保健師として組織全体の保健活動を調整する役割を担う道もあります。
「統括保健師として、各部署の保健師活動を俯瞰し、市全体の健康課題に沿った活動方針を立てる役割を担っています。
直接的な住民支援から一歩引いた立場になりましたが、組織全体の保健活動の質を高められるやりがいがあります」と、市の統括保健師を務める保健師は語ります。
専門性を高めるキャリアパス
特定の分野で専門性を高め、スペシャリストとして活躍する道もあります。
「精神保健福祉士の資格を取得し、精神保健分野に特化した活動を行っています。
専門的な知識を持つことで、複雑なケースにも対応できる自信につながりました」と、保健所で精神保健を担当する保健師は語ります。
また、認定保健師制度も始まっています。
「日本看護協会の認定保健師として、地域保健における高度な実践能力が認められました。
専門性を客観的に評価してもらえることは、モチベーション向上にもつながります」と、認定保健師の資格を持つ保健師は話します。
多様な活躍の場へのキャリアチェンジ
保健師の経験を活かして、様々な分野で活躍することも可能です。
教育・研究職
大学や専門学校の教員として、次世代の保健師育成に携わる道があります。
「現場での豊富な経験を教育に活かしたいと思い、大学教員になりました。
実践と理論を結びつけた教育を心がけています」と、看護大学で教鞭をとる元保健師は語ります。
国際保健分野
国際協力機構(JICA)や国際NGOなどで、海外の保健医療支援に携わる道もあります。
「JICAの海外協力隊として、アジアの地域保健プロジェクトに参加しました。
日本での経験を活かしながら、現地の文化に合わせた活動を展開する貴重な経験ができました」と、国際保健活動経験のある保健師は話します。
健康関連企業
健康機器メーカーや保険会社など、民間企業の健康関連部門で活躍する保健師も増えています。
「製薬会社の医薬情報担当者として、保健師の視点を製品開発やマーケティングに活かしています。
現場のニーズを企業側に伝える橋渡し役を担っています」と、企業に転職した元保健師は語ります。
保健師のキャリアパスは多様化しており、自分の興味や強みに合わせた道を選ぶことができます。
専門性を深める道、管理職として組織を牽引する道、教育や研究、国際活動など新たな分野に挑戦する道など、様々な可能性が広がっています。
保健師としての基盤をしっかり築きながら、自分らしいキャリアを築いていくことが大切です。
おしえてカンゴさん!保健師の仕事Q&A
保健師の仕事について、よくある疑問や質問に看護師のカンゴさんが答えます。
保健師を目指す方や保健師に関心のある方に役立つ情報をわかりやすく解説します。
Q1: 保健師になるにはどうすればいいですか?
A: 保健師になるためには、看護師免許を取得した上で、保健師国家試験に合格し、保健師免許を取得する必要があります。
保健師の養成課程としては、看護大学で保健師課程を選択する方法、または看護師免許取得後に保健師養成課程(大学専攻科・大学院など)に進学する方法があります。
以前は看護大学であれば自動的に保健師国家試験受験資格が得られましたが、2022年のカリキュラム改正以降は多くの大学で選択制になりました。
保健師を目指す場合は、大学選びの段階から保健師課程の有無や選択方法を確認することが大切です。
また、看護専門学校から看護師になった後、保健師を目指す場合は、1年制の大学専攻科や大学院に進学する道があります。
社会人経験を経て保健師を目指す方も少なくありません。
看護師としての臨床経験は、保健師活動の基盤となる貴重な経験となります。
Q2: 看護師と保健師の仕事の違いは何ですか?
A: 看護師は主に医療機関で、すでに病気になった方の治療・回復を支援する役割が中心です。
一方、保健師は地域や職場で、病気の予防や健康増進に力を入れ、個人だけでなく集団や地域全体の健康をサポートします。
看護師が「点」の関わりなら、保健師は「面」の関わりと言えるでしょう。
例えば、糖尿病患者に対して、看護師は病院で治療に関する看護を提供しますが、保健師は地域での生活習慣改善や環境調整、家族を含めた支援を行います。
また、健康な人への予防的な関わりも保健師の大きな特徴です。
業務内容も異なります。
看護師は診療の補助や療養上の世話が中心ですが、保健師は健康診査、健康教育、家庭訪問、健康相談、地区活動などを行います。
また、保健師は行政職として政策立案に関わる機会も多いのが特徴です。
Q3: 保健師の1日の勤務時間はどのくらいですか?残業は多いですか?
