夜勤文庫はたらく看護師さんの物語3
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金平糖の理由

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金平糖の理由

読了 約6解錠限定語り: カンゴさん(山田香子 22歳〜)フィクション

山田香子が初めて夜勤に入った夜、ポケットには金平糖が三粒だけ入っていた。

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先輩がくれたものだった。「眠くなったら噛みなさい」と言われたけれど、香子は噛めなかった。小さくて、星みたいで、壊すのが惜しかった。

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新人のころにもらった何でもない一言を、何十年も覚えていることがある。教科書より先に、心の支えになる言葉。

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その夜、受け持ちの患者さんが眠れずに泣いた。香子は何もできなかった。ただ隣に座って、ポケットの金平糖をひとつ、手のひらに乗せた。

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「これ、甘いです」

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患者さんは泣きながら笑った。食べたわけではない。ただ、手のひらの小さな星を見て、少しだけ息を吐いた。

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看護でできることは、いつも大きいわけではない。薬でも処置でもない小さなものが、その夜を越える理由になることがある。

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45年後、カンゴさんになった香子は、今もポケットに金平糖を入れている。

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辞めたい夜にも、ミスを言えない夜にも、恋人に会えない夜にも。言葉が届く前に、まず机にことんと置く。

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「そやから世界は、ほっといても、ちょっとずつ甘うなる」Xで引用

金平糖は、誰かを救う魔法ではない。ただ、救われてもいいと思い出すための、小さな合図だった。

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