夜勤文庫はたらく看護師さんの物語3
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私、辞めてもいいですか

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「3年は続けろ」は、誰のため?

読了 約10毎週金曜 朝6時語り: カンゴさんフィクション

夜勤明けの部屋で、私はノートを開いた。

カンゴさんにもらった宿題。

辞める理由ではなく、残ってる理由を書くこと。

最初の一行目に、私はこう書いた。

「3年は続けたほうがいいから」

書いた瞬間、手が止まった。

それは理由というより、誰かの声だった。専門学校の先生。実習先の指導者。新人研修で話してくれた先輩。親戚のおばさん。SNSの知らない人。

みんな、同じことを言った。

「とりあえず3年」

「3年は続けろ」は、励ましの顔をしている。でも、限界の人には、あと何日倒れずにいれば許されるのかを数えさせる言葉になる。

次の日勤で、後輩の美咲が点滴更新のタイミングを間違えた。

大きな事故にはならなかった。すぐ気づいて、すぐ直せた。けれど、美咲の顔色は紙みたいに白くなっていた。

「すみません、私、向いてないです」

昔の自分を見ているみたいだった。

私は反射的に言った。

「大丈夫。最初はみんなそうだから。3年くらい経ったら慣れるよ」

言ってから、息が止まった。

私が嫌だった言葉を、私が渡していた。

しんどかった言葉ほど、なぜか後輩に渡してしまうことがある。自分が耐えた時間を、意味のあるものにしたくなるから。

美咲は小さくうなずいた。でも、そのうなずきは安心ではなかった。逃げ道をひとつ閉じられた人のうなずきだった。

休憩室で、カンゴさんはカップ麺にお湯を入れていた。

「顔、えらいことになってるで」

「後輩に、言っちゃいました」

「何を」

「3年くらい経ったら慣れるって」

カンゴさんは箸を割る手を止めた。

「自分が言われて嫌やったやつやな」

私はうなずいた。

「でも、じゃあ何て言えばよかったんですか。すぐ辞めてもいいよって言えばよかったんですか」

「それも違うな」

「じゃあ、どうすれば」

カンゴさんは、ふやけかけた麺を見ながら言った。

「3年ってな、便利なんよ。言う側が何も考えんで済む」

本当にほしいのは「続けろ」でも「辞めろ」でもない。自分の状態を一緒に見てくれる人だ。

「続ける理由がある人には、続ける道を一緒に探したらええ。もう体がもたん人には、離れる道を一緒に探したらええ。数字でまとめたらあかん」

「でも、3年続けないと転職で不利って」

「不利になることもある。ならへんこともある。けどな」

カンゴさんは、私のほうを見た。

「『3年』は、あんたの人生の単位やない。誰かが安心するための数字や」Xで引用

胸の奥で、何かがほどけた。

3年続けたら偉い。1年で辞めたら弱い。5年残れば正解。半年で離れたら失敗。

そうやって数字で測るほうが楽だった。自分の本音を見なくて済むから。

その日の帰り、美咲にLINEを送った。

「さっきの言い方、ごめん。3年経てば全部慣れるわけじゃない。今しんどいところ、明日一緒に整理しよ」

既読はすぐについた。

返事は、少し遅れて来た。

「それが聞きたかったです」

私はロッカーで泣きそうになった。

たぶん私も、ずっとそれが聞きたかった。

家に帰って、ノートの一行目を消した。

「3年は続けたほうがいいから」

その下に、別の言葉を書いた。

「誰かに決められた数字ではなく、自分の体と気持ちで決めたい」

次のページには、給料明細を貼った。

夜勤手当、残業代、控除、手取り。

辞めたい気持ちの中には、お金の不安も混ざっている。

それを見ないふりしたまま、私はまだ「根性」の話だけをしていた。

(第3話「給与明細と、夜勤の回数」に続く)

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「3年は続けるべき?」を現実的に考える

続けたほうがいい人、離れたほうがいい人の違いを、経験年数だけでなく体調・教育体制・次の選択肢から整理します。

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