A: 勤務先によって異なりますが、市町村や保健所などの公務員保健師の場合、基本的に8:30〜17:15程度の勤務です。
繁忙期(健診シーズンなど)には残業が発生することもありますが、看護師に比べると比較的ワークライフバランスが取りやすい傾向にあります。
「看護師時代は夜勤もあり生活リズムが不規則でしたが、保健師になってからは規則正しい生活ができるようになりました。
土日祝日は基本的に休みなので、プライベートの予定も立てやすいです」と、病院から市役所に転職した保健師は話します。
ただし、健康まつりなどのイベント開催日は休日出勤となることもあります。
また、感染症流行時や災害時など、緊急対応が必要な場合は時間外勤務が増えることもあります。
「コロナ禍では電話相談や疫学調査で残業が多かった時期もありましたが、通常時は比較的定時で帰れることが多いです」と、保健所勤務の保健師は言います。
企業の保健師は会社の就業規則に準じます。
「当社は9:00〜17:30の勤務で、繁忙期以外はほぼ定時で帰れています。
健診時期は残業が多くなりますが、それ以外の時期でバランスを取っています」と、企業保健師は話します。
Q4: 保健師の給料はどのくらいですか?
A: 勤務先や経験年数によって大きく異なります。
公務員保健師の場合、自治体の給与体系に基づいており、初任給は大卒で約22万円前後が一般的です。
経験を積むと徐々に上がり、管理職になると年収600万円以上になることもあります。
「市役所に新卒で入職した時の初任給は手取りで18万円程度でした。
10年目になった現在は、諸手当を含めて月収30万円程度です」と、市保健センター勤務の保健師は話します。
企業保健師は一般的に公務員より高給の傾向があり、大手企業では年収600〜800万円程度の場合もあります。
「前職の市役所と比べると、企業に転職してから給与は1.5倍程度になりました。
ボーナスも充実しているので、年収では大きな差があります」と、大手企業の産業保健師は語ります。
また、働き方によっても収入は変わります。
「非常勤として週3日勤務していますが、時給は2,000円程度です。
子育てと両立しながら働けるので、今の働き方に満足しています」と、子育て中の保健師は話します。
Q5: 保健師の就職先はどのように選べばいいですか?
A: まずは実習などの経験から、自分が興味を持てる分野(母子保健、高齢者保健、精神保健、産業保健など)を絞ることをお勧めします。
次に、公務員(市町村・保健所)か、企業か、医療機関かといった働く場所の特性を考慮しましょう。
「就職活動では、実習でお世話になった市町村を中心に検討しました。
実習で地域の特性や保健活動の内容を知ることができていたので、イメージしやすかったです」と、新卒で市役所に就職した保健師は話します。
公務員を志望する場合は採用試験の時期や募集状況を早めに確認することが大切です。
「公務員試験は自治体によって実施時期が異なります。
また、毎年採用があるとは限らないので、複数の自治体を受験しておくと安心です」と、就職活動を経験した保健師はアドバイスします。
また、就職後も異動で様々な分野を経験できることが多いので、まずは入職してから自分の適性を見つけていくという選択肢もあります。
「最初は母子保健担当でしたが、その後高齢者保健、感染症対策と異動し、様々な経験を積むことができました。
広く経験を積みたい方には公務員保健師がおすすめです」と、県庁勤務の保健師は語ります。
Q6: 男性保健師の割合はどのくらいですか?男性でも働きやすいですか?
A: 保健師全体に占める男性の割合は約5%程度と少数です。
しかし、近年は少しずつ増加傾向にあります。
男性ならではの視点が評価される場面も多く、特に産業保健や精神保健分野では男性保健師の活躍が目立ちます。
「男性保健師は少数ですが、だからこそ貴重な存在として認められることもあります。
特に男性への健康支援や、力仕事が必要な場面では重宝されます」と、市役所勤務の男性保健師は話します。
保健師の業務に性別による大きな差はなく、個人の資質や能力が重視される職場です。
「最初は母子保健に関わることに不安がありましたが、『男性保健師だからこそ父親の視点で関われる』と前向きに捉えています。
お母さん方も普通に接してくれます」と、母子保健を担当する男性保健師は語ります。
男性保健師のネットワークも少しずつ広がっています。
「男性保健師の交流会や研修会も増えてきました。
同じ立場の仲間と情報交換できる機会があるのは心強いです」と、保健所勤務の男性保健師は話します。
Q7: 保健師は転職しやすい職業ですか?
A: 保健師は専門性の高い国家資格であり、需要も安定しているため、一般的に転職はしやすい職業と言えます。
特に経験を積んだ保健師は重宝されます。
「市役所で10年勤務した後、企業の健康管理室に転職しました。
公務員としての経験やスキルは企業でも評価されます」と、転職経験のある保健師は語ります。
公務員から企業への転職は比較的容易ですが、逆に企業から公務員への転職は採用試験の関係で時期を見計らう必要があります。
「企業から市役所に転職する際は、公務員試験の時期に合わせて準備する必要がありました。
試験勉強との両立は大変でしたが、地域保健に携わりたいという思いで乗り越えました」と、企業から公務員に転職した保健師は話します。
また、ライフステージに合わせた働き方の変更も可能です。
「出産後は非常勤として週3日勤務に変更し、子育てと両立しています。
子どもが大きくなったら、また常勤に戻ることも考えています」と、ワークライフバランスを重視する保健師は語ります。
多様な現場で活躍できる点は、保健師というキャリアの大きな魅力の一つです。
Q8: 保健師に向いている人はどんな人ですか?
A: 保健師には以下のような特性を持つ人が向いていると言われています。
まず、コミュニケーション能力の高い人です。
「保健師の仕事は『人』と関わることが基本です。
相手の話をよく聴き、共感し、適切な支援を考える力が大切です」と、ベテラン保健師は語ります。
また、予防的視点を持ち、先を見通せる人も向いています。
「目の前の問題だけでなく、将来起こりうるリスクを予測し、予防的に関わる視点が保健師には欠かせません」と、保健所勤務の保健師は話します。
柔軟性と粘り強さを兼ね備えた人も保健師に向いています。
「状況に応じて柔軟に対応する力と、成果がすぐに見えなくても諦めずに継続する粘り強さが必要です」と、長年地域保健に携わる保健師は言います。
さらに、個人だけでなく地域や集団の健康に関心がある人も保健師に適しています。
「一人ひとりの健康問題を地域全体の課題として捉え、社会的な視点で解決策を考えられる人が保健師に向いています」と、統括保健師は語ります。
しかし、最も大切なのは「人の健康と幸せを支えたい」という思いです。
「専門的な知識や技術は後からでも身につきますが、人を大切に思う気持ちがベースにないと続かない仕事だと思います」と、多くの保健師が口を揃えて言います。
Q9: 保健師の仕事で大変なことは何ですか?
A: 保健師の仕事にはいくつかの難しさがあります。
まず、成果が見えにくいことです。
「予防活動は『病気にならなかった』『問題が起きなかった』という『ないこと』が成果なので、目に見えにくく、評価しづらい面があります」と、保健センター勤務の保健師は話します。
また、様々な価値観を持つ人々への対応も難しさの一つです。
「健康に対する考え方は人それぞれです。
こちらが良かれと思って提案しても受け入れられないこともあります。
相手の価値観を尊重しながらも、必要な支援をどう提供するかのバランスが難しいです」と、訪問活動を行う保健師は語ります。
行政職としての制約もあります。
「公務員保健師の場合、予算や人員の制約、組織の方針など、様々な制約の中で活動することになります。
理想と現実のギャップに悩むこともあります」と、市役所勤務の保健師は話します。
さらに、緊急時の対応も大変です。
「感染症の流行や災害時には、通常業務に加えて緊急対応が求められます。
コロナ禍では電話相談や疫学調査に追われ、休日返上で対応した時期もありました」と、保健所勤務の保健師は振り返ります。
しかし、これらの難しさを乗り越えた先にある「人々の健康と幸せに貢献できる喜び」が、保健師を続ける原動力になっているようです。
Q10: 保健師の今後の展望や将来性はどうですか?
A: 少子高齢化や多様化する健康課題に対応するため、予防に重点を置いた保健師の役割はますます重要になると考えられています。
「人生100年時代を健康に生きるための支援者として、保健師の役割は今後も拡大していくでしょう。
特に生活習慣病予防や介護予防など、予防的視点での活動は社会的ニーズが高まっています」と、健康政策に携わる保健師は話します。
また、デジタル化の進展により、保健活動のあり方も変化しています。
「オンライン保健指導やデータ分析に基づく保健活動など、テクノロジーを活用した新しい保健師活動が広がっています。
デジタルとアナログのバランスを取りながら、効果的な支援を模索することが今後の課題です」と、デジタルヘルスに取り組む保健師は語ります。
さらに、多様な分野での活躍の場も広がっています。
「従来の行政機関だけでなく、企業の健康経営推進、医療機関の地域連携、NPOの健康支援活動など、保健師の活躍フィールドは多様化しています。
専門性を磨きながら、様々な場で力を発揮できる可能性があります」と、キャリアコンサルタントを務める保健師は話します。
地域共生社会の実現に向けて、保健師には「つなぎ役」としての期待も高まっています。
「保健・医療・福祉・介護などの垣根を越えた包括的な支援体制構築に、保健師のコーディネート力が求められています。
人と人、制度と制度をつなぐ役割は、これからますます重要になるでしょう」と、地域包括ケアシステム構築に携わる保健師は語ります。
このように、社会の変化に伴い保健師の役割も進化し続けており、新たな視点や技術を取り入れながら発展していく職業と言えるでしょう。
まとめ:保健師の魅力と可能性
保健師は、地域や職場の人々の健康を支える重要な専門職です。
病気になってからではなく、その前の段階で関わり、予防活動を実践できる点が最大の特徴です。
多様な活動場所、幅広い対象者、予防的視点、政策への関与、長期的な関わりなど、様々な魅力がある職業です。
専門的な知識や技術に加え、コミュニケーション能力やアセスメント力、企画・調整力など、様々なスキルを活かし、発展させることができます。
将来的には、行政の管理職や大学教員、海外の保健医療協力など、多様なキャリアパスも開かれています。
